<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[7678] 国連極東編 満州1話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/06/09 02:02
1993年8月13日 1530 大連・極東国連軍第21軍団司令部


「周防直衛少尉、本日付をもって極東国連軍に着任いたしました」
「長門圭介少尉、本日付をもって極東国連軍に着任いたしました」
「久賀直人少尉、本日付をもって極東国連軍に着任いたしました」

大連の国連軍司令部。 その人事部第1課へ出頭したのは、指定時刻の30分前だった。
帝国軍の第2種軍装(夏季軍装)から、真新しい国連軍のC型軍装(C2型・夏季軍装)に着替え、大慌てで着任した。
なにせ、「釈放」と同時に、「出向」「同日着任指定」だ。 着任が遅れたら、この戦時下だ。確実に「敵前逃亡罪」が適用される。
今度こそ文句なしの、銃殺刑コースだ。 冗談じゃ無く、命がけで着替えた。 全く、 別れを惜しむ暇もない・・・


目の前には、銀縁眼鏡の中佐が座って、書類と俺達を見比べている。 陰気臭そうなおっさんだ。

「ふむ・・・ 私は人事1課の王 海大中佐だ。1課長補佐。 周防少尉、長門少尉、久賀少尉。 君達3名の着任を認める。
ついては、配属先なのだが・・・ とりあえず、仮配属先になる。 正式の配属地は未だ未定なのでな。
所で、君等。 語学は大丈夫だな? 国連軍の標準言語は、英語だが・・・ ふむ、大丈夫のようだな。
では、まず君等の身柄引き受け先の指揮官を紹介する・・・ 大尉、入りたまえ」

何か、中佐の迷惑そうな表情が気に障るが(実際、迷惑だろう)。
同時に部屋の横の扉があいて、1人の士官が入室した。
ちらっと横目で見る。 階級章は大尉。 アジア圏では珍しく、欧州系の士官だった。

3人で敬礼する。

大尉が答礼し、口を開き始めた。

「私はヴァルター・クラウス・フォン・アルトマイエル国連軍大尉。 諸君の上官、と言う事になる。 
部隊は独立第882戦術機甲中隊。 現在は大連基地の居候だ。 じき、本隊に追随する事になるが、それまでは大連基地をベースとする。
諸君に言いたい事は、ただ一言。 『戦え』 以上だ」

「「「 はっ 」」」

ドイツ系と思しき姓の、若い大尉が簡単に訓示する。
「戦え」か。 今までだって、戦ってきた。 これからだって、戦い続ける。 今の時代、それは俺達の義務で、権利だ。


「後は頼んだぞ。 アルトマイエル大尉。 4人とも、退出して結構だ」

「では、失礼します。 中佐」
「「「 失礼しますっ 」」」




陰気臭いおっさん(俺の中では確定済みだ)の部屋から退出し、司令部ビルを出る。
1台の高機動車が玄関に止まっていた。 1人の女性士官が立って敬礼している。 見ると中尉だ。 慌てて敬礼する。

「隊長。 新任の受け取りは、お済みですのようですね」

やはり欧州系の・・・ いや、何と言うか。 もの凄い美人の女性中尉殿が、大尉に微笑みかけている。
軽いウェーブの入った、プラチナブロンドの長い髪と、明るいグリーンの瞳。 肌なんて、それこそ『白磁』って言うのか?
あ、いや。 俺の中では、『美人』って、祥子だけど・・・ でも、もしかしたら上を行くかも、この人・・・


「ああ。 折角釣り上げた新戦力だ。 大いに期待させて貰うさ」

3人とも、思わず大尉と中尉の会話を、呆けた表情で見ていた。
何せ、この大尉―――アルトマイエル大尉も、映画俳優みたいな整った顔立ちだし。
もしかして、今度の部隊は『広報部隊』なのか!?

