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No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
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[7678] 国連極東編 満州5話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/06/09 02:04
1993年9月7日 1100 第2防衛線西南西 国連軍第882独立戦術機甲中隊


16機の戦術機が、高度100m前後を高速NOEで航過する。 左右は迫りくる山肌。 下は―――BETAの群。

第2防衛線から発した第882中隊は、比較的BETAの密度の薄いエリアを進んできたお陰で、これまでの所は損失機無しでいた。
しかし、目標地点に近づくほどに、光線級の目を逸らす必要がある。 発見されてレーザー照射を喰らう事は、本末転倒だ。
その答えが今行っている、山々の間、比較的低い谷間を縫うように、NOEで突き抜ける事であった。

谷底の標高が50mから100m 低い連山の連なりが、標高200m前後。 谷間の「空間」は高さが100mから150m。 平均すれば、120m程しか無い。


『くッ! きついなッ これってッ!』

「ファビオ、ふらつくな。 ≪トンネル≫から外れたら、一発でアウトだぞ」

『判ってるッ!』

上下は100m程の余裕はあるが、それでも場所によってはオーバーハングもある。 それより厳しいのは、横幅が無い事だ。
稜線間で100m前後。 設定された『安全飛行空間』の横幅は、40m強。 戦術機のサイズを考えると、幾分余裕は有るように思える。
しかしその空間を、速度500km/hオーバーで『飛行』するとなると、話は別だった。
まして、谷底には突撃級・要撃級を含むBETAの群れが、長蛇の列をなしている。


『むうぅぅ』 『くッ』 『おわわわわ!』

鋭角旋回時には強烈な横Gに晒され、絶えず微妙で繊細な操作を要求される。
焦って高度を取り過ぎると、このエリアでは即、光線級に認識・捕捉されてしまう。
と言って、高度を下げ過ぎると、振り上げられた要撃級の前腕に接触・墜落する。

正に『 綱渡り≪タイトロープ≫ 』だった。
右に、左に。 地形を必死になぞって、飛び続けていく。






≪周防直衛≫

(全く。 大尉も突拍子もない事、思いつくな)

操縦スティックを微調整で動かしながら、ふとそんな思いがよぎった。
まぁ、以前の上官。 広江少佐でもやりそうな事だが。

今、中隊は16機が1列でNOEを行っている。 こんな狭い空間、2機以上が編隊を組む余裕が無い。 そしてその先頭が、俺だった。
大尉の御指名を預かってトップを飛んでいる理由は・・・ あれだろうな。 
今までの戦歴を前に話した時に、1月の戦闘で低空高速NOEで光線級から逃げ回った、あの事を話したからだろう。
似たような状況の経験者だから、先頭をやれ、と言ったところか。
現に、同じ経験者の圭介は最後尾―――殿軍を指名されている。


『直衛。 もう少し、旋回半径をゆったり取ってやってくれ。 結構厳しそうだ』

最後尾で中隊全隊を見ている圭介から、リクエストが入る。

「了解。 けど、速度は余り落とせないぞ?」

次の旋回点が目に入る。 跳躍ユニットの角度を微調整。 
さっきより心もち、旋回開始を早めに。 旋回角度を大きめにとって旋回する。

『そこは、各自頑張ってもらうしか無いな。 駄目ならBETAの腹の中に収まるだけだ。
―――生きながらか、墜落死体でかは、別としてな』

後続の15機も次々に旋回に入って行く。 ―――今、最後尾の圭介が旋回完了した。

「そこまでこっちも責任は取れないしな。 ま、運が悪かったと諦めて貰うか」

後ろをスクリーンで確認する。 

流石に大尉や、オベール中尉、趙中尉。 それに李中尉と朴中尉はキャリアの差か。 危な気なく飛ばしている。
他の少尉連中。 ファビオにギュゼル、ミン・メイとヴェロニカは、かなりおっかなびっくりだ。
一番危なさそうなのは、韓国軍の孫少尉と呉少尉の2機。
意外な気がしたのが、翠華と朱少尉の2機だった。 かなり確実な飛行機動をしている。 
あの2人も、考えれば少尉の中では、俺達に次ぐ位の実戦経験がある。


(下手すれば、2、3機は墜ちるか?)

