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No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
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[7678] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/08/13 22:32
1995年3月10日 副帝都・東京 霞が関 帝国海軍軍令部本庁舎


「では。 正式採用は1号機・・・ 河西・愛知の機体と言う事になるのだね?」

第2部長、松永中将が書類を眺めながら確認する。

「はい。 未だ詳細は詰めねばならない個所は有りますが。 基本方針は決定しました。本日中に各社へ伝達します」

計画が立ち上がってから、約2年。 異例の速度での開発だった。
お陰で海軍は、新たな刃を手に入れる事が出来るが。 しかし各所の小さな問題点を潰してからだ。 恐らく、実戦配備は来年の春先位になるだろうな。

「判った。 2部としては承認するよ。 総長と、統本(統合軍令本部)には、こちらから報告しよう。 ご苦労だった」

「はっ では、失礼します」


部長室を出た厳田大佐は、採用決定に至った経緯を思い返していた。

(要は。 どこまで独自判断で思い切るか、だな)

河西・愛知JVの試作95型-1号機が採用された大きな理由。 それは母艦派に対する配慮の結果だった。

「戦域制圧能力」と「近接戦能力」双方を両立させる為に、石河嶋・九州航空が選択したのは。
大出力主機と跳躍ユニットの採用。 そして、高機動力を得る為の、可変翼システムの採用。 そして誘導弾搭載能力も同時に付加した為の、機体の大型化。

継戦能力は、最終的に外部増加タンクを増設する事で、戦域到達までの機体内タンクの消費を抑えて、『翔鶴』の90%までは確保していた。

機体制御能力は、帝国電機の開発した新型統合制御システム「TTSFCS-J/APG-3」を採用した。 最も、これは双方ともにだったが。
(光菱は、結局最後の最後で、不採用となった)

必要十分な能力だった。 だったが、1点で母艦派の『不興』を買った。 そう、機体の大型化だ。
全高で約23m。 現行の『翔鶴』が約18m 実に5mも高い。 そして、全体的にも『翔鶴』より大型化した。 

母艦派がこの点を指摘した。 

『母艦搭載機数が減るのは容認できない』、と。

確かにそうだ。 就役したばかりの大型戦術機母艦『大鳳』級や、『飛龍』級ならば、ある程度(60~70機程)は搭載できるだろうが。
中型正規母艦で有る『雲龍』級だと、現在の60機から、50機弱(46~48機との見積もりが出た)程に減少する。
兎に角、数を投入して一気に制圧攻撃を行う事が、母艦戦術機甲部隊の任務だ。
搭載機数の減少は、連中にとっては悪夢に等しい。


では、河西・愛知は? 
彼らは実に、思い切りが良かった。 良い意味でも、悪い意味でも。

『双方の仕様の両立が無理なら。 2種類作ればいい』

実際に、2機種を作ってきたのだ。
いや、本当は1機種だ。 基本となる『素機体』を作ったのち、オプションとして制圧機能か、近接機能か、どちらかの機能(後付けアタッチメント)を装着させる。
これで、『制圧機能と、近接機能の両立』 を強弁したのだ。

この2つの機能は、生産工場で付与する。 一度付与された場合、再度工場での換装作業で無いと変更は出来ない。
一見、面倒に思えるが。 元々は母艦戦術機部隊と、基地戦術機部隊の異なる要求が生み出した今回の開発仕様だ。
母艦搭載戦術機を、基地戦術機仕様に変更する可能性は限りなく低い。 逆もまたしかり。
ならば、最初から母艦用は母艦用。 基地用は基地用で出荷させれば良い。
2社はこう言い放った。

最初はあっけにとられ、次に怒号が渦巻いたが。 冷静に考えれば、頷けるところも多い。
何よりも、あの菊原とか言った河西の設計部長。 あの男の最後の一言が決め手だった。