「ん? どうした、君達。 呆けた顔をしているが?」
「あら? 体調でも悪くて? 今まで拘留されていたからかしら?」

はっ、と気付く。

「「「 いっ、いえっ! 大丈夫でありますッ!! 」」」

こんな時にも、ユニゾンしなくていいじゃないかよ・・・

コロコロ、と、中尉殿が上品な笑い声を立てる。
大尉が不思議そうに見ていたが、特に詮索される事は無かった。

「では、乗りたまえ。 これから基地に向かう。 
ああ、二コール。 済まないが、運転を頼む。 彼等は北部常駐だったから、この辺りの地理にはまだ詳しくないようでな」

了解しました。 そう言って中尉殿が運転席に乗り込む。
5人乗ったところで、高機動車が発進した。 市街地を比較的ゆっくりと、安全運転で進む。


「改めて、自己紹介だ。 私はヴァルター・クラウス・フォン・アルトマイエル。 国連軍大尉。 独立第882戦術機甲中隊指揮官。
彼女は私の直率小隊で、二コール・ド・オベール中尉」

「二コール・ド・オベールです。 宜しくね。 周防少尉、長門少尉、久賀少尉」

「「「 はッ! 中尉殿! 」」」

「ああ、それと。 我が隊では必要以上に畏まる事は無い。 人目が有る場合を除いてな。
まあ、常識の範囲内で敬意を表してくれればいい。  何か質問はあるかな?」

3人で顔を見合わせる。
一瞬の視線の攻防戦の結果。 他の2人の共同攻撃に負けた俺が、口火を開く。


「大尉。 先ほどの部隊名ですが。 『独立第882戦術機甲中隊』と言う事ですが、上級部隊から一時的に離れて行動中の中隊、と考えて良いのでしょうか」

まず、最初の疑問を口にする。 帝国軍じゃ、『独立戦術機甲大隊』はあったが、中隊規模では無かった。
戦力的に小さすぎ、運用面で無駄なだけだからだ。

「うん。 まぁ、中隊名は便宜上だ。 何か名称が無いと、組織上、色々とやり難い事も多いしね。
人員も、つい先週までは小隊分しか居なかったし」

「「「 ・・・は? 」」」

さっきから何度目のユニゾンだ・・・?

「元々、私達は極東国連軍所属では無いの。 ちゅっと訳有りでね、このアジア戦域にまで、スカウトに来ていたのよ」

スカウト!? 何やら、オベール中尉が、訳の判らない事を言い出した。
そもそも、軍内で戦力の『スカウト』なんてやるのか? 国連軍は・・・?

「普通はこんな事、しないのだけれど・・・ 私達の中隊長は、ちょっと頑固だから・・・」

そう言って、オベール中尉がクスクスと笑う。 大尉と言えば。 少々不貞腐れた顔だ。


(『なぁ、直衛。 この雰囲気、何なんだ?』)
(『俺が知るか』)
(『一番近い雰囲気は、周防。 貴様と綾森中尉の雰囲気だぞ?』)


五月蠅い。 俺はもっと、場を考えていたぞ。 多分・・・
さっきの中尉の言葉で、更に疑問が生じたのだろう。 今度は圭介が言い出した。

「と、言う事は。 部隊の所属は極東国連軍以外。 欧州国連軍ですか?」

うえッ! 次の戦場は、欧州かよ!? 極東アジア以上の『地獄』って言われる場所かぁ・・・

「どうして、そう考える? 長門少尉」

「・・・大尉も、中尉も。 失礼ながら、西欧系のご出身とお見受けします。
それに先程、中尉は『アジア戦域までスカウトに来た』と。 
と言う事は、通常はアジア・極東以外の戦域が主戦場かと」

久賀が引き継いで話し始める。

「他の戦域は、中東戦域とシベリア、欧州ですが。 シベリアはソ連軍が未だ踏み止まっております。 
それにあの方面の国連軍は、実質米軍です。
中東戦域ですと、国連軍は主に中近東諸国軍・トルコ軍出身者で構成されます」

で、俺がダメ押し。

「最後に。 先ほど大尉は、『じき本隊に追随する』と。
我々はこの極東戦域で1年以上、戦って参りましたが。 少なくとも極東国連軍で『独立戦術機甲中隊』は、ついぞお目にかかった事がありません。
であれば。 今、長門、久賀両少尉の言った事を加え、欧州国連軍の所属部隊、その一中隊ではないかと」

これで、どうだ?


