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No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
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[7678] 国連米国編 NY3話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/10/03 13:42
『連邦政府、欧州方面の軍事、経済支援強化を発表。 再派兵決定か? 予備役、州兵にも不安の波紋広がる―――「USA Today」』

『国務省、難民受け入れ枠の拡大検討を保留。 一部州政府の反発に配慮 ―――「New York Post」』

『FRB(連邦準備制度理事会)、FOMC(連邦公開市場委員会)にて、金利引き上げ凍結を決定。 市場は反発 ―――「The Wall Street Journal」』

『欧州方面、極東アジア方面の戦火は一応の安定。 東南アジア方面活性化の模様 ―――「The Daily News」』

『大統領府、国連全権大使にアーノルド=スチュワート・元ボーニングCEOを任命。 見え隠れする『極秘計画』交渉か? ―――「The Washington Post」』

『昨年下半期の犯罪発生率、大幅上昇。 検挙率は低下。 NYCP(ニューヨーク市警本部)発表 ―――「The New York Times」』













1995年4月14日 1210 ニューヨーク市 ソーホー(SOHO)


「・・・ふぅ」

最近、溜息が多い。 自覚はしているんだが、知らずに出てくるのは止まらない。
キャナル通りに面したカフェで軽いランチを取りながら、数紙の新聞を読んでいるだけでこれだ・・・

紙面には明るい話題など、欠片も見当たらない。 今は国外ではあるが、ひしひしと迫りくる『BETA』と言う未知の恐怖。
押し寄せる難民の受け入れと、それに伴う財政負担に増税。 そして治安の悪化と、連邦政府の方針に反発する各州政府。
前線国家の財政支援の為に、引きしめられる市場経済。 その反発で伸び悩む内需の停滞と国民の経済不安。

『安全な後方国家』の代表格と目されるステイツ(U.S.A)でさえ、戦争の影響は日常に対して確実に、しかもじわじわと影を落としているのだ。


段々、やり切れない気持にもなる。 半分程食べかけのBLTサンドイッチ(ベーコン、レタス、トマトのサンドイッチ)を放り出し、クラムチャウダーをスプーンで掬う。
何かもう、固形物は胃にもたれる気がしたからだ。 後はエスプレッソで無理やり胃の中に流し込むか・・・

ニューヨークの4月。 晴天の昼下がり。 丁度午前の授業が終わって、午後のクラスにはまだ若干時間がある。
陽光の降り注ぐオープンカフェで、気持ち良くランチでも・・・ そう思ったのに、読んでから後悔する。


「・・・直衛、不機嫌?」

目の前のぺトラが、ソーセージ・コーンチャウダーをすすりながら、小首を傾げている。
相も変らぬ独特の間の言い回しに苦笑しながら、首を振る。

「別に。 不機嫌じゃないよ。 ちょっと、滅入る記事を読み過ぎただけさ」

食う気はしないが、さりとて食べなければ腹も減る訳で。 残りのサンドイッチに手をつける・・・ が、やはり食欲は回復しなかった。
仕方無い、エスプレッソだけ飲んで済まそうか。

「・・・やっぱり、不機嫌? 直衛?」

「不機嫌じゃないって・・・ しつこい、ぺトラ」

最近、ぺトラには名前で呼ばせている。 お互い国連軍人で有って、俺は中尉、彼女は少尉と、階級の上下はあるけども。
ここは軍の施設では無く、普通の学校に2人とも『留学中』の身だ。

『学友』達は、普通のアメリカの学生が殆ど。 そんな中、階級で呼び合うのはいかにも不自然。
と言う訳で、『階級で呼ぶ事、禁止令』を2カ月程前に出してやった。
最初は戸惑っていたぺトラだったが、最近ようやく慣れてきたようだ。


「ハイ、直衛、ぺトラ。 ここでランチ?」

「午後のクラス、同じだったな? 一緒に行こう、直衛」

声をかけてきたのは、ラテン系の褐色の肌に薄いアーモンド色のロングヘアの女性と、トルコ系の若い青年。
女性の方はマリア・レジェス。 青年の方はイルハン・ユミト・マンスズ。 『学友』達だ。
マリアは普通のアメリカ人女学生だが、イルハンはトルコ軍から出向中の国連軍中尉。 俺とは同い年で何かと話も合う。

今年の1月から、国連軍の下級将校教育カリキュラムの一環として、9か月の教育課程を受けているのだが。
その内の6カ月は一般大学で任意の学部を選択して、聴講生として参加する。 同時に英語学校へも放り込まれた。 

