国家元首に必要な資質は?まず第一に決断する才能なのです国家元首に必要な資質は?第二に失敗した時にすぐさま改める才能なのです国家元首に必要な資質は?決断する覚悟…失敗したら改める覚悟…まあ結局、国家元首に必要なのは『覚悟』をいかに固められるか、という事なのですよ。「あの時は恐怖で錯乱したあまりサラッと流してしまったけれども…人間が使い魔だなんて、初めて聞いたわよ。 それは、本当なのかしら?」カリーヌ様が困惑した表情で才人を見ています。「確かに私も召喚した時はびっくりしたけど…でも、本当なの。 ほら、このルーンを見てください。 コントラクト・サーヴァントをした時に刻まれたものですわ。」ルイズはそう言って才人の手を掴み甲に刻まれたルーンをカリーヌ様に見せたのでした。「変わったルーン…。 マリー貴方確かルーンが読めたわよね…このルーン、何て書いてあるの?」「え?私が読むのですか?」そりゃまあ才人たちに接触するためのルート作りとおおむね単なる趣味で、子供の頃からルーン文字の勉強をしてはいました。何で勉強したのかって?ルーン文字が厨二病っぽくってかっこいいからなのです…良いではありませんか、実際中学生~高校生くらいですよ私は。「そうよ、ススッと読んじゃって。」過去と現在…母娘2代に渡ってそっち方面丸投げされているのではないかとか、嫌な予感がしてきたのです。「読みますがカリン…己が娘の運命を知って、後悔しませんね?」「ど…どういう事かしら?」カリーヌ様は不安そうな表情で私を見ます。「『特別』には常に『特別』が付き纏うという事です。 才人は人が召喚されるという、特別な事例なのです。 魔法に偶々とか、偶然はありません…全ては必然。 まあ、貴方ほどの人物であれば受け入れられないわけがありませんが、一応聞いておきます。 もう一度問います…己が娘の運命を知っても、後悔しませんね?」「勿論よ、私の名にかけて。 私の娘が過酷な運命の6ダースや8ダース程度、パパッと乗り越えられないわけが無いわ。」いや、それは幾らなんでも多過ぎるような気がしますが…まあ、娘を信じている事は良くわかりました。「…買い被られ過ぎていて、そっちの方に心が折れそうよ、お母様。」当の娘は、ちょいと引いているようですけれども。「わかりました…実は前にも読んだことがあるのですよ。 才人の手の甲には魔法を使う小人(ガンダールヴ)と、書いてあります。」本当の訳は魔法(ガンド)を使う妖精(アールヴ)…魔法を使う妖精(エルフ)って、まんま初代ガンダールヴでエルフだったサーシャの事そのものという、酷いネタばらしなので伏せておきましょう。「カリーヌ様も…。」「カリンって呼んでって、言ったでしょ?」飽く迄も呼び捨てろと言いますか…ええい、寝ぼけていて全てが面倒臭かったので一度呼び捨てたような記憶がありますし、仕方が無い。「カリンも知っていますよね?始祖の伝承に出てくる神の左手にして神の盾。 全ての武器を使いこなすと言われる虚無の使い魔ガンダールヴ…それが才人なのです。 そして、虚無の使い魔を偶然普通のメイジが召喚出来るなどという事はありません。 虚無の使い魔を呼び出すメイジは必然的に虚無の系統という事になります。」「そ…それって、つまり、ルイズの系統は…。」流石にショックが大きいのか、カリンは軽くよろけたのでした。「はい、伝説に埋もれていた虚無なのです。 ついでに言うと、トリステインの正統はルイズにあるという事でもあります。」「な…なんて事。 この事を陛下はご存知なの?」覚悟させておいて良かったのです。歴戦の勇者とは言え、こっち方向の精神的衝撃には慣れていないでしょうから。「はい、勿論。 陛下は王位継承権第1位をルイズに与える為に現在色々と画策中です。」