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No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
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[7678] 北満洲編8話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:e178b4cc 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/05/05 23:46
1992年8月18日 1625 黒竜江省 依安基地北方 6km 独立混成第119旅団司令部


「軍砲撃任務群、面制圧射撃評価、出ました。BETA本隊、45%を撃破。」
「UVA、戦域上空偵察開始。光線属種、確認されず。」
「軍団司令部より入電。 第112、第128、第134航空打撃連隊、全大隊発進しました。」
「第1、第5大隊、接敵しました。 BETA数、約1000  第3、第4大隊、左右より挟撃行動中。 第2大隊、支援位置につきました。」
「第22機甲連隊第1、第2大隊、予定射撃位置につきました。 第3大隊、支援位置です。」


戦況は順調に推移しているな。

旅団本部に「間借り」した河惣 巽少佐は、戦術戦況MAPを眺めながら思った。
恐らく今回の襲撃は、ハイブ内の個体数増加に伴って、「あぶれた」連中の散発的な襲撃なのだろう。
衛星情報と食い違うのは、H18・ウランバートルハイブからの東進BETAを確認し損ねたのと、ハイブ内の状況は相変わらず想定でしかない、と言う事だ。

正面の第52師団戦区に最も集中しているが、師団戦力で有れば、殲滅できる数だ。
左翼の108旅団、そして右翼のこの119旅団前面には、大隊規模のBETA群しかいない。

何分、光線級の数が少なすぎたな、BETA共。

何せ、前衛の突撃級は、面制圧で粗方始末できてしまった。

(・・・第2大隊は、後方で待機か。 広江の事だ、さぞブチブチと文句を言った事だろう。
奴の上官も、ご愁傷様だ。)


幾分、余裕ができた時。
司令部のオペレーターが不審な声を発した。

「? 何、これ・・・ フレンドリーコード・・・ ≪キャピタル≫? こんなコードの部隊って、有ったかしら・・・?」
「どうした?」
「あ、主任管制官。いえ、このコードですが。部隊識別に無いんです。」
「うん? ・・・確かにな。73式装甲車2両に、89式装甲戦闘車6両。 なんだ? 機械化歩兵小隊か?
現在位置、S-44-56。 進行方向・・・ 北!? S-50-58に向かっている!? 馬鹿な! 戦術機部隊の戦闘予定区域だぞ!?
機械化歩兵小隊が出張っても、全滅するだけだ! 一体どこの部隊だ!!」
「・・・っ! 指揮官コード、出ました! ・・えっ!?」
「誰だ!! その大馬鹿は!!」
「は、はい! 指揮官・高宮少佐。 参謀本部第1部所属です!!」
「なっ・・・」


その会話を聞いた瞬間、河惣少佐は沸騰した。
高宮!? あの馬鹿者! 戦場を何だと思っている!

「河惣少佐!」
調査委員会随伴の中尉が、息せききって駆け込んできた。

「どうした?中尉。」

「高宮少佐が・・・」

「ああ、知っている。今、本部でも確認された。全く、あの大馬鹿者が・・・」

「いえ!そうじゃないんです!!」

「? どうした?」

「実戦検証データを取るとか仰って・・・ 今までのライブラリデータの入ったサーバー毎、73式に搭載されてしまわれたんですよ!!」

「・・・!! 馬鹿っ、かっ!!!」

あの馬鹿が、どう死のうとも最早どうだっていい。 だが、衛士達が命がけで集めてくれたデータを、よりによって・・・!!!