『今回のこの機体。 最初から最後まで、同一工場での生産を行いません。
素機体生産を行う工場、制圧機能付加を行う工場、近接戦機能付加を行う工場、それぞれを分けます。
素機体は担当工場で、素機体のみの生産を一貫して行います。 
付加機能工場は、その機能アタッチメントの生産と、機能付加作業に専念します。 云わば、ブロック工法です。
これで、従来方式の単一工場での全行程一貫生産に比べて、2割から3割の生産数向上を見込みます』

当然、河西・愛知両社の複数の工場でそれを行うという。
最後まで、機能付加方式に抵抗の有った連中もいたが。 
この方式の結果、河西・愛知が開発した機体は、全高17.5mと。 『翔鶴』と然程変わらぬサイズに纏まっていた。

これならば、搭載機数の減少は起こらない。 まず、母艦派が折れた。
次に近接戦能力では、新型制御システムによる演算量・演算速度の向上によって、かなりの挙動制御が実現できた。
配備機数を確保出来るのならと、基地戦術機甲部隊も納得した。


機体の素質も、劣りはしなかった。
主機は、推力こそ石河嶋の主機に劣るが、第3世代機としては必要十分な能力を持つ。
欧州の傑作主機、RBBシリーズの流れを汲み、小型で推力も高く、燃費性能もよい。
継戦時間は、『翔鶴』の3割増しとなった。 これには母艦派、基地派問わず驚喜したものだ。

高機動性能は、推力偏向機構を腰部、肩部スラスターにも設けて実現している。 
最も、肩部スラスターは、制圧機能付加時には『塞がれて』使用できないが。 
それでも、従来の『翔鶴』に比べれば、別モノの機動性を発揮するし、陸軍の94式『不知火』には僅かに及ばない、と言った程度か。
無論、近接戦機能付加時の機動性能は、94式を上回ると評価された。

石河嶋・九州航空の機体と同様、帝国電機製の新型統合制御システム「TTSFCS-J/APG-3」を採用した事によって。
挙動制御のみならず、アビオニクス全般の能力向上を達成している(これは、石河嶋・九州航空も同様だったが)


(俺の隠れた理由は。 95式誘導弾システムを、搭載可能な兵装担架システムだったけどな)


従来の74式兵装担架システムでは、どうしても95式誘導弾システム(試作4型改2誘導弾の正式採用名称)の運用が無理だった。
石河嶋・九州航空は腰部スラスターの大型化、基数増加によって推力と機動性を確保すると同時に、F-14でのフェニックス・システムに似た方式を採用した。
専用のランチャーシステムを、ハードポイントとして取り付けたのだ。

対して、河西・愛知は独自の兵装担架システムを開発してのけた。
用途は95式誘導弾システム専用の兵装担架システムだが、1基当り9セルで9発を格納可能なミサイルコンテナユニット。 これを2基搭載可能とした。
発射時には伸縮展開式のアームによって、起立した状態で前方に指向させ発射する。

これは、ソ連軍が採用しているオーバーワード方式の兵装担架システム―――Б-87可動兵装担架システムを参考にしていた。

この結果。 陸軍戦術機で採用している92式多目的自律誘導弾システムを改良した、改弐型誘導弾システムとの干渉が無くなり、併用が可能となったのだ。
(兵装担架システムが、前面前方まで稼働する必要がない為だ)

新型の95式自律誘導弾兵装担架システム、そして92式改弐型多目的自律誘導弾システム(95式誘導弾仕様の為、改良を加えている。 水平発射セル方式で、弾数は9発に減少)
この2つの誘導弾システム。 計4基の誘導弾ユニットから一度に発射される誘導弾数は、実に36発。

フェニックスで換算しても、12発分の威力・制圧力を見込める計算が弾き出された。
(反面、それまでの74式兵装担架システムで搭載可能だった、予備の突撃砲や長刀の搭載は不可能。 M-88支援速射砲を装備する。
近接戦用の機体は、従来の74式兵装担架システムを搭載する)