「というよりも、事あるごとに私に王位を押し付けようとするから、気を抜けないの。 あんな四六時中書類に埋もれる仕事なんかやらされたら、頭が爆発して死にますわ、わたし。」何度か押し付けられそうになった経験を思い出したのか、ルイズがげんなりした表情になったのでした。「…意外と、長閑な事になっているのね。 でも、ルイズが陛下に命を狙われていたりしなくて良かったわ。」「そうですね。 もしそうだったなら、内戦は不可避になりますから…王なんて野暮な仕事は、押し付けあうくらいで丁度良いのですよ。」ヴァリエール家が南トリステインの全兵力を結集して王家に謀反…とかになったら、もう完全にトリステインはお終いなのです。「まあ取り敢えず、今はルイズが伝説の系統の持ち主であるという、とんでもない事実だけ把握しておいて貰えれば良いかなと。」「本当に、とんでもない事実だったわ…ところで、前回アルビオン遠征にルイズが行ったのって、ひょっとして…。」当たり前っちゃあ当たり前ですが、誤魔化そうとしていたのに鋭いのですね、カリンは。「はい、その通りなのです…ファイヤーボール!」「うわっ!?何すんのよ、あっぶないわねー。」私が放ったファイヤーボールを、ルイズの光る拳が打ち砕いたのでした。「ま…魔法を素手で砕いた!?」カリンはそのルイズのした事を見て、仰天しています。素手で魔法を砕くとか、ハルケギニアの常識的に有り得ない出来事ですからね…。 「虚無のせいなのか何なのかはわかりませんが、ルイズは魔法を拳で砕けます。 杖無しで魔法を行使する事も出来ます…その上、身体能力が飛躍的に向上しているのです。」「テヘッ☆」ルイズが照れてペロリと舌を出したのでした…可愛いですけど、何故?「虚無って、そんな無茶苦茶な代物だったの!?」「伝説ですから~。 始祖って、一体どのようなオモシロビックリ人間だったのでしょうね~。 知りたくもあり~怖くもあり~。」もう、どうにでもなぁれ~♪って感じなのですよ、虚無の件に関しては。「まあそんなわけで、ルイズを傷つけられる者なんてそうそういないのですよ。 それを守っているのは、4万のアルビオン軍を追い払ったこの才人ですし。」「おわ!?」近くでぼーっと突っ立っていた才人の肩を掴んで、カリンの前に差し出します。「この子が、あの4万殺しのサイトーンなの?」カリンは才人の顔をじーっと眺め始めたのでした。「サイトーンじゃなくて、才人っス。」才人って、トリステイン人が発音すると『サイトゥン』って感じに訛ってしまうのですよね。才人という個人を明確に認識すると、翻訳魔法が勝手にその訛りを取り払ってくれるみたいですが、実は私を除く全員が才人の事を『サイトゥン』って呼んでいたり。『ト』で止めるのって、生粋のトリステイン人には殆ど無理な所業なのですよ、日本風に発音出来ているのは私だけなのです。だから私だけ才人を呼ぶ時漢字なのですよー…って、私は誰に説明しているのでしょう?「この一見ボンヤリした男の子が…。」「すんません、この顔は生まれつきです。」才人は肩をガックリと落とします。「それにしてもメイジが剣を持った男の子に蹴散らされるようになるとか、時代が変わったのねぇ。」「いやいや、才人はガンダールヴですから。」私はしみじみと呟くカリンに、思わずツッコんでしまったのでした。カリンって、普段はこんなのほほんとした人なのですか?「それでもよ。 私の時代は剣士が爵位を賜るだけの功績を示すだなんて、想像だにできなかった事だもの。 あの頃は杖が主役…爆炎の会計士なんて貴方呼ばれていたのよ。」「おお、それなら知っているよ。 女の会計士だけど、魔法衛士隊が人手不足だったから借り出されて、笑いながら群がる敵を薙ぎ払ったとんでもない火メイジが居たって父上に聞いた事がある。 