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No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
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[7678] 帝国編 22話 ~第1部 完結~
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/07/04 00:52
1998年1月19日 1400 朝鮮半島南部・光陽=順天防衛ライン 順天地区


『第1陣、14個中隊、離脱します!』

『中継ステーションの護衛戦術機母艦群まで、NOE巡航速度で約15分。 推進剤補給・再発艦完了が25分、第2陣脱出は50分後!』

1330時に機甲、機動砲兵、他支援部隊を満載した脱出艦隊が光線級のレーザー照射見越し危険水域から脱した。
それを受けて最後まで残っていた戦術機甲部隊も脱出が始まっている。 
第1陣の脱出・母艦への到達と、推進剤補給後に再発進・母艦の再度の受け入れ準備を考えると、俺達の脱出は50分後か。

第1陣は帝国軍から第3大隊(89式『陽炎』装備)の3個中隊、韓国軍1個中隊(李珠蘭大尉指揮)、中国軍全6個中隊と台湾軍4個中隊の14個中隊。
警戒部隊として最後まで残るのは、帝国陸軍第1、第2大隊(合計6個中隊)に帝国海軍第341戦術機甲戦闘団(3個中隊)。
それに韓国軍1個中隊、台湾軍4個中隊の14個中隊―――1個連隊強の戦力だ。

前方警戒の最中、ふと後方の様子をスクリーンに映し出す。
14個中隊、132機の戦術機が跳躍ユニットから排気炎を吐き出しながら洋上へと飛翔してゆく様が映し出されていた。
その中の1機、中国軍の殲撃8型Fに目が行く。 『ムーラン』中隊、朱文怜大尉指揮。 8機にまで減っていた。 

先程、脱出の用意に大わらわの隙を見つけて話しかけてきた文怜の言葉が蘇る。

(『・・・直衛、生きて脱出出来たら・・・ 私の事、殴ってくれていいわよ・・・』)

伏せ目がちに、そっと呟くように、そして悔しさを滲ませた声でそう言っていた。

(『メンタルコントロールも出来ないなんて、指揮官失格ね。 我ながら情けないわ・・・
欧州時代にユーティライネン少佐から、散々叩き込まれたつもりだったのにね。 
周少佐にも散々言われたのに・・・ 顔向けできない』)

―――殴るって? そんな事する訳ない、出来る訳ない。

少なくとも文怜が、その感情をむき出しにした相手は俺一人だった。 
他の帝国軍指揮官達の前では、内心を抑えて普通に接していた。

―――ガス抜きは必要だよな。 出来る相手も限られるよな。

立場が逆だとしたら、俺は大隊長や美園の前でそんな事は言えないし、言わないだろう。 もしかすると祥子の前でも躊躇するかもしれない。
遠慮なく喚く事の出来る相手は、圭介か、今は九州の部隊にいる久賀か。 どちらかだろう。

―――だから文怜、俺に謝る事はない。 なあ、そうだろう? 戦友?

そう言った時の彼女の表情の変化。 沈みがちな、後悔している様な表情だった彼女。
それが一瞬呆気に取られ、そして理解と同時に気恥ずかしさで朱色に染まり、最後にちょっとだけ、そう、ちょっとだけ嬉しそうに呟いた。

(『・・・馬鹿、恰好つけ過ぎよ』)

あの表情を引き出せただけで良しとしようか。 美鳳の気苦労もこれで幾分解消されるだろうし。


≪CPよりリーダー、フラガラッハ布陣位置は光陽湾西部埋立地の西、103高地(標高103m)
隣接部隊は23中隊、『ステンノ』が西の111高地(標高111m)に布陣します。 
大隊本部と21中隊、『セラフィム』はその北西、115高地(標高115m)≫

想いに耽っていると、CPから展開確認が入ってきた。 いかん、今は戦いだ。

半島の根元、狭隘な地形の東側を第2大隊が護り、順天市街に面した開けた地形の後背になる高地の入口を第1大隊と海軍第341が護る。
その隙間を台湾軍の4個中隊が埋め、韓国軍の朴大尉指揮の1個中隊は防衛線をすり抜けてきたBETAの掃討任務にあたる。

第1派の6000は殲滅した。 予想される第2派は1時間前の情報では約1万、ちょっときつい。 いや、かなりきつい数だ。
味方の戦力は残存戦術機が158機。 海軍の96式、陸軍の94式、台湾と韓国のF/A-92Ⅱ。 
第3世代機、準第3世代機で固めた連隊規模を上回る戦力だが、何分支援攻撃力は護衛艦隊の駆逐艦や海防艦の砲戦力だけだ。
その護衛艦隊も最大射程圏ギリギリで遊弋している。 下手に接近してレーザー照射を喰らったら、対レーザー防御など無い小艦など一発で轟沈する。

第1派を片付けた『特火点』は残り3か所に分散設置している。 西部に2箇所、東部に1箇所。
1万のBETA群をこれでどれだけ片付ける事が出来るか、場所とタイミングの問題だろう。

