エルフ、それはファンタジーに於ける花形種族このハルケギニアに於いては、人類を圧倒するとんでもない存在なのですエルフ、それはファンタジーに於ける花形種族エルフって、寿命が長くて美しい代わりに胸が不自由な種族の筈なのですが、何なのですかティファニアの反則的なアレは!?エルフ、それはファンタジーに於ける花形種族いすゞのトラックだろとか、そんな土建屋のオッチャンのようなギャグは聞き飽きました…トリスタニア郊外にて、雲に擬態する装置…コルベール先生が言うには《戦場の霧くん28号》という魔法装置を解除したフォルヴェルツ号に私達は乗り込みました。しかし、戦場の霧くん2号から27号まではどうなったのやら、予算的なアレは…予算は…。『潜入任務用の変装!?』「はい。変装ですよ~。」フォルヴェルツ号には既に色々と道具を乗せておきました。旧オルレアン大公邸に到着するまでは、それの披露と選択タイムです。「コルベール先生にはクルーを統括するのにフォルヴェルツ号に居て貰う必要がありますが、キュルケを含めた私達は下に降りて活動するわけです。 さてルイズ。私たちくらいの男女が、しかもマントは無くても身形の整った私たちが、そこらをそぞろ歩いたら周囲から目立つとは思いませんか?」「…んー?マント着て、お供とか連れてた方が目立つと思うんだけど?」ルイズじゃ田舎の大貴族過ぎて、そのあたりがピンと来ませんかね…?「私たちがそぞろ歩いていたら目立つわね、思い切り。 メイジだとは思わないかもしれないけれども、大商人の師弟かなんかと勘違いされるわ、たぶん。 しかも、メイジだと思われない分、わけのわからないチンケなコソドロとかにまで襲撃される可能性があるわね。」モンモランシーはピンと来たようですね。彼女の場合はトリスタニアに自作の水の秘薬を売りに行って小遣いを稼いだりしていますから、世間慣れしているのでしょう。「成る程、確かに今の僕らは杖さえ見せなきゃ身形が良いだけの平民だ。 小悪党にとってはカモか。」ギーシュがモンモランシーの言葉を聞いて、ムムムと唸っています。何がムムムか。「だから、変装ね。 成る程成る程。 はい、サイト、キャッチして~。」変装用の古着を集めた箪笥を漁りながら、キュルケが納得したように頷きました。「よっと…で、変装のテーマは何なんだ? 平民にしちゃ、派手な服が多いけど。」キュルケから服を放って寄越された才人が、その服の柄を見て首を傾げつつ、そのうちのいくつかをルイズに渡します。「何コレ、殆ど下着じゃない…。 東方から来た謎の踊り子でもやれっての?」眉を顰めたルイズが、水着みたいな衣装を人差し指と親指で摘みながら、首を傾げました。トリスタニアにも時々来ているのですよね、そういう謎の団体。歌や踊りを披露して、町から町を渡り歩く旅芸人一座。物珍しいが、どうせ一月もすれば居なくなるので、あまり詮索もされません。詮索しても正体は何らかの理由で放浪せざるを得なくなった人達なので、詮索して得るものはまあまず無いという理由もあります。「ルイズにその踊り子の衣装は無理よ、こっちの歌い手の衣装にしておきなさい。」「ななななななんですって!? き、着て着れない事なんか無いわよ! こう見えても、モンモランシーよりは胸あるんだから!」「ぐはっ…。」キュルケがルイズをからかった結果、モンモランシーが流れ弾を受けて崩れ落ちました。ルイズが歌手なら、《フタリの記憶》でも歌わせますかね?たぶん声的にも問題無いでしょうし…。「じゃあ僕はこの芸人の格好かな? 後この人形たちをこっそりゴーレムにして、人形劇なんか良さそうだ。 脚本は子供の頃によく読んだイーヴァルティの勇者の話を基にしてだね…。」「リアクション芸の真髄を見せてくれるわ、ククク…。」ギーシュとマリコルヌは芸人決定みたいですね、予想通り。「お前ら意外と芸持ちだな…。」そんなギーシュとマリコルヌを見ていた才人が、感心したように呟いています。「俺らもなんかやろうぜ相棒。 そうだ、牛の一刀両断やろうぜ! 肉と骨が一発で断ち切れ、命の炎が消える瞬間…ああ、楽しそうじゃねえかオイ。 ケケケケケケケケケ…。」「それで楽しいのは、たぶんお前だけだろ、妖刀…。」黙れ妖刀、なのです。「…で、ケティは何やるの?」いつの間にか私の近くまで来ていたルイズが尋ねてきました。