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No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
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[7678] 外伝 海軍戦術機秘話~序~
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/07/13 02:52
1994年7月某日 夜 横須賀 料亭「小松」


「・・・わっからん奴だなぁ、貴様もっ! 大体、海軍の戦術機にそんな、極端な格闘戦性能なんか、必要あるかっ!」

「解って無いのは、貴様の方でしょう! それじゃ、只のミサイルキャリアーよっ!
第一、戦場が必ずしも戦域制圧任務だけとは、限らないっ!」

―――またか。

言い争いを始めた2人を、残りの者が些かうんざりと、そして呆れたような、半分以上諦めた表情で眺める。
ある者は酒杯を手に取り、隣の者と乾杯しつつ飲み干し。
ある者は中断した雑談を再開する。
皆判っているのだ。 この2人の仲が悪いわけでも、また、己が専門の職制の将来を憂えている事も。
些細な立場の違いから、今こうして口論してはいるが。 実際、この2人は海兵(海軍兵学校)以来の親友同士であるという事も。


「はんっ! そんな状況、極々限定された状況じゃないかっ! 大体、母艦戦術機甲部隊の投入場面じゃ無いさっ!」

「貴様っ! 私達の任務を軽視する気っ!?」

―――流石に、そろそろ拙いか?

皆がそう思い始めた時。

「長嶺、白根。 貴様ら、大概にしておけよ。 大体、今夜は戦術機論議に集まった訳ではあるまい?
久々のクラス会(同期会)だ。 思う処はあるだろうけど、次の機会にしよう」

「むぅ・・・」

「まぁ、宮野。 貴様がそう言うのなら・・・」

宮野慶次郎少佐の一声に、それまで言い争っていた二人、長嶺公子少佐と、白根斐乃少佐が、気まずそうに矛を収める。
熱血タイプの長嶺少佐とは違い、常日頃冷静で柔和な白根少佐が、ここまで激する事は珍しいのだが。

しかしながら、クラスで屈指の人格者でもある宮野少佐に諭されれば、流石にこれ以上我を忘れるのも、気恥ずかしい事だ。

今夜、この横須賀の海軍御用達の料亭「小松」では。 
横須賀鎮守府所属艦、乃至、横須賀入港中の艦に乗り組む、海兵111期のささやかなクラス会が開かれていた。

帝国海軍兵学校 第111期。 1983年入校。 1987年卒業。 海軍機関学校第92期、海軍経理学校第72期と同期(コレスポンド)に当たる。
階級は、最古参の大尉から、1年目の少佐まで。 
部隊において、大型艦の科長や飛行隊長、分隊長。 中型艦の副長。 小型艦の艦長。 海軍の中核を担う世代であった。


「・・・今更愚痴っても、しょうがないのは判っているのよ。 でもね、何時までも『翔鶴』(F-4EJⅡ)じゃね。
所詮、第1世代機の改修機。 速度も、パワーも、攻撃力も。 何もかも、不足しているのよ・・・
新型が有れば。 山田だって、遼東半島でむざむざ死にはしなかった・・・」

山田昌美少佐。 戦死した時は大尉だった。 彼らの期友で、昨年9月の『九-六作戦』支援時に、遼東湾上空で戦死している。

「おい、何も戦術機の性能が全てでは無かろう? 山田の事は残念だ。 だが、あの時は光線属種の出現位置が、全くツイていなかった。
それは貴様も、攻撃隊指揮官だった千早さん(千早孝美少佐。海兵108期)も認識しとるだろう。
俺は『安芸』(戦艦)の高射長だったから、高射指揮所からは良く見えたが。 あのBETAの位置では、戦術機部隊の損害が増えても致し方あるまい」

