警告:物語が色々と片付いた後の時系列にあるお話です。 でもネタバレはだいたいありません。 無いというか、ネタバレするほどの厚みも重みもありません。 そして、未来がこういう形になるという保証もありません。 どう見ても警告になっていません。本当に有難うございます。「ここがマックール・ハンバーガーね?」ルイズが派手な看板を見ながら、店の前で仁王立ち。「いや、そんな身構えるほどの店じゃねえから…。」そんなルイズに才人がツッコんでいます。現在私達が居るのは、日本の東京は秋葉原にあるハンバーガーショップの前。何で秋葉原かというと、ここにハルケギニアと地球を結ぶ世界扉と在日本トリステイン大使館があるからです。何でか知りませんが、この秋葉原でしか固定化タイプの世界扉が安定しないのですよね…。大使館と言っても、ビルの一室を借りただけの簡素なものなのですが、現在私はこちらで駐日全権大使をやらされています。日本語ペラペラのトリステイン人が、私しかいないという理由で。日本にしか、しかも秘密裏にしか承認されていないとは言え、超重要ポストに…田舎に戻ってパウル達の手伝いするつもりが、どうしてこうなった。「才人の言う通り庶民が気軽に来る店ですから、そんな身構えなくても良いですよ、ルイズ。」「いやでも、派手よこの店、派手派手よ。 なんかぴかぴか。」「ピカピカしているのは、この店に限った話では無いではありませんか。」「それはそうだけど…お祭りみたいに人が多いし、何度来ても色々と凄いわねこの国。」ルイズは感心した面持ちで街を見回しています。マックール・ハンバーガー、略してマック。マックールなので、大阪の人もマック。略称の東西争いが無さそうで何よりなのです。私の元居た世界ではマクドナルドで略してマックだったのですが、先祖の名前がドナルドじゃなくてクールだったのでしょうか…?何となくですが、創業者の先祖に若いころはイケメンだったけど、年取ってから若い後妻迎えたらあっさり浮気されて逃げられた人が居そうな気がします。まあそれは兎に角として、今日この店にやってきた理由ですが…。「どうでも良いから、てりやきバーガー食おうぜ!」才人がどうしてもてりやきバーガーが食べたくなったとかで、私のところに。虚無で何処ででも世界扉を開けられるルイズが居るのに何で私の所にやって来るかと言えば、大使館でしか円とトリステインのお金の交換が出来ないからです。日本のハンバーガーショップで銅貨とか使えませんし。「本当に好きなのですね、てりやきバーガー。」私は嫌いではありませんが、ベタつくので積極的に食べたいかといわれると否です。「おう!ところで仕事はいいのか?」「うちの大使館は8時半始業で17時半終業です。」保護すべき在外邦人とか居ませんし。交渉するのも日本政府と日本政府に紹介された企業だけと、まだまだ暇なのです。大使と言われて私が出てくると侮られるのですが、侮られるおかげで相手が隙だらけになって弱み掴みやすくて仕事が超やりやすいのですよ、ホホホホホホ…。え?何の企業を紹介して貰っているか、ですか?それは…秘密です。「うお、超お役所仕事。」「お役所ですから~。 ま、急ぎの用事があるなら携帯に一報貰うようにしてありますし。」ネットに携帯がある生活は、本当に便利です。いやー、前世の私は良い生活していたものですよ、ホント。「んじゃ、並ぼうぜー。」「行列に並ぶというのも久し振りなのです。」私たちはカウンターから並ぶ列の最後尾に並びました。夕飯時なので、それなりの行列は出来ています。まあマックなので、飽く迄もそれなりではありますが。「後、才人は席があるかどうか偵察に。 無ければテイクアウトで大使館まで持って帰ります。」「うぃーっす。 んじゃ行って来る。」晩御飯時も、手軽な夕食を求めに結構人が集まりますしね。行列が出来ているくらいですから、座る場所が無い可能性は十分にあります。トレイを持ったまま座る場所が無くてうろつくくらい寂しい事も無いですし。「久しぶりって、ケティはこういう店に来ないの?」ルイズが不思議そうに尋ねて来ます。「日中は大使館にいるか、出先ですからね。 幸い大使館には業務用の厨房が設置してあるので、私が作っています。」