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No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
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[7678] 国連極東編 満州3話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/06/09 02:03
1993年9月6日 0750 大連 満洲方面軍南部防衛線 防衛司令部


最終的に南部防衛線戦力は、華北方面軍北部戦線戦力を早期に合流させた事と相まって、かなりの拡充を見た。
今年1月の『双極作戦』参加兵力に、ほぼ匹敵する陣容を整えつつあったのだ。

その陣容は、以下の通りとなる(カッコ内は今年1月の『双極作戦』参加兵力)

・戦術機甲部隊 10個師団 (13個師団+4個旅団 ※1個師団は2個旅団相当の戦力)
・機甲部隊 8個師団+5個旅団 (5個師団+9個旅団)
・機械化歩兵部隊 9個師団 (9個師団+2個旅団)
・軽歩兵部隊 5個師団 (無し)
・砲兵部隊 20個旅団 (21個旅団)
・航空打撃部隊 4個航空団 (10個航空団)

戦術機甲戦力こそ、70%に及ばないが、その他の打撃・支援戦力は同等に近い。
その他に、渤海湾に展開した統合海軍第3任務艦隊(統合海軍渤海艦隊を改称)が存在する。

正規戦術機母艦6隻、戦艦6隻、打撃巡洋艦(重巡洋艦)6隻、ミサイル巡洋艦(軽巡洋艦)6隻、駆逐艦・フリゲート艦66隻。
艦載戦術機は360機(約1個師団相当)

主に艦載戦術機による、海上からの戦域制圧・打撃支援と。 水上打撃部隊による、戦域面制圧支援を担当する。


司令部管制オペレーターの報告が、次々と入ってくる。

「第1防衛線、錦州=朝陽ラインに布陣完了。 戦術機甲2個師(師団)、機甲2個師。機械化歩兵2個師」

「南部第2防衛線、営口=盤錦ラインに布陣。戦術機甲2個師、機甲3個師、機械化歩兵2個師」

「北部第2防衛線、阜新=台安ライン布陣完了。戦術機甲2個師、機甲3個師、機械化歩兵1個師」

「最終防衛線、瀋陽=鞍山=瓦房店ライン布陣完了。 戦術機甲3個師、機甲4個旅(旅団)、機械化歩兵3個師」

「戦略予備部隊、普蘭店に待機。戦術機甲1個師、機甲1個旅、機械化歩兵1個師」

「軽歩兵部隊、第2防衛線後方に展開完了。 砲撃任務部隊3個群、展開完了です」

「航空打撃部隊。 第221打撃航空団、営口。 第271打撃航空団、阜新。 第331打撃航空団、第351打撃航空団、盤錦に展開完了しました」


各防衛線の展開が完了した。 後はBETAの動向だが・・・

「本日、0700時点の索敵情報では、重慶F群は秦皇島に。 重慶G群とウランバートルB群は承徳に。 各々確認されております」

南部戦線司令部参謀長・何欽少将が、スクリーンに表示された戦略MAPで説明する。

「両個体群が、各々の位置に到達して、既に38時間近く。 統計値上ではそろそろ『食餌』が終わる頃かと。
推定行動開始予想時刻は、後30分前後。 秦皇島から第1防衛線まで、約180km 承徳からは約260km
前衛の突撃級は、南部のF群で1時間30分後。 北部のG群・C群で2時間後の到達予想。 敵BETA主力は、南部が2時間20分後。 北部が3時間15分後」

「海軍の展開は、どうなっている?」

南部第2防衛線司令官、李根・韓国陸軍中将が年相応の端正な表情で、確認する。 今は無き、李王朝の末裔である。

「第32任務部隊(母艦戦術機部隊。柳本隆作中将)は、遼東湾上のバトル・ステーションに展開を完了しました。
戦術機母艦6隻、ミサイル巡洋艦6隻、3個駆逐隊(12隻)の24隻。
第1次攻撃隊は、第1防衛線へのBETA接触想定30分前、0850発艦出撃予定。 以降、午前中で第5次攻撃隊までを出撃予定です。

砲撃戦主力の第31任務部隊(水上打撃戦部隊。有賀幸平中将直率)は現在、興城沖35kmを遊弋中。BETA群を砲撃制圧範囲内に補足と同時に、制圧砲撃を開始予定。
戦艦6隻、打撃巡洋艦6隻、2個駆逐隊(8隻)の20隻です。

