『知ってるか? エースってやつは、単に実戦出撃回数が多いだけじゃ、エースって呼ぶに値しねぇ。 そんなもん、この世に幾らでもいらぁ』
『エースはよ、3つに分けられるんだ。 強さを求める奴。 プライドに生きる奴。 戦況を読める奴。 この3つだ』
『大なり小なり、その3つは持っているもんだ、エースって呼ばれる連中は。 スタンスの違いさ。 表面に出てくる形はよ』
『部隊のストームバンガード・ワンはよ。 単に部隊の中で戦闘力No.1ってだけじゃ、ダメなんだ。 部隊のエースでなきゃよ』
『戦況が不利になると、部下は指揮官を見る。 指揮官はストームバンガード・ワンを見る。 そして、ストームバンガード・ワンは―――』
『―――黙って、ブチ破るのさ。 不利な戦況ってやつをよ。 それが真のストームバンガード・ワン―――突撃前衛長―――エース、ってやつだ』
―――『彼』は。 確かにエースだった。
『ダンディライオン』―――アンダルシアの猛き獅子。
1994年7月18日 1220 イベリア半島 アンダルシア防衛線 コルドバ防衛基地 北北東65km ビリャヌエバ・デ・コルドバ
『イ~~~ッ、ヤッハアァァ!!!』
陽気な雄叫びをあげて、スペイン軍のF-16C 『ファイティング・ファルコン』 がBETA群の只中に斬り込んでいく。
右手に近接戦闘用の『クレイモア』 左手にAMWS-21突撃砲。
クレイモアを縦横に振い、突撃級の節足部、要撃級の側面部を叩き斬り、無力化すると同時に、突撃砲の36mmをシャワーのようにばら撒き、小型種を掃討する。
その間、機動は一切止まっていない。
地表面噴射滑走、短距離水平噴射跳躍。 時に緩やかに、流れるように。 時に短く、鋭く、素早く。
常にBETA群の動きの1歩、2歩先を読み、確実に相手の動きを潰してゆく。 同時にそれは、後続する僚機の突入路確保でも有った。
『無駄、無駄、無駄ぁ! そんな馬鹿みてぇな動きじゃ、俺は捕まえられんぜぇ!!』
要撃級2体の、左右からの前腕同時攻撃を。 水平地表滑走と垂直軸旋回とで、回避と同時に旋回力を利用して斬り伏せる。 同時に水平噴射跳躍。
『おおいッ! 国連軍さんよッ! さっさと付いてこねぇか! チンタラしてっと、俺が全部喰っちまうぜ!』
「・・・くそっ! なんだ、あの親爺は! あれが、おっさんの動きかよッ!?」
信じらんねぇ! 戦術機の高速・高機動戦闘はかなりの体力を消耗する。
若い、20代前半の衛士でさえ、立て続けに発生する戦闘で、それをし続ければ、体力を簡単に消耗する。
「あのおっさん、30代半ばだろう!? ったく、信じらんねぇ・・・!!」
『本当、体力馬鹿ね。 呆れるわ・・・』
俺のぼやきに、ギュゼルも同意する。
『はっはぁ! 小僧、おっさんにゃ、おっさんの戦い方が有るってもんさ! お嬢ちゃん、どうだ、今夜にでも1戦? おじさん、頑張っちゃうぜぇ!?』
『結構ですッ!!』
『はっはっは! そりゃ、残念だ! 何せ、あんた等ントコは、美人揃いだしなぁ!』
そんな軽口を叩きながら、F-16Cは噴射跳躍で上方から120mmを要撃級に叩き込み、着地と同時にクレイモアを隣の要撃級の胴体へ、自由落下速度を利して突き入れた。
そのまま噴射跳躍に移った後には、倒され、行動不能になって、のたうち回る2体の要撃級。
『隊長。 美人でない部下で申し訳ありませんが、報告です。 そろそろBETA群の輪を抜けます。 前方に光線級確認。 個体数60』
『ノエル、僻むんじゃ無ぇよ! お前ぇは良い女だぜぇ?』
『・・・国連軍のグラムBも、右翼より突破まじかです』
『おお!? 何だかんだで、俺様の突破速度とタメ張るかよ? やるなぁ、小僧! いい腕だ!