大使閣下の料理人ならぬ、大使閣下が料理人…まあ、大したものは作れないのですがね。「へえ、どんなの作ってるの?」「青椒肉絲とか、酢豚とか、豚ニラ炒めとか、麻婆豆腐とか…。」「何処の料理よ…。」「この国の隣の中国っていう国風の料理ですね。」中国人がいうには日本の中華料理はかなりジャパナイズされているとか。ちなみに今日の昼ごはんは中華料理ではなくてオムライス。流行りのフワフワのではない、ケチャップライスを薄焼き卵で包んだもので、他の大使館メンバーの評判も上々でした。皆、何だかわからないながらも、そこそこ美味しい料理に舌鼓を打ってくれています。ブリミル教で禁忌の食べ物っていったら人くらいですし、食べられないのはソイレント・グリーンくらいでしょう。いや、ありませんけどね、ソイレント・グリーン。「ええと…何で、そんな料理知ってるの?」「この国には料理の工程を事細かく書き記した料理本というものが存在しまして。 それを読みながら料理すれば、よほど不器用でもなければ料理が作れちゃうという寸法なのです。」私がルイズにレシピ本の説明をしている間、周囲から『あの子見て見て、凄い可愛い』とか、『喋ってるのフランス語かな?フランスの芸能人かなんか?可愛い』とか、ルイズを見た人がなんか言っているのが聞こえてきます。そうでしょう、そうでしょう、ルイズ可愛いですよね。『隣の子も地味だけど可愛くね?地味だけど』とか、『あの地味な子もちょっと狸っぽいけど可愛いな、地味可愛い、地味だからマネージャー?』とか、私を見ながら地味地味狸とやかましいですねブチ殺しますよ。才人?才人は一見普通の日本人なので、完全スルーされてますね。居なくなった時は秋葉原のど真ん中で突如鏡のようなものに吸い込まれ消えた高校生として、大ニュースになったらしいですが。「才人の国の言葉ペラペラどころか文字も読めるものね。」「そういう事です。」いやまあ実際、こっちの世界に来てから覚えた料理ですしね。…と、こんな感じで待っていたら行列が進み、私たちの番が来ました。「いらっしゃいませ、ご注文をどうぞ。」「えーと、てりやきバーガーを一つ。 ルイズはどうしますか?」しかしルイズは首を傾げています。「ええとね、メニューが読めないのだけれども?」「ですよねー。」そうでした、ルイズは日本語が読めません。「サイトと同じもので良いわ。」「チャレンジャーですね…。」才人は好きだから頼んだみたいですが、はっきり言って食べづらいですよアレ。「サイトが食べられるんだから、大丈夫でしょ。 ケティはどうするの?」「私はもう決めてあります。」この前頼んだら意外とイケたアレにしましょう。「訂正します。 てりやきバーガーのセット2つと、チキンクリスプのセット1つ。 飲み物は全部オレンジジュースで。」才人が帰ってきませんし、取り敢えず飲み物は無難にオレンジジュースで。「はい、かしこまりました。 食べていかれますか、それともお持ち帰りされますか?」「えーと…。」店の奥を見てみると、才人が出てきて腕で大きく×の字を表示しました。 「…持ち帰りで。」ギリギリでしたが、ナイスです才人。そんなこんなで店から出たわけですが…。「ハロー、ちょっと良いかな、僕こういう者なんだけど…。」出た途端にどこかの芸能プロダクションのスカウトに遭遇。ルイズの美貌は目立ちますからね、運悪く発見されてしまったのでしょう。何より髪の毛がピンクブロンドで、こっちの世界じゃ滅茶苦茶派手ですし。「Non. Je ne peux pas parler japonais.」 すかさず日本語話せないフリで対応です。私たちはあまり目立つ事は出来ませんし、無視してしまうに限ります。「いや、キミさっきマックの店員と日本語で話してたでしょ? そっちの娘は話せないみたいだけど。」ちっ…聞いてやがりましたか。「Casse toi(消えろボケ).」とは言え話すのは嫌なので、にっこりとそう言ってあげました。「何語?英語じゃないみたいだから、フランス語?」」英語じゃないからフランス語というのもなんだかなぁですが、大体あってるのが何ともアレですね。いやま、フランス語じゃなくて、フランス語に死ぬほどそっくりなトリステイン語なのですが。