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No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
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[7678] 国連欧州編 シチリア島1話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/07/01 00:59
1994年8月14日 英国(連合王国) リヴァプール BAe本社開発部 戦術機ハンガー


眩いライトに照り返されるハンガー内で、5人の男女が真新しい機体を見上げている。
思う事は様々であろうが、その事をおくびにも出さない程度には、離れしている者達だった。

「・・・ようやく、形になりましたな」

痩身の、如何にも英国紳士然としたスーツ姿の中年男性―――英国系だ―――が、思わず言葉を漏らす。

「80年から実に14年・・・ 途中の『不幸な行き違い』が無ければ、今少し早く実現していたモノを・・」

この場の最年長である初老の紳士も、つい愚痴じみた言葉になる。


「しかし、ダービー伯、オーウェン卿。 今こうして形となったのです。 新たな欧州の刃として」

傍らの、如何にも研究者然とした40代位の男性が、2人に話しかける。

「む・・・ そうですな、Dr.ダーリング」

「ふむ。 いや、失敬。 年をとると、どうにも堪え性がな・・・」

英国紳士―――ECTSF計画常任委員・欧州連合大議会議員、準男爵アーサー・ダグラス・オーウェン卿。
初老の紳士―――英国国防省・国防政策局長・英国陸軍大将、第21代ダービー伯爵オーガスタス・スミス=スタンリー

苦笑する二人に、表情を変えぬ頑固さを持って戦術機を見上げるのは、BAe社開発部長兼ユーロファイタス社常任理事、ステファン・アレクサンダー・ダーリング博士。

いずれも、ECTSF計画開始より携わってきた。 内心の感情を露にする事を、死んでも厭う英国紳士ながら、その思いはひとしおであろう。


「後は。 どうやって他国・・・ 特にドイツとイタリアを引き戻すか、ですな」

オーウェン卿が表情を曇らせて思案する。
実際問題、英国単独では技術面でも資金面でも、些か以上に困難では有ったのだ。

「・・・スポンサーと言う側面ならば。 スペインも戻したい所だ。 それと、関心を寄せていたオーストリアもな」

ダービー伯爵の声も、答えが不明瞭な色を滲ませる。

技術面でのドイツとイタリアの再度の参加は大きい。 それに開発資金面でのスペインとオーストリア。
将来、正式採用となった暁には、これらの国々が抱える、海外生産拠点でのフル稼働を計算に入れれば。
十分に早期の部隊配備は実現可能、と計算している。


「その手法は、我が社と英国政府・・・ いえ、英国国防省国防政策局との合意がありましょう、伯爵。
その為に、彼女にご足労頂いております」

ダーリング博士が、奥に控える女性将校に眼で合図する。
ダービー伯爵とオーウェン卿の前に出てきたのは、30代後半と思しき、国連軍の軍服を身に纏った女性将校―――大佐だった。

「ふむ・・・ 技術実証機運用部隊の設立は、我々が推し進めていたものだが。
その『舞台』について、君が講釈を行うと言うのだね? ―――ヴィクトリア・ラハト国連軍大佐?」

「はっ、閣下。 どうぞ、『プリマ』達には思う様に舞って頂きますよう。 雑事は我々が。
まずは、ドイツ、そしてイタリア。 この両国へのアピールが肝要かと」

「・・・シチリア島か。
あの島は。 古き昔より、何かと絵になる舞台ではあるな」

「第2次ポエニ戦争。 紀元前3世紀後半のシラクサでは、かのアルキメデスの発明した『兵器』が、ローマ帝国を翻弄いたしました。
今次BETA大戦のシチリアは、欧州の騎士達の新しき刃が、BETA共を滅しましょう」

