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No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
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[7678] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/06/09 02:04
≪1993年9月7日 1840 戦術機母艦『仙龍』飛行甲板 周防直衛≫


稜線上への攻撃終了後。 俺達の中隊はまるで泥棒か何かのように、周りを慎重に警戒しながら海岸線を目指した。
推進剤僅少。 残弾無しが3,4機。 他も1、2斉射で弾切れ。 そんな状況だった。

途中で何度かヤバい場面もあった。 BETA群の最後尾に認識されかかった時には、咄嗟に各機が周りのBETAの死骸に密着して、注意を逸らした。

衛士は喰い殺されていたが、主機とシステムは奇跡的に生き残っていた機体(中国軍の殲撃8型だった)を、自律制御操作させて。
背後から突進してくる突撃級の群に飛び込ませ、S-11を遠隔起爆させて凌ぎもした。

形振り構っていられなかった。

それでも結局、BETAとの戦闘は避けられず。 このままでは、海岸線到達前に包囲される状況となった結果。
致し方なく噴射跳躍とNOEを解除。 海岸線でのランデブーポイントを防衛線から離れた、比較的安全と判断される南西部に変更。
そこで艦隊が派遣した救難ヘリ部隊に、ピックアップして貰う事になった。 当然、機体は全機を放棄してだ。

辛うじて残弾に余裕の有った俺と、ヴェロニカ、ミン・メイ、それに朴中尉の4機が殿軍を務め、オベール中尉が先頭を進んだ。
その途中で2度、大型種との戦闘が発生して、俺とミン・メイが機体を中破させてしまった。
幸い2人とも無傷で脱出できたが、BETAとの戦闘中の戦域に、強化外骨格「FP(Feedback Protector)」で逃げ出す時は。
初陣以来、久々に恐怖で漏らしそうになった。(ミン・メイは漏らした)


何とかBETAに殺られずに、海岸線に行きつく事が出来た中隊は。
救難ヘリ部隊に救出され、NOEで脱出。 日本海軍の戦術機母艦『仙龍』に収容された。


機体を降りた途端、母艦の乗組員からもみくちゃにされた。 俺達の中隊が、稜線への突入部隊と知れ渡っていたのだろう。
だけど。 本当にその称賛が相応しいのは、大打撃を受けながらも、砲撃戦を行い続けた戦艦群とその乗組員で有り。
そして損耗を無視してまで戦域制圧攻撃を敢行し続けた、母艦戦術機甲部隊だ。


結局、『陸奥』爆沈の少し後。 損傷の大きかった『薩摩』も遼東湾に沈んだ。
こちらは、最後まで主砲を発射しながらの最後だったそうだ。

砲術科要員も、機関科要員も(主砲射撃には、機関の健在が大前提だ) そして他の乗組員も。
沈みゆく艦から脱出せず、最後まで砲撃を続け。 最後は片舷に空いた大穴から流れ込む大量の海水の為、急激にバランスを崩して横転、沈没したのだそうだ。



夕食を済ませた後、何をするでなく甲板に出た俺は。 そんな事を、海原を見ながら考え込んでいた。
戦場から離れている為、陸地は見えない。 今も防衛線では、凄惨な防御戦闘を繰り広げているだろう。
ふと、見知った艦が見えた。 『阿武隈』だ。 ああ、兄貴もこの戦場に居たのか・・・


「どうした? 少尉。 体調でも悪いか?」

背後から声をかけてきたのは、海軍の女性衛士。 階級章は大尉だった。 敬礼する。 

「ああ、いちいち良いよ。 海軍では敬礼は朝に1回だけだ。 艦内ではね。
君は、国連軍の。 『グラム』中隊だな?」

「はッ 第882独立戦術機甲中隊。 国連軍少尉、周防直衛であります」

「・・・その、『あります』口調も、海軍ではしなくて良いよ。 本当に、陸さんは堅苦しいなぁ」

そういって、その女性大尉は苦笑する。 見た感じ、かなりサバけていそうな感じの人だ。


「いや、今日は本当に助かった。 『グラム』中隊の支援がなければ、私も今こうして、ここに居る事が出来たか、判らないよな?
・・・・あ、しまった。 自己紹介がまだだったね。 私は海軍大尉、長嶺公子。 第4次で、第6中隊を率いていた。
皆に代わって、礼を言わせて欲しいな」