よぉし! んじゃ、お次はどっちの隊があの糞目玉共を多くぶち殺すか! いこうじゃねぇか!!』
全開おっさんのF-16Cが突破速度を上げる。
「ちぃ! ここまで舐められてたまるかッ! グラムB! フィーメーション・ダイアモンド! 一点突破をかける! 行くぞ!!」
『『『 了解! 』』』
4機のトーネードⅡが素早く菱形の陣形に組み直し、最大出力の水平噴射跳躍をかける。
俺を先頭にした高速突破フォーメーション。 急速にBETA群が迫る。
「邪魔だ!」
36mmで牽制射撃を行い、前腕を下げさすと同時に、120mmを要撃級の胴体上部に叩き込む。 推力を主機脚部スラスターにトレードオフ。
同時に右腰部スラスターも使って、半身の姿勢で右手に保持した突撃砲の36mmで前方の小型種を掃射。
左の長刀ですれ違いざまに、後続する要撃級の胴体側面を叩き斬る。
「グラムB! 直にBETA群の輪を抜ける! 光線級は目の前だ! 遠慮するな! 全部喰ってやれ!」
『了解!』 『判りました!』 『やってやります!』
部下からも、興奮した声が返ってくる。
『はははっ! 楽しいなぁ、おい! 国連軍にも、遊べる相手がいるとは、思わなかったぜぇ!? 周防中尉よぉ!』
「あんたこそ! ここまでネジのぶっ飛んだのが、居るとはね! アンディオン中尉!」
『うだうだと! 思い込んでも体に悪ぃや! 人生、単純明快の方がいいさっ! そら、出やがった! 光線級だぜ!!』
「会いたかったぜぇ! この糞目玉共! ここで会ったが、運の尽きだ! くたばりなぁ!!」
スペイン軍と、国連軍。 両軍の突撃前衛小隊がBETA群の環囲を打ち破り、その輪の外側に集まっていた光線級の群に突進する。
この2個小隊の後方には、各々の中隊主力が続行して、突撃前衛小隊の開けた突入路を拡大させていた。
『これで、終いだぁ!!』 「各機! 叩き潰せ!!」
その日、7月18日 1355 マドリードに集まっていたBETA群から弾き出され、コルドバ方面へ南下侵入した師団規模のBETA群の襲来は。
スペイン軍アンダルシア軍団、及び、国連欧州軍ジブラルタル方面軍第18軍団によって、ビリャヌエバ・デ・コルドバ付近の阻止戦闘で潰えた。
1994年7月21日 2015 イベリア半島 アンダルシア防衛線 港湾拠点 カディス基地(通称『カディス要塞』)
3日前のBETAの南下侵攻の後始末も終わり、部隊は南部の港湾拠点・カディス基地へ帰還していた。
俺達の部隊、第88独立戦術機甲大隊は、緊急即応展開軍団所属で有り、各地の戦場へ『可及的速やかに即応』して展開する。 各拠点に張付きの防衛軍団とは対を為す。
命令1本で、昨日は東、今日は南、明日は北へと。 それこそ駒ネズミのように飛び回る反面、戦場を離れれば、比較的後方の拠点待機になる。
「考えれば。 これは、その小さな役得だよなぁ・・・」
「ヴィノ・デ・ヘレス」=へレスのワイン、ポピュラーな名で言えば、「シェリー」のグラスを傾けながら、思わず呟いた。
基地の酒保群。 その中の通称『BAR(バル)』と呼ばれる「南欧風飲み屋」然とした場所が有る。 主に尉官級の士官連中が屯する場所だった。
最前線の基地にこんな施設など無い。
無論、酒類位は士官なら入手できるが、精々食事時に少々嗜む程度。 あとは自室で「こっそり」飲む位か。
「そうねぇ。 昨日まで詰めていたセビーリャは、いわば最前線直後の『防衛要塞基地』だし。 こんな場所は無いわよね」
「直衛~、人生、潤いは必要だぜぇ? 何もかも、BETAとの殺し合いが全てじゃ、悲しいぜ」
ギュゼルとファビオも、ワイングラスを傾けながら、タパス(総菜)を摘んでいる。
途端に、横でカクテルを飲んでいた2人から、突っ込みが入る。
「ファビオ、アンタは潤いすぎ。 少しは枯らした方が良いかもね?」
「あ、この間の通信隊の下士官の娘とか? 主計隊の美人未亡人とか?」
「―――ぶほぉっ!!!」
「―――汚ったねぇなぁ! おい!!」
ヴェロニカの皮肉に、翠華が実例でツッコミを入れた途端、ファビオが噴き出した―――どうでもいいけど、俺に吹きかけるなっ!!
