人質救出作戦私達は何時から特殊部隊になったのですか?人質救出作戦デルタフォースかSASかGIGNか?そんな屈強になった覚えはないのですが。人質救出作戦やったろうじゃありませんか、タバサ可愛いですし!「乙女の部屋にノックも無しに何度も何度も何度も何度もやってくるたぁ不届き千万! ラッキースケベもいいかげんにしなさい、このエロ使い魔。 さあその魂、極彩と散るが良い!」「まままままま待て、待て待て!?」私の杖から出た炎が鳥の形を形成し、コケコッコー!と雄叫びを上げます。「鳥なのはいいとして、何で鶏!? 何で学名ガッルス・ガッルス・ドメスティクスの形してるの、その炎!?」「私が一番イメージしやすい鳥類が、鶏だったからですよ、悪いかー!」慌てて才人が質問してきたので、思わず返答してしまう私です。それにしても鶏の学名なんて良く知っていましたね、才人。「それに結構おっかないんですよ鶏! 卵を取りに鶏小屋に入ると、私達メイジが呪文の詠唱を終えるよりも先に襲い掛かってきて頭とか突っつくんですよっ!? 限定された戦場においてはメイジをも凌駕する存在、それが鶏ッ!」「うわー、俺以外の平民が聞いたらメイジへの幻想がぶっ壊れそうな台詞だー!?」呪文を唱え終わらないメイジなんて、ただの自作ポエムを語っているだけの痛い人なのですよ。「まあまあ、ここはシルフィに免じて止めるのね腹黒娘。」マッパのシルフィードが、そう言いながら私の肩を叩いてきたのでした。「な、何この裸のおねえさ…げふぅ!?」あ…シルフィードが気を散らすから、思わず発射してしまったではありませんか。まあ、現在研究中の見た目だけで威力はからっきしなコケ脅し魔法なのですが。「取り敢えず才人を気絶させる事には成功しましたか…さてシルフィード、服を着なさい。」私はニッコリと誠意を込めた笑顔で、シルフィードに『お願い』する事にしました。時間がありませんしね。「ハイ、カシコマリマシタ。」「素晴らしい。素直な者は長生き出来ますよ、シルフィード。」急にぎこちない表情になってカクカクと頷くシルフィードに、私はもう一度微笑んだのでした。「きついのね…胸とお尻が。」「悪かったわね…。」私の服だと背丈が足りなかったのでジゼル姉さまに服を持って来て貰ったのですが、グラマラスな体型のシルフィードとスレンダーなモデル体型のジゼル姉さまだと一部横幅のサイズが合わなかったようで、パッツンパッツンになってます。飽く迄も一部が…コレが格差なのですね。「私だって、ジョゼ姉さまみたいにボンキュッボーンな迫力のある美人になりたかったわよ。」「ジョゼ姉さまは色々と反則ですからね~。」ルイズの姉のエレオノールも『あの万能巨乳めが…うぎぎ…巨乳許さん、呪われろ巨乳』と、夜な夜なうなされているとか。カトレア発ルイズ経由の情報ですが、それにしても遭遇していたのですね、あの二人…。「それにしてもこの娘誰? サイトが黒焦げになってる理由は何となくわかるから、どーでもいいけど。 どうせ後数分で復活するしねー。」「復活しますしねー。」ああ、何だか才人の命がそこはかとなく軽い今日この頃。「きゅいきゅい、良くぞ聞きました尻尾。」尻尾って、ジゼル姉さまの事ですか…?いやまあ確かに、ジゼル姉さまは基本的にポニーテールですが。「このシルフィこそ何を隠そう、この世界の空の支配者。 風の精霊を統べる者…。」「わかりやすく言うと、タバサが乗っていたあの風竜です。」「そう、あの風竜ことシルフィードなのねっ! …きゅい?何か急に身も蓋も無い説明になったような気が。」シルフィードが首を傾げています。「気のせいなのです。」「気のせいならいいのね。」納得して貰えたようで、結構結構。「ああ、風韻竜だものね。 伝説通り人に化けたりとか出来るんだー、すごーい。 おお、髪もサラサラ。」ポンと相槌を打ってうんうんと頷きながらシルフィードに触るジゼル姉さま…何故知っていますか?「きゅい?何で驚かないのね? そして何でシルフィが風韻竜だと知ってるのね、尻尾!?」「えーとね…学院が襲われた時に、『お肉ー!』