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No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
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[7678] 祥子編 南満州2話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/08/17 21:26
1994年11月2日 1450 南満州 鞍山西方50km 『極東絶対防衛線』 南部第1防衛線付近


≪CPより『セラフィム』! 右側面、空きます! 『ウルプス』(第18師団第181戦術機甲連隊第32中隊)との間隔が!≫

CPオフィサー・森崎茉莉少尉の悲鳴のような報告が入る。
拙い、このままじゃ、2つの中隊の間にBETAが入り込んでしまう。

「セラフィム01、了解! 中隊! 陣形・鶴翼弐型(ウイング・ツー)! 多少無茶でも、BETAの侵入を阻止するっ!」

『B小隊、了解です!』 
『C小隊、了解~・・・ って、ウルプスの馬鹿共、何やってんのよ・・・』

「ぼやくなっ! それよりBETA群、来るぞっ! 中隊各機、無理に突っ込むな! 突撃級がほとんどよ! 交わして後ろか側面を取りなさい! 判った!?」

『『『『『 了解! 』』』』』


冬に入った南満州。 小雪のチラつく、見るからに寒々しい景色の彼方から。 赤黒く、灰色の、禍々しい波が押し寄せてくる。
『定期便』と呼ばれる、ハイブから溢れ出した個体群の周期的な来襲だった。
 
度々の間引き攻撃にもかかわらず、ハイブ内で飽和するBETAの個体群。 そこから『溢れ出した』連中が、一定間隔で襲来してくる。
今回観測されたBETA数は、南部戦線全域で約8000 それを、第14師団、第18師団と、中国軍第39師団で迎え撃っていた。

南部第1防衛線南戦区には、第14師団第141連隊と、第18師団の第183連隊、中国軍第39師団第392連隊が布陣していた。
担当戦区のBETA数は凡そ2500。 戦術機甲3個連隊の防衛戦力で有れば、阻止できる筈であった。 光線級も未だ確認されていない。

しかし実状は。 現在、戦線各所に相互連携の不備に起因する穴が空きつつある。
そこを突破されれば、第2防衛戦の展開が未だ完了していない状況では、鞍山を抜かれかねない。

第141連隊第23中隊≪セラフィム≫の現状は、この様な状況下で空いた穴を防ぐ事。 
その都度、後手に回った戦闘を強いられていた。


≪BETA群、距離3000! 個体数推定600! 突撃級100、要撃級300! 大型種主体ですっ!
砲撃支援・・・ 駄目ですっ! 北戦区に手が一杯で・・・ッ!≫

(ちっ! 拙いわね。 砲撃支援も無しで・・・ いくらなんでも、大型種の数が多すぎる!!)

第23中隊長・綾森祥子中尉は、戦術情報MAPと、広域データリンクに記された友軍情報を見比べ、内心で舌打ちした。
突撃級が100に、要撃級が300? 1個中隊で面倒を見ろと言うのが、そもそも間違いだ。 せめて、大隊規模の戦力で無いと・・・

「セラフィム・リーダーより各機、作戦変更! 陣形、楔壱型(アローヘッド・ワン)! 
突撃級の群れをいったん突破した後、即時反転! 陣形を鶴翼壱(ウイング・ワン)に組み直す! 
生憎と砲撃支援は無いッ! どうやらここは私たち以外、ダンスの競争相手は居ないッ!
思いっきり踊りきって見せろッ! いいか!?」

『C小隊了解! 突撃級のケツに張り付きで、あっつーいジルバでも、舞ってやりますかッ!』

『B小隊了解です。 突破は中央の30体と、右翼の40体の群れの隙間に突っ込みます。 因みに、タンゴでッ!!』

「よぉしっ! 『セラフィム』 レッツ・ダンスッ! 突っ込め!」


12機の『疾風弐型』が、楔型の陣形のまま突撃級の群れ、その隙間に殺到する。
前衛のB小隊が2個のエレメントを崩さず、高速噴射滑走で突入。 すぐさま、短距離噴射滑走に切り替え、多角機動でBETAの隙間を縫うかのように高速移動。
その間に左右へ、装甲殻に覆われていない比較的『柔らかい』胴体下部や節足部へ、36mm砲弾を浴びせかける。
あるいは近接用短刀を突き立てて、高速移動の運動エネルギーを利して、切り裂いてゆく。