くそっ、 こいつの真正面に座ったのが悪かった・・・
「あ~あ。 ほら、直衛。 ちょっとこっち向いて・・・」
隣の翠華が、ナプキンで拭いてくれる。
今いるメンツは、中隊の中尉連中ばかり。
特に狙った訳じゃ無いが、各自が事務処理やら何やらしていたら、少尉連中はさっさと飯を食い終わって、『出撃』した後だった。
―――中隊長と、オベール中尉? 野暮は言いなさんな。
「にしても、あれよねぇ・・・ どうしてウチの中隊の小隊長達は、こうも女癖の悪いのが揃ったのかしら?」
言うに事欠いて、女癖が悪い、かよ。 その風評の元は、確かお前だったな? ヴェロニカ!
「ヴェロニカ。 ファビオは兎も角、直衛は心外そうよ?」
ヴェロニカのジト眼に、ギュゼルが可笑しそうに笑って茶々を入れる。
「心外? ふん。 母国には年上の、結構に尽くしてくれそうな、美人の恋人が居て。 こっちでは翠華が『現地妻』で尽くしちゃってさッ
そんな『二股男』が、心外だなんて、よく言うわよ!
直衛、アンタ知ってる? 翠華って、元気な美人ってことで、結構な人気者だってこと。 この娘を狙っているヤツも、かなりいるのよ!?」
「そんな・・・ 美人だなんて ♪」
翠華が両手を頬にあてて、きゃ、ってな感じで。
どうでもいいけど、酔ってる? 翠華?
「だ、そうよ。 どうするの? 直衛?」
ギュゼルが面白そうに振ってくる。 いや、火に油を注いでいるか。
「誰にも、やらん」
「―――言い切ったな、きっぱり・・・」
「ファビオも、あれ位言いきったら?」
「・・・ぽっ」
「あ~~! もぉ~~! そこの天然3人! うるさいわよっ!!
直衛、アンタも良い度胸よね? 堂々と二股宣言!?」
今夜はやけに絡むな? ヴェロニカも・・・
こいつも、良い感じで酔っているか?
「・・・ヴェロニカ。 そんなテンパってキレるほどに、独り寝が寂しいのか?」
「んなっ!?」
「言っちまったぜ・・・」
「あらら・・・」
「硬直しているわね、ヴェロニカ・・・」
「何だ。 だったら早く言ってくれれば。 俺でも、ファビオでも。 1晩、2晩くらいなら、彼女達も大目に見てくれるさ。 衛士同志のメンタルケアだ。
なぁ? ファビオ? ・・・あ、大尉はやめておけよ? オベール中尉に、戦場で後ろから撃たれかねない、うん」
オベール中尉はあれで、何だかんだでアルトマイエル大尉「しか」目に入っていない。 元々、深窓のお姫様だしな。 うん。
「誰が、あんたや、ファビオに、抱かれたい、なんて、言ったのよッ・・・!?」
「・・・直衛? 後で、ちょっと良いかしら・・・?」
ヴェロニカのブチ切れる寸前の形相も凄いが。
・・・翠華、その絶対零度の凍えそうな笑み。 まるで祥子とウリ二つで、とても怖いんだけどな・・・
「・・・直衛。 俺は『愛の求道者』にはなりたくても、『不実の愚者』で、死にたくねぇ・・・」
「馬鹿な男・・・」
ヴェロニカに締めあげられ。 翠華に引っ掻き回され。
散々な目に有っている俺の耳に、外野二人の声が虚しく残った・・・
「いよぉ! 騒がしいと思ったら。 『グラム』の美人さん、総出でお揃いかい? ・・・ん? 美人の小隊長さんが、いねぇな?」
入口から陽気な声が降って来た。
「あ・・・ アンディオン中尉」
「オベール中尉は、中隊長と、ですよ」
ギュゼルとファビオが気付き、席を立って挨拶する。
同じ中尉とは言え、向こうさんはもう10年以上も『中尉稼業』をしている大先輩だ。
俺を締めあげていたヴェロニカと翠華も、ようやく手を離してくれた。
「あ~、いやいや、んな片っ苦しいマネ、すんなって。 同じ中尉だ。 同じ戦場に居るモン同士だぜ?
しかし、そっか。 あの2人。 怪しいと睨んでいたが、やはりなぁ・・・
おう、一緒のテーブル、いいか? ・・・こっちも、あと1人居るがよ?」
「あ、どうぞ。 遠慮なさらないで」
「いいですわよ。 現地軍の方とも、親睦深めないといけませんし」
「人数は多い方が楽しいですよ」
ギュゼル、ヴェロニカ、翠華の賛同で決定。 俺達は、発言権無しなのね・・・
「んあ? なんだ、小僧ども。 居たのか?」
「・・・いたんですよ」
「・・・絶対、ワザと言ったな」
「んだ? 男がこそこそと言いやがって。 ま、いいわ。 お前等はこの場の『壁紙』だ。 心の広い俺様は、気にしねぇ。
お~い! こっちだ、こっち!」
更に入って来たスペイン軍の士官が1人。 確か、アンディオン中尉の部下だ。 年上と思しき女性士官。
「ま、紹介は1杯飲った後だ。 おい、親爺! セルベッサ(ビール)! ワインもな!