「旅団長閣下! 申し訳ございませんが、ひとつお願い事がございます!」

「・・・作戦の足を引っ張る真似は、聞けんぞ? 河惣少佐。」

「いずれは、足を引っ張る事になるやもしれません。その前に対処したいのです。」

「ふん。 言ってみたまえ。」

「<キャピタル>の首根っこを捕まえて、引っ張り戻します。
『あれ』には、今後の帝国戦術機採用に、大きく寄与するデータが詰まっております。
今ここで失われた場合。 長期的に見て、帝国軍、いえ、帝国全体にとっての損失となりかねません。」

「・・・どの位、割けばいい?」

「贅沢を言えば、きりは有りませんが。 機甲1個小隊、随伴の機械化歩兵1個小隊。それと、指揮車両を1両。」

「戦術機部隊は、いらんのか?」

「そこまで引っ張る訳には、まいりません。」

「解った。 持っていけ。 ・・・それと。必ず帰ってこい!」

「はっ!」


全く、あの大馬鹿者は!
帰国したら、必ずや査問委員会に告発してやるぞ。 場合によっては、軍法会議も辞さぬ!








1992年8月18日 1655 黒竜江省 依安基地北方 9km 第2防衛線付近


高宮青洲少佐は、取り乱していた。

周りからは、次々に襲いかかってくるBETA。
機甲部隊と、歩兵部隊が応戦するが、小型種ばかり故に数が多すぎる。
近隣の戦術機部隊に支援要請するも、彼等は大型種を含むBETA群と交戦中だった。

(『はぁ!? 何言ってやがる! こっちの状況を見ろっ! さっさと後ろに下がれっ!』)
(『今更、そんな軽装備部隊で何しに来やがった!! 勝手に足を引っ張るなっ! 馬鹿野郎っ!』)
(『手前ぇの上級部隊に増援依頼しろ! こっちだって手隙じゃねぇんだっ! 頓馬!!』)


くそっ! くそっ! くそっ! どいつもこいつもっ! 覚えていろっ! 
参本(陸軍参謀本部)に戻ったら、貴様ら死ぬまでここに張り付けにしてやるぞっ!

奴が悪いんだ・・・ あの女。 よりによって、米国製の機体など推奨した、あの女。
しかも、あの女が肩入れする機体装備の部隊を、その鼻を叩き潰す為に嗾けた『陽炎』装備の部隊も、模擬戦で醜態を曝した!
何が、帝都防衛第1連隊だ! 役立たずめっ!! 所詮、ノンキャリア共は信用ならんっ!!


何かを考えないと、恐怖で気が狂いそうになる。
彼は幼年学校-士官学校-陸軍大学校と、軍本流を歩いてきたエリートであるが、その実、実戦経験は全くなかった。
陸大受験資格の必須である、中隊長職にあった時でも、実務は先任小隊長や、中隊先任下士官にまかせ、彼自身は陸大受験の勉強をしていた。
典型的なペーパー試験屋。 机上の秀才、であった。

しかし、その肥大で尊大な自意識は有り余っており、今回の自ら望む状況から大きく外れた現状に、我慢ならなかった。
何としても、92式採用は阻止せねばならない。
これ以上、栄えある帝国陸軍の正面装備に、米国製の血を入れる訳にはいかぬ。

帝国は、その英知を以て自らの手で、その護剣を手に入れるのだ。
それが帝国の真の姿。 そして、皇主陛下、将軍殿下もそれをお望みなのだっ! そうに違い無い!

彼はその思い込みに従い、この小部隊を組織した。
92式がBETAに『喰われる』状況を記録できれば、申し分無い。

役立たずである事を証明できれば。 いや、立証できずともよい。 そう言った『状況』さえ、でっち上げれば。
参謀本部や、兵器行政本部に数多くいる『同志達』―――陸大卒の天保銭組、軍内部の陸大卒マフィア―――は、自分に同調するだろう。

そうすれば最早、92式など虫の息同然だ。 後は、あの小憎たらしい女共々、葬り去ってやる・・・
いや、あの女に同調した、あの生意気な小僧どものいる中隊もだ。
生還を期せない作戦をでっち上げて、葬ってやる・・・