俺の場合、ある程度のレベルでの語学力が認められた為(帝国では初等学校の高学年時から英語教育を施す)上級コースへ。 ぺトラも同じ。
大学の学部レベルの英語教育と、プレゼンテーションスキルを週に4日、午前中みっちりと4ヶ月間叩きこまれた。

そして大学での学部教育―――その前に大学選びがあったな。

とは言え、ニューヨークで国連軍の教育カリキュラムを受け入れている大学は2校のみ。 
コロンビア大学と、ニューヨーク大学(NYU)だ。 ニューヨーク市立大学(CUNY)と、ニューヨーク州立大学(SUNY)は受け入れていない。

選択肢として幅が狭い上に、流石にコロンビアは敷居が高すぎる。 
何せアイビー・リーグの雄。 世界的に有名な名門大学だ。 帝国で言えば、帝大みたいなものか? もっともコロンビアは私立大学だけど。

だもので、必然的にニューヨーク大学での聴講生を選択した。 しかしながら、ニューヨーク大学(NYU)の程度が低い訳じゃない。 
寧ろこっちも世界的な名門大学だ。 世界の大学ランキングの50位内に入る。 様々な分野で世界的に活躍している卒業生も多い。
しかしながら、俺に残された選択肢はNYUしかなかったのだ。 こうなっては腹を括るしかない。

以来4カ月。 授業の予習と復習には慣れない英語の授業も相まって、人の倍の時間はかかるわ、宿題にレポート提出、グループでの研究課題。 赤点は許されない。
おまけに午前中の英語学校での授業もある。 最初はひたすら、学校と図書館と自分のアパートとの往復だけだった。
実際、満洲や欧州でBETAの大群と殺りあっていた時とはまた別の、肉体的・精神的プレッシャーだったな。

何とか耐えられたのは、同じ境遇のぺトラが頑張って耐えていた手前、上官として根を上げる訳にはいかないと言う、我ながら情けない意地と。
何やかやで、折に触れ助けてくれた『学友』達のお陰だった。 ―――最も、週末には『悪友』に様変わりする連中だったが。

今、目の前に居るマリアとイルハンの2人も、そんな『学友にして、悪友』だった。


「・・・直衛。 食べない? なら、もう学校」

「相変わらず、独特の会話ねぇ、ぺトラは・・・」

マリアが呆れている。 ぺトラもアメリカに来てそろそろ5カ月近い。 が、その独特の言い回しは変わらず。 ま、彼女の癖なのだろう。
チップを払い、席を立つ。 次のクラスは・・・『軍事社会学』か。 教室はここから近いな。

「んじゃ、行きますか。 シャトルバスに乗るまでも無いし」

「そうね。 私とぺトラは、次は国際関係学だけど。 そっちも近いし」


ヴィレッジ(グリニッジ・ヴィレッジ)の方角に向かって4人で歩きだす。 NYUの特徴の一つ、それは特定の場所に校舎が無いと言う事。 
大学の校舎や教室はワシントン・スクエア周辺に分散していて、グリニッジ・ヴィレッジ、ウエスト・ヴィレッジ、ソーホー、ノリータなどのエリアの中心に点在している。

歩く事10数分、まずは俺達の午後のクラスの教室が入っているビルに辿り着く。

「じゃ、俺達はここで」

「OK! あ、週末のパーティーはどうするの?」

「僕は行くが・・・ 直衛とぺトラは?」

「私は・・・ 参加?」

「どうしてそこで疑問形・・・ はぁ、俺も参加するよ」

建物の入り口で別れて、教室に入る。
因みに俺が聴講生として選択した学部は社会学部。 コースは『比較歴史社会学』と、『軍事社会学』
何故かって? ―――色々、思う所は有るんだよ、俺にもさ・・・

すでに教室は半分位埋まっていた。 とは言っても、学生は全部で30人にも満たない。 少数精鋭主義だ。 お陰で毎日の予習と復習は欠かせない・・・

「ハイ、イルハン、直衛。 こっち空いているわよ」

陽気な声に振り向くと、ドロテア・シェーラーに、フェイ・ヒギンズが居た。
ドロテアはドイツ出身で、祖国ドイツの陥落後にアメリカへ移住したと言う。 フェイは元々シカゴの出身。