って叫びながら飛び上がったじゃない? あの時に貴女が風韻竜なんだってのを知ったのよ。 ちなみに姫様も知ってるわよ、貴女の正体。」このお莫迦竜…知られたのがジゼル姉さまと姫様だけでよかったというか、何と言うか。「…何故に私にそれを教えてくれませなんだか、ジゼル姉さま?」「あ~、聞かれなかったし、ケティならどうせ何時も例の如く知ってるかなーと。」何なのですか、その《何時も例の如く》というのは…。「事実知ってたし。」「あー…まあ、結果オーライではありますか。」情報の秘匿は知る者が少ない事と、知る者が喋らない事で成立しますからね。おおかた姫様あたりが口止めしてくれたのでしょう。「でも、ケティが今あっさり教えてくれたって事は、そんなに重要な問題では無かった?」「重要な問題でしたけど、隠している場合でも無いのですよ。 ジゼル姉さまは基本的に口が堅いですしね。」事実として、私がばらすまでシルフィードの事を全く口外していなかったようですし。流石は私の姉と言いますか、何と言うか。「その子の事を隠している場合で無くなったという事は…タバサに何かあったのね?」「ええ、出来れば何時ものメンバーを集めて貰えると有り難いです。」ジゼル姉さまの使い魔は偵察型ですからね。人探しにはうってつけなのですよ。「わかったけど、ケティは?」「才人がほぼ再生したので、説明をしようかと。」取り敢えずベッドに寝かせておいた才人ですが、そろそろ起きて貰いましょう。煤がシーツについてしまったので、洗濯に出さないといけませんし。「おわ、何度見ても冗談みたいな勢いで再生するわね、サイト。 了解、じゃあ行って来るね。」ジゼル姉さまはそう言うと、部屋から駆け出して行ったのでした。「…さて、才人起きてください。」焦げた状態からほぼ再生を終えた才人をゆさゆさと揺さぶります。しかし、ギャグキャラ属性か何かなのでしょうかね、この驚異的な再生能力は。いやまあ、使い魔になった影響なのでしょうが。「むー…後ちょっと。」「駄目です。」「お願いだよ母さん、あと五分でいいから…。」誰がオカンか…とは言え、才人が故郷の事を思い出している貴重な時間を奪うというのも…うーむ?「おーい、起きるのね青いの。」「うーん…。」私が迷っている間にシルフィードが揺すりますが、なかなか起きません。眠りが深いと言うべきか、フッ飛ばしたダメージが大きかったというべきか?「起きないと齧ります。 宣言したのね、だから起きるのね。」「ぐー。」シルフィードが揺すっても起きない才人に宣言したかと思うと、口をくわっと開け…。「がぶ。」「ぎゃー!?」躊躇無く才人の頭に噛み付いたのでした。「うぇ~、人間は雄もやっぱり不味いのね…火竜は何でこんなのをわざわざ襲って食べるのか、シルフィには理解出来ません、きゅい。」「そんな理由で私と才人は齧られたのですか…。」しかし、風竜の味覚では人は不味いのですか…。何で竜騎士が使い魔では無い他の風竜に大怪我を負わされる事故はあっても食べられる事故が少ないのか、何となくわかりました。単純に不味いから、襲っても食べないのですね。「あててて、女の子に齧られるとか、俺は上条さんか…。」「おはようございます、才人。」頭を押さえる才人に、私は声をかけます。「おはようっていうか、気絶から目覚めたわけだが。」「ノックせずにドアを開けてはいけないと言ったでしょう?」私をジト目で見る才人にニッコリ笑顔で返すと、バツが悪そうに眼をそらしました。悪いというのは認識出来ているようで結構なのです。「いやまあ、それはそうだけどさ…何も魔法ぶっ放さなくても良いじゃん。」「え!?拳銃で撃っても良かったのですか?」「魔法か銃弾かの二択かよ!?」才人が悲鳴のような抗議の声を上げます。相変わらず打てば響くようなツッコミで結構結構。「俺の周りにいる女の子って、どうしてこうも暴力的なのばっかりなんだ…。 それはそれとして、そこにいるさっきまではマッパだったお姉さんは誰?」「良くぞ聞きました青いの!」「青いのって、俺の事か?」「いっつも青いのね、青いの。」「いやまあ、確かに何時も青系統の服を着てはいるがな…まあいいか。」