「ふむ。 少なくとも、馬鹿ではなさそうだ。 いや、良かった」

むっ! 馬鹿とは何だ、馬鹿とは・・・

「・・・はぁ。 ヴァルター。 貴方、またそういう物言いを。
ごめんなさいね、3人とも。 いつもこうなのよ。 困ったわ、本当に」

「しかしな、二コール。 私はこれでも褒めているのだぞ? 軍人は得てして、上意下達の思考になりがちだ。
上官の話の端々から、何かしらの推測をして、自分なりの解答を出す。 この習慣は、大切だぞ?」

「であれば。 今少し、表現にお気を付け下さいな。 3人とも、気を悪くしますよ?」

むぅ。 そう唸って、大尉が黙り込んでしまった。
何と言うか、この二人・・・ 

(『まるで、夫婦?』)
(『みなまで言うなよ・・・』)
(『周防は、人の事言えん』)

さっきから、なんか、俺の事ダシにしやがるな? 圭介、久賀。


正直、この雰囲気・・・ 国連軍て、こんなに『緩かった』か・・・?
戸惑いながらも、新しい基地、『国連軍大連第3駐屯基地』の衛門が見えてきた。







8月13日 1630 大連第3駐屯基地 独立第882戦術機甲中隊 ブリーフィングルーム


新しい部隊。 新しい仲間。
正直、子供の頃、学校のクラス替えの時の気分に似ていた。 比較対象自体、ちょっと違う気もしたが。

で、最初の印象は。

(・・・勘弁してくれ)

さっきから、俺はウンザリしていた。 何故かって? そりゃあ・・・


「いようっ! 良かったな、3人とも! お互いてっきり、銃殺刑だとばっか思っていたぜッ!
いや、生きてて本当に良かった、良かったッ!」

なんで、パスタ野郎がここに・・・

「・・・ファビオ。 そのくらいにしなさいよ。 
でも、私達だって、下手をすれば銃殺刑だったところよね・・・ ディン中尉に、申し訳が立たないわ」

ギュゼルだった。 

ファビオ・レッジェーリ少尉に、ギュゼル・サファ・クムフィール少尉。
2か月前。 俺達とは同じ悪夢を体験した者同士。

「・・・ああ、そうだな、クムフィール少尉。 俺達は、ディン中尉に生かされた。 生かしてもらった」
「そのせいで、中尉は・・・」
「・・・先週だったか、確か・・・」


6月の『民間人虐殺事件』


その容疑者として俺達は拘留されたのだが。
統合軍合同軍事法廷で、当時の指揮官だった国連軍のディン・シェン・ミン中尉は。

『本告発に対する全ての責任は、指揮官として命令を下した小官にあり、部下達は上官命令に従ったまで。
戦場における、上官命令の拒否こそ、敵前逃亡罪にも通ずる重罪であって、彼等はその罪を犯しておりません。
また、次席指揮官であった趙美鳳中尉に関しても、当時の先任指揮権は小官に有り、趙中尉が小官の命令に反する事はまた、戦場での上官反抗罪に通じます。
趙中尉をして、その罪を犯しておらぬ事は明白であり、何等の罪状も無い事は、明白であります。
よって、全ての部下に対する、本法廷での無罪を、小官は確信するものであります』

そう言い切り、全責任を負った。 そして8月7日、階級剥奪・銃殺刑を宣告され、同日夕刻、刑が執行された。 確か、まだ21歳だった筈だ。

衛士として戦い、そして戦いの中で散っていくのであれば。 少なくとも納得は出来る。
しかし、戦争犯罪人としての名を着て、全ての名誉を剥奪されての、銃殺刑。
俺達も、失意と絶望の中で覚悟したその処遇を。 中尉は一身に被って、俺達を生かしてくれた。

俺はあの頃。 自分の境遇だけを考え、それに直面する恐怖と闘う他、余裕が無かった。
同じく収監された圭介や、久賀の事を思い浮かべる余裕さえ、無かったのだ。
失意と、恐怖と、絶望と。 そしてそれが全てに対しての諦観に変わった後でさえ。

なのに、俺達と2歳しか違わなかった中尉は。 
全責任を自らが負い、部下だった俺達に対する弁護さえ、行ったのだ。

その結果が、自身の不名誉な死だけだと、判っていてさえ。



不意に、レッジェーリが喚き出した。

「・・・・判っているよッ! そんな事ぐらい、判ってるッ! 
クソッ! でもよッ 出来そこないの、馬鹿な俺達をかばって死んでいった中尉によッ!
いつまでもクヨクヨ、メソメソしててよッ! 結局そんな調子でBETA共に喰われてみろ!? それこそ中尉は『犬死』だぜ!?」

「喚くな! 言われんでも、中尉の死を無駄死にさす真似はせんっ!」

気が付けば、俺は怒鳴り返してた。

「はんっ! どうだか! 大方、監獄の中でビビッてそんな事、考えても居なかっただろうよッ!」

―――ッ! この野郎ッ!!