「いえ、こちらこそ。 最後の場面で、『セイレーン』には、支援砲撃で助けられました」

「ああ、あれか。 まぁ、役に立てたのなら、嬉しいね、お互いに。 所で、君・・・」

「は、何か?」

「さっきから、あの艦・・・ 『阿武隈』を見ているようだけど、何か珍しいのか?
あの艦は海軍じゃ、標準の8000トン級軽巡なんだけどな?」

目ざといな、この人。

「いえ、取りたてて。 ただ、身内が乗り組んでいますので」

「身内?」

「兄が。 主計長で」

長嶺大尉が、驚いた顔をしている。 そんなに驚く事かな?


「何!? すると、君は・・・ 周防の弟さんか!? そう言えば、同じ『周防』だな。 いや、参った」

「大尉は、兄をご存じで・・・?」

「君の兄さんは、私のコレス(コレスポンド:同期生)だよ。 私は海兵(海軍兵学校)で、彼は海経(海軍経理学校)と、学校は違うけどね。
少尉候補生時代の練習艦隊と、最初に配属された艦で同じだったよ。 いやはや・・・」

大尉は呆れたような、嬉しいような、そんな顔をしている。

「で? 周防の弟くん。 君は何を黄昏ているんだ?」

「別に黄昏ていませんよ。 ちょいと呆けていただけです」

「呆けて?」

長嶺大尉が、面白そうな顔をしている。


「今回も、大勢死にましたからね。 これからも大勢死ぬでしょう。 
ま、戦場で殺し合っている時でなきゃ、多少はそんな物思いに耽っても、罰は当たらないんじゃないかと」

「まだ若いのに。 随分達観しているな?」

達観ねぇ?

「そうでしょうか?」

「うん。 私の隊の若い連中は未だ興奮しているか、実戦を思い返して震えているよ?」

ああ、判る。 俺もそうだった。 
戦っている時は無我夢中なんだけどな。 戦い終わって帰還して。 しばらくは興奮が続くけど、やがて戦場を思い出して、無性に怖くなってくる。

「自分も、去年の初陣の時はそうでした。 誰でも同じでしょう」

「去年が初陣かい? 何時頃だった?」

「92年の5月。 当時は帝国軍の第21師団に所属していました」

あれは酷かった。 初陣であの戦いは無いだろッ! って、何度思い返した事か。

「何!? もしかして北満洲の『5月の狂乱』か!? それに、21師団の生き残りなのか?」

「ご存じで?」

「ああ・・・ あれは海軍でも結構、話に上ったからね。 もしかしたら、遼東半島まで戦域支援か、ってね。
じゃ、君は最初から国連軍志願入隊じゃなくって、陸軍からの出向?」

あ、出来ればその話題は、触れたくないな。 正直言ってキツい。

「ええ、まあ。 詳しくは話せませんが、今年の8月から」

「それまでは、ずっと・・・?」

「北満洲常駐でした。 21師団、119旅団、最後が14師団。 1年半ちょっとですが」

「じゃぁ、『イヴの悪夢』や、『双極作戦』・・・」

「両方とも、参戦しました」


長嶺大尉が、手を額に当てて嘆息する。

「参った・・・ 正直、実戦歴じゃ、私より君の方が遥かに上だろうな。 実戦出撃、何回目だ?」

ええと・・・?

