1993年1月18日 0845 チチハル北西80km
白銀の荒野を、1群の戦術機の集団が移動している。
それは10個のグループに分かれていた。 1つでおおよそ、40機弱。
実際には10個大隊が行動している。
帝国軍第119旅団、第120旅団の、全戦術機甲大隊であった。
作戦名『双極作戦』(帝国呼称:『烈号作戦』、国連呼称『チィタデレ』)
北満洲方面のBETA群に一大打撃を加え、戦線を安定化さすと共に、兵站の時間的自由を取り戻す。
作戦自体は実にシンプルである。
現在、戦線はチチハル~大慶間でBETA群が突出する形になっている。 所謂「バルジ(突出部分)」が出来ているのだ。
そしてこのバルジに、H18・H19からのBETAの大多数が集結しつつある。
方面軍は、北部満洲の全兵力を動員し、まず、正面・左右両翼の防衛戦力で可能な限り持久する。
そしてその間に、大外の左右両翼から機動打撃部隊が、両側面からBETA群を突破。
この2つの部隊が手を繋いだ時点で、全周包囲網を完成させ、一気に攻勢をかけ、殲滅する。
参加兵力も、出し惜しみは出来ない。
≪正面戦線担当≫
・中国軍第28軍(楊元威上将=上級大将)
・第44軍団(戦術機甲1個師団、機甲1個師団、機械化歩兵装甲2個師団)
・第52軍団(戦術機甲1個師団、機械化歩兵装甲1個師団、機甲2個旅団)
・第68軍団(戦術機甲2個師団、機甲2個師団、機械化歩兵装甲2個師団)
≪左翼戦線担当≫
・日本帝国大陸派遣軍(上林道永大将)
・第12軍団(戦術機甲2個師団)
・国連軍第28軍団(戦術機甲1個師団、機甲1個旅団)
・ASEAN軍北方派遣軍団(戦術機甲1個旅団、機械化歩兵装甲1個師団)
・中国軍第332、第364機甲旅団
≪右翼戦線担当≫
・韓国軍第5軍(朴智惇大将)
・第9軍団(戦術機甲1個師団、機械化歩兵装甲2個師団)
・第21軍団(戦術機甲2個師団、機甲2個師団)
≪左翼・機動打撃任務部隊≫
指揮官・ヘルマン・オッペルン・フォン・ブロウニコスキー国連軍少将
・帝国軍独立混成第119、第120旅団
・国連軍第31戦術機甲師団
・中国軍第179、第182機甲旅団
・中国軍第271、第283機械化歩兵装甲旅団
≪右翼・機動打撃任務部隊≫
指揮官・ヴァシーリィ・ウラジミロヴィッチ・リジューコフ ソ連軍中将
・ソ連軍第221軍団(戦術機甲2個師団、機械化歩兵装甲1個師団)
・ソ連軍第511、第531機甲旅団
≪砲撃支援部隊≫
指揮官・汪延中国軍砲兵中将
・中国軍8個砲兵旅団
・韓国軍6個砲兵旅団
・帝国軍4個砲兵旅団
・国連軍3個砲兵旅団
≪航空打撃支援部隊≫
・中国軍航空打撃旅団6個
・国連軍航空打撃旅団3個
・ソ連軍航空打撃旅団1個
戦術機甲部隊・13個師団、4個旅団。 機甲部隊5個師団、9個旅団。 機械化歩兵装甲部隊・9個師団、2個旅団。 砲兵部隊・21個旅団 航空打撃部隊10個
参加兵力・53万5000余 戦術機4,912機 機甲戦闘車両2,224両 各種火砲3,080門 MLRS1,080基 攻撃ヘリ782機
総司令官は、正面軍の楊元威上将(=上級大将)が兼務する。
1978年の『パレオロゴス』作戦に、数的には次ぎ、質的には上回る。
軌道爆撃艦隊と軌道降下兵団が加われば、ハイブ攻略作戦と間違うほどの、戦力集中であった。
