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No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
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[7678] 帝国編 幕間
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/12/25 04:22
1996年12月25日 1830 東京 日比谷公会堂


帝都交響楽団の年末コンサートが有る。 
年明け最初は必ず帝都で行われるが、年末は東京で公演するのが慣例になっているらしい。


「でも、ちょっと意外。 直衛にクラシックコンサートへ誘われるなんて」

隣で祥子が含み笑いしている。 意外で悪うございました。

「あ、拗ねた」

「拗ねてないって。 良いじゃないか、折角休みが重なったんだし。 部屋でゴロゴロしているよりはさ?」

年末休暇を2人して重なって取る事が出来た。 それぞれ実家に顔を出したりしていたが、この日デートに誘った訳だ。

「にしても、良くチケットが取れたわね? 人気なのに」

「種を明かせば、大隊長から譲って貰ったんだ。 
広江少佐は、今は技術開発廠に居る河惣少佐から貰ったらしいけど。 年末休暇は夫婦揃って育児に専念するからって」

「そうなの? じゃ、年が明けたらお礼を言っておかないと。 でも、ちょっと新鮮よね、クリスマスって。 あまり馴染み無かったし」

―――そうか。 帝国じゃ、あまり馴染みが薄いよな、クリスマス自体。

93年は英国で祝った。 94年はN.Yでパーティに出たのだった。 95年は・・・ 思い出したくない、アラスカのプレハブの中で凍えていたよな。


「そう、国連軍時代に・・・ じゃ、クラシックもその頃に?」

最近、彼女は俺の国連軍時代の頃を良く聞きたがる。
自分の知らない頃の俺の事を知りたいのだろうか。 俺もその頃の彼女の事は知りたいけれど。
でも全部話せる訳でもないし、ちょっと思い出すと気持ちがへこむ事も有ったから、所々しか話していないけど。

「クラシック自体は少しだけ。 当時の部隊長や先任で好きな人がいたから」

アルトマイエル大尉や、オベール大尉はクラシックの愛好家だった。
ギュゼルや翠華なんかは一緒に良く聞いていたが、俺やファビオは良く逃げ回っていたな。
N.Yでは一度誘われて、ニューヨークフィルの公演を聴きにコンサートホールに足を運んだ事が有ったっけな。

「ふふ、楽しみ。 ワクワクするわね」

本当に嬉しそうに、頬を上気させて笑っている。 
誘って良かったな。 最近、公私共に暗い話題も多かったし、祥子にも心配かけていたみたいだったし。

今日のプログラムはウォルフガンク・アマデウス・モーツァルトか。 
うん、何度か聞いた事が有るぞ。 正直、演奏も感想も忘れたけど・・・

さて、そろそろ開演時間が近い。 席につくとしようか。










「だから、今夜の愁眉はピアノ協奏曲の第20番と第25番なのよ」

「でも。 編曲って原曲から金管楽器もティンパニも除いているから、なんとなく物足りない、って良く言われるわよ? みちる姉ちゃん」

「判って無いわよ、まりか! 今夜の肝はフルートよ。 編曲は原曲のイメージを損なわない事が必ずしも重要ではないわ。
原曲の管楽パートを全てフルートが肩代わりしているのよ、素晴らしい名脇役ぶりだったわ」

「じゃ、今夜の主役はお母さんなの? みちるちゃん?」

「そうよ、あきら。 お母さんのフルート演奏あってこそ、あの調和よ。 
『編曲ものは所詮贋物である』なんてこき下ろす自称・知識人なんて多いけれど。
お金と権力と世間の柵に右往左往して、正当な価値も見出せなくなった馬鹿は置いておいて。 
私たちは面白いものは面白いと、美しいものは美しいと言えばいいのよ」

「どうしたの? 今夜はやけに興奮しているわね? みちる?」



公演が終わってロビーに出ると、すぐ傍で公演批評・・・ いや、大絶賛している声が聞こえた。
確かに、専門的な事は判らない俺だが、今夜の演奏はジーンときた。

「熱心な娘達ね。 姉妹かしら?」

祥子もちょっと関心を持ったようだ。 夢心地の様な潤んだ瞳が艶っぽい。

改めてみると、3人は私服だが、1人は軍服だった。 通常礼装だろう、冬服に白手袋を着用している。 これは俺も祥子も同じだったが。
違うのは、向うは国連軍の軍服だと言う事。 珍しいな。 国内で、日本人の国連軍将兵なんて。