戦域制圧戦術機としては、十分な能力だった。 無論、近接戦闘用戦術機としてもだ。


(まあ、石河嶋と九州航空の機体も。 あれはあれで、捨てがたい機体では有るのだがな)

その為に、今日は内々に4社の担当者を呼んである。
驚くだろうな、この話には。 だが、海軍、いや、帝国としては戦術機生産能力を有する会社を、遊ばせておく余裕はない。

応接室の前に辿り着く。 一呼吸して、ドアをノックする。

「―――いや、お待たせしましたな。 本日は、遠路ご苦労さまです―――」














1996年 4月10日 黄海 第1航空艦隊 戦術機母艦『飛龍』


搭乗開始の指令がかかる。
各衛士達は自らの『愛機』に駆け寄り、リフトでコクピットに乗り込んだ。

ハンガーからサイドリフト(舷側リフト)で飛行甲板に上げられる。
第1次攻撃隊の96式戦術歩行戦闘機 『流星(AB17-B)』 36機が次々に姿を現す。

長嶺公子少佐は、その様子を一瞬眺めた後、発艦ルーチンに集中し直す。
黄色いジャケットとヘルメットを被った誘導員が、誘導用の指示発光体を持って、左前方の方向へ指示を出す。

機体の左手で拳を作り、親指を上げてL字を作る。 そしてその掌を裏返して下に向け、左に2回振る。

誘導員はそれに、左の親指を立てて答える。 これでカタパルト上まで何の障害物も無い事が確認された。
機体をカタパルトに進める。


「まったくね。 母艦発艦の手間だけは、嫌になるよね」

操縦衛士でもある長嶺少佐が愚痴をこぼす。
何しろ、揺れる洋上から、陸上基地とは比べ物にならない程の細心の注意を払っての、発艦だ。

「隊長。 ぼやくのは良いですけど、失敗しないでくださいね?」

後席のRIO(兵器・索敵管制衛士)である、宮部雪子海軍中尉が呆れながら言い放つ。

「何よ? 宮部、アンタも言うようになったねぇ? 3年前の遼東半島じゃ、墜落して国連軍に救助された時には、大泣きしていたくせに」

「新任時代ですよっ! それに、初陣だったんですってばっ!」

「はいはい・・・ おっとぉ」

機体の両脚部を、カタパルトのシャトル頭部に繋ぐ。 これで機体は何時でも 『空中への投身自殺』 の準備がOKになった。

誘導員が指示発光体で別の誘導員を指し示す。 ここからは誘導役が入れ替わる。
緑色のジャケットとヘルメットの、発進関係兵装要員が数字の書かれたボードを指し示す。 発進時の機体重量だ。

「んっと・・・ 重量は・・・ OKね」

長嶺少佐が統合戦術情報システムで、その数字を確認。 同じ値が記されている事を確認し、機体の左手で親指を立てる。

網膜スクリーンに映った発艦管制指揮所の発艦管制将校から合図が入る。 右手でV字。 指2本と言う事は。

「スロットル、ミリタリー(常用定格推力)」

「ミリタリー、了解」

JBR(ジェット・ブラスト・リフレクター)が立つ。
2基のAK-F3-IHI-95Bが咆哮を上げる。
河西・愛知の主機に、石河嶋の血が混ざり合った、可変翼機構も取り入れたベスト・パワーユニットだ。
ドライで68.5KN、A/Bで125.5KN。 石河嶋の色が入った主機にしては大人しいが、それでも十分以上の推力だ。

推力がミリタリーまで上昇する。

「ミリタリー」

「ミリタリー、OK」

発艦管制将校から、発艦合図が出た。

「よぉしっ! いっくよ!!」

「お手柔らかにっ!!」

蒸気シリンダ内部を猛烈な勢いでピストンが走行する。 ピストンに連結されたシャトルが、繋げられた機体を同時に猛烈に加速させた。

後席の儚い要望を無視して、『流星』が一気に中空へと射出される。

後方スクリーンに目をやると、2番機以降の機体も逐次発艦態勢に入っている。 
いや、アングルデッキ上のカタパルトも、併用するようだ。 無茶をする。

ふと、1年前を思い出す。
次期主力戦術機の採用が決定したあの日。 後で聞いたところによると、「あの」厳田大佐が、またまた動いたそうだ。
河西・愛知の採用で基本は変更は無かったが。 修正個所や改善点の潰しと、今後の生産には石河嶋と九州航空を合わせて使いたい、と。

