1994年11月6日 1220 第221前進補給基地 PX
数日前のBETAの中規模襲来以降、基地は比較的穏やかな日々が続いている。
無論、最前線の即応基地故に警戒態勢に緩みは無いが。
それでも各種情報―――地中設置の各種センサー、定期的なUAV偵察、監視衛星からのハイブ周辺情報。
その各種情報を組み合わせた結果、現状では余程突発的な事態が発生しない限り、BETA群の侵攻は当分無いとの予測が出されていた。
「それでも、間引き攻撃は続くんだけどねぇ~・・・」
昼食時でごった返すPX、その何の装飾も無い、剥き出しの壁に天井、そしてただ単に板に脚を付けただけのテーブルと椅子。
そんな殺風景なPXの中、不味いと評判の―――軍の食事に、味覚を求めてはならない―――基地厨房が出す食事。
その味気ない食事を箸でつつきながら(一部の国連軍以外の、極東各国軍将兵の必須アイテム)、美園杏少尉がぼやく。
彼女達は先日の戦闘から帰投した後も、4日のうちに2回の出撃―――偵察と、掃討任務―――をこなしていた。
「やらなきゃ、ハイブが溢れ返るでしょ。 まったく。 杏、アンタ最近、愚痴が多いよ?」
向かいに陣取って、不平も言わずに黙々と食事を続けていた仁科葉月少尉が、箸を休めて親友に小言を言う。
間引き攻撃―ハイブ飽和―波状侵攻―阻止戦闘。 この、出口の見えないローテーションの様な現状。
彼女達が任官して1年6カ月の間、この単調で凄惨なローテーションの中に身を置いてきた。 正直、精神的に疲れ始めているのだ。
何も、彼女達に限った話では無い。 戦場に身を置く各国の将兵の多くが感じる最初の壁(『死の8分』は、それ以前の話だ)
如何にモチベーションを保つか。 突き詰めれば『何の為に戦うのか?』
大義名分では無い、もっと身近な何か、確固たる何か。 未だそれが見えていないのだ。
「それはそうだけどさ。 ―――あ、そうだ、葉月。 アンタ聞いた?」
「何を?」
「この前の、18師団で壊滅した中隊があったでしょ? あの部隊の生き残りの話よ」
―――ああ、そう言えば、生き残った機体が何機かいたっけ・・・
仁科少尉はそんな事をぼんやりと思い出しながら、食事を進める。
(相変わらず、不味いなぁ、ここの食事は・・・ 瀋陽だったらなぁ。 非番の時には、お店で食事できるのになぁ・・・)
基本的に要塞都市と化した瀋陽では、純然たる『民間人』の数は激減している。
飲食店にせよ、他の店舗にせよ、殆ど全てが軍と何かしらの契約を結んだ、『軍の利用施設』となっている。
それでも、『人間用燃料』と影口を叩かれる軍の食事、それも野戦食に比べれば。 王侯貴族の美味に匹敵するだろう。
(―――馴染みの店の、お気に入りの料理。 あれを早く食べたいなぁ・・・)
知らずに、ぶつぶつと小声で独り言を言いつつ、黙々と食事をする親友を。 気味悪そうな目で見つつ、美園少尉が話を続ける。
「3機、生き残ったんだけどさ。 その内1機は、衛士は半死半生、機体は中破。
無事だったのは2人だけなんだけどさ。 ―――その内の1人、誰だと思う?」
「知らない」
「・・・葉月、アンタ最近、ノリが悪いよ? ま、いいか。 そうそう、生き残りの1人ね、私らの同期よ」
「・・・同期? 誰?」
「神宮寺」
「・・・神宮寺まりも?」
「そう。 神宮寺まりも」
―――神宮寺。
ふと、1年以上前に事を思い出す。 確か、昨年の『九-六作戦』の後だったか。
北満州を放棄して南に後退する途中で、国連軍に出向していた周防先任―――今は国連軍の中尉か―――と、ばったり出会った時だ。
(色々と近況報告して。 あと、私と杏が溜め込んでいた鬱憤を、聞いて貰ったりしたな。
確かその時だ、周防さんから神宮寺の名前が出たっけ。 えっと、確かあの時は・・・)
「周防さんからさ、神宮寺の話されたよね、だいぶ前に。 思い出しちゃってさ。
それに、神宮寺の奴、あれからどうしてたのかなぁ、って」