落ちればそれは即、死を意味した。 今回は墜落した場合の救出は行わない。 事前のブリーフィングで確認された事だ。 そんな暇も余裕もない。

急角度の旋回地点が迫る。 
主機出力を絞り、推力偏向(スラストベクター)を使い、機体の『振り』も利用した慣性モーメントも付けて、最小限のロスで旋回に入る。

「右旋回、60R。 接触に注意!」

後続へ警告し、速度を落とす。 と言っても、400km/hは出ている。


『うッ うわああぁぁ!』

急に後方から悲鳴が聞こえた。 誰かドジを踏んだか!?

「圭介!?」

『D03! 韓国軍の3番機が接触した! 墜落!』

韓国の3番機。 確か、孫少尉か・・・


『ぐうぅぅう・・・ ああ、うわああ・・・ お、置いて行かないでくれぇ! 助けてッ
・・・うわあぁぁ! ベッ、BETAがぁ!』

『くうッ!』

エレメントを組んでいる朴中尉から、呻き声が漏れる。
射撃音。 恐らくは破損しただろう機体で、何とか逃げ出そうと突撃砲を乱射しているようだった。


『ひッ! ひいい! 来るなぁ! 来ないでくれよぉ!! たッ、助けてッ 誰かッ!
ちゅ、中尉ぃぃ!! た、助けてッ! 助けて下さいッ 中尉! 朴中尉ぃぃぃ!!!』

『・・・・ッ! 孫・・・!!』

朴中尉の顔が苦渋に歪んでいる。 部下を、エレメントを。 見殺しにしなければならないのだ。


「・・・D02、ふらついている。 接触に注意」

意識して、事務的に警告する。 

『くッ! 了解!  『うぎゃああああ!』 ・・・!!』

もう悲鳴しか聞こえない。 機体はとっくに後方に見えなくなっている。
孫少尉の断末魔の悲鳴を最後に、沈黙が降りた。


(・・・運が悪かったな、お前。 今度が有るかは知らんが。 もし生まれ変われたら、もう少し運の良い人間に、産んでもらいな)


「トップよりバック。 編隊の状態は?」

圭介に確認する。

『バックよりトップ。 抜けた穴は塞がった。 続航、継続中』

2人とも、今しがたの状況など見なかったような口調だった。
いきなり、怒気を含んだ声が回線に割って入ってくる。

『あなた達・・・ さっきの事、見ていて良くそんな、平静な会話が出来るわね・・・!』

ヴェロニカだ。

『おい、よせって、ヴェロニカ!』

ファビオが慌てて止めに入る。

『何よ、ファビオ! 貴方も何も思わないの!? きっと私達が死んでも、この2人同じ調子よ! まるで、マッキナ(機械)!!』

「ずいぶん余裕だな、ヴェロニカ。 じゃあ、もう少し急いで良いか? 正直、このままじゃ、目標到達が予定より遅れそうだ」

旋回角度を急角度にとって、旋回する。 速度も維持したままだ。


『くうぅぅぅ!! ・・・い、いい性格してるわねッ!? 意趣返しなのッ!?』

「冗談じゃない・・・ そんな贅沢、やっている余裕は無い。 それと言っておく。 駄目なら上昇するか、一気に地表に激突しろ。
一瞬で蒸発するか、あっという間に爆死できる。 生きながらBETAに喰い殺されるより、ずっと良い。
それと、仲間を巻き込むな。 注意事項は以上だ。 いいな?」