火系統は魔法を使い始めるとハイになって怖いから、嫁にするなら水系統だと父上に言われて育ったものだよ。」「何故に会計士が戦場で敵を薙ぎ払っているのですか…。」カリンの言った事にギーシュが反応して補足してくれましたが…だ・か・ら!過去で何やっているのですか、未来の私!?というか、若い頃のグラモン元帥にトラウマ残していやしませんか、私。「ケティ過ぎる…。」「ケティ過ぎるわね、容易に光景が浮かんだわ。」「ええい伝説コンビ、何をドン引きしているのですか!?」才人とルイズの関係を説明する筈が、すっかり未来の私の昔話という、わけのわからない展開に。「そんなわけで、才人への疑いは晴れましたね、カリン?」「駄目。」カリンは横に首を振ったのでした。「嫁入り前の娘が若い男と一緒のベッドに寝るだなんて、親として絶対に許せないことだもの。 一緒の部屋なのは、使い魔だから仕方が無いとして…ベッドくらい買ってあげるから、別々のベッドになさい。」「そ、それは駄目ーっ!?」ルイズが大きな声で反対したのでした…はて?「何故かしら、ルイズ?」「だ、だだだだってお母様、それだとサイトとシエスタが一緒のベッドで寝る事になるのよ。」ああ、確かにそうかもしれませんね。「私は大歓迎ですわ。」使用人という事で黙っていたシエスタが、ここぞという所で一言…やりますね。「そんなの駄目! お母様、わたしはこのバカ犬と発情メイドが変な事にならないようにする為に、一緒に寝ているんですの。 ここでベッドを別にしたら、発情メイドが、めめめめめメイドが!」「そそそそれは、気まずいわね。」この母娘、興奮するとドモりはじめるのですね。さすがは遺伝と言いますか、なんといいますか。「仕方が無いわね、買うのは二段ベッドにしましょう…それで良いわね、ルイズ。」「ぬぐ…そ、それであれば。」でもルイズって確か、隣に誰か寝ていないと寝つきが悪かった筈。どうなるのでしょうね?~その夜~「どうしようケティ、眠れないわ。」「…ん~?」眠っている最中にゆさゆさ揺さぶられたかと思えば、そこにはルイズの姿が。「二日連続で私の眠りを妨げるとは…。」「ご、御免なさい…で、でも眠れないのよ。」寝ぼけ眼で睨みつけると、ルイズはぺこりと頭を下げたのでした。「それにしても…ケティは良いわね、タバサを抱き枕に出来て。」「いや、抱きつかれているのは、私なのですが。」「すう…すう…。」タバサ@熟睡中なのです。「さて…と。」ルイズは私たちを持ち上げて、その下に毛布を敷くと…。「よいしょ…っと。」私たちを包んで、持ち上げたのでした。「…何をやっていますか?」「眠れないのよ。 サイトが駄目ならシエスタでも良いかなとか思ったけれども、使用人と眠ったりしたらお母様に何を言われるかわからないし、貴族なら良いかなぁと。」私たち二人を夜逃げ中の人みたいに毛布に包んで担ぎながら、ルイズが言います。「別に私達で無くとも、モンモランシーでも良いではありませんか?」「ギーシュと一緒に裸で寝ているところに出くわしたら、気まずいってもんじゃないでしょうが。」いや、現在ギーシュはモンモランシーにフラれ中なので、そんな事は無い…筈なのですが。「よいしょっと、これで良いわね。」「すう…すう…。」タバサは一旦熟睡状態に入ると、てこでも起きないのですよね。任務中は物凄く眠りが浅いのですけれども。「それじゃあ、おやすみなさい。」「…何故に抱きつきますか。」背中に抱きつくルイズに、ちょっと訊ねてみます。「この方が寝つきが良いから。」「そうですか…。」そういえば現在この部屋、5人の人間が寝ているのですよね…才人ってば、女の子5人と一緒の部屋で寝ているのですよ。