「今日で・・・ 28回です」

「2年目少尉で、28回? 化け物か? 君は・・・」

酷い言われようだな。

「帝国からの出向組の、他の2人。 長門も同じ回数ですし、久賀は確か23回ですよ」

その言葉に、大尉が思わず目を剥く。 暫く無言で、そしてやおらポケットから煙草を取り出して、火をつける。


「・・・吸うかい?」

「頂きます」

1本頂く。 お? 『誉』か。 海軍御用達の。

暫く2人で、無言で煙草を吸っていた。 そろそろ、日が没しかけている。 洋上を夕陽が赤く照らしている。


「私はさ・・・ 実際のところ、ここまでの大規模戦闘は、初めてでね。
東南アジアで、支援戦闘の経験は有ったけど。 参ったよ、さっきから震えて仕方が無い」

そう言って、大尉がぎこちなく笑う。 見ると、煙草を持つ手が震えていた。

「情けないね、指揮官がさ。 部下に『死んでこい』って命令する立場でさ。 
自室に居て、思い出すと震えて来てね。 情けなくなって、甲板に出てきたんだ・・・」

「・・・誰でも、同じですよ。 大尉。 普段、どんなに豪胆だって言われている者でも。
普段、どんなに訓練で優秀な者でも。 結局は、経験でしょう。 指揮官だからって、それは変わらないと思いますよ」

「そうかい・・・?」

「失礼を承知で言わせて頂きますと。 寧ろ、今『怖い』って感じている大尉は。 次の戦いでは、今日よりずっと指揮官としての判断が出来ると思いますよ。
BETAとの戦いの怖さが・・・ あの、問答無用の恐怖を経験して、戦って、生還した大尉なら」

ちょっと、生意気な物言いかな? でも、大尉は真面目な表情で聞いているから、いいか。

「陸軍でも同じでした。 ぱっと見、全く冴えない、頼りなさげに見える部隊長でも。
経験のある人は、BETAとの戦場でどうやって戦って、どうやって生き抜いて、どうやって部下を生還さすか。 それを知っていました。 
そんな指揮官の部隊は、しぶとい。 生還率も高いから、部下の衛士も戦い慣れする者の比率が大きい。 直に、ベテランになって行った」

例えば。 冴えないという表現は当て嵌まらないが、広江少佐は実戦を『知っている』指揮官だった。

「反対に、どんなに豪胆で、どんなに勇敢で優秀な指揮官でも。 BETAとの実戦を知らない指揮官は、自身だけじゃなくて、部隊をも壊滅させていた。
大尉は、今までの実戦経験に次いで、今日は『怖さ』を知る事になりましたよね。 でしたら、次の戦場でどうやってその『怖さ』と対峙して、それを退けるか。 
多分、本能的にやるのでしょうね。 自分の知る数少ない指揮官達も、そうでしたよ」

「・・・・・・」

「怖いって、良いじゃないですか? 生きている証拠ですよ、それも。 生きて、怖いから、それを越える為に足掻いて。 そして次の生を掴む。
皆、そうなんじゃないでしょうかね?」


一気に言いきった。 
煙草の火が根元まできている。 舷側から海に放り込む。

「こら。 舷側からの投げ捨ては、厳禁だぞ?」

「済みません。 以後、注意します」

もう1本、勧められる。 嫌いじゃないから、遠慮なく頂く。
ライターを借りて、火をつける。 一口吸いこんで、ゆっくり紫煙を吐き出した。

ふと、祥子もこれくらい、喫煙に理解が有ればな、なんて思う。


「星の数より、メンコの数、か。 陸軍流に言えば。 階級より、実戦経験の差か。
まさか、コレスの実弟に諭されるとはねぇ・・・」

「これでも陸軍内じゃ、実戦経験の多い部類でしたから。 ペーペーの少尉でも」

「自慢かい? まぁ、いいよ。 お陰で、結構気が楽になった。 そうか、怖くていいのか・・・
いや、有難うな、周防少尉。 後で君の兄さんにも、話しておくよ。 弟さんが元気でやっていたってね」

そう言う大尉の笑顔は、さっきの強張りが解けて、最初の印象通りのスカッとした笑顔だった。


「ああ、ところでな」

ふと、長嶺大尉が振り返り、話しかけてきた。

「何です?」

「流石の歴戦でも。 怖い時は漏らしたかい?」

なんでその話題なんだ?

「はぁ・・・ 流石に、初陣の時には」

「どっち?」

「はっ!?」

「大と小、どっちだった?」

何やら、真剣な顔だな・・・

「・・・・両方ですが?」

「そっか。 うん。 そっか。 歴戦でも、漏らすか」

どうして、何故、そんな納得顔なのですか? 大尉。


「・・・大尉、もしかして・・・」

漏らしましたね・・・?