『『『『 !!! 』』』』

皆の声を飲む気配がした。 スクリーン上の何人かは、嫌悪の表情も浮かべている。


『皆、無駄口はそれまでだ。 周防、あとどれ位か判るか? 時間的距離で良い』

アルトマイエル大尉が、軽く叱責する。

「約5分」

『了解した。 ・・・仕方が無いから、皆に言っておく。 今、トップは誰だ? バックは誰だ?』

『『『『・・・・・』』』』

『トップは周防だ。 真っ先に≪トンネル≫に飛び込み、真っ先にBETAに飛び込む。 真っ先に≪死≫に飛び込むのが、彼だ。
バックは長門だ。 最後方で常に、冷静に確認する。 常に殿軍を務める。 BETAの反撃が有った時、真っ先に死ぬ役は彼だ。
皆、彼ら2人に≪守られて≫いる事を、忘れてはいないだろうな?』

『『『『 ッ!! 』』』』

『判ったら、そのクソッたれの口を閉じろッ!! 馬鹿共ッ!!』


そんな罵声を耳にしながら、操縦に専念する。 瞬時に変わって行く地形情報。 高度と速度を維持。 谷底のBETAに注意し、攻撃範囲を常に予測しコースを決める。
後続の編隊との距離。 最後尾の圭介からの修正情報。 俺の役目は、編隊を完全に目標まで誘導するナビゲーターだ。

(正直。 お前の言うような贅沢なんて、楽しんでいる余裕は無いよ。 ヴェロニカ)

全神経を集中しての綱渡りだ。 少なくとも俺の軌道をトレースすれば、途中でトラブル無く光線級の群に到着する。
そうするのが俺の役割なのに。 1機失った。 ついてこれない機動をした、これは俺の機動ミスだ。

更に集中して機体を操る。 以前の乗機、「疾風」と違い、F-15Cは機動性がいささか大味だった。

(あと少し・・・ あと3分・・・)

長く感じられる。 途方もなく、長い。

稜線まであと時間的に2分を切った。 旋回して、稜線の背後に出るコースに侵入する。
地形が標高を増し、開けた地形に出た。 その瞬間――――BETA!!



「邪魔だよッ! 手前ぇら!」

目の前で要撃級が2体、突進してくる。 AMWS-21の120mmを1体に向け発射するが、前腕でブロックされる。 
狙いはそこだった。ブロックの為に空いた他の空間に、今度は間髪入れずに36mmをたらふく喰らわす。
比較的軟らかな胴体本体を、36mmで蜂の巣にされた要撃級が、体液を撒き散らしながら倒れる。

「直衛! 右!」
「ラジャ!」

その隙に接近したもう1体の前腕攻撃を、横噴射滑走(スライド・ステップ)で交わす。

「やッ!!」

こっちに向かってきた要撃級の、無防備な側面にギュゼルが120mmを叩き込む。 射貫孔から内臓物をはみ出して、要撃級が倒れた。

後続の各機も、次々に戦闘に入る。
幸い、BETA群は小規模で100体程しか居なかった。 ものの数分で掃討する。

出撃してから1時間が経っていた。
比較的BETAの密度が薄い経路を辿ってきたとは言え。 流石にこの大侵攻とあって、進路上には通常の師団規模侵攻並みには、BETAの数が居たのだ。
それでも、NOEを使って『遊ばない』ようにして大急ぎで進撃したのだが・・・


『光線級の数が、異常だな。 今回は』

『普段の5~6倍は居るんじゃないか?』

圭介と久賀が、疑問を口にする。

そうだ。 普段なら、大型種よりも群れの中の比率が少ない筈の、光線級と重光線級の数が。
今回は恐らく同比率程度には居るようなのだ。 この予想に戦慄した。
突撃級・要撃級の突撃打撃力と、光線属種の遠距離制圧力。 これが同レベルとすると、戦場でのこちらの動きが、全く抑え込まれてしまう。


『グラム・リーダーより各機。 無駄話は後にしろ。 ・・・最も、光線級に関しては、その為に海軍力による殲滅攻撃を期待するのだ。
時間を少々取り過ぎた。 いいか!? その、光線級を殲滅出来る攻撃力を保持する為に。 前方稜線上の光線級の群を、速やかに掃除する!』