「何だと思いますか?」「ズバリ歌手ね。 魅惑の妖精亭でも、一回歌って好評だったし…変わった歌ばかりだったけれども。」まあ、トリスタニアで流行っている歌とかは全然わかりませんしね。リリー・マルレーン以外は全部演歌でしたし…アップテンポのアニソンとかでも良いっちゃ良いのですが、英語交じりの曲は歌詞の雰囲気をトリステイン語に訳するのが滅茶苦茶面倒臭いので。「おお、ルイズ御名答。 素晴らしい、オプーナを買う権利をあげましょう。」「そんなのいらないわ…で、またエンカとかいうの歌うの?」「うーん、今回はちょっと別の曲にしようかなとは思っていますが。」別の曲にしないと、歌が原因でバレる可能性だってありますからね。「ふーん…あと、奏者はどうするの? 楽団を用意しようにも、ギーシュがリュート弾くのが上手い以外は特に楽器を奏でられる面子が居ないわ。 芸人姿のギーシュがリュートをかき鳴らす横で歌ったら、どう見ても漫談か何かよ? マリコルヌがタンバリン叩き始めたら、更に倍率ドンね。」なんといういう嫌なバックバンド…。「フッフッフ…それに関しては、こんなものを用意してみました。」「何となく、どこかで見覚えのある魔法人形(アルヴィーー)だけど、これは何…?」私が取り出した各々が楽器を持った何体もの魔法人形(アルヴィーー)が入った箱を指差し、ルイズが不思議そうに尋ねます。「これは《自奏楽団》という名の魔法人形(アルヴィーー)でして、血を媒介として自動的に歌い手の曲を演奏してくれる便利な魔法工芸品ですよ。」「思い出した…《自奏楽団》って、確かアルビオンが先代の陛下と太后殿下が結婚した時に祝いの品として送ってきた超貴重品じゃない!? 私も子供の頃に一回だけ、動いているのを見た事があるわ。 何で王城の宝物庫の奥に入っている筈の代物がこんな所に…って、姫様ね、考えるまでも無く姫様ね。」ルイズがそう言いながら、頭痛そうに額を押さえています。姫様もあっさり貸してくれる代物では無かったのですがね。「デルフリンガーではありませんが、道具は使ってこそ道具ですし。 姫様にお願いしたら『両親の思い出の品を壊したら、幾らケティでも罰を与えるわよ』とか、脅し文句を言いながら快く貸してくれました。」「流石の姫様でも、流石に貸すのは躊躇うわよね…。」ルイズが少々煤けていますが、姫様も冗談半分でしたし何かあっても何とかなるでしょう…多分何とかなると思います…まあ、ちょっと覚悟はしておきましょう。「ああそうだ、ルイズも歌うのであれば、《自奏楽団》に登録しておきましょう。 死なば諸共…もとい、歌うならばそうした方が良いと思いますよ。 何せ登録しなければ、あの芸人コンビがバックバンドになるわけですし。」「ハァ…選択の余地ゼロよね、それ。」ルイズは深く溜息を吐いたのでした。「きゅい、シルフィもなんかやるの?」青猫のままのシルフィードが、私の肩にとまって訪ねて来ます。ああ、ほっぺにモフモフした毛が、毛が…。「いや、貴方は作戦が始まるまでは、食っちゃ寝して英気を養ってください。 貴方が動き回ると色々な意味でじゃ…目立つので。」「きゅいきゅい、食っちゃ寝は大得意なのね!」近過ぎてシルフィードの顔がよく見えませんが、たぶんドヤ顔ですモフモフ。「ケティの顔が半分くらい猫に埋まってる…。」「なかなか極楽な感触ですよ。」今なら色々な事を許せてしまいそうですモフモフ。「どれどれ…おぉう、モフモフ…。」ルイズが私の肩からシルフィードをヒョイと取り上げ、腕の中に抱っこしています。「何するのね、ピンク?」「モフモフで可愛い、モフモフ…。」そう言うと同時に、ルイズはシルフィードの空にバフンと顔を埋めました。「もひゅもひゅ…。」「うひゃひゃひゃひゃ!?腹に顔を埋めて喋るとくすぐったいのね!止めるのね、きゅいきゅい!?」「もひゅもひゅ…ひやはせ。」ルイズは《モフモフ…幸せ》とか言っているようです。ううむ、姫様の時といいルイズといい、猫形態のシルフィードは完全に縫い包み扱いですね。このフォルヴェルツ号には下向き潜望鏡というものがついています。何でそんなものがあるかと言えば《戦場の霧くん28号》を使うと雲の中に隠れられるのは良いのですが、当然の如くこちらの視界も濃い霧でほぼゼロになるのですよ、コレが。