第33任務部隊(中国北洋艦隊)24隻と、第34任務部隊(韓国西海艦隊)22隻も、近海を遊弋しております」


「海軍は、予定通り全力支援を行ってくれましょう。
東南アジア戦域での、支援作戦の実績も豊富な、有賀中将と、柳本中将でしたら・・・」

北部第2防衛線司令官、樋口誠一郎帝国陸軍中将が静かに答える。

「樋口中将は、両提督と面識が?」

最終防衛線司令官でもある、南部防衛総司令官の賀英秦中国軍大将が、樋口中将を見やる。 
この大防衛戦前に、最大の、とも言ってよい支援部隊の主力指揮官。 その人柄・能力を把握しておきたいのだろう。

「直接の面識は、ございません。 が、当代きっての名提督とも言われる、我が国のGF(連合艦隊)長官の、切り札と言われるほどの両提督です。
悪戦であれ、苦戦であれ。 友軍を最後まで支援し続ける事を。 最後まで足掻き抜いてでも、やり抜いてくれる。 そう確信しております」

相変わらず、禅僧のような物静かな表情では有ったが。 その確信は、周囲の僚将達を納得させるに十分では有った。


「・・・十分な海上支援が得られるのであらば。 存分に暴れてご覧にいれましょう」

まだ若い、韓国軍の将官―――韓国陸軍・第5戦術機甲師団長・白慶燁少将が、静かに、しかし闘志を込めて言いきる。
この場での。 いや、世界中を見ても、最年少の将官。 今年35歳。


司令部にて、各級指揮官がその覚悟を固めた時。 哨戒部隊からの第1報が飛び込んできた。

「国連軍第882独立戦術機甲中隊より入電! 0815、承徳のBETA群、移動開始! 前衛は突撃級を主力とす。 約7000!」
「中国軍第779哨戒戦術機甲中隊より入電! 0816、秦皇島のBETA群が動きました! 突撃級、約6000!」


「来たかッ!」

賀大将がその報に立ち上がる。 そして周りの諸将を見渡し。

「諸君。 今回我々は、大きな過誤を犯したかもしれない。 1000万の同胞を切り捨てるというな。
であればこそ。 その過誤の上塗りは、最早許されぬ。 この防衛線の後ろに控える、数千万、数億の同胞を守る為に。
今後はお互い、忙しくなろう。 よって、今言っておく―――――頼む。 ここを死に所と思ってくれたまえ。 ここで死んでくれ。 以上だ」

「元より、その所存」

樋口中将が、穏やかな表情で答える。

「今更後へは、引けませぬな」

李中将が微笑を浮かべ。

「悪戦、苦戦。 望むところです」

第1防衛線司令官、グエン・ヴァン・フェン国連軍中将が、ふてぶてしい笑みを浮かべる。


「寄りにも寄って。 もの好きの集まったものだ」

賀大将は微苦笑した後、歴戦の将軍の顔を取り戻した。

「0817 これより南満洲防衛作戦。 『九-六作戦』を発動する。 各級指揮官、奮戦せよ」

「「「「 はっ 」」」」









≪約45分前 9月6日 0730 錦州西方 第1防衛線 第882独立戦術機甲中隊≫


9機のF-15Cが、3つのデルタ・フォーメーションを組み、NOEで東に進んでいる。
国連カラー。 俺達の隊、第882独立戦術機甲中隊だった。

昨日の深夜、阜新へ到着した第882中隊で有ったが。 
何せ、中隊定数にも満たない戦力。 そして、北部第2防衛線の主力は帝国軍とあって、中隊の扱いには困ったのだろう。
独立行動の哨戒・遊撃中隊に指定された。 要は『邪魔しない範囲で、好きにウロウロしていろ』と言う事だ。

古巣の余りの仕打ちに、俺達帝国出身組3人はむかっ腹を立てたものだが。
他の連中はさほど気にも留めていない。 こんな事は茶飯事、と言う事か。

そして、我が中隊長のアルトマイエル大尉は。 実は殊のほか、天邪鬼でも有ると言う事が解った。
存外にされた事を逆手に取って、第1防衛線より前方に展開、索敵を行う『前衛哨戒・遊撃中隊』の名前を捥ぎ取って来た。
それも、第1、第2防衛線全域で有効な。 つまり、この範囲で『好きなように』動き回れる、と言う事だ。

