1992年5月18日09:12 中華人民共和国 黒竜江省依安 北方10km
日本帝国陸軍 大陸派遣軍第3機甲軍団 第21師団防衛線 第33戦術機甲連隊 第332大隊 第22中隊
≪CPよりウィスキー・スクォードロン(W-Sq・第22中隊)、敵前衛は防衛線前方10kmを進撃中。前衛速度は100km/h。
本隊は15km地点・60km/h。 前衛接敵時間は6分後、0918。敵本隊接敵時刻は15分後、0927。 前衛は突撃級・要撃級混成が約1000。戦車級他、約4000。本隊は約1万5000。
尚、重光線級、光線級は確認されず。繰り返す、重光線級、光線級は確認されず。 1分後、師団砲兵旅団による制圧砲撃開始。オーヴァー。≫
CPからの戦域情報が聞こえる。着任した最初も思ったけど、やっぱり綺麗な、落ち着いたいい声だな、宮城雪緒中尉の声は・・・ 美人ってのは、声まで美人だな・・・
『ウィスキー01よりCP、戦域情報を確認した。』
途端に、ウィスキー01、中隊長の渡良瀬大吾大尉の濁声に代わる。あぁ、もう、折角の良い気分が・・・
『ウィスキー01よりオールハンズ。聞いての通りだ、厄介な糞目玉共はハイブでお休み中だ。 前衛は全部喰い尽すぞ。
敵本隊とのタイムラグは9分。制圧砲撃で結構削れるはずだ。
9分間で残飯を片づけろ!いいなっ!』
『05。01。自分は育ちが良いもンで。早飯は行儀が悪いって田舎の婆様に『02。 05。阿呆』・・・』
『05、貴様の育ちが良いのなら、うちの中隊は皆、紳士・淑女の集まりだ。』
『06。05。一番食い意地の張った奴が、何ほざいてるのよ。』
『うぅ・・・ 小隊長、部下のグラス・ハートになんちゅうつっこみを・・・ それと、水嶋ぁ、オドレに言われとうないわっ!』
05・第2小隊の木伏一平少尉のボケに、すかさず02・第2小隊長の安芸信次中尉と、06・第3中隊の水嶋美弥少尉がツッコミを入れる。
いつも通りの遣り取り。いつも通りの顔・顔・顔・・・ 違うのは、目の前の光景はJIVESとは違う、「実戦」だと言うことだ。
ウィスキー11・第2小隊の新任衛士である周防直衛少尉は、改めてその「現実」を認識し、無意識に喉を鳴らした。
「死の8分」 新任衛士が直面する、最初の、そして最大の難関。
自分は果して、越えられるのか。BETAと対峙した瞬間、何も出来なくなってしまうのではないだろうか。果たして正気を保ったまま、戦えるだろうか。
一瞬にして様々な想いが脳裏をよぎる。全てがネガティヴ。全てが自信の無さ。操縦スティックを握る両手が微かに震える。
『08。11。直衛君? 緊張しすぎ?大丈夫?』
08・第2小隊3番機・先任の綾森祥子少尉が通信回線から問いかけてきた。
切れ長の一重の瞳と、艶やかなロングヘアをアップに纏めている。
クールビューティ、といった感であるが、実際は気配りの細やかな、面倒見の良い女性衛士。
着任当初から、気がつけばつい眼で追ってしまう、自分的には実に困った女性。
つまりは「一目惚れ」か・・・ 未だ18歳、まだまだ全てに未熟だった。
もっとも、向こうにとってはどうも「手の掛る弟」並みの認識のようだったが。
『11。08。大丈夫です。ご心配無く。』 何がご心配無く、だ。ご心配だらけだってのに。
でも、だからこそ、虚勢を張ってみせる。いや、張り続けてみせる。せめて・・・
『おぉ!?11。一端にツッパッとるなぁ? せや、08。このデイリ(喧嘩)終わったらな、11の突っ張ったモン、お世話したってや。
なんせ、まだまだ若造にもならん、童貞小僧やしなぁ! お前さんも、えろう可愛いがっとるやろ?』
ぎゃははっ、と木伏少尉が下品な笑い声を(発言もだが)上げる。
(こっ、この人はっ・・・!!)