そんな暗い情念を燻らせていた彼に、小部隊の護衛指揮官が悲鳴のような報告をした。

「少佐殿! 囲まれました! 89式装甲戦闘車は全滅です! もう無理だ!!」

絶望を滲ませたその声に、思わず恐怖する。
その恐怖を肯定するかのように、73式装甲車の車内から、高宮少佐は裏返った金切り声で応じる。


「ええいっ! 馬鹿者! なんとしても、突破しろ! 
貴様等、この私を何としても、後方まで連れていくのだっ! 
軍務怠慢で軍法会議送りにされたいのかっ!!」

それを聞いた護衛小隊長の顔から、顔色と表情が消えた。

「・・・なら、我々がとる行動は、一つだけですな。
少佐殿。 上級将校の戦死理由の最上位が実は何か、ご存じで・・・?」

「何?」

「有能な怠け者は、司令官に。 有能な働き者は、参謀将校に。 無能な怠け者は、連絡将校に。 そして・・・ 無能な働き者は、銃殺しろ!!」

護衛指揮官が自動拳銃を抜き、高宮少佐に銃口を向ける。
何なのだ!? こいつは? 私を殺す? 陸大出の、参謀本部勤務の、この私を!? 馬鹿なっ!!

「・・・あんたの口車に乗せられた、俺も大馬鹿野郎だったよ。
いくら、この地獄から抜け出したかったとは言え、な。
部下達に、顔向けできねぇ・・・」

「ひっ・・・」

正に引き金が引かれようとするその時。
護衛指揮官の背後が陰った。 彼は思わず振り向き、そして。

「・・・っ! ベーッ・・・ ぎゃあぁぁぁああああああああ!!!!」

闘士級BETAが、指揮官の胴体に喰らいついた。

「げふっ・・・! げっ、げあっはああぁぁぁ・・・・!」

凄まじい断末魔の叫びを残し、絶命する。

「う・・・ うあああ・・・」

ぐちゃ、ぐちゃ、ぎゃり、ぎゃり・・・

BETAが死体を喰らう音が響く。
高宮少佐は、最早何も考えられず、ひたすら蹲っていた。

(助けて・・・ 助けて・・・ 死にたくない・・・ 死にたくない・・・)
心の中で叫ぶ。 だが、彼に応じる声は全く聞こえない。
いつの間にか、BETAの咀嚼音が消えていた。 そして、急に硫黄臭い空気が充満する。

ぎゃりりり・・・

73式装甲車の、決して厚くない装甲が剥がれていく。 BETAが喰いついたのだ。

(あああああ・・・・・)

死ぬのか? 自分は? 馬鹿な。 理不尽だ!

その時、甲高い発射音が聞こえ、付近のBETAが弾け飛んだ。

『高宮少佐! 聞こえるか!? まだ生きているのか!? 応答しろ!』

・・・誰だ? この声は。 聞き覚えが有る。 でも、思い出せない・・・

ぼんやりした意識の中で、74式戦車が発砲するのが見えた。








「高宮少佐! 応答しろ! 高宮! くそっ!!」

先程からの問いかけに、全く応答しない。 くたばったか?
しかし、BETA共は未だ移動していない。 と言う事は。 まだ『餌』がいると言う事だ。
誰かが生き残っている。