ああ、あとメシだ、メシ! トルティージャ(スペイン風オムレツ)に、カジョス(もつ煮込み)、ハモン・セラーノ(生ハム)もな!」
俺達5人に、スペイン軍の2人。 都合7人の騒がしくなったテーブルの面々。
俺達については、俺とファビオ、翠華にギュゼルと、ヴェロニカ。
スペイン軍は、後で入って来た俺達より年上の女性衛士が、ノエリア・エラス中尉。 28歳。 確か「ノエル」と呼ばれていたか。 愛称か何か?
濃いブラウンの髪に、黒い瞳、褐色に近い肌。 強化装備姿で見たプロポーションなど、生唾ものだ。
大人の女性の色香全開のラテン系美女。 ・・・正直言って堪らんとは、ウチの中隊の野郎連中の統一見解だ。(中隊長は、ノー・コメントだった)
そして、「騒がしいおっさん」こと、レオン・ガルシア・アンディオン中尉。 36歳。
2m近い長身の巨軀。 癖のある黒髪に、黒い瞳、褐色の肌。 ある種の肉食獣を彷彿とさせる、凄みのある笑みを張りつかせて、馬鹿な事を口走る「陽気なおっさん」
彼等は、イベリア半島からジブラルタル海峡を挟んだ、対岸のタンジェ、テトゥアン、シャウエン、ホセイマ、ナドール。
この5県から構成される、スペインの 『飛び地領』 リーフ州に司令部を置く、スペイン共和国軍アンダルシア・ジブラルタル方面軍。
その緊急即応部隊、第188戦術機甲旅団所属の衛士達である。
スペイン軍の中でも、最精鋭で知られた部隊だ。 俺も、先日の戦闘でその実力を知った。
特にこのおっさんが居る中隊―――『エスパーダ中隊』は、常に旅団の先陣を切る。
まるで、満洲に居た頃に所属していた『ゲイヴォルグ中隊』に似ている。
「おっさん」こと、レオン・ガルシア・アンディオン中尉は、今年で中尉11年目だそうだ。
その補佐役のノエリア・エラス中尉は、8年目。
しかし。 なんでまた、こんなに長く中尉を? 2人とも、衛士としてはかなり優秀な人材だ。
エラス中尉は少なくとも大尉で中隊長。 昇進が早ければ少佐で大隊長をしていても、不思議では無い。
おっさんも、年齢と実績から行けば、中佐で大隊長か、変則縮小規模の連隊長をしていても、おかしくない。
2人とも、それ位凄腕で優秀な衛士だった。
些か酒も回っていたので、皆でそんな疑問を口にしたところ。
「ははは! 俺も一度は大尉になっていたんだがなぁ。 余りに馬鹿な上官に我慢できなくってよっ! ぶん殴っちまった!
したら、あの軟弱野郎。 顎の骨が砕けちまってよっ! で、1階級降格を喰らってな。 8年前よ。 それ以来、階級はピクリとも動きやしねぇ」
「・・・おっさんは良いとして。 なんでエラス中尉まで?」
「・・・俺が知るかよ」
ファビオと俺の『壁紙』コンビが隅っこで、ひそひそ話をしていると、聞こえたのか当のエラス中尉が、こっちに向かって話し始めた。
「・・・私も、思う所が有ったの。
良い機会だから、隊長に便乗して、思いっきり頬を叩いてやったの。 こう、背筋をピンと伸ばして。 中尉の1年目だったわ。
そうしたら私もその後、昇進には音沙汰なし、ね」
悪戯っぽく笑う。 意外だ。 エラス中尉は、何と言うかこう、もっと謹厳な性格かと思った。
「ああ、あの大隊長の野郎。 ノエルの体、露骨に狙ってやがったしなぁ」
さっきからセルベッサ(ビール)をぐいぐい飲りながら、おっさんが思い出したように言う。
「そうね。 モーションかけるならまだしも。 何度か犯されそうになったわ」
「「「 ええっ!? 犯されたぁ!? 」」」
エラス中尉の告白に、ウチの娘さん3人がハモる。 いや、「犯されそうになった」と言った訳で。 「犯された」とは言ってないぞ?
