いきなり駆けよって来た鎧。中身は空ですが、多分操っているはミョズニトニルン。「死ねよやぁ!」「ジョ○サン節!?」飾ってあった鎧を別のものに変えていましたか?それっぽいのに目星を付けた上で、口調で見分けたというか、何でターゲットが私になっているのですかというか、ひょっとして死にますか私!?「邪魔よ!」死ぬかと思ったのですが…ルイズが裏拳で無造作に殴り飛ばしちゃいました。「にゃーっ!?」鎧はぐしゃっとひしゃげて数回バウンドし、壁にめり込んで動かなくなったのでした。「サイトに何やっているんですの、姫様!」「おほほほほ、折角のウェールズですもの。 キスの一つくらいはしておかないと、勿体無いかなーと思って。」勿体無いかな―でキスしないでください、しかも私の姿で。しかも謎の鎧ガン無視ですか。「いきなり横から出てきて邪魔しないでよ、ちびピンク!」鎧はぎくしゃくいわせながら、もう一度立ち上がったのですが…。「エクスプロージョン。」ルイズが返答代わりに放った光弾が、鎧を粉々に打ち砕いたのでした。「誰がちびピンクよ、誰が。」…なにこのドラゴ○ボールのエネルギー弾みたいなエクスプロージョン(自称)。貴方は野菜星の王子様かなんかですか、ルイズ?「あー…えーと、何で才人を押し倒しているのですか、姫様?」あの鎧は無かった事にしましょう、うん。「だって、逃げるんですもの。 逃げたら追うのは本能というものだわ。」「いやいや、犬や猫じゃないんだから。」姫様の下から何とか抜け出した才人が、げんなりとした表情で姫様を見たのでした。「犬猫もメイジも平民も、本質的には大して変わりゃしないわ。 皆、つがいになるべき相手を求めて、追いかけるのよ。」「…いや、そんな良い事言った感じに言い訳されても困るから。」良いツッ込みです、才人。「…まあそれはそうとして、サイト殿?」「ツッコミ流された…とか言っている場合じゃねえか?」姫様の言葉に、才人は懐から私がいつぞやにあげたナイフを抜いて、逆手に構えたのでした。「何でそんなに出鱈目なのよ、あんた達は!?」何処からともなく声が聞こえて来て、部屋にぞろぞろと着飾った男女が入って来たのでした。見知った顔もちらほら、舞踏会の参加者一同といったところでしょうか?「…こりゃまた皆さん、虚ろな顔でようこそ。」才人が言うとおり、皆無表情…スキルニルですか、そうですか。この莫迦の一つ覚えな人海戦術は、間違いなくミョズニトニルン。あんな高いものを湯水のように使うとは、流石はガーゴイル大国ガリアといいますか。こちとら爪に火を灯しながらちまちま軍拡しているって言うのに…金満国家爆発しろって感じなのですよ。「はいは~い皆様、こんな狭い部屋は会場ではありませんよ~?」私はサイドアームのワルサーTPHをスカートの下に隠しておいたガンホルダーから抜き放つと、安全装置を外して両手で構えます。火系統は使えませんし、風系統はコントロールがヘボいので、取り敢えず拳銃で何とかしましょう…弾尽きたらやっぱり風系統ですが。「ルイズが微笑を浮かべながら拳銃を構えているっていうのは、違和感が…。」「…あちらは?」私が見ている方向には、指をゴキゴキ鳴らして楽しそうにニッコニコしている私の姿inルイズの姿が。「おおっし、アレぶっ飛ばせばいいのね。」「ケティがあそこまでイイ笑顔で指鳴らしているっていうのは、違和感とかいうレベルじゃねーぞ…。」うーん、アレには私自身ですら違和感が…。「あら、敵なの?」そして姫様は、この状況でかつ私の顔で、何でそこまで艶っぽく微笑む事が出来ますか…。「姫様は後ろへ…って、何で楽しそうなのですか?」「たかが襲撃されたくらいであからさまに怯えるような王が、国を背負えるわけが無いでしょう? 勿論困ってはいるけれどもね、困れば困るほど笑顔になるのよねェ、私…言わば職業病かしら?」