「ふむ・・・ 承知した。 よしなに、な。 ―――オーウェン卿?」

「後は、騎士達に刃を戦わせてみては如何かと。 ダービー伯」

「全然、同意する」







ハンガーを出て行く3人の英国紳士の後姿を見ながら、ラハト大佐は先程から一言も発しない、最後の一人に向って呟いた。

「・・・帝国も、随分と商売上手になったものだな?」

「いえ何、世界中のお歴々が鎬を削る世知辛い世の中。 我々のような無い無い尽くしの貧乏人は、隙有らば、お零れを頂戴するより外には・・・」

「ふん。 F-92の時もそうだ。 抜け目無く立ち回り、利を得る。 
随分と外貨を獲得したのだろう? 中国に韓国、台湾。 そしてASEAN諸国。 ああ、中南米や中東諸国の一部にまで、売り込んでいたな」

「いえいえ。 ご本家や、『死の商人』の先達の欧州諸国に比べれば・・・」

「そして今回だ。 世界初の実戦配備第3世代機の開発ノウハウ。 随分と気前良いではないか? 先行投資か?
聞けば、ユーロファイタスのみならず。 サーグやダッスオーにまでばら撒いたらしいな?
米国メーカー共が、歯ぎしりして悔しがっていたぞ? 先に唾を付けられたとな?」

「おやおや。 まさか大佐まで、そんな与太を信じられるとは。 我々など、作ってはみたものの、果たして有用なのやら、どうなのやら。
ついては、先達の教えを請いたいと、藁にもすがる思いですなぁ・・・」

―――この狸め。

押しても引いても、掴みどころがない。 最も、情報組織の人間である以上、簡単に素を曝すなど、愚者以外の何物でもないが。
いや、そもそも、素の自分など無いのが、我々諜報の世界に生きる者だ。 自分でさえ、どれが本当で、どれが演技なのか判らない。 それでこその、諜報担当官。

「まぁ、いい。 舞台はこちらが―――国連軍統合情報部が整える」

「いや、豪気ですなぁ。 欧州軍のお歴々が、さぞ煩い事でしょうに」

「ふん。 あの戦馬鹿共など。 そちらは精々、盗み見に精を出すが良い。 その為の要員は手配済みなのだろう?」

「今頃は、風光明媚なシチリア島でゆっくり、命の洗濯をしている事でしょう」

「間違って、BETA共に命の代償を支払わんよう、注意しておけ」

「くわばら、くわばら」


ふと。 『雑事』に駆り出される部隊を思い出し、ラハト大佐は男に向かって切り出した。

「掃除部隊は、第86、第87、第88独立戦術機甲大隊から、選抜3個中隊だが。
第88には、奴が居るな?」

「―――大連の後始末を、シチリア島で、ですかな?」

「そんな姑息は使わんよ。 が、保証もせん」

「まぁ、その時は。 彼の悪運もそれまで。 そう言う事でしょう」

実際の話。 2年近く前の『仕事』で使った『小道具』など、どうでも良い。
それに、BETAとの戦いで死ぬのならば。 寧ろ感謝されるべきではないか?

「ふん・・・ 私にしたところで、只の一中尉の事など、どうでも良い。
『あの時のこと』を、口外せぬ限りな」

「まぁ、大丈夫でしょう。 尋問に当たった部下の報告では、どうやらその辺りは弁えている様子でしたな。
今回は。 純粋に衛士としての腕前を、存分に堪能させて貰いましょう。 ―――『クレイジー・デビル』には」

男の、一向に変えぬ飄々とした表情に、ラハト大佐も取り敢えず内心の鉾を収める。
口外せぬのならば、良い。 但し、心得違いをした場合は―――戦場は実に都合の良い場所だ。