着任以来、散々玩具にされてきたが、こんな時まで・・・ 同時に、その言葉で余計に綾森少尉を意識してしまう。
『08。05。プライベートですので、お答えできかねます。私も、周防少尉も。』
『あら?祥子。だったら、私が貰っちゃおうっかなぁ? 新任クンの、お・は・つ。』
いきなり06・水嶋少尉が、爆弾発言をする。 流石は、木伏少尉の同期生。厚顔さにおいては中隊のツートップ・・・
『美弥さん?貴女まで何を・・・』
『よーしっ、楽しい与太はそこまでだ。そろそろ砲撃開始。各員、耐衝撃姿勢!』
01よりの指示が飛ぶ。強化装備のヴィジュアル・クロックを見ると0912:45。砲撃開始15秒前。
機体姿勢をニーリング・ポジション(片膝を立てた膝射姿勢)にする。突っ立ったままよりはまし、ではあるが。
ふと、先任たちの馬鹿な与太話を聞いているうちに、先ほどの至って後ろ向きな想いが何処かに行ってしまっていることに気づく。
≪CPよりウィスキーSq。制圧砲撃開始5秒前・4・3・2・1・ファイヤ・ナウ!≫
雷鳴。 師団砲兵旅団の155mm、127mm、105mm砲が、MPMS(Multi‐Purpose MissileSystem)が、一斉に砲弾と誘導弾の豪雨を作り出す。
後方より振動を伴った音の大波が押し寄せてくる。次の瞬間、前方8000mほどの上空に特大の花火が出現した。そして連鎖する。
VT付キャニスター砲弾・焼夷榴弾。小型種は大抵これで掃除できる。
戦車級や闘士級などは無数の灼熱したボール弾や高速で降り注ぐ鋭利な破片に切り刻まれ、焼夷弾の高熱の炎に焼き尽くされる。
各種徹甲弾はその貫通力で、大型種の突撃級・要撃級を特大のミンチに変えていく。
直撃を食らった要撃級の体に特大の穴が開く。同時に衝撃波が体内を巡り、圧力膨張でその体が弾け散った。
装甲殻上面を射貫された突撃級が一瞬、大地に縫い付けられたようにつんのめる。
そこに後続が衝突。続けて飛来する砲弾に纏めて射貫される。
一方的な殺戮劇。何故人類が今現在、これほどの苦戦を強いられているのか、この光景を見る限りは理解に苦しむだろう。
初めて戦場を見る周防直衛少尉も、無意識にそう考えていた。
『光線属種がおらんだけ、今日は楽できるかいな・・・』
不意に05・木伏少尉がつぶやいた。
『全く確認されていないのも、解せないが・・・少なくとも今現在はお休み中らしい。有難い事にな。』
『であれば、少なくとも中隊前面のBETA群には、対処できそうですね。』
02・安芸中尉と08・綾森少尉が同意する。
そうだ、人類の戦略・戦術的優位性を根本から剥ぎ取った元凶、戦場での戦闘行動に著しく制限をかける忌まわしい存在。
それが光線属種。それが今はいない。それだけで、戦局はかなり有利に展開できるはずだ。
≪CPよりウィスキーSq。制圧砲撃終了10秒前。敵前衛残存は約42% 中隊担当戦域のBETA数、約430 接敵まで後20秒≫
『01より各機戦闘態勢・ウェッジ2! 02、03奴らの鼻先50を維持し続けろ!』
『『了解』』
地響きとともに轟音が大きくなる。腹の底から震えが来るのを、周防直衛は自覚した。
何の目的があってこの星に侵攻したのか全く不明。そもそも、意志さえ有るかもわからない。
一方的な破壊と殺戮のための存在意義・BETA。それが―――姿を現した。
「―――――ッ!!」 思わず、息をのむ。
『ウィスキー!アタック・ナウッ!』 01・渡良瀬大尉が攻撃開始を命令する。
『02。05、08強襲前衛(ストライク・バンガード)に出ろっ!11、強襲掃討(ガン・スイープ)!』
『『『了解!』』』
第2小隊(突撃前衛小隊)4機が菱形陣形(ダイヤモンド・フォーメーション)で突進する。
その両翼に第1(右翼迎撃後衛)、第3(左翼迎撃後衛)各小隊が三角陣形(トライアングル・フォーメーション)で続く。
水平噴射移動(サーフェイシング)で異形の軍団に向かう12機のF-4EJ「撃震」。
相対距離がぐんぐん詰まる。 残り、100・・80・・
『射撃開始っ!』 01の裂帛が各機に響く。
「くっ・・・うおおおおぉ・・・!!」
周防直衛は、87式突撃砲のトリガーを、雄叫びとともに引き絞った。
高速で吐き出される36mmHVAP弾が、戦車級・闘士級と言った小型種を弾け飛ばしていく。
「っそおおおぉ!死ねっ!死ねっ!死ねっ!」
無我夢中で、前方に射弾を吐き続ける。瞬く間に、36mm砲弾の残弾数が減っていく。
『05!11! 阿呆っ! 前よう見て撃ったらんかいっ!IFF鵜呑みにすんなや!?』
05が右翼前面の要撃級の上腕を半旋回機動で交わしつつ、120mmAPCBCHE弾を胴体に叩き込む。
『08。11。直衛君、君は強襲掃討よ。前に出すぎちゃ、ダメ。』
08が身近な戦車級を急速反転機動で交わしながら36mmを叩き込む。
同時に左翼の戦車級の一群に120mmキャニスター弾を叩き込み、纏めて吹き飛ばす。
『02。11。 08の言うとおり、貴様の役目は前3機の食いこぼしの掃除と、両翼のサポートだ! 間違っても俺達を誤射する事じゃないぞ?』
02が前面の突撃級の脚節に120mmHESH弾を叩き込む。突撃級は片側の脚を根こそぎ吹き飛ばされ、横転する。
「―――っ!11、了解っ・・・!」
情けない。全く見えていなかった。状況が。気がつけば、喚きながら乱射していただけなんて。
それに、BETAとの相対距離は40! 前に出すぎだっ!