作戦内容的には、珍しくも、斬新でも無い。
約半世紀前の世界大戦にて、欧州東部戦線(独ソ戦)でドイツ軍のエーリッヒ・フォン・レヴィンスキー=フォン・マンシュタイン元帥が
発案・実施した「城塞(チィタデレ)」作戦と、ほぼ同じである。
国連呼称については、半世紀前の『チィタデレ』は、失敗していることから「縁起が悪い」との声も、無くは無かったが。
作戦発起点は、大慶。
1月18日 0730時、正面軍にて支援砲撃開始。
BETAが攻撃に『釣られ』、正面突撃を開始した、0755時、左右両翼より支援砲撃開始。
全域で火砲1,020門、MLRS400基を有する第1砲撃任務群が、砲弾と誘導弾の集中豪雨を見舞う。
0830時、左右両翼の機動打撃任務部隊に突撃下命。 合計4個師団相当・1,148機の戦術機が、一斉に突撃する。
0845時、まず、左翼の帝国軍第119旅団戦術機部隊が、接敵した。
『ランサー01より、各グループ(大隊)。 目標BETA群、11時。 約8000
≪セイバー≫、≪アーチャー≫はヘッドオン。 ≪ランサー≫、≪クルセイダー≫は1時より前方迂回。 ≪ユニコーン≫は10時より後方迂回。≫
『『『『『 了解 』』』』』
旅団最先任戦術機甲指揮官・第1大隊長≪ランサー01≫の香川中佐より、各大隊指揮官へ指示が入る。
これに対し、第2「ユニコーン」、第3「セイバー」、第4「アーチャー」、第5「クルセイダー」各大隊長が応答する。
「セイバー」「アーチャー」の92式「疾風」合計67機が、ヘッドオンで一気にBETA群へ突進。 36mm、120mm、誘導弾の雨を降らせる。
その間、「ランサー」「クルセイダー」の「疾風」66機は、高速NOEで1時方向から弧を描きながら、BETA群の右前方へ接近。
向きを右方向へ変えつつあるBETAにとっての、左前方から突進した。
そして、「ユニコーン」の「疾風」が36機。 BETAの右後方より急速接近。 後方から36mm、120mm、誘導弾を浴びせかける。
合計169機の「疾風」による連携攻撃で、一気に1000体程がなぎ倒される。
後続のBETA群が、第119旅団の左側面から迫った時、第120旅団の「疾風」171機がその側面に突っ込む。
最後に国連軍第31戦術機甲師団のF-15C・261機が、各グループに散開し、1機当たり4発装備の、AGM-65Hマーヴェリック成形炸薬弾頭ミサイルを発射する。
各機1発づつのミサイル発射後は、M88支援速射砲(71口径57mm砲)で支援射撃を開始する。
近接・中距離攻撃の92式「疾風」340機がBETA群を掻き回し、至近射撃でなぎ倒し、長刀で切り伏せる。
迂回した、或いは「疾風」の暴風から逃れたBETA群を、遠距離砲撃支援のF-15C・261機が、M88で次々に速射狙撃してゆく。
今回は「最小戦闘単位」を中隊としていた。
従来、各小隊で突撃前衛、左右迎撃後衛の任務分けをしていたのを、1ランク上げたのだ。
基本的に1つの戦闘集団を大隊とし、従来の中隊の戦闘行動を行う。 戦闘時の連携単位が非常に大きいのだ。
動きは大味になるが、効果は大きかった。
そして、大味が故に取りこぼす分を、国連軍のF-15Cが、しらみ潰しに狙撃制圧していく。