ひょっとして、才人にとって眠りの難度が上がったかもしれません。2週間後、私たちは血と涙と汗を垂れ流しつつ特訓を重ね、ついに本番当日がやってきたのでした。「あんだけ頑張ったのに、出られないというのに釈然としないものを感じるわ…。」「仕方が無いですよ。 女性の貴族は基本的に軍人にはなれないというのは、メイジの数において他国に劣るわが国でメイジの数を確保する為には無くてはならない制度なのですから。」女が死んだら子供がその分だけ生まれなくなりますからね。生む機械?機械が人を生めるわけが無いでしょうに、莫迦言っちゃいけません。子供を産む事と育てる事は女にとってキャリアであり、特権なのです。例えば機械と恋愛出来るようになり、機械が子供を作れるようになり、機械が子育てをするようにな世の中になったとしたら、そのとき女性は恋愛の対象としても、子供を育むパートナーとしても不要になってしまうかもしれません。ハルケギニアでそんな事が可能になるのは遥か先の事でしょうが、永遠にそんな日が来ない事を望みます。そんな益体も無い事を一瞬脳裏に巡らせつつ、私たちは階段を下っていきます。「お待たせー。」「お待たせしました。」ちなみに私たちが何をしていたかというと、王家専属の化粧係にコルセットで締め付けられ、ドレスをああでもないこうでもないと取っ替え引っ替えされた挙句、白粉を塗ったくられ唇に朱を塗られ…わかりやすく言うと女の完全武装モードにされていたのでした。『うおおおおおおっ!』下で待ち構えていた水精霊騎士団の面々が、それを見て歓声を上げてくれたのでした。「ルイズもケティも…すげぇ。」「うむ、やはり美しき花は、着飾るとより美しいものだね。」ポカーンとしている才人と、うんうんと頷くギーシュの対比が面白いのです。「二人とも最高だね、それで僕を踏んでくれたらもっと最高だね。」変態なりの賛辞と受け取っておきますよ、マリコルヌ…。「御二人とも、素晴らしいです。」レイナール…何という無難な。「んじゃ、次はこっちの番だな…どうだ?」「僕らとしては、似合っていると思っても、決して自惚れでは無いと思っているのだが。」才人とギーシュの二人は緋色と青というド派手なカラーリングのマントを捲って、制服を見せてくれたのでした。トリステイン軍装の基本色である鮮やかな青色と、目立ちたがりで派手好きな国民性を反映したきらびやかな装飾…相変わらず店主が何処にいるのか分からない店でしたが、良い仕事しますね。「二人ともよく似合っています。 格好良いと思いますよ。」「意外と似合っているじゃない。 その姿をモンモランシーに見せれば、よりが戻るかもよ?」にしししと笑いながら、ルイズがギーシュに言ったのですが…。「無いわよ。」その声に振り返ってみれば…。「おや、モンモランシーと…ドワーフっぽい人。」「どうせあだ名で呼ぶなら、きちんとギムリと呼んでくれたまえ!?」全体的に毛深くてずんぐりむっくりした体型なので、ドワーフだらけの所で呼べば100人のうち30人は振り返ると言われるほど、ドワーフにはよくある名前の『ギムリ』というあだ名をつけられてしまったという彼ですが、実はエティエンヌ・シャルル・ド・ロメニー・ド・ブリエンヌという立派な名前があったりします。でも誰も呼びませんし、私が知ったのも彼が水精霊騎士団に入団した時に聞いた事が無い名前があるのを発見して、調べて初めてだったり。面白いので調べてみたら、昨年度は先生ですら彼の本当の名前をよく覚えていなくて、危うく無断欠席扱いにされる所だった授業が何コマもあったとか…ギムリカワイソス。ちなみに彼も水精霊騎士団の制服を身に着けていますが…彼はどっちかというとバイキング風の装束に身を包み、角兜被って斧持った方が絶対に似合っています。