才人はパーカー以外の服を着ている時も、青系統の服を好みますからねー。青いのって呼ばれても仕方が無いでしょう。「シルフィは大空の支配者にして風の眷属、風の精霊を統べる者…。」「要するに、タバサの使い魔のシルフィードです。」「そう、要するにお姉さまの使い魔シルフィードなのねっ! きゅい?また大幅に端折られた様な気が…。」「気のせいなのです、気のせい。」「気のせいなら良いのね。」長い口上を述べても、理解出来なきゃ仕方がありませんからね。省略省略。「ああ、あの風竜の…竜って人に化ける事が出来るんだ? ルネの飼っていた風竜は、そんなに頭良さそうに見えなかったけど・・・。」才人は不思議そうに首を傾げます。ああ、そう言えば才人には韻竜に関する知識がありませんでしたね。「シルフィードは知性ある竜、韻竜という特別な竜なのですよ。 詳しい説明は面倒臭いので、バヌトゥの親戚みたいなものだと思ってください。 まあ、あちらは人の姿がメインですが。」「そこでチキを出さないあたりに、そこはかとない悪意を感じるな…。 まあ良いや、大体理解できた。」いやー、説明がパパっと済むのは実に楽で良いですね。竜に関する共通語を作ってくれたという点においても、ファイヤーエムブレムは偉大なソフトなのです。「ところで、何でわざわざ正体をバラしてるんだ?」「使者としての身元を明かすには使い魔である事を教えるのが一番手っ取り早いって、お姉さまと腹黒娘が前に話し合って決めたもしもの時の為の取り決めなのね。」ちなみにタバサ無しだと容易に正体がばれるだろうから、バレる前にバラさせて身分の証に使おうと言ったのはタバサです。流石はシルフィードの主人、自分の使い魔を良くわかっていますね。「私がシルフィードの身元を保証出来る場合に限るんですけどね。 私がいるから、シルフィードはタバサに前に言われた通りに正体を明かしているというわけなのです。」「なるほど、シルフィードがケティの言っていた伝手ってわけか…。 ちょっと予想外な展開だったけど、伝手が人類じゃないあたりケティらしいっちゃケティらしいか。」才人は納得して頷いていますが、何かさらっと酷い事言われたような?「伝手が人類じゃないってあたりが、何か引っかかりますね。」「人類であろうが無かろうが、話が出来る相手なら気にしないだろ、ケティって?」「成る程、そういう意味でしたか。」まあ確かに、話が通じるならエルフだろうが竜族だろうが気にはしませんね。ジャイアントホーネットの女王と何度も話をしているうちに免疫がついたってのもあるでしょうが、ラ・ロッタ領の人間はそのあたりに無頓着です。「さて、ジゼル姉さまが皆を呼びに行っている間に、お茶の準備でもしておきますか…。」棚から蒲公英茶を取り出しつつ、呪文を唱えて竈に点火。上には冷めかけた湯の入った薬缶を置いてあるので、数分で再沸騰するでしょう。「モフモフ…。」「…って、何で棚から出したクッキーをおもむろに食べ始めやがりますか、この竜は。」お茶の缶と一緒に取り出したクッキーを、シルフィードがモフモフと食らっています。「とっても甘いのね!」「そりゃまあ、味付けに甘草で作ったシロップを使っていますからね。」砂糖はゲルマニア北部で取れるものが主なので高いですし。甘草に含まれる甘味成分のグリチルリチンは大量摂取すると副作用が出る場合がありますが、適度に使えば砂糖を節約しつつ甘いお菓子を作れます。「シルフィはリュティスから一切止まらずにここまで飛んで来て、その間に何も食べていなかった事に気づいたの、きゅい。 思い出したら、どんどんお腹が減ってきたのね。 お肉、お肉の匂いがする。」鼻をフンフンと鳴らしながら、シルフィードはとある棚に近づいて行きます。「竜って、結構鼻も効くのですね。」「あの棚、何か入ってんの?」「つまみ用に買ったソーセージやチーズの類が…。」臭いが外に漏れないように魔法処理された保管用の家具で、前にトリスタニアで買ったものなのですが…。人にはわからないレベルの臭いは漏れているようですね。「ヒャッハー!肉だーチーズだー!なのね~!きゅいきゅい!」「…止めなくても良いのか?」