B小隊の開けた突破口へ、後続のA、C小隊長機と、打撃支援機の4機が突入する。 突破拡張戦闘だ。 36mmと120mmを撃ち放ち、『間口を広げて』いく。

残った制圧支援機と砲撃支援機が、光線級の居ない戦場にのみ許される、低高度滞空攻撃を開始。
遠方の要撃級や小型種へ自立誘導弾による制圧攻撃と、支援突撃砲による狙撃攻撃を行っている。


『こちらB02! 『壁の向こう』が見えました!』

突入開始から十数分後。 B小隊2番機―――突撃前衛小隊の『吶喊娘』、美園杏少尉から、突撃級の群れを突破した報告が入る。

―――よし、損失はまだ無い。 これならば・・・

『B01よりB小隊! そのまま左翼へ抜けろ! 突撃級の左翼から片付けて行くぞっ! Bリードよりリーダー! B小隊は左翼への攻撃を続行します!』

すかさずBリード、小隊長の間宮怜中尉から、継続戦闘指示と報告が入る。

「リーダー了解! Cリード! 右翼へ回れ! A小隊は群れの中央を殺るぞ! ついて来いっ!!」

『『『『 了解!! 』』』』

B小隊が群れの左翼後方へ、C小隊が右翼後方へ。 A小隊はそのまま180度反転し、群れの中央後方へ取り付く。
滞空迎撃を行っていた4機も各々の小隊に合流し、3群に分かれた突撃級の群れの真後ろから、36mmと120mm砲弾を絶え間なく浴びせかける。


『全く! 吶喊すれば良いってもんじゃ無いわよっ! お前等、猪の突撃級が突出したら、こうなっちゃうって事! その体で味わいなっ!』

『杏! アンタが言えば、説得力が増すわねぇ! この『吶喊娘』!!』

『煩い! 葉月、黙れっ!!』

B02、美園杏少尉の毒舌に、C02、仁科葉月少尉がまぜっかえす。 ただ軽口を叩いているだけでは無い。 
美園少尉と仁科少尉は、突撃級の中で遅ればせながら大半径旋回をかけようとしている個体を確認すると同時に、
その個体を集中して撃破していた。 他の後任連中は、眼の前のBETA撃破に必死で有ったが。

≪CPよりセラフィム! BETA群後続、速度を上げました! 接触まであと、約3分です!≫

CP・森崎茉莉少尉より戦術情報が更新された。
後続の要撃級を中心とした500体が、移動速度を速めた。 接触まであと3分―――それまでに突撃級を始末しなければ。

(突撃級に手間取れば、後ろから要撃級と戦車級に襲いかかられる。 後ろに専念すれば、突撃級の突破を許す、か・・・
―――全く! 冗談じゃないわっ!)

綾森中尉は内心で更に毒づきながら、前方の突撃級の後方から120mmを叩きつける。
『ボッ!』という音が聞こえてきそうな射孔が生じた次の瞬間、内贓物が体液と一緒に盛大に飛び散った。
そのまま数10mを惰性で進んで、その突撃級はピクリとも動かなくなる。

(中央部は・・・あと、8体か。 3分有れば何とか・・・ 他は?)

戦術MAPを確認する。 左翼の突撃前衛が担当する突撃級の個体が、最も減少している。あと4体程―――流石だ。 
右翼のC小隊が受け持つ群れは、中央と同じくらいか。 ならば・・・

「間宮! 中央と右翼に1機づつ回せ! 撃破ペースを上げる! 左翼は残った2機で平らげろ! その位は、食いきれるでしょう!?」

『Bリード、了解です。 B02(美園少尉)と、B03(摂津少尉)を回します。 気を付けてください? 2人とも、大食らいの悪食ですから。
―――美園、摂津、助っ人だ。 たらふく喰らってこい!』