・・・いや、完全に酔ってるわ、この3人。
急にエラス中尉が、クスクス笑い始めた。
「・・・その時の、隊長の捨て台詞ね。 『俺の女に手を出すんじゃねぇ!』 ―――あの言葉と引き換えの昇進差置きなら、別に構わないわ」
なんと・・・ おい、おっさん。 いい歳して、赤面してんじゃないぞ?
「ふわぁ~~・・・」
「アンディオン中尉! カッコイイ!」
「うっ、羨ましいな・・・」
今の順番は。 ギュゼルに翠華に、ヴェロニカだ。 翠華とヴェロニカの順番が、逆じゃないぞ?
「・・・・・」
「何だ? ファビオ。 どうして俺を見る・・・?」
「いや・・・ あれがお前の、将来の姿か・・・」
「おい!?」
―――冗談じゃ無い。
しかし・・・ 正直、翠華にモーションかける野郎は多い事は確かだ。 その都度、追い払っているが。 時として殴り合いになった事も有った。
祥子は・・・ こっちも心配だ。 最も、「あの」広江少佐の直属の部下に、そんな無法を仕掛けられる馬鹿が派遣軍に居るとは、考えられないが。
「女の幸せ、ってやつよね。 ねえ、そう思うでしょ? 蒋中尉?」
「え? あ、はいっ! そうですよねっ!!」
何で。 何で俺と翠華を見ながら、そのセリフを!? エラス中尉!?
傍でニヤニヤしているギュゼルとヴェロニカを見た時。 一瞬、殺意を覚えた事は確かだ・・・
「ところでよ、周防。 お前さん、『ストームバンガード・ワン』ってな、どう言う事か考えてるか?」
時刻は2330 とっくに就寝時間は過ぎている。 本来ならバルも店仕舞だが・・・
他の連中はとっくに宿舎に帰ったが、俺一人、おっさんにつかまって酒の相手をさせられていた。
「どう考えてるかぁ~・・・? ん~・・・ 部隊の、切り込み隊長?」
ビールを飲む。 いい加減、視界が揺らぐなぁ・・・ 何杯目だ?
「それも間違いじゃねぇけどよ・・・ んじゃ、『エース』ってのはよ? どんな連中だ?」
「エース? ・・・一般的に言やぁ、実戦出撃、20回以上の衛士だろ?」
「けっ! んなもん、掃いて捨てるほどいらぁな・・・
知ってるか? 『エース』ってやつは、単に実戦出撃回数が多いだけじゃ、『エース』って呼ぶに値しねぇ。 そんなもん、この世に幾らでもいらぁ
いいか? 『エース』ってのはよ。 常に状況を打破できる連中の事だ。 不利な戦況でも、そいつが居れば何とかしてくれる。 何とかしてみせる。
そんな、一握りの、選ばれた衛士の事だ・・・」
おっさんも、大分酒が回って来たか。 けどな、そんな凄い奴、滅多にお目にかかれないぜ?
「だから、『エース』なんだよっ! そんなにほいほい、居てたまるか・・・
でよ。 少なくとも『ストームバンガード・ワン』は。 突撃前衛長は。 『エース』か、『エース』たらんと目指している奴でなきゃ、いけないのさ」
ふ~ん・・・
「エースはよ、3つに分けられるんだ。 強さを求める奴。 プライドに生きる奴。 戦況を読める奴。 この3つだ。
大なり小なり、その3つは持っているもんだ、エースって呼ばれる連中は。 スタンスの違いさ。 表面に出てくる形はよ」
3つ、ねぇ・・・
「部隊のストームバンガード・ワンはよ。 単に部隊の中で戦闘力No.1ってだけじゃ、ダメなんだ。 部隊の『エース』でなきゃよ」
ま、その意見にゃ、賛成だ・・・
「戦況が不利になると、部下は指揮官を見る。 指揮官はストームバンガード・ワンを見る。 そして、ストームバンガード・ワンは―――」
・・・ストームバンガード・ワンは?
「―――黙って。 ブチ破るのさ。 不利な戦況ってやつをよ。
それが真のストームバンガード・ワン―――突撃前衛長―――『エース』ってやつだ」
成・・・程・・・
「・・・何だ? 潰れちまいやがったか? ま、いいやな。 周防・・・ お前ぇもこの先、衛士やって行くんならよ。 覚えておけや・・・」
遠ざかる意識の片隅で。
『ダンディライオン』―――アンダルシアの猛き獅子。 レオン・ガルシア・アンディオン中尉の声が、聞こえた・・・