海千山千の大臣やら官僚やら相手に散々やりあいましたからねえ、土壇場での度胸がついてしまいましたか。「そもそもアルビオンの英雄とその主人が、助けが来るまで持たせられないなんて事は無いでしょう?」「まあ、それを言われれば確かに。」入り口は一箇所ですし、なんとかなるっちゃなりますか。「…それにしてもケティ、その銃は何?」「ロマリアからの横流し品で、才人の国の銃です…量産出来る代物ではないので、あげませんよ。」ワルサーTPHはこれっきりなのですから、あげるわけにいきません。ついでに言うと、才人の『国』では無く才人の『世界』のものですが、面倒臭いので一緒くたにしています。「ケチねぇ…まあいいわ、守ってね。 それにしてもサイト殿の国って、メイジ無しでそんなものを作ってしまうとか、とんでもない国ね。 技術だけでは無く、首都圏の人口だけでトリステインの全人口を凌駕しているとか、考えただけで眩暈がするわ。」そう言いながら、姫様も杖を構えます。「…戦うおつもりで?」「そのつもりは全然無いけれども、杖を構えもせずに死んだりしたら無様じゃない?」成る程、まさかの時の事も一応考えておいた方が良いですからね。「ふっふっふっのふ、ここなら出てきた途端にまほ…。」フードを深くかぶった女性が何かを語ろうとしたので、取り敢えず額を撃ち抜いておいたのでした。「だから、人が説明している間くらい待ってよ!? 此処なら貴方のファイヤー・ボムも使えない筈! やぁあっておしま…。」もう一回現れたので、もう一回額を撃ち抜きます。「待ちなさっていってんでしょ! お約束なんだから最後までしゃ…。」お約束など解さぬ、なのです。これで三発目ですか。「いちいちローブ着せるのも大変なのよ! ああもう、やっておしまい!」始めっから、それだけ言えば良いのですよというか、手ずから着せていたのですか。「ルイズ、あのへんに本体が居るらしいので、ドカンとやっちゃってください。」「成る程、んじゃいっくわよー!」「ああっ、つい口が滑った!?」紙の頭脳ですか、貴方は。「あっちだな、俺も行って来る。」ナイフを構えて、才人もミョズニトニルンが居るであろう方に駆けて行きます。「なんてね、捕まるものですか!」え!日本語!?「うわっぷ!何なのよこれ!」「煙球とかお前は忍者か!?」うお、物凄い煙なのですよ。御蔭でスキルニルも何も見えなくなったのか、右往左往しています。「忍者を知っているって、貴方もあっちの世界の人間なの!?」「日本語でしゃべってんのか!? まさかお前日本人か!?」ミョズニトニルンが日本人だなんて、原作と違う…。「そっちも、よく聞いたら日本語なの!? 何で日本人が二人も召喚されているのよ!?」「知るか!」才人と話しているのは、本体ですか…。スキルニルではガリア語で話していた筈。スキルニルを通すと、自動翻訳されてわからなくなるのでしょうか?「サイト、みょ…みょみょみょみょみょみょんとかとか言うアレ、ひょっとしてあんたと同じ国の人なの?」ミョズニトニルンです、ルイズ。「ああ、たぶん俺と同じ国の人間だと思う。」ひょっとして、召喚された人間が別だったのでしょうか?まあ世界扉の性能といい、ここが原作世界に極めて近い平行世界なのはわかっていましたが、まさか話の主流に関わる登場人物が代わっているとは…。「…ん?はれ?」な、なんだかねむくなれるりら…。《才人視点》「俺の名前は平賀才人、お前の名前は?」まさか、こっちの世界で日本人に逢えるとは思わなかった。声しか聞こえないけれども、敵だけれども、嬉しいかもしれない。「…タカナギ・チアキ。」タカナギ…?ええっと、どこかで聞いたような?ああ、そうだ、俺のいたクラス委員と同じ苗字だ…けど、あいつの名前は確か春奈だったよなぁ?