だからと言って。 いきなり第1防衛線の遙か前方。 BETAの屯している、承徳への強行偵察はなかろうに・・・


『グラム01よりグラム各機。 間もなく承徳のBETA感知圏に入る。 NOE中止!』

全機が逆噴射をかけ、フォーメーションをそのままに着地する。

『グラムB、先行しろ。 地表面噴射滑走はいいが、噴射跳躍は控えろ。 グラムCは、Bの左翼後方300mを維持。 Aは右翼後方300m 』

「グラムB、了解。 ファビオ、ギュゼル。 左右を固めてくれ。 俺がフォワードを張る」

『B03、了解ぃ!』 『B01、了解です』

ファビオの陽気な声と、ギュゼルの落ち着いた声が聞こえる。 大丈夫そうだな。 一昨日のように、不必要に不安がってはいない。

本来なら、B02の俺では無く。 B01(突撃前衛長・小隊長)のギュゼルがトップを張るべきであろうが。
彼女は未だ、ここまでの大規模作戦の経験が無い。 無論、今まで10回以上の実戦出撃を経験しているが、中・小規模戦闘が主だった。
ファビオにしても、地中海戦線ではメッシーナとジブラルタルの戦歴が有るが。 これも今回のような大規模作戦じゃない。

そんな事もあって、出撃前にギュゼル本人から、トップを張ってくれるように言われたのだ。

(『私は、貴方程の大規模作戦の経験が無い。 実戦で判断を誤ってしまう危険を冒すより、経験のある貴方に、作戦中は01のポジションをして貰いたいの』)


無論、彼女はただ後ろに下がるだけじゃない。 俺の右翼をがっちり固めてくれている。 左翼はファビオだ。
独断で決めるわけにもいかず、アルトマイエル大尉と、オベール中尉にも相談したところ。意外なほどあっさりと承認された。

大尉曰く 『有効利用できるものは、何だって使うべき』だそうだ。
俺は、有効利用できる『もの』なのね・・・
まぁ、評価されたと考える事にしたのだけど。


静粛索敵(サイレント・サーチ)をかけつつ、慎重に前進する。
華北や満州は、地平線が連なると思われがちだが。 実際には200~400m級の山々が連なる。 
モンゴル高原から緩やかに下って来る『斜面』の終点だ。

小高い山間の谷間を、ゆっくりと前進し。 斜面を登り、稜線から光学センサーで反対側を『覗き見る』
トップの俺が索敵中は、左右後方のファビオとギュゼルの機は、側方警戒で震動と音紋センサーを作動させている。
今のところ、BETAの動きは無い。 しかし、そろそろ承徳を視認できる距離だ。 気をつけないと、出会い頭どころか、奇襲を喰らう危険性がある。


「ファビオ、ギュゼル。 前方200の稜線・・・ 295高地。 あそこから承徳が視認できる筈だ。
複合センサーの感度を上げろ。 範囲は多少狭くなっても良い。
B02よりリーダー。 295高地より視認索敵(インサイト・サーチ)開始します」

『リーダーよりB02、了解だ。 A小隊は右翼後方の289高地、C小隊は左翼の279高地でバックアップ態勢に入る。 C01?』

『C01、了解です。 B小隊、気を付けて』


3機のイーグルが、谷底から噴射跳躍で稜線の頂上付近まで上がる。
機体をニーリング・ポジションにして、わずかながら『顔を出す』

――――いたッ!

市街を食い尽すかの様な、BETAの大群。 しかも、食餌の時間が終わったのだろう。 突撃級の一部が方向転換―――こちらに向かいつつある。

「B02よりリーダー。 BETA視認(インサイト) 重慶のG群と、ウランバートルのB群です。 一部は行動を開始しつつ有り」

赤、白、黒、灰・・・ 胸糞の悪くなる情景だ。 しかもそれが、地球の生命体共通の大災厄―――BETAなのだ。

『リーダー、了解。 光線属種は確認できるか?』

「ネガティブ。 確認できず。 複合センサーの個体識別も、ネガティブです」

辺り一面を覆い尽くしている。 情報では2群。 約7万  正直、『BETAが8割、陸地が2割』だな、これは。

そんな事を考えている内に、前衛の突撃級の動きが活発になって来た。
悪夢のような大津波が。 ゆっくりと、しかし確実に。 こっちに向かってくる。 死の代名詞として。


『うッ・・・ うわ・・・!』 『ひッ・・・・!』

ファビオとギュゼルが息を飲む。 無理もない。 こんな大規模なBETAの大群なぞ、一生にそうそう、お目にはかかれない。
何故って? 大抵は戦死しちまうからだよ。 こんな、地表自体が。 大瀑布の如くの大音響を立てて押し寄せる、大津波のような、BETAの突進ッ!!