棚を空けてぶっといサラミソーセージに齧り付くシルフィードを見ながら、才人が恐る恐るたずねてきます。「まあ、長旅で消耗しているのは事実でしょうし、仕方が無いでしょう。 ジゼル姉さまたちが来るまでに食堂に連れて行くというのも面倒臭いですし。」「怒るかと思っていたけど…。」才人には、私がそんなに怒りっぽい女だと思われているのでしょうか、ちょっとショックです。「兎に角、皆が来たら説明しつつトリスタニアへ向かいましょう。 馬車は学院長から徴発します。」「学院長のでかい馬車を借りるのか…。」こういう時、ルイズの権限は役に立ちますね。「はー…この子があの風竜ねぇ…。」「鳥も美味しいのね!」王都トリスタニアに向かう馬車の中、マルトーさんにこしらえて貰った鶏の丸焼きを美味しそうに骨ごと噛み砕くシルフィードを見て、ルイズがしみじみとした表情を浮かべて呟きます。「成る程…先住魔法を使えば、元が竜でも巨乳の女の子になれるのね。」「着眼点がおかしいです、ルイズ。」見ていたのはシルフィードそのものでは無く、シルフィードの胸ですかぃ。「ルイズ、ルイズ、シルフィードが韻竜だったとか、その事に対する感想は何か無いのかね? 僕ぁこんな身近に伝説の生き物がいた事に感動しているんだが。」「使い魔が伝説の使い魔だったり自分も伝説の系統だったりで、何処かで生きているんじゃあないかとは言われていた伝説の生き物に遭っても何か今更感があるのよね。」ああ、ルイズが何だか乾いた事を言っています。「そもそもギーシュって、そんなに動物好きだった?」ギーシュがシルフィードにしきりに感心しているのに気づいたルイズが、ギーシュに尋ねます。「はっはっは!こう見えても僕はね、子供の頃から動物が大好きなのだよ!」「…女の子もね。 良かったわねー、珍しい生き物でかつ女の子とか。 ギーシュの好きなもの倍率ドンよね。」「ぐっ!?」隣に座っていたモンモランシーが、キラキラした瞳でシルフィードを見つめるギーシュにきつい視線を向けながらボソッと呟き、それを効いたギーシュが気まずい表情を浮かべました。「い、嫌だなぁ、我が麗しきモンモランシー。 確かにシルフィードは今、見目麗しきレディだがね。 しかし竜は竜だよ、有翼人よりもエルフよりも遠い種族だ。 レディである限り敬意は払うが、それだけだよ?」「…その割には、視線が特定部位に集中している気がするけれども?」「うぐ…。」…ああ、まあ確かに、ギーシュの視線はシルフィードそのものというよりはシルフィードの胸と尻を行き来していますね。ほほほ、女の子はそういう所敏感なのですよね、コレが。ちなみに才人もマリコルヌも似たようなものです…何で、マリコルヌがちゃっかり乗り込んでいるのかわかりませんが。「ジゼル姉さま、マリコルヌを呼びました?」「呼んでない呼んでない、変態だし。」ううむ、どうやって察知したのか謎過ぎます。「フフフ…僕が本気を出せば、この程度は軽ぁるい軽い。 そんなわけで踏んで下さい。」「何がそんなわけなのかわかりませんし、踏むのも勿論嫌です。 死になさい、変態。」「ありがとうございます!ありがとうございます!」何時の間にか風のラインクラスになっているわ、気配は殺せるようになっているわで、着々と変態への進化を重ねるマリコルヌ…どうしてこうなったのでしょう。「まあ変態は放って置くとして、水精霊騎士団の方は私達が居ない間はどうするの?」「…私たちがガリアに行っている間の偽装として、オクセンシェルナ軍の新兵教練所に放り込む事になりました。 表向きはトリステイン軍の水精霊騎士団とオクセンシェルナ軍の友好親善の為ということになっています。 姫様には手紙で一足先に連絡したので、私たちとすれ違いで王都から来た強制徴募隊が学院の男子寮に突入している筈ですよ。」「ひでえ…。」オクセンシェルナのブートキャンプにて、水精霊騎士団員達は泣いたり笑ったり出来なくなるくらい屈強な兵として教練される事でしょう。南無南無…。 「しかし、僕らだけでガリアに進入とは…。」「ギーシュ様、フォルヴェルツ号の隠密行動性能を舐めないで欲しいです。 