『『『『 了解! 』』』』

『よし、では早速 ・・・!?』

大尉の声が終わる直前。 彼方の海岸線で凄まじい轟音が鳴り響いた。 見ると、それは・・・


「・・・爆沈した。 『陸奥』が・・・」

俺は自分でも知らず知らずに、皺枯れた様な声を出していた。

先程から海岸ギリギリの地点に座礁し、『固定砲台』として光線級との壮絶な打ち合いを展開していた戦艦『陸奥』が、大爆発を起こしたのだ。
恐らくレーザーが弾火薬庫を直撃、装薬が一気に誘爆したのだろう。 数千mにも達する爆煙を噴き上げての、壮絶な最期だった。


『中隊! 急げ! 1秒でも早く、目標を殲滅するぞッ! 第4次攻撃隊が、格好の的にされる!』

中隊長・アルトマイエル大尉の声に、はっとする。 海上を、編隊を組んで超低空で突撃してくる、70機前後の『翔鶴』の編隊―――第4次攻撃隊が視認できたからだ。
海軍機は、低空突撃態勢に入ったら最後、強制乱数回避機能を切っている。
僚機が撃墜されようが、どうしようが、ひたすら編隊を維持して目標まで突進する。


(まずいッ! このままじゃ!)


『グラムB! 吶喊しろ! グラムD、グラムBに続けッ! A、C! M88をありったけ放てッ! ここからでもいいッ!』

『グラムB了解! 行きますッ! B02、トップ!』

「了解!」

趙中尉の御指名で、俺はプラッツ&ウィットニーF100-PW-220EをA/Bに放り込み、一気に稜線まで加速する。
隣にはファビオのF-15Cが同様に、全力跳躍をかけていた。


「ファビオ! 片っぱしから片付ける! 攻撃隊に照射させる暇、与えるな!!」

『おう! ビビるなよ!』

「お前こそッ!!」

2機の背後には、趙中尉がファビオのバックアップに。 ギュゼルが俺のバックアップに、それぞれ全力追随していた。


あれか! あの稜線! 
くそッ すぐに全部ミンチにしてやる! 『陸奥』の仇だッ!

光線級が屯する地点を視認した時、悲痛な叫び声が通信回線を駆け抜けた。


『くそッ! 誰でもいいッ! あの! あそこの光線級をッ! 何とかしてくれッ!
死ぬならせめて、連中に一矢報いてから、死なせてくれッ!!』


咄嗟にフレンドリーコードを見る。 第4次攻撃隊の隊長だ。 千早孝美少佐。
確か以前、兄貴に聞いた事がある。 女性衛士ながら、海軍で母艦戦術機甲部隊の将来を背負って立つ逸材の一人、と。

そんな女傑をして、絶望的な言葉を出させるほど、向こうは切迫している!!

稜線が目前に迫った。 一々目標を選んで射撃する間など無い!

「目標視認! フルオートでぶっ放すッ!」

『『『 了解ッ!! 』』』

何体かの光線級がこちらに気づく。 その瞬間、小隊の4機は各々両腕に保持した2門のAMWS-21から36mmを乱射する。
十数体の光線級が36mm砲弾の雨を喰らって、体を破裂させて倒れる。 そのまま光線級の死骸を踏みつぶすように、稜線上へ着地した。


『遠慮はいりませんッ! 殲滅しなさいッ!』

趙中尉の檄が飛ぶ。

『 応! 』 『 ラジャ! 』 『 了解! 』

俺、ファビオ、ギュゼルが着地から即時主脚移動と噴射跳躍を使って、光線級の群の中に踊り込む。 こうなれば奴等は、同志討ちを恐れてレーザー照射はしない。

重光線級の間際まで急速接近する。 対峙した瞬間、奴の照射粘膜が保護膜に覆われた。 そんな所、誰が狙うかよ!