「直衛も国連軍だったじゃない?」

「俺は欧州出向組だったから。 だから国内には殆どいなかった・・・ あれ?」

見覚えが有る。 その国連軍の軍服を着用した少尉―――女性少尉―――の顔に、見覚えが。

「・・・直衛?」

「ちょっと待った、祥子さん。 やましい事じゃないから。 誤解だから、その目は勘弁して・・・」

祥子が訝しげなジト目で見ている。 種を明かせば、欧州時代に翠華が有る事無い事、手紙に書いていたらしい。 あの、小悪魔め!!
向うもこちらに気がついたらしい。 最初訝しげに、次に驚いて(そんなに露骨に驚かなくても・・・)

「教官!? 周防教官ですか!?」

「ああ、久しぶりだな。 伊隅訓練生・・・ じゃないな。 任官したんだ、失礼した。 伊隅少尉、久しぶりだ」

数か月前まで、戦術機操縦を教えていた相手だった。 今は訓練校を卒業して少尉に任官していた。

「こちらこそ、ご無沙汰しております。 ―――昇進、おめでとうございます。 大尉殿」

「ん・・・ ああ、紹介しよう。 こちらは同僚の綾森祥子大尉。 ―――こちらは以前の教え子だった伊隅みちる少尉、今は―――国連軍だ」

「帝国陸軍大尉、綾森祥子です」

「はっ! 国連軍、伊隅みちる少尉で有ります、大尉殿!」

他の3人は伊隅の姉妹―――姉と、2人の妹さん達だと紹介された。
驚いた事に、帝都交響楽団の指揮者が彼女達の御父君で、フルート奏者が御母堂だと言う。
―――世の中、狭いね。

何時までも立ち話も何なので、失礼する事にしたが。 最後に一つだけ聞いてみた。

「伊隅。 初陣はまだか?」

「は? あ、はい」

「神宮司中尉の事、未だに恨んでいるか?」

「・・・正直申しますと、その通りです」

「うん、そうか。 ―――初陣、生き抜く事が出来たらな。 もう一度、神宮司中尉に会ってやってくれ」

それだけ言うと、祥子と外に歩き出た。 ―――伊隅は訝しげだったが。







「そう言えば6月から少しの間、訓練校の教官をしていたわね。 その頃の?」

「うん」

6月の上旬に欧州から戻って来た後。 数カ月は極東軍―――太平洋方面軍所属かと思っていたら、いきなり帝国軍に復帰となったのだった。
驚きに追い打ちをかけるように、昨年新設された衛士訓練校―――横浜白陵基地内―――で、戦術機課程の専任教官をやれとの命令だった。

既に国連軍時代、教官経験のある圭介は慣れたものだったが、俺と久賀は戸惑ったものだ。
教官と言っても、俺達は戦術機課程の専任教官。 つまり戦術機の操縦を教える事に専念すればいい立場だったが。
期指導官(佐官クラス)や、指導官附教官(中尉クラス)は他に人が配置されていたから。

「何か変な訓練校だったよ。 少数精鋭にも程が有る、俺が教えたのは1期生だけど、全部で2個訓練小隊しかいなかった。 24人だよ。
期指導官は何処かの誰かが兼務だったらしくて、遂に姿を見なかったな。 指導官附教官は神宮司中尉、俺の1期下なんだけど」

「神宮司? 神宮司まりも中尉?」

「知っているのかい?」

意外だった。 どこで接点が有ったのかな? 案外、派遣軍絡みか? 神宮司も派遣軍で大陸の戦線で戦っていたしな。

「94年11月の、『大陸打通作戦』での南部防衛戦でね、一緒の独混大隊だったわ。
あの後、富士教導団に移ったと聞いていたのだけれど。 何時の間に訓練校の教官になったのかしら?」

―――教導団に、教官配置。 何気に、エリートコース乗っかって無いか? 神宮司は・・・

「そう、美園や仁科に聞かせたら喜ぶわね、同期なのだし。 愛姫ちゃんも、何かとお世話焼いていたみたいだったし」

愛姫が? ―――お節介じゃなくて?