(そうだ、確か同期の伝手でも使って、気にかけてやれとか、言われていたんだっけ。
神宮寺は初陣で、同期の仲間を5人失っていた。 確か、臨時中隊長をやっていた筈)
「そうか、思い出した。 確か周防さんの部隊が救出したんだ。
神宮寺と新井、それとあと1人・・・誰だっけ、忘れたな。 ま、いいや」
「葉月。 何、腑抜けてんのよ・・・
でさ、あの後、どうしてたんだろうって。 すっかり失念しちゃってたよ。
今は18師団かぁ・・・ って事は、一旦内地に戻ったのかな?」
「だと思うよ? 負傷していたそうだし。 確かあの時は第9師団だよね。
あの師団、今は再編で西部軍管区の第3軍団でしょ? 転属になったんじゃないの?」
(西部軍管区か。 確か、94式『不知火』の優先配備部隊よねぇ。
『疾風弐型』も悪くないけど、正真正銘の第3世代機にも搭乗してみたいなぁ・・・)
そんな事を考えながら、何となしにボーっとしていたらか。
後ろから声をかけられた2人は、思わず飛び上がりそうになった。
「あんたら・・・ さっき『神宮寺』とか言ってなかったか?」
見ると、同年代くらいの男の衛士が2人、険しい顔でこっちに話しかけている。
階級は少尉。 と言う事は自分達の同期か、或いは後任だ。 半期先任の期が、1か月前に中尉に進級しているのだ。
「言ってたけど・・・ アンタ、誰よ?」
美園少尉が胡散くさそうな顔で聞く。
(部隊章は・・・ 18師団か。 『181TSF.Rg』・・・ 第181戦術機甲連隊。 神宮寺と同じ部隊ね)
仁科少尉が、相手の左肩に張り付けた部隊章を確認する。
「ああ・・・ 俺たちは181連隊の者だ。 補充で今日から駐留する第33中隊だ。
俺は神崎少尉、こっちは高橋少尉。 神宮寺の同期になる。 ・・・訓練校は別だけどな」
「ふぅん? じゃ、あたし達とも同期な訳だ。 で? 神宮寺がどうかした?」
「そっちも同期か。 いや、話し振りから、あいつを知っているのかと思ってな。 ―――あの、『死神』をさ」
「「 死神? 」」
―――神宮寺が? イメージじゃ無いな。 少なくとも、私の中では・・・
「死神って? 神宮寺が? ・・・私達、同じ訓練校の同期の間じゃ、少なくとも彼女は『気が強いけど、思い遣りも有る優等生』なんだけど?」
同じ訓練校出身の美園少尉が、訝しげに問いかける。
「優等生ね・・・ 俺達の部隊の連中に、聞かせてやりたいよ。
あいつは今まで、少なくとも2つの中隊に所属していた。 今年の4月からな。
―――全て壊滅したよ。 所属中隊は」
「「 なっ!? 」」
「今回だってそうだ。 これで3回目だ。 いつも、無茶な突撃をしやがる・・・ 隊長が制止するのを振り切ってだぞ?
確かに腕は良いさ、それは認める。 ウチの連隊でも、あいつに敵う衛士は少ないよ。
でもな、それでも・・・ 味方を危険に晒すような突撃を。 そんな無茶をした挙句に、部隊が壊滅するんだぞ? 許せるかよッ!!」
神崎少尉が、憤怒の表情で吐き捨てる。
傍らの高橋少尉が、そんな神崎少尉を宥めるように肩に手を置き、続ける。
「俺達だって、仮にも同期生だよ。 悪し様に言いたくは無い。 でもな、あいつの戦場での行動は、異常だよ。
今、部隊であいつが『死神』以外に、なんて呼ばれているか知っているかい・・・?」
「・・・何て呼ばれているの?」
知らず、美園少尉の声もかすれ気味だ。
「・・・『狂犬』さ。 まるで、狂った闘犬の様な奴だよ。 目前のBETAに、何が何でも食らいつく」
「「狂犬・・・」」
荒い息をしていた神崎少尉が、再び激昂する。
「あいつがッ! 今回、あいつが無茶な突撃をしなければッ! 中隊は隣接部隊と合流しようとしていたんだ!
それを、あいつの突撃が台無しにしたッ! お陰であの様だッ!
あいつがッ! 無茶しなければッ! ・・・あいつだって、死なずに済んだかもしれない・・・ッ!」
(あいつ・・・?)