≪CP、フラガラッハ・マムよりリーダー! ランドサット情報更新! BETA群第2派は・・・ 約1万3000! 全て北西、ないし西北西より殺到してきます!≫

―――拙い。 西部へ設置した『特火点』は2箇所だけだ。

≪HQより全戦術機甲中隊! 陣形変更、西部へ集中再配置! 転換急げ!≫

≪ユニコーン・マムよりユニコーン大隊(第2大隊)各中隊、第1大隊と合流せよ!≫

≪台湾軍第224戦術機甲中隊! 日本海軍第341戦術機甲戦闘団の指揮下に入れ! 第221、第222、第223戦術機甲中隊は謝少佐が統一指揮を執れ!≫

≪第7、第8特火点、有線接続確認! 距離6000で起爆する!≫

≪第9特火点の移設を開始せよ! 韓国軍第25戦術機甲中隊、『レッドハート』 回収急げ!≫

全中隊が慌ただしく配置変更に飛び回り始めた。 視界の片隅で韓国軍の『レッドハート』のF/A-92ⅡKが8機、東の方向へ向けて飛び立つ姿が見えた。
第1陣で脱出する中隊に李大尉の中隊を強く推し、自身は志願して居残った朴貞姫大尉。
東部に1基設置した『特火点』を回収し、本部が指示した場所に再設置するのは彼女の中隊の任務とされた。

(・・・下手に動きなさんなよ・・・?)

最近の思い詰めたような感じを知っているだけに、どうにも気がかりだった。










1998年1月19日 1430 朝鮮半島南部 麗水市街中心部より西南2km


「松任谷、サポート!」

『了解!』

目の前で要撃級が2体、ビルの瓦礫の山を越して突進してくる。 BK-57の57mm APFSDS弾をコンマ数秒の間、1体に向け発射するが前腕でブロックされる。 
狙いはそこだ。 ブロックの為に空いた空間に、間髪入れずに57mmをたらふく喰らわす。
比較的軟らかな胴体本体を高速57mmでズタボロにされた要撃級が、体液を撒き散らしながら倒れる。

『中隊長! 右、2時!』

「ん!」

視界の片隅にもう1体の要撃級。 背後のBエレメントを指揮する四宮の声に、咄嗟に反応出来た。
接近したもう1体の要撃級が繰り出した前腕攻撃を、横噴射滑走(スライド・ステップ)で交わす。

『やッ!!』

こっちに向かってきた要撃級の無防備な側面に、今度はエレメントを組む松任谷が120mm砲弾を叩き込んだ。
射貫孔から内臓物をはみ出し、アスファルトに赤黒い体液を撒き散らせながら要撃級が倒れる。
後続のBエレメントも、四宮が巧みにリードして危なげなく戦っている。
幸い今度の波状攻撃、BETA群は小規模で500体程しか居なかった。 ものの数分で掃討する。

第2派のBETA群、約1万3000が殺到して来てから30分が経っていた。
第7、第8特火点を起爆させた戦果はBETA群約5000以上を殲滅。 地形が良かった、隘路から開けた地形になっていたが、周囲は高地で囲まれている。
BETAが開けた地形を埋め尽くしたその瞬間、東西の両端に設置していた特火点が起爆し、あの超高温・超高圧の巨大なエネルギーをBETA群に叩きつけて燃やし尽くした。

―――それでもなお、8000からのBETA群は無傷で残っている。

『問題は光線級だな、やはり数は減っていないだろうな』

『普段より多い気がするんスよ、気のせいじゃないぜ、絶対に!』

『BETA群の後衛は殆ど叩けませんでしたから・・・ 光線級、重光線級合わせて200体は下らないと思われます』

最上に摂津、四宮が焦燥を滲ませながら報告してくる。

そうだ。 本当なら3基目の特火点で潰せただろう後衛の大型種、特に要塞級は殆ど無傷で残った。 そしてその腹の中にいた光線属種もまた無傷。
逆に突撃級・要撃級と言った前衛・中衛に位置する大型種は粗方が消え失せたか、何とか始末出来ている。

「フラガラッハ・リーダーより各機、無駄話は後にしろ。 光線属種に関しては、その為に最後の1基の特火点による殲滅攻撃を期待する。
時間を少々取り過ぎた。 いいか!? その光線属種を殲滅出来る攻撃力を保持する為に、前方稜線上の小型種の群れを速やかに掃除する!」

―――『了解!』

「よし、では早速 ・・・!?」

自分の声に重なって、彼方の洋上で凄まじい轟音が鳴り響いた。 見ると、それは・・・

『・・・爆沈した。 『秋月』だ、第3護衛艦隊旗艦だ・・・』

誰の声だ?―――摂津か。 皺枯れた様な声を出していた。

先程から主砲有効射程圏ギリギリの海域まで進出し、127mm速射砲とALMを盛んに発射していた『秋月』が大爆発を起こしたのだ。
恐らくレーザー照射を、弾火薬庫かどこかに直撃を喰らったのだろう。 そして装薬が一気に誘爆したか。
1万トン近い排水量を誇る大型イージス駆逐艦が『ジャック・ナイフ』―――艦体を真っ二つにへし折り、轟沈した。