「もう! すぐ、そう言う憎まれ口を言うのね! 彼女はあれで、世話好きの良い娘よ?」

ヤブヘビだ。 そう言えば祥子は新任当時から愛姫を可愛がっていたな。

「いや、別にそんな事じゃ。 ―――あいつは、信頼できる戦友だし、信用できる親友だよ」

「ちゃんと、本人にそう言ってあげれば良いのに」

「照れくさい」

「もう!」


暫く無言で、2人して夜道を歩いていたが。
ふと、祥子が聞いてきた。

「ね、それでさっきの・・・ 伊隅少尉に言っていた事だけど?」

ああ、その事か。

「あいつら1期生は、神宮司を憎んでいたからな」

「・・・どうして?」

でうして? 訓練内容が苛烈に過ぎたからだ。
俺達の訓練生時代が温かった訳じゃない、かなり苛烈な訓練だった。 それでも、横浜では行き過ぎだと感じる事が度々あった。

しかし、期全体の訓練・指導方針を決定する権限は、指導官附教官である神宮司の職掌範囲だった。 
俺達はただの専任教官。 言ってみれば雇われ屋さん。 分掌以外に対して口は挟めても、決定権は無かった。

戦術機課程では、俺と圭介、久賀と神宮司が各々、1個訓練分隊(6名)を手分けして訓練したが。
全体方針を決定するのは神宮司で、その苛烈さに戦場帰りの俺達でさえ躊躇した程だ。 何度、彼女に方針の見直しを打診した事か。

それでも神宮司中尉は、『それが訓練生達の為です!』と言って方針を変えなかった。

そんな矢先、彼女が直接指導する訓練分隊で事故が発生した。 訓練生のミスで戦術機が大破。 搭乗していた訓練生は死亡した。

その直後に発した神宮司中尉の言葉に、伊隅達が激怒したのだったが。
その夜、代表で伊隅が神宮司の教官室を訪れ―――ぶん殴る気満々だったようだが―――逆にボコボコになっているのを俺達が目撃して。
いや、あの時は引き剥がすのに苦労したな。 圭介なんか、間違って神宮司の拳をモロに喰らったし。

取りあえず伊隅を医務室に放り込んで。 その後、久賀が訓練生一同を集めて叱責と鉄拳を喰らわして。
俺と圭介(青痣になっていた、あれは悪いが笑った)とで、神宮司を落ち着かせて―――話を聞いて。 
いや、彼女の胸中を聞いている内に、何とも言えなくなってしまった。

「そうね・・・ 彼女、大陸では『狂犬』と呼ばれていたわ」

「・・・訓練生も、『狂犬』って呼んでいたな」

難しいものだな。 訓練生の事を考えると、過酷な訓練も彼らの為ではあるのだけどな。

「圭介なんかは、『オンとオフの切り替えが下手な奴だ』なんて言っていたが。 ・・・ああ、あいつは国連軍時代に教官経験が有るから。
四六時中締め付けるんじゃ無く、オフの時も必要なんだけどな。 神宮司は根が真面目だからな・・・」

「本当は、根の優しい娘だと思うわ。 訓練生の事を本当に大切に思うからこそ、なのでしょうけど・・・」

遣り切れないな。 だからさっき、伊隅には初陣を切り抜けたら再び、神宮司に会いに行けと言ったのだ。
判るだろう、伊隅も。 あの時の神宮司の涙ながらの絶叫の意味を。

所属組織が違うから、もう会う事は無いかもしれない。 だけど、少しでも関わった相手だからか、気にかかったのだ。


「・・・何だかんだで、本当に女の子には甘いんだから」

「祥子さん? さっきからしきりに誤解していませんかね? いや、わざとだろ? 絶対、わざとだ!」

「じゃ、相手が男だったら?」

「ぶん殴って判らせて、お終い」

「ほら! やっぱり!!」

他愛無い言い合いをしながら、道を歩く。 すれ違った人々が何事かと振り向いていた。
当然か。 軍の将校が2人、言い争いながら歩いているんだから。

ふと、頬に冷たい感触を覚えた。 見てみると―――雪だ。 夜空から雪が降っている。

「雪・・・ ね」

「ああ」

ユーラシアがBETAに喰い荒らされ、昨今では日本の冬の平均気温はかなり下がっている。
北極からの寒気団が、まともに襲いかかってくるようになったのだ。 真冬に大雪など、この10年で珍しくはない。


