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No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
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[7678] 北満洲編12話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:9456c3d1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/04/24 02:55
1992年12月17日 1550 黒竜江省チチハル北方 50km 北満洲・最終防衛ライン付近


外気温マイナス22度。 晴天。 辺り一面、凍結された銀世界―――――そして、この世の地獄。




『ゲイヴォルグ・リーダーより、B01! B小隊は左翼の穴を塞げっ! BETAの突破を許すな! 機甲部隊の側面が、ガラ空きになる!!』

『B01よりリーダー! 了解! B小隊! お仕事やっ ついて来んかいっ!』

『B02、了解です!』 『B04、了解!』 「B03、了解っ!!」

B小隊長(Bフライト・リーダー)の木伏中尉が、水平噴射跳躍をかけると同時に、続く3機のF-92J「疾風」も追随する。

俺は背後で、連隊規模弱のBETA群を相手取っている、A、C小隊をちらり、と見る。
しかし、仲間の苦戦よりも今は左翼から突破を図る、大隊規模のBETA群への対応が急務だった。
このまま突破されれば、敵主力への集中斉射を加え続けている機甲部隊―――連隊規模の戦車部隊―――の横腹に突っ込まれる。

『B01より各機! 目標、前方1時のBETA群、距離900! 目の前の≪御馳走≫に目ぇ眩みよって、まだこっち向いとれへん!
800で120mmぶっ放せっ! 以後、兵器使用自由!』

『『「 了解! 」』』

幸いに、と言うべきか。 装甲殻の固い突撃級はいない。 要撃級が都合80体程、他は小型種だ。

今回、小隊は全機が強襲前衛装備だ。 兎にも角にも、火力、火力、火力。

兵装選択―――左・突撃砲、120mm 弾種・APCBCHE弾  右・突撃砲、36mmHVAP
目標選択―――左・1時方向、距離860の要撃級  右・2時方向、距離1170の小型種多数
目標補足―――マルチロックオン

『B01、ファイア!』 『B02、オープン・ファイア!』 『B04、射撃開始!』
「B03、ファイア!」

4機の「疾風」から、120mm砲弾が一斉に吐き出される。
ようやく側面から突進してくる『障害』に気づいた要撃級が、素早く水平高速旋回をかける。 が、一瞬早く、その横腹を120mm APCBCHE弾が貫く。 
4体の要撃級が、体液を吐き散らしながら倒れる。

4機の戦術機はフォーメーションを保ったまま、右―――BETAの後方へ高速機動旋回する。 
目前の小型種を36mmと120mmキャニスターで一掃しつつ、更に要撃級の「裏腹」へ36mmを近距離より叩き込む。 8体を無力化する。

ようやく、要撃級の高速旋回が「終わった」 前方に小型種の群、後方に急速接近する要撃級の1群。


『ゲイヴォルグB01より、サンダーヴォルト! お客さんに、ケツ向けさせたで! 仕舞頼むわっ!』

『サンダーヴォルト01より、ゲイヴォルグB01。 了解した! 流れ弾に当たるなよ?』

『下手糞の流れ弾っちゅーんは、予測付かんわいっ!』

『ほざけっ! 長車よりカク・カク! 目標! 前方1800! 要撃級! 斉射3連! ≪人形遣い(戦術機乗り)≫に、戦車兵の意地を見せてやれっ!
――――――――っ射ぇ!!』

協働部隊である90式主力戦車の、120mm滑空砲が咆哮を挙げる。
1個中隊・15両の戦車から吐き出された高速120mm砲弾は、戦術機の突撃砲を上回る高初速でBETAに殺到する。
そして――――3連射全てが、その「柔らかい裏腹」を抉り、射貫し、炸裂した。


『よっしゃ! エエ腕やっ、サンダーヴォルト!』

群がり始めた小型種を、高速水平面機動でかわしつつ、掃射を浴びせかけていた木伏中尉――B01――から、陽気な称賛が響く。

『へっ! 任せなっ! ―――っとぉ! やばい! こっち向き始めやがったっ! 一旦ずらかるぞっ
ゲイヴォルグB! お後は宜しくっ!』

『よっしゃ! 任せときっ! B小隊! 残りの要撃級、24体! 残らず食い尽せっ!
雑魚は、戦車級以外は無視や! いくでっ!』

B01・木伏中尉とB04・神楽少尉のAエレメント(分隊)が一直線に、後ろを向ける要撃級へ突進する。

『B02より、B03! こっちも行くわよっ!』

「B03、了解! フォワード行きます! バックス宜しく!」

Bエレメントの祥子さんと俺も、2機前後して要撃級の群へ突進する。


距離300

4機の急接近に感づいたBETAが、再び高速旋回をかける。
Aエレメントは突進していた機動を、急激に右水平噴射跳躍で方向転換。 そのままBETAの旋回方向と逆回りの高速旋回機動を行う。
そして同時に2機4門の突撃砲から、36mmの斉射を浴びせかける。