≪CPよりフラガラッハ・リーダー! 前方稜線上に重光線級3体を確認! 至急、掃討願います!≫

「中隊、急げ! 1秒でも早く目標を殲滅する! 護衛艦隊はレーザー照射圏内に留まり続けている! このままでは格好の的だ!」

麗水から洋上を見下ろす標高300m超の小高い稜線上に小型種が集まり始めていた。 数体の重光線級も確認出来る。
今しがたレーザー照射の直撃を受けて沈んだ『秋月』は、そいつらにやられたのだ。 
稜線上に重光線級や光線級に陣取られてはこちらの負けだ、その前に阻止しないと。

洋上の残存艦艇から発射されたAL砲弾・ALMをレーザー照射が迎撃する。 そのインターバルを利用して中隊を市街地のビル群、その残骸の中に潜り込ませる。
瓦礫が散乱し、倒壊しなかったビル群が立ち並ぶ市街地を高速水平噴射跳躍で一気にすり抜け、重光線級の認識範囲の死角に回り稜線の麓に辿り着く。
そのまま斜面を噴射跳躍で飛び上がる。 300mを一気に駆け上がるとそこには小型種BETAと共に、3体の重光線級BETAが洋上の方向を向いていた。

「B小隊、突っ込め! 戦車級が少数いる、集られるな! A、C小隊! 周辺掃討!」

―――『了解!』

突撃前衛の4機が真っ先に重光線級へ向かって突っ込んで行く。
急速に迫りくる戦術機に脅威度が大きいと認識し、重光線級がB小隊に振り向いて予備照射をぶつけようとするが・・・

『遅ぇんだよ! ここまで来たら手前ぇらは只の木偶の坊だ! 撃てぇ!』

B小隊の放った120mmAPCBCHE弾、36mmHVAP弾が重光線級に降り注ぐ。 
遠距離攻撃力は実に驚異的な重光線級だが、反面懐に潜り込まれては脆い事この上ない。
次々に射孔をあけられ、内臓や体液を撒き散らして崩れ落ちる。
その間、A、C小隊が36mm砲弾や120mmキャニスター弾で他の小型種を掃討する。 戦車級と光線級以外の小型種は戦術機の敵では無い。

「よし、稜線上を確保。 CP、大隊本部へ連絡!」

≪CP、フラガラッハ・マム、了解! ユニコーン・マム! フラガラッハが稜線上を確保!≫

取りあえず稜線上を確保したが・・・ 反対側、北側の市街地を見下ろして思わず舌打ちが出る。

『くそったれめ! とうとう戦車級まで集まって来やがった!』

摂津が悪態をつく。

光線属種は乱戦では殆ど『無力』と言っていい存在だ、懐に潜り込めばこちらのものだ。 だがそこに至るまでの小型種の数がいかんせん多い。
稜線の反対側、麗水市街方向から這い上がってくる小型種―――戦車級まで居る―――は目測で3000程か? しかも市街の北外れにはまだいる。
そして市街の後背に続く北の高地の裏側には、要塞級と光線級の一団が居る事も確認されている。

『・・・何だよ、あの数は・・・』

『な、何千体居るの・・・?』

―――鳴海と浜崎か。 訓練校を卒業してまだ半年も経っていない2人。 そして初陣でこの撤退戦。 
攻勢よりはるかに厳しい戦い。 ここまで何とか生き残って戦ってきたが、この情景を見て思わず心が引いてしまいそうになるのも無理はない。 
無理は無いのだが・・・ 拙いな、半期上の連中―――倉木に河内、宇佐美のバイタルモニターも、緊張の度合いが大きい事を示している。

「―――鳴海! 浜崎! 気持ちで引くな! 小型種が何千体いた所で、戦車級じゃなければただの雑魚だ、戦術機の敵では無い!
それにまだ光線属種は前面に現れていない! 連中の飛び道具はまだだ、まだこちらにアドヴァンテージが有る!」

『は、はいっ!』

『りょ、了解です!』

「倉木! 河内! 宇佐美! 貴様達のすべきことは!? 今ここで、この戦場で貴様達がやるべき事は何だ!? 貴様等のポジションは!?」

『う、右翼の打撃支援です! 右翼方向から前衛を支援します!』

『え、あ・・・ きょ、強襲前衛です! Aエレメントのサポートです!』

『左翼打撃支援です! 左からの侵入阻止です!』

「よし、ならすべき事を成せ! 貴様達が生き残るのは、すべき事をした時だ! そして貴様達はそれを知っている―――そうだな?」

―――『はいっ!』

「蒲生、瀬間、松任谷! 後任達を生き残らせろ! それが貴様達の生き残る道だ!」

―――『了解!』

よし、少しは活が入ったか。 精神論だけじゃ戦いは出来ないが、気持ちで負けていてはどれ程の装備があっても負ける。
そして改めて市街地を見る。 BETAの数は増え、しかも戦術機にとって最も厄介かもしれない戦車級BETAの数が増えてきた気がする。

(―――楽しからざる状況だな)