「おお。 ところで、つい先日良い店を見つけまして。 大佐にもご紹介をと」

「ん? なんだ、気色悪い。 ―――どんな店だ?」

「いやいや。 これが実に美味いプディングの店でしてな。
羊の心臓のミンチに、オート麦、ハーブ、玉ねぎなどを羊の胃袋に詰めて茹でたものでして・・・」

「ッ!! 待てッ、待てッ! それは最早、料理とは言わんッ!」

「はて? スコッチ・ウィスキーとの取り合わせが、実に微妙な・・・」

「微妙ッ!? き、貴様の味覚は一体どうなっているッ!? それは―――ハギスだろうがッ!!」


しばしば、英国外交政策のえげつなさの比喩にも引き出される料理。
しかし、ヴィクトリア・ラハト大佐にとっては、英国料理を『実感』した原因でも有ったのだが・・・

いつしか相手のペースに巻き込まれ、話をうやむやにされた事に気付く。

(くそ。 相変わらず、喰えない奴だな―――鎧衣)











1994年 9月7日 1315 シチリア島 アグリジェント基地


「ったく! 忌々しいね!!」

さっきから何度聞いたか、その言葉。
プラチナブロンドの髪にアッシュブルーの瞳、北欧の『ヴァルキュリア』にして『姐御』―――ユルヴァーナ・シェールソン中尉が、何度目かの愚痴を吐いた。

「ユルヴァ。 いい加減大人しくしたら? 見た目に鬱陶しいわ」

火に油を注ぐのは、黒髪に日焼けした肌、黒い瞳のラテン系の『黒姫』―――アイダ・ヴィアンカ・ヴァレンティ中尉。

「何でよ!? アイダ! アンタ、頭に来ないのっ? アタシら只の後始末役か、掃除役じゃないさ!
そんなんでわざわざ、テトゥアンから呼び寄せたんかよ!? 冗談じゃないよッ!!」

とは言っても。 ただでさえ、狭く暑苦しい仮設指揮所で、うろうろと怒鳴り散らしながらやられると。 流石に鬱陶しい。

「周防。 貴方からも言っておやりなさいな。 『鬱陶しい』って」

「周防! なんだよ? アンタ、腹立たしくないのかいッ!?」

お願いだ。 お願いだから、俺に矛先を向けないでくれ。
いい加減、イライラしていたが。 でも、ここで俺まで暴発する訳にも・・・

「腹立たしいのは判りますけど、決定事項ですし。
それに今回、我々は『支援部隊』として呼ばれていますからね。 任務が地味なのは、仕方有りません。
怒るだけ、エネルギーの浪費ですよ。 シェールソン中尉」

「いい子ぶるなぁ!!」

「聞き分けないわねぇ・・・」

「それと。 したり顔で注釈つけるのなら。 少しはこっちを手伝ってもらえませんかね? ヴァレンティ中尉。 派遣隊次席指揮官なら」

さっきから俺一人で格闘している書類の山を指して、やんわり抗議する。

「先任指揮官になる為の練習、そう思いなさいな。 折角、書類仕事の練習させてあげているのに・・・」

嘘をつけ、嘘を! 最初から、自分でやる気が無かったくせに! 
昼一番で俺を捕まえて。 書類を押し付けた後は、のんびりと冷たいドリンクなんか飲んでいる人が!

「あ、アタシもパス! アンタやりなよ? 後任の仕事な?」

こっちは問答無用で、理不尽な台詞をのたまうし。 って言うか。 アンタは派遣隊指揮官でしょうが! シェールソン中尉!!

実際の所。 この中では3人とも階級は同じ中尉。 職制も同じ小隊長同士だが。
シェールソン中尉は2年先任、ヴァレンティ中尉は1年先任。 俺は1年目中尉の最後任。
自然と書類仕事や、面倒臭い折衝事のお鉢が回ってくる。
お陰さまで、アグリジェント基地に派遣されて2週間。 すっかり基地の裏方―――庶務や主計、整備に通信隊、そう言った部署とは顔馴染みになったが。


で、どうして『姐御』が憤慨しているかと言うと。
先程、基地司令から通達された、俺達派遣隊―――通称『イルマリネン分遣隊』―――の、当面の任務内容だ。

当面の俺達の仕事は、カラブリア半島先端のレッジョ・ディ・カラブリア仮設基地に陣取っての、半島中部地域までのBETA掃除だ。
イオニア海に面したカタンザーロから、真西に半島を突っ切った先に有る、ティレニア海に面したラメツィアまで約30km
このラインから南へ侵入するBETAを逐次駆逐する事。 但し、司令部の『オーダー』に従って、一定数のBETAは『突破さす』事だ。