がッ!

無意識に、ぶん殴っていた。

「ああ! そうだよ! それがどうした! 俺はビビッていたよ! 考えもつかなかったさ! 
でもなぁ! 今はそうじゃねぇ! これからもそんな調子じゃ、本当に中尉は無駄死にだ! そのぐらい、くそったれの俺でも判る!」

がつんッ!

ぶん殴られた。

「だったら! ウダウダすんじゃねぇ! 前見ろやッ! 前をッ!」

ぼくッ!

ぶん殴った。

「手前ぇに言われんでもなぁ! こちとら、中尉の死に様も! 『衛士の覚悟』に加えてんだ! 加えなきゃいけねぇんだよ! 手前ぇに言われんでもなぁ!」

がんッ!

また、ぶん殴られた。

「だったらよぉ! 前見ろや! 前見て生きろや! 中尉は犯罪人で死んだんじゃねぇ! 戦死したんだ! 戦死だったんだ!」

ぼくッ!

ぶん殴った。

「おお! そうだ! 戦死だよ! 戦死したんだよ! 中尉は! だったら、笑って語ってやれや! 泣き喚いてんじゃねぇ!」

ばきッ!

今度は同時。 思わず、2人してぶっ倒れた。

「・・・・んだよ。 判ってんじゃねぇか・・・ ちぇ。 殴られ損だぁ、全く・・・」

レッジェーリが仰向けで呟く。

「はっ・・・ はっ、すっきりした・・・ お前さんの言う通りだよな。 済まなかったよ・・・」

ホント、言いがかり付けたようなものだ。 カッコわりぃ・・・

「・・・で? どうよ、ほかのお二人さんは?」

起き上がりざまに、レッジェーリが圭介と久賀を見やる。

「熱血馬鹿2人には、付き合いきれないが。 趣旨には同意するよ」
「同じく。 あ、今後も、熱血馬鹿の役は全権委任する」

こ、こいつらなぁ・・・

「・・・おい。 周防。 お前って、実は友達少ないか?」
「・・・うるせえ。 そう言うお前はどうなんだよ」


「・・・男って、馬鹿なの? 全く・・・ 
ふぅ。 私も、判ったわ。 もう、後は見ない。 もっと前を見るわ。 
そうしないと、中尉に顔向けできないわよね」

ギュゼルも、何とか折り合いを付けたようだ。


その時。 それまで黙って事の成り行きを見ていた大尉が。

「ふむ。 歓迎のパフォーマンスが終わったところで。 
周防、レッジェーリ。 2人とも後でランウェイ2周して来い。 それと便所掃除、1週間。
さて。 他の者も紹介しよう・・・」

「ス、スルーかよ・・・」
「・・・こんな人だ・・・」





隊員紹介後、俺とレッジェーリは揃ってランウェイの周りを走っていた。
何だか俺って。 こんなことばっかりしている気がする。


「おい・・・」

不意にレッジェーリが話しかけてきた。

「・・・なんだ?」

「ファビオだ」

「んあ?」

「俺の名だ。 ファビオだ」

顔は前を向いたまま。 声だけ、厳かな声だった。

「直衛、だ。 ナ・オ・エ。 俺の名だ」

「よろしくな・・・ 直衛」

「こっちこそな、ファビオ。 『パスタ野郎』は、返上してやるよ」

「ふん。 『二股野郎』って、言われんようにな」


あ~あ。 顔中腫らして、何やってんだろうね、俺達は。









1993年8月14日 1000 大連第3駐屯基地 独立第882戦術機甲中隊 ブリーフィングルーム


そもそも、『戦術機甲中隊』等と言っているが。 人員は中隊定数も居ない。

ヴァルター・クラウス・フォン・アルトマイエル大尉
二コール・ド・オベール中尉
ファビオ・レッジェーリ少尉
ギュゼル・サファ・クムフィール少尉

そして俺達3人
周防直衛少尉
長門圭介少尉
久賀直人少尉

他に
ヴェロニカ・リッピ少尉
ヴァン・ミン・メイ少尉

この9人だ。
欧州から来たのは、アルトマイエル大尉とオベール中尉、リッピ少尉にファビオの4人。
ギュゼルは元々、極東国連軍所属だ。 難民としてキャンプに入る前に、親族が住んでいた極東までやって来たと言う。 
で、例の事件以来、原隊復帰もままならず、浮いていた所をスカウトされたとか。
ヴァン少尉は、どう経緯かは知らないけど、スカウトされた口だ。 こちらも、極東国連軍所属だった。