即座に戦術MAPを呼び出し、周囲の戦況を確認する。

第1大隊―――西南方向、高地の合間の谷で掃討戦を展開中だ。 直ぐには動けない。
海軍第341戦術機甲戦闘団―――東南部で激戦中だ。 東側から第9特火点へのBETA流入阻止戦闘中。
流石は最新鋭の第3世代戦術機、呆れるほどキレの良い機動を展開して縦横にBETAを屠っている。
台湾軍―――駄目だ、一番離れている。 西側の海岸線に出ようとしている要塞級と光線級の一群に対応中だ。
第2大隊の『セラフィム』、と『ステンノ』―――隣の稜線を確保。 大隊指揮小隊もいる。

となると。

「フラガラッハ・リーダーより、ユニコーン・リーダー、意見具申」

『ユニコーン・リーダーだ。 『フラガラッハ』、周防、何だ?』

「フラガラッハはこのまま一気に降下し、北側の市街地より上がってくる小型種を掃討。 
支援は『ステンノ』。 『セラフィム』は特火点設置作業中の『レッドハート』を直接護衛。
戦車級の数が増えています、あのまま稜線を越されると流石に拙いです」

戦力を2分する事になるが、今この状況に即応できるとしたら第2大隊しかない。
そしてこの状況に対応するには―――兎に角も麓から這い上がってくる小型種、特に戦車級を押し留める必要がある。

『こちらセラフィム・リーダー・・・ それしか無いわね』

『ステンノ・リーダーより、ユニコーン・リーダー。 大隊長、戦闘時間制限は?』

祥子が俺の案を支持し、美園は既にやる気でいる。 
大隊長の回答は―――『やれ、殲滅しろ。 10分だ』、だった。

「フラガラッハ・リーダーよりフラガ各機! このまま逆落としをかける! 『ステンノ』! 美園大尉! 支援願う!」

『ステンノ・リーダーより『フラガラッハ』! 逆落とし前に掃討かけます! リーダーよりステンノ全機! 『フラガラッハ』突入タイミングに合わせろ!』

―――『了解!』 『FOX01!』

フラガラッハ、ステンノ各中隊の制圧支援装備機から多数の誘導弾が発射される。 同時に中隊へ突撃命令を出した。

「リーダーよりフラガ全機!―――押せ!」

中隊が斜面の上から逆落としをかける。

―――『おお!』

みるみる迫ってくるBETA群。 57mm、36mmを左右に連射すると同時に、120mmキャニスター弾が炸裂し、誘導弾が広域に着弾する。


「リーダーより各機! 特に新米共! ビビって踏み込みを躊躇するな!
不用意な近接戦は厳禁だ、距離を保て! だが腰の引けた戦い方をするとBETAに差し込まれる! 
連中には光線級以外の飛び道具は無い! 落ち着いて、そして押せ! いいか!?」

―――『りょ、了解!』

新任達の声が聞こえる。 既に『死の8分』は無事に越えた、後は生き残る術を俺が実地で叩き込んで教えていくだけだ。

『B小隊! 吶喊する、付いて来い!』 

『左翼を護れ! C小隊、目標10時の戦車級!』 

『中隊長! 戦車級1時方向! 前衛のB小隊に肉薄します!』

「A小隊、斉射3秒! 目標1時―――撃ッ!」

小隊の3機、四宮中尉機、松任谷少尉機、倉木少尉機も突撃砲を断続的に連射しながら、機体をブーストダイヴからサーフェイシングに移らせる。
4機でダイヤモンド・フォーメーションを作り、側面から迫ってくるBETA―――主に戦車級―――に、射撃を集中する。
B小隊の側面前方から集ろうとしていた戦車級BETAの群れに、松任谷が放った突撃砲の曳航弾が集中してBETAが赤黒い霧状になって吹き飛ばされる。
四宮が120mキャニスター砲弾をまとめて連射する。 群の中に大穴を開け、残った個体を倉木が36mmで横に薙ぐように射線を振って一気に薙ぎ倒す。


『倉木! その調子! 決して焦るな、大丈夫よ!』

『了解です、中尉!』

『中隊長、摂津です! 前方1000に要撃級! 生き残ってやがった、約50!』

『最上です! 中隊長、左翼からも約40が接近中! 小型種も約300!』

正面に50の要撃級、左翼に40。 一度に相手取るのはホネだ。

「フラガラッハ・リーダーだ! ステンノ・リーダー、左翼を任せて良いか?」

『ステンノ・リーダーです、左翼、了解!』

『周防、指揮小隊も加わろう。 『ユニコーン』! 『フラガラッハ』と『ステンノ』の間を護れ! 行くぞ!』

『大隊長! 部下の美味しいところ、余り横取りしないで下さいね!
リーダーよりステンノ全機! ようやくパーティー会場だよ! 思いっきり踊れ! いっけぇ!』










1998年1月19日 1440 朝鮮半島南部 麗水市街より西南西3km 第9特火点設置地点


サークル・ワン・フォーメーションを組んだ『セラフィム』中隊の周囲には、500程の小型種が群がり始めていた。

「リーダーよりセラフィム全機! 何としてもここを守り切れ! 『レッドハート』の作業の邪魔をさせるな!」

中隊長の綾森祥子大尉が声を枯らして、部下を叱咤する。
円周内部では『レッドハート』の1個小隊が、『特火点』の最終調整を行っている真っ最中だった。
残る1個小隊は『セラフィム』の指揮下に入り、必死の防戦を行っている。