「こっちさッ!」

36mmを胴体部に叩き込む。 重光線級が糸の切れた人形のように倒れ込んだ。 
まだ息の根を止めてはいないが、気にせず周囲の光線級の群に狙いを付けて120mmキャニスターを叩き込む。 倒れた重光線級は、そのまま無視だ。

あれだけ傷を負わせれば。 奴はもう、レーザー照射が出来ない。 損傷による活動維持に膨大なエネルギーを喰うのだろう。
今までの戦訓で、損傷した光線級・重光線級がレーザー照射を再開した例は無い。 そのままエネルギー切れで、くたばるのが通り相場だ。

「的が多いと、照準も楽だなぁ! 無駄撃ちしないよッ!」

AMWS-21をばら撒く。 片方で120mmを放ち、片方で36mmを連射する。 その間、機動と速度は緩めない。 
斜面を一気に地表面噴射滑走で駆け下りながら、左右を乱射し、また噴射跳躍で稜線まで駆け上がる。

「にしてはッ! 撃ち漏らし多いわよッ 直衛!」

ギュゼルが俺の後ろで36mmを放ちながら、噴射跳躍の速度を利用して、片手で保持した長刀を薙いで、光線級をまとめて切り捨てる。




『遅れて申し訳ない。 これより稜線上の光線級を排除する。
海軍攻撃隊は、海岸線への突入のみ、専念頂きたい』

『誰だッ!?』

『国連軍。 第882独立戦術機甲中隊。 ヴァルター・クラウス・フォン・アルトマイエル大尉。
戦場遅延の不明。 叱責は後ほど、少佐。 今は、己が為す事を為しましょう』



36mmで光線級を掃射しつつ、アルトマイエル大尉と、千早少佐の通信が聞こえる。
そうだ。 今は只、己が為す事を、為すのみ!

大尉が最終指令を出す。

『グラム・リーダーよりグラム各機。 ――――殲滅せよ!』







≪第4次攻撃隊 千早孝美少佐≫


ギリギリで。 本当にギリギリのタイミングで、国連軍の戦術機部隊が稜線上に突入してくれた。 途端に、レーザー照射が止む。 
≪グラム≫と言ったか、かの部隊は。 ≪グラム≫がレーザー照射の危険を無視して稜線まで接近し、突入してくれたお陰だ。 感謝する!


「セイレーン01より攻撃隊全機! 稜線上の光線級は国連軍が殲滅してくれる! いいか! 突入制圧にのみ、専念しろッ! もう忌々しいレーザー照射は無いッ!」

『『『 了解! 』』』

7機減って、61機になった攻撃隊が、海上から陸地上空に突撃する。 高度20m 感覚的には殆ど地表スレスレに感じる。
変針点。 急速旋回を終えると、前方に戦艦群と打撃戦を行っている光線級の群を視認する。

「セイレーン01より、≪ポセイドン≫、攻撃ポイントまであと10秒」

『ッ! セイレーン! 了解した! 主砲斉射、一時止め! 主砲斉射、一時止め! ≪セイレーン≫ がアタックを開始する!!』

爆発音が止まる。 辺り一面、爆煙とクレーターのような大穴。 そしえBETAの死骸。 いや、死骸『だった』撒き散らかれたモノ。
一瞬無意識にその情景を見るが、訓練された習慣で、目標に対する集中を切らしてはいない。

5秒  「上昇!」 61機が一斉に高度を取る。
3秒  「スタンバイ!」 高度300で全機一斉に逆噴射制動。 攻撃態勢をとる。 
1秒  「ロックオン!」 全てのマーヴェリックに、目標振り分け。 完了。

「撃ぇ――――!!」


白煙を残し、一気に全弾発射される732発の、AGM-65・マーヴェリック空対地ミサイル。
そして『翔鶴』全機がその後を追うように、全力NOEでBETAの群へ突撃する。

次々に命中するマーヴェリック・ミサイル。 絶妙のタイミングで、光線級のインターバルを狙い撃ちしたのだ。 阻止されたマーヴェリックは1発も無い。
全弾が光線級・重光線級に着弾し、吹き飛ばす。