河惣 巽少佐はそう判断し、機甲小隊長に回線通信を入れる。

「中尉、申し訳ないが、榴弾で周辺掃除をお願いできないか? 細かい『清掃』は、歩兵部隊に頼むのでな。」

『了解で有ります。少佐殿。 長車より、カク・カク(各車両、の意)、装甲車付近の糞BETAに榴弾2射! 車両には当てるなよ? ッテ―――!』

吹き飛ぶ闘士級。
さて、『あれ』を回収せねば。

機械化歩兵小隊長に通信を入れる。

「少尉。私はこれから、装甲車内の『あるモノ』を回収する。 時間はかからん。 それまで護衛を頼む。」

『了解です。 1分隊つけます。』

指揮車両から出て、急いで装甲車両のハッチを開ける。
中に潜り込んだ。

「・・・・・・」

最初に見たのは、四肢を食い散らかされた乗員たちの戦死体。
そしてその奥に、呆然とへたり込んで失禁している(いや、脱糞もだ)高宮少佐。 

ふん、まだ生きていたか。 悪運の強い奴だ。
サーバーは? あった。
くそ、固定フレームが歪んでいる。 これでは持ち帰る事は無理か。
なら、せめてデータだけでもバックアップを取って、ディスクだけでも持ち帰らないと。

「軍曹。少々予定が変わった。 このままこれを持ち帰るのは無理だ。
中のデータを移す。 作業時間は15分程だ。 貴様、外の小隊長に報告してきてくれるか?」

「はっ! 少佐殿。 直接護衛に1班5名を残します。」

そう言って分隊長の軍曹は、車外に出て行った。

「伍長。済まんが1人、手伝ってくれ。それと、そこで失禁している少佐殿を、指揮車内に。」







ディスク2までバックアップ完了。 あと30% 大体5分か・・・
そう考えた矢先、最悪の報告が飛び込んできた。

『少佐殿! 前方300にBETA! 戦車級と闘士級! 数200以上! こっちに向かってきます!!』

くそっ! 距離300では、数十秒で集られてしまう!

「機甲小隊! 何とか蹴散らせないかっ!?」

『無理ですっ! 奴ら、広範囲に広がって突っ込んできています! 纏めて撃破出来ません!』

『小隊! 咄嗟防御射撃!  ・・・撃て、撃てっ!!』

砲撃音と、重機の射撃音。

頼むっ! 保ってくれっ! あと2分!

装甲車からも12.7mm M2重機関銃の発射音が聞こえる。 あと、1分!

『うわっ! 取り付かれた!! だめだぁ!! ・・・・ぎゃああぁぁぁ!』

『機甲小隊、全滅!』

「っ!!」
 
済まんっ! 機甲小隊に詫びる。 あと、30秒!

『少佐殿! 早く! もう持ちませんっ!!』 『ぎゃああぁぁぁ!!』


「・・・少佐殿、残すは我々のみですな。」

直接護衛に付けられた半個分隊の指揮をとる、三坂伍長が覚悟を決めたように呟いた。

「・・・・データ移設、完了した。  少々、遅かったか・・・ すまぬ。」

「やれるだけ、やりましょうや。 このまま喰い殺されるもの、癪ですよ。」

「うん・・・ そうだな。 私は便乗者だ。伍長、君のやりたいように。 私は従おう。」

「はっ! よしっ! 大江兵長! 操縦やれ! 田舎じゃ鳴らしたんだろ!?
上部銃手は俺がやるっ! 前島一等兵! 前方銃手! 進路上の糞ったれどもを撃ちまくれっ!
加藤二等兵! 佐島二等兵! 給弾手! 弾薬を切らすなっ!
いくぞっ!」