岩佐直春少佐が、長嶺少佐の盃に酒を注ぎつつ、苦言する。

「岩佐ぁ~・・・ 貴様ぁ・・・ そうだけどさぁ・・・」

「それに、もうじき㊄計画の実施検討会も詰めを迎える。 その為に、技術実証機視察団が来月にも欧州へ派遣されるのでしょう?
海軍からは、淵田さん(淵田三津夫中佐。海兵97期)と、千早さんか。 
欧州の第3世代機。 次の海軍次期戦術機計画(NTSF:Naval Tactical Surface Fighter)、加速するのじゃないかしら?」

横合いから、徳河照子少佐が口を挟む。 
元々、幕府の主宰者たる武家の棟梁家だったが、大政奉還の際に現在の五摂家によって、元枢府から弾き出された徳河公爵家の孫娘だ。
その様な背景の家系の出身故か。 第一級の武家の出とはいえ、斯衛とは非常に折り合いが悪い。


―――㊄計画。

正式名を『照和六八年度 海軍第一五次拡張計画』

今次BETA大戦に於いて、大陸の戦火が日増しに激化するに及び、陸海軍ともに更なる軍拡計画を策定。
昨年度、1993年度政府臨時補正予算に、ねじ込む形で成立した。
その中には、旧式化が憂慮されていた、海軍戦術機開発計画『NTSF計画』も含まれていた。


「うん。 淵田さんと千早さんは、来週早々にも渡欧する様ね。 他にも、陸軍やメーカーの人間も一緒だそうだけど」

「白根、貴様も志願したのだろう? 撥ねられたか?」

宮野少佐が、面白そうに酒杯を仰ぎながら聞いてくる。

「宮野。 貴様も意地が悪くなったのじゃない? ええ、ええ。 撥ねられましたとも。 小福田さん(小福田巳継少佐 海兵105期)にねっ!
『飛行隊長が抜けては、部隊指揮はどうするんだい?』 って。 そう言われては、何も言えないわよ」

「ま、精々楽しみにするわよ。 世界の情勢は最早第3世代機。 帝国海軍としても、何時までも第1世代機で、甘んじる訳にもいかないでしょうし?」

長嶺少佐の言葉に、皆『全くだ』とばかりに頷く。
ここにいる5人中、戦艦乗りの岩佐少佐と、潜水母艦乗りの徳河少佐を除く3人が、戦術機乗りだったのだ。









≪同刻 「小松」別室≫


「・・・何やら、若い者が賑やかだね」

「ああ・・・ そう言えば、柳本君(第3航空艦隊司令長官)のところの若いのが。
あと数人、少佐連中がメーターを上げて(※『気焔を上げる』の海軍隠語)おりましたな」

「次期戦術機か。 あれも、愁眉ですな」

3人の提督―――海軍大将が2人に、海軍中将が1人―――酒杯を交わしている。
いずれも長年、海の名将、勇将として名を馳せてきた古強者の雰囲気を醸し出している。


「ところで、小澤君。 ㊄計画、海軍側の調整はついたのかい?」

禿頭の海軍大将が、大柄な一方の大将に酒を酌みながら聞く。
その割に、自身は酒を飲んでいない。 酒杯に茶を入れて、ちびちびと飲んでいるのだ。
―――この御仁、全くの下戸である。 酒は一滴も飲めない。


「・・・正直、難航しておりますな。 高橋さん(高橋望海軍大将。海兵83期。軍事参議官)や、南雲さん(南雲忠次海軍大将。海兵83期。軍事参議官)が元気だ。
クラスの大河内(大河内伝蔵海軍中将。海兵84期)、高須(高須二三郎海軍中将・海兵84期)なんかも、色々とやっとります」

聯合艦隊(GF)司令長官・小澤治郎海軍大将が、所謂『大艦巨砲主義者=艦隊派』の名を挙げて嘆息する。

「これについては、井上さん(井上茂美海軍大将 海兵84期。 軍令部総長)も、苦慮されていますよ。
何せ、裏には宮様(賀陽宮紀仁親王・海軍元帥)がいる。 そして、それの裏で、こそこそしている五摂家がいる」