その間、Bエレメントはヘッドオンで突進。 俺が距離100で噴射跳躍。 BETAを飛び越しざまに、120mmキャニスターを連射。 2体を仕留めて着地。 
そのまま水平跳躍噴射をかける。
その機動につられて旋回したBETAの裏腹を、祥子さんが36mmで掃射。 そして一気に水平噴射跳躍でBETAの外側をすり抜けながら、短刀で切りつけ、抜き去る。
13体を無力化する。

一連の「疾風」4機の異なる機動に翻弄され、要撃級の群れは動きの統一を失った。

一瞬、密集して本来の動きが止まった要撃級に、木伏機・神楽機が右側面から長刀を着剣して襲いかかる。
戦術機の装甲を、軽く打ち破る前腕で防御する要撃級。 だが2機はその前に短距離噴射跳躍で側面に急速移動、後部胴体を叩き切る。
そして、そのまま更に急速旋回・水平噴射。

その動きに追従して、横腹や裏腹を曝した5体に、祥子さんと俺が、120mmと36mmを浴びせかける。

『残り4体やっ! デザートは仲良う食ってまえっ!』

「食欲の湧かない、デザートだなぁ。」

『B04よりB01! 後方550、小型種多数接近!』

『っ! さっさと4体片づけるでっ! あんだけの数、いっぺんに通したら流石にヤバいわっ!』

「B02了解! B03、右の2体、やるわよっ!」

『B03、確認。了解です。』

俺と祥子さんの2機が、右方向の要撃級2体に突進する。


『B04! いっちゃん左の1体、任す! ワシは中央の奴、片づけるさかいなっ!』

『B04、了解! ―――――っでああぁぁ!!』

応答しながら、要撃級に突進した神楽機が、直前で高速軸回転しながら前腕の打撃を交わし、その勢いを利用して長刀で切り伏せる。

『おっ!? やんなぁ! ――――っとぉ! おりゃあ!』

木伏機が、突進して前腕を繰り出してきた要撃級、その直前でバックステップ―噴射跳躍で交わしつつ、側面上方から36mmの雨を浴びせかけ、要撃級を穴だらけにした。


Aエレメントが2体を倒した時、俺達Bエレメントも2体の要撃級を、高速挟差機動(シザース)で仕留めていた。

『B01より各機! 陣形・水平複弐型(フラット・ダブル・ツー)! ダブル・ライン作れ! 雑魚共、1匹も通すなっ!』

『こちら、ウッドストック! ゲイヴォルグB! 隙間は俺達が持つ!』

機甲部隊なけなしの、近接阻止戦力。 87式自走高射機関砲の中隊だった。 1門当り毎分550発の35mm機関砲弾をばらまく。
12両で24門。 小型種相手の近接阻止火力としては、十分な威力だった。


『頼むでっ! 距離350! 射撃開始!!』
『全車、撃てぇ!!』

8門の突撃砲の36mm砲弾と、24門の高射機関砲の35mm砲弾の、横殴りの集中豪雨が突進する小型種に降り注ぐ。
大型種を遥かに上回るその俊敏性で、射弾を避けようとするが、広くばら撒かれた射界が一気に絡め捕り、なぎ倒していく。


『射撃止め! 射撃止め!』 『シーズファイア!』

両部隊の指揮官から、射撃止め、がかかる。
辺りは、凍結した白銀の雪面の上に、赤黒いBETAの内臓物と、濁った緑の体液がぶち撒けられている。
その、比較的高い温度で雪面を溶かし、陽炎のように湯気がたゆたっていた。