「「「「 応っ! 」」」」

73式の光菱4ZF・2ストロークV型4気筒水冷ディーゼルが唸りを上げ、突進する。
前島一等兵が前方に12.7mmの射弾を送り続ける。 闘士級に穴を開ける。

前方に戦車級。分が悪い。 大江兵長がドリフトを使って急旋回。
私は車内で振り回される。
上部からも、12.7mmの射撃音。

「はっはぁ! こりゃ、ご機嫌だぜぇい!!」

大江兵長が実に楽しげに哄笑している。

「・・・兵長って、ハンドル握ったら、人変わりますね・・・」
「何か言ったかぁ!? 加藤!?」
「いいえっ!」

その時、鈍い音が車体後部から聞こえた。

「畜生! 取り付かれたっ!」

重機の射撃音とともに、三坂伍長の絶望的な声が聞こえる。

「伍長! 振り落としますっ!」

大江兵長が、信じられない程荒っぽい操縦を開始する。
右に、左に。 私は車内で必死に掴まっているしかなかった。

「どうだっ!?」 「まだですっ! まだいますっ!」

佐島二等兵が悲鳴交じりに報告する。

「うわっ!?」 「「「伍長っ!?」」」

いきなり、三坂伍長の姿が消えた。 車外に落ちたのだ。

「伍長!」

「戻るな! 突っ走れ!!」

「っ!! 了解っ!!」

装甲車は三坂伍長を置いて、更に加速する。


「・・・・・へっ! 糞BETA共。 帝国歩兵の戦い様、死に様・・・よぉっく見とけぇ!!」

戦車級に集られた瞬間、三坂伍長は体に巻きつけていた、数発のM67手榴弾を炸裂させた。

(三坂伍長・・・ 貴様の挺身、忘れはせぬっ!!)

その瞬間、体が浮いた。 そして衝撃!





(・・・・・うっ 一体・・・?)

河惣 巽少佐は衝撃の後、暫くの失神状態から漸く回復した。
体が痛む。 しかし何だ? この異臭は? 硫黄、そう、硫黄臭だ。 それに、何かの咀嚼音。

(・・・・っ!!! 硫黄臭! それに、咀嚼音!!)

眼を開ければ、4人の兵士の死体を食い散らかす、闘士級BETAが目に入った。
装甲車は、何かにひっかかり、横転したのだろう。
せめて、死んだ4人がその時に逝ってくれていたのなら、せめてもの慰めだ。
生きながらにBETAに喰い殺される恐怖は、言後に絶する。

(・・・次は、私か。)

気が狂いそうになる。
9か月前の戦闘で負傷した時も、恐怖であったが、あの時は戦術機に乗っていた。
今は? 自動拳銃が1丁だけ。 闘士級相手だけなら、なんとかなるが。 それ以外では豆鉄砲以下だ。

1匹の闘士級が、こちらに気づいた。
貪っていた死体を放り投げ、ゆっくりと近づく。

(うっ・・・ ううっ・・・・)

歯の根が合わない。 腹の底から震えがきた。 拳銃を構えるが、手が震えて照準が合わない。

(来るな・・・ 来るな・・・ 来るなぁ!!!)

心の中で泣き叫ぶ。
畜生、ここまでなのか? 私は、ここで喰い殺されるのか? 

悔しかった。 帝国の新しい護剣たる戦術機。 その実現まで、あと1歩だったのに。
悲しかった。 私の生涯は、何だったのか。 何か一つでも証を残せなかったのか。
怖かった。  目の前の、絶対的な 『死』 に。 生理的嫌悪感を抱きつつ、喰い殺される事実に。

闘士級がその異形の長鼻を向ける。 先端に、禍々しい『歯』が見えた。

「うっ・・・ ううっ・・・」

奴なら、拳銃でも対抗できる。 なのに。 なのに、どうして私は撃たない? どうして撃てない?

(―――――怖い・・・ 怖い・・・ 助けて、あなた・・・)

亡き『夫』の姿に縋りつく。 
しかし、夫の姿は物言わぬ。 彼女を助けてはくれない。

(あなた・・・ あなた・・・ あなたっ!!)

不意に、左足におぞましい感触を覚える。

ひっ! 反射的に足を引き込めようとした、その時。

ぶちっ!!

