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No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
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[7678] 北満洲編5話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:e178b4cc 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/05/16 17:22
1992年8月10日 帝都・京都 中京区烏丸御池 陸軍兵器行政本部 第1合同会議室


『次期主力戦術機開発 包括会議』は紛糾していた。

本題たる、次期主力戦術機開発進捗に至る前の段階で、である。
副題である、77式「撃震」の機体延命対策・能力向上対策が議題に上った事が発端だった。

正式採用されて以来15年。
「撃震」は帝国陸軍主力戦術機として、対BETA大戦における帝国の守護者の重責を担ってきた。
傑作機と言い切れる「撃震」は、第1世代機ではあるが、その優秀性故に、様々にアップデートされ、今なお主力の座に屹立している。

だが、世界の趨勢は最早第2世代機であり、近々第3世代機が送り出されようとしている。
帝国も今尚、難産の最中にある次期主力戦術機を、第3世代機として開発中である。
その中において、如何にアップデート版とは言え「F-4」直系機は最早「時代遅れ」なのだ。

更に近い将来、次期主力戦術機が配備開始されようと。
それは「主力」であるが故に、全部隊への配備は不可能に近い。
どうしても、「ハイ・ローミックス」としなければ、帝国軍戦術機戦力の充実は不可能なのだ。

「ハイ」は次期主力戦術機だとして。
「ロー」は如何にするのか?

「撃震」の新たなアップデートをし続けるのか?
いや、あの機体の発展余裕は、最早限界に達している。
設計思想からして、第2、第3世代機とは全く異なるのだ。
第3世代機との「ミックス」戦略は無理が有る。

現行の第2世代機から選定し、将来的にアップデートし続けるのか?
妥当な考えだ。
しかし、帝国は自国での第2世代機開発の実績が無い。 他国製戦術機の導入か?
限られてくる。

欧州連合(EU)のミラージュ2000、トーネード。
いや、連中は帝国への輸出枠などと言う余裕は全くない。
不足する戦術機を、米国から輸入している程だ。
では、米国のF-15?  ふん。既に陽炎(F-15J)がある。 
しかし、その調達価格の負担は、十分に「主力」並みだ。

F-14? F-18? 馬鹿な。海軍機だ。 帝国の。帝国陸軍のドクトリンには全く相反する。
では、残るは・・・

技術審査部長、有坂政章帝国陸軍少将が、「有る機体」を脳裏に浮かべた時には、会議は怒号の渦と化していた。


「解らない人だなっ! 貴方もっ! 
最早、出自が米国だろうがどこだろうが、そんな事言っていられる時じゃないんだよっ!
前線じゃ、『使える機体』 『死なない機体』 を衛士達は切望しているんだっ!
そんな、命がけの要求を叶えるのが、我々の役目じゃないのかっ!?」
開発試験部の河惣 巽(かわそう たつみ)少佐が、眼を吊り上げ激昂している。

「貴様っ! 『死にたくない』とは、どういう事だっ! 
我が帝国の烈士が、そんな軟弱な弱音を吐いていると貴様は言うのかっ!
そもそも、次期主力戦術機は国産を大前提にしているっ! 
であるならばっ! その国産戦術機との戦場での協同運用面を考慮すればっ!
『補完機』も又、国産でなくては運用上の齟齬が甚だしくなるは、必定っ!
外国製戦術機では、既に設計思想から我が帝国の戦術機運用の枠を逸脱しているっ!」

技術企画部の本城直弼(ほんじょう なおすけ)中佐が、怒鳴り返す。
彼も普段の冷静さを忘れ、既に目が血走っている。

「死にたくないんだよっ! 誰でもっ! 
戦場で、1分1秒でも生き残りたいっ! 
そしてその間に1匹でも多くのBETAを血祭りにあげたいっ!
最前線の衛士の思いは、その1点なんだよっ!
それを叶えるのが、我々の仕事だと言っているんだよっ!
国産がどうの、言っていられるかっ! 
後方のお役人のっ! そんな下らん国粋主義のお陰でくたばってしまうようじゃ、
最前線の衛士は浮かばれないんだよっ!」

「お役人だとっ!? お役人だとっ!! 貴様ぁ!!!」

「お役人を、お役人と言って何の不都合が有るっ!
一度、最前線へ行って、そこで衛士の生の声を聞いてみろっ!!
私とて、無駄に片目と片足を亡くしている訳ではないっ!
多くの部下を失ったのは、確かに私の無能故だっ!
だがっ! その部下達の挺身に見合った戦訓は持ち帰っているっ! その上での見解だっ!!!」

河惣少佐は、興奮の余りうっすらと悔し涙さえ浮かべていた。
だが、彼女のその端正な顔立ちの右目からは、涙が出ていなかった。
疑似生体の精神接続が、上手くいかなかったのだ。 
彼女は衛士の資格を失い、今、ここで衛士達の代弁者たらんとしている。

「・・・・っ!!! 巽っ!!! お前はっ!!!」

本城中佐が絶句する。


そろそろ、潮時か。

有坂少将は、傍らの技術審査2課長・大鳥信彦大佐を見やり、目線で合