自分が前に出すぎた結果、02、05、08も前進するしかなかった。特に02は30を割っているっ!!
『01より各機、距離が詰まりすぎた。左側後方へ旋回移動する。距離は<50>だっ!』
『『『了解』』』
暗に中隊長からの叱責が飛ぶ。 悔しさと恥ずかしさと、情けなさでまた、気分が沈みそうになる。
『05。11。なんやったら、代わったろかぁ~? 結構喰い甲斐あんで? んで、俺様が後ろで優し~く、フォローしたるさかい、なっ!?』
水平旋回機動中、またぞろ05が与太を始める。
『08。11。05の与太に付き合ってちゃだめよ?しっかり目を開けて、ね?』
左側方移動のため、一時的にTOPの位置にいる綾森少尉が諭す。
同時に両手の36mmをBETA群に射撃。
『なんでやねんっ!ワイが後ろやったらあかんのかいなっ! それと、えっらい扱い違ゃうやないか?』
右翼2列になった木伏少尉が、納得のいかない顔で抗議する。
突撃級の側面装甲殻に120mmを叩き込みながら。
『新任の指導は、先任の役目です。 それと、木伏少尉が後ろですと、私、非常に貞操の危機を、ひしひしと感じますから・・・』
『ひ、ひどい・・・ワシ、もうあかんわ・・・・って――――――うっぎゃああぁっ!!』
05の右側面に、急速方向転換した要撃級が迫っていた。
そのモース硬度15に匹敵する上腕が振り被られ、正に05の機体を右側面から破壊しようとしていた。
その瞬間、要撃級の体が弾け飛んだ。
『あはは、木伏、今の悲鳴は良かったねぇ?んん?』
06・打撃支援(ラッシュガード)の水嶋少尉が87式支援突撃砲の狙撃で間一髪、要撃級を仕留めたのだった。
『はぁ、はぁ、み、水嶋、サンキューや。助かったわ、ホンマ・・・』
『何時気づくか、見てたんだけどねぇ、与太に夢中で周り見えてないなんて、アンタ、新任クンじゃあるまいし・・・』
『見とったんかいっ!』
『うん。』
『ほなら、さっさと助けぇやっ!』
『え~~?だって、面白そうだしぃ・・・』
『こ・このアマ・・・絶対お○す・・・』
先任の余裕か、変わらず与太を飛ばしつつ、05はBETAの前衛を削り倒していく。
06も的確な支援攻撃で、前衛をサポートし続ける。
(・・・・参った・・・)
そんな姿を、呆れと畏怖と憧憬とが入り混じった感情で見ながら、周防直衛は先程よりはマシな精神状態でBETAを攻撃していた。
変わらず、興奮はしている。喉はカラカラだ。さっきからやけに尿意も覚える。
だけど、少しは周りが見えるようになっている。
02が36mmで小型種を掃射している。だが数が多い。一群が02の機体に肉薄する。
このままでは「取り付かれて」しまう。
突撃砲2門を僅かに左右に振りながら、02に迫る戦車級の一群に向け36mmを浴びせかける。
「ビシャ」という音が聞こえるかのように、BETAが弾け飛ぶ。
「―――ッ!」 05が突撃級の側面に120mmを打ち込もうとしている。
だが、その左前方から要撃級が迫る。
02は前面の突撃級撃破にかかっている。支援の余裕はない。
08は戦車級の掃討で手が回らない。
支援の第1、第3小隊も、後続の大型種への攻撃で手が一杯だった。
「ちっ!」
自分の位置からでは、120mmを打ち込んでも頑丈な上腕でブロックされる。
何とか、側面を確保しないと・・・
水平噴射跳躍(ホライゾナルブースト)をかける。一瞬、Gで体がシートに押し付けられる。