両腕と背部のマウント2基に装着した4門の突撃砲を同時に使って、36mm砲弾の弾幕を形成する。
大型種が来なかったのは幸いだった。 もし来られていては、こんなフォーメーションでは維持できなかった。
四方から唸るような突撃砲の重低音が聞こえる。 自身も同時複数ロックオンで4方向のBETAの群れへ短く、連続した射線を送り続けていた。

「セラフィム・リーダーより、レッドハート・リーダー! 設置はまだか!? 朴大尉! 貞姫!?」

『・・・こちらレッドハート・リーダー。 セラフィム・リーダー、爆発影響圏にいる全部隊に退避勧告を行って頂戴』

「設置は完了したの!?」

『・・・設置はね。 でも有線遠隔起爆装置が不調、どうやら信号受信部の故障の様ね。 直接起爆しか手が無いわ』

「ッ! 直接起爆・・・!?」

そんな事をすれば、起爆を行った者は確実にS-11の爆発に巻き込まれてしまう。
一瞬の隙を突いて群がってきた戦車級の一群に120mmキャニスター砲弾をお見舞いして、綾森大尉は朴大尉に言い返した。

「HQに指示を仰ぎましょう! S-11ならまだ他に搭載した機体は有るわ! そこから取り外せば、まだ・・・!」

『時間が無いわよ。 それに不具合はS-11本体じゃ無い、起爆信号受信装置よ。 それに、もう既に2km先の谷間まで光線級が来ているわ。
日本軍が必死の誘導をかけて『キル・ゾーン』に連れてくるまで、後20分も無いわ』

「朴大尉・・・ 貞姫!」

『私がここで起爆させる。 ついでに私の機体の分もね、2発有ったら結構な威力になる』

「ど・・・ どうして、そんな・・・」

―――どうして、死のうとするのか。 どうして、生き残る道を捨てるのか。

いや、違う。 不意に綾森大尉は間違いに気付いた。 生き残る道を喪わない為に、ここで死のうと言うのだ、朴貞姫大尉は。










1998年1月19日 1445 朝鮮半島南部 麗水市街西南西1.5km 市街後方の隘路入口付近 帝国軍第2大隊


『うわぁ! 来ないで、来ないでぇ!!』

『浜崎! 突撃砲を離せ! まだ主腕に取り付かれていない!』

『いや! いや! いやぁ!!』

『馬鹿! 蒲生、どけ!』

不意に聞こえた部下達の悲鳴と怒号。 振り向くとB小隊の浜崎少尉機に戦車級が2体、集り始めていた。
小隊長機である摂津中尉機から突撃砲の36mm砲弾が吐き出され、浜崎少尉機の右主腕関節部から前を吹き飛ばす。

『くっ! きゃあ!』

吹き飛ばされた主腕と一緒に、突撃砲に集っていた戦車級BETA数体も霧散した。

『しょ、小隊長! 味方機を撃つなんて・・・!』

『はん! 突撃砲だけ狙い撃ちなんて、んな器用な真似できるか! IFF!?―――この乱戦だ、そんなもん、とうにオフってる! 
それよか、蒲生! 馬鹿野郎、手前ぇ、今まで何を見てきた! 何を戦ってきた!
右が無くても左が有る! 人の手じゃねぇンだ! 壊れたら修理すりゃ済む!―――浜崎、呆けるんじゃねぇ! さっさと予備を取り出せ!
河内! ぼさっとすんな! 正面、距離300! ぶっ放せ!』

『りょ、了解です・・・ッ!』

『ラ、ラジャ!』

B小隊が多少混乱をきたしている。 
その様子を確認しつつ、右に複数ロックオンしたターゲットに射線を送りながら、全体視界の片隅に映るバイタルモニターをチェックする。
浜崎は動転状態だ(モニターでも涙目で歯を食いしばっている) 後催眠暗示・・・ いや、まだいけるか? まだそこまでチャートは乱れていない。


『Bエレメント! 前に出るな! 瀬間!』

『くっ! 了解!―――鳴海! 鳴海ぃ!! 戻れ! 下がれ!―――下がりなさい!』

『うわぁ・・・!!』

『C03、宇佐美! 鳴海機を支援しろ! キャニスターだ!』

C小隊、こっちは鳴海か! あちらでも、こちらでも・・・!

「最上! 摂津! 新米達をパニックにさせるな! 中隊フォーメーションが崩れる! 小隊間隔をもう一度保て!
四宮! Bエレメントの距離を詰めろ! 開き始めている!」

『了解! ・・・くっ、了解だけど・・・! 倉木! 遠間のBETAに構うな! まだ脅威じゃないわ!
Aエレメントとの距離を詰めるわよ! BETAに入り込まれる前に!』

『ぐっ! 了解です!』

―――くそ! 思う様な戦いが出来ない。 
去年の遼東半島より初陣の部下の比率が高い、それがここまで影響するとは! 誤算だった、俺の判断ミスだ!