『こっち方面は、何とか止まったなぁ・・・』

木伏中尉が独りごちる。

『ゲイヴォルグリーダーより、ゲイヴォルグB01! そっちはどうだっ!?』

『B01よりリーダー。 何とか阻止しましたで。』

『よしっ じゃあ戻って手伝えっ! 更に増援が増えやがったっ! このままじゃ、洒落にならんっ!』

『っ!! 了解っ! お前等! 超特急で戻んで!』

『『「 了解っ! 」』』



その日の1835時、ようやくの事で統合軍・満洲方面軍は、全面南下侵攻してきた「軍」規模のBETA群を阻止した。

しかしそれは、ここ2ヶ月間続いている、大消耗戦の一幕に過ぎない事は、最早誰の目にも明らかだった。

BETAは―――――本格的な南進を開始したのだ。











1992年12月23日 2200 黒竜江省 チチハル郊外 独混第119旅団 野営陣地


寒い。 全くもって、寒いのだ。 外気温、マイナス31度。 おまけに、今夜は風も強い。

「直衛。 はい、コーヒー。」

愛姫が保温ポットからコーヒーを淹れてくれる。 本当は「コーヒーモドキ」だ。 
味の方は・・・ 『コーヒーの感じがすれば、上出来』と言われるほど、不味い。
だけど、この極寒の中、少しでも体内を温める事が出来る事は、生死に繋がる。

「ん・・・ サンキュ。 愛姫、ウィスキー、入れるか?」

「うん。 ちょっとだけ、頂戴。」

俺は自分のコーヒーモドキのカップに、ウィスキーを少々入れてから、フラスコを渡す。
アルコールには弱めの愛姫は、せいぜいスプーン1杯分位しか入れない。
俺? 俺は・・・

「でも。 圭介もだけど、直衛も。 ウィスキー入りコーヒーじゃなくって、『コーヒー入りウィスキー』だよねぇ・・・」

「そんな事無いだろ。 いくらなんでも・・・ お前も、もう少し入れないと。 温まらないぞ?」

「いいよ。 その前に酔っちゃいそう。」


今、俺と愛姫は、夜間の警急待機(アラート・スクランブル)だ。
と言っても、辛うじて風雪を避けられる、岩山の裾野に設置された野戦陣地。 そこの戦術機仮設ハンガー(露天)脇のテントの中だ。
一応、防寒処置が為されているのだが、この北満洲の真冬は、シベリアのそれに匹敵する極寒だ。
いくら強化装備が耐寒・保温効果に優れ、防寒ジャケットに身を包んでいるにせよ、染み込んでくる寒気には逆らえない。

じゃあ、何故そんな寒さに耐えているのかと言うと。
簡単だ。 俺達の基地―――依安基地は既に無い。

10月の初旬、H19・ブラゴエスチェンスクハイブの個体数急増が観測されて以来、3日とあけずにBETAの波状侵攻に晒され続けた。
方面軍は全力で防戦。 後方で休養や待機していたローテーション外の部隊まで、根こそぎ投入して、だ。
まるで7か月前、着任して間もない頃に発生した「5月の狂乱」を彷彿させる ―――― いや、それ以上の大規模侵攻が続いた。

こっちは堪ったものじゃ無かった。
何せ、消耗に補充が全く追い付かない。
軍は見る見るうちに戦力を消耗させていき、10月中旬には第1防衛線の北安を放棄。
先月の上旬には第2防衛線、つまり、俺達の基地をも放棄せざるを得なくなった。

今は、北満洲での最終防衛線――――チチハル、大慶、ハルビンを死守すべく、1ヶ月近く攻防戦を展開している。
俺達、帝国軍部隊はそんな中、左翼防衛部隊として、ここの所ほぼ連日、BETAと殺りあっている。

3個師団と5個旅団、他に機甲部隊や、機械化装甲歩兵部隊を含め、1個軍規模だった大陸派遣軍が、2ヶ月に及ぶ苦戦で、今や戦力は1/3程に減少してしまった。

戦術機部隊では、やはり、と言うべきか。 「撃震」配備部隊の損耗が目立つ。
52師団と54師団は、戦力の2/3を枯渇。 最終的に52師団に統合された。(54師団長は、混戦時の無能ぶりが問題視され、本国へ送還された)
第112、第116旅団は、俺達の第119と第120旅団に吸収された。
第108旅団は、依安防衛戦で文字通り、司令部要員全員(旅団長も)に至るまで、戦死・全滅した。

俺達の第119旅団も、無傷だった訳じゃ無い。
幸い、第23中隊≪ゲイヴォルグ≫は、機体損傷は有ったけど、戦死・戦傷者は出ていない。
しかし大隊36機中で、2個小隊・8機の戦力が失われた。
旅団5個大隊でも、約1.5個大隊分、42機を失った。

やはり、混戦の最中で、どれだけの機動自由度が有るか、が大きい。
「撃震」は、「疾風」と比べて重装甲だが。 そんなもの、BETA―――突撃級の衝角攻撃や、要撃級の前腕での打撃、戦車級の強靭な顎。
そう言った物理的攻撃の前では、程度問題だ。