吃驚した事だろう。 何せ、競争相手と採用後に協力する事になったのだから。
石河嶋にせよ、九州航空にせよ。 内心は忸怩たるものがあっただろうけど、兎に角その条件を飲んだ。
彼らにしても、戦術機シェアでの「3番手グループ」に転落する事は避けたかったのだろう。

それに、河西・愛知の持つ低燃費主機開発のノウハウも。 喉から手が出るほど欲しかったに違いない。
河西・愛知も。 石河嶋の大出力主機のノウハウと。 九州航空の持つ、意外な索敵システム開発のノウハウを手に入れられるのだ。

結果として生み出されたこの主機。 採用試作時に石河嶋・九州航空の試作機が採用していた、可変翼機構を採用している。
お陰で「制圧戦術機」仕様でも、かなりの高機動性が確保出来ている。
「近接戦闘戦術機」仕様では、余りの高機動の為、中身(衛士)が追いつかない。 リミッターを設定した程だ。

ああ、あと。 海軍にしても、戦術機の生産数が一定レベルで確保出来ることは望ましい。

―――いや、それだけじゃなかったね。 確か、ブチさんが言っていたけど。 今回のこの主機。 陸サンの戦術機にも搭載予定だって。

確か、陸軍の92式弐型(F/A-92E/F)  石河嶋のFJ111-IHI-132シリーズを搭載していたけど。 いかんせん、燃費が悪いから。
随分と改善要求が出ていたらしい。 陸軍からも、海外のお客からも。

―――ふぅん? でも、陸サンに恩を売って、どうする気だろうね?

判らない。

―――まぁ、いいよ。 今は眼の前の戦場だね!

『極東絶対防衛線』が、ここ半月ばかり。 BETAの猛攻に晒されていたのだ。
一部では防衛線が破られていた。 海軍としては、主力の第1艦隊と第1航空艦隊を急派。
海上からの防衛線支援に乗り出したのだ。

―――3年前と同じ、遼東湾だけど・・・ あの時とはひと味も、ふた味も違うよっ!


『戦闘管制指揮所より、≪セイレーン≫、作戦戦域はB7R。 遼東の『魔女の大釜』だ。
全艦、発艦完了した。 第1次攻撃隊、144機。 陸軍の連中に楽をさせてやってくれ』

「了解。 ―――セイレーン・リーダーより攻撃隊各機! いくよっ! ついて来なっ!」

『『『 了解! 』』』

3人の飛行隊長から応答が入る。 第1次攻撃隊総指揮官―――4つの戦闘飛行隊の最先任指揮官である長嶺公子少佐は、その唱和に破顔する。

「よぉし! ≪セイレーン≫、突入開始! 『極東の水精』 の歌声は物騒だってこと! BETA共に叩き込んでやれっ!!」


4個戦闘飛行隊が各々のグループに分かれ、低空突撃に入る。
その動きはパワフルで有り、速度は速く、そして低空域での十分な安定性のある滑らかな動きだ。

各機体共に、背後の兵装担架に2基の誘導弾ランチャーポッド。 そして両肩にも誘導弾ユニットを装着していた。
その重量を感じさせない動きを示すが如く、跳躍ユニットから青白い焔が噴き出す。

海上を高度30で突っ切って突撃する144機の『流星』  やがて目標である陸地が視認出来た。


≪FAC『カットラス』よりセイレーン! 目標、B7R、座標S-55-22。 『魔女の大釜』です! 
現在、陸軍第14師団の1個連隊と204戦闘団(基地戦術機甲部隊)が支えている!
支援要請がひっきりなしだ! 頼みますっ!≫