進路上の小型種を120mmキャニスターで掃討。空いたスペースに着地。網膜アイコンの兵装コマンドで、120mmAPCBCHE弾を選択。
05に迫る要撃級の右側面前方を確保。この間、5秒。
ロックオン・120mm発射。要撃級の右側面上体に射孔が空く。
同時に05が120mmAPFSDS弾で突撃級の前面装甲殻に大穴を開ける。
地響きを立てて倒れる突撃級と要撃級。
『05。11。おおきにっ! 気ぃつけやっ!前方、要撃級3体!』
『10、FOX1!』『12、FOX3!』
10・第1小隊制圧支援(ブラストガード)仁科龍太少尉と、12・第3小隊制圧支援の伊達愛姫(いつき)少尉が支援攻撃を行う。
多弾頭ミサイルの直撃で、3体の要撃級が弾け飛んだ。
『01よりウィスキー各機。戦闘開始より8分、敵前衛はあらかた片付いた。 次の本隊迎撃に備える。各自機体のステータスチェック!』
01・渡良瀬大尉の指示が飛ぶ。
(ステータスチェック・・・機体、異状なし。跳躍ユニット、異状なし。推進剤残量72%。
36mm残弾、右689発、左671発。予備弾倉4本、消費弾倉4本。予備突撃砲2門、弾倉装着済み。近接戦闘短刀2本・・・)
信じられなかった。丁度8分。「死の8分」 越えたのか?本当に?無傷で?
『02。11。丁度8分だったな。良くやった。その調子で次の大波も乗り切って見せろ。』
『05。11。ご褒美に中尉が「良いところ」連れてってくれるって。』
「・・・・は?いいところ・・・?」
良いところって?え?どこだ?
『06。11。初心ねぇ~。おねぇさん、益々狙っちゃおっかなぁ?』
『05。06。あきまへんなぁ。どのぞのアバズレの毒牙に掛かる後輩は見過ごせへんっちゅーか・・・』
『・・・・コロス』『うひっ!?』
『08。05、06。いい加減にして下さい、お二人とも。 11、その調子よ。頑張ってね。』
「11。02、08。了解。有難うございます。」
安芸中尉の発破は心地良かったし、綾森少尉の気遣いは嬉しかった。
本当は木伏少尉と水嶋少尉の与太も、自分(と、後一人の同期の新任)の緊張を解す為だ。
それには気づいている。 だから木伏・水嶋両少尉の「気遣い」も嬉しかった。
素直に口にするのは、何故かちょっと癪だったが・・・
『あぁ~あ、「お姉さま」のお出ましかぁ。んじゃ、「悪い女」は影でこっそり狙ってよっと。』
あははっ、と、見た目は爽やかな、その実、全く不穏な発言をする06・水嶋少尉。
あかん、どないしよ、あいつに狙われたら道頓堀(って、どこだ?)に沈められるわ・・・
等とぶつぶつ呟いている05・木伏少尉。
≪CPよりウィスキーSq。現在師団砲兵、及び軍砲兵任務群第3群が制圧射撃中。BETAの進撃速度低下。
接敵予定時刻は10分後、0937。推定個体数、1万3000。≫
『ウィスキー01よりCP。戦域情報確認。 各機、今の内に補給を行え。
コンテナは後方500m。第3小隊から、第1、第2の順だ。』
『02了解。』『03了解。』
01・渡良瀬大尉の補給指示に、02・安芸中尉と、03・第3小隊長の志貴野瑞穂中尉が応答する。
補給に各小隊2分。計6分。再配置に2分。大丈夫だ、余裕は有る。
制圧砲撃には、師団砲兵旅団だけでなく、軍の砲兵任務群も参加したようだ。
となると、最大口径の砲は203mm。数も威力も段違いだ。BETA本隊は結構削れるんじゃないか?