『あ、悪食って、何ですか! 小隊長!』

左翼から高速噴射移動を開始した2機。 その内の1機、摂津少尉が抗議するが、全く無視されている。

『大食らいって・・・ 伊達中尉程の大食らいじゃ、ないですけどねぇ・・・』

『美園・・・ アンタ、良い度胸よねぇ?』

『うひゃ!?』

軽口を叩きつつも、中央と右翼に『助っ人』展開した2機が加わったA、C小隊の撃破速度が上がって行く。
左翼のB小隊はその間に2体を無力化。 残余は2体。 ―――残り時間2分。


『―――ッ!! 中隊長! 後方スクリーンにBETA群視認! 距離、800!』

A小隊2番機・押上円中尉から緊急報告が入る。
自らも後方スクリーンを確認する。 灰色と赤黒い、見るからに嫌悪感を呼び起こす、さながら『悪夢の津波』が押し寄せてきていた。
―――BETAの後続本隊、約500体。

「ちッ! 押上! 制圧支援と砲撃支援、4機で遠距離阻止戦闘! 距離600以内には入るな! いいか!?」

『了解! ―――仁科! 宮崎! 光藤! ついて来いっ!』

『『『 了解! 』』』

後方での遅滞戦闘指揮を行うべく、押上中尉機が反転し、噴射跳躍をかける。
A小隊の制圧支援機・宮崎孝子少尉、C小隊の砲撃支援機・仁科葉月少尉と、制圧支援機・光藤亘少尉が一斉に応答し、続行する。
残った機体は、突撃級の最後の掃討を急ピッチで行い始めた。

「伊達! 間宮! 残り1分! 突撃級はあと5体だけだ! 片付けろ!!」

『『 了解! 』』


残された時間で突撃級を始末し、後ろから急速接近するBETA本隊に対処する。
困難だ。 困難だが、やり通さねば生き残れない。


「こちらセラフィム! 『ウルプス』! 状況知らせっ! 『ウルプス』、状況を! ――― 一体、どこで油を売っているのよッ! アンタ達ッ!!」

―――最早、僚隊との協同無しには支えきれない。 

そう判断した綾森中尉が、隣接する『ウルプス』―――第181連隊第32中隊『ウルプス』をコールし続ける。 が、それに応える声は遂に帰ってこなかった。 
―――5分前、地中侵攻で以って、その直下に奇襲を受けた第32中隊『ウルプス』は、3機を残して撃破されていたのだった。



「くそッ! ―――『セラフィム』全機! 何が何でも、ここを食い止めるっ! 全員、腹を括りなさいッ!!」

『『『『『 応! 』』』』』


―――果たして、腹を括った所で。 本当に阻止できるかな?

戦闘の興奮で熱く火照る体とは反対に、どこまでも冷えて行く感じの頭の片隅で。 
綾森中尉はふと、無意識に部隊の損失予想を計算していた。














1994年11月4日 鞍山西方25km 第221前進補給基地


南部第1防衛線直後に位置する『第221前進補給基地』 
永久陣地では無い。 しかし急造では有るが、可能な限りのキル・ゾーンを形成する複郭火網陣地。
その後ろに各種補給倉庫と戦術機・戦車用の簡易ハンガー。 そして、これまた簡易な宿泊施設(通称・「カマボコ兵舎」)

つまりは、即応部隊の待機基地であった。 同様の簡易急造基地があと5か所(第222~第226)存在する。
日本軍に中国軍、韓国軍と国連軍。 極東防衛の各国軍が共用で運用している。

―――最も、複郭火網陣地など。 BETA群の大規模侵攻の前には、津波の前に紙1枚の障子を立てる様なものであったが。


「成程な。 それは災難だったな」

ハンガーから管理棟までの、除草されただけの未舗装の通路。
傍らを歩く中国軍第392戦術機甲連隊第31中隊長の周蘇紅大尉が、気の毒そうに言う。
11月に入った満州。 南部とはいえ、気温は日中でもかなり低下する。 防寒装備無しではつらい季節になった。 吐く息が白い。

―――2日前の防衛戦闘の事だ。
結局、寸での所で第2防衛戦に展開予定だった部隊の、緊急増援が間に合ったから良かったものの。
もし、間に合わなければ。 自分達は恐らくBETAの大波に呑まれて壊滅していただろう。