「セイレーン、了解。 光線級は? 出張って来てるの?」

≪居る事は居ますが。 陸軍の重砲部隊と、第1艦隊の艦砲射撃の迎撃で。 連中、躍起になってます。
さっきから重金属雲が盛大に発生していますよ。―――と言う訳で。 戦域突入後は、通信利きませんから、お気をつけてっ!≫

「有り難くないねぇ・・・ よし! 各隊! 突入! 突入! 突入! 片っぱしから吹っ飛ばしてやりなさいよっ!!」

『『『 了解!! 』』』

更に高度を下げ、海面すれすれから、地表すれすれに移った『流星』、144機が前方のBETA群に向けて、猛速の超低空突撃を敢行する。

網膜スクリーンに映る風景が、猛烈なスピードで後方に吹っ飛んでいく。 感覚的には地表激突すれすれだ。

(~~~ッ!! これよっ! これっ! これが海軍戦術機の醍醐味ってヤツよっ!!)

後席のRIOが聞けば、必ずや異議を唱えるだろう感想を抱きつつ。 長嶺少佐は攻撃最終点に向けて部隊を吹っ飛ばさせる。
そして―――ファイナル・ポイント。

「全機! 急速上昇!」

高度100―――誘導弾兵装システム、起動。 95式ユニット起立。 92式弐型、カバーオープン。
高度200―――目標、同時ロックオン。 実に、同時24目標。
高度300―――逆噴射制動。 発射態勢、OK。

「全機――― 撃てぇ!!!」

144機から放たれた自律誘導弾―――実に、5184発(内62発が、不良でコントロール・アウト) 
この大量の自律誘導弾が一斉に前面に押し迫って来ていた、師団規模BETA群に殺到する。


「吹き飛べっ! BETA!!」







B7R、座標S-55-22 遼寧省 営口北東15km 帝国海軍第204戦術機甲戦闘団


目前に、師団級BETA群が迫る。
こちらの戦力は当面我々と、陸軍の14師団の141連隊。 その第2大隊だった。 都合、2個大隊規模。

「・・・洒落にならないわね」

突撃砲の120mm砲で要撃級を屠ったばかりの、204戦闘団先任指揮官・白根斐乃少佐は思わず愚痴ってしまう。
何時もの事だが、基地戦術機甲部隊はどうも、この手の貧乏クジを引かされ易い。
が、指揮官としては愚痴ってばかりもいられない。 陸軍部隊指揮官と、協同確認も必要だった。

「 ≪ヴァルキュリア≫より、≪ゲイヴォルグ≫ 北方からの1群に対応願う。 西方の1群はこちらで引き受ける!」

『こちらゲイヴォルグ。 ヴァルキュリア、了解した。 突破されるなよ? 背中が丸空きだと、どうにも寒くて仕方がないからな?』

「そちらこそ、押され込まないでよ? 期待しているのだから。 『満洲の女帝』?」

『・・・その呼び名で呼ばれる度に。 年をとっていく気がするのだ。 出来れば遠慮して欲しいな・・・』

「男が寄ってこない?」

『私は、これでも人妻だが? 子供も産んだぞ?』

「ッ!? ッ!!? ッ!!!?」

―――あ、あの『満洲の女帝』がっ! 人妻!? どこの誰だ!? そんなモノ好きは!!? それに、子持ち!? 母親衛士!!?