即物的な事象はいい。 この際、脇に置いておくとしよう。
ふと、欧州で聞いた言葉が浮かんだ。


「―――ホワイトクリスマスだな」









同日 京都 神楽邸


―――こうして、実家で雪見とは何年振りだろうか。

降り積もった雪が、月明かりに照らされて白銀の様に映る。
少し寒いが、まあよかろう。 月明かりに誘われて、雪見で一献。 これはこれで風流だ。
自室の障子を開け放って、廊下に出て中坪(中庭)に積もった雪を楽しんでいる。

大陸でも、駐屯地でも。 終ぞ雪見などする暇も無かった。 
大勢で騒ぐのも悪くはないが、やはり私は独り静かに飲む方が性に合う。
供は冷やの清酒に一皿の味噌。 ・・・紬だけでは少し寒いな、うち掛けをもう一枚羽織るか。


無心になって眺めていたら、ふと対の廊下を渡る人影が目に入った。
色鮮やかで暖かな色調の京小紋を着込んでいる。 雰囲気もそれに見合った穏やかな雰囲気を醸し出す女性が。

「緋色」

私の姿を認めて、微笑んで声をかけてきた。 私そっくりの顔立ち。―――双子の姉、緋紗だ。

「緋色、寒くはないの? こんな所で・・・」

静かに私の横に座って、微笑みかけてくる。 人柄の良い姉であるが―――この笑みは苦手だ。

「・・・北満州に比べれば、冬の京など暖かなものだ」

「そう・・・」

しばしの沈黙。 それをいい事に、私は独り酒を楽しんだ。


「昨日の話・・・ どうしても受けてはくれませんか? 緋色?」

「緋紗、くどい。 私は帝国陸軍軍人だ、今更ながら斯衛に転籍する意思はない」

「個人的な事を申せば。 私は緋色のやりたいように、生きたいように、そう思っているわ。
でも、父上も母上も。 一族の者達も皆、緋色の斯衛への転籍を望んで・・・「建前は良い、緋紗」・・・」

どうせ、叔父御達が緋紗を遣わしたのであろう。 全く、姑息な手を遣う年寄衆だ。

「今になって、外聞が悪くなったか? 他の譜代衆から嫌味でも?」 

我が神楽家は代々、煌武院の中老職を勤めあげた譜代の臣が家系。
時が移り、最早武家として独立するも、旧主への忠義には厚いと自他ともに認める一族。
その家から、将軍家や摂家を守護する斯衛ではなく、昨今関係が怪しくなってきた帝国軍に在籍する者がいる。
しかも、その者は本家直系の娘と来た。 一族も他の譜代武家の目を気にしていると言う事か。

「ならば、受け流せばよかろう? 私は『忌み児』だ。 本来ならば、今こうしてお前と話している事も無いのだぞ? 緋紗・・・」

言ってしまってから、少し後悔した。 姉の顔を見て―――寂しく笑う、全ての恨み事も甘受するかの如くの、その寂しい笑いを見て。
姉のせいではない。 私と姉が引き離されて育ったのは、姉のせいではない。

「―――すまぬ、言い過ぎた。 許して欲しい、姉上」

「貴女が、『姉上』などと言う時は。 何時も自嘲の時ばかり。 悪い癖ですよ? 緋色・・・」

全く、旧主への忠義も程々にしろと言いたい。
生まれたばかりの私が、他家に養女へ出されたのも。 これ全て旧主への忠義立ての証と慣例化した、家のならいの為だ。
お陰で私は12の年まで実家を知らずに育った。

いや、その方が良かったのかもしれない。
決して大店と言う訳ではないが、そこそこ繁盛していた商家の長女として育てられた。
養父母は優しく、慈愛に満ちた人達だった。 7つの時に産まれた妹は―――義妹は愛らしい子だった。
幼かった私の世界は、光り輝いていた。

13の年、実家の使いと言う者が現れ、私は『家族』と引き離された。 
5つになっていた義妹の泣き叫ぶ声が今も思い出せる。

「それ以来―――個人家庭教師に、武道の稽古に。 今にして思えば、あれは斯衛へ入れる為の下準備だったか。
が、逆効果だったな。 私は内心嫌で、嫌で堪らなかった。 私の意志など無関係で押し付けてくる屋敷の者達。
無関心な父上。 ご自身の腹の子ではないとはいえ、冷淡な母上。 
我等の生みの母が、心労が祟って産後の肥立ちが悪く、直ぐに他界したと聞いた事も有ったのでな」

「緋色・・・」

「思えば私は幸せであったか。 幸せな幼少の頃を過ごせた。 
如何に我等が妾腹とは言え、母上のあの冷淡さでは、緋紗の苦労に比べればな・・・」

「緋色、話が・・・」

「父上も、父上だ。 家にはとんと寄りつかぬ。 いくら家同士が決めた夫婦とは言え、あれでは流石に母上も、我らが弟御も気の毒だな」

「緋色!」

緋紗の目が真剣だった。 何かを思いつめる様な・・・

「御屋形様が、ご心配なさっておられるわ」

―――御屋形様? 煌武院の大殿、政威大将軍殿下が何を?