当然、1個中隊分―――12機の戦術機だけでは支えきれないから、同様の『仕事』に就いている部隊があと2個中隊、いることは居る。

では何故、そんな面倒な事をするかと言うと―――舞台環境を整える為だ。
主役のダンサーが華麗に観客の前で舞う為に、俺達脇役が舞台条件を裏で整える。 
さしずめ、『戦場』と言う舞台で言うと、あちらはプリンシパルのプリマ・バレエ・ダンサー。 こっちは群舞を踊る引き立て役の、コール・ド・バレエか。

―――主役の『プリマ部隊』 その名をユーロファイタス国連派遣部隊・レインダンス中隊『レイン・ダンサーズ』
ECTSF技術実証機、ESFP(Experimental Surface Fighter Program)機の欧州各国へのアピールを目的とした、技術実証機運用部隊。 つまりは『実戦広報部隊』

無論、部隊の衛士達は、欧州連合軍―――と言うより、英国軍肝いりの、選抜された精鋭だが。 
しかし、プリマに『万が一』が有ってはならない。 これが国連欧州軍と、欧州連合軍、双方の上層部の見解だった。

結果。 国連欧州軍の各独立戦術機甲大隊(80番台部隊)から、選抜で3個中隊分の戦力が『下働き』に出される事となった。
80番台部隊は、出身国が単独で欧州連合に参加できない程の弱小国出身者か、亡命難民出身者か、元の国の軍に『訳有り』で居られなくなった者が多く所属する。
―――言わば、『外人部隊』 口の悪い連中からは『掃溜め』などとも。(最も、面と向かって言う奴はいない。 再起不能になるまで締められるのは、誰しも御免だろう)

下働きさすにも、消耗さすにも、さして惜しくは無い。 そう言ったところか。

(当然、主役が危なくなったら。 代わりに死ねって事か)

あ、段々腹が立ってきたな、俺も。 姐御の事は言えんか・・・


「失礼します。 周防中尉、いらっしゃいますか?」

ひょっこり、指揮所に顔を出したのは、基地の支援任務群・武器管理隊のアルフォンソ・ラティオ少尉。 イタリア軍の将校だ。 俺より2、3歳、年上の筈。

「ああ、ここだよ。 どうした? アルフォンソ」

「頼まれていた戦術機兵装の、確認をお願いしたいのですが。 丁度つい先頃、入港しましたよ」

ああ、アグリジェント港には今日の午前中に、補給船団が入港する予定だったな。 
そして支援任務群に、部隊の兵装の補充を申請していた事を思い出した。

「判った、今行くよ。 ―――と、言う訳ですので。 2人とも、自分の隊の分はお願いしますね」

「何よっ!? わざわざ、除けてたのっ!?」

「・・・芸の細かい男の子は、嫌がられるわよ? 周防」

―――もう、何とでも言ってくれ。

少々、と言う以上に指揮官の自覚を持って欲しい、2人の先任の愚痴を背に、指揮所を出る。
ラティオ少尉の運転する高機動車に乗り込み、埠頭の管理倉庫を目指す。

9月のシチリア島。
気温は30度を少し下回る位か。 晴天が続き、湿度は低く、カラッとしている。 実に過ごしやすい。

「・・・大変ですね、中尉。 いつもこう言った交渉事、やっていませんか?」

運転しながら、笑っていいのか、呆れていいのか。 そんな微妙な表情でラティオ少尉が話しかける。

「正直、得意と言う訳じゃないんだけどさ。 俺がやらなきゃ、部隊が腹ぺこで動かなくなっちまうよ。 はぁ・・・」

「ははっ! 確かに、主計将校向きじゃ、ないかもしれませんねぇ、中尉は。
でも、結構良くやってられますよ。 実際、野戦将校の中には主計―――いや、兵站業務を軽視する人も少なくないですよ」