キュルケとコルベール先生が乗り込んでトリスタニア上空に待機中ですけど、あまり噂にはなっていないでしょう?」不安そうに言うギーシュに、自信満々に言ってのけます。雲そっくりな霧を出す事が出来るので、この世界の人間にとっては船だとは思いもしないのですよ。…ま、勘の良い竜騎士あたりに発見されれば、それまでなのですけれどもね。数時間後、私達の馬車は王都トリスタニアのとある屋敷へと到着しました。「…で、ここは何処? どう見ても王城ではないのだけれども。 というよりも、隣はうちの別邸よね? はっきり言って近寄りたくないんだけど…。」ルイズが少々青い顔になって尋ねて来ます。ここはトリスタニアでも貴族の屋敷が集まっている区画にある屋敷で、しかも隣はヴァリエール家の別邸。ちなみにヴァリエール家のトリスタニア別邸は、あの独神エレオノールが住まう魔窟です。怖いですねー、恐ろしいですねー。「良くぞいらっしゃいました、ケティ様、皆様。」「はい、出迎えご苦労です。」屋敷から出てきたのは、妙に蠱惑的なメイド服を着たメイドさん…まあ、勘の良い人なら、このあたりでなーんと無くわかるかもしれません。「お待ちでらっしゃいますか?」「はい、あの御方と主人がお持ちです。 さあ、こちらへ…。」私達は促されるまま、屋敷に入っていくのでした。「なあケティ、あの妙に色っぽいメイド服と、あのメイドさんに何となく見覚えがあるわけだが?」案の定、才人が思い出したようで私に話しかけてきます。「才人の予想通りですよ、あの人の隠れ家の1つです。」「やっぱりそうなのか…つくづく凝りねーな、あの人も。」才人が溜息を吐いて肩を竦めます。「まあ、あの人の隠れ家作りも、時にはこうやって役に立つ事もあるのですよ、コレが。」「ん?ケティとサイトは知ってるの?」ルイズが不思議そうに尋ねて来ます。まあ確かに、ルイズ抜きで私と才人だけが知っているというのも妙ではありますね。「ルイズも何回か会った事はある筈ですよ。 割と有名な人ですし。」「まどろっこしいわね。 その人の屋敷の中なんだし、勿体ぶらないで教えてよ?」ルイズはよくもまあ、この魔法がものを言う貴族の世界でつい最近まで魔法を使えなかったにも拘らず、こうも真っ直ぐ育ったものだと思います。何事もド直球、曲がった道も一直線に進むこの性格は、親譲りでしょうか。一見するとツンデレキャラなのに、実際は凄く素直。ああ、可愛い…。「…ケティが何だか私に不埒な笑みを浮かべているのだけれども?」「タバサに対してもそうだけど、ケティは可愛い物好きだから。 ああいう表情を浮かべているのは、タバサとかルイズを相手にしている時か、銃を眺めている時だけだな。」何で私の表情をそこまで把握してやがりますか、才人?「この屋敷の主人については、もう少しでわかると思うぜ?」「あんたも折角ご主人様が聞いてあげているんだから、答えなさいよ…。」「この先に、あの御方と主人が居ります。」メイドさんはそう言うと、ドアをコンコンとノックしました。「ご主人様、ケティ様とそのお仲間が到着いたしました。」「うむ、入ってもらいなさい。」ドアの向こうからそんな声がして、すっとドアが開きました。「やあ、久しぶりだね我が義妹。」「はい、お久し振りです。」ドアの向こうにいたのは可愛いメイドさんに食事を口に運んでもらっているモット伯と…。「待っていたわ。」書類の決裁をしながら、可愛いメイドさんに口に食事を運んでもらっている姫様@仕事中なのでした…。「モグモグ…こういう使用人の使い方は盲点だったわ。 そうよね、使用人に食べさせて貰えば、両手で仕事が出来るのよね。」アンリエッタ・ド・トリステインのワーカホリックレベルが上がった!アンリエッタは『使用人に食べさせて貰った状態で仕事をする』を、覚えた!「…姫様に余計な事を教えましたね、モット伯?」「ち、違う!僕ぁね、姫様を接待しようとしたんだ。 そしたら、急に姫様がティンと来たらしくて、食べさせて貰いながら仕事を始めちゃって…。」アルビオン出征の戦費をやりくりするのに帳簿をアレコレやったらしく、予算が減って効率の落ちた部署へのフォローなどでてんてこ舞いらしいのです。