「ぎゃっ、ぎゃああああああぁぁぁぁ!!!!」

左足を、食い千切られた。








1992年8月18日 1735 黒竜江省 依安基地北方 7km 第2防衛線付近


≪CPよりゲイヴォルグ! 『プリンセス』、エリアS-47-56! 移動していません! 
周囲に小型種BETA、約300! 依然、集まりつつあります!≫

『ゲイヴォルグリーダー、了解。 各機! 主機の出力を上げろ! 最大出力だ!』

『『『 了解! 』』』

『フラッグ01よりゲイヴォルグリーダー。我々が先行しよう。』

『フラッグ?』

『こちらは92式と違って、A/B(アフターバーナー)連続稼働しても、大丈夫な推進剤搭載量が有る。
ここからエリアS-47-56まで、A/B使用で30秒! 先に行っておるぞ!』

言うや否や、早坂大尉をはじめとする、フラッグ小隊の『陽炎』4機は、A/Bの咆哮を上げて突進する。

『はぁ~~、やっぱ、ああ言うとトコは、アメちゃんの機体の面目躍如やなぁ。』

『92式はあくまで、高機動と格闘戦能力重視だしねぇ。載せてる主機の出力は互角なんだけどなぁ。』

『木伏! 水嶋! くっちゃべってないで、こっちも主機を上げるぞ! 40秒で到達しろ!』

『『 イエス! マム! 』』

第119旅団、第23中隊≪ゲイヴォルグ≫の「疾風」12機が一気に主機出力を上げる。

(・・・巽、死んだら承知せんぞ。 私が河惣大隊長に、顔向けできなくなるからな・・・)

ふと、自分の行きつく先は地獄なのに。 どうやって「天国」にいる大隊長に合えばいいのだろう?
そんな間の抜けた事を思い至った自分に、広江直美大尉は思わず苦笑した。







1992年8月18日 1736 黒竜江省 依安基地北方 エリアS-47-56


咀嚼音が聞こえる。 私の左足が、喰われている。

「ぐうぅぅぅっ!!!」

激痛に、気を失う事も出来ない。
出血が止まらない。 この調子だと、喰い殺される以前に、失血死しそうだな。
それにしても、おぞましい。BETAに喰われると言う事は・・・

「はぁ・・・ はぁ・・・ はぁ・・・」

拳銃を握りなおす。
最早、私の死は確定した。
ならば。 これ以上、私を、私自身の命を、凌辱されてたまるかっ!

銃口をこめかみに当てる。
様々な想いが去来する。

(あなた・・・ 申し訳ありません。 私も、今、そちらに向かいます・・・)

(広江・・・ 結局、貴様には最後まで、面倒かけっぱなしだったな。 
こんな情けない同期を気にかけてくれて、本当に感謝している。
貴様ほど得難い期友は、他にいなかったぞ・・・)

(兄様・・・ できましたなら、この愚妹の志を、汲み取って頂けまいか。
帝国には、92式が・・・ 「疾風」が必要なのです。
それと、義姉様に宜しくお伝えください・・・)

(・・・周防少尉、神楽少尉、和泉少尉。 短い間だったが、感謝する。
長門少尉、伊達少尉。 模擬戦は見事だった。
皆、生き残れよ。 私のような二の舞は、踏むんじゃないぞ・・・)



トリガーにかけた指に力を込める。

(っ!!!)


その最後の瞬間、それが訪れる一瞬前。

目前のBETAが吹き飛んだっ!
一瞬遅れて、『死の羽音』 36mm砲弾の集中飛来音!
そして、F110-GE-129の咆哮!!

外部マイクからだろう、割れた大声が鳴り響いた。

≪河惣! 巽! 生きているか! 厚かましく生きていたら、返事をしろ!!≫

助けに来てくれたのに、『厚かましく』生きているか、とは。
全く、貴様らしいな、広江。

何かがぷっつりと途切れた。 そして、河惣 巽少佐の意識は、暗い闇の底に落ちて行った。








1992年8月25日 1630 遼寧省 遼東半島 大連 国連軍・大連軍病院


開け放った窓から、爽やかな風が吹き込んでくる。

病室のベッドの上で、河惣 巽帝国陸軍少佐は、窓の外の風景をぼんやりと見つめていた。
小高い丘の上、海に面した場所にある病院からは、黄海の海原が良く見えた。

あの時。7日前のあの時。
結局、私は助けられた。
旅団長の判断で急遽、戦術機甲第2大隊から第23中隊を抽出。 第1連隊の試験小隊も加わって、喰い殺される寸前の私を救出した。