「こいつの恋人でね・・・ 半期違いの後任少尉だったんだけど。 壊滅した第32中隊に居たんだ。
・・・戦死したよ、4日前の戦闘でね」
悔しそうに顔を歪める神崎少尉をチラリと見て、高橋少尉が説明する。
と、その時。 新たな声が耳に入った。
「・・・他人の戦死の責任まで負わされちゃ、敵わないわよ」
「・・・神宮寺!?」
「お久しぶり、美園。 元気そうね。 そっちは・・・ ああ、確か本校の・・・ 仁科だっけ?」
「え、ええ。 久しぶりね、神宮寺・・・」
―――これが、神宮寺!?
美園少尉も、仁科少尉も、思わず目を疑う。
彼女達の知っている『神宮寺まりも』という人物は。
負けん気が強くて、気が強い半面。 面倒見が良く、優しい面も見せる、そんな女性だった。
しかし今、目の前に居るのは・・・
「・・・よくも、そんな言葉を吐けるな、『狂犬』・・・!!」
「おい! よせっ! 神崎!」
「あの娘が死んだのは。 あの娘の技量の無さと、判断ミスよ。
私に責任擦り付けられてもね・・・」
殴りかからんばかりの勢いの神崎少尉を、高橋少尉が何とか押しとどめる。
神宮寺少尉はそんな2人をチラリと見て、すぐに興味が失せたかのように何事も無く、椅子に腰かけて食事を始めた。
「神宮寺。 お前さん、これだけは言っておく。 同期として最後の忠告だ。
いいか? ―――これ以上、勝手な行動を戦場でするなよ。 それこそ、BETAだけじゃ無く、味方から『後ろ弾』喰らうぞ?」
「ご忠告、どうも。 それだけ? 言いたい事は。 ―――だったら、消えてよ。 鬱陶しいったら」
「「「「 ッ! 」」」」
その場の皆が息を飲む。
「・・・ああ、消えてやる。 それと、忘れるな? お前の仲間は、どこにも居ないんだ。
戦場で、それをよぉく、味わえよ・・・」
激昂する神崎少尉とは反対に、青白い顔色になった高橋少尉が、感情の失せた平坦な口調で捨て台詞を残し、その場を離れて行った。
そんな2人の後姿を見ながら、美園少尉が神宮寺少尉に問いかける。
「ちょっと・・・ 神宮寺。 アンタ、何を馬鹿やってんのよ?」
「馬鹿・・・? 馬鹿って?」
「とぼけないでよッ! 何よ、今の遣り取りはッ! アンタ、あの調子じゃ絶対、次の作戦で孤立するよ!?」
「孤立も何も。 中隊は今、2人だけよ。 味方を探しようも無いわね・・・」
問い詰める美園少尉に対して、あくまで関心無さそうな、無表情で淡々と返す神宮寺少尉。
そんな2人を見つつ、仁科少尉が口を挟む。
「杏・・・ 止めときなって。 何言っても無駄よ、今のこいつには・・・」
「葉月!? 何でよッ!?」
「・・・死にたがりに、何言っても無駄って事よ。 そうでしょう? 神宮寺」
皮肉な口調の仁科少尉に、ふと箸を止めた神宮寺少尉が、無表情のまま視線を向ける。
かつての面影など、失せ果てたその瞳。 生気を失った目の色。 代わりに宿るのは、強烈に狂おしい程に、何かを求める色。
見た事が有る。 北満州で、そしてこの南満州で。 帝国軍将兵の中に、中国軍や韓国軍、そして国連軍将兵の中に。
その眼の色を宿した者達は、刹那を狂おしい程に疾走して。 そして消えて行った。
「そんなに、同期を失った事が苦しかった? 5人だっけ? みんな、貴女の指揮の拙さで死んでいったのでしょう?
ああ、だったら、死にたいわねぇ・・・ 一緒に訓練校で切磋琢磨した仲間を。 5人も死なせたんじゃねぇ・・・」
「・・・さま・・・」
「でも、それの巻き添えは勘弁よね? 確かに、さっきの2人の言う通りだわ。
アンタ、『死神』気取りみたいだけど。 確かにそうよね? BETA相手の『死神』じゃなくって、味方にとっての『死神』かぁ・・・」
「きさま・・・ きさま・・・」
「確かに、戦場じゃ誰も近づきたくないわね。 私だったら真っ平御免よ。 例えエレメント組んでても。
さっさと死んで貰いたいものね? そうすれば、皆ハッピーよ。 万事上手く収まるってものね・・・」
「貴様ぁ!!」
不意に神宮寺少尉が激昂し、仁科少尉に飛びかかった。 そのまま2人して倒れ込む。
「貴様ッ! 貴様に、何が判るッ!? 貴様にッ!」
―――ガッ! ゴッ!