接敵後43分、0928時には、第1派のBETA群・約8000体は殲滅されていた。
損失は、第119旅団が2機、第120旅団が3機。 第31師団は損失無し。
機動打撃任務部隊指揮官・フォン・ブロウニコスキー少将は、30分間の補給・部隊集結・状況確認を指示。
0950時、正面・左翼・右翼で支援面砲撃が終了。 BETA第1派に対する、機甲部隊と航空打撃旅団群の、空陸からの集中打撃戦が開始される。
1010時、左翼機動打撃任務部隊は、更なる戦果拡張を期すべく、機甲部隊の追従を持って、再突撃を開始した。
1993年1月18日 1655 チチハル北方70km
≪CPよりユニコーン01。 BETA群、前方1時。 距離4000 推定個体数約4800 光線級は確認されず。≫
『ユニコーン01(第2大隊長機)より、ソードダンサー(22中隊)、ゲイヴォルグ(23中隊) 前方のBETAをやる。
相方は≪クルセイダー≫(第5大隊)と、≪ランスロット≫(31師団第7大隊)だ。
左右同時挟撃開始。 左からだ。
食い残しは≪ランスロット≫が平らげてくれる。 行くぞっ!』
大隊長からの号令と同時に、31機の「疾風」が噴射地表面滑走(サーフェイシング)をかける。
戦闘開始から9時間30分が経過した。 そして接敵から約8時間。 8時間で5機の損失。
悪くは無い。 少なくとも、大隊は未だ有効な戦闘力を維持している。
大隊長の藤田少佐は、衛士としての極めて冷めた部分で、冷静に計算していた。
無論、人として情に篤い彼の本質の部分は、5人の戦死した部下に対する哀弔と、悔悟の気分が多分にある。
と同時に、練達の戦術機部隊指揮官としての部分は、全く異なる。
冷めたと言うより、より冷酷なまでの現実直視で、大隊の戦闘力の確認と、その保持を計算していた。
やはり、と言うべきか。 流石、と言うべきか。
未だ、完全な中隊戦力12機を維持しているのは、第3中隊≪ゲイヴォルグ≫だった。
藤田少佐直率の第1中隊≪ユニコーン≫は10機、黒瀬大尉の第2中隊≪ソードダンサー≫が9機を維持している。
故に、突撃前衛『中隊』は、≪ゲイヴォルグ≫に。 迎撃後衛『中隊』を、≪ユニコーン≫と≪ソードダンサー≫に振り分けた。
『ランスロット01より、ユニコーン01、クルセイダー01。 マーヴェリック(AGM-65H)を先に喰らわそう。 本日最後のおもてなしだ。 半分づつ(15機)割り当てる。』
『ユニコーン01より、ランスロット01。 感謝する。』
『ランスロット01、クルセイダー01だ。 美味しく料理してくれ。』
『お安い御用だ。 ―――― よぉし! 紳士淑女のクソッたれ共! BETAに糞でっかいヤツをぶちかませっ!!』
ランスロット――― 30機に減じたF-15Cから、各機最後のAGM-65Hマーヴェリック・ミサイルが発射される。
発射後、全F-15Cはミサイル懸架ラックをパージ。 M88支援速射砲を構える。
30発のマーヴェリックが次々に命中する。 同時に同数の突撃級が停止した。
外見に派手な見た目は無いが、着弾による動的超高圧により、液体化された装甲殻をメタルジェットが侵撤。 3000m/s~4000m/sの運動エネルギーで体内を破壊する。
『ランスロットより、ユニコーン、クルセイダー! マーヴェリックはこれで打ち止めだ!