だから下向きの視界確保手段として、下向き潜望鏡という変わった装置がついているわけなのです。「アレがタバサん家か。 ルイズん家より若干でかいな…。」潜望鏡を覗き込む才人の表現が毎度の如く物凄くフランクですが、現在私達は旧オルレアン大公邸上空にいます。さて、どうやって着陸するか…旧オルレアン大公邸は流石大貴族の屋敷というか、船着場として機能する塔があります。 そこにこのフォルヴェルツ号を係留するのが一番楽なのですが、問題は船着場に係留している姿を見られるのはヤバいという事ですね。「コルベールせ…何でコルベール先生までコスプレしているのですか…?」コルベール先生に声をかけたら、そこにはアルビオン空軍の船長服を着込んだコルベール先生がいたのでした。「この船の操船要員は元アルビオン空軍の人間が大半を占めるからね。 船員からこうした方が身が引き締まると言われて、つい…あはは。」「まあ、船員の士気が上がるのであれば、幾らでもそうして頂いて結構ではありますが…船長服を着るなら、もうちょっとキリッとした顔をしていた方が良いのでは?」「うーん、それはなかなか難しい注文だね、あははは。」コルベール先生の顔は基本的にへらへらーっとしていて、機械を語りだすと狂気に満ち満ちていますが、キリッとしている時を見た事がありません。本気で戦っている時とかはキリッとしているのでしょうが、どうにも想像が出来ません。前回キリッとしていた時は、私気絶していましたし。「それは兎に角として、どうやって船着場まで降りるつもりなのですか?」「上手い具合にそろそろ夜だからね。 夜闇に紛れて入港した後、濃い霧で周辺一帯を覆ってしまうつもりだよ。 これで見つかる可能性は最低限で済むだろう。」そんなわけで一時間ほど経った後、私達は無事旧オルレアン大公邸に到着出来ました。出迎えてくれたのは旧大公家の数少ない遺臣たちと…。「…なんで、貴女がこんな所まで出張っちゃっているのですかー!?」「私が来るのが一番有り得ない人選なのは、お父様達にとってもそうだからよ。」タバサと同じ色の髪に、タバサよりも鋭い目をしたタバサよりも数段グラマラスな肢体の少女。そして今はフードを被っている上に髪を下ろしていますが、立派なデコの持ち主。北花壇騎士団長イザベラ・ド・ガリアこと、デコ姫なのです。「…ここに居てよく無事ですね。」私は驚いた後に、声を潜めてイザベラの耳元でコショコショと囁きます。「…大丈夫よ、エポニーヌと名乗っているから。 ここでは《シャルロットたんを愛でる会》に於ける謎の名誉会長エポニーヌなので、そこんとこヨロシク。」イザベラも私の耳元に手を添えて囁き返してきました。何時の間に名誉会長にまで上り詰めたのですか、貴女は…。「…偽名を名乗っても、顔と髪の色でモロバレな気がするのですが?」 「…何故だか、おデコ隠すと誰も気づかないのよね、コレが。 喜んで良いのやら、悲しんで良いのやら…気付かれたら八裂きなのはわかるのだけれどもね。」デコだけが判断基準とか、デコ姫パネェのです。そしてガリア人は、揃いも揃って目が節穴か何かなのですか?「エポニーヌ様、こちらの方々とはお知り合いなのでありましょうか?」「ええ。この方々こそが、ロッテ…シャルロット様の救出と亡命の手伝いに来られた方々ですわ。」『おおっ!?』恐る恐るシャルル派の貴族と思しき男がイザベラに訪ね、イザベラもそれに力強く頷いて見せます。…やりますね、デコ姫。では私達もそれに乗りましょう。「身分と家名は明かせませぬが、我々はシャルロット公女殿下をお救いに参上しました。」私がそう良いながら出来うる限りの優雅さを詰め込んで一礼すると…。「我等は義によりて集った自由なる騎士。」ギーシュが気障っぽく台詞とポーズを決め。「殿下を必ずやお救いし、しかるべき安全な地へとおつれいたします事を約束いたしますわ。」キュルケが豪奢かつ優雅に宣言してポーズをとります。それを見たモンモランシーとマリコルヌも思い思いの気障ったらしいポーズを決め、それに気付いた才人も腕を組んで指を顎に当てて見せました。うーん、マンダム。「おお、これは頼もしい!」「頼みましたぞ、騎士殿!」やんややんやと拍手喝采。アドリブでアピール出来た事が評価されたようですね。ハルケギニアの貴族社会において、ハッタリはとても大事です。