「あー…ええとさ、お前の姉か妹に春奈って居ないか?」「え?私一人っ子だけど。」違ったか…まあ、クラスメイトの姉妹が召喚されるとか、そんな偶然は流石に無いわなぁ。「なんで、ミョ…何とかと仲良くしてんのよ?」「ぐふぉ…。」だからその、取り敢えず殴るというのをやめれルイズ。言いたいが、口から全部空気が出ちまって言葉も出なかった。 「女の子だったら敵も見境なしなわけ、あんたは?」「お…お前だって、全然違う国に行って同郷の人間に会えば嬉しいだろうが?」俺はそう言ったんだが…。「ん~?子供の頃アルビオンに行った時も、周りに居たのはヴァリエール家の使用人だったし…いまいち想像しにくいわね。」「超金持ち過ぎて、ルイズがついて来ねぇ!?」例えが悪過ぎたか。「想像しにくいけれども、理解出来ない事は無いわよ。 わたしも1年生のしょっぱなに連続で魔法に失敗して以来、ずーっと孤立していたし。 積極的に話しかけて来るのって、からかいに来るキュルケくらいだったし。 正直な話、ラ・ヴァリエールに戻りたいと思った事も何度もあるんだから。 そんな時なら例えキレかけたお母様だろうと、来てくれれば嬉しかったと思うわ。 完全にキレたお母様の場合は、災害と一緒だから全力で逃げるけど。」「お前、結構ハードな生活送っていたんだな…。」そして、そんな状況でも絶対に出会いたくないのか、キレたルイズのカーチャン。「そうよ、そんな時に召喚したのが、サイトっていうがっかりな使い魔だったのよ。 あまりの絶望っぷりに、危うく泣く所だったわ。」「伝説の使い魔にがっかりとか言うな。 つーか、同じ伝説の使い魔でも色々とがっかりなのは、あっちだろ?」何処に居るか分からんけど、取り敢えず適当な場所を指差してみる。「色々とがっかりとか言うなぁっ!?」チアキとやらのツッコミの声が、何処からともなく聞こえてくる。「仕方が無いでしょ、その時はガンダールヴなんて知らなかったんだから。 そこのミョ…ゴニョゴニョ…ンとかいうのも知らなかったし。」「なに!?『ミョ…ン』って何?」覚えられないからって、ひでえな。「ミョンてなんだよ、何か跳ねてんのかオイ。」「そうだそうだ~!」何処からともなく声が聞こえる…敵に同意されちゃったよ。「長いのよ、敵だし覚えるのが面倒臭いわ。」「…覚えられないくせに…ぐふぁ。」思わずそう呟いた途端に景色が反転…大の男を拳で浮かすなというか、味方を殴るな。「そんなわけないでしょ。」「じゃあ言ってみろよ?」顔が赤いぞ、ルイズよ?「みょ…みょ…みょみょ…ミョンで良いでしょあんなの。」「あんなのとか呼ばれた!?」ケティに影響されたのか、敵には滅茶苦茶辛辣だなルイズ…。「声はすれども姿は見えず…まるで屁のような奴だが、流石に可哀想だろう、それは。」「私よりも更に酷い事言っているじゃない…。」しまった、ついつい追撃かけちまった。俺もケティの影響受けているかな…?「…そろそろ、泣いていいっスか?」「なんつーか、調子狂う奴だなぁ。 姿見えないけど。」女の子らしいけど、しかも日本人らしいけど、ギャグ方向に人格振りまくられているというか。「ねえ…サイト殿?」「んぁ、姫様?」そんなぐでぐでな俺達の所に、姫様がつかつかとやって来た。「…ケティは、何処?」「へ?」姫様にそう言われて、周囲を見回すがケティが居ない。「あ…あーっはっはっはっはっは! まんまと我が策に引っ掛かったわね、ガンダールヴ!」「何だと!?」急に偉そうな態度になったチアキが、笑い出した。「今までのぐでぐでは全て囮! その間に別働隊であの娘は頂いたわ!」「な、何だと!?」このぐでぐでっぷりが囮作戦だったっていうのか、しまった…ッ!?「あーっはっはっはっはっは! あの娘はあの御方の元に連れていかれて、魔法の薬で洗脳された上で妻になるのよ…って、しまったやっちまったあぁぁぁぁぁぁっ!! ごごごごごご合流地点何処だったっけっ!?」