「おう、サンキュ、ドール・・・「ドールって言うなっ」・・・おわっ!」

席に着こうとしたらいきなり、肘打ちを決めにかかりやがった。 こう見えても空手の有段者だからな、ドールは。

「何でだよ? 『ドール』って、可愛いじゃないか?」

「馬鹿! 嫌なのっ! 何だか頭空っぽの、ヒッピー娘みたいに聞こえるのっ!!」

ブロンドのミディアムヘアを振り乱して、ドールが喚く。

「何時もの展開ね。 直衛もいい加減ドロテアをからかうの、止めてあげたらいいのに」

そう言って柔らかく微笑むのがフェイ。 活発なドロテア(いい加減、止めにしておいてやろう)と、おっとりしたフェイ。 これでなかなか気の合う親友同士らしい。

「全くだね。 何時も何時も、飽きない事だよ。 それだけ気が合うんだろうけれど」

「「 誰がっ!? 」」

思わずハモる、俺とドロテア。
そんな様子にクラスの連中がどっと笑う。 くそ、いつの間にか、お笑い要員じゃないか!


「やれやれ、相変わらず賑やかだね、君達は・・・」

苦笑しつつ、初老の黒人男性が入室してきた。 このクラスの指導教授、ジェフリー・コーエン教授だ。

「さて、皆。 講義を始めようか」

一斉に皆の気が締まる。 コーエン教授は温厚な初老の男性だが、実は情け容赦なく成績不良者を振い落とす事でも有名だ。
すでに1月からこのかた、2割近くが脱落して学校を去って行った。 軍務でここに居る俺としては、そんな不名誉な事だけは避けたい。
聴講生とはいえ、成績不良ならば聴講停止処分になるのだから・・・

「では、今日は軍事社会学における『政軍関係』、それに関するハンチントンの学説と、対するパールマターの学説、ファイナーの研究の比較について論じよう。
では、Mr.周防。 今日は君の発表からだったね・・・」

「はい」

―――そら来た。

授業で一番気が重い時だ。 何せ人前で自分の予習した見解を発表して、それを基に各人が意見を述べ、論を戦わせる。
帝国じゃ滅多にお目にかかれない授業風景。 アメリカじゃ、常識らしいけれど。

俺の発表が終わり、その内容についてクラスの連中が自分の見解を述べる。 賛同する者、反論する者、ちょっと穿った見解の者。
持論を確立させると言う事は、この国では少なくとも高校生の頃にはさせていると言うが。 俺の様な帝国育ちには面喰う事ばかりだ。

やがて授業は喧々囂々。 ちょっと収拾がつかなくなってきた所で教授の解説が入り、やがて終了する。
しかしそれだけでは終わらず、各人それぞれ今日の講義内容についての、纏めのレポート提出を言い渡されて授業が終わった。














4月14日 2130 ニューヨーク市 トライベッカ


「なあ、直衛。 今日の授業のアレ、実際の所どう思う?」

チマチマと袋詰めしている俺の背中に向かって、イルハンが問いかけてきた。

ここは俺のアパート。 この4月から以前住んでいたアッパーイーストのアパートを出て、このこじんまりした部屋に移り住んだ。
同居人だったオーガスタ・カーマイケルはソーホーに。 ぺトラはヴィレッジに、それぞれアパートを借りている。
―――単に、学校が忙しくて、通学がきつくなったからだけどね。


「・・・どう思うって?」

ああ、くそっ! 細かい作業中に話しかけるなよ。

「ああ、ハンチントンの説と、それに対するパールマターの学説とファイナーの研究の対比?
ま、それぞれ最もだと言いたいけど、それぞれ解せない所もあるかなぁ?」

同じアパートのルパート・フェデリクがポツリと感想を漏らす。
彼はフランス系カナダ人。 モントリオールからこのニューヨークへとやって来ていた。

ああ、もう! やめ、やめ! 一時中断! 
作業を放り出してコーヒーを淹れる。 アメリカに来て嬉しい事の一つは、食材は未だ全て天然食材だと言う事だ。
お陰で帝国じゃ手の出ない天然モノのコーヒー豆さえ、俺でも買える。


「はあ・・・ お前ら、サボってないで真面目にやれよ・・・ で? 今日の講義か?」

コーヒーカップを都合3個。 2個を渡して自分のカップに口をつける。 ―――やっぱり天然モノは美味いよ。

「ああ。 何やら歯切れが悪かったからさ。 思う所でもあるのかと思ってね」

「そう言えば、そうだね。 直衛、主張はハッキリさせた方が良いよ?」

―――判ってるって・・・

2人の言いたい事は判るよ、俺だって。 でもさ・・・

「・・・ハンチントンの説では、軍の将校団の職業主義(プロフェッショナリズム)は、軍事的安全保障を効率的に達成する事を可能にしている、って言っている。
それだけじゃなく、軍が政治的主体・・・ つまり軍が政治に介入する事を防ぐ、とも」