結局、如何に回避するか。 俺はこの2ヶ月の間に、その事を嫌と言うほど実感した。
そして、「疾風」の採用と、富士教導団で検証され、アップデートされたOSの搭載。
この2点の有効性を再認識した。――――多くの戦友達の断末魔の悲鳴や、号泣、悲憤を聞きながら。


そんな思いに浸っていた為。 ボーっとしていた俺は、愛姫も何時になく静かなのに、気が付かなかった。


「そう言えばさ。 この間、国連軍の友達に、聞いたんだけどさ。」

愛姫が、カップを両手で抱えて、手を温めながら話し始めた。

「明日。 12月の24日ね。 『クリスマス・イブ』ってお祭りの日なんだって。」

「ん? どんなお祭りなんだ?」

「なんでも、キリスト教のお祝いみたい。 正確には24日の夕方から、25日にかけて。
何をお祝いするのか知らないけど。 明日の夜は、家にモミの木を飾って。 ケーキや御馳走を、家族で囲んで食べるんだって。 あ、あと、プレゼントとか。」


愛姫は、結構物おじしないと言うか、いい意味で馴れ馴れしい処が有って。
帝国軍以外でも、中国軍や韓国軍、国連軍なんかに「友達」が結構居る。
今のネタは、国連軍からだったか・・・

「ジュリオラからか?」

俺の知る、愛姫の友達関係で、国連軍の中では1番親しそうな衛士の名を言ってみる。

「うん。 あ、あの子はキリスト教でも、カトリックだって。 プロテスタントとは、宗派は違うって言ってたよ。」

どう違うのか、俺にはさっぱり判らん。

「小さい頃。 まだイタリアがBETAにやられていなかった頃。 お父さんやお母さん、兄弟姉妹で一緒に祝って、楽しかったって・・・」


・・・イタリア出身のジュリオラ・エッティ少尉か。
彼女は、極東国連軍に所属する、数少ない欧州系の衛士だが、その故郷は既にBETAの勢力圏下になって久しい。
幼い頃の、楽しい、懐かしい想い出。 その想い出を象徴する日、か。


「なら、せめてあと2日は、穏便に済ましてもらうよう、頼むか? 糞BETAに。」

「日本人的には、大晦日と、お正月三ヶ日も、遠慮して貰いたいなぁ。」

「中国や韓国の連中だったら、旧正月も遠慮しろっ、て言うだろうなぁ。」

「いっその事。 この星から出て行っちゃってくれて、いいよ、って。」

「激しく賛成。」


お互いに苦笑し合ったその時。


≪レッドアラート! コード991発生! 繰り返す、コード991発生! 
「コンディションレッド」、アラートスクランブル!! 「コンディションイエロー」、即応発進急げっ!≫


「糞ったれっ!!」

コーヒーカップを投げ捨てると、俺と愛姫は待機所のテントを飛び出し、ハンガーに走り出した。

「コンディションイエロー」 警急待機の俺達の機体は、既にプリフライトチェック済みだった。
キャットウォークを駆け上がり、コクピットに飛び込む。

「コンディションレッド」の2機の「疾風」が、跳躍ユニットの出力を最大にして発進する。


「機体のステータスはオールグリーン! ただ、この気温や! 関節部分の金属疲労には気を付けやっ! 
滅茶苦茶な機動は、あんまりせんといてくれやっ!」

機付き長の修さん―――児玉修平整備伍長―――が怒鳴る。

「修さんっ! そりゃ、BETAに言ってくれって! こっちは向こう次第だよっ!」

喧騒が大きくなるハンガーじゃ、怒鳴らないとお互いに声が聞きとれない。

コクピット収納。 機体ステータス、確認。 データリンク、起動。 兵装ステータス、チェック・・・・

『班長! 推進剤補給ケーブル、排除(パージ)完了!』
『少尉! 外部接続データリンク、チェックOKです!』

機体付きの整備員が最終チェック完了を報告する。 アラート発令から8分。

「よしっ! ゲイヴォルグB03、出るぞっ!」

『直やん、気張ってこいやっ! それと! 絶対帰ってこいよっ!!』
『少尉! ご無事で!』
『ご武運を!』

「ああ!」


≪本部管制より、ゲイヴォルグ・エレメント。 B-2ランウェイより発進せよ。≫

「ゲイヴォルグ・リード。 了解。」

前方で、黄色いジャケットとヘルメットを被った誘導員が、夜間誘導用の発行体を持って、左前方の方向へ指示を出す。

俺は機体の左手で拳を作り、親指を上げてL字を作る。 そしてその掌を裏返して下に向け、左に2回振る。
誘導員はそれに、左の親指を立てて答える。 これでランウェイまで何の障害物も無い。