何で作戦が成功した筈なのに絶叫して動揺してんだ、コイツ…。「何だか、貴方のぐでぐでは全て本物で、他の間者に出し抜かれたっていう方が正しそうだけれども?」「ぎぎぎくぅっ!?」姫様の指摘で、思いっきり動揺してる…見えないけど。「そそそそんな事はなな無いっスよほほん。」「…わたしよりも演技が下手な奴、才人を除けば初めて見たわ。」ルイズにまで呆れられておる…何という可哀想な使い魔。つか、ルイズの大根ぷりより俺のが上とはどういう事だコラ。「声だけで演技するのって、思っているよりも大変なのよ!察してよっ! 鬼○者の金城○だって、名俳優なのにセリフ超棒読みだったじゃない!?」「金○武のトラウマをザックリ抉るのは止めてあげてっ! あの人は声の抑揚感が声優向きじゃないってだけなんだから!」確かにあの『ゆきひめー(棒)』は無いなと思ったけどさ。昔のゲームのアフレコって、一人で収録したリして芝居の空気が作り難いから、結構大変だったらしいぞ?「うっさいわね、だいたい誰よ貴方っ!?」『誰が?』指差しているらしいが、姿が見えないから分からん。「あ、そうか…んじゃ気を取り直して、誰よ貴方っ!?」いきなり近くにフードを深く被った人物が現れて、姫様をビシッと指差しなおした。「ルイズ、ディスペル。」「へ?え、あ、はい姫様。」ルイズがディスペルを唱えると、俺達の姿が元に戻った。「見ての通り女王様よ、文句あるかしら?」「ええっ、何で黒女王(レーヌ・ノワール)がこんな所に居るんスかっ!?」とうとうそんな呼ばれ方し始めたのか、姫様。今は何時もの黒尽くめじゃあないんだが…。「相手が気づいていなかったのに、わざわざ正体を教えるとか不用心じゃあ?」「大丈夫よ…。」姫様がパチンと指を鳴らすと、あちこちから学院の使用人の服を着た人達が出て来たのだった。「遅いわ、まだ官僚の卵でしか無いケティが攫われるというのは確かに想定外だったけれども、あの子が居なくなったら本当に色々と危険なのよ。」「申し開きのしようも御座いませぬ。」メイドさんが神妙な面持ちで姫様に謝っている。「まあ良いわ、私の護衛なら間に合ったもの…ルイズ、その娘捕まえちゃいなさい。」「はい。」ルイズは一瞬でチアキとの距離を詰め、腕を捻り上げた。ナイフ抜いていなきゃ、俺の目でも残像すら追えなかっただろう。ケティが言うには、ルイズの驚異的な身体能力は言わば魔法のパワードスーツみたいなもんらしいが…あの華奢な体であんなスピードとパワーが出るだなんて想像し難いし、色々ない意味でとんでもねーな。「あいたたたたた!? しまった、私とした事がーっ!?」「そりゃ、この距離で姿が見えればわけないわよ。」うっかり神の頭脳か。わけないとか言って、本当に出来てしまうルイズもルイズだが。「その娘に集合地点まで案内なさい。 何処の間者か知らないけれども、捕虜交換よ。」そう言って、姫様はニヤリと笑ったのだった。「ところで、どんな顔しているのかしら?」思いついたように相槌を打つと、姫様はチアキに近づいて行きフードを捲った。「あら、結構可愛いわね。」フードの下の顔は、俺のクラスメイトで学級委員の女の子に瓜二つだった。「なあ…俺達あっちで会った事ねえか?」高凪春奈にそっくりなんだけど…本当に別人なのか?「何?こんな所でナンパ? 生憎だけど、私は超絶美中年上司と周囲の貴族や騎士とのカップリングで忙しいのよ。」「腐女子かよ!しかも隠す気ナッシング!?」これまた日本から酷いのが召喚されたなオイ!「かっぷりんぐ?」「あー…ルイズは知らなくて良い世界だから、流しておけ…な?」変な世界に染まっちゃ駄目だよーという願いを込めて、俺はルイズの頭をポフポフと撫でたのだった。