馬乗りになった神宮寺少尉が、上から仁科少尉に殴りかかる。
両腕で顔面をガードしながら、それでも仁科少尉の嘲笑は終わらない。
「はんっ! 『死神』気取ってッ! 『狂犬』気取ってッ! それがちょっと図星指されたからって、この有様!?
―――メッキが剥がれたなぁ! 神宮寺!!」
その言葉に、思わず神宮寺少尉の体が硬直する。 それも束の間、更に憤怒を呼び起こした。
「貴様ぁ・・・ 貴様にぃ・・・ 何が判るかぁ!!!」
思わず拳を振り上げる。 慌てて美園少尉がその腕を掴み制止する。
「やっ、やめろっ! 神宮寺! それ以上はやめろっ! ―――野戦憲兵隊の世話になりたいのかっ!?
葉月! お前も変に挑発するのは止せっ! 何考えてんのっ! この馬鹿っ!!」
1330 第221前進基地 第141連隊第2大隊 第23中隊戦闘指揮所
「で? その『死神』だか、『狂犬』だかが、ムカついたから挑発しました。
で、殴り合いになりました―――それで、私は憲兵隊分遣指揮官に、頭を下げなきゃいけなかったんだ?」
「はぁ・・・」
戦闘指揮所の一角。 直立不動の仁科葉月少尉を、直属上官の伊達愛姫中尉が簡易チェアに座って見上げている。―――目が据わっていた。
昼時のPXでの騒動。 結局、騒ぎを聞きつけた憲兵隊が駆けつけ、殴り合いをしていた2人が拘束された。
最も、『同期同士の、他愛ない議論の食い違いだ』と、憲兵隊分遣指揮官が鷹揚な処置をしてくれたお陰で、2人の上官が頭を下げる事で落ち着いたが・・・
その頭を下げた1人、第23中隊第3小隊長の伊達愛姫中尉は、目前の部下を睨みつけている。
「このッ 阿呆ッ! 何考えてるッ 仁科! アンタ、もう先任でしょーがッ!!
何時まで青臭い新任気分で居るんだぁ!!」
「~~~ッ! 申し訳ありませんッ!!」
「何でも『申し訳無い』で済むかぁ! お陰で私は、楽しい昼食時をブチ壊されて、良い迷惑だよッ!!」
(――― つまり、食い物の恨み、って事?)
怒鳴られ、叱責されながら。 ふと、上官の言葉に心の中で突っ込んでしまう。
この上官の『食べ物』に対する情熱は、かなりのものだから。
「あ、あの・・・ 伊達中尉。 この娘も十分反省していると思いますし、そろそろ・・・」
「美園ッ! アンタもその場に居ながらッ! どーしてこうなる前に制止出来なかったッ!?
同期同士でしょうがッ! 何、遠慮してんのよッ!?」
「はっ、はいぃ!!」
思わぬとばっちりを受けた美園杏少尉も、思わず直立不動になる。
『どうして私までっ!』 目でそう、悲鳴を上げていた。
荒れ狂う第3小隊長を見つつ、その場の『空気』と化していた第2小隊長・間宮怜中尉が、そろそろ頃合いかと取りなす。
「ま、伊達中尉。 怒鳴り散らすのは、もうその辺で。 仁科も『十分』反省はしているでしょうし。
あとは・・・ ちょっとばかり、その余った体力でもって、反省の色を形にして貰いましょう」
(―――げっ! 何言いだすのよッ!? この人はッ!)
仁科少尉は思わず、間宮中尉を振り返る。 が、しれっとした顔はまるで突撃級の装甲殻だ。 抗議の視線は全く跳ね返される。
次いで、親友を見る―――が、『こうなっちゃ、無駄でしょ・・・』とばかりに首を振っている。
「中隊長が今日は連隊本部に行ってて不在だからね。 私が代行で言い渡すよ?