給料が減っても、貴族には『名誉』という名の一時的な脳内麻薬ダバダバ出る褒賞を与える事が出来ます。わかりやすく言えば、姫様からそれぞれの貴族に功績を評するという内容を感謝の手紙として送るわけですよ。乱発は出来ませんが、用法用量を守れば一時的な予算不足を乗り切る事は出来ます。ぶっちゃけた話、姫様のサイン入りの文章は相応の値段で売れますから、本当に一時的にはお金の代わりにもなるわけです。乱発すると有難味が失せるので、乱発は避けねばなりません。つまり、次に何かあれば借金しなきゃ駄目って事なのですよ…我が国、自転車操業過ぎなのです。ギギギ、金満ガリア妬ましい…かんしゃくおこる。「さて…私がこっそり動かせる精鋭が揃ったわね。」姫様が私たちを見回して、そんな言葉をまず一言。全然そんな感じがしませんが、何時の間にやら精鋭です、私達。才人とルイズが無茶苦茶強いですし、私はタバサと何度かガリアに行っている御蔭でコネがあったり地理に明るかったりしますし、キュルケは強力なトライアングルメイジですし、コルベール先生は本気出すと滅茶苦茶強いですし、ジゼル姉さまは狙撃手ですし、モンモランシーは貴重なヒーラーですし、ギーシュは人当たりが良いので情報収集に持って来いですし、マリコルヌは変態です…最後の要らないですね、変態ですし。まあ最後はさて置いといて兎に角精鋭なわけですよ、変態が混じってはいますが。「…成る程、モット伯の隠れ家だったのね。 よくもまあ、こんな所に隠れ家を用意して見つからないものだわ。」ルイズが納得した表情でうんうんと頷いています。それから姫様の方を向いて一言。「姫様、ここは淫靡なる邪悪の巣です。 滅ぼして良いですか?滅ぼしていですよね?滅ぼします。」「ちょっと待ってくれたまえぃ!?」そう言って拳を光らせ始めたルイズに、モット伯は慌てて制止の声を上げ、更に使用人に声をかけます。「例のものをもって来たまえ! ヴァリエール嬢への贈り物を!」「はい、かしこまりました。」間髪入れずにルイズの前に美味しそうなクックベリーパイが差し出されました。「トリスタニアで一番美味しいと評判高い店の職人に予算無視で作ってもらった最強のクックベリーパイだ。 もしも…ゲフン、ヴァリエール嬢の為に用意しておいたんだ、食べてくれたまえ。」ルイズが浮気とかそういう男女の恋愛のもつれ的なものが嫌いなのを知っていたようですね、モット伯。とは言え、ルイズがいきなり過ぎなような気が。「こんな賄賂に私が誤魔化されるとでも思っているわけ? そもそも私はね、前にケティの一番上のお姉さまに旦那の浮気現場を見つけたら通報するように頼まれたのよ。 だいたい、こんなに女の人を集め…。」」「ふむ…ルイズ、口を開けろ。」ルイズが柳眉を吊り上げて怒ろうとした瞬間、才人が突然ルイズにそう言います。「ん?何?私今忙しいんだけど? あーん…もご…むふー。」『何?』とか言いつつも素直にルイズが口を開け、そこに才人がクックベリーパイを切って放り込みました。「あら、コレ美味しい。」ルイズは幸せそうにクックベリーパイを咀嚼しています。即堕ちですか…。「フッ、賄賂完了…。」「もはやどちらが使い魔でどちらが主人なのやら。 …と、呆れている暇はありませんね。」話が脱線しかけました。「ここはお母様がまだ子供だった頃に謀反を起こしたエスタックだかエスタークだかエスカロップだかいう大公のトリスタニアに於ける別邸だったらしくてね。 上手い具合に城まで地下道が掘ってあるのよ、コレが。」姫様が幸せそうにクックベリーパイを頬張るルイズに、急にそんな事を話し始めました。そんな風邪薬か隠しボスか北海道根室市のローカル料理みたいな名前の人、いましたっけ?「何か色々あった場所らしくて何十年も買い手がつかなかったみたいだけど、それに目をつけたモット伯が購入して改装したというわけ。」「訳アリ物件だから安かったし、何よりもあんまり人が寄り付かないというのが良かったわけだよ。 隠し地下通路は改装中に見つけたというわけさ。 もっとも、地下通路はまだ未完成だったので、陛下に話した上で土メイジを手配して完成させたのだけれどもね。」