「ちょっと…いや、かなり変な性格な上に偉そうで残忍で…そんな上司に翻弄される貴族や騎士達を脳内カップリングさせるのが、今私の最高の娯楽なのよっ! なのに邪魔な女どもが私の妄想を邪魔するの!それが許せないのよっ!!」「聞いてねえよ!」駄目だこの腐女子、早く何とかしないと。「理解不能の世界だわ…。」「姫様までドン引きしてるじゃねえか。」BLが好きな女の子は、実はそんなに居ないと聞いた事があるが、やっぱ事実なのか?「あんなんなりたくないなら、知らないでおくのが賢明だと言っておこう。」「是非とも知りたくないわ。」心底嫌そうに、ルイズは首を横に振ったのだった…だよなぁ。《ケティ視点》「むに…むに…はれ?」目が覚めたのは森の中…はて?「ううむ、見事にバインドされていて、身動きが出来ません。 ぐにゅにゅ!矢張り駄目ですね、縄が食い込むだけで解けない…というか、何故に亀甲縛り?」こんな姿で知り合いに見つかったら、一生緊縛女とか言われ続けるような気がします。見回しても誰も居ないのは、最低であり最善というのが何とも…いやまあ、多分一人だけ見ている知り合いがいるのでしょうが。「タバサー?」返事がありません、ただの屍すら居ないのです。「黙っていても無駄ですよ~? ミョズニトニルンのぐでぐでのどさくさ紛れにこっそり攫うとか、貴方で無いと出来ませんから。」「ん。」タバサが木の陰から姿を現したのでした。「…まあ、こんな事もひょっとして起こるんじゃないかなーとは、ちょっとだけ覚悟していました。」何処に居るか分からないのに、食べ物が絡むと何処からともなく姿を現すというのは、つまりはずーっとマークされていた…という事なのですよね。「んで、この後どうなるのですか?」「どうにもならない。」タバサはそう言うと、杖を一振りしたのでした。「ををう、縄が解けた。」「シルフィードは『たまたま』他の用事で遠くに居る。 だから、私は今『たまたま』貴方を運べない。」タバサはそう言うと、私の杖を懐から取り出します。「そしてケティは『偶然』私が落とした杖を取り戻して、バインドを解いた。」 更にそう言いながら、私の方に杖を投げてよこし…。「ケティは貴方を逃がさないように制止しようとする私から逃げる為に、これから私と戦う。」最後に杖を構えたのでした。「成る程…長台詞、頑張りましたね。」「宇宙の法則が乱れないギリギリで頑張った。」タバサの表情が心なしか自慢気ですし、近くで見ると広い額にも一筋の汗。頑張りました…頑張りましたねタバサ。「…才人達は間に合うでしょうか?」「間に合わなければ隙を作る。」「その隙を突いて倒せと?」「ん。」火が使えない森の中でコントロールの甘い風系統の魔法を使って、それでタバサを倒せと…。「無茶苦茶言いますね。」「頑張って。」何故にサムズアップしますか、タバサ。「じゃあ、行く。 エア・ハンマー。」「もうですかぃ!?エア・シールド!」タバサのエア・ハンマーを、咄嗟にエア・シールドで防ぎます。流石は風も水もトライアングル相当の使い手、防いでも突風が私を襲います。「エア・ハンマー!!」「ちょ、エア・シールド!」幾ら春麗らかな季節とはいえ、夜にこの突風は…寒いっ!「エア・ハンマー!」「また!?エア・シールド!!」ふぬぁ~!?誰も見て居ないから良いものの、風のせいでパンツ丸見えなのですよ。「エア・ハンマー。」「でぇい!エア・ハンマー!!!」タバサのスペルを見よう見まねでエア・ハンマー…って。「うきゃあああぁぁぁぁっ!?」更に強い突風がっ!?相殺とか無理ですかそうですか…まあ私の風系統って、思い切り踏ん張ってギリギリでライン相当ですしね。「火系統は不便。」「遠慮無く破壊するなら、これ以上は無いってくらい便利なのですがね…風系統は器用過ぎます。」