「B02よりリーダー! BETA群、移動開始。 先頭は突撃級の群です。 約・・・7000」

『リーダーよりB02、了解。 これより離脱する』

「B02、了解。 ・・・ ファビオ、ギュゼル。 正気を戻せ。 あんな大群となんか、遊ばないから安心しろ」

『な、直衛?』 『あ、遊ぶって・・・』

「中隊定数も居ないんだ。 索敵に徹するのさ。 つかず、離れず。 派手などつき合いは、防衛線の師団に任そう。
9機で突っ込んでも、蚊に刺された像みたいなもんだ。 それ以下かな? 行くぞッ!」

『『 りょ、了解! 』』

3個小隊、9機のF-15Cイーグルが、3個のデルタ・フォーメーションを組み直し、高度350でNOEを開始。 東方へ一旦進路をとる。

『リーダーより各機。 ポイント・ゼブラ、座標N-25-44で進路方位3-5-0 北へ20km行ってから、方位2-5-8へ転針。 BETAに張り付く』

『C01より小隊各機。 高度350以上は上げない。 よくて?』 『『 了解 』』

「B02より小隊。 先行する。 巡航速度維持」 『『 了解! 』』

大尉が戦線司令部へBETA発見の報を入れている。

1993年9月6日 0815  またもや、大乱痴気騒ぎだ。 畜生!








≪渤海湾 バトル・ステーションB 0900 第32任務部隊 第32-1任務隊 戦術機母艦『雲龍』≫


第1次攻撃隊のF-4EJⅡ改『翔鶴』12機が、発進を開始した。
JBR(ジェット・ブラスト・リフレクター)が立つ。 カタパルトにロックされた『翔鶴』が、主機を常用定格推力(ミリタリー)まで放り込む。
スチームカタパルトが一気に機体を加速させ、中空へと放り出す。


「司令官。 発艦完了は0915 空中集合の後、第1防衛線前面に対する、打撃支援を実施します」

『雲竜』艦長、高柳完治大佐の報告に、柳本中将が頷く。
艦橋から外を見ると、僚艦の『翔龍』 32-2任務隊の『天龍』『神龍』 32-3任務隊の『瑞龍』『仙龍』からも、逐次12機づつ発艦を始めている。

第1次攻撃隊、72機。 全機が専用パイロン4基に、各3発のAGM-65・マーヴェリック空対地ミサイルを装備。 両腕の武装は、M88-57mm支援速射砲を持つ。
マーヴェリックを全弾発射した後に、M88での長距離砲撃を行い、一気に離脱する。 海軍戦術機部隊の戦域制圧法だった。


「・・・うむ。 彼なら、良く部隊を最良の結果へと、導いてくれよう。
我々は待つのみ、だね。 高柳君」

「はい。 しかし、『是非、総隊長として出撃させてくれ』と迫られた時は。 いや、参りましたな」

「旗艦の飛行長自らが出撃など、前代未聞だしな。 しかし、衛士連中の士気は上がった。 流石、と言うべきか」

上空を、大編隊を組みフライパスしていく72機の『翔鶴』

高柳艦長はその姿を見つめ、呟いた。

「頼むぞ、ブチよ・・・」








≪渤海湾上空200m 帝国海軍第32任務部隊・第1次攻撃隊 指揮官機≫


そろそろ、的が見えてきそうやな。 さっきから回線通信で陸さんが、大騒ぎしとる。
まぁ、待ちって。 もうすぐ、このブチさんが参上したるよって。

『総隊長。 間もなくBETA認識圏。 高度50に下げます』

操縦衛士の坂江大尉が、網膜スクリーンに現れて報告する。

「あいよ。 了解」

WCO(兵器管制衛士)席から、第1次攻撃隊隊長・兼・任務部隊攻撃総隊長の、淵田三津夫中佐が、関西弁丸出しで答える。
『スマート』がウリの海軍士官の中では、異色の存在だった。

「後ろは大丈夫かいな? ちゃんとついて来よるかいな? 
橋口!(少佐 翔龍隊長) 阿部!(大尉 天龍隊長) 楠見!(少佐 神龍隊長) 岡島!(大尉 瑞龍隊長) 兼子!(大尉 仙龍隊長)
迷子になってへんなッ!? なっとったら、ワヤやでッ!」