その後からおっとり刀で駆けつけた増援部隊も、下手をしたら各個撃破されていたかもしれない。
全く、危ういタイミングだった。

「18師団は、派遣されて間もない部隊ですから。 こちらの実状を理解しきっていなかったかも・・・
いずれにせよ貴重な戦力を、相互連携の不甲斐無さで失ってしまいました。 向うとの連携を詰めきっていなかった私にも、大きなミスです」

眉を顰め、唇を噛みしめながら、綾森祥子中尉が悔しそうに呟く。
そんな僚隊指揮官の表情を、じっと見つめていた周大尉は。 不意に前を向いたまま話し始めた。

「そうだな。 君のミスだ、祥子。 
隣接する協同部隊指揮官との連携の詰め? ―――常識だ。
それを怠った? ―――指揮官として、何を考えているのだ?
その結果が、連携ミスで1個中隊壊滅? 向うの中隊長の過誤にこそ、より大きな起因が有ろうが。
連携すら出来ていない事は、君の犯した大きなミスだ。 場合によっては、両隊が合流できた可能性も捨てきれないしな」

「・・・ッ!」

「その結果が。 君の部下達を、より大きな危険に晒した。 これを指揮官の犯したミスと言わずに、何と言う?」

「弁明の・・・ 余地は、有りません・・・ッ」

周大尉の指摘に、綾森中尉の表情が強張る。 顔色も青白くなっていた。 握りしめた拳が細かく震え、声は腹から絞り出すかのようだった。
自覚はある。 自覚が有るからこそ、それを怠った自分が許せない。 
相手の有る事とはいえ、もっとしつこく、煙たがられても良いから相手に連携確認をすべきだったのだ。

―――自分は。 2年半もの戦場経験から、一体何を学んだのだ!?

今回の様な事態を顧みるに、何も学んでいないと謗られても仕方が無い。 周大尉は、向うの戦死した中隊長を断じたが。
それは自分―――綾森祥子中尉に対しても言える事ではないか。 

気がつけば、俯き加減で足元の土を見ながら歩いている。 情けない格好ね。 少なくとも、戦術機甲指揮官の歩く姿では無い・・・
思えば思う程、自己嫌悪の螺旋に落ち込んで行った。 自覚している性格だが、こればかりは直らない。


そんな綾森中尉を、並んで歩きながら見つめていた周大尉が、再び言葉を繋ぐ。

「戦場と言う場所は。 容易く人を愚者にするものよ、祥子」

「周大尉?」

不意に、周大尉の口調が変わった事に気づく。

「人は、容易に愚者になってしまうもの・・・ 愚者が考え、判断し、決断する。 その結果は? 散々たるものよ。
ミスがミスを呼び、一体どうなっているのか、誰がどうすればよいのか。 判らなくなる事も多い・・・」

周大尉の表情に変化は無かったが。 その声色からは、長年この地で戦い続けてきた『いくさびと』の苦悩の色が有った。
彼女も、過去に多くの過誤を犯したのだろう。 多くの過誤の為に自らを、そして部隊を危地に晒したのであろう。

「事前の計画など。 最早、遺跡から発掘された古代の文書の様なものね。 過去を調べるには役立つけど、現状では何の役にも立たない。
そんな場所で、我々が行うべきは只ひとつ。 ―――『最悪の中の最善』 それを如何に読み取るか。
読み取って、掴みとって、実行するか。 その為には、事前の手間暇を惜しむべきではないのよ。 手札は多い方が良いでしょう?」

―――手札か。 言い得て妙ね。 今回、私が持ち得なかった手札か・・・

「今回、君はミスを犯したね。 それは確か。 でも、その最悪の状況から、何とか部隊を纏めようともした。 そうね?
ならば、祥子。 君は最悪の中から、最善を引きつけようとした。 その努力は怠らなかった。
忘れないで。 私たちは、自分の命だけじゃ無い、11人の部下の命を託されている事をね」

―――その為には、慣れ合いで済まされる事は無いのだ。

周大尉の声が、そう教えてくれていた。

「―――増援が間に合ったのは。 その『最善』だと。 自分が引き寄せた『最善』だと、そう思いなさい。
その位、図々しくて良いのよ。 そうじゃなきゃ、やってられないわね。 こんな商売は」