火系統の攻撃魔法は基本的に自分より弱い相手に情け容赦無い攻撃を加えるなら、例え何人居ようが有利になるという範囲攻撃特化型であり、一対一で手加減しながら可燃物だらけの場所でとなると急に打つ手が無くなったりします。火という形で熱エネルギーを利用する系統の為に、可燃物が多い場所で考え無しに使用すると使い手自身が酸欠で死にかねないという両刃の剣なのです。「ええい、ブレイド!」ブレイドで鍔迫り合いに持っていけば…何とかならないような気がします!?ええ、ええ、よく考えたらタバサの杖は長い上に体術でも遥かに上なのですよ。「ブレイド。」そしてブレイドは杖を覆うか先端から伸ばすか、どちらにしても滅茶苦茶長いブレイドになるわけで。「やっちまいました…こちらが牛刀サイズでそっちが槍サイズでは、リーチの面で手も足も出ないではありませんか?」杖の長さの差なのはわかりますが、でかい包丁に過ぎない私のブレイドとタバサの槍みたいなブレイドでは勝てる気がしません。「ガッツあるのみ。」タバサ再びサムズアップ。「…いや、ガッツで何とかなるほど、私は剣術に長けていないのですが。 あと、サムズアップ気に入っていますね、タバサ?」私がそう愚痴っている間に、タバサは杖を振り下ろしてきたのでした。「うひゃあ!?」「こっちで手加減する。」確かにブレイドの刃に上手い具合に当てるように振り下ろしてきてはいますが…っ!「手加減なんかして、大丈夫なんですか?」「私に来ている命令はケティの誘拐。」私に見えるくらいのスピードで、タバサが杖を横薙ぎに払って来るのを受け止めつつ、会話を続けます。「なるほど、だからタバサには手加減をせねばならない理由があるという事ですか。」「ん。」タバサは頷きながら、槍と化した杖を振り回して次々と攻撃を繰り出して来ます。「大体、まだ誰も来て居ないのに、こんなに激しく戦う必要があるのですか?」「仕込みもしっかりと。」これ、仕込みなのですか!?「仕込みなら待ってくれますよね…それではアレの封印を解きましょうか。 土系統の使い手がゴーレムを作るように、火系統の使い手は炎でこんな事も出来るのです!」私は呪文の詠唱を始めます。今回のは久々のウリジナル魔法、要するにパクリ。「来たれ魔女狩りの王(イノケンティウス)よ!」呼びだしたのは炎の巨人(イノケンティウス)…つまり、燃え盛る炎のジャ○ット。いや、私イノケンティウスの形知りませんし、そもそも炎ですから形なんてどうでも良いですよね!巨人でジ○ビットなら、想像し易いですし!「いのけん?」「ダイエットに成功しつつあるマツコ○ラックスに男装させたような姿恰好のゲームクリエイターではありません。」『Dの○卓』とか『エネ○ーゼロ』とか、伝説の作品ではあります。やった事ありませんけれどもね。「たぶん、話が食い違っている。」「わかって貰える話題では無いのはわかっていますから、大丈夫です。 …タバサがイノケンとか言うから、形が変わってしまったではありませんか。」ううむ…魔女狩りの王(イノケンティウス)がジャビ○トからマツコデ○ックスに。「シルフィード。」「はい?」タバサがいきなりシルフィードの名前を呟いたのでした。「作って。」うわ、なんかめっちゃタバサの瞳が輝いてるぅ!?「はいはい、シルフィードですね?」タバサの瞳には逆らえないという事で、イノケンティウスの形を風竜の形に変えてみました。「おお。」タバサは瞳を輝かせてパチパチと拍手しています。「じゃあ、次は…。」「ストップ!脱線していませんかタバサ?」タバサって、こういうの大好きだったのですね。バルーンアートとか知ったら、ハマりそうです…まあ、バルーンアートが出来る程ゴムの加工技術が発展していないから無理なのですが。「おおっ。」「『おおっ』じゃないのです…じゃあ、行きますよ?」