苦々しげに答えるのは、第1航空艦隊(1AF)司令長官の、山口右近海軍中将(海兵87期)。
海軍部内に於いて、最初期から戦術機甲戦力の充実を唱え続けてきた『母艦派』に属する。

「まぁ、そっちは私の方から何とか手を回すよ。 
正直、御隠居した宮様や、海軍とは折り合いの悪い五摂家にまで口を出されるのは、些か以上に業腹だしね」

統合軍令本部長・高野五十六海軍大将が迫力のある笑みで答える。


「米内さん(米内光孝国防大臣)や、堀(堀貞吉海軍大将 日中韓統合軍・帝国代表部代表)も。 
こちらの支持に動いてくれる確約は取った。 後は、小煩い『艦隊派』の根源を、黙らせるしかないね」

「ま、五摂家と言っても。 裏で絵図を描いているのは、斑鳩に崇司。
九條は代替わりしたばかりの小娘ですし、斉御司は余り海軍、いや、国防軍には関わらない。 
煌武院の分家筋が、煩いと言えば、煩いですがね」

「煌武院の分家筋? 山口君、どこの家だ?」

「月詠の隠居と、御剣の二男筋の家ですよ。 どうも、政威大将軍とやらは自分の身内をすら、抑制出来ない程に腑抜けたらしいですな。
斑鳩と崇司、この2家と共に、耄碌した宮様を担ぎ出してきている」

「・・・失われた、海軍への影響力を再び、かい?」

「小澤さん。 元々、五摂家に海軍への影響力なんて、ありゃしない。
元々でさえ、自分たちの持ち分は少なかったんだ。 今更、ちょっかい出さないで欲しいですよ」

山口中将の言い様は正しかった。
全ては130年近く昔に遡る。



1867年の大政奉還。 その直後の元枢府設置。
 
この当時、1870年代までの帝国の「軍事力」は、陸上戦力は五摂家の私兵(旧藩兵)を中核とする「鎮台軍」であった。

そして、旧幕府当時に各藩が所有した「近代艦艇」は。 全て「奉上」という形で、兵部省(後に陸・海軍省に分化)が一括して管理した。
この艦艇群は、寧ろ非主流派の大名家が保有する艦が多く、その乗員も非主流派武家の出身者が大半を占めた。

その後、1880年代に入り、各地で群発する士族反乱では、「鎮台軍」のみでは足らず。 平民層からの常集が常となった。
そして海軍に至っては、「第一次海軍近代化計画」を策定する。

これは旧幕臣であり、幕府海軍の生みの親で、そして新生帝国海軍の長老でもあった、勝芳舟翁(勝義安伯爵 参議兼海軍卿)が、強力に推し進めたものであった。
この結果、艦艇の近代化と並行し、摂家の影響力を除く―――五摂家筋の人員整理を強行した。

この為に、国家予算を掌握していた五摂家からの報復として、艦艇改修・調達予算の大幅削減という憂き目をみるが。

ここで出てきたのが、皇主(皇帝)家であった。

既に1000年以上昔に、現実政治の実権を武家に握られていたとはいえ。
上代(古代)より連綿と続くその神秘性は、高々300年程度の歴史しか持たぬ、五摂家の及ぶ所では無かった。
(それに、五摂家にしてもその出自は、初代は流浪の野武士か、地方の小地主=武装農民の長程度だ)


皇主(皇帝)家、及びその藩屛である公家衆(公家貴族)は、五摂家及び武家貴族に対する反発から。
皇室予算の大幅削減と、公家貴族への下賜金の削減。 そして宮内省を含む官吏の俸級(給料)削減。
この3本柱でもって、浮いた予算を海軍へ与えたのだ。

これにより、海軍の艦艇近代化は成し得た。
(この結果が、1895年の日清戦争に於ける、常備艦隊(後の聯合艦隊)大勝利の遠因になる。
また、宮内省の一部局であった城内局の独立と、城内省への昇格の原因の1つでもある)