そんな周大尉の気遣いが嬉しく、また、申し訳無かった。
数か月前に知り合って以来、馬が合って(正反対の所が良かったか)時折、雑談の中にもこうして教えられる事も多い。
最も自分は未だ、彼女の内心の何たるかを気づけずに居る。 一方的に教えて貰っているようなものだ。

悪戯っぽく笑う彼女は。 普段は不敵で、歴戦衛士の凄みを加味した雰囲気だが。 
こう言う時はちょっと悪戯好きな、それでいて無邪気な少女の様な表情を垣間見せる。

先程までの、シリアスな表情はどこ吹く風。 何時ものふてぶてしい、不敵で陽気。 
そしてちょっとだけ、素の表情の周大尉を見つつ。 
その軽い足取りで先を進む姿に、少しばかりの羨望を抱く。

前の大隊長もそうだった。 眼の前のこの女性もそうだ。 
戦場と言う非情な世界に生き、しかしそれでいて、人としてのしなやかな勁さを失っていない。

―――何と言う勁さ。 何と言う健全さ。 



(・・・憧れるな・・・)



いつかは自分も持てるだろうか。 この勁さを。










1994年11月4日 2200 第221前進補給基地 将校用宿舎


さっさと休んでしまおうと思っていたのだけれど。
丁度、各大隊への連絡・確認業務で各前進基地を回っていた、河惣連隊幕僚に捕まってしまった。
彼女は一昨日から、第222基地(第1大隊第2中隊)、第223基地(第3大隊第3中隊)を回って、
今日この第221前進補給基地(私の第2大隊第3中隊が駐留)に来ていた。

3つの前進補給基地には、各大隊から1個中隊がローテーションで配置されている。
第23中隊のローテーションは、今回は後10日程残っている。
彼女はそうした、前進基地の戦場確認と情報収集を兼ねて、飛び回っているのだ。

意外な事に、参謀としては『足で稼ぐ』タイプなのだろうか? 
外見しかり、経歴しかりの華やかさからは想像できないけれど。
軍務に対して汗をかく事を厭わない参謀と言うのは、前線では好意的に歓迎される。


で、ちょっと沈んでいた私を見つけて、宛がわれた自室に連行した訳だ。
正直、晩酌の相手が欲しかっただけかもしれないけれど。

「ふぅん・・・ それで、沈んでいたのね?」

昼の周大尉とのやり取りを話している最中、ずっとお酒(銘柄は判らないわ。ブランデー?)を飲んでいた河惣少佐。
既に顔がほんのりと赤い。 普段でも、特に目を引く程の美貌の人だから、酔いが加わると、ちょっと妖しげな雰囲気に見える。

「ま、まぁ、沈んでいたと言いますか、反省していたと言いますか・・・ 
あ、やっぱりちょっと沈んでいたかも・・・」

自分もご相伴させられて、グラスを傾けて居るけれど。 正直、お酒は苦手。 あと、煙草も。
(今はここに居ない彼は、両方嗜んでいた。 自室は兎も角、私の部屋では禁酒・禁煙にしたら、情けない程嘆いていたっけ)

「良いんじゃない?」

「はい?」

「落ち込んでも。 ずっと引きずる事は流石に拙いわよ? でも、自分の至らぬ点を自覚するのは良い事。
今回失敗したかもしれない。 でも、結果的には防衛には成功した。 部下に損失も無かった。
―――指揮官としては、まずは上々の結果じゃないの?」

(それは・・・ そうだけれど)

でも、戦区全体でみれば1個中隊壊滅なのだ。 今この第221前進補給基地には、戦術機部隊は2個中隊が駐留している。
3日前は3個中隊―――1個大隊規模だった。 2/3に戦力激減なのだ。 これをどう説明するの?