「フラガラッハ・リーダーだ! ステンノ・リーダー! 美園! こっちは市街東部のBETA群を阻止出来そうにない!
このままでは予定より早く後ろの隘路に入りこまれる! 支援可能か!?」

『ダメ! こっちも手一杯! フラガラッハ・リーダー! 周防さん! 逆にこっちが早く突破されそうだよ!』

市街地の大通りを挟み、ビルの瓦礫が乱立する西部地区を担当する『ステンノ』中隊。 新米がこっちと同じくらい多い部隊で、市街地遅延防御戦は厳しいか。
こちらにしても、広いロータリーを挟んで粗方建物が倒壊した場所での戦闘だ。 瓦礫で足場が限られ、光線級の出現を気にしつつ戦うやり方は機動が制限される。

―――都市は軍を飲み込む。

古来より言われてきた言葉だが、流石に今回は実感したぞ・・・!

『中隊長! 市街北東から新手のBETA群! 要塞級100以上を確認!』

≪CPよりフラガラッハ・リーダー! UAVが市街北方で撃墜されました! 光線級です!≫

(・・・とうとう、本命が来やがった・・・)

周囲を見渡す。
中隊前面と左前方にBETA群、約2000  『ステンノ』の前面にもほぼ同数。 そして新手、しかも要塞級と光線級もいる。

「―――潮時か。 もう少し粘れると踏んでいたんだがな・・・
フラガラッハ・リーダーよりユニコーン・リーダー、意見具申! まだ統制がとれている内に、後ろの隘路に誘導攻撃しつつ後退を進言します!」

『―――妥当な判断だ。 よし! 大隊、射撃を加えつつ、後方の高地側面の隘路まで徐々に後退する!
隘路の出口が特火点の爆発正面だ! 突破はされるな、まだ『レッドハート』と『セラフィム』の設置作業が終わっていない!』

―――『了解!』









1998年1月19日 1500 朝鮮半島南部 麗水市街西南西3km 第9特火点設置場所


射撃音が止んだ。 どうやら何派目か数える気が失せたBETA群の波状攻撃、その何派目かを撃退したのだ。
海軍と台湾軍の部隊が粘っているが、隙間から洩れ出す小型種の流入が止まらない。

『ヴァルキュリア・リーダーより『セラフィム』! 完全阻止は出来ない、撃ち漏らしはそっちで頼むわよ!』

海軍戦術機甲部隊の指揮官、白根斐乃少佐のバストアップ姿が網膜スクリーンに浮かび上がる。

「セラフィム・リーダー、了解。 白根少佐、今しばらくお願いします」

『判ったわ。 せめて厄介な戦車級だけでも阻止―――出来なかったら、後ろでお願いするわね』

「お任せを」

『頼るわよ?―――新手が来たぞ! 鴛淵、林! 北側の一群に当れ! 台湾軍、王大尉! ここで『底』を死守! 菅野! 西に回った連中を止めろ!』

新手の波状攻撃に対し、特火点東側守備部隊である海軍第341戦術機甲戦闘団(台湾軍1個中隊を含む)の96式が一気に展開する。
まだ正面の隘路出口からBETAは出現していない。 第2大隊主力は未だ健在で、そして遅滞誘導戦闘を継続しているのだ。


―――ここで決断しなければ。 私が決断しなければ。
このままではいずれ大隊主力はBETAの大波に飲まれてしまうだろう。 そうなれば直ぐにでもこの場所にBETA群が殺到してくる。
でも、方法は結局直接起爆しかない。 HQでも、もう有線遠隔起爆装置の予備は無いと回答してきたのだ。

網膜スクリーンに移る朴大尉の顔を見る―――微笑んでいた。 哀しい色を湛えて微笑んでいた。

『綾森大尉・・・ 祥子、貴女、周防とはどうするの?』

「・・・え!?」

――この局面で、急に何を場違いな話を!?
一瞬、秘匿回線であるにもかかわらず、綾森大尉は周囲を見渡してしまう。

「な、何を! 貞姫、今そんな事言っている場合じゃ・・・!」

『今だからこそよ。 ああ言う危なっかしい男、気をつけなさいよ? しっかり手綱握っていないと、どこで勝手に死んじゃうか判らないからね・・・』

「・・・貞姫?」

『私からの忠告。 ・・・私には夫と幼い息子がいたわ、話したかしら?』

―――初耳だった。

『そう、話して無かったのね、周防の奴―――夫は昨年の夏に平壌防衛戦の最中、大同江(テドンガン)の河畔で戦死したわ、戦車乗りだったの。
小さい頃からの幼馴染でね。 ちょっと無鉄砲で、やせ我慢が過ぎる人だったけど・・・でも、優しい夫だったわ・・・』

「貞姫、貴女・・・」

『息子は・・・ まだ赤ん坊だった小さな私の息子は・・・ 義母と共に漢江(ハンガン)を越える事が出来なかったの。
軍が漢江に架かる橋を落とした時は、まだ北岸にいて・・・ 南に脱出出来なかった。 義母・・・ 息子のお祖母様と一緒に死んだわ・・・』