「うん」 「そうだな」

「対して、パールマターとファイナーは真っ向から反対論を唱えている。
将校団の職業主義の要素としての団体性。 これは衛兵主義(プリートリアニズム)の原因だと。
軍が武力を活用する事で、独自の政治権力を行使すると。 例えば古代ローマ帝国の近衛隊が、武力を背景として元老院の政治に介入した事が良い例だと・・・」

俺の要約に、ルパートが後を続ける。

「ファイナーは更に突っ込んでいるよね。 ハンチントンの説に対して、近代ドイツや近代日本の軍の事例を検討することで否定しているね。
ファイナーは軍による政治介入の水準が、その国家の政治文化と関連していると主張しているよ。
政治文化が成熟しているほど、文民政府の正統性が高まる為に軍の政治介入は抑制される、とも言っているけど・・・」

―――論議していて、無性に情けなくなったんだ。 いや、気が重くなった? いやいや、やっぱり判らない。


「・・・ふと、祖国を思ってね」

「え? ・・・日本かい?」

「ああ・・・」


祖国、日本帝国―――俺の生まれ育った故郷。 感情的な郷愁は兎も角。 今日の、いや、今までの講義で薄々考えさせられた事。

日本の場合、ハンチントンの説に立脚する軍の成熟さも、将校団の社会的責任の意識も薄い気がする。
ここで言う将校団の社会的責任とは、自身の専門知識に基づいた、国家に対する軍事的安全保障の助言を行う事だ。

軍と、軍の将校団が専門知識、社会責任、そして団体性を備える事で成立する職業主義は、軍事的安全保障を効率的に達成する事を可能にするとの説。
それだけでなく、軍が政治的主体となる事を防ぐものであると言う。

―――ならば。 伝え聞こえる帝国内の『国粋派』、『勤将派』って奴らは、何を考えている?
いやいや、『統制派』と称する連中も同じ事だ。 このままじゃ、パールマターの言う衛兵主義・・・ いや、団体性が無い革命的軍人の類型だ。 
つまり、何時でも軍による政治介入を許す状態・・・ 祖国がそう思えてならない。

―――そもそも、皇帝陛下の国事全権代理が何故、固有の武力を有する必要があるんだ?
政威大将軍と元枢府の公私での生活面の補完組織である城内省が、斯衛軍と言う固有武力を保有しなければならない根拠は何だ?

皇帝陛下の親任を得て成立する政府(その前に将軍の『承認』を得る)にとって、斯衛と言う存在はコントロールの利かない暴力装置だ。
斯衛がクーデターを起こした歴史は無いが、これは文民統制の見地から見れば全くの軍事体制では無いのか? 
そもそもの成立ちからして、祖国は軍の政治介入を抑制する下地が無いのじゃないか? 


「・・・成程ね。 確かに日本って国は、アメリカや欧州諸国から見ても特異な政治形態だね」

「国家元首は皇帝かい? それとも将軍かい? その辺、判りづらいよな・・・」

イルハンとルパートの言葉も今は良く判る。 国を出なければ俺も判らなかった事だ。 
国を出て、色んな場所を見て、色んな事を経験して。 そして今、幸運にも学ぶ事が出来て。
そうして見ると異様な程、奇妙に見えるのだ、日本と言う国が・・・

「元首は、憲法上は皇帝陛下だよ。 政威大将軍は元枢府の筆頭者、国事全権代理・・・
最も、執政府としての内閣・政府はまた別に有るけどね」

「・・・2重権力構造? 政威大将軍と元枢府の権限が判らないけれど、それって国が割れないか?
僕の祖国も、共和国以前は帝政だったけど。 皇帝の下で政治を担ったのは閣僚群だったよ?」

イルハンが首をかしげる。
ふと思い立ったように、ルパートがこんな事を言い出した。

「ああ、権限の強弱は別として。 どちらかと言うと共産主義体制下に似ているかな?
ほら、共産主義国って執政府である政府―――内閣の上位に党組織があるだろう?
そして軍は国家の暴力組織では無く、党の暴力組織だよ。
党の最高権力者は、その権力基盤の背景として軍の支持は絶対不可欠だし」

「・・・帝国の内実とは違うけどな。 でも、言いたい事は判るよ。
ハンティントンの言う『主観的文民統制』にせよ、『客観的文民統制』にせよ、文民たる政府が軍を統制する事だ。
だけど、今の日本は『斯衛軍』と言う存在がある事で、それが出来ない可能性を持っている」