元々は、大尉たち4人は極東国連軍主催で開始された、戦技・戦術研究会に欧州から参加していたのだと言う。
これは、各戦域軍の得た戦訓を共有する事を目的に、年1回開催されるそうだ。 場所は持ち回りで。


「まぁ、正式編成では無い。 とりあえずはこの人員で進める。 各小隊は変則だが3機編成だ。
第1小隊を私が直率する。 他は長門少尉とリッピ少尉。
第3小隊はオベール中尉が纏めてくれ。 久賀少尉、ヴァン少尉。君達が第3だ。
第2小隊はクムフィール少尉、周防少尉、レッジェーリ少尉。 同一階級だが、先任順でクムフィール少尉を小隊長とする。
乗機はすでにハンガーに揃っている。 F-15Cだ。 本来なら、我々居候には廻ってこないような代物だ。 壊すなよ?」


F-15Cか。 帝国じゃ、『陽炎』として一部採用されているが。 未だ乗った事が無い。
この極東戦域じゃ、少数を帝国が保有している以外は、国連軍しか使用していない機体だ。
近接機動は兎も角、パワーはかなり有りそうだし、面白そうだ。 実は前々から搭乗したいと思っていた。


「ここにいるメンツでは、全員が初搭乗の機体だ。 午前中は整備に機体の特性とか、主機のパワー特性、癖などを確認しておけ。
午後の1番から、実機慣熟訓練に入る。 最初だからな、無理はしない。 兎に角、機動特性を確かめる。 いいな」

「「「「「「「 はっ 」」」」」」」

「敬礼ッ! 直れ 解散ッ!」


さて。 新しい「愛機」とのご対面と行こうか。









≪大連第3駐屯基地 1210 PX≫


国連軍のメシは、基本的にバイキング形式だ。 といっても、そんなに種類がある訳じゃない。
それに、帝国軍も半分はそうだったが、国連軍は100%合成食材だ。 味の方は・・・ 何とも言えない味だ・・・
しかしまぁ、食わなきゃ生きていけない訳で。 食う事も俺達にとっては仕事の内だ。
と言う訳で。 昼飯を食っている。

「しかし、イーグル(F-15C)か。 戦場では何度も見たけど、動きが兎に角パワフルだったな」

圭介が思い出したように、言いだす。
確かに、国連軍と共闘した時にはお目にかかる機体だから、知らない事は無いけど。 
機動力云々より、大出力にモノを言わせての一撃離脱とか。 ハードポイントが多くて、兎に角、中・遠距離からの砲撃戦とか。
そんなイメージの強い戦術機だった。

「日本にも、確か有ったろ? 乗った事無いのか?」

ファビオが何とかのパスタ(何か知らない)を食いながら言う。 やっぱりイタリア人は、パスタが米みたいなもんなのか?

「確かに一部配備されてるけど。 あれは本土防衛軍の、それもエリート部隊用だ。
ヤクザな、大陸派遣軍には回ってこない」

久賀が皮肉交じりに言う。
確かに。 帝都防衛第1師団や、各地の重要拠点防衛部隊に、少数配備されているだけだ。

「日本軍は、去年の秋頃からヴァイパー・ゼロ(F-92J「疾風」)を集中配備し始めたのでしょう?
今、大陸の日本軍は4割近くがヴァイパーじゃない。 残りはF-4E・・・ F-4EJ(撃震)のようだけど。
3人ともヴァイパーだったわよね?」

ギュゼルは良く見ているな。
確かにそうだけど。 「疾風」は大陸派遣軍最優先配備だから、国内にはまだ2割ほどしか配備されていない。 大半は未だ「撃震」だ。

「まぁ、言うとおり帝国軍は「疾風」と「撃震」がポピュラーでね。 F-15・・・ 日本じゃ「陽炎」ってネーミングだけど。 その機体は少ないんだよ」

「俺も、周防も、長門も。 「撃震」から「疾風」に乗り換えた口だから」

「俺と直衛は、去年の6月からずっと、「疾風」だったから。 ファビオとギュゼルは、何に乗っていた? 確かこの前は、F-15Cだったな?」

そうだ。 確かに6月のあの時、2人はイーグルに搭乗していた。
でも、極東国連軍のギュゼルは兎も角。 元々欧州国連軍のファビオがイーグルにはそうそう登場する機会は無いよな? 向うは欧州系の機体が多いし。