『・・・何を驚いているのか、大体分かるのが業腹だが・・・ そろそろ、そちらの制圧支援機が来るのではないか?
またぞろ、巻き込まれかけるのは御免だな。 どうなのだ?』

一瞬の茫然自失。 しかしそこは、彼女とて歴戦の指揮官。 即座に立ち直り、FACに確認する。

「―――ん、判った。 攻撃タイミングは、こちらにもデータリンクしてくれ。
ああ―――そうだ。 陸軍にもな。 頼む」

後数分で到達予定―――その連絡を陸軍指揮官に入れる。

―――では。 その数分、何としても保たさねばな。

そう言って、陸軍指揮官が通信をアウトする。


(保たす? いいえ、逆に押し返してやるわ)

我々も、ようやくの事で新たな刃を手に入れた。 この『流星(AB17-A)』を。
もう、陸軍の後塵は拝さないわよ。









「い~~~~っやっほぉうっ!!!!」

陽気な雄叫びと同時に、長刀で要撃級の後部胴体を叩き斬る。 
同時に垂直軸旋回で、迫ってきたもう一体の要撃級の攻撃を回避。 その遠心力を利して長刀を叩き込む。
2体を葬った後、即座に後進噴射跳躍で距離を稼ぐ。

「やっぱりいいわぁ! 新型は流石ねッ!!」

204戦闘団・第252戦闘飛行隊第2中隊第2小隊長、菅野直海中尉は、大変にご機嫌だった。
何しろ、これまで搭乗していた『翔鶴』は。 どちらかと言えば一撃離脱を重視した戦術機。 彼女の感性にはなかなか、合わなかったのだ。

―――それが、どうなのよ、この機体ッ! ああ、もう! 最ッ高!!

思う存分、『流星(AB17-A)』を振り回す。
突撃級の群れに向かって、地表面噴射滑走で急速接近。 衝突直前で、左右の主機出力バランスを崩し、スピン・アウトを利用しながらの急速旋回移動。
即座に群れの中へ飛び込み、左右の突撃砲から36mmを撒き散らしながら一気に群れの中を脱出する。
迫りくる要撃級の目前で噴射跳躍。 飛び越しざま、上方から120mmを叩き込んで始末する。

―――イメージ通りに動くっ! 

嬉しくて、しようがない。


『・・・小隊長、本当にご機嫌ですね・・・』

4番機の田村恒夏少尉が茫然とつぶやく。 訓練校卒業したての、年若い新任衛士だ。

『貴様は、いきなり『流星』だからねぇ。 前の『翔鶴』を知る身としては・・・ 小躍りもしたくなるわ』

3番機の杉田庄子少尉が応じる。 まだ2年目の少尉だが、その驚異的な技量は海軍中に知られている。

『田村、ぼさっとしない。 杉田、小隊長のエレメントの貴様が、そこで何をさぼっているの?』

2番機・武藤可南子中尉が叱責する。 こちらは・・・ 訓練校上がりながら、『海軍戦術機甲部隊の至宝』とさえ言われる、トップエースだ。

『うはっ! はいはい・・・ 隊長! そんなに、はしゃがないでっ! 部下を置いてけぼりにして、どうするんですかぁ!?』

何とも、間の抜けた会話だが。 その会話の間に、杉田少尉は突撃砲の射撃で、要撃級を2体と、突撃級を1体屠っているのだ。


「あん? 杉田! 遅い! 何やってるっ!」

『って・・・ 隊長が勝手に飛び出したんでしょうに・・・ とはっ!!』

咄嗟に、横合いから突っ込んできた要撃級の前腕を交わす。 かわしながら、側面へ高速噴射移動して、120mmを叩き込んで始末する。

『でも・・・ 数が多いですよ! ウチの中隊だけじゃ、この戦区の面倒見きれないんじゃ!?』

「ウダウダ言わない! ・・・でも、正直、厳しいわね。 中隊長?」

『こちら、ウンディーネ01。 菅野、前に出すぎよ。 側面から陸軍の1個中隊が支援に入るわ。 協同しなさい』

中隊長の鴛淵貴那大尉から連絡が入る。

「陸軍~~? 足手纏いだけは、勘弁ですよ・・・?」

思わず、不満を漏らしたその時。


『足手纏いにならないでね? 海軍の衛士さん? 92年からここで『遊んで』いる身としては、心配で、心配で。 仕方がないわ』

見ると、陸軍の戦術機部隊が急速接近している。 92式弐型『疾風弐型』の1個中隊だった。

(ふん。 所詮、準第3世代機じゃない? 正真正銘の第3世代機の実力、見せてやるわよっ!)