「つまり、下位組織である『政府』が、上位組織である『政威大将軍と元枢府』を統制する事は出来ないから・・・ だね?」

「そうさ、ルパート。 斯衛軍は政府の統制下には無い。 『政威大将軍と元枢府』が保有する固有武力・・・ 『私兵』だ」

「斯衛は統制を受けないのに、何故自分達だけが・・・ って訳かい?」

「ああ、感情論で極論すればね。 イルハンが今言った事は極論ではあるけれど、可能性は秘めている。
おまけに統帥権の問題もある。 軍の統帥権は誰が主管するのかってね・・・
本当なら、それは皇帝陛下のものであって、政府を通じて軍に達する、これが正常だろうけど。 その前に『政威大将軍と元枢府』と言うワンクッションが有る」

「そして彼等は、『私兵』を持っている・・・ 政府は軍を統制しようとするけど、上位組織の私兵を統制できない。
そしてその上位組織は統帥権を形式上でも主管していて、政府はそれを持っていない・・・矛盾だね、統制なんて出来ないよ」


―――そうか。 そう言う事か。

自分の気分の落ち込みがようやく判った。 祖国の危うさに、その脆さに。 そして―――自分の危険さに。

(こんな話、帝国内でしてみろ。 特高≪警保省特別高等公安局―――政治・思想取締秘密警察≫内部の、摂家筋に飼われた連中に捕まって、獄中で拷問死だな・・・)


―――ああ、気が滅入る事ばかりだよ・・・

ふと、デスクに立てかけた写真立てが目に入った。 最近、数個購入したものだ。 
中の写真は、満洲からの便りに同封されていたモノ―――祥子が微笑んでいる。 
自室で、外出先なのかどこかの市街で、そして懐かしい『疾風』の機体の前で。 溢れんばかりの笑みの祥子が居た。
他にも愛姫や緋色と一緒に写った写真とか、他の懐かしい面々の顔もある。

―――早く会いたいよ。 いくら軍務とはいえ、3年は長いよ・・・

ようやく1年半が経ったばかりだと言うのに。 もうホームシックか、情けない。


いつの間にか空になっていたコーヒーカップを弄びながら、最近やたらと出す溜息をつく。
ふと窓の外を見ると、街の灯りが煌煌と照らされている。 あの中の何割かは、温かい家庭の灯りで、恋人同士の灯りで。
で、俺は独り異国で滅入っている。 ・・・ああ! もうっ! 堂々巡りだっ!


「―――っしゃ! やめやめ! この話はやめっ! さっさと残りを作ろうぜ! ノルマ達成しなかったら、女性陣からイヤミの連発だぞ?」

「うへっ! そうだな、すっかり時間が経った」

「他はともかく、ドロテアは五月蠅いしね・・・」


今週の終末、俺とイルハン、ルパート、そして巻き込んだオーガストの4人に、ぺトラ、マリア、ドロテアとフェイ。
この8人でチャリティーパーティーに参加する事にしている。

週末の4月17日はSt. Patrick's Day(セイント・パトリックス・ディ)の祝日だ。 本来はローマ・カトリックの祝日だけど、他の人々も祝うこの日。
ハドソン川対岸のニュージャージー州ホーボーケン郊外の難民キャンプで、慈善団体主催のチャリティーパーティーがある。 それに参加する事にした。

ま、早い話がガレージセールを開いて、その収入の一部でちょっとしたプレゼントを買って。 今、俺達がチマチマ作っているオマケも付けて。
余った収入は全額寄付に回して。 大した事は出来ないけれど、子供たちへのプレゼントにはなるだろう。 

昔、まだ帝国に居た頃、誰かが言っていた。

『そんなものは、慈善では無く、偽善だ』と・・・

実際、世界中の難民キャンプでは食糧事情や医療体制の悪化で、餓死や病死が蔓延している。
チャリティーなど、どこの世界の話だ? と言うのが殆どの実状では、その言葉も感情的には引っかかる。
だが、そんな台詞を吐く前に何か行動してみろと言いたい。

俺達は今、アメリカに居る。 そしてそこで出来る事をやろうとしているんだ、自分が出来る範囲の事を。 それの何が悪い?
例え実状がどうであれ、子供には少しでも夢想する時間も必要なんだよ・・・


「よぉし! さっさと終わらして、さっさと酒飲んで寝るぞっ!」

「「 おお! 」」


大の男が3人。 狭い部屋で背中を丸めてチマチマ、細かい作業・・・ 実際、見られたくないよな・・・







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