群がる小型種BETAの真っ只中に強硬着地し、機体から飛び出してまで、応急処置と車体からの搬出をしてくれたのは、神楽少尉と周防少尉だったそうだ。
その間、同様に強硬着地して、周りのBETAを掃討射撃し続けたのが、和泉少尉、長門少尉と伊達少尉だと言う。

無論、中隊長の広江と、彼女の部下達、それに早坂大尉の≪フラッグ≫の4機も、かなりの無茶をし続けて、救助までの時間を稼いでくれたそうだ。

彼等の挺身に、感謝を。 私の魂にかけて、感謝を・・・

3枚のディスクを見る。
これだけ。 たったこれだけを守る為に。 一対、何十人の将兵の命を散らした事か。

不意に、ドアノックがする。 どうぞ、と声をかける。 入って来たのは・・・



「! 兄様!? どうして、ここへ!?」

何故、兄がここに。 兵器行政本部に居る筈の兄が、どうして?

「・・・妹の見舞いだ。」

「そんなっ! そんな理由だけで、兄様が本土を離れられる訳がないでしょう!」

「見舞いも、理由の一つだぞ? 巽。 綾乃が酷く心配しておってな。
理由を付けて、出張と相成った訳だ。」

綾乃――――義姉様が・・・



「それにしても、一体どういった理由を付けて? 
余程の事でない限り、技術企画部主任参謀の兄様が、大連まで来るなんて。」

「ふぅ・・・ 巽。お前、自分の任務を忘れたか?」

「何を―――っ」

「その結果は、一刻も早く本土に持ち帰らねばならん。
だが、お前は当分療養が必要だ。
 
――――高宮少佐は、戦死したのだしな。
持ち帰る者が居らぬでは、採用申請しようにも、できぬ。」

えっ!? 今、何て・・・? 採用!?

「そうだ。92式の正式採用が決定した。 
お前が逐次、送っていたデータを検証した結果だ。
既に兵器行政本部から、参謀本部、国防省へは話が通った。
後は、今月末の国会で、臨時補正予算が通れば、発注予算の目処も立つ。
その為の資料は、ここにしかないのでな。 私が受け取りに来たのだ。」


思わず、涙が溢れてきた。
相変わらず、右目からは涙は出てこない。 でも、熱い。この眼は、壊れてなんかいなかった。

「巽。お前は、やり遂げた。 何時か言っていたな? 『衛士の切望に、答えたい』と。
お前は、その言葉を。 その一端を、やり遂げたのだ。 衛士達の代弁者としてな。
良くやった。
・・・・あいつも、あの世で喜んでいるだろうよ。 自慢の、妻の事をな。」

「・・・・兄・・・様・・・」



嬉しかった。 ただただ、嬉しかった。 
自分は何者なのか。 そう、ずっと自問し続けてきた。
夫が死んでから。 自分が負傷後送されてから、ずっと。

やっと解った。
私は、広江のような衛士の才は無い。 広江のような指揮官としての才も無い。

ならば。
私は、彼等の寄って立つ幹を育てよう。 彼等が1分1秒でも生き永らえられる、その土台を作り続けよう。

それが。
死ぬな、と言い残した、亡き夫への私の手向け。

それが。
常に真正面から向かい合ってくれた、親友への感謝。

それが。
命を張って私を守り、散っていった彼らへの供養。

それが。
救ってくれた、あの真っ直ぐな瞳の、若き衛士達に贈る事の出来る、私の応え。


――――――もう、迷いはしない。




(さようなら、あなた。 巽は・・・ ようやくあなたに・・・ さようなら、と言えます。)


夏の日の夕暮が、次第に空を染め始めていた。



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