フライパスの際に、M88‐57mm支援速射砲をばら撒く。 毎分120発の発射速度を有する57mm砲弾が、生き残った光線級BETAの頭上に降り注ぎ、打ち倒す。

一気に全速で海上へ出る。 そのまま低空へ高度を落とす。

「セイレーン01よりポセイドン! 戦域制圧成功! 光線属種は粗方片付いた!」

『ポセイドン了解! これより斉射を再開する! セイレーン! 千早少佐! お見事でした!』


ふと、あの稜線上を見る。

(ちッ! 拙いな。 向こうのBETA、下から這い上がってくる数が多い! あのままでは・・・)

小高い連山の麓から、1000体以上のBETAが這い上がって来ている。 小型種ばかりとは言え、あの数は無視できない。
あのままでは、足場の悪い稜線上だ、直に身動きが取れなくなる。


指揮下各機のステータスをチェックする。 皆、似たようなものだが・・・

(M88の残弾が多いのは・・・ よし)

千早少佐は、瞬時に次の行動を決定した。

「安部! 伊吹! 貴様達は先に母艦へ帰還しろッ! 長嶺! ちょっとだけ寄り道だ! 稜線下の雑魚共に、残りの57mm全弾、プレゼントしてやるぞ!」

『了解!』

スクリーンの向うの長嶺大尉が、嬉しそうに破顔する。

『隊長! 私達も行きますよ!』 『長嶺だけ美味しい所持っていかすのは、癪ですねッ!』

安部大尉と、伊吹大尉が異論を唱える。

全く、こいつらは。 苦笑しながら、千早少佐は部下を強引に引き下がらせる。

「伊吹。 山田の後、次席は貴様だ。 その貴様が遊んでどうする。 山田と小川の隊も込みで、部下を母艦へ引っ張って行け。
安部。 残弾数を確認しろ。 ったく、隊長と言い、その部下と言い。 トリガーハッピーも程々にしておけ」

安部大尉が不承不承、伊吹大尉が首をすくめ 『『了解』』 と唱和する。
母艦へ向かって反転した部下達の『翔鶴』を見送った後、長嶺大尉の中隊と共に、反対方向―――稜線へ向けて機体を加速させた。


「接近戦は、彼等に任す。 こっちは、一撃離脱の支援狙撃をやるぞ」

『このままじゃ、あの国連軍部隊。 麓からの戦車級に集られますしね』

「そう言う事だ。 受けた借りは、きっちり返す。―――行くぞッ!」







≪第882独立戦術機甲中隊≫


『くっそぉ! とうとう、戦車級まで集まって来やがったぜッ!』

ファビオが悪態をつく。
光線級は乱戦では殆ど『無力』と言っていい存在だが。 いかんせん数が多い。 
今、麓から這い上がってくる小型種―――戦車級まで居る―――がこっちに合流すれば。

(ちょいと、楽しからざる状況だな・・・)

即座に周りを見渡す。
A小隊―――稜線上、一番高い辺りで、光線級の排除を続けている。
C小隊―――隣に居る。 制圧支援機が1機に、打撃支援機が1機。 制圧力に不足は無い。
D小隊―――駄目だ。一番離れている。 西側の光線級の1群に対応中だ。

となると。

「B02よりB01。 意見具申」

『B01。 何か?』

「グラムBはこのまま一気に降下し、上がってくる小型種の掃討。 支援はグラムC。 光線級はその間、AとDで対応できる筈です。
戦車級まで居る。 あのままここまで上がってこられちゃ、流石に拙いですよ」