機体をハンガーからランウェイに進める。

誘導員は発光体で別の誘導員を指し示す。 ここからは誘導役が入れ替わる。
緑色のジャケットとヘルメットの、発進関係要員だ。

兵装要員が数字の書かれたボードを指し示す。 発進時の機体重量だ。
俺は戦術情報システムで、その数字を確認。 同じ値が記されている。
機体の左手で親指を立てる。

管制指揮車両の発進管制将校から合図が入る。 右手でV字を立てている。
スロットルをどこまで開けるのか。 
指2本は、常用定格(ミリタリー)推力―――A/Bを使用しない場合の、最大推力だ。

スロットルをミリタリーまで上げる。 2基のF110-GE-129が咆哮を上げる。 
ブレーキ・オフ。
途端、一気に機体が前方へ引っ張られる。
僅か2秒ほどで、時速300km/hまで加速し、空中へ放り出される。

後方を確認する。 愛姫の機体も発進を完了した。
俺達は編隊(エレメント)を組み、戦術機動航法システム(TMCAN)の指示に従い、NOE高度に保つ。

「ったく。 いっつも思うけど、アラート発進の時だけは、マゾの気分だよなぁ」

『好きなの?』

「アホかっ!!」


やがて回線通信が入る。 旅団の戦闘管制指揮所(CIC)からだった。
網膜スクリーンに、管制官の女性士官(大尉殿だった)が映る。

≪カグヤ・ベース・コントロールより、ゲイヴォルグ・リード、送れ≫

「こちらゲイヴォルグ・リード。 回線状態良好。 送れ。」

≪ゲイヴォルグ・エレメントはブラヴォー・ポイントへ進出。 ストライク・パッケージ(主力攻撃部隊)の前衛戦闘機動哨戒(CMP)を行え。
アルファ・ポイントへは、クレムゾン・エレメントが先行中。
警戒情報はカグヤ・ベース、及び戦域前衛警戒中のシャドー、ハンマーよりリンクする。 確認せよ。≫

「ゲイヴォルグ・エレメントは、ブラボー・ポイントでフォワードCMP。
アルファ・ポイントはクレムゾンがフォワードCMP。
データリンクはカグヤ、及びシャドー、ハンマーからリンク。 これで良いか?」

≪カグヤ・ベースよりゲイヴォルグ。 指示確認を了解。 以降の管制はホワイト・スノウに移行する。≫

「ゲイヴォルグ・リード、了解。」


極寒の夜の闇を裂いて、2機のF-92J「疾風」はNOEで疾空する。
この闇の向こうには、BETAがいる。
思わず、その闇とBETAが同じに感じ、身震いする。

『A04よりB03。 直衛、何か嫌な感じだね?』

A04、愛姫が顔をしかめて問いかけてくる。
俺は内心の不安を押し殺して、平静に答えた。

「A04、愛姫。 BETA相手に≪嫌じゃ無い≫場合なんてないぞ? 寧ろこれが普通だ。
気を抜くな、とは言わないけど。 過度の気にし過ぎは、食欲に悪いぜ?」

『何で食欲なのよっ!』

「何でって・・・ そりゃ、愛姫だし?」

『む・か・つ・くぅ~~~!!』


ふん。 ま、これ位で良いか。 俺と愛姫のエレメントで、深刻な話したって、しようがない。
ぷんぷん、怒っている愛姫を見る。 『嫌な感じ』は、忘れてはいないだろうけど、そればかり考えてはいないようだ。

良し。

「リードよりA04。 ブラヴォー・ポイントまで後、30秒。 ≪ピンを抜け≫ 」

『A04よりリード。 ラジャー!』

さて。 夜間の超過勤務を強いてくれた、大馬鹿野郎どもの面を、拝むとしようか。


≪ホワイト・スノウよりゲイヴォルグ・エレメント。 ブラヴォー・ポイント、AからJエリアまではBETAを感知できず。
KエリアよりCMPを開始せよ。≫

ホワイト・スノウ。 事前連絡のあった戦域管制CPだ。

「ゲイヴォルグ・エレメント、了解。 ブラヴォー・KよりCMP開始。」

機体を左、11時方向へ捻る。 緩やかな弧を描きながら、2機編隊でNOEを続行、索敵を続ける。
センサーは赤外線、音響。 そしてJ/APG-3・AESAアクティブ・フェイズドアレイ・レーダーを同時走査させる。