途端に部下から通信が入る。

「大丈夫ですよ。 よしんば、位置を失ったとしても。 総隊長の騒がしさで、どこに居るか判りますから」

次席指揮官の橋口僑子少佐だった。

72機の『翔鶴』は全機、見事な錬度を表す、編隊を組んでの超低空突撃を開始する。
ほんの少しでも操作を誤れば、海面に激突する高度だった。 しかし、彼ら海軍衛士にとって、これこそが真骨頂。 

『ジェット後流が、海面を叩く高度での、高速低空突撃』

そして一気にその破壊力をBETAに叩きつけるのだ。

「よっしゃ! ええでッ!  ほれ! 目標、前方2000の突撃級と要撃級! 獲物はたんまり有るさかいなッ! たらふく喰らい尽せやッ!」

『『『『『 応ッ!! 』』』』』


『こちらFAC(前線航空管制)‐009、フェニックス01、突入進路そのまま。 
エリア・F(フォックストロット)のBETA群、突撃級と要撃級の混成。 掃除を願う』

第1防衛線に張り付いているFACから、淵田中佐へ目標指示が入る。
第1防衛線の一角へ、執拗に波状突撃をかける突撃級を中心としたBETA群を視認する。

(ふん。 あれかいな。 確かに、あっこが破られたら、防衛線の側面に大穴空きよるな・・・)

状況を咄嗟に確認する。 

「こちらフェニックス01。 FAC-009、了解や。 しこたまマーヴェリックばら撒いたるさかい、頭ぁ低くしときや。 危ないで」

『FAC-009、ラジャ。 頼みます、総隊長!』


「坂江、高度20! フェニックス01より各機! 目標、聞いての通りや! 突入法第2法! ええかッ? 防衛線突破させるなやッ!?」

『『『『『 了解 』』』』』 各隊長が唱和する。

72機の『翔鶴』は一気に高度を下げ、そして速度を上げる。 海面上を抜け、陸地へ。 高度をそのままに、BETA群の側面へ突進した。

残り500 編隊が6つに分かれる。
残り400 高度を一気に300まで上昇さす。
残り300 各機が一斉に逆噴射制動をかけ、発射体制に入る。


「よっしゃぁ! ぶっ放したれッ!!」

各機がそれぞれ12発のAGM-65・マーヴェリック空対地ミサイルを発射する。
864発のマーヴェリック・ミサイルがBETAに殺到する。

その硬い装甲殻をも射貫される突撃級。
前腕での防御が間に合わず、炸裂と同時に体内を破裂さす要撃級。
爆発に巻き込まれ、高々と吹き飛ばされる戦車級と闘士級。

72機の『翔鶴』はそれぞれの編隊を維持しながら、BETA上空をフライパス。 その際にM88支援速射砲の、高速57mm砲弾を上空からばら撒く。
突撃級でさえ、3、4発で動かなくなる。 要撃級や小型種BETAが、次々と打ち倒されていく。

一撃離脱でBETAの居る戦場を、戦域制圧させた第1次攻撃隊は、進入経路と逆方向に全速で退避していく。


「こちら、フェニックス01! 防衛線、どないでっかな!?」

『こちら第1防衛線管制。 フェニックス01、完璧な仕事ぶりだ。 感謝する』

第1防衛線の戦域管制から通信が入る。

「礼には及ばんよ。 あと、午前中に残り4派を繰り出すよってな。 午後も同じや。 
それでも足らん時は、『ビッグ・ウィング』にコールしなはれ。
大特急で荷物届けたるさかいな。 ほな、気張りやッ!」

『ああ! 貴官達も!』


第1次攻撃隊は、完全な奇襲の形を取れた。 突撃級をはじめとする、BETA撃破1,089体。

(上手くいけば。 今日で1万は削れるか、ワシらだけで・・・)

当然、そんな甘い事は無いというのは、淵田中佐も認識している。
事に、光線属種が出現すると、海軍戦術機部隊の損害が増える。
が、しかし。

(それでも。 やらなあかんわな。 陸さん連中が、死に物狂いで戦っとるんや)