「それは只の馬鹿。 ついでに、頼めばほいっと、補給が来ると思っているのも、大馬鹿。
兵站―――ロディスティックってのは、突き詰めれば国家規模の生産・流通管理計画なんだし。
現地部隊の補給業務は、人体で言ってみれば、毛細血管程度なんだしね」

ん? ラティオ少尉が、感心したような表情だ・・・

「へぇ~~・・・ 良く理解していますよね? 普通、訓練校じゃそこまでの兵站教育はしませんよ? いや、士官学校でもそうだ。
今、中尉が話した内容―――そう言う認識は、主計将校の上級幕僚課程での教育内容ですよ?」

「その割には、少尉は理解しているね?」

「自分は、大学で経営工学を専攻していました。 生産流通管理は、卒業論文のテーマでしたし」

ああ、成程。 確か彼は、大学卒で軍に入隊した、幹部主計将校だったな。

「僕も、別段大した理由じゃない。 受け売りさ、兄のね」

「お兄さんの?」

「うん。 兄が、日本帝国海軍の主計大尉でね。 確か、上級幕僚課程の一環で、帝国大学の経済学部に聴講生として参加していた筈だ。
その兄と以前飲んだ時に、やたらと愚痴られてね。 兵站を理解しない大馬鹿が多くて困るって・・・」

いや、本当に。 あの時の兄貴には、参った。
陸軍に比べると、まだしもアカデミックと言われる海軍でも、内実は似た様なものなのかな?
国連軍に出向になって、外から古巣を見るに。 やはり帝国軍はこの『兵站』を軽視しがちな所は、今も昔も変わらない気がする。
昔の事は、話でしか知らないが。 少なくとも国連軍や、欧州各国軍と比較すると。 やはり兵站軽視の傾向が有る。
ましてや、世界中どんな場所にさえ『アメリカ』を造る米軍など、最早別世界の存在だ。

そんな感想を話すと、ラティオ少尉が微妙な顔をする。

「いや。 欧州連合軍も、誉められたモノではありませんよ?
実際、海外展開能力―――兵站を含めて―――を有しているのは、英国だけです。
ドイツは、潜在能力は有りますが、経験が乏しい。 戦闘能力は、頼もしいですが。
フランスは、未だ海外県なんかを有していますが、何を考えているのやら・・・
スペインや、我がイタリアは・・・ 推して知るべし、です。
実際、今行っている補給船団。 この兵站計画だって、主導しているのは英国と国連軍―――合衆国軍の兵站部署の合作ですし」

「兵站が上手くいって、負けた戦は有るが。 兵站が上手くいかなくて、勝った戦は無い、か。
アメリカの頭が高くなる訳だ。 もっとも、あの企画力・調査力と計画能力、実行能力は驚嘆に値するけどね」

「だからでしょう。 『パクス・アメリカーナ』 腹の立つ言葉ですが、真実でも有ります」


そろそろ、埠頭が見えてきた。
岸壁には横付けされた船団が多数。 クレーンで大量の物資を吐き出している。

確かにこの光景。 
いつ、どこで、誰が、何を、どの位必要としているか。
それを正確に把握し、生産計画に組み込み(当然、輸出入にも、国家予算にも関わる)、
実際に大量生産を行い(品質管理も行った上で)、流通計画を十全に組上げ、実際に輸送し、補給する。
政府と、各産業界、そして軍部。 それを底辺で支える市民層。
米国が背後に居れば、少なくとも兵站に関しての心配は激減する。 BETAとの正面戦闘―――戦略、戦術両面―――に専念できる。