「私達、付き合う事にしたの☆」『嘘だッ!?』モンモランシーの一言に、ギーシュとギムリの言葉が重なったのでした…って、あれ?「ちょっと、ギムリ! 話合わせなさいって言ったでしょ!?」「そんな話だなんて聞いていないよ!?」モンモランシー…そういう小芝居やる時は、事前に根回しをしておきなさい。「だいたい、僕の純愛は情熱的な赤い髪のあの人に捧げているんだ。 その気持ちに嘘を吐くだなんて出来るもんか!」「あ~…なんか御免。 頑張ってね。」モンモランシー、そこまでギムリにドン引きしなくても…いや、まあ、キュルケにとっちゃ十把一絡げなのは、私にもよおおおぉぉぉっくわかっちゃいますが。「あー、つまり、モンモランシーは僕を見捨てたわけじゃないのだね?」「あ、あんたなんか、とうの昔に見捨ててるわよ。」をう、さすが金髪縦ロール。高飛車な態度させると映えるのですよ。「ギーシュ、貴方の浮気癖にはほとほと愛想が尽きたわ。」「ち、違うって言っているじゃないか我が美しき蝶モンモランシー。 僕は口説いていたんじゃなくて、彼女達に騎士団に推薦出来そうな男子を…。」「ほほう。」ギーシュは必至に弁明しますが、モンモランシーは半眼でギーシュを睨んでいます。「その割には、美しいだの今度遊びに行かないかだのと散々言っていたと聞いているのだけれども?」「協力して貰うんだから、良い気分になって貰った方が良いじゃないか! 遊びに行くのも接待のうちだよ!」ギーシュ…何だか段々駄目な旦那への道を進み始めているような?「……………………。」「すいません、ナンパしてました。」モンモランシーの無言の圧力に負けたのか、ギーシュは土下座して謝り始めたのでした。「それでも、僕にはモンモランシーしかいないんだっ! 頼む、僕の元に戻って来て送れ!」「死になさい。」そう言い放つと、モンモランシーはすたすた歩き去って行ってしまったのでした…まあ、言い訳した後に謝っても怒りますよねえ。「あうううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅ…。」「…何も言えんなぁ。」くず折れたギーシュを見ながら、才人は頭をポリポリ掻いて気まずそうにしています。「リア充は滅びた…。」貴方は楽しそうで良いですね、マリコルヌ。「おうともさ!」だから、心の声に答えるなと。「副団長補佐代理心得、団長がこれでは団が締まらないのですが…。」レイナールが、おずおずと話しかけて来たのでした。「…なかなか無茶振りしますね、レイナール。」「そうは言っても、この団長を立ち直らせる術を僕は持ち得ませんから。 ヒラガ団長も無理みたいですし、ラ・ヴァリエール副団長に頼んだら、いきなり殴り飛ばしそうですし。」ルイズに頼んだら、間違いなくそういう少年漫画的展開になりますね…。「ギーシュ様、このパレードを立派にやり遂げたら姫様との会食をプレゼントしましょう。」「え゛!?」ルイズがその言葉にギョッと目を剥いて、私の方を見たのでした…ああ、自分の運命がわかったのですね。そう…姫様がギーシュと会食している間、私とルイズは書類の海で溺れる事になりますが、仕方が無いでしょう。「ほ、本当かね!?」をお、復活した。ギーシュに限らず、この国の男どもは姫様の見かけに騙されていますからね…王家の色気スゲーのですよ。実の所、ギーシュというのも姫様の婿候補としては家柄とか、本人や一族の良い意味での大雑把さとかで有力候補だったりしますし。「ええ、本当です…頑張れますね?」「勿論だとも!」もう一つとしては、モンモランシーの側も姫様とギーシュが会食したとか聞いたら心穏やかでは無いという事ですか。