綾森大尉は何も言えなかった。
衛士では無く、軍人でも無く。 1人の妻として、1人の母として、何より1人の女として語りかけてくる朴貞姫大尉に。

『一緒に生きたかった、せめて一緒に死にたかった。 あの人は最後に私の事を想ってくれただろうか、そんな事ばかり・・・
小さな私の坊やは、どれ程怖かっただろう・・・ お祖母様に抱かれながら、泣いただろうか・・・ 私に、母親に助けを求めただろうか・・・』

さっきからしきりに部下が指示を仰いできている。
もう時間が無い、本当に早くしないと脱出作戦が失敗する。

『もう、夫と一緒に生きていく事が出来ないのよ・・・ もう、小さな私の坊やを抱いてあげる事が出来ないのよ・・・
せめて・・・ せめて、夫と息子が眠る同じ祖国の地で死にたいのよ。 そして私の死が、皆を生き残らせるのであれば・・・ 
私は、向うで、笑顔で夫に会いに行ける。 笑顔で坊やを抱いてあげる事が出来る―――祥子、判って頂戴』

―――慄然とした。 そして教えられた。 この時代、この戦場で人を愛する為にはどれ程の覚悟が必要なのかを。

『・・・私の部下達には、装置の故障が判明した時に言い聞かせて有るわ、心配しないで』

『・・・隊長! 中隊長! そろそろヤバいです! 大隊長から矢の督促が来ています! 防衛線の『フラガラッハ』も、『ステンノ』も、いい加減限界だと!』

中隊副官を務める支倉志乃中尉の姿が、網膜スクリーンにアップで現れた。

『ユニコーン・リーダーだ! セラフィム・リーダー! 綾森! 設置はまだか!? 『フラガラッハ』が苦戦だ!
新任を庇いつつでは、周防も思うようにいかん! 『ステンノ』の美園も、フォローしきれん!』

大隊長・荒蒔少佐の怒声が響く。

無意識にスクリーンの隅に映る朴貞姫大尉を見る。 
朴大尉は微笑んで―――哀しい、しかし満足したような微笑みを返してきた。

『周防はまた、志願して最前線のようね。 危なっかしい男だけれど・・・ 不思議よね、彼が前線に立っていると何だかやれそうな気がしない?
知り合ったばかりの昔と違って、今は余裕かしらね? そんな感じが戦場でも判る。 
ずっとそう思っていたわ―――祥子、行きなさい。 彼を死なさない為に』

「ッ!―――セラフィム・リーダーより中隊、これよりS-11爆発影響圏外に離脱する! 『レッドハート』残存全機は以降、綾森大尉の指揮下に入れ!
セラフィム・リーダーよりCP! 大隊長へ連絡、『設置完了、全部隊の爆発影響圏外への移動を至当と認む!』―――以上! かかれ!」


次々に離脱してゆく戦術機群。 
HQからの緊急連絡が入ったのだろう。 海軍機も台湾軍機も一斉に噴射跳躍で、瀬戸を挟んで半島の直ぐ先にある小島の陰へと向かっている。
第1大隊が半島の西側を巻くように海岸線を南に向けて突進している、台湾軍の1個大隊も一緒だ。
そして稜線の向う側から第2大隊―――自分の所属大隊も姿を現した。

1機の戦術機に目が行く。 スクリーンに現れる戦術情報、その機体が『181TSFR-22A1』の識別コードを持っている事を示していた。
帝国陸軍第18師団第181戦術機甲連隊、第2大隊第2中隊長機―――周防直衛大尉。

(直衛、直衛・・・ 直衛・・・!)

何を言いたいのか、何を想っているのか、自分でもよく判らない。
でも自分は女なのだ。 彼女と同じ女なのだ。

(直衛・・・ 直衛!)

遠ざかりつつある、そして無数のBETA群が殺到しつつある『特火点』設置位置に、1機佇む戦術機の姿。 
その姿は『祖国』と言う名の『夫』を、そして『我が子』を護らんとする妻の、そして母の姿に見えた。






『―――貴方達の居ない世界で、私は生きていく自信がないの・・・』


1998年1月19日 1510 朝鮮半島南部、麗水。 光線属種を含むBETA群が姿を現したその時、一つの光球が発生した。
やがて内包した巨大なエネルギーが指向性を持って解放され、超高温・超高圧の美しい地獄を出現させてBETA群を一気に消滅させた。


1998年1月19日 韓国陸軍・朴貞姫中佐、麗水にて戦死。(戦死後、2階級特進)










1998年1月21日 1600 対馬 帝国陸軍対馬駐屯地 上見坂(かみざか)演習場


―――いた。

ようやく探し当てた、こんな所にいたのか。

「―――祥子」

夕暮の中、夕日に照らされたその人影は思わずビクリ、と震えた様な気がした。

「・・・直衛?」

「祥子、こんな吹きっ晒しの場所で何をしているんだい? まだ1月だぞ?」

「・・・」

無言か。
事情は判っている。 さっきから見える筈も無い麗水の方向をずっと見ている。

「祥子、俺は朴中佐の死を賛美はしない。 そして卑下もしない。 彼女はやるべき事をやって、そして死んだ。
そして長い、長い先達の列に加わった。 その足跡をどうするかは、生き残った俺達の責務だよ・・・」

「・・・ううん、違うの・・・」

不意に無言だった祥子が呟いた。 違う?―――何が違うのだ?