母艦からのビーコンを捉えた。 


出撃から約1時間20分後。 無事に母艦へ帰還した淵田中佐は、全機帰還と言う望外な結果に喜びつつ、次の出撃以降の厳しさを感じていた。








≪9月6日 1518 第1防衛線 第882独立戦術機甲中隊≫


強行哨戒隊だの、遊撃隊だの、好きにしろ。 そう言われていた俺達の中隊は。 今やコンバット・レスキュー・スクォードロン(戦闘救出中隊)と化していた。


≪こちらHQ-CP018『マーリン』  ≪グラム≫ 聞こえますか!? エリア・H(ホテル)022でCR(コンバットレスキュー)要請あり! 急行願います!!≫

こんな具合だ。

『こちら、グラム・リーダー。 ≪マーリン≫ 現在地からでは、およそ5分で到達可能だ。 レスキュー対象は?』

≪マーリンより、グラム・リーダー。 海軍戦術機が跳躍ユニットを全損。 H022で身動きがとれません。
付近にBETA群が集結中。 『ビック・ウィング』管制より救出依頼が出ています。
協同に1個機甲小隊、1個機械化歩兵中隊が急行中。 大型種は確認されていません。 小型種の数が多いです。
現地での管制は、ハンマー08。 機甲小隊はゴッズ08、機械化歩兵がレイズ12≫

『グラム・リーダー了解。 急行する。
―――各機、聞いての通りだ! CR! 何としてでも救出するッ! グラムB! 飛ばせッ!』

「B02、了解! グラムB、ファビオ! ギュゼル! かっ飛ぶぞッ!」

『『 了解! 』』


A/Bに放り込む。
プラッツ&ウィットニーF100-PW-220Eの轟音と震動が伝わる。
一気に噴射跳躍をかけ、そのまま規定高度で高速NOEへ移行する。
暫くしないうちに、ハンマー08から通信回線が入った。

≪ハンマー08より、≪グラム≫! CR要請応答、感謝する!≫

どうやら、海軍のFACが臨時兼務しているようだ。

『グラム・リーダーより、ハンマー08、状況は?』

アルトマイエル大尉が、FACへ状況確認を入れる。 協同部隊の情報も欲しい。

≪ハンマー08より ≪グラム≫  ターゲットはダウンした『翔鶴』の衛士2名。 1名は負傷している。
ゴッズ08、レイズ12は軽井沢より松本へ向かっている。 ≪グラム≫ はその側面からクソッたれなBETAに一撃かましてくれ。
突入経路は、軽井沢―小諸―松本―軽井沢だ。 いいか?≫

どう言う理由かは俺も良く知らないが。 帝国軍はこの手の場合、目標を『松本市』に見立てるのが常だ。
つまり、救出目標に対して、東―東南―目標の経路で突入し、そのまま東へ抜ける。 そう指示してきている。

帝国流の目標指示に不慣れな大尉に、俺から補足を入れる。


『グラム・リーダー、了解。 ターゲットよりE-ES-ターゲット・オン-E、だな?』

≪そうだ、グラム。 早くお願いする! もうそこまでBETAが来ていやがる!≫

回線からは、重機の射撃音まで聞こえる。 と言う事は。 FACまで戦闘参加している状況なのだ!


暫くして、目標を視認。 墜落した『翔鶴』が1機。 その周辺に、分隊規模の歩兵・・・ 違う、脱出した衛士と、前線航空管制班が孤立している。

「B02よりリーダー! タリホー! 1時! BETA群、11時、300!」

『リーダー! 確認した! ゴッズ08、レイズ12! 梅雨払いはグラムがやるッ! 荷物の確保は頼むぞッ!』

『ゴッズ08! 東の丘陵から阻止砲撃、開始しますッ!』
『レイズ12! グラム突入と同時に、レスキュー開始するッ!』

機甲小隊と、機械化歩兵小隊の指揮官から応答が入る。 よしッ!


「グラムB! 突入しますッ! 01! 03! 続けッ!」

『 おうッ! 』 『 了解! 』

NOEから逆噴射制動をかけ、高度を一気に落とし。 着地と同時に地表面噴射滑走に入る。
地形が起伏に富み、上空からでは死角ができる。 地道に潰すしかない。

斜面を利用して、谷底のBETA―――小型種―――に、逆落としをかける。 2門の36mmで、砲口をずらしながら掃射する。
そのまま、反対側の斜面へ高速滑走。 肩部スラスターの推力を利用して、急速垂直軸反転でまた、逆落としに掛る。
後の2機。 ファビオとギュゼルも続行する。 
120mmキャニスター弾で、ファビオが戦車級BEATの群をまとめて吹き飛ばす。 ギュゼルが撃ち漏らした小型種を、36mmで掃射する。