ルイズを刺激しないようにメイド達を手で下がるように合図しながら、モット伯が姫様の話を続けたのでした。「まあそんなわけで、ここは実は私の脱出ルートの一つなわけ。 そんなわけで暴れるのは止めてね、ルイズ?」「ふぁい。」口の中にクックベリーパイが入ったままです、ルイズ。「王宮に貴方達を呼ぶと、ガリアの草に察知されかねないしね。 今回は実の所、前回アルビオンに行って貰った時よりも余程非合法的な活動だから。」「ガリア王家の人間を誘拐ですからねー。」なるべくバレ無いように、トリステインの仕業と思われないように動かねばなりません。「僕らはただ、学友を取り戻したいだけだが、あちらにとっては処刑するとは言え王族か…兄弟で殺しあうどころか、その妻や娘まで手にかけようとは。 そういう家もあるとは聞くが、我がグラモン家は兄弟仲が良いせいか理解が出来ないね。」「うちも跡継ぎは私一人だから、いまいち理解出来ないわ。」ギーシュとモンモランシーはそう言って首を横に振っています。「我がグランドプレ家は…。」「貴方の家は代々変態過ぎて、お家騒動以前の状態ではありませんか、マリコルヌ?」「変態舐めんな!先祖代々家族全員変態だって、お家騒動くらいあるさ! メイドに首輪つけられて全裸で引き摺られる事に興奮出来ない当主を我がグランドプレ家当主として不適格だと、四つん這いで奥方に踏みつけられ鞭を振るわれながら反乱を起こした者だっているぞ!」『うわぁ…。』マリコルヌ以外の全員ドン引き。より変態か否かで当主が決まるのですか、グランドプレ家は…?想像したくないのです…。「な…モット伯、貴方はこちら側だと思っていたのに!?」「僕は物凄く女性が好きなだけで、そういう趣味は持ち合わせておらぬよっ!?」驚愕するマリコルヌに、モット伯が必死で反論していますが…。それはそれで変態です、モット伯。「ま、変態談義はそれくらいにして、本題に入りましょうか。 で、使者殿は?」「ああ…こちらです。」私は大きな箱から青い翼の生えた猫の首根っこを掴んで取り出しました。シルフィードには前にも何度かこの姿になってもらった事があります。服着るの嫌がりますからね…。「きゅい?食事中に何するのね?」シルフィードは箱の中に一緒に入れておいた羊肉を食べていたようで、不満そうに文句を言います。「貴方が服を長い間着ているのが嫌だと言うからその姿になって貰いましたが…。 何時まで食べていやがりますか、シルフィード?」数時間食べっぱなしなのですよ。「そうは言われても、リュティスから飛んできたら結構消耗するのね…。」「陛下の御前です、自重なさい。」「きゅい…仕方がないのね。 腹黒娘、下ろしなさい。」「はいはい。」シルフィードを床に下ろそうとすると、姫様がちょいちょい私を手招きしています。「ケティ、その子を私の膝に乗せる事を許します。 許しますというか、撫でたいからこっちに頂戴。」「この子、正体はタバサの使い魔の風竜ですよ?」私がそう言っても、姫様は私を手招きし続けます。「手触りが猫なら、それで良いわ。」何か姫様の顔が緩いのですが。「ひょっとして、かなりの猫好きですか…?」「猫って調度品を落としたり壁を引っ掻いたりするから、王城では飼育禁止なのよね。 私は別に構わないのだけれども、枢機卿に今にも死にそうな顔で『駄目です、やめて下さい』と言われたら、流石の私もね。」「いや、枢機卿はいつも今にも死にそうな顔をしているような…。」「あと数日で死にそうなら何時も通りなのだけれども、あと数秒で死にそうな顔をされたのよ。 あんな顔されたらね…私もそこまで鬼にはなりきれなかったわ。」どんな顔なのですか、それは。ちなみに王城に於いてネズミを捕るのは小型犬の役目なのですよ。猫ほど効率が良くはありませんが、1つ数万エキューの壺とか割られたら洒落になりませんし。「ちちちちちちち。」「だから、中身は竜ですってば…。」「完全に猫扱いなのね、きゅい。」姫様がこうも猫好きだったとは…。「では、どうぞ。」「ありがとう…うーん、モフモフ…幸せ…。」姫様はシルフィードを優しく撫で始めたのでした。