後はM88≪ギガ・バーレット≫で取りこぼしを掃除する!』
『ユニコーン01、了解。 距離を保ってくれ。』
『クルセイダー01より、ランスロット01。そっちは近接戦闘に向かない。 くれぐれも鉄火場に踏み込むなよ?』
実際問題として、F-15Cの格闘戦能力は決して悪くない。
だが、帝国軍が使用しているF-92J-B(OSアップデートのBlock-132)「疾風」は、戦闘機動能力に於いて、F-15Cを大きく上回る。
『チャンバラや、スタント・ガンマンの真似事は、そっちに任す。 こっちは制圧力確保してこその機体だしな!』
『ユニコーン01、了解。 ――――ユニコーン各機! 続けっ!』
『クルセイダー01より各機! 次はユニコーンの獲物をこっちから掻っ攫ってやれ! 行くぞっ!』
1時間前の戦闘で、担当戦域のBETAの相当数を、第2≪ユニコーン≫に掻っ攫われた、第5≪クルセイダー≫大隊長機から、発破が掛る。
『ユニコーン、エンゲージオフェンシヴ!』 『クレセイダー! エンゲージオフェンシヴ!』
61機の「疾風」が、左右から高速水平面機動でBETA群に襲いかかった。
≪第23中隊≫
『各機! 陣形・水平傘壱型(フラット・ウェッジ・ワン)! 噴射地表面滑走(サーフェイシング)で高速旋回!
まともに突っかかるな!? 距離を保って、引っ掻き回せっ!』
『B小隊、了解!』 『C小隊、了解です!』
B小隊のフラット・ラインを頭に、左右後方にA、C小隊が2本のフラット・ラインを作る。
そのラインを維持したまま、右方向への高速旋回機動で射撃開始。
制圧支援機は、BETA群の中程の大型種に誘導弾を叩き込んでいく。
『ユニコーン01より、ゲイヴォルグ! ガンスリンガー(第5大隊第2中隊)との連携に留意しろ! タイミングを合わせて、突入する!』
『ゲイヴォルグ01よりユニコーン・リーダー、了解! ガンスリンガーと同調します ―――― ガンスリンガー! 聞こえているか!?
ダンスホールへの突入タイミングだ! 合わせろよっ!?』
36mm、120mm、誘導弾が飛び交う。 丁度反対側を高速旋回機動している、ガンスリンガーとの同調タイミングを、広江大尉が確認する。
『ガンスリンガー01より、ゲイヴォルグ01! 広江先輩のタイミングなら、昔から散々叩き込まれてますよっ!』
第52中隊長から応答が入った。
『美綴(みつづり)か! だったら、外したら承知せんぞ!』
『そっちこそ! 無理しないで下さいよ!? もういい年なんだから!』
『ほざけっ! タイミング同調! 行くぞ!』
『『 5、4、3、2、1、アターック!! 』』
左右から同時に2個中隊が、一気に陣形を楔壱型(アローヘッド・ワン)に組み替え、突入する。
その背後から、各々2個中隊が、支援攻撃を行いつつ、突入し、突破口を拡大してゆく。
2つの大隊は、2本の大きな矢となって突進し、BETA群の中央部ですれ違い、そのまま一気に離脱する。 そしてまた、高速旋回機動で射撃開始。
その戦闘機動を繰り返しつつ、統制を失ったBETAを、≪ランスロット≫が片っ端から狙撃していった。
≪第23中隊 周防直衛少尉≫
正直言って、皆、頭のネジがぶっ飛んでるぜ!