稜線上から、機甲小隊が120mmでキャニスターを撃ち続ける。 機械化歩兵中隊の装甲戦闘車がハルダウンして、36mm砲弾を撒き散らす。

3機が通過した後を、更にA、C小隊の6機が拡大掃射を行い、瞬く間に300近い小型種を掃討した。


『グラムリーダーよりゴッズ、レイズ。 周辺掃除は粗方片付いた。 未だ小物がうろついているかもしれん。 警戒してくれ』

『ゴッズ08、了解』

『レイズ12了解。 あと、ターゲットは無事に確保。 1人は重傷だが・・・ 大丈夫、ウチのドクの診立てじゃ、命に別条は無いとの事だ』

良かった。 1人でも衛士を救助できれば。 それだけBETA共をぶちのめせる。
俺達グラムが殿軍となり、ゴッズが先頭。 間にレイズを挟んで後退を始める。


その時、救助された海軍の衛士が通信回線に入って来た。

『グラムリーダー。 ウンディーネ10、宮部雪子帝国海軍少尉です。 救出・・・ 有難うございますッ!』

見ると、俺より若そうな(と言っても、1歳位か?) 女性衛士だった。 まだ少女と言った方が良い位に、幼けなさが残っている。
生身でBETAの襲撃を受けた恐怖が、抜けきらないのだろう。 涙を流して、震えている。

『あ、相棒の貴子も・・・ 間中少尉も、無事に救助されて・・・ ほ、本当に・・・ ありがとう・・・ございますッ!!』

涙で顔をくしゃくしゃにして、感謝している。
大尉がそんな海軍少尉の姿を見て、不意に表情を崩した。 柔らかい笑みだ。

『宮部少尉。 それはお互い様だ。 我々も今朝からずっと、海軍の制圧攻撃に助けられてきた。
戦場では陸軍も海軍も無い。 共に戦う戦友同士だ。 戦友なら、何が何でも助けだす。
無事に母艦まで届けてやるぞ。 安心したまえ』

『はいッ・・・ はいッ・・・』

何度も、何度も、涙でくしゃくしゃにした顔に泣き笑いを浮かべて。 その海軍少尉は通信を切った。


『・・・相変わらずですわね』

オベール中尉が通信に入って来た。 何故か、表情がしらじらしい。

『何がだね?』

大尉の顔は・・・ うん。 何か、見覚えがある。 デ・ジャ・ビュ、というやつか?

『お相手が見目麗しい乙女ですと、本当にご親身ですこと』

・・・これって。 中尉、妬いているのか?

『中尉。 言いがかりは止めて貰いたいな。 友軍士官の謝意に応じていただけだ。 君こそ変な邪推はみっともないぞ?』

『・・・なんですってッ!?』

暫く大尉と中尉の痴話喧嘩が続いていたが。 どうしよう? 言うべきか? そっとしておくべきか?
・・・やっぱり、言うべきだろうな。


「あ、あの。 大尉。 オベール中尉も」

『何だ?』 『何です? 周防少尉』

うッ 中尉、そんな、柳眉立てて睨まなくても。

「回線・・・ オープンのままですが?」

『何ッ!?』 『・・・えぇ!?』

あちこちで、忍び笑いが聞こえる。 アルトマイエル大尉は不貞腐れた表情になり、オベール中尉は真っ赤になって俯いている。


『おい、直衛』

圭介が秘匿回線を繋げてきた。 ん? 何で、久賀にも繋いでいるんだ?

『何だ?』

『大尉と、中尉な』

『うん?』

『近い将来の、お前達見るようだな・・・』

『なぁ!?』

『激しく同意』

久賀がちゃっかり合わせて来やがった。


『こちらレイズ12 まぁ何はともあれ、救出無事成功だ。 楽しい痴話喧嘩は、後でゆっくり楽しんでくれ』
『ゴッズ08よりグラム。 あまりお熱いと、BETA共も、のぼせ上りますぜ』

友軍部隊にまでからかわれて、益々大尉は不機嫌そうになり、中尉は首まで真っ赤になって、あたふたしている。

大尉たちには申し訳ないが、正直、ホッとした瞬間だった。












≪9月6日 2250 第1防衛線 国連軍第37戦術機甲師団≫


流石に、南部からの5万(戦域制圧攻撃と艦砲射撃で、1万近くを削れた)と、北部からの6万(各種支援で1万近く削った) 合計11万もの大群、支え切れるものでは無いな。

師団司令部で、師団長の朴栄世少将は思った。 今日1日で、疲労の色が極度に濃い。
僚友部隊である、第41戦術機甲師団と共に、今日1日何とか支えたが。 戦力は30%近くにまで落ち込んでいた。 実質は連隊規模だ。