「俺はアン時が初めて。 ヨーロッパじゃトーネードに乗っていたよ」

「私はF-4Eに乗っていたわ。 イーグルも余っている訳じゃないもの」

「となると。さっき『壊すな』っていった隊長の言葉。現実味が有るなぁ・・・」

久賀が肩をすくめながら、おどけて言う。 確かに、そうそう居候に壊されちゃ堪らん機体だ。

「ま。 兎に角昼からの慣熟訓練だ。 訓練校出たてのヒヨ子じゃあるまいし。 いちいち機種転換で壊してたんじゃ、ウィングマーク没収もんだぜ」

俺の言葉に皆頷く。 何だかんだ言っても。 皆やはり早く乗ってみたいのだ。 何せ、最強級の第2世代機だしな。
いつしか、食事のペースも速くなって。 皆、何かに急かされる様にハンガーへ向かって行った。







≪大連郊外 旅順地区北部演習場 1340≫


3機のF-15C「イーグル」の編隊が、プラッツ&ウィットニーF100-PW-220Eの轟音を残し、上空をフライパスしていく。
三角形を描くデルタ・フォーメーションで高度を一気に落とした後、急速旋回からスパイラル・ダイブに入ってピンポイントで着地。
そのまま一気に噴射地表面滑走に移る。
小高い丘陵部が続く地形を、時折噴射跳躍をかけながらも、演習規定速度ギリギリで複雑な、そして小刻みな機動をかけつつ、突進していく。


『チェイサーよりブラヴォー01! ご機嫌だな! 今、ポイントR05通過。 コンマ・マイナス0.11! 余りはしゃぎすぎて、壊すなよ!?』

「ブラヴォー01よりチェイサー。 問題無い。 くそBETAの群れの中を突っ切るのに比べりゃ、ハイキングだな」

チェイサーの軽口に思わず合わせてしまう。
もっとも、そんなセリフが出てしまうほど、気分は高揚していた。

『はっ! そりゃそうだ。 んじゃ、次行ってみるか? エリアD4 アップダウンコースで制限高度は50! 設定タイムラグはプラスマイナス0.85!』

「OK 02、03?」

『02だ。何時でもいいぜ』
『03。 さっさと攻めようぜ』

OK、OK。 2人ともしっかり『イッて』やがるな。

「ブラヴォーよりチェイサー。 タイムアタック開始する。 タイムチェック頼む」

『ラジャ!』

カウントダウン・・・ 5、4、3、2、1、ゼロッ

主機を戦闘最大推力まで一気に上げて、3機のイーグルが丘陵の谷間へと突っこんでいった。




≪演習指揮車両≫


轟音を残して、ブラヴォー隊が次のアタックエリアへ突入していった。
その様を見つつ、アルトマイエル大尉が傍らで各種データの取り纏めをしている、オベール中尉に問いかける。

「二コール。 今、派手にはしゃいでいるのは、JIA(日本帝国陸軍)からの3人組だったね。 どんなものかな?」

複数のモニターの数値をチェックし、必要なデータを別起動したプログラムで体系化させていたオベール中尉が、モニターから視線を外し、指揮官を見上げる。

「そうね・・・ 流石に3人とも、1年以上実戦の中で揉まれてきただけあって、適応性は高いわね。
最初こそ、あの機体のパワーに戸惑ったようだけど。 ものの10分もしないうちに、子供のようにはしゃいで振り回し始めたわ」

その、如何にもやんちゃな少年達を見るような表現に、アルトマイエル大尉が苦笑する。
実際には、オベール中尉と彼ら3人は、3歳しか年が変わらないのだが。

(まぁ、女性にとって3歳も違えば、男など皆子供も同じか・・・)

自身の扱われ方を振り返り、更に苦笑する。
二コール・ド・オベールと言う女性は、精神年齢の高さ、と言うより、大人の女性なのだが。
如何せん男性全般の精神年齢を、低く見る傾向もある事は確かなのだ。