―――仁科! 完全装備でランウェイ10周! チンタラ走るんじゃないよッ! 制限時間付きだからねッ!」
「はッ!!」
「美園ッ! アンタも連帯責任ッ! 同じくランウェイ5周!」
「ええっ!?」
「文句あるッ!?」
「はいっ! いいえ、有りませんッ!!」
「じゃ、さっさと走って来いっ!」
「「 了解!! 」」
慌てて指揮所を出て行く2人を眺めた後、伊達中尉が大仰に溜息をつく。
「・・・全くね。 あの娘達もそろそろ、手を煩わせ無くなってきたと、思ってたんだけどねぇ・・・」
「ちょっと、今日の事は違う感じでしたね」
備え付けの給湯器から、コーヒーカップに湯を注いでコーヒーを作っていた間宮中尉が、カップの一つを伊達中尉に手渡しながら呟く。
カップを受け取りながら、伊達中尉は少々真剣な色を目に宿しながら頷いた。
「仁科にしても、美園にしても。 もう、任官して1年と7カ月。 戦場経験も1年以上。
十分、地獄を垣間見てきた連中だしね。 今更、青臭い感情論で殴り合いなんて・・・ って思ってたわよ、私も」
―――はぁ・・・
溜息をつきながら、伊達中尉が間宮中尉を顧みる。
戦場で、感情がささくれ立った将兵同士の、些細な事での乱闘騒ぎはつきものだ。
彼女達とて、そう言った経験のひとつや、ふたつや、みっつ・・・ は、経験が有る。
しかし、大抵は新任時代が多かった。 戦場を経験し、地獄を覗き見て、いつしか考え方もシニカルになってきたのだろうか。
ふと、間宮中尉がひょんな事を言い出した。
「そう言えば・・・ さっき、美園が言っていましたが・・・」
「ん? 何?」
「喧嘩の相手。 確か、18師団の神宮寺少尉でしたか。 以前に周防中尉と関わりが有ったとか」
「はぁ? 直衛と? なんで? 神宮司なんて奴、同じ師団・・・ 他の連隊か大隊に居たっけ?」
思わず、素っ頓狂な声を上げる伊達中尉。
彼女の同期・周防直衛中尉が、『国連軍へ出向』する前の知り合いなら。
北満州駐留時代の第14師団しかない。 他の連隊か、大隊か。 少なくとも同じ大隊にはそんな奴は居なかった。
「いえ、確か去年の9月・・・ 大連の『九-六作戦』の頃だったと聞きましたよ」
「へぇ? あの作戦? 私らは・・・ああ、H19(ブラゴエスチェンスクハイブ)の連中と遊んでたんだっけ・・・」
―――BETA相手に、遊ぶも無いでしょう。
間宮中尉は先任の僚友の言葉に、思わず内心で突っ込みながら、しかし声には出さず頷く。
93年9月、南満州での大規模防衛作戦『九-六』作戦当時、第14師団は北満州にあって、
H19・ブラゴエスチェンスクハイブからの、約4万以上のBETA群の猛攻に忙殺されていた時期だった。
「確かその時、神宮寺少尉は初陣で南満州防衛に参加していたそうで。 ―――所属中隊は壊滅だったそうです。 BETAの奇襲で」
「・・・うわぁ~、それは・・・ トラウマだわね・・・」
「そうですね。 で・・・ その壊滅した中隊の援護に駆け付けたのが、周防中尉の所属した中隊だったそうですよ。
生き残った神宮寺と、あと2人程。 中尉と、僚機とで引きずって後方まで退避させたとか」
「ふぅん? そう言う知り合いね・・・?」
「・・・どう言う、『知り合い』かと?」
「いや、あいつ。 あれでいて、結構手が早いとか、そう言う所あったからね」
「・・・そうなのですか? 知りませんでした」
「ま、それはいいや。 で?」
「・・・美園にしても、仁科にしても。 期間は短いですが、初任当時にお世話になったのが、周防さんですから。
何だかんだ言って、思い入れも有るのでしょうね。 その周防さんが戦場で助けた同期生が。
あたかも『死にたがり』の様な行動を・・・ で、カチンときた。 ―――そんな所では?」
「・・・ガキか? あの娘達も・・・」
思わず頭を抱える。 そして、今はここに居ない同期生に対して、思わず愚痴りたくなってきた。
(―――直衛、アンタ。 地球の反対側に行ってからも騒動のタネ、残してんじゃないわよッ!!)