わかりやすく自分達は凄いんだとアピールしないといけないという、謙虚さによって質実を表現する日本とは真逆の文化なのです。面倒臭いですが、こればっかりはどうにもなりません。「それではシャルロット様の消息について、我々が集めた情報を説明させていただきますわ。 ここではなんですから、下に降りましょう。」「はい、そうですね。」下に降りると…そこはとんでもない事になっていました。「大災害が通り過ぎた後みたいですね…。」豪華な調度品が粉々だったりひっくり返ったり、何かの彫像がバケツ頭に被っていたりと、兎に角酷い事になっています。「すげえ、ルイズが大暴れした後みたいだ。」「ホント、私が大暴れした後みたいねー…ってオイィ!? 誰が大暴れした後ですってぇ!?」「ぎにゃああああああぁぁぁぁぁ!?」才人がボソッと漏らした一言に、ルイズが流れるようなノリツッコミを入れています。やはりルイズはツッコミですよね、少々過激なツッコミですが。ああ、人生至る所に凄惨有りなのです。「…あれ、大丈夫なの?」イザベラがルイズに折檻と言う名の虐殺行為を加えられている才人を見ながら、私に恐る恐る話しかけてきます。「アレが、アルビオン軍4万をカムランに於いて一人で壊滅させた大英雄ですよ。 たかが1人が加える折檻くらいでは死にません。」「アルビオン軍4万を壊滅させられる大英雄を今壊滅させつつあるあの娘は、いったい何者なんですの…。」上手い事言いますね、イザベラ。「まあ、貴方なら想像はつくでしょう?」「それはまあ、つきますけれども…私に見せても良いんですの?」ルイズは我がトリステインの虚無の使い手ですからね。トリステイン最大の隠し手を投入してきたのですから、イザベラがそう思うのも不思議ではありません。「彼女が来たのはタバサの学友だからというのもありますが、今回の作戦にあの御方がそれだけ乗り気であるという事でもあります。 万難は廃しますし、必ずや救出して見せますよ。」「…言っておくけれども、相手はエルフよ?」イザベラの一言に、場が凍りつきました…まあ、そうですよね。ちなみに凍りついていないのは才人と私だけなのです。「ってことはアレかね、これはエルフの仕業なのかい?」ギーシュが恐る恐るイザベラに訪ねます。「ここで一部始終を見ていた使用人の供述によれば、これらは全てエルフに攻撃したシャルロット様によるものだそうですわ。 ここでシャルロット様は、スクウェアクラスの魔法を使用されたようです。」「恒久的なものかどうかはわかりませんが、彼女は遂にスクウェアクラスに至りましたか。 エルフの反撃は?」勿論私は知っていますが、他のメンバーにも教える必要がありますからね。「シャルロット様の魔法をそのまま弾き返したそうです。 自らの強力な魔法に巻き込まれて、シャルロット様は倒されたとか。 エルフ、恐るべし…ですわ。」「魔法が弾き返される…ですか。」何処までが弾き返されるのでしょうね?魔法だけなのか?それとも、物理現象全体なのか?「そ、そんなのどう相手をすれば良いの?」「そうですねぇ…例えば魔法のみ弾き返すなら、魔法で直接攻撃しなければ良いでしょう。 いっその事、腕力に訴えた方が楽でしょうね。」モンモランシーの問いに私はそう答えながら、才人とルイズを見ます。《LVを上げて物理で殴れ》は、どうにもならない相手への基本的対処法なのです。「…とは言え、タバサは体術も相当なものです。 彼女を倒したという事実から考えるに、そのエルフは体術もかなりのものであると考えた方が良いという事になりますね。」「私程度のにわか体術じゃあ難しそうね…。」ジゼル姉様が傷ついたら、流石の私も冷静ではいられませんので、あんまし出ないで頂きたいのですというか。危険だからついて来るなとか周囲の手前言えませんでしたが、何で何時の間にかついて来ちゃっているのですかという…。「エルフは女の子なのカナ?カナ?」歪みないですね、変態。「いいえ、背の高い男だったそうですわ。」「よし、殺そう。」本当に歪みないですね、変態。「あの巨乳の子みたいに可愛いエルフならいくらシバかれても大歓迎ウエルカムだけど、男とか論外だよ、ガッカリだよ、ガッカリ過ぎるよ。 外れ、スカ、急にやる気が萎んだね、僕ぁ。 そんなわけで踏んで下さい、美しい吊り目のお嬢さん。」