「機体には慣れてきたと言う事か。 機動制御はどうだ? 今は高速機動制御のアタックコースだったな」

「そこは、アジア・・・ と言うより、日本軍出身の衛士、と言うべきかしら。
姿勢制御用スラスターや、主機の推力偏向(スラストベクター)なども、勿論有効に使っていますけれど。
特徴的なのは、機体の各種パーツ・・・ 頭部や腕部、脚部。 そう言った部位を意図的に『振る』事で、最大限に慣性モーメントを活用した機動をしているわ」

「ほう・・・?」

「現時点での推進剤残量は、欧州や米国の衛士が同じアタックをかけた場合と比較して、平均で11%も多いのよ。
無駄に大推力にモノを言わすのでは無く、あらゆる省力化を念頭に置いた機動ね」

確かに、3機とも見た目は派手な高速機動を繰り広げているが。 
良く見ると、単に主機やスラスター推力に任せた機動と異なり、要所要所が非常に滑らかな動きをしている。

(成程。 アジア諸国軍の特徴は、ハイブ突入時の戦闘を第1に置いた機体運用・設計だったな)

アルトマイエル大尉は、欧州と常に比較参照されるアジア諸国の戦術機運用を思い出した。
それは、より近接戦闘を重視した戦術思想であり、そしてハイブ内という、補給の確保が非常に困難な場所で、如何に長時間の戦闘を行うか。
それを追求した戦術機運用思想だった。 中でも日本は、それが顕著に表れていると言われる。
その日本軍で訓練を受け、戦ってきた衛士の戦闘機動がどのようなものなのか。 今回初めて目の当たりにしているのだ。

(欧州には、欧州の戦場で長年培ってきた戦術機運用思想が有る・・・
しかし。 だからと言って、それが絶対と言う訳では無い。 現に未だBETAを押し返せない現状が、現実の限界かもしれん)

ならば。 自分の目にも印象的なあの機動を繰り広げる3人の日本人衛士達は。
彼らの戦術機機動思想は。 今後、欧州での戦場で新たな扉の一つを開ける事になるかもしれない。
いや、そこまで大それたことでは無いかも知れない。 しかし、確実に新しい風にはなってくれそうだ。

(それも、BETAと言う暴風の前になぎ倒されなければ、の話だが・・・)


『チェイサーよりブラヴォー01! エリアD4、アタック終了! コンマ・マイナス0.14! おいおい! お前等化け物かよッ!?』

チェイサーを務める、レッジェーリ少尉の呆れた声が聞こえる。
確か、エリアD4の制限タイムロスは、プラスマイナス0.85  それを初回からいきなり0.71も短縮とは・・・

『ブラヴォー01よりチェイサー! このくらい、光線級の居る戦場で命がけのトンズラに比べりゃ、ピクニックだって!』

この声は、ブラヴォー01、周防少尉か。
確かに光線級の存在する戦場では、あらゆる機動が制限される。 確か、日本軍は積極的な高速機動退避を旨としていたな。 そう言う事か。


「本当に、掘り出し物でしたわね。 ヴァルター、貴方の頑固さも、時には良い結果を生み出すことね」

「・・・ならば。 現地司令部の嫌味と色眼鏡に耐えて、彼らをスカウトしてきた殊勲者には、少しばかりの褒美もあって良いのではないか。 
僕はそう思うのだが?」

「今はお仕事中よ? 私の部隊長は、公私の使い分けは出来るお方だと、思っているのですけど?」


やれやれ。 昔から変わらないな。 オベール家のお嬢様は・・・


『よぉ~し! じゃ次、いくかぁ!?』
『何でも来いッ!』

何時の間にやら、本当に少年のお遊びの様相になってきた。
きりの良い所で止めさせないと、後で整備の責任者から何と嫌味を言われるか。
連中が整備班から袋叩きにされるのは、知った事では無いが。 自分まで巻き添えになる事は、御免蒙りたい。


「二コール。 あの腕白坊主どもを、きりの良い所で引きずり降ろしておいてくれないか。
私は次の隊で出るからね」

「了解」

柔らかな、しかし面白そうな表情の笑みで、オベール中尉が敬礼する。
お気に入りの何かを見つけた時の、アルトマイエル家の腕白坊主が昔から見せる顔を、見つけたからだ。

ライン河を挟み、フランス側のストラスブールに有ったド・オベール男爵家と、対岸ドイツ側の小さな町、ケール郊外のフォン・アルトマイエル男爵家。
両家の元気なお姫様と、腕白な若様は。 今、極東の地で次の戦場の為に暫し刃を休ませる、衛士となっていた。






前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.034058809280396