「彼女は確かに責務を果たしたわ。 でも・・・ 彼女は妻として、母として・・・ 女として死んでいったのよ・・・」

「え・・・?」

「怖いのよ・・・ 彼女の死が、その死に様が・・・ 怖いのよ、愛する事が! 
私だったらどうする!? 直衛、もし貴方が先に死んでしまったら! 私はどうすればいいの!?―――怖いのよ、私の中の愛情が!」

―――そうか、知ってしまったか。
俺自身も昨日、李珠蘭大尉から聞かされて知った。 朴貞姫中佐の夫君とご子息の事を。

「貴方のいない世界で、私はどうやって生きてゆくの!? ・・・耐えられないっ そんな事、耐えられないっ・・・!」


(『ちゅ、中尉! ご結婚されていたんですか!?』)

(『そうよ。 人妻よ。 ひ、と、づ、ま!』)

まだ少尉の若造だった頃の俺と、中尉になったばかりの頃の朴中佐の姿が脳裏に浮かんだ。
あれは何時の頃だったか。 ・・・ああ、確か『九-六作戦』の時だ、93年の9月。 場所は黄海の洋上、海軍の戦術機母艦の艦上だった。

(『悩め、悩め、若者。 それも青春さ! でもね、恋愛の先輩として一言、言わせて貰うと。
男と女の関係なんて正解は無いんじゃない? 結局、それぞれだしね。
お互い幸せなら、それが本人たちにとっての『正解』なんだよ、きっと』)

(『はぁ。 『人妻』の言葉は重い、って事ですか?』)

(『ふふん』)


―――ああ、そうだな。 その通りだと思いますよ、朴中佐。

「・・・勝手に人を殺すなよ、祥子?」

「・・・え?」

「勝手に人を殺すなって。 これまで何度も死にそうになった事が有る。 本当にS-11の起爆シーケンスを起動させた事も有ったよ。
でも生き残った。 生き残って今ここにいる。 それに・・・」

「・・・それに?」

「朴中佐は、朴中佐だ。 彼女のご主人は、彼女のご主人。 決して祥子でも、俺でも無い、だろ?」

―――まだ踏ん切りがつかないか。
祥子の表情はまだ晴れない。

「朴中佐と、彼女のご主人の物語はああ言う結末で幕を閉じた。 彼等の舞台の主役が演じた物語はね。
―――多分さ、人を愛するって、死よりも、死の恐怖よりも強いんだろうな。 だから朴中佐は・・・ 微笑んで死んでいけたんだろうな」

「・・・」

「だけど人はそれぞれだ。 俺達には、俺達の物語が有る―――今、こうして生きている俺達の物語が」

「直衛・・・」

「俺は君の事を愛している。 だからその想いは死よりも強い。 死の恐怖よりも強い。 だから―――死神なんて、突撃砲で蜂の巣にしてやるのさ」

「・・・は?」

「君を残して死んだりなんてしない―――何を確証のない事を、なんて言われるかもしれないけどね。
君を愛している限り俺は生きる。 93年の夏だ、言っただろう?」

「・・・ええ、ええ、言ったわ、私も!」

1993年8月。 俺にとって人生で最悪の夏。 そして最良となった夏。
俺達がお互いの『生きる理由』になった、あの夏。

「だから、それが俺達の物語だ。 先に逝った先達の物語を語り続けよう。 そして俺達の物語を続けよう―――他の物語じゃない、俺達の物語をね」


祥子が胸に飛び込んで来た。 抱きしめる、彼女の温かさが伝わってくる。

多くの人々に出会った。 多くの死を見てきた。 そしてより多くの、必死に生きる生を見てきた。
この世界がどうなるかなんて、今の俺には判らない。 BETAを駆逐できるのか、それともこのまま滅亡の淵へと突き進むのか。

だがこれだけは言おう、俺は彼女を愛する。 そして生き抜く。 世界がどうなるかは、この世に生きる無数の『俺達』が紡ぐ物語の結末なのだから。

「俺は・・・ 俺は、自分の『生きる理由』の為にこれからも戦う。 そして生き抜く。 それが俺の―――俺達の物語だ」

祥子が無言で縋りつく。 俺は無言で彼女を抱きしめる腕に力を込めた。


夕暮は薄暗闇に支配を譲っていた。 まるで現し世を示すかの如く。
でも明けない夜は無い。 夜は必ず明けるのだ。―――その日まで、今の言葉を刻んで俺は戦い続けてやる。









1998年1月25日 日本帝国政府は九州全域、四国、山陽、山陰の一部地方に対し、緊急勅令による行政戒厳令を宣告する。

1998年2月1日 日本帝国陸海軍、航空宇宙軍は第2予備役までの総招集を発令した。



永きに渡る極東アジアの戦場から、ユーラシアが姿を消した。 

これからはユーラシアの東の果ての弧状列島が、その命と、涙と、辛苦と、そして勇気を試される事となるだろう。






『帝国戦記 第1部 完』




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