跪いて気障ったらしく変態発言をする変態…変態なのに気障。流石はトリステイン貴族というか…。「な、何なの…この人…?」デコ姫もドン引きですよ、この変態。「美しいお嬢さんからの気持ち悪いものを見る蔑みの視線…フオオォ!ミナギッテキター!」「いやー!気持ち悪いー!?」「ありがとうございますありが…あばばばばばばば!?」取り敢えずテイザーガンで黙らせましょう、この変態。マリコルヌはテイザーガンの電極から放たれた電撃で激しく痙攣した後、硬直したまま床に倒れこみました。「ヒ、ヒクヒクいってるけど、大丈夫?」「優しいですね、貴方は。 こんな変態を気遣うだなんて。」「あ、ありが…ブヒ。」倒れたついでに私のスカートの中を覗こうとしたので、靴の裏で目隠しをしておきました。全く…油断も隙も無い…。「白…あぎゃ!?」少し見られた…報復として踏み躙っておきましょう。「しかし、エルフとなると厄介だぜ、相棒。」「ん?何がだよ?」デルフリンガーが才人に話しかけています。マリコルヌを踏み躙りながら、ちょっと聞き耳をたててみましょうか?「あのチビっ子がこんな大魔法を使って敗れたとなると、エルフの中でもかなりの使い手って事なんだよ。 跳ね返したって事から考えるに、そいつが使ったのは先住魔法の《反射》ってやつだ。 こいつは火水風土の精霊全ての力を万遍無く使いこなせる奴じゃないと出来ねえ。」「あー…その前に、先住魔法とか、精霊の力って何?」才人はまず根本的な質問をデルフリンガーにしています。知りませんよね、そりゃ。「おっとっと、こりゃすまねえ! 相棒は、まずそこからだよな。」「おう、まるっきりわからねー!」才人は己が無知である事を理解して認められるという、とても素晴らしい才能を持っています。『無知の知を知る』というのは本当に稀有な才能で、ほぼ天賦の才なのですよ、実は。…認め過ぎていて時々、脳味噌スライムキャラと化しますが。「先住魔法ってのはだな…おい、そこの青猫。」「何なのね、変な剣。」どっちもまともに人の名前呼ばない人外同士が会話始めちゃいました。ちなみにシルフィードは、才人の頭の上に乗っています。色が青いうえに羽が生えているので、喋るくらいじゃもはや誰も突っ込まない不思議生物と化しているのです。「変な剣とは何だ変な剣とは。 偉大なる魔剣デルフリンガー様と呼びやがれ。」「喋る剣とか、普通に変なのね。 だから変な剣でいいのね、きゅいきゅい。」核心を突きますね、シルフィード。「相棒…俺って変な剣か?」「喋る以外はごく普通の剣だな。」「それは全然慰めにならねえぜ、相棒…。」才人は言葉を選んだようですが、デルフリンガーには通じなかったようです。「やっぱり変な剣で良さそうなのね、変な剣。」「このクソガキめが、ちったぁ年上への敬意って奴をだな…ぐぬぬ。」イラッとした声でデルフリンガーが唸ります。「まあいいクソガキ、何か先住魔法使って見せてやれ。」「きゅい、何で?」シルフィードが不思議そうに首を傾げます。「話の流れを読みやがれクソガキ。 相棒に先住魔法ってのを見てもらおうと思ってな。 百聞は一見に如かずって奴だ。」「きゅい、そういう事。 うーん、悩むのね。 風を吹かせる位ならメイジでも出来るし…。」シルフィードは何だかんだで風韻竜ですから、風の精霊の強力な庇護を受けています。私が使える程度の風系統の魔法よりも、余程強力なものを放てるでしょう。別に私達メイジを莫迦にしているのではなく、至極当たり前の事を言っているだけなのです。「きゅい…腹黒娘、シルフィどうすれば良い?」「変身を解いてみてはどうでしょうか? 前回変身した時、男子は全員馬車の外に追い出してからやりましたし。」よく考えれば、あの時に見せておけばよかったのですが、あの時のシルフィードは一度全部服を脱いでスッポンポンになっていましたしね…。「おお、魔法を解くだけなら楽でいいのね。 くるるるるるるる…。」才人の頭から飛び立つと、歌うような鳴き声を…って、拙い!?これドラゴンの言葉を使った先住魔法ですよ。人払いしていないのに、何やっとりますかこの子は!?「あ、ちょ、ま、他の人が!?」「るるるるるるるるるるる…。」シルフィードの体が光に包まれると同時にどんどん大きくなり、幼生といえどかなり大きいその体躯を大広間に現してしまいました。