目の前の要撃級を垂直軸回転旋回で交わしながら、突撃砲の120mmを打ち込む。
即、噴射地表面滑走を開始する。
途端に戦車級が群がって来たのを、92式追加装甲で「薙ぎ倒す」 5,6体が派手に吹っ飛んだ。
次は目前に要撃級が3体! 交わすスペースは無い! 速度を維持しながら、噴射跳躍で飛び越す。
戦車級が群がっている着地地点に120mmキャニスターを打ち込み、スペースを確保する。 飛び越した要撃級は、後ろの3機が120mmで始末した。
「糞ったれっ! 楽しいダンスパーティーじゃねぇかよっ!」
弱い後ろを曝している突撃級―――こっちの急機動に旋回が間に合っていない―――を見つけ、突進する。
36mmを乱射、4体を喰った。
「うおおぉぉっ! くたばれっ! この猪がっ!」
『周防、猪は本来、俊敏な動物なのだぞ? そもそも・・・』
「神楽! ウンチクは後にしてくれっ! 2時、要撃級!」
『承知!』
神楽が120mmを速射して、要撃級を屠る。
その間に、木伏中尉と祥子さんの2機が前方の突撃級に36mmと120mmを叩き込み、4体を倒す。
突撃級の死骸が急速に近づく。 噴射跳躍。 着地してそのまま水平噴射跳躍に移る。
『どや!? 周防! 突撃前衛長(ストームバンガード・ワン)の見晴しは! 絶景やろうが!?』
「ええ! もう! 絶景過ぎて、漏らしそうですよっ! ―――しつこいっ!」
左から群がって来た戦車級を、追加装甲の殴打で押し留め、超至近から36mmを打ち込んだ。 3体ほどいた戦車級が、赤黒い霧になって霧散する。
何故、俺が木伏中尉のポジションに居るのかと言うと・・・
(『どや? 一回、絶景っちゅーもんを見せたろか?』)
(『はぁ。 んじゃ、見てみますか』)
と言う、軽いノリで、だ。 信じらんねぇ・・・
『リーダーよりB小隊! 突破速度を上げろ! かったるくて、寝てしまいそうだぞっ!』
『うへっ 了解! こら! 周防! とっとと急がんかぁ! ≪ガンスリンガー≫より遅れたら、オンドレ、晩飯抜きやぞっ!?』
「んな、殺生な! 向こうさんは、本職の突撃前衛長っすよっ!?」
急加速・噴射地表面滑走で速度を上げる。
途端に前方に誘導弾が着弾し、小型種が広域で吹き飛んだ。 ウチの制圧支援だけじゃないな。 第1、第2中隊の制圧支援機からも、同時に攻撃を加えてくれる。
(―――これなら、いけるっ!!)
「推力上げるっ! ミリタリー!」
『『『 了解! 』』』
一瞬、加速Gで体がシートに押し込まれる。 見る見る内に、外縁部のBETAが視界に入る。 突進軸をずらし、後方から右側面に抜ける形で射撃を加えた。
要撃級が体液をまき散らしながら倒れ、小型種が粉々に吹き飛ぶ。
後続の3機や、A、C小隊各機、更には第1、第2中隊からも、36mm、120mm、誘導弾が滅茶苦茶に叩き込まれる。
一気にBETAの群―――ダンスホールを抜ける。 ほぼ同時に、≪ガンスリンガー≫も抜け出したのを、戦術MAPで確認した。
『ガンスリンガーB01より、ゲイヴォルグ≪突撃前衛長見習い≫ なかなか良い突破戦闘だったな』
げっ、≪ガンスリンガー≫のB01。 向う(52中隊)の突撃前衛長がいきなり、オープン回線に割って入って来た。
「お褒めに預かり、恐悦至極。」
内心、冷や冷やした場面もあったが、せめてもの意地だ。 虚勢を張る。
『ははは。 流石は、ゲイヴォルグのB03。 ≪満洲の変態≫だけはある、と言う事か?』
「なあっ!? な、なんで、その名前っ・・・!!」
正直、焦ってドもる俺を尻目に、今度は向こうの中隊長まで割込んで来た。
『有名だぞ? 流石は広江先輩の処で7か月も、図々しく生き残っているだけは有るな。』
「んぐっ・・・!!」
最早、群としての統制など全く失われたBETAに対して、≪ユニコーン≫、≪クルセイダー≫、≪ランスロット≫が、36mm、57mm、120mmの豪雨を浴びせる。
5000弱ほどいたBETAが急速に数を減らして、もう残る処、300も居ない
この戦域での殲滅は確実だ。 おまけに今回も中隊は損失無しだ。
良い事尽くめの中で、俺だけどうして、そんな不名誉な綽名を頂戴せねばならんのだっ!!
『へ・・・、変態・・・・』
あ・・・ 祥子さんが、激しく誤解した顔をしている・・・
「ち、違いますよ? B02! 変な想像、しないで下さい!」
『え!? 違うのっ!?』
「和泉少尉・・・・?」
『だぁーって。 周防って、BETA殺る時さ、後ろ取ってから殺る事、多いじゃなぁい?