「殿様(煌武院家嫡子)のご容態、捗々しからず。 余命は最早・・・ 残るは嫡孫の悠陽様、御一人。
しかし未だ御歳13、しかも御一門衆(煌武院分家衆)には擁立どころか、廃嫡せんと画策する動きも」

―――そうであろうな。 世継ぎの世子が重篤。 その子供は13歳の姫が御一人。
摂家の常ならば、かの姫は他家へ嫁がせ。 一門衆から然るべき者を養子に入れようと画策するであろうな。
御屋形様がその楯になっておられると言う訳か。 ならば一門衆、とりわけ聖護、青蓮、大覚煌武院の3家。
尋常の手段は選ばぬであろうな。 聖護、青蓮は御屋形様の御舎弟筋。 大覚は先代当主―――御屋形様の伯父御筋の家。

最悪の場合も考え得る。 五摂家筆頭、政威大将軍・煌武院家。 その裏の闇は―――果てしない底無しの闇だ。

「・・・私は今回、斯衛第1連隊の任を解かれた。 新たに第10独立警護小隊―――悠陽様警護の任に就く事となったわ」

「なに? かの姫の警護なら。 代々、月詠家の者が・・・」

「月詠家当代の娘御、真耶殿は未だ20歳になりません。 分家筋の従姉妹、真那殿も同年ゆえ。 
小隊とは言え、摂家警護は大尉を以って指揮官と為す。
山吹が赤を指揮する事になりますが、真耶殿には今暫く、私の指揮下で学んで頂きます。
そこで、緋色。 話とは・・・」

「断るっ!!」

何と言う事だ! またしても私の意志は無視かっ!? 

「私が戦うのは! 戦う理由は! 傍らの戦友の為! 共に笑い、泣いてきた親友の為! 部下達を生きて故郷に、愛する者の元に帰してやる為!
何より―――私の可愛い義妹が! 笑って暮らせるようになる為だ! それ以外の何物でもない!!」

―――義妹も、あの娘も。 もう15になったか。 来年は徴兵検査年齢だな・・・

思わず激昂し、荒い息を吐く私と。 それを静かに見つめる緋紗。

「・・・話とは、独立警護小隊はもう一つ。 第19独立警護小隊。 緋色、貴女にこの隊の指揮を担って欲しいのです」

「第19独立警護小隊? 警護対象の摂家衆は第18までで足りる筈だ。 一体誰を・・・ ッ!!」

「真那殿も優秀な武人ではありますけれど・・・ 未だ経験が浅い事は事実。
緋色、貴女を見込んでの事。 今暫し、真那殿に猶予の時間を。 月詠家からも内々に打診が」

「・・・断る。 断る。 断る! 断る!! 断じて、断るっ!!」

「緋色!!」

冗談では無いっ! 私に―――私に、かの姫の警護を!?
嫌でも思い出させる、己が身の忌わしさを直視せよと!?

この身は我が物に非ず! 我が意志は、我が意志に非ず!
生まれは忌われ! 一族にその場は無く! ただ家の道具たれ!

「・・・断じて、断る・・・ッ!!」

かの姫が憎いのではない。 私と同様、いや、それ以上に茨の道のみが用意された姫。
同じく忌み児、適うならばかの姫にも、人生の理由が見い出せる事を。 切に神仏に申し上げたい。

だが―――駄目だ。 私では。 私は―――そこまで自己を滅せない。
己が想いを押し殺して。 それさえも昇華して。 護り支える事など、出来るものではない。

私は―――そこまで、生粋の武家では無い!