思わず、気合が入る。 ここで陸軍相手に、下手な姿は晒せない。

『陸軍部隊。 ウンディーネ01、鴛淵貴那大尉です。 協同感謝します』

『こちら、セラフィム01。 141連隊第2大隊第22中隊、綾森祥子大尉。 右側面突破は、こちらが引き受けますわ』

『了解です、セラフィム。 菅野! 聞いての通りよ! こっちは正面突破! 林(林喜代中尉。 第3小隊長)! 菅野の突破に続行!』
「了解です!」 『了解』

『美園、第2小隊は突破戦闘! 仁科、第3は第1とで側面を固める! いくわよ!』
『了解! 突撃前衛! 続けっ!』 『第3! 第2が突っ込んだら、即、支援攻撃! 制圧支援、開始っ!』


2個中隊が、2方向から同時攻撃をかける。
BETA群が、各々の方向につられて統制を失う。

「よぉしっ! このまま・・・ 『ヴァルキュリアより全機! 母艦戦術機部隊の制圧攻撃が始まる! 緊急後退!』 ・・・げっ!?」

『ゲイヴォルグより各中隊! 至急! 300下がれっ! 通り魔に犯されるぞッ!』

『・・・冗談じゃないわね。 美園! 仁科! 戦闘即時中止! 緊急後退!』

『『 了解!! 』』

陸軍部隊が、鮮やかな統制で一瞬にして、後退防御陣形に組み直して後退する。


「うわっ! 早っ・・・ 『何しているの! こっちも緊急後退!』 ・・・了解! 武藤! 杉田! 田村!」

『了解!』 『もう、後退してまぁすっ!』 『りょ、了解ですっ!』

・・・杉田の一言が気に障ったが、まあいい。
途端に、南方から超低空で突進してくる『流星』を視認する。 100機以上いる。

『うわぁ~・・・ こりゃまた、全力出撃だわ』
『でないと、戦域制圧できないでしょ』
『は、初めて見ます・・・』

いきなり上昇を開始した。 と思った次の瞬間、(感覚的には)無数の誘導弾が発射される。
BETA群に一気に向かって―――炸裂した。

「―――ッ!!」

サーモバリックの衝撃波が、ここまで伝わってくる。 
1発、1発の威力はそうではないものの。 これが数千発同時に着弾すれば、どうなるか・・・

『・・・相変わらず、無節操な程の威力ね。 最も、頼もしい事は確かですけど』

『綾森大尉は、制圧支援の経験が有るとか?』

『94年に。 今思えば、あれの試験発射だったのでしょうね』

『成程・・・ 流石は、古参の猛者。 共闘出来て光栄です』

『・・・こちらこそ。 では、そろそろ行きますか?』

『ええ。粗方は片付いているようですけど。 戦場掃除も必要ですね。 ―――林、菅野。 最後の仕上げだっ 行くぞっ!』

12機の『流星』が、跳躍ユニットに焔をたなびかせ、NOEを開始する。


『・・・古参って。 私、そんな年じゃないわよ・・・』

『まぁ、まぁ、中隊長。 どんな年になったって。 ちゃんと恋人がいれば』
『そうそう。 あ、やっぱり早く帰って来て欲しいとか?』

2人の部下の小隊長達。 第2小隊長の美園杏中尉と、第3小隊長の仁科葉月中尉が独り言を聞きつけ、さっそく冷やかしに入る。
中隊の他の部下達からは・・・ 

『え? 中隊長の恋人?』 『誰? 誰? 知ってる?』 『知らない。 聞いた事ないよ?』

―――こ、こいつらはぁ・・・!!