戦力を2分する事になるが、今ここには俺達の中隊しか居ない。 
なら、この状況に対応するには―――兎に角、麓から這い上がってくる雑魚を、押し留めなきゃならない。

『・・・それしか無いわね。 B01より、リーダー・・・』

趙中尉が大尉に俺の案を打診する。 大尉の回答は『やれ。 殲滅しろ』


『グラムBより、グラムC! Bはこのまま逆落としをかけます! 周囲のBETAを広域制圧願いますッ!』

『グラムCよりB! 了解! 逆落とし前にランチャーで掃討かけますッ! C04! 朱少尉!』

『了解! C04、FOX01!』

C04、制圧支援装備の朱少尉のF-15Cから、多数の誘導弾が発射される。
同時に、俺達B小隊が斜面の上から逆落としをかける。

「おおおお!」

みるみる迫ってくるBETA群。 36mmを左右に連射開始と同時に、誘導弾が広域に着弾する。

『っらあああ!』 『えええぃ!』 『やあああああ!』

小隊の3機。 ファビオ、趙中尉、ギュゼルも同様に、突撃砲を乱射しながら機体を噴射降下させた。
着地地点の小型種BETAが赤黒い霧状になって吹き飛ばされる。

4機が同時に着地。 等間隔で間を置き、緩い傾斜の下から駆け上がってくるBETA―――主に戦車級―――に、射撃を開始する。

120mをまとめて連射。 群の中に大穴をあけて、残った個体を36mmを横に薙ぐように射線を振って一気に薙ぎ倒す。

『くそうッ! 数が多いぜ! こいつ等!』 
『ファビオ! 無駄に振り回さないでッ! キャニスター弾で大穴をあけるのよッ!』
『そんなもん! とっくに弾切れですよッ!』
『ッ! この馬鹿ッ! 退きなさい――― えぇいッ!』

趙中尉の120mm支援で、ファビオの前面に集って来ていたBETA群に大穴が空く。

『残りは自分で掃除しなさいッ!』
『サンキュ! お礼に今度、デートでも・・・』
『結構よッ!』

ははっ 結構いいコンビだ、あの2人。 趙中尉には、異論あるかも知れないけど。

意識の片隅でそんな事を思いながら、突撃砲を撃ち続ける。 前面の群は粗方掃除したが。 まだ向かってくる群があと、7、8群いる。
上方から、ランチャーから発射された誘導弾の白煙が降り注ぐ。 着弾―炸裂。 

『C04よりグラムB! ランチャーはあと1斉射分だけですッ!』

『C01よりグラムB! 支援突撃砲の残弾が怪しいわッ! あの群全てに対応は無理よッ!』

C04の朱少尉、C01のオベール中尉から、残弾僅少の報告が入る。
C小隊の誘導弾と、支援突撃砲からの120mmキャニスター弾支援で、なんとか凌いできたが。 そろそろ残弾が限界らしい。
ここに来るまでの戦闘でも消費している。 光線級の始末も、AとCだけでは今少し時間がかかる。
どうするか―――



『セイレーン01より、グラム! 頭を低くしていろッ! 上から纏めて掃除するッ!』

セイレーン? 第4次攻撃隊だと!?

思わず上空を見上げた途端、空から57mmの暴風雨が降り注いだ!

「げっ!」 『おわッ!』 『ッ!』 『さッ 退りなさいッ!』

20機前後の『翔鶴』が、横一列の陣形――フラット・ライン――を2本作り、M88-57mm支援速射砲を下方に固定して、連続射撃しながらフライパスする。
毎分120発の発射速度の57mmHVAP弾が火力制圧面を形成して、範囲内のBETAを根こそぎミンチに変えていく。