10分後、レーダーがBETA個体群をキャッチ。 音響センサーも、移動音を捉えた。

「A04、愛姫。 方位2-9-8、 距離8000。 大隊規模か?」

『うん。こっちもキャッチ。 前衛かな? 移動速度、早いよ。 110km/h、突撃級ね。 どうする?』

「報告だけして、無視する。 エレメントだけで、どうこう出来る数じゃ無いしな。 それに、後続がいる筈だ。
こいつらは後続のストライク・パッケージに任す。 俺達は前進して、後続の確認だ。」

『了解。 でも、光線級がいたら、嫌だね。』

「夜間だしな。 高度をNOE最低高度ギリギリまで落とすぞ。 
LANTIRN(Low Altitude Navigation and Targeting Infrared for Night ランターン:夜間低高度 赤外線航法・目標指示システム)セットアップ。
間違っても墜落なんてしたくないな。」

『LANTIRN、セットアップ。』

「よし。 ゲイヴォルグ・リードよりホワイト・スノウ。 エリアR、座標W-44-62で大隊規模BETA群発見。 進路S-S-W・1-9-6 移動速度、110km/h。 突撃級の1群だ。
ゲイヴォルグ・エレメントは迂回北上、後続の有無を確認する。」

≪ゲイヴォルグ・リード。 こちらホワイト・スノウ。 索敵情報を確認した。
ゲイヴォルグは方位3-2-5でエリアTへ。 クレムゾン・エレメントと合流し、索敵続行せよ。
合流後のフライト指揮はゲイヴォルグ・リード。 送れ≫

「ゲイヴォルグ・リードよりホワイト・スノウ。 方位3-2-5、エリアTでクレムゾンとJoint Up 以後の指揮はゲイヴォルグ・リード。 了解。」

『B03、直衛。 エリアTって、結構開けている場所だよ。 ちょっとヤバいね・・・』

「予定を若干変更する。 エリアT手前に小さいけど峡谷部が有る。 そこで合流する。 そこからはNOEを止めて、RUNと跳躍で移動。 
光線級がいたら、あっという間にお陀仏だしな。」

『了解。』

俺達2機の「疾風」は、低高度ギリギリを飛行し続け、エリアTへ向かった。




<<12月23日 2322時 エリアT手前 峡谷部出口付近>>


クレムゾンの2機と合流した後、小隊(フライト)編成を取って、更に索敵移動を再開した。

『03よりリード。 音響、探知せず。 引き続き、広域探知継続。』

03―――クレムゾン1番機の第4大隊所属、時田少尉から報告が入る。

「リードより03、了解。 静粛機動保持で頼む。 02、04?」

『02よりリード。 左翼の振動、検知せず。』
『リード、こちら04。 後方の音響、振動、共にネガティブ。』

02・愛姫と、04・第4大隊所属の永野少尉からも、索敵反応無し、と報告してきた。

「リードより各機。 右翼の振動、検知せず。 ――――どうやら、連中はこの先の様だが・・・」

『でも直衛、それっておかしいよ。 既にBETAの前衛はストライカーと交戦状態に入っているよ。 
なのに、後続の要撃級とかがまだ、出てこないなんて。』

『周防少尉、私もそう思います。 この極東でも、他のアジア戦域や、ヨーロッパ戦線の戦訓でも、
突撃級との間に時間差こそあれ、後続は最大でも10分程度の時間差で続行していました。』

愛姫と、永野少尉が疑問を投げかける。

「・・・・・地中侵攻の可能性は?」

あり得ない話じゃ無い。 俺だって7か月前に散々な目に会っている。

『だとすると、ここには居ない。 少なくとも、前線付近、最悪は前線の直後に出てくる筈だ。』

時田少尉が断言する。
確かに。 こんな離れた地点で地中から出て来ても、意味が無い。
逆に人類側は、十分に準備対応が取れる。

どう言う事だ?
今、交戦しているBETA群は、俺達が発見した群の他に、11群。 全て突撃級が主力で、要撃級が少々。
個々の規模は大隊規模。 総数でこそ、師団規模になるが、出現箇所はそれぞれ離れているし、各々の連携は取れていない。

広範囲に広がっているが、逆に各個撃破出来てしまう・・・・・


(―――――っ!!)