だ・か・ら、バックがお好き、みたいな?』
「アンタと一緒にするなぁぁぁぁぁ!!!」
『・・・・ランスロットより、ユニコーン、クルセイダー。 残敵掃討が終了。
しかし・・・ 楽しい連中だな?』
『クルセイダーよりランスロット。 同じに見てくれるなよ?』
『ランスロットより、クルセイダー、了解。――――ユニコーン?』
『・・・あぁ、気にしていない。何せ、≪満洲の変態≫だ・・・』
『『・・・そうだな・・・』』
その日、初日の1月18日は、予定進出地点より10kmも距離を稼げた。
右翼部隊も同様だ。 残り70km弱。 あと1日半も有れば、両翼は包囲網を完成させるだろう。
作戦は順調に推移している。
中隊も、そして大隊も、久々の胸のすく勝利に沸いていた。
・・・・なのに。 なのに、俺だけが、円周警戒陣地の隅で、泣いていた・・・・
1993年1月18日 2230 正面戦線 中国軍第28軍司令部
司令部内は、現在の戦況、BETAの個体分布の確認、更には衛星情報によるH18・H19の最新情報を取りまとめた結果、明日以降の作戦方針の確認が行われていた。
「では、本日の突破成功はやはり、BETA共の『予定行動』と見て良い、と言う事かな? 上林大将。」
総司令官・楊元威上将が通信回線越しに、左翼戦線担当の上林大将へ確認する。
『は、閣下。 今回の戦況は、昨年5月の状況に類似点が多々見受けられます。
軍団規模を上回る大規模個体群の集中、そして光線級・要塞級の不在。
恐らくは、明日以降が奴等にとっての『本番』となりましょう。』
左翼方面を担当する、帝国軍の上林大将が確信をこめて応答する。
『閣下。 小官も上林大将に同意します。』 『同じく。』 『ここまで順調では、かえって不自然ですな。』
右翼戦線を担当する韓国軍の朴智惇大将、右翼機動突破任務を担当するソ連軍のリジューコフ中将、左翼機動突破任務担当の国連軍・ブロウニコスキー少将等も、同意見だった。
国連軍のブロウニコスキー少将が続ける。
『恐らく、明日の夕刻か明後日の早朝。 左右両翼が『閉じた』時点で、何処かしら複数個所で、地中侵攻が行われるでしょう。』
『ブロウニコスキー少将の意見に同意します。 恐らく戦力的に薄い我々、左右両翼の機動突破任務部隊、そのどちらか、或いは両方のどこか。
可能性でいけば、左右両翼戦線との接点部分。 その付近での地中侵攻、そう考えます。』
リジューコフ中将が地中侵攻想定地点を挙げる。
『・・・確かに。 その時点で、その場所に出てこられては。
我々、機動突破任務部隊は攻勢重心を、前方に移していますからな。
一気に突破されかねない。』
ブロウニコスキー少将も、BETAの地中突破の危険性を危惧する。
『となると。 機動打撃任務部隊との間に、少なくとも連隊規模の戦術機部隊と、機甲部隊を以って、間隙を塞がねばならん・・・
朴大将。 貴官指揮下の部隊は、余力は有りますかな?』
上林大将が大凡の突破阻止戦力を計算する。
『正直、厳しいものが有りますな・・・ が、何とか抽出せねば、なりますまい。』
『で、あるならば。 我々は明日夕刻、遅くとも明後日早朝までには、方面軍の戦略総予備を全て投入すべきであろう。』
それまで、話を聞いていた楊上将が諸将を見渡し、言いきる。
戦略総予備全てを投入。 もはや、その後の手駒は全くない。 つまり、決戦。
大急ぎで各戦線の部隊配備状況が検討される。
正面戦線―――元より最大戦力を以ってBETAの突破阻止に当たっている。 現在の損耗も、予想範囲内だ。