『もう一度、反転して一航過する! ―――すまんが、これで看板だッ 行くぞッ!』

編隊を組んだまま反転し、さっきと同じように57mmを叩きつけた『翔鶴』が離脱した後は・・・ こちらに向かっていたBETAは殆ど、制圧されていた。


「すっげ・・・」 『根こそぎじゃねぇか・・・』 『す、すごい、わね・・・』 『ふあ・・・』

4人とも声が出ない。 欧州戦域で行われている密集・集団戦に通じる、海軍戦術機の制圧戦術に、しばし呆然としていた。


『グラム・リーダーよりセイレーン01。 救援、感謝する!』

声の出ない部下達に代わって、アルトマイエル大尉がセイレーン――千早少佐――に謝意を示す―――光線級への攻撃の手を緩めずに。

『セイレーン01よりグラム・リーダー。 己が為す事を為したまでだ。 稜線への突入、誠に感謝する。
お陰で―――戦友達の仇が取れた』

『グラム・リーダーより、セイレーン。 我々にとっても、戦友。 互いに思いは同じですよ。 見事な制圧攻撃でした』

『ふッ! 機会が有らば一度、艦へ招待したいなッ! 艦隊こぞって、歓迎するぞッ!』

『機会有らば、是非。 ではッ!』

『ああ!』


『翔鶴』が海上へNOEで飛び去って行く。 
俺達は―――

『グラム各機! あとは糞目玉の光線級だけだ! 喰い放題だぞッ 根こそぎ平らげろッ!』

AとD小隊が縦横に駆け回って、光線級を薙ぎ倒している。 
連中は乱戦に持ち込まれて、照射が出来ない。 何せ、飛行接近する≪セイレーン≫さえ、認識出来ない程だ。


「これ以上、美味しい所をAとDに独占させるかッ!」

『苦労した分、代価は貰わなきゃなッ!』

俺とファビオが噴射跳躍をかけ、一気に稜線付近まで跳び上がる。
C小隊も反転し、光線級に飛びかかって行った。

『ちょっと! まだ下にも10数体残っているわよッ!』

『ギュゼル。 仕方ありません。 私達で対応できます。 片づけてから、上へ行きましょう』

『・・・了解です、趙中尉。 直衛、ファビオ。 この貸し、高いわよッ!!』




それから5分後、稜線上の光線級の制圧が完了した。

『・・・ごっつい、光景だな・・・』

ファビオが絶句する。 気持ちは判る。 俺だって同じ心境だ。

戦線の後方。 丁度BETAを挟んで、防衛線の反対側になるこの位置。
南を向けば、海岸線と、海上が見える。 今尚、残った戦艦群が巨砲の轟音を発しながら、制圧砲撃をかけている。
その後方からは、重巡以下の艦から、VSL発射の白煙が無数に立ち上る。
着弾した陸地には―――吹き飛ぶBETA群。 
東に目を向ければ、第2次防衛線部隊が、重砲群とMRLSから砲弾と誘導弾の嵐を降らせている。


『でもな・・・ 俺達、ここからどうやって、防衛線に帰還すりゃいいんだ・・・?』

C小隊の久賀が、呆れた口調で呟く。
東を向けば。 そこはBETAの大海になっていた。 あそこを突破するなど、単なる自殺志願者だ。

西は問題外。 北も同じだ。 となると、残るは・・・


『リーダーより各機。 南に向かう。 今しがた、防衛司令部管制より通達が有った。
海上で、日本海軍に拾ってもらう。 
推進剤の補充が済み次第、発艦して遼東半島に入り、鞍山まで戻るぞ。 
阜新は最前線になっているから、戻ってきても機体の整備もままならんそうだ』


推進剤残量を見る。 誠に心もとない。 これでは、海岸線から艦隊まで、ギリギリだ。

『推進剤も殆ど無い。 海岸線までは主脚走行で行くぞ。 途中の小型種は、戦車級以外は無視しろ。
大型種が居た場合は―――祈れ。 行くぞッ!』

『『『『 了解!! 』』』』

全員、殆どヤケクソで応答する。
苦労して、艦隊と攻撃隊の支援をやって。 帰りは鬼が出るか、蛇が出るか、かよッ!

『全く。 ≪通りゃんせ≫ じゃねぇぞ・・・』

久賀がぼやく。

『まだその方がマシだ。 少なくとも ≪行きは良い良い≫ だしな』

圭介がウンザリと言い返す。

全くだ。 こっちは ≪行きも、帰りも怖い≫ BETAの敵中突破行とはな。
でも、何としてでも海岸線まで出なきゃ、明日どころか、今夜の夜空さえ拝めない。

推進剤、残弾ともに僅少。 中隊は、肉食獣の徘徊する大地を、怯えながら移動する小動物の如く、慎重に移動を始めた。









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