「そこまで拒絶しないでよ。 君達ならアイドルになれるかなーって思ってさ。 ほら知ってるでしょ、アイドルグループのGPU53。」なんですかそのロシア・ソビエト連邦社会主義共和国内務人民委員部附属国家政治局みたいな名前のアイドルグループは。いやまあ、ラジオとかで時々聞く名前ではありますが。「私達は非常に急いでいるのですが?」このままだとフライドポテトが湿気ってしまうという大惨事が…。「ふぃ~、ようやく人ごみから抜け出せた…って、どうしたんだ、ケティ? 誰この人?」「スカウトなのですよ。 アイドルのプロダクションらしいですが…。」ルイズに目をつけるのはわかりますが、ルイズは日本語まるで出来ませんよ。「何がどうしたのよ? こっちの言葉全然わかんないから、何がなにやらさっぱりよ。」って、トリステイン語で言ってますし。「アイドルのスカウトだと。」「アイドルのスカウトって、何?」才人の説明に首を傾げるルイズ。いやまあ、わかりませんよね。トリステインはショービジネスとか全然未発達ですし。「あー…何ていうかな…ケティ、任せた。」「アレコレ省いて簡単に申し上げますと、女衒(ぜげん)の類です。」「つまり、殴って良いという事ね。」ルイズがポキポキ指を鳴らし始めます…あいやー、簡単に言い過ぎましたか?「ルイズ、この国では基本的に暴力沙汰はNGなので、やめて下さい。」「ちぇ~。」「拗ねない拗ねない。 こういう件で拗ねても可愛くありませ…いや、可愛いですけど。 兎に角、駄目なものは駄目です…才人。」私がそう言うと、才人が私たちとスカウトの前にぐっと割り込んできます。男ですし、ハルケギニアに居る間に何だかんだで鍛えられたので、武器無しでもちょっとやそっとでやられはしません。随分と心強くなったものです。「お兄さんお兄さん、この2人に声かけるのはよした方がいいぜ。」「何だよあんた、この子達の関係者?」才人はスカウトにそう言うと、肩をポンポンと叩きます。「ああ、そんなモン。 で、もう一度言うけど、この2人には声をかけるのはよした方がいい。 俺の心からの忠告。」才人はそう言いながら凄んで見せます。才人なりの『交渉』の仕方がわかってきたようで、何よりなのです。いち領主たるもの交渉ごとの一つや二つ、当たり前に出来なくては始まりませんからね。「あ、あんたには関係無いだろ。」「あんたの問いに、さっきそんなモンって応えただろ? 関係あるから関係者って言うんだよ。 名刺は貰っといてあげるからさ、気が向いたら電話するかもってことで、ここは引いてくれない?」この言い方なら、スカウトのメンツも立ちますが、さて?「う…わ、わかったよ。 これが俺の名刺。」「こりゃどうも。 じゃあもう行って良いよな? このままじゃあてりやきバーガーのバンズがしけっちまう。 そうなったらアンタへの、俺の怒りが頂天に達するってもんだ。 そういう不幸な事は避けたいだろ。」スカウトが差し出した名刺を才人は受け取ってから、笑顔でそう言い歩き出します。「ルイズ、ケティ、行こうぜ。」「はい。 じゃあ行きましょうか、ルイズ。」「う、うん。」そんなこんなでマックでてりやきバーガーとチキンクリスプを手に入れた私達は、大使館に戻ったのでした。「おお…久々だぜてりやきバーガー。 日本に帰ってきた気がする。」「故郷の味と言うには、ちとアメリカンですけどね…。」てりやきバーガーは日本だけのメニューらしいですけど、ハンバーガー自体がアメリカンな食べ物ですし。さて、ポテトはどうなっているでしょう?「やっぱりポテトがしけってるー!」「そっちのが大事なのか、ケティには。」てりやきバーガーの包みを開けながら、呆れたような口調で才人が私に言います。しけっている方が好きという人も居ますが、私はポテトはサクサクこんがり揚げたて派。「値段的に大した事が無いとはいえ、揚げたてが食べたいのは人情というものですよっ!」「椅子から立ち上がって語るほどのものでもないと思うけど、モグモグ。」てりやきバーガーを少しずつ齧りながら、ルイズもそう言います。「ああ、わかっていない…我が同志は何処へ。」「モグモグ…そういうオーバーアクションなところは、やっぱしケティもトリステイン貴族なんだなと安心する一瞬ね。」