逆にその庇護を失えば?
駄目だ。 米国以外の国は、保たない。
単独で、ここまでの兵站を為し得る国家は、あの国以外にはこの地球上には存在しない。

「・・・本音を言えば、アメリカと言う国は虫が好かない。 けど、アメリカと決別して成り立てる国が無い事も、事実だな」

「ええ。 理想論は現実逃避か、愚者の戯言ですよ、今の時代。
気に喰わなくとも、どうしようとも。 生き延びなきゃならないんですから、人類は。
その為なら、例え嫌な相手でも。 靴の底だって舐めてやりますよ。 ―――ぶん殴るのは、全てが終わってからだ」

高機動車両が、岸壁脇の倉庫の一つの前で停車する。
ただただ、馬鹿でっかいだけの、味気無い建物だ。 だが、この中の物資は俺達が戦う上で、何物にも代えがたい価値が有る。

「こちらです。 1個中隊分の戦術機の兵装装備と、機体の補充部品一式です。 ―――おおいっ! マルコ! 僕だ、アルフォンソだ!
頼んでいたヤツ、届いたんだろう?」

倉庫の中で、クリップボードと現物を確認しながら、部下に指示を出していた主計将校―――主計少尉だった―――が、振り向く。

「ああ、アルフォンソ。 ああ、確かに届いたよ。 第88大隊分遣隊。 こっちがそうだ。
ああ、中尉もご一緒でしたか。 じゃ、手間が省ける。 確認お願いします」

マルコ―――マルコ・エンツィオ主計少尉から渡された書類の束に目をやる。
一応、表紙には物資の概略が纏めてあるが。 やはり確実に一つ一つ確認する必要がある。

なんやかんやで、確認作業が終了したのは1時間後だった。
さして空調の効いていない倉庫内の事なので、かなり汗をかく。
倉庫脇の主計事務所で受領書にサインをし、輸送隊に搭載指示を出して仕事が完了。

「ご苦労様です」

マルコがレモネードを持ってきてくれた。 一口飲んで、息をつく。 この地中海の残暑の中では、実に美味い。

「1430か・・・ 中途半端な時間だな。 訓練しようにも、今からだとなぁ・・・」

「あれ? 訓練するんですか?」

アルフォンソが、おかしなことを言う、そんな表情で首を傾げる。

「ん? なんで? 変かな?」

「いえ・・・ さっき、シェールソン中尉と、ヴァレンティ中尉が。 2人連れ立って『ビーチ』の方まで・・・ 水着姿でしたよ?」

「・・・はぁ!?」

あ、あの2人・・・!!

「ああ、そう言えば。 昼過ぎかな? 他に何人か・・・ 
確か、パブロヴナ少尉に、リューネベルク少尉とオナスィ少尉・・・ ああ、グエルフィ少尉も居たかな?
彼女達も、『ビーチ』の方に行っていましたよ? 今日は休業日じゃなかったんですか?」

『ビーチ』と言うのは、文字通り砂浜だが。 軍港に程近い所に、ちょっとした砂浜が有って。
休業日には皆、よくここまで泳ぎにくる。
それ自体は別に良い。 そこまでどうこう言わないし、俺だって1,2度足を運んで、のんびりした事が有る。

―――っが! 断じて、本日は休業日では無いっ!!

確かに、訓練入れてはいない。 が、各自が機体の整備や、自主訓練を行う半課業日に指定していた筈だ。 羽目を外す日では、断じてないっ!!

「・・・そうか。 うん、良い事を教えてくれた。 感謝するよ、ラティオ少尉、エンツィオ少尉。 ―――俺はこれで失礼するっ!!」

―――あンの、はっちゃけ娘どもめぇ!! しかも! よりによって、中尉2人も一緒とはっ!! 断じて、許すまじっ!!









「・・・何か。 周防中尉、血相変えて出て行ったけど?」

「・・・見なかった事にしよう、アルフォンソ。 
でもどうせ、シェールソン中尉にヴァレンティ中尉が相手じゃ・・・ 口では勝てないよ、周防中尉・・・」

「そうだね。 ああ、マルコ。 君が前に言っていた書籍、手に入ったよ・・・」









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