そこまで考えた時、有る可能性に気づいた。 自機の戦術C4ISRシステムから、現在の戦況MAPを呼び出す。

(BETAの群れの位置・・・ 友軍の部隊配備座標・・・ 戦況・・・ 予備戦力配置位置・・・)

気にし過ぎか? いや、でも最悪の場合・・・ どうする? CPに連絡して・・・

『直衛?』 『周防少尉? どうしました?』 『何か、不審な点でもあったか?』

「・・・・・ゲイヴォルグ・リードよりCP。 エリアTより先には、『地上侵攻する』BETAは居ないようだ。」

『『『 っ!? 』』』

≪CP、ホワイト・スノウより、ゲイヴォルグ・リード。 敵状は確認したのか? それと、今の報告の意味を説明せよ。≫

俺は、今現在の索敵結果、そして愛姫達の疑問を、状況説明の補足事項として付け加え、意見具申した。


≪CPよりゲイヴォルグ・リード。 G2(情報参謀)に交信を切り替える。≫

いきなり、G2のお出ましかよ・・・

≪・・・ゲイヴォルグ・リード、G2の大貫少佐だ。 君の意見具申を確認した。
再確認するぞ? 今、そのエリアに、BETA出現の兆候は無いのだな?≫

「はっ! 音響、振動、レーダー、共にネガティブです。 地形は先に開けております。
BETAが存在すれば、必ずどれかに引っ掛かります。」

G2は暫く考え込んだ後、決断した。

≪よし。 ゲイヴォルグは現地点より移動。 方位W-N-W・2-7-5でデルタ・ポイントを目指せ。 そこでCMP。≫

「ゲイヴォルグ・リード、了解。 方位W-N-W・2-7-5、デルタ・ポイントでCMP開始。」

臨時に指揮下にある3機に状況を通達。 跳躍ユニットをミリタリー推力に上げ、デルタへ移動飛行を開始した。







<<12月24日 0025時 デルタ・ポイント>>


ポイントを見渡せる、小高い岩山の頂上付近――――少しばかりの平坦な地形を見つけ、布陣する。
どの方向からBETAが来ても発見できる上、岩山自体を遮蔽物にして、光線級が居た場合の回避を容易にする為だ。

俺が思い至った可能性。 

それは『前衛はすべて囮。 主力は迂回地中侵攻で、友軍前線の側面、乃至、後ろ側面へ奇襲をかけてくる』可能性だった。

そして、現在の戦況から判断すると、最も弱い『横腹』 それが丁度、今、俺達がいるポイントで有った。


『・・・来ると思う?』

愛姫が誰とはなしに、問いかける。

『BETAが今までに、こんな手の込んだ奇襲をかけて来た話は、聞きませんけど・・・』

永野少尉が、不安と緊張を滲ませながら、答える。

『可能性としては、否定できないがな・・・』

時田少尉が、やや顔を強張らせながらも、分析する。

・・・そうだ。 確かに、今までの戦訓では、こんな手の込んだ奇襲を受けた実例は無い。
それこそ、俺の杞憂かもしれない。
しかし、可能性としては否定できない。 今まで実例が無かったから、今後も無い、とは絶対に言い切れない。
だから、G2も俺達をここに投入した。

時間の流れが、やけに遅く感じる。 喉が渇く。 自分でも不安と緊張感が高まるのが判る。
バイタルモニターに目をやれば。 はは、初陣じゃあるまいし・・・


「っ!! 01、振動、アクティブ!!」

『02、確認したっ! 計測推定個体数・・・ 計測不能っ!!』

『03、出現位置、特定した! 座標、S-31-48! 近いぞ、こいつはっ!』

『04より01! 地表がっ・・・!!』

悲鳴のような04の報告の直後、直下の地表が爆発した。


「ゲイヴォルグ・リードよりCP! BETA群出現! S-31-48! 個体数計測不能っ!」

報告と同時に、機体がバランスを崩した。

『きゃあぁぁ!!』 『うっ、ぐおぉぉぉ!!』 『だ、ダメっ!!』

他の3機もバランスを崩し、落下し始める。
岩山の基部にも、BETAが出現しやがったっ! このままじゃ、奴らのど真ん中に!

≪CPよりゲイヴォルグ! どうした!? 状況を報告せよ! ゲイヴォルグ!? 状況を!≫

馬鹿野郎! そんな暇は無ぇ!!