右翼戦線―――戦力的には、2番目に大きい。 何より、BETAの行動が左翼寄りに推移している現状では、十分な突破阻止戦力を保持している。
左翼戦線―――今日の戦闘では、激しい戦闘が行われたが、光線級の出現が無かったことが幸いし、損耗は予想範囲内で収まっている。
右翼機動突破任務部隊―――こちらも、BETAの重点が左翼に偏った為、明日以降の突破戦力は保持している。
しかし、右翼戦線との「繋ぎ」にまで戦力を回す余力は無い。
左翼機動突破任務部隊―――本日の戦闘で、最も激しい戦闘を行った部隊であった。 損耗はなんとか許容範囲内で有るが、左翼戦線との連携には、心もとない状況である。
「戦略予備を、左翼と左翼突破任務部隊の間に、戦術機部隊を増強旅団規模で配備する。 右翼も同様だ。
戦況次第でもう1個旅団、投入を行うが、これは推移を見てからになる。
付随して、機甲部隊、機械化歩兵装甲部隊の投入も同様に行おう。
両翼の機動突破任務部隊は、明日以降もご苦労だが現有戦力にて、突破に当たって貰いたい。
正直、予備戦力を回す余力は無い。」
『『『『 了解 』』』』
総司令官の決定に、各指揮官が応答する。
明日。 全ては後1日で決する。
果たして、この地を守りきれるのか。
それとも、今まで数々の局面で苦渋を嘗めさされたように、破れ、敗走するのか。
司令部内は作戦開始以降、最も重苦しい空気に包まれていった。
≪左翼機動突破任務部隊 司令部 1月18日 2315≫
ヘルマン・オッペルン・フォン・ブロウニコスキー少将は、移動司令部車両で指揮下の各部隊からの報告を確認していた。
大隊・連隊・旅団の各級指揮官が連絡してきた。
『―――どうにかなります。 損害は無視できず、辛い戦闘ですが、大丈夫です。』
そして、各指揮官の報告には共通項が有った。
『BETAはどこにおいても、不意を突かれておりません。 明らかに攻撃を予期している節が有ります。』
不吉な言葉だった。 しかし、左翼機動突破任務部隊の全戦線に於いて、部下達は確信を持っていた。
『BETA共を殲滅してやる』
「先頭部隊だが、どこまで突入した?」
作戦主任参謀のフォン・エルファーフェルト中佐に尋ねた。
「予定進出点より、東へ10km程です、閣下。 旧依安基地北方の近くに、日本帝国軍第119旅団がおります。」
「BETAの動きについて、UAVの報告は?」
「突撃級、要撃級を含む大規模BETA群が、東方の明水地区北方より、依安-チチハル中間方面へ移動中であります。 明朝には到達するものと想定されます。」
ブロウニコスキー少将は地図に身をかがめ、各級指揮官たちが見抜いた事を再確認した。
左翼機動突破任務部隊を深く進出させて、左翼戦線を側面から援護しつつ、右翼と手を結ぶ計画が、上手くいっていないのだ。
ソ連軍で構成される、右翼の機動突破任務部隊は、東方から突出しつつある大規模BETA群を捕捉できず、それが左翼の戦闘に介入する事を阻止できない。
計画の修正が必要だった。
「がむしゃらに、戦術機甲、機甲戦力をもって突破するのは、上策では無いな。 組織的な突破口を開いて行く。」
自らの策を指示する。
「まず突き抜け、新手によって絶えず攻撃を強化する。 間隔があいたら機甲部隊を進出させ、開けた空間で敵側面と背面に対し圧力を加える。」
「―――エルベ河。 マクデブルグ前面と同じですな、まさに。」
参謀の言葉に、ふと母国での凄惨な退却戦の記憶がよぎる。
「いや―――、今回は、失敗は無い。 いや、2度は許されない。」
そう。 かつて欧州では、幾多の過誤があった。 その結果、我々は母国を失った。
今、極東のこの地で。 かつてと同じ過誤は、許されないのだ。