「きゅいきゅい、心地良いのね。」「そう…じゃあ、早速私に報告して頂戴。」「きゅい!」シルフィードは心地よさそうな声で鳴いたのでした。「今回の任務に於いては、身分の証となるものの一切を一時的にこちらで預かります。」シルフィードの話を聞いた後、姫様はシルフィードを撫でながら私達に一言そう告げました。「み…身分の証というと、ひょっとして星付きマントもでしょうか?」ギーシュが恐る恐る挙手して姫様に訪ねます。星付きマントとは何なのかをわかりやすく言いますと、普段私達貴族が身に着けている星の刻印が入った留め具のついたマントの事です。この留め具は1つ1つに16桁の数字の刻印が魔法的な処理を加えた上で成されており、この留め具をもって国家に属する貴族の証としています。メイジでも貴族では無い者は、この留め具を所持できません。つまり星付きマントとは、貴族と平民を分ける大事な証なのです。外してしまうと貴族としての国家の庇護が受けられなくなるのですよ。「勿論よ。 指輪や杖の家紋入りの飾りは勿論として、星の留め具も預かる事になるわ。」ギーシュの問いに姫様が短くそう答えると、私と才人を除く皆が緊張でゴクリと喉を鳴らしたのでした。「星を外す…か、ハハハ。 任務中だけとはいえ、こりゃまったくとんでも無い事になったなぁ。 女王陛下御自らにここまでの任務を任されるとは、とてつもない名誉ではあるけれども。 四男坊で良かったと、これほど強く思った事は無いな。」ギーシュは震える手でマントの留め具を外します。「うちは私しか居ないから…もしも私が死んだら、お父様には愛人作ってでも跡継ぎをこさえて貰うしか無いわね。 これも研究費と生活費と友人とついでに名誉の為、エンヤコラだわ。 …姫様、一応遺言状を書いておいても良いでしょうか?」「勿論、許可します。」新たに借金をこさえた時のような表情で、モンモランシーもマントの留め具を外します。「孤立無援の地で、貴族の証も立てられないかぁ…最高の放置プレイだよ。 それを最高の身分の御方に命令されるだなんて、僕は何て幸せものなんだ。 うわぁ、ゾクゾクするなぁ…出来れば陛下には、これから屠殺する豚に向けるような視線で言って欲しかったけれども。」紅潮した表情でマントの留め具を外す変態…なのに、何となく覚悟を決めた男の顔なわけですよ。やりますね変態…もといマリコルヌ。「まだ貰ったばっかなんだが、これ…。 まあ、元々無かったし、なんとかなるわな。」溜息を吐いて、マントを外す才人。まあ、元々つけていなかったわけですし、まだそれほど重みは感じていませんよね。「……………。」ルイズは留め具に手をかけたまま、固まっています。ルイズにとって貴族というものは物凄く重いものですからね…。「…ええい、これが無くても心は貴族! 女は度胸、やったろうじゃないの!」思い切ったような声とともに、ルイズも留め具を外しました。「よいしょ。」私も留め具を外します。「軽っ!?ケティ軽っ!?」 「逡巡も後悔もまるで無かったわよ。」「罵って下さい。」「さらっと行ったな。」「もうちょっと躊躇しなさいよ…。」私が留め具をあんまし気にせずに外したのを見て、方々からツッコミが…。「ええい、別にこれで永遠に貴族に戻れない訳じゃ無し、要は生きて帰りゃ良いのですよ、生きて帰りゃあ。 ツェルプストー領に運んで貰いますから、そこに行き着くまでは何としてでも、それこそ死んでも生還しましょう。」ま、私が作戦立案したわけで、こうするのは予めわかっていたので、遠の昔に覚悟が決まっていただけなんですけどね。動揺していないふりをするのも指揮官の勤めというわけなのです。ちなみに、上空に居るキュルケとコルベール先生は既に留め具をツェルプストーに送っていたりします。私より凄いのはキュルケですよ。素でさらっと外しましたからね、度胸が半端無いです、彼女。「よーし、それでは先ずはラグドリアン湖畔のオルレアン大公領まで向かい、そこでシャルル派と渡りをつけます。 行くぞー!トリステイン万歳(ヴィーヴ・ラ・トリステイン)!」『トリステイン万歳(ヴィーヴ・ラ・トリステイン)!』