ここは河原。
「一つ積んでは母のため」
そこで、人は石を積む。
「二つ積んでは母のため」
それが供養と言われつつ。
「三つ積んでは母の――」
それが、賽の河原。
「このマザコン野郎っ!!」
「いてぁっ!!」
ああ、石の山が崩された。
いや、マザコンじゃないぞ?
俺と鬼と賽の河原と。
ここは所謂三途の川。
英語風に言うと、
「スァンズ リヴァー」
「なにそれ」
一応、地獄の三丁目、らしいよ?
「サンズって、英語じゃないなぁ」
「誰に言ってるの?」
そして俺は如意ヶ嶽 薬師と言う。
にょいがだけ、やくし。
嗚呼、厳ついね。
ああ、が嗚呼になってるのは、まあいいか。
「うん? 誰にって? さて、誰だと思う? 前さん」
「あたしに聞かれても困るよ」
更に俺の前にいる、角つきで、赤いストライプをのトレーナーを着ているものの三倍じゃないのが――、
前。
まえ、ではなく、さき、と読む。
お「まえ」さん、なんて呼んだら怒られた。
気に入ってるんだけどな。
「なあ、おまえさん?」
「怒るよ?」
ほら、怒られた。
「そういうの、怒ってるって言うと思うんだがね?」
そう、そうそう。
前さんは何を隠そう鬼だ。
赤く長い腰までの髪とちょこんと出た角が可愛い、
「ろりっ子」
って言ったら怒られる。
「なんか言った?」
注意だ。
「いや」
彼女は、今日はジーパンにトレーナー、らしい。
普段は若草っぽい和服とかだけど。
うん。
まあ、これはこれでいいか。
「で、崩しに来たん?」
俺が尋ねると、前さんは肯いた。
「うん。もう崩れてるけど」
そう言って前さんが指さした地面を見る。
そこには医師が散乱。
じゃなくて石が散乱。
「おーけいおーけい。じゃ、積み直そうか」
そう言って、俺は一から石を集め直す。
何故こんなことになってるかっつーと、ここが賽の河原だから。
「ま、わかってるとは思うけど。説明する俺ってやっさしいね」
賽の河原、ってのは親より先に死んだ奴が来るとこ。
「誰に? 何を? やさしい?」
で、そいつらは、石で塔を完成させると供養になるってかんじで、塔を作る。
「うお、そんなこと聞かれた。俺は優しいよ? もう、ゆぅぅぁあすぁぁぁあすぅいいいいってくらい」
まあ、規定では百八つ。
なんかえらい人が決めたとか。
で、百八つ積み上げると、なんかあれらしい、現世に帰れる。
うん、俺が生前聞いてたのと違うのは、何故か現世に帰れるってのと後百八つの規定?
あとは……、そう、ぶっちゃけ、親より後に死んだ奴とかもいるのと、メインが親への供養じゃなくて、地獄の霊達の供養ってとこか。
うん、なんかね、地獄も霊で溢れ返っちゃってるらしいんだよね。
それで、まあ、基本的に霊ってのは負の属性なせいで定期的に供養してやんなきゃいけないんだけど、人手が足らんわ今時は現世の供養は足らんわで、
ここに賽の河原で働くアルバイターがいるのである。
で、前さんは、バイターではなく正社員?の一人。
積み上げる石を崩す役目。
何すんの、って思うかもしれないけど、時間を掛けたら供養にならんらしい。
だから、五分きっかりで崩しにくる。
ご苦労さまだ。
「ご苦労さま」
「なにさ」
「いや?」
で、まあよく徒労とか報われないとか言われる賽の河原だけど、実はそうでもない。
五分で崩れるけど、
積み上げの世界記録は四十八秒。
そいつは清々しい笑顔で現世に戻ったとか。
あとは、こう、積み上げにもいろいろあって、高得点な積み上げかたとかね。
一列にくみ上げる登り龍とか。
綺麗に山形に作る富士山とか。
更に言うなら、
「そういや、給料出たから今日は帰り飲み屋で食ってこうと思うんだが、前さんもどうだい?」
給金があったり。
「あたしゃ今日は無理だね。奢ってくれるなら明日にでも」
鬼と仲良かったり。
「おっけ、じゃ、明日な。しゃーねぇ、今日は真っ直ぐ寮に帰るか」
寮とかあったり。
「気が早いね、まだ、後三時間ぐらいあるよ」
定時で帰れたり。
「へいへい、じゃ、また五分後?」
五分ごとに鬼さんとだべれるから退屈しなかったり。
「うん、じゃ、また後で」
「おう、じゃ頑張って積みますか」
そんなこんなで、住めば都、地獄の三丁目。
俺は今日も楽しく石を積んでいます。
――――――
はじめまして、あにふた、とか言います。
とりあえず、ほのぼの賽の河原ラブコメ、のようです。
ゆるゆるとやっていきます。
注意として。
この小説は仏教の地獄とか、その他もろもろを参考にしていますが――、拡大解釈とか、オリジナルな設定とか、がんがん入ってますので本気にすると恥かいちゃいますよ?
と言う、ちょ、おま、知ったかぶりもいいところだな、と言う言葉を回避するための逃げ腰。