緋紗の溜息が聞こえる。
如何に我が半身たる双子の姉の頼みとはいえ。 こればかりは譲れない―――皆の為にも、恐らくかの姫の為にも。 そして、己が脆き心故に。

「―――判りました。 私も、これ以上無理は申しません。
父上、母上には私から。 月詠家へも、内々に断りを。 ―――ごめんなさい、緋色」


緋紗が立ち去ってゆく。 衣ずれの音。
気がつけば、また小雪が降っていた。 月は姿を消したか。

「―――大きくなったか? 久しく会っていない。 学校は楽しいか? 好きな相手でも出来たか? 父さん、母さんはお元気か?
まだ覚えているか? この義姉の事を―――会いたいものだ。 私は会いたい。 なあ、美冴・・・」











≪帰郷にて≫


「あれぇ? 愛姫お姉ちゃん、帰ってたんだ?」

―――帰ってたんだ? は、無いでしょ?

家を出た途端、隣家に住む女の子―――幼馴染の、妹の様な子が声をかけてきた。

「帰ってたんです。 で、休暇が終わってこれから部隊に戻るんです。
ったくね。 折角お土産持って行ってあげたのに、お礼の一言も無しだね? ん?」

「あ、あはは・・・ ゴメン。 いやあ、ちょっと学校が忙しくってさぁ~」

「冬休みじゃないさ?」

「判ってないねぇ~、お姉ちゃん・・・ 勤労奉仕だよ、き・ん・ろ・う・ほ・う・し!
ま、精々工場の清掃くらいだけどさあ、私達中学生は・・・」

むぅ、勤労奉仕ねぇ。 そう言えば、私が中学の頃はまだ無かったなぁ・・・
この2、3年だっけ? 夏・冬・春休みの数日間とか、月のうち4、5日程が勤労奉仕日に組み込まれたのって?

最寄り駅に向かう道すがら、並んで歩いてって。 なんか懐かしいな。
小っちゃいこの子の手を引いて、昔はよく連れ歩いたなぁ・・・

「おまけにさぁ~、弟達がうるさくって・・・」

「んん? チビ達が? どしたの?」

「お正月用の凧! 作れってうるさくって。 私、そんなの作った事無いよ、はあ・・・」

・・・苦労しているねぇ、お姉ちゃんは・・・

「でもま! 出来あいのキット買ってさ! 結構面白いんだな、これが!」

「あはは、アンタならチビ達放っぽらかして、自分が楽しむんじゃない?」

「ひどいなあ~、そんな事無いよ」

ま、そうかもしれないね。 この子は実に弟達を可愛がっているし。
カラッとした性格が、時々ドライに間違われるけれど。 本当は根の優しい、他人想いの子なんだよね。

「・・・」

「ん? 何?」

「お姉ちゃん、進級したんだ? 大尉?」

―――ああ、階級章かぁ。 そう言えばこの夏に一度顔を出した時は、まだ中尉だったもんねぇ・・・

「そっだよ? 凄いだろ~?」

「・・・年功序列ってやつ? ―――って、ひゃあ!」

全く、最近憎ったらしい言葉を覚えてきたなぁ。 おまけに結構反射神経良いじゃないのさ。
頭を叩こうとしたのに、あっさり交わしちゃったよ、この子。 ノーモーションで繰り出したんだけどね? 案外、衛士に向くかも・・・?

「お姉ちゃんはまだ22歳だよ! 来年で23歳! 小母さんみたいに言うな!」

「私より、9歳もおばさん・・・ うわっ!? ゴメン、ゴメン! ゴメンだから、荷物振り回さないでよっ!」

はあ、はあ、はあ・・・ くっ! そりゃ確かにお姉ちゃんは9歳年上だよ! 
でもまだ若いんだぞ! 20代前半なんだぞ! お肌だってピチピチなんだぞ! ピチピチ・・・ なんだ、ぞ・・・?

「・・・お姉ちゃん? どしたのさ、固まっちゃって?」

「う・・・ 重金属雲は、お肌に悪いからね・・・ アンタも、将来気を付けなさいよ・・・?」

「へっ!? う、うん・・・?」

―――いくらなんでも、10代前半の女の子の肌艶には負けるわよね・・・


「・・・重金属雲かあ・・・ 私も3年したら徴兵検査かあ・・・」

「そっか・・・ そうだねぇ・・・ 陸軍にくる?」

「ん~・・・ 悩んでるんだなぁ、これが・・・」

悩む? 陸軍じゃ無ければ、海軍か航空宇宙軍? 斯衛はないか。 庶民の私らには無縁ですって。

「違うよ。 ・・・何て言うかさぁ、ノリが合わないんだよねぇ、私・・・」

「ノリが合わない? 何のよ?」

「ん~・・・ みんな、お国の為とかさ、愛国心とかさ、そう言うの言うじゃない? 
なぁ~んか、違うって言うか・・・ そう言うノリって、苦手なんだぁ、私・・・」

ははあ、そう言う事。
確かにね、内地じゃそんな雰囲気一色だしね。

「学校でもさ。 先輩達が徴兵されるじゃない? みんな変に熱狂してさ。 駄目なんだ、そう言うのって。
お陰で冷たいとか、覚めてるとか、もう、散々だよ。 あはは・・・」