何だかんだ言って、モンモランシーがやっているのは駆け引きですからね。私達が仕掛けた事とは言え、無視していてギーシュが手の届かない所に行ってしまったりするのは嫌でしょうし、必ず妥協してくる筈。「よーし!頑張るぞー!」「…私ですら焦るくらいやる気になっていますし、これならば効くでしょう。」もしもですが…ギーシュが姫様に取られたら、モンモランシーには私が責任を持って良い縁談を用意する事にしましょう、ええ。「…という事になりまして。」パレードの観覧中、この事を姫様にかくかくしかじかと説明したのでした。現在、城のテラスの下で、トリステイン国軍が足を真っ直ぐ地面と平行になる位置まで上げて、行進の真っ最中。そして流れているのは《星条旗よ永遠に》。グース・ステップでアメリカの行進曲とか、色々な方面に喧嘩売っているのですよ。「グラモン家の4男ねえ…その男の子とゆっくり御飯を食べればいいのね?」「早く終わらせても良いですわよ、姫様。」憂鬱そうな表情で、ルイズが姫様にそう言ったのでした。それはさて置き、そろそろ喪服やめましょうよ、姫様。「ルイズ…判断下すのはケティなわけだし、貴方はサインするだけなんだからそんなに嫌がらないでよ。」「国家の大事に関する判断を学生二人がこなしていると知れたら、臣民が泣きますわよ。」ルイズは愚痴愚痴言っていますが…。「貴方は現状でも実質私にほぼ等しい権限を持っているのよ、つまり私の予備なの。 だから、機会がある毎に私の仕事を覚えて貰った方が良いに決まっているのよ。 権限的には何の問題も無いし、もし臣民に知れたとしても貴方の素性を全部ばらすだけ。 そもそもね、国王なんてのは仕事自体は専門家である官僚に任せて、お尻で椅子を磨きながら国の大事を決断するだけの簡単なお仕事よ…量が多い上に責任が重過ぎて胃が痛くなるけれどもね。」「うう、どうしてこうなったのかしら…つい最近まで、私は単なる魔法が下手な落ちこぼれだったのに。」そんなものどこ吹く風な姫様の言葉に、ルイズはがっくりと肩を落としたのでした。「そんな事を言うなら、私だって最近まで夢見がちなお姫様してたんだから、似たり寄ったりよ。」「なーにを言っていやがりますか。 夢見がちなお姫様の『フリ』していたの間違いでしょう。」遠慮がちに話を持って行きつつ、私達を内戦真っただ中のアルビオンに送り込んだりしたのですから。よく考えたら、あの時点でお姫様なのは見かけだけで、中身真っ黒だったぽいのですよ。「何の事やら…ね。 おほほほほほほ…。」「おほほほほほほ…。」「な…何なのよ、この真っ黒な空気は!?」真っ直ぐ気質のルイズには、耐え難い空気かもしれません。「それはそれとして…。」姫様は大通りに目を向けたのでした。「よくもまあ、一か月弱でものにしたわね。」私たちのいる観覧席の前に、水精霊騎士団が行進してきたのです。そして、全員がこちらを見ると同時に一斉にローマ式敬礼…わかりやすく言うと、ファシストが真似して印象がえらく悪くなった方式の敬礼なのですよ。別名、ナチス式敬礼ってやつなのですが、実はこれがトリステイン軍の敬礼だったりします。「あれも、魔法衛士隊…つまり親衛隊発祥なのよね。」敬礼に対して手を振りながら、姫様がボソリ。グース・ステップにローマ式敬礼…つまり未来の私は全体主義国家の視覚的に映えるアレコレを行進に取り込んだのですか。まあ、ファシストの上手い所は、兎に角格好良くというのを徹底して演出し、国民の心を掴んだという所ですから、そこに学ぶのは決して悪い事ではない筈。行進曲がやたらとオーソドックスなのは、オーソドックスなのしか覚えていないからでしょう。「まあ…我が国の軍事パレードは名物にもなりましたし、観光客もお金を沢山落としていきますし…。」