「言わん。 絶対言わん。 死んでも言わん。 誰であろうと、言わないよ」

「自分は、正直に言いましたが?」

「女に、そんな恥をかかせるのかい? 君という男は」

「戦場に男女の区別は、無いと教えられましたが?」

「ああ、酷いな、酷い。 周防、君の兄さんに、何と言おうか。 何と言うべきかな?
私に、『貴様の弟さんは、女の切なる願いも察しない、薄情者だったぞ』なんて。 私は言いたくないなぁ・・・」


わざとらしく嘆息している。

まぁ良いよ、それで。 大尉の機が紛れたんなら。 

「はいはい。 判りました。 淑女に恥はかかせません」

「ん。 判れば良いよ。 ま、いい男だな、君は。 どうだ? 私の部下でも、同年代で良い娘達がいるぞ?
海軍と陸軍・・・ あ、今は国連軍か。 違いはあっても。 その方が燃えるんじゃないか?」

・・・何やら、以前も同じことを言われたな。 中国軍の周大尉に。

「いえ、気遣いだけで」

「何だ? 女に興味無いのかッ!?」

「何でそうなりますかッ! 自分には、もう決めた女性がいますッ!」

「1人が2人でも、構わんだろう?」

本気で言ってますか!?

「2人が3人になったら、流石に拙いんですよッ!」

「なんだ。 今は2人同時進行中か・・・ ちッ、流石に体の自由が利かないか、それだと・・・」

俺、今、何て言った・・・?
何か、自分的に、破滅的に拙い事を口走った気がする・・・


「相手は誰だい? 陸軍? それとも、国連軍? あ、もしかして中国軍とか、韓国軍かい? 
それとも、軍人じゃないとか? ベタな所で、幼馴染とか、昔の同級生とか」

「黙秘権を行使します」

これは、軍命令じゃ無い。 絶対に、軍命令じゃ無い。 そう信じるッ!
しかし。 なんでこの手の話に、喰いつきが良いんだろうか、女性ってのは。

「何だ、つれないなぁ。 折角、兄さんに報告してやろうと思ったのに。
まぁいいさ。 弟さんが元気で、2人の女性にアタック中とだけでも、伝えておいて・・」

「結構ですッ! 止めてくださいッ! 後生ですからッ!」

そんな報告、兄貴にされたら。
回り回って、姉貴の耳に入って、親父やお袋に知られて。 冗談じゃ無いッ!

「な、何も・・・ 涙目にならなくても、良いじゃないか!? まるで、私が苛めているようだ・・・」

苛めですよ、大尉!

「お願いですから・・・ 勘弁して下さい、大尉・・・」

「ま、まあ。 そこまで言うなら・・・ でもな、美味しいネタなのにな・・・」

「大尉ッ!!!」

「はいはい、わかったよ。 言わないから」


嗚呼。 さっきまでのシリアスさは、どこに行ってしまったのだ。
お陰で、俺自身抱えていた感傷も、どこかに吹き飛んでしまった。

そして時折、思い出したようににやける大尉は、楽しそうに艦内に戻って行った。




時刻は1900 すっかり夜の帳が落ちていた。 彼方の空は、赤々と燃えている。 支援砲撃の業火だ。

明日も、あの下へ赴く事になる。 あの下で、BETAと戦う。

そろそろ、艦内に戻るか。 長嶺大尉にへこまされ、艦内出入り口の水密扉に向かう。
途端に、今度は朴貞姫中尉と出くわす。 何なんだろうな? 皆して今日は・・・


「ああ、中尉も外を見に出てきたんです・・・か・・・?」

泣いている。 いや、泣いていた、か。 目を真っ赤に腫らして、涙の跡も判るほどに。

「ん・・・ 周防か・・・ 嫌な所を見られたなぁ・・・」

少し顔を紅潮させて背を向ける。 腕が顔の辺りに上がっているのは、涙を拭いているのだろう。

「笑う? 中尉にもなって。 1人戦死したからって、一々泣いているのよ、私は・・・」

自嘲気味だ。 戦死した孫安達少尉の事か。 朴中尉のエレメントで、部下だったな。

「笑いませんよ。 人の死を悼む事は、当然だし。 その方法は人それぞれだ。
中尉が彼の死に、涙を流すのなら。 それが中尉のやり方なんでしょう。 俺がどうこう言う事じゃ無い」