そして、海軍はその成立から心情的に傾いていた、皇室への尊崇を高めると共に、皇室もまた、海軍への無形の支持を明確にした。
(皇室筋の宮家が軍歴に入る場合、その多くは海軍軍人となる通例は、この時に出来た)


決定的だったのは1905年の日露戦争。

陸軍は変わらず五摂家が支配する『準私兵』集団だった(部隊編成権を掌握していた)
緒戦期こそ快進撃を続けたものの。 中部満洲の一大会戦(奉天会戦)で、ロシア帝国軍に散々に打ち破られた。(戦死者数が、日清戦争の数倍に上った)
幸い、ロシア国内情勢(革命の火種が各所で上がっていた)の為、勝利はしたが、撤退したロシア軍に『助けられた』陸軍=五摂家の威信は、地に落ちた。

そして反対に『日本海海戦』で聯合艦隊が、ジノヴィード・ニコラエヴィチ・ロジェストヴェンスキー中将率いる、ロシア・バルチック艦隊を撃破した。

この陸軍、海軍の戦果の差と。 

翌々年に皇主(皇帝)が出した『万民輔弼勅令』―――平民の、広範囲な自由を保障した、『四民平等』の宣旨
これによって、国民の支持は海軍=皇室に寄った。


「摂家は元々、海軍とは相容れない存在だ。 しかしどうして、今更・・・」

「予算でしょう。 先の第一五次計画では、随分と斯衛に回す分を毟り取りましたしね。
お陰で連中、『瑞鶴』に代わる次期戦術機開発を数年、先延ばしせざるを得なくなった」

山本大将の疑問に、小澤GF長官が答える。

「動いているのは、寧ろ城内省と斯衛軍かい? 
いやいや。 連中だって、海軍を向こう回しの喧嘩は、無駄だと判っているはずだよ?」

「・・・こちらの戦術機開発に付いてきているメーカー。 河西に石河嶋、九州航空に愛知飛空。
このどれか、あるいは複数社。 自分たちの懐に抱きこもうという腹なのでは?
実際、この4社には頻繁に、城内省の担当官が連絡を取りたがっている節があります」

「・・・声をかけていたのは、富嶽と遠田じゃないのかね?」

「富嶽は94式の後始末で忙しいでしょうし。 遠田はあれでなかなか、権威には屈しない社風ですから。
ま、あわよくば、と言ったところでしょうが。 それにしても、ちょっかいを入れられるのは、勘弁ですな」

山口1AF長官が、苦々しげに答える。


「判った。 摂家筋のちょっかいは、僕が何とかしよう。
なに、情報省にはその為に飼い馴らしている者が居る。 ちょっとばかり、キツイお灸をしてやれば、公爵様方は音を上げるよ」


小澤大将と、山口中将が思わず顔を見合わせる。

―――この人は。 ギャンブラーなんだが、実際は下手だからな・・・


(後で、米内さん(国防相)か井上さん(軍令部総長)辺りに、話しておかないと拙いな・・)

山口中将は、頼りにはなるが、反面付き合いにくい大先輩達の顔を思い浮かべ、嘆息した。








1994年8月上旬。 
斑鳩家当主が急な代替わりを発表した。 そして崇司家もまた、城内省政務次官職を辞職する旨の発表が有った。

その翌々日には、隠居していた有力武家の一家、月詠家の先代が急死している。












1994年8月10日 シチリア島 タオルミーナ


「おお! 地獄や、地獄やって聞いとったさかい。 どんなトコやと思ったら。
こりゃ、風光明媚なトコロやないか? なぁ、千早君よ」

「ええ。 正直、未だここまで自然が残っているとは・・・ この自然も、欧州連合軍の奮戦の証ですわね」

「せやな。 ほな、まぁ。 折角の特等席の見物や。 精々、楽しませて貰うで」

「予定では一ヶ月後位に、なりそうとのことですよ」

「んじゃ、それまではバカンスやな・・・」





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