『美園! 無駄口叩いてないで、さっさと吶喊しなさいっ! 仁科! 側面支援はっ!? 中隊! さっさと突撃よっ!!』













1996年4月25日 副帝都・東京 市ヶ谷 統合軍令本部第弐会議室


2人の高級将校が向かい合っている。
1人は海軍大佐。 1人は陸軍中佐だった。

「いや、ご足労をかけるね、巌谷中佐」

第1部2課長、周防直邦大佐が傍らの陸軍中佐に着座を進める。

「いえ。 しかし本日はまた、何用で? 大佐は作戦局の1部。 私は陸軍技術廠。 正直、見えませんな」

「はは、結構正直に言うね、君も。 何、君の専門に関して言付かっていてね」

「と、言いますと?」

巌谷中佐が、訝しげな表情で周防大佐を見る。

「海軍の新型戦術機用の主機。 ええと、確か・・・ AK-F3-IHI-95Bだったかね、『流星』に積んである。
あれの、海軍・陸軍共同使用が決定したよ。 まぁ、元々作っているメーカーが同じなんだ。 少しの工夫で搭載可能だったらしいね」

「・・・マッチングの問題も有りますから、一概には言えませんが」

「うん? そうらしいね。 でもまぁ、今回は見事に『相性が良かった』と。 そう言う事だね。 
これでそちらも、随分と楽になるのではないかな?」

「確かに。 その報告は、河惣少佐(河惣巽少佐。 96年1月より技術開発廠)より報告が。
―――大佐、そろそろ腹を割りませんか? 正直申しまして、不愉快ですな」


さも不機嫌そうな表情の巌谷中佐を、周防大佐が面白そうに見る。

―――この男。 斯衛出身の武家筋の陸軍軍人にしちゃ、なかなかの演技派じゃないか?


建前だけで生きているような武家や斯衛は、彼自身嫌いだし。
『用意周到、動脈硬化』 と揶揄される陸軍の石頭も、嫌いだった。
(最も。 海軍は 『伝統墨守、唯我独尊』 と言われる。 戦術機甲部隊は陸海問わず、『勇猛果敢、支離滅裂』 だ)

だが、目前の男は。 少なくとも話は出来そうだ。 
でなくば、斯衛からの逆転籍をして、82式『瑞鶴』の開発衛士として、米軍を手玉に取る様な真似はできんか。


「・・・君は。 『新国粋主義』。 どう思うかね?」

「生憎と。 私は一介の武人です。 国家の命に従うまで。 
思想は自由たれ、と考えますが。 それを強要するは、愚の骨頂かと」

「やれやれ、警戒されたな。 じゃ、腹を割ろう。 近年、国内で拡大している。
そして厄介な事に軍部、それも若手将校たちを中心に、支持者が増えてきているのだよ」

「・・・・・」

「海軍にも、陸軍にもね。 これは、警戒の必要あり、だな」

「・・・高野統合軍令本部長の懐刀。 成程、貴方が動く筈だ。 周防大佐」

「冗談はよしてくれ。 僕は一刻も早く海に帰りたい。 まぁ、それはそれとして。 期待しているのだよ、君には」

「・・・私に、ですか?」

「うん。 陸軍部内でも、君の評価は高い。 上にも、下にも。 
そして元の出身である斯衛。 まだパイプは残しているのだろう?
いずれ、石原さん(石原寛治陸軍中将・参謀本部次長)からも、話が有ると思うよ」

「バーター取引、そう言う事か・・・」

「お互い、少しの間不幸になろうな? 全く、冗談じゃないよね」


―――全くだ。冗談ではない。

自分は今や、陸軍の兵器開発を管轄する技術開発廠の人間だ。 
そんな仕事、国家憲兵隊や帝国情報省、それか警保省特別高等公安局(特高警察)辺りに任せておけばいい・・・

92式弐型の主機問題が解決する事は望ましいが。 その代償として自分自身に投げかけられた『仕事』には辟易する。

巌谷中佐は、目前の大佐を恨みがましく睨みつけた。

最も、周防大佐はどこ吹く風、であったが。




「本当に。 冗談じゃないよね」



―――全くだ。 畜生。






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