「リードより各機! 咄嗟戦闘!」

言うなり俺は、120mmを落下地点へ叩き込む。 丁度、出てこようとした要撃級を直撃した。
跳躍ユニットを逆噴射して、着地。 そのまま即、水平噴射跳躍で離れる。
愛姫が続行する。 次いで永野少尉が120mmを速射しつつ、着地と同時に水平噴射跳躍。 そして、時田少尉が・・・

『うおおぉぉぉ!!!』

「っ!」 『 信也!! 』

時田少尉が着地した瞬間、要撃級が出現した。 彼の「疾風」は回避機動の間もなく、要撃級と激突、大破する。

『ぐっ・・・ ごほっ・・・』

36mmで周囲を掃射しながら、時田少尉のバイタルをチェックする ―――― 駄目だ、血圧が急激に低下している。 もう、保たない。

『信也! すぐ助けるからっ! 頑張ってっ!』

永野少尉が、時田少尉機に近づこうとする。

「止めろ! 04! 即時離脱だっ!」

永野少尉が一瞬、何を言われているのか解らない、と言った表情を見せ、そして――――

『黙れっ! 貴様ぁ! 戦友を見捨てるのかっ! 貴様の指図は受けないっ!!』

眼に涙を浮かべている。

あぁ、あの時と同じだ・・・

俺は、7か月前に見た光景を思い出す。
あの時の祥子さんと、同じだ。 同じ目だ。 同じ声だった。

そして今、あの時の俺は、居ない。


「04! 永野少尉! 今は俺が指揮官だ! 命令に従え!」

『っ! 何を・・・っ!!』

「時田はもう駄目だ! バイタルは既に血圧ショック状態だっ! 直ぐに心停止する!」

左右から群がって来た戦車級に、水平面機動旋回で36mmを浴びせかける。

「永野少尉! 命令に従え! 命令不服従なら、軍法会議に告発するっ!」

『・・・・バイタル、フラット。』

愛姫が平坦な口調で報告する。

「時田信也少尉を、KIAと認定する! 永野少尉! 離脱しろっ! 
愛姫! フォワード・トップ! 殿軍は俺がやるっ!」

『・・・了解っ! 永野! 呆けるなっ! 行くよっ!!』

愛姫の「疾風」がフルブーストで離脱する。
一瞬の間が有って、永野少尉の「疾風」も、フルブーストをかける。

「くそっ! しつこいっ!」

さっきから執拗に群がってくる戦車級を水平噴射跳躍でかわしつつ、滑走位置に120mmキャニスターを連射して、滑走スペースを作る。
跳躍ユニットをフルブースト。

左右からまた群がり始める。 36mmで掃射しつつ、滑走開始。 あと2秒。

前方に要撃級。 まっすぐ突進してくるっ! 機体の進路を右にずらす。
暖斜面に機体を乗せると同時に、要撃級に120mmを連射。 前腕で防がれるが、構わない。その隙に横を抜ける。

A/Bブースト。 あと1秒

右から襲いかかって来た要撃級の前腕の打撃を、間一髪で交わす。

離陸速度!


俺も辛うじて、戦域離脱に成功した。


『02より01、大丈夫!?』

「01より02。 ああ、機体損傷は無い。 それより2人ともステータスチェックは?」

『02、ノーダメージ。 推進剤残量は45% ま、何とかなるわ。』

『・・・・04、ノーダメージ。 推進剤、40% 』


永野少尉は、やはり蟠りが有るのだろう。 声が固く、冷たい。
敢えて、それを無視する。

「ゲイヴォルグ・リードよりCP。 ゲイヴォルグは当該戦域を急速離脱中。 BETA群、急速増加中。 
進路は・・・ やはり、方位E-S-E・1-1-5! 側面警戒の急を要す!」

≪CP、了解。 ゲイヴォルグ、全機離脱したのか?≫

「ゲイヴォルグ・リードよりCP。 03大破、脱出できず。 時田信也少尉のKIAを確認。」

≪・・・CP、了解。 ゲイヴォルグ、RTB。 一旦補給と機体チェックの後、原隊へ復帰せよ≫

「ゲイヴォルグ・リード、了解。」

機体をRTBコースへ乗せる。
3機となったフライトは、何かに急かされるかの様に、機速を上げた。


(・・・・1人、死なせた・・・)

初めての指揮。 初めての『部下』の戦死。
あの時、あの状況で。 俺の指示は的確だったのか?
周囲への配慮は? 余りに至近での待機では無かったのか?
本当に、時田少尉は手遅れだったのか? 3機掛りだったら、救出出来たのではないか?

様々な疑問が、自責の形で浮かんだ。



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