俺だって、仲間の戦死に悔し泣きした事なんか、いくらでもある。
もう何か月も前になってしまったけど、美濃が戦死した時は、帰還してから悔し泣きした。
それを笑うやつは、ぶん殴る。 そして、今の中尉を笑うやつも。
 

「あいつは・・・ 孫は。 私が初めて率いた小隊の部下だったのよ。
でも。 既に2人、死なせちゃっててね。 生き残ってたのは、私と孫だけだった。
同じように、珠蘭(李珠蘭中尉)も、小隊の半数を失っていたわ。 今回は、定数割れして浮いていた私達が、国連軍に協力って形で出されたんだけどね」

李中尉の方が先任だったから、取りあえず小隊長をしていたそうだ。 呉栄信少尉は、李中尉の部下の生き残りだ。


「結局。 私だけだな、生き残ってしまったのは・・・ 部下を全員、死なせちゃったよ」

無意識にポケットをまさぐって、煙草を取り出す。 「光」を1本。 咥えて火を点ける。
紫煙を吐き出す。 途端に中尉に奪われた。

「・・・むッ! ごほっ、ごほっ! けほっ! まっずぅ~~・・・ 良くこんな煙、吸っているわね? 貴方達、スモーカーって人種は・・・」

だったら、人の吸いさし奪ってまで、無理して吸いなさんな。 仕方なく、もう1本取り出して火をつける。

「無理に吸い込まないで。 吹かすだけにしておいた方が良いですよ」

「生意気ね。 年下の癖に。 はぁ・・・」

中尉はプカプカ、煙を口に入れては吐いている。


「さっきの話ですけど」

「んん?」

「1人だけ生き残ったって」

「・・・・・」

「悪い事ですかね? 俺はそうは思いませんよ」

「・・・指揮官だけが、生き残って?」

「だったら。 次に編成された部下達には。 少しでも生き残れるように、叩き込めばいいじゃないですか。
所詮、人が出来る事なんて限られていますよ。 戦場で部下全員を助けて回れる指揮官なんて、いやしませんし」

一瞬。 中尉が睨みつけたが、直に視線を落とした。

「俺の前の隊の中隊長・・・ いや、最後は大隊長になっていましたが。 帝国の第1次派遣からの生き残りの猛者で、戦場を『知っている』指揮官でしたけど。
それでも1人、死なせました。 2人重傷です。 勿論苦悩は有ったでしょうし、俺達の知らない苦労は多かったと思います。
でも、決して後ろを見なかった。 そんな暇があったら、前に進め。 そんな人だった。そんな隊長を見て来て、俺達部下も感化されました」

まぁ、あの人は『特別印』ではあるけどな。

「過去にも大勢、部下を死なせたそうです。 その度に悔悟に襲われたでしょうけど。 それでも諦めずに、足掻いて、足掻いて。
とうとう、1年近くで20回以上実戦出撃して、その間1度も部下を死なせることなく、戦果を上げる隊の指揮官に成りおおせた。
あの人だって、最初は新米指揮官だった筈だ。 でも、だったひとつ。 諦めなかった」

そうだ。 あの人は諦めない。

「泣いたと思いますよ。 悔しかったと思いますよ。 俺は正式な部隊指揮なんかした事は無いですから、中尉の苦悩は判りませんけど・・・」

去年の12月に、永野達や愛姫の指揮をした時は、あれは除外だな。


「言ってくれるわね、この。 はぁ、これじゃ、どっちが上官か判らないじゃ無い。
ま、いいわ。 私も。 貴方のその隊長さんにとまでは、いかないかもしれないけど。
頑張って足掻いてみるかぁ・・・」

「そうそう。 その意気」

「な、ま、い、き!!」

お互い笑い合う。 

しかし。 さっきの長嶺大尉と言い、今の朴中尉と言い。 気性のさっぱりした人柄で助かった。


「そう言えば。 さっき日本海軍の大尉さんと、話して無かった?」

その話題が出たので、簡単に話す。
途端に、中尉が睨みつけてきた。

「アンタ。 どうしてそう、オンナの弱気な場面に出くわすかなぁ? 去年の蒋翠華少尉の時だって、そうでしょ!?
今回は私とさっきの大尉殿。 そんな時に親身にされたら、クラっときちゃうよッ!」

なんで怒られるんだ? と言うか。どうして中尉が翠華との事を?