―――別に、アンタは冷たくもないし、覚めてる訳じゃないよ。

「チビ達が大きくなって、徴兵されるのは嫌だね?」

「え? あ、うん。 そうだなあ、弟たちが兵隊にとられるのって、嫌だなあ・・・」

「じゃ、チビ達の為に戦う?」

「うん? ・・・それも有りかなあ?」

「じゃ、立派に戦える理由あるじゃん? それに帝国軍だけじゃないよ」

「え?」

およ? 不思議そうな顔。 ―――もしかして、知らない?
知らないかもね、募集は確か今年からだったし。

「国連軍。 今年から日本でも志願受け付け始めたんだな、これが。
お姉ちゃんの同期生達がさ、3年ばかし国連軍に出向していたよ。 地球の反対側に行っていたけどね。
でも、太平洋方面軍で志願したら、配属は日本の駐留部隊になるそうだよ?」

「へえ? 国連軍? ―――そっかあ、その手も有るかあ・・・ どうせ、徴兵されるんだし・・・ うん、よし! 考えてみるよ!」

・・・遣る瀬無いなぁ。 この子の将来なのに、軍への道しか教えられないなんて。 お姉ちゃんとして、何か悲しいなぁ・・・

「でも、これだけは言っておくよ? 例えアンタが将来どんな兵役に就こうともね。 絶対にあきらめちゃ駄目だからね?
生き汚なくっても、絶対に生き抜かなきゃ駄目だよ? お姉ちゃんと約束だよ? ―――いいね、晴子?」















1997年1月10日 0900 東京 立川基地 第14師団


「決まった、5日後の1月15日に出動する。 晴海から乗船開始。 19日には黄海に入る。 
長山群島の東から弧山(クーシャン)、隅子(ウェイツー)を経て蓋州(カイチョウ)に出る」

第14師団長・松平孝俊陸軍少将が居並ぶ部下・幕僚団を見回しながら命令を達する。
皆、一様に緊張した面持ちだった。 今度こそは本当に死戦になる、そう覚悟しているのだ。

「―――戦況は、如何なのでしょうか?」

第141戦術機甲旅団長・若松幸嘉陸軍准将が問う。
旅団長であれば事前情報は得ているであろうが、部下達を前に代表して代弁しているのだ。
松平師団長が、情報参謀を振り返り促す。

プロジェクターを操作し、情報スクリーンが映し出される。
戦域展開図、戦力リスト、BETA分布状況。 そしてこのひと月の間の戦力損耗率・・・一斉に呻き声が上がる。 

「戦況は芳しくありません。 今回、H19・ブラゴエスチェンスクハイヴからのBETA群、約3万。
H18・ウランバートルハイヴから約2万5000、H14・敦煌ハイヴから約3万5000、総数9万。
既に中国軍第1野戦軍は韓国国境を越えました。 
現在は長白(チャンパイ)山脈、蓋馬(ケーマ)高原を中心に、韓国軍第1軍(第2、第3、第8軍団)と防衛戦を展開中です。
鴨緑(ヤールー)江下流域、丹東(タントン)=新義州(シニジュ)防衛は国連軍第9軍(米第9軍)と韓国軍第11軍団が。
但し既に2個師団が壊滅、米海兵第1遠征軍がグアムから急行中です」

一旦言葉を切る。 満洲は失陥した、既に中韓国境が最前線となっている。
北へ目を向ければ、既にハバロフスクは陥ちた。 ソ連軍は沿海州南部―――ウラジオストーク防衛に必死の状況だった。