魔女狩りの王(イノケンティウス)を再び○ャビットの形に戻し、タバサに飛びかからせたのでした。「ズルい。」タバサは魔力の光を纏った杖でジャビッ○の腕を薙ぎ払うと、飛び退いて体制を整え直したのでした。「それは我々の業界では褒め言葉なのです。 いずれはこっちの業界に来るのですから、覚えておいてくださいね。 そもそも、私がタバサとまともに渡り合っていたら、タバサが疑われます。」戦闘技能に於いては一般人と大して変わらない人間が、親衛隊長を一蹴出来る人間とまともにやりあえるわけが無いのですよ。「成程。」タバサが体制を立て直す間にジ○ビットの腕を再構成し、ついでにその手にバットも握らせてみます。「リーチが伸びた。」「もともと短腕短脚ですから問題ありません。」ド○ラだったら、ちょいと卑怯だったかもしれませんが。「そういう問題?」「そういう問題だと解釈してください。」ジャ○ットが振りかぶるバットを受け流し、タバサが後ろに引きます。「…そこそこ本気でいく。」「どうぞ…って、早いですねっ!?」いきなり○ャビットが頭をカチ割られました…が、炎ですから問題ナッシング。「ゴーレムは使い手を倒すのが一番早い。」「そうは問屋が卸さないのです!」私に迫ろうとしたタバサを、ジャビッ○をみょい~んと伸ばして炎の壁を作り妨げます。「魔法を使うこと『だけ』なら、タバサに早々劣るものではありませんよ~?」体術とかで対抗出来るとは、欠片も思っちゃいませんが。逆に言うなら、魔法だけで対抗すれば何とか…はなりませんが、手加減してくれているなら粘る事は可能な筈です。「手加減は、ケティも同じ。」「をう、ばれていましたか。」本気でとはいえ、試合とかでの《本気》であって、殺し合いという意味ではありませんからね。「………………。」「ほっ!」「………………。」「よっ!」「………………。」「とりゃ!」私が作り出したジャ○ットとタバサが一進一退の攻防を繰り返しているのですが、タバサがなーんにも喋らないので私の気の抜けたような掛け声が森の中に寂しく消えゆくのみという…。「間が持ちませんね。」「ん。」はて、ミョズニトニルンや才人達は、行った何時になったら来るのやら~?「おーいケティー?」「どこに居るのよー? 居ないなら居ないって返事してー?」無茶言うな、なのですよ。「小休止終了。」「はい。」タバサが再び杖を振りかぶってジ○ビットに殴り掛かり、私もそれに応戦します。「ぬおりゃあああああああぁぁぁっ!」ジャビットはタバサの杖に殴り倒されつつも飛び掛かっていきます。「お、こっちか…って、タバサとジャビ○トぉ!?」「なにあの変な寸詰まり!?」巨人ファンに殴られますよ、ルイズ?「あっ、そこのお前!?そうっお前だぁお前ぇっ!バッバッバズーカッ!バズ-カ早くっ!」「そんな平野耕太のどマイナーなネタ、誰が知っているんだぁッ!?」よく知っていましたね、才人。まあ知らなかったら別のネタもあったのですが。「まあ兎に角、ピンチなのです。」「タバサが敵…ねえ?」ルイズの訝しがるような表情。あー、この二人なら、私とタバサが本気で戦っているか否か、一瞬でばれますよね。それも織り込み済みですが。「タバサ、捕虜交換だ。」「つ…捕まっちゃった、テヘぺろ☆」連れてこられたのは、どう見ても東アジア系の少女…日本人ぽいですね。あれがミョズニトニルンの中の人でしょうか?「…関係ない。」「見捨てないで!?」即座に見捨てようとしたタバサに、ミョズニトニルンが声をかけたのでした。「任務に失敗したら、処刑。」「私は任務に失敗するのを楽しまれている感があるから、大丈夫よ! 言ってて悲しくなって来たけれどもっ!」結構可愛いのに、こんなに面白おかしい娘だったとは。「私は、処刑。」「それはいけませんね…。」原作でもそうでしたっけ…?いくらなんでもいきなり処刑は乱暴過ぎるような気がするのですが。