じっとグラスを見る。 琥珀色の液体がたゆたって、グラスの中で小さな漣を描いている。
ゆらゆら、ゆらゆら―――まるで、私の心の様だ。


「相手の有る事よ、こればっかりはね。 綾森、貴女は少なくとも中隊長としての責任は果たしたわ。 部隊を連れ帰ったじゃない。
戦区の話は―――ま、3人の戦術機甲部隊指揮官と、作戦統括官―――基地司令の問題ね。 次からの課題よ、それは」

「はぁ・・・」

「・・・ああ、もう! まだるっこしい娘ねっ! いいこと? 人間なのだから、失敗はつきもの。 それが戦場であれば余計よ。
要は、それを次にどう生かすか。 犯した失敗をキチンと受け止めて、次にどう修正していくか。
いい? 1度目の失敗は仕方が無いわ。 誰だって、失敗を犯さない人間は居ないのよ?
2度同じ事をすれば、指揮官としては失格。 3度同じ事をすれば・・・ 自分と部隊は、この世に居ないわ」

「・・・・・」

「今回の事、気に病むなとは言わないわよ。 貴女の性格じゃね。 でもね、引きずりなさんな。
そして、同じ事を繰り返さないように、心に留めなさい。 経験よ、経験。 人は経験を生かせるものなのよ」

「・・・生き残れれば、ですけれど」

思わず口走った言葉が、河惣少佐の心の琴線(いや、起爆スイッチかも?)に触れた。

「ウダウダ言うなっ! じゃ、私の目の前に居るのは誰!? 幽霊なの!?
違うでしょ! 貴女、生き残ったでしょ!? だったら! しゃきっとなさいっ! ―――広江に、チクるわよ・・・!?」

―――そ、それだけは勘弁して欲しいッ!!

「そう言う事よ。 私の拙い指揮官経験からしても。 指揮官が何時までもウジウジしていて、碌な事は無いわ。
それに、失敗を直視出来る指揮官は、次には同じミスは犯しにくいものよ。 教わったでしょ? 彼女から・・・」

―――トクトクトク・・・

少佐はグラスに琥珀色の液体を、なみなみと注いでてゆく。 
そのグラスを口にする直前。 ふと、目線まで持ち上げて、じっとその液体の色彩の揺れを眺めていた。

「・・・私はかつて失敗したわ。 情に溺れて、部隊を顧みる事が出来なかったの。
本当なら。 今、ここでこうして、貴女と話をしていなかったかも。 ―――広江のお蔭なのだけれど」

相変わらず、じっとグラスを見続けている。

「だから・・・ 私と同じ轍を踏まないで。
情に溺れないで。 感情に殺されないで。 逡巡に全てを奪われないで。 貴女は―――私と似た所が有る・・・」

「少佐・・・」

「失敗したって良いじゃない・・・ 復活戦に勝てばいいのよ。 
誰しもエースでも無ければ、天賦の才の指揮官でも無いわ・・・ 寧ろ、大方は愚かな鈍才よ・・・ 私も、貴女も・・・
ならせめて、それを直視しましょうよ・・・ そして、愚直でも良いわ、学んでいけば良い。 生きている限り・・・」











「ふぅ・・・」

体が火照っている。 アルコールが結構回っているわね・・・
酔い覚ましに外に出てみた。 流石に寒い。 寒いけど、何だか心地よい。

結局あれから。 潰れてしまった河惣少佐を、何とか寝台に放り込んで部屋を出た。
自分で誘っておきながら、あの酒量と、あのピッチ。 そりゃ、潰れますとも。

最後は、酔って呂律の回らなくなった少佐の愚痴の聞き役になってしまったけれど。
結局、私のモヤモヤの解決には至らなかったけど。 それでも、何だか気分は良い。

(『愚かな鈍才よ・・・ 私も、貴女も』)
(『愚直でも良いわ、学んでいけば良い。 生きている限り』)


(そうね・・・ 私は所詮、衛士としても、指揮官としても、突出した所なんか無いわ)

だったら。 鈍才でも良いのだ。 愚直でも良いから、学んでいこう。 色んな事を身につけて行こう。
そしてそれを―――後進に伝えれば良い。 私の様な鈍才でも、生き残って、戦い続けられるのだと言う事を。

―――それこそが、私の戦い方だ。


そしてそれを実践する事こそ、私の指揮官としての在り方なのだ。
そうか、それで良いのか・・・


―――気分が良い。 凄く良い。







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