「ガリアやゲルマニアも真似はしているけれども、やはり行進といえばトリステインっていう他国のお客様も多いもの。 結果が良ければ何でもいいわ。」昨夜は各国の貴族などを招いての晩餐会だったのです。大貴族だらけの晩餐会とか、片田舎の木っ端貴族の娘が出るような場所では無いので私は辞退し、ルイズもカリンが出るので華麗にスルー。昨晩はお姫様モード全開で頑張ったのだとか…喪服姿で。おかげで、トリステインの黒姫だの黒女王だの黒百合だのといったあだ名が付き始めています…そろそろ喪服やめるように進言しましょうか。「ついでに、過去に戻った時にお母様をバリバリの政治家に再教育してくれたら、私が物凄く楽になって嬉しいのだけれども。」「こっちもついでに、お母様をもう少し穏やかな人に再教育して貰えると嬉しいわ。」「二人揃って無茶苦茶言わないでください。」コネも金も地位も無い謎のゲルマニア人を名乗っている状態の未来の私に、二人とも何をやらせようというのですか。『トリステイン万歳!英雄サイトーン・ヒリガール万歳!』「キャー!サイトーンサマー!」水精霊騎士団が現在行進中なので、才人を見ようと民衆が大騒ぎなのですよ。「おおう、持ち上げられていますねえ。」「女の子に黄色い声を掛けられて、デレデレしちゃってまあ。」ルイズがそう愚痴りますが…。「女の子に黄色い声を掛けられてデレデレしなかったら、それはそれで問題ありなのですがね。」「どういう事?」私の返答に不思議そうに首を傾げて、聞き返して来たのでした。「女の子に声を掛けられてデレデレしない殿方は、たいてい女の子自体に興味が無いのですよ。」「わかりやすく言うと、男の子が好きな男の子ね。」 姫様、何故に説明しながらウキウキした顔になりやがりますか?この国、思いがけない所に腐女子が潜んでいるので、なかなか侮れないのですよ。「男の子が好きな男の子…なんでそうなるのよ。」「男っていうのは、もともと複数の女の子に目移りしまくる生き物なのですよ。 本命がいようが、美人がいればそっちの方に目が泳ぎます。 我々女には少々理解しかねる話ですが、そういうものなのです。」わけがわからんと言った表情で首を傾げるルイズに、取り敢えずそう答えておいたのでした。「うちのお父様もこっそりお城を抜け出して《魅惑の妖精亭》に遊びに行っていたみたいだし。 殿方ってのは、訳のわからない生き物だわ…って、ケティ。 まさか私にトリステインの継承権持たない弟とか妹が居たりしないわよね?」「スカロンの話では、そういう関係になった娘は居ないそうなので、たぶん大丈夫でしょう。」婿養子ですから、その辺りは自重したみたいなのですよ、先王陛下。「…調べていなかったのですか?」「正直国の事に手いっぱいで、お父様の下半身関係のアレコレまでいちいち調べる気にはならなかったのよ。 暇があったら調べておいて頂戴。」まあ、それも仕方無いとも言えますね。あの色気のお化けみたいなマリアンヌ様との間に姫様一人って事からも考えると、そっち方面は薄い人だったのでしょう。「…私のお父様の事は置いておいて、ルイズ。 兎に角、殿方っていうのはそういう生き物なのよ。 そんなものだから、目移りするくらいは大目に見てやりなさいな。」「そうそう、ブッ飛ばすのは浮気が判明してからにしないと、流石に才人が可哀想なのですよ?」再生するけど痛いもんは痛いらしいですからね。ボコボコにされて《痛い》で済んでいる時点で凄いのですが。「それに、そういう大人なな余裕も、女の魅力を高めてくれるものなのです。 ぐるぐるぐるぐる~。」ルイズの目を見つめながら暗示をかけてみます。「大人の女の魅力…。」「そうなのですよ~ぐるぐるぐるぐるぐる~。」暗示と言っても、畳み掛けているだけですがね。