「取引をしましょう。」その時、その一言ともに、姫様が供を連れ立ってやって来たのでした。「取引?」ミョズニトニルンは首を傾げます。「ええ、貴方がタバサ…シャルロット公女殿下と私達が話していた内容を思い出さなければ良いの…簡単でしょう?」「お、思い出すなって、そんな無体な!?」慌てるミョズニトニルンに、姫様は微笑みかけます。「貴方は受け入れるだけでいいのよ、処置は私がやるから。」「しょ…処置?」姫様の顔が思いきり悪人なのです。「水系統には心を操る魔法があるのは知っているわよね? その中には、意思に制約を加える魔法がある…『ギアス』って、知っていて?」流石は水メイジ、こういう事やらせたら右に出る者は居ないのです。あと姫様、前の傷を広げる禁呪もそうですが、何故にそんなに禁呪に詳しいのですか?と聞いてみたくもあり、怖くもあり。「え、ええと、心を操る魔法は各国の法で、思い切り禁止されている筈では?」あー…ミョズニトニルン、その問いは愚問というものなのですよ。「私がこの国よ、そして法なの。 法で法を裁く事は出来ないのよ。」姫様はその問いには、こう答えるに決まっているのですから。「さて話を戻すけれども、『ギアス』は受け入れる側が受け入れる事を誓えば、より深く完璧にかかる魔法なの。 貴方がすべき事は受け入れる事、そして思い出す事を放棄する事のみよ。 それだけで命は助かるというわけだけれども…どうする?」「それであれば…仕方がないです。」ミョズニトニルンは頭をコクリと縦に振ったのでした。「じゃあ、さっそくかけるわね。 私の目を見て、そして誓いなさい。 これから貴方は私とケティとルイズとサイト殿が話している内容を、一切思い出さない。 誓約にて、あなたを制約します…誓いなさい。」「はい、誓います。」ミョズニトニルンがそう言うと、姫様とミョズニトニルンの間に魔力の光が発生し始めたのです。「ギアス。」姫様の発動ワードと共に魔力の光が瞳に吸い込まれて、消えたのでした。同時に、ミョズニトニルンは意識を失い倒れます。「これで良し…と。 それでははじめまして…では無いわね。 叙勲式以来だから二度目ですわね、シャルロット公女殿下。」「タバサ。」タバサはそう言って首を横に振ります。「ただ、タバサで良い。」「ではタバサと。」姫様はそう言って頷きます。「タバサ、貴方はこのまま帰ったら処刑されるのよね?」「ん。」タバサはコクリと頷きます。「それでも貴方はケティを連れて帰りたくなかった。」「ん。私にだって矜持はある。」コクリと頷きタバサは話し始めます。「誰かの心を操ったり壊すような真似には断じて加担しない。 まして友達なら、尚更。」「あら…今、あの娘の心を弄っちゃったわ。」姫様の一言に、タバサがよろっとよろけたのでした。よく考えたらギアスでミョズニトニルンの意思を一部弄ってしまったのですよね。「…ギリギリセーフ?」「いやタバサ、そこで私を見られても…ああ、はい、わかりました。 本人が承諾しているからセーフです、セーフ、ギリギリセーフ。」タバサの目がウルッと来たので、慌ててフォローしたのでした。「ケティがそう言っているから、セーフ。」「信頼されているわねぇ、ケティ。 この愛らしい殿下に、ケティを取られないように気をつけなきゃいけないわね。」いや、ガリアに行ったりしませんから、怖い視線を送らないでください姫様。「それじゃあ、貴方と貴方のお母さまを助け出すお話と行きましょうか、タバサ?」「トリステインは、貴方を歓迎するわ。」私と姫様は交互に言って微笑んだのでした。「姫様とケティから、物凄~く悪役オーラが出ているわ。」「俺らが倒すべきは、こっちなんじゃなかろうかと錯覚してしまいそうになるな…。」私も姫様も、気にしているんですから放っておいてください。