周防直衛少尉は、補給を受けながら、ふとそんなことを考えていた。
師団砲兵旅団の制圧砲撃でさえ、敵前衛を58%も削り取った。
現在のBETA本体は約1万3千。 軍砲兵任務群も加わった集中豪雨のような面制圧射撃を、いったいどの位のBETAがくぐり抜けられるだろう。
ひょっとすると、前衛迎撃の時よりマシになるんじゃないか?
淡い期待、或いは甘い願望かも知れない。
だが、未だ初陣の彼には、そういった「妄想」に縋ることでどうにか「戦場の幕間」を耐えていた。
『12。11。終わったよ。次、どうぞ。』
12・第3小隊の同期生、伊達愛姫少尉が回線から現れた。
この戦場に数多いる、初陣の新任少尉達。その中で、同じ中隊に配属された少女。
最も、訓練校は別だった。彼女は仙台第1、周防直衛少尉は各務原と違っていた為、配属先が初対面だったが。
「おう、了解。」
補給といっても、推進剤を3割程と、予備弾倉2本のみで済む。
『・・・ねぇ、君。随分とお姉様方に人気よね?もう「落とし」ちゃったの?』
いきなり、秘匿回線なんぞ使ってとんでもない事を言いやがった。
「はぁ!?何言ってんの?お前・・・」
『だってさ。祥子さんって、随分世話焼いているようだし。ウチの水嶋少尉も何だかんだで、だし?
それに、第1小隊の有美さんや、郁美さん、ウチの小隊長だって、「良い子ねぇ」なぁ~んてさっ この「年上殺し」・・・』
・・・・え~、っと・・・「有美さん」ってのは、第1小隊の強襲掃討やっている、村越有美少尉で、確か2期上。
木伏少尉達の同期生だったはず・・・ ショートカットの、活動的な美人、と言うか・・・
「郁美さん」は・・・やっぱり第1小隊の砲撃支援(インパクトガード)をやっている、佐伯郁美少尉で・・・
確か、祥子さんとは同期生で1期上。違った意味でお淑やかと言うか、お嬢様っぽい人で。
ついでにおかっぱ(いや、ボブ、と言うのか?)の美人だったりする。
祥子さんとは仲が良いんだよな、あの人・・・
で、「ウチの小隊長」ってのは、第3小隊長の志貴野瑞穂中尉の事で。
どんな時にも動じない、冷静な人で。怜悧な美人。ついでに一部のコアな連中から人気が高いとか・・・
あ、ついでに水嶋少尉も、中身はともかく見た目は美人だな、うん。
・・・・え~~~っと?つまり・・・??
『11、12。秘匿回線で何お話し中だ?』
不意に、第1小隊の仁科龍太少尉と、第3小隊の藤原賢吾少尉が通信に割込んできた。
『何だ、周防。貴様、同期も「落とそう」ってか?』
にやりと藤原少尉が笑う。 仁科少尉も、何だか嫌な感じで笑っている。
因みに2人とも、祥子さんや佐伯少尉の同期で、俺達の1期上だ。
「何ですか、その「落とす」ってのはっ! 俺、そんな事してませんって。」
『えぇ~~?でも、皆狙ってるよう「黙れ」だし・・・・』
くっくっ、と仁科少尉が笑いを噛みしめる。何?この人・・・
『ま、男の新任だしな。基地に帰ってからのお楽しみにしておけ。』
藤原少尉が訳の解らない事をのたまう。
何なんだ、全く・・・ 少しばかりのイラつきとともに、帰投後に嫌な予感がもたげる。
「藤原少尉、その、お楽しみって何『08。11。補給は完了したの?』・・・」
祥子さん、もとい、綾森少尉が少々眉間に皺を寄せている。 あ、ヤバい。
「11。08。推進剤、弾薬、補給完了です。」
『そう。じゃ、ポジションに戻りましょう。後1分しかないわ。・・・・・それと、仁科少尉、藤原少尉。
同性の後任が入ってきて嬉しいのは判るけど、余り変な風に染めないでね?』
『了~~解』『むっ・・・別に変な風になど・・・』
藤原少尉が器用に仁科少尉の「撃震」を引きずっていく。戦術機は確かに人の動きは大抵できるものだと言うが・・・
『直衛君?』
「あ、はい。ポジションに復帰します。」
『ええ』
前衛に戻る08、11を見ながら、12こと私、伊達愛姫少尉は思った。
「やっぱり年下好み?姉さん女房志願なの?綾森少尉って・・・」
周りはBETAの死骸だらけ。きっとすごい悪臭だろう。地獄ね。
けど、ウィスキー中隊の雰囲気は微妙に微妙だった・・・