「中国軍第4野戦軍は、遼東半島に押し込まれました。 今は蓋州=丹東ラインが絶対防衛ラインとなっております。
―――そう、我々が飛び込む先は、地獄の大釜となります。
蓋州南部の万福(ワンフー)に韓国軍第5軍団。 但し、戦力半減の2個師団のみ。
遼東対岸の山東半島も差し込まれております。 中国第2野戦軍と韓国軍第21軍団が防衛していますが、既に莱州(ライチョウ)が陥落しました。
渤海南部海域の航行の自由は失われております。 現在、龍口(ロンコウ)=莱陽(ライヤン)=海陽(ハイヤン)の線で防戦中。 ―――長くは保たんでしょう」

情報参謀の戦況報告に、並居る上級指揮官達も声が出ない。 これではまるで・・・

「そうだ、諸君。 我々は撤退戦を戦いに行くのだ」

松平師団長が、覚悟を滲ませた声で断ずる。
撤退戦。 古来より最も損害が大きい戦い。 下手をすれば全滅・壊滅も有り得る。
だが飛びこまねばならない。 このまま座して半島失陥に至れば、今度こそ本当に帝国本土が戦場と化す。

「遼東半島北部は第9軍団、南部は第11軍団。 再編が済んだ第10軍団も遅れるが到着しよう。
タイムリミットは、大連からの民間人の完全脱出完了まで。 最悪、大連の入口である普蘭店(プーランティエン)は何が有っても絶対死守だ。―――撤退は許可しない。 
以上だ。 厳しいが、為すしかない」






同日 1000 第141戦術機甲旅団


中隊長以上の指揮官ブリーフィングで出撃が発表された。
遼東半島。 俺にとっては93年の10月以来、実に3年3カ月ぶりの『懐かしい』戦場だ。
キツイ戦いになりそうだ。 昨年4月のドーヴァー防衛戦並みか、それ以上かもしれない。

「厳しそうだ・・・」

「うん・・・」

横で緋色が呟いた。 いつもは喧しい愛姫も厳しい顔だ。


「遼東半島ねぇ・・・」

「撤退戦や、キツイで?」

「やるしかないでしょ~?」

「ま、何時もの事です」

和泉大尉、木伏大尉、水嶋大尉、源大尉。 先任達も些か表情が硬い。


「古参は良いけれど、新任達が不安ね・・・」

「こればかりは、どうしようもないわ。 越えて貰うしか・・・」

昨年10月配属の新任少尉達を気にかける三瀬大尉と、祥子。


「直衛、喜べ。 『疾風怒濤(シュトルム・ウント・ドランク)』の季節だ。 祭りだよ、祭り!」

「頭の中、ぶっ飛ばすかよ?」

圭介が懐かしいセリフを吐く。 ―――ああ、イヴァーリが良く言っていたな。

皆が―――大隊長達や旅団長、旅団幕僚たちまで―――俺と圭介をまじまじと見て。

「前頭葉を、欧州に置き忘れたか・・・」

「人格、変わったね・・・」

「側頭葉も無いんちゃうか? 過去の記憶、覚えられへんとか・・・」


「「 んな、馬鹿な・・・ 」」

圭介と二人してハモってしまう。 ムチャクチャ言うな、全く・・・


「が、その意気や良し!」

第1大隊長・早坂中佐が破顔する。

「暫く見ない内に、牙もちゃんと生えたか」

第2大隊長・宇賀神少佐。

「突撃大隊は、第3と第4で決定ですかな?」

第5大隊長・荒蒔少佐。

「迷惑な事だ。 長門大尉、責任取れ。 先鋒任す」

第4大隊長・岩橋少佐。

ちらり―――上官を見る。 目が合うと、まるで肉食獣の様な目で笑う我が第3大隊長。

「全師団の先鋒は貴様だ、周防大尉。―――口は災いの元だな?」

・・・言うと思ったよ、広江少佐なら。






1997年1月15日、帝国陸軍第6軍は東京港を出港。 一路、遼東半島を目指した。
その日は天候が悪く雲が低く立ちこめ、波が荒く打ち寄せていた。











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※酔った勢いでやってしまった・・・
好きな原作キャラを書いてみたかった、でも書けなかったから絡ませてみた。
単にそれだけ。 本筋にはもう登場しないかも、多分・・・
勢いだけの妄想文の幕間。 

※まりもちゃんは『軍曹』にはしていません。
将校(中尉)から下士官(軍曹)への降格など、普通は不名誉極まりない処置なので、拙作では採用しませんでした。
(普通はどんな軍隊でも、教官だからってだけではやらない・・・ 下士官は『教官』じゃないし・・・)


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