「師団長。 戦線司令部より通達。 第1防衛線を放棄。 第41師団は南部第2防衛線へ。 第37師団は北部防衛戦へ退避、合流せよ、との事です」

防衛線放棄か。 いたし方有るまい。 このままでは、ズルズルと戦力をすり潰して終わりだ。


朝から始まったBETAとの防衛戦。 当初は順調だった。
海上の母艦任務部隊から飛来する海軍戦術機部隊が、大量のマーヴェリックをばら撒いてBETA群のいる地域を制圧する。
その後に後方から戦艦部隊の艦砲制圧砲撃が続き、BETA群は急速に数を減らしていった。

異変は午後になって表れた。
やはり、と言うべきか。 光線級が現れたのだ。 

これに、海軍戦術機部隊が制圧攻撃を邪魔された。 突撃予定地点まで侵入できず、途中でマーヴェリックを発射する。
しかしその大半が、光線級のレーザー照射で迎撃される。 その間に、突撃級や要撃級の接近を許す。

混戦になる前に、レーザー照射の危険を無視して、海岸線近くまで侵入してきた戦艦部隊による艦砲射撃が行われる。
大口径砲の直撃で、大地が震え、BETAが吹き飛ばされる。 しかし、残った光線級からの集中照射を受け、さしもの重装甲も融解する。

戦艦部隊の支援に、巡洋艦・駆逐艦部隊が、誘導弾の集中豪雨を撒き散らした。
瞬間、飽和攻撃状態が成功し、光線級を含む大量のBETAが吹き飛ぶ。
しかし、連中は後から後から、湧いて出てきた。

再開される光線級のレーザー照射。 繰り返される艦砲射撃。 その隙をついて低空突入する海軍戦術機部隊。 そして、この混乱に乗じて突撃する陸軍戦術機。

正に、血みどろの乱戦で有った。 陸も、空も、海も。


良く支え切ったと思うが、ここいら辺が潮時か。

「よし。 後退する。 撤退路には気をつけろよ? 道中はBETAへのプレゼント―――対BETA用地雷―――で足の踏み場もないからな」

朴少将が部隊の撤収を指示する。


(しかし。 もう少し粘りたかった。 できれば、日付が変わるまでは・・・)


第1防衛線は、破られた。
しかしそれは事前の予想範囲内で有った為、全戦線に動揺は無く。 統合軍は防衛作戦をプランA・フェイズ2に移行させた。










≪9月6日 2310 第3任務艦隊 旗艦・戦艦『加賀』≫


情報参謀が艦隊の現状報告を行っていた。

「第32任務部隊は、10次に渡る戦域制圧・支援攻撃を敢行。 BETAを相当数、撃ち減らす事ができました。
然しながら損失も無視できません。 未帰還69機。 機体損傷が激しく、投棄した機体が9機。 損失は78機。
明日以降の使用可能機体数は、282機。 損耗率、21.7%です」

唸り声が聞こえる。 敵前強襲突撃が信条の海軍戦術機甲部隊であるが。 1日での損失が80機近いとは。
あと2日もすれば、母艦戦力は喪失したも同然だった。

「第31任務部隊は、『土佐』小破。 『薩摩』中破、『安芸』小破。 『長門』小破、『陸奥』中破。 旗艦は小破。
いずれも機関に損傷は無く、砲戦力も健在ですが・・・ 中破の2隻は、舷側装甲が溶解しております」

明日、同じ場所にレーザー照射を受ければ、この2隻は真っ先に渤海湾に沈む。

「第33、第34任務部隊も。 危険水域まで突っ込み、ミサイル攻撃を敢行。 
両部隊で9隻が沈みました。
我が第31任務部隊も、軽巡1、駆逐艦4が沈んでおります」

陸もそうだが、海もかなり厳しくなって来た。 今夜中に補給艦隊からの補給は終了する。
燃料弾薬は大丈夫だが・・・


「明日も、引き続き陸軍部隊への支援攻撃を継続する。
何としても、ここでBETAを阻止せねばならないのだ」

有賀中将は、内心の苦渋を押しつぶして宣言した。 それは、明日以降も部下達を地獄へ送り続け。 そして死なす事になるのだ。


(が、やらねばなるまいよ。 なぁ、柳本さん。 お互い、ここで尻尾を巻く真似だけはできまい)

今でこそ、指揮下に居るが。 
かつて新米少尉の頃には、色々と指導して貰った1期先任の少尉。 
いや、海軍兵学校の4号生徒(1年生)時代には、最上級生の1号生徒(4年生)の鉄拳制裁に参っていたのを。
色々と励ましてくれた、かつての3号生徒(2年生)、先任士官に対し、心の中で呟いた。





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