「きゅいきゅい!やっぱり本来の姿が一番なのね!」「何やっとるのですか貴方はー!?」私はスカートの中に忍ばせておいたガンホルダーからベレッタM950を取り出し、一発シルフィードに向けて《パン!》と撃ちました。勿論シルフィードの鱗は幼生でも竜のものですから、ベレッタM950の25ACP弾のような威力の弱い弾など通さずに易々と弾いてしまいます。…とはいえ、通らなくとも痛いものは痛い。人間だとエアガンで撃たれたようなものだと思うので、結構痛い筈です。何で撃つかって?威力の低い弾とは言え、拳銃弾を弾き返すような鱗のある生き物を殴ったら、こっちの手の方が大ダメージを被ってしまいます。つまりこの銃は言わば、対シルフィード用のハリセンみたいなものなのです。「あいたー!? 何するのね!?」「何するのねではありません! どうするのですかー!?」私は周囲を指さします。「ひええええ! 猫の使い魔が風竜になった!?」「何なんだ、一体!?」流石に貴族やその使用人なのでエギンハイム村みたいに風竜を見ただけで一目散に逃げ散ったりはしませんが、あんまりな自体に恐慌状態寸前なのは間違いないのですよ…。「きゅい…忘れてたのね。」 『キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!?』罰が悪そうにシルフィードが言うと同時に、大広間が恐慌状態になりました。キメラ化した使い魔なら兎に角、風竜が喋るだなんて思いもしませんからね。「腹黒娘、何とかして欲しいのね。」「何とか出来るならしてますよ…。」出来るわけがないでしょう。どうするのですか、これ。「静かになさい!」その時、大広間に凛とした声が響き渡ります。途端に喧騒が嘘みたいにピタリと止んだのでした。「この風竜は、シャルロット様の使い魔であるシルフィードです! シャルロット様は伝説の風韻竜を使い魔となされたのですわ! 我らが誉れとすべきであるのに、それを恐れるなど何たる不敬か!」流石は王族というか何と言うか、イザベラの大喝によってシャルル・シャルロット派の面々は落ち着きを取り戻したのでした。シルフィードの存在なんて殆ど知る者がいませんから、少々無茶な論理で喋っていますけれども、今のイザベラには無茶を勢いで押し切れるだけの迫力があります。「シャルロット様の使い魔!?」「しかも、伝説の韻竜であるというのか!?」おお、流れがスパッと正反対に。ちゃんとしていればカリスマがありますね、彼女。もしもの時はイザベラが女王でもイケそうなのです。「きゅい、いかにも伝説の風韻竜とはシルフィの事であるのね! お姉…じゃなくて、シャルロット様の使い魔として崇め奉るがよい。 具体的に言うと肉持ってくるのね、シルフィは牛が食べたいです、きゅいきゅい。」開き直って、イザベラの話に乗りますかシルフィード。機転が利くようになって結構なのです。ついでに何とか好物の牛肉を手に入れようとしていますが…まあ、それが限界ですよね。「シャルロット様が風韻竜を使い魔とされていたとは!」「使い魔とはすなわちメイジの格を示すもの。 風韻竜を召喚なされたという事は、すなわちシャルロット様のメイジとしての稀有な才能を示すものである!」「まさに王者に相応しい!シャルロット様万歳!」シャルル派かシャルロット派かは知りませんが、貴族たちが盛り上がります。…いやまあ、メイジとして優秀なら王として優秀であるや否やといえば、全然関係は無いのですが。個人として強けりゃ王として優秀なら、三国志の覇王は呂布なのですよ。とは言え、彼らの盛り上がりにわざわざ水を差すのも面倒ですし、放って置きましょう。ちなみにタバサは王として優秀であるや否やですが、つつがなく王としての責務はこなせるレベルにあるとは思います。それ以上は流石にわかりません、やってみないと。姫様みたいな例もありますしね。「…話が大幅に逸れちまったが、今のがエルフや韻竜が使う《先住魔法》って奴だ。 あのクソガキ程度でも、メイジが使うフェイスチェンジの魔法よりも余程高度で強力な魔法が使える。」「何でだ? どっちも魔法だろ?」才人の物言いは大雑把ではありますが、大雑把だと感じるのは私がメイジという魔法の専門家の端くれだからなのですよね。「うーん、そうさな…例えばだ、飽く迄も例えばだが。 相棒と娘っ子の関係に例えてみる。」「俺とルイズの?」「わたしと才人の?」デルフリンガーは才人とルイズに例えますか、さて?「おう。何度も言うが、言って置くが、例えだからな? この話はフィクションであり、実在の人物団体とは一切関係ありませんと前置きしておく。 例えば相棒があんましやりたくない仕事があったとする。 しかし娘っ子はその仕事をどうしても相棒にやってもらいたい。 そういう仕事だとする。」「そこはかとない不安を感じるけど、前提条件は理解した。 それで?」「娘っ子は相棒に仕事をさせる為に二つの方法がある。 一つ目は娘っ子が直接相棒の手足を動かして、働かせる方法だ。 この場合、相棒はやる気ゼロだが、働いているように見える。」「見えるだけじゃねーか…。 言ってみれば、マリオネットみたいなもんだろ?」「その表現いただき、その通りだ。 実際は娘っ子の腕力だけだな。 相棒は働いているように見えるが、本当は自ら働いているわけじゃない。 これが、メイジが使っている魔法って奴だ。 魔力で精霊に干渉し無理矢理動かして、現象を発生させている。」実際、現象をイメージしながら魔法を使っていますからね、私達メイジは。魔力で事象に無理矢理干渉する魔法が、私達の魔法なのです。得意な属性というのは、干渉が得意な属性という事になります。「では先住魔法とは何か? 先ほどと同じく相棒はあんましやる気がないわけだが、娘っ子は自らの腕力で直接相棒を動かす以外の方法を使う。 ご褒美をあげるから、働いてくれと話を持ちかけるんだ。 相棒はご褒美目当てに自ら働く事になる。 これが先住魔法。」「ご褒美?」「ああ、ご褒美は魔力だな。 メイジの魔法では魔力は操り人形の操り糸だったが、これを先住魔法ではご褒美に出来るんだ。 ご褒美にはご飯を食べる権利とか最低限のものから、パイタッチだったりキスだったりと相棒が悶絶して喜びそうなハイクラスのものまで用意してあって、時と場合に応じて先住魔法の使い手は精霊と契約し代償を支払って魔法を使うんだよ。」「おいおい、俺はいいけどルイズが怒るぞ?」「ななななな、何でわたしがサイトに胸触らせたりキスさせたりさせなきゃいけないのよ!?」「ほら。」ルイズが顔を真っ赤にして、拳を光らせ始めました。才人は自分が対象では無いので、涼しい顔なのです。「怒るな!だから、何度も何度も例え話だっつってるだろ!」「しゃー!」「ルイズ、どうどう、どうどう…。 ほらほら、飴ちゃんあげますから期限直して。」私はそう言いながら、怒り狂うルイズの口の中にミルク味のソフトキャンディを放り込みました。「んぅ!? おぉう、これは美味しい…ころころ。」「落ち着いたら、もう一個あげます。」「うん、落ち着く…ころころ。」さすがはママの味、怒り狂った王蟲みたいなルイズでも落ち着きますね。「こういう例え以外に、上手い例えが思い浮かばねえんだよ、勘弁してくれ。 兎に角だ、相棒に操り糸垂らして無理矢理動かすのと、ご褒美があるからとはいえ相棒が自らの意思で動くのと、さてどちらがキチンと動く?」「自分で動いた方が効率が良いな。」 「そういう事。 メイジの魔法は飽く迄も無理矢理動かしているに過ぎない。 時々そこの金髪グルグル巻きの娘っ子みたいに、気づかずに先住魔法使っている者もいるけどな。」デルフリンガーの一言と共に、全員の視線がモンモランシーに集中しました。「え?ええ?私、先住魔法なんて使っていないわよ!?」モンモランシーは、慌ててそれを否定します。ええと、急に私の知らない展開になったのですが?「いや、使ってるから。 金髪グルグル娘の家は代々使ってるから。 じゃないとラグドリアン湖の水の精霊と話なんか出来ないから。 精霊との契約って、すなわち先住魔法だから。」「いや、あれはうちの秘伝の魔法で…。」「それが先住魔法だっつってるの。 精霊と契約する魔法はすなわち先住魔法なの。 つーかね、お前さんの血からは微かにエルフの匂いがするんだわ。 たぶんお前さんの家の初代はエルフだぜ? しかも、統領クラスの超強力なエルフだった筈だ。 あんなにはっきりと意思を表示出来る強力極まりない精霊に、子々孫々に至るまでの強固な契約を結ぶ事が出来たんだからな。」デルフリンガーが謎の特技を…と、それよりもモンモランシーです。「い、いや、私耳尖がって無いけど…。」「6000年も人間に混ざっていれば、そりゃあ姿形は完全に人間になるだろうさ。 もう既に、血を介さないと精霊との契約が覚束なくなっちまってはいるが、お前さんに先住魔法が使える先祖がいたのは間違いねえよ。 現にお前さんが精霊と契約出来るんだからな。」混乱するモンモランシーに、デルフリンガーは更に畳み掛けます。「まあまあモンモランシー、初代がエルフだろうが良いではありませんか。 そのおかげで代々ラグドリアン湖の精霊との仲介役を仰せつかってきたのですし。」「ま、まあ確かにそうではあるのだけれどもね、びっくりしたわ。 でも、そうなんだ…じゃあ、私がエルフと結婚すれば、モンモランシ家の力は昔並みに戻るという事なのかしら。」「も、モンモランシぃ!?」モンモランシーの一言に、ギーシュが悲鳴のような声を上げています。「戻るでしょうね。 ですがその選択をエルフの特徴がまだ残っていた頃のモンモランシ家の人間が考えなかった筈が無いのですよ。」「出来るわけがないわよね、ここまで敵対している状況じゃあ。 まあ、益体もない話だから、これはこのくらいにしておくわ。 だから安心して、ギーシュ?」「あ、うん、僕ぁ信じていたよ、我が麗しき蝶モンモランシー。」モンモランシーの言葉に、ギーシュはホッと胸を撫で下ろしたのでした。先祖にエルフがいても、ギーシュの気持ちには些かの変化も無かったようですね。良かったのです。「ああ、また話が脱線しちまった…。 兎に角だ、メイジの魔法は無理矢理精霊を動かす。 先住魔法は精霊に報酬を支払って自ら動いてもらう。 だからメイジの魔法に比べても、より少ない魔力でより強力な魔法を使えるんだ。 あのクソガキでも、変身魔法が使えるわけはここらにある。」「なるほどな…。」シルフィードは完全にクソガキで固定ですか、デルフリンガー。いやまあクソガキというのは、まこともって同感なのですが。「…で、この館であのチビっ子と戦ったのは、エルフの中でも屈指の使い手ってこった。 チビっ子相手の時はかなり舐めていたみたいだが、本気にさせたら何が出てくるかわからんぜ?」「だからどうした。 相手がどんなに強かろうが、知った事かよ。」飄々とした表情のまま、才人はそう言い放ちました。「俺はタバサを助けるって決めた。 あいつには何度も助けて貰っているし、何より文字を教わっている最中だしな。 恩はきちんと返さないと、寝起きが悪くならぁ。」「だから、それはわたしが教えるって言っているのに…。」ルイズはちょっと不満そうなのです。「いやだって、お前になにか教わったら、教わっている時間の半分以上俺はぶっ飛ばされて宙を舞っているわけだが…?」「わたしはお母様にそうやってモノを教わったのよ、文句あんの?」毎度毎度思いますが、何をやっているのですか烈風カリン様…。「あちらは放っておいて…エポニーヌ様、タバサとその母君が何処に連れて行かれたのか、ご存知でしょうか?」ギャーギャーやっている連中は放って置かないと、話が進みません…。「ええ、さる筋から確たる情報を入手出来ましたわ。 シャルロット様達が幽閉されているのは、ガリア南部のアーハンブラ城。 多大なる犠牲を払ってエルフから取り戻した地に建つ、エルフが作りし城。 そこにお二人は居られます。」そう言って、イザベラは私にここからアーハンブラ城までの距離と方角を示した書類を渡してくれました。彼女が直に持ってきた情報とか、頼もし過ぎるのですよ。「私は…私はこれ以上動く事が出来ませぬ。 どうかシャルロット様を…ロッテをお助け下さい…お願いです。」立場は人を雁字搦めにし、呪いのように縛り付けます。彼女にはタバサ以外にも、色々と守らねばならない人達が居るのでしょう。「大丈夫、大丈夫です。 タバサは、シャルロットは必ず救って見せます。 ご安心なさって下さい。」私はイザベラを抱きしめると、安心して貰うために耳元でそう囁きました。己が動く事が、敵にとって一番の計算外であると彼女は言いましたが、それ以上に動きたくて動きたてしょうが無いのでしょう。彼女にとっては、彼女自身よりも大事な大事な従妹なのですから。これから向かうはアーハンブラ城。さて…一応いくつか対策は立てましたが、果たして通じるのやら?