「彼女に聞いたよ」

あっさり。 この調子じゃ、翠華。 趙中尉や朱少尉、李少尉にも話しているな・・・ はぁ。


「・・・で? 中尉は『クラっと』きましたか?」

もう、半ば自棄。

「冗談言わないでよ。 これでも、夫のいる身なんですからね」

はぁ!?

「ちゅ、中尉! ご結婚されていたんですか!?」

「そうよ。 人妻よ。 ひ、と、づ、ま!」

ふふん! と。 何故か胸を張って、偉ぶっているよ。
はぁ。 そうですか。 お見それしました。

「で? 本命はどっちなの? 前の上官だって言う、日本美人? それとも、翠華? どっち? ねぇ!?」

・・・貴女もですか。 勘弁して下さいよ。

「黙秘権行使です」

「何よ、意気地無いわね。 どうせなら、2人とも女房にしますッ くらい言いなさいよ!」

「日本は一夫一妻制です」

「中国は今年、一夫多妻制、認めたわよ?」

「俺、日本人です。 日本国籍ですよ?」

「帰化すれば? 中国に」

「馬鹿言わんで下さい」

ああ。 この調子だと。 これからもこの手の話は、付いて回るんだろうなぁ・・・
いや、判っているよ。 自業自得だって。 でも、翠華は『大切な女性』だし。

俺。 本当に、どうするつもり何だろう・・・


「悩め、悩め、若者。 それも青春さ! でもね。 恋愛の先輩として一言、言わせて貰うと。
男と女の関係なんて。 正解は無いんじゃ無い? 結局、それぞれだしね。 お互い幸せなら、それが本人たちにとっての『正解』なんだよ。 きっと」

「はぁ。 『人妻』の言葉は重い、って事ですか?」

「ふふん」






朴中尉が艦内に入ってからも、暫く甲板に居た。

やれやれ。 なんて1日だ。

凄惨な戦場かと思いきや。 今度はシリアスな悩み事相談。 一転して、散々弄られる。

阿呆らしくもなってきたので、艦内に戻る。

「直衛?」

・・・今度は翠華か?

「よう・・・」

「何してたの?」

「黄昏てた。 ついでに、いじけてた」

「? いいけど。 もう休みなさいよ。 明日は早いし」

そうだな。 それに、明日も戦争だ。 せめて、しっかり休むか。

「判った。 じゃ、翠華もな」

そういって、歩き去ろうとすると。 翠華に呼び止められた。

「なに?」

いきなり翠華が抱きついて来て。 俺の首に両手を回して、キスをした。

「おやすみ」

そう言って。 彼女はさっさと艦内に戻って行った。



「・・・・おやすみ」

ちょっとだけ、気分が回復した。
祥子を愛しているけど。 翠華も、俺の女だ。 この場合、『大切な女性』だ。 いいよな?














「・・・・・見た? ギュゼル」
「ええ、しっかりと。 ヴェロニカ」
「やっぱり、二股なんだぁ・・・」
「そう前から言っているわよ? ミン・メイ」
「文怜、親友でしょ? 何とか説得しなさいよ」
「無茶言わないで? ギュゼル。 恋は盲目、よ・・・」








「・・・あの娘達。 何を・・・?」
「二コール、どうしました?」
「ああ、美鳳。 ほら、あそこ・・・」
「文怜? ギュゼルにヴェロニカ、ミン・メイも・・・?」
「何を見ているのかしら?」
「さあ・・・?」









「中尉2人に見られなかっただけ、命拾いだな」
「確かこの前は、洗いざらい白状させられたんだったな?」
「おお。 悪いが、笑ったよ」
「ファビオ。 お前が言う?」
「圭介に直人。 見捨てただろ? お前達」

「「「 ま、当分は楽しめそうだ 」」」






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