「大人の女の余裕ね~、むゎ~かせて~。」それなのに、ルイズの目の焦点がおかしいのは何故なのだか~。「話は変わるけれどもケティ、最近何か作った??」「はい?」姫様の一言に、私は取り敢えず首を傾げて見せたのでした。いやだって、最近完成したアレコレを列挙したら結構な数に上りますし。「トリスタニアの近辺に怪鳥が出たという報告が入ったのよ。」「怪鳥…?」怪鳥と聞くと『秦の怪鳥』とかしか、思い浮かばないのですが…。「150メイル近くある巨大な鳥がね。」「…ああ、機関をコンパクトに出来なかったせいで、もう一回船体を作り直す事にしましたからねぇ。」結局、大型戦列艦級の船になってしまったのですよね、『ホーネット号』。出た時にコルベール先生が得意満面で語るのでしょうから、今は黙っておきますが機関も大幅な変更を余儀なくされました。おかげで開発予算も鰻上り…ツェルプストー家の潤沢な資金が無ければ、大赤字になるところでした。お金出す代わりに命名権をキュルケに毟り取られて、名前は原作通りの『オストラント号』になるかと思いきや、『フォルヴェルツ号』という妙にアクティブな名前になったのでした…私は未練たらしく『ホーネット号』と呼んでいます。「…使えるの?」「現在試験運用中ですが、風に頼らずに自由自在に動けるという報告が上がって来ています。 とは言え、大型戦列艦を三隻は建造出来るお金がかかりました…トホホなのです。」借金生活から抜け出したかと思ったら、またもや借金漬け。「風に頼らずに自由自在に動けるというのは素晴らしいけれども、高いわね…。」「まあ今回は、二隻も船を作る羽目になった上に、丸っきりの新機軸で開発する事になりましたから。 これから先、同じものを建造する場合は、通常の大型戦列艦の1.3倍程度かかるとのことです。」つまり、今までの銃などに比べると、かなり安く作る事が可能ということです。とは言え、元々の値段が高いですがね。「それなら何とかいけそうね…ゲルマニアの造船所に研究所を作っているのよね?」「ええ、そうですが…。」「女王として命令します。 東トリステインのアルクマールに研究所を移動させなさい。 建設費用はトリステインが補助します。 はい、命令書よ。」姫様がそう言いながら、さらさらっと命令書を書いて私に手渡したのでした。…まあ、そうなりますよね。「しかし、それだとツェルプストー家に支援していただいた件は、いかがいたしましょう?」「トリステインが立て替えます。 あと…技術者さえ居れば、その新型船は作れるのね? 大型戦列艦の1.3倍程度のお金で。」姫様の問いに、私はコクリと頷いて見せます。「はい。」「その新型船は、現物があればすぐ作れるものかしら?」更なる姫様からの問いに、私は首を横に振ったのでした。「いいえ、機関の原理をしっかりと理解しなければ、複製は困難かと。」そう、火で水を沸かして水蒸気を出し、それの圧力によって機関を動かすのだという概念が無いと、機関のしっかりとした複製は困難なのです。そして私が集めたのは、このハルケギニアではかなりの変り種なコルベール先生の同類ばかり。まあ一朝一夕には無理というか、研究所を移した場合には整備するのにアルクマールまで来ないと不可能になるでしょう。勿論、時間によって解決されてしまうものなので、永遠には無理でしょうけれども。「では、ツェルプストーに新型船の現物をくれてやりなさいな。 金は戻ってきて、珍しい玩具も手に入るのだから、彼らはそれである程度満足してくれるでしょう?」「御意。」姫様の言葉に、そう言えばそろそろ新入生歓迎コンパ…もとい、スレイプニィルの舞踏会だなーとか全然関係の無い事を考えながら、私は深々と頭を下げたのでした。