ヨヨヨとよろけた私に、ルイズの情け容赦無い言葉が突き刺さります。いやまあ、トリステイン貴族はいちいちオーバーアクションな気はしますが。「…で、そのポテト要らないなら貰うけど、良いか?」「いや、しけったポテトは油をひかない中華鍋で煎ってあげれば、表面の水分が飛んでおおむねカリカリに戻ります。」私のポテトを奪おうとした才人の手からポテトを取り返し、厨房へ行って中華鍋を取り出します。そして中華鍋に火をかけ、ポテトを投入して強火でササッと煎り、お皿に盛りました。「おお、確かにカリッとしている方が美味しいわね!」「確かにこっちのが美味いよな。」「私が食べる前に食べるとか酷い!?」中華鍋を片付けている最中に、ルイズと才人がカリカリと食べ始めています。「ええい、没収!」私はそう言いながら、ルイズと才人のポテトを取り上げました。「何すんだ(すんのよ)!?」「そんなに煎ったポテトが良いなら、こっちも煎っちゃいます!」私は二人がまだあまり手を付けていなかったポテトを取り上げ、中華鍋に投入しました。「はい出来上がり!」そして、出来上がったポテトをお皿の上に更に盛ります。ついでにソース代わりにマヨネーズとケチャップを半々で混ぜて小皿に盛ってみたり。「これは?」「ポテト用の特製ソースです。」結構イケるのですよね、このソース。「へー…どれどれ?」才人が試しにとばかり、ポテトを1つ摘んでソースにつけて食べます。「ケチャップの酸味がマヨネーズでまろやかになっていて、結構イケるなこれ。」「そうでしょう、そうでしょう。」ちなみにこのケチャップマヨソース、唐揚げとかにも使えます。え?知ってる?そんな莫迦な…。「…で、そのチキンクリスプいらないならくれ。」「ポテトに時間かけちゃいましたけど、食べないとは一言も言ってませんよ。」才人の言葉にそう返しながら、私はチキンクリスプの包みを開けます。「喰ったこと無いけど、どういう食い物なんだ、それ?」「チキンパティと言う名の大きなチキンナゲットとレタスをマスタード入りのマヨネーズと一緒にバンズで挟んだものです。 シンプルながらもサクサクカリカリモフモフの食感とスパイシーな味を味わえます。」100円で美味しいというのが良い、ジャンクフードは安物に限ります。うーん、カリカリした食感とモフモフのバンズの絶妙なズレっぷりがたまりません。「うう、てりやき2つにしてくれるように言っておけば良かったぜ…腹に足りそうにねえ。」「取り敢えずポテト食べてから考えましょうか。 ほんとうに足りないなら、冷蔵庫に入っているもので何か軽く一品作りますから。」しかし、救国の英雄と王位継承権第1位と大使が集まって、もそもそジャンクフード食べているとか、他人には見せられない感じなのですね。「しかしこれ…。」口にテリヤキソースをつけたルイズが、ボソリとつぶやきます。「…姫様が喜びそうね。」「いや、別に姫様は手軽に食べられると仕事が捗るからジャンクフードを好んでいるだけで、ジャンクフードそのものが大好きというわけでは…。」普通に美味しい料理の方が好きだと思いますよ、ええ。「そういや姫様はこっちの世界に来た事が無いんだっけ?」「一度来て欲しいものですが、何時になる事やら。」立憲君主制という政体も一度見てみたいと言っていましたし、そのうち来るのでしょうが。とは言え、現在のこの国は総理がコロコロ入れ替わりますし、それを利点と思うかどうか…この国の官僚システムは欲しがるでしょうけれども。まだまだ小さい国だから、議会が要らないっちゃ要らないのですけれどもね、実際。「才人の生まれたこの国は、色々と美味しい物いっぱいなのにね~。」「一度、長期休暇を取って貰うことにしないと駄目ですね。 最近じゃ太った鶏とか呼ばれるようになったマザリーニ殿のダイエットも兼ねて。」アレじゃあ逆に健康に良くないですし、1ヶ月くらい姫様にも休暇をとってもらって、その間に激務で痩せてもらいましょう。姫様は一度、人間ドックで徹底的に体の調子を調べて貰う必要もありそうですし。問題は、あのワーカホリック娘をどうやって机から引き剥がすか、ですが。「やれやれ、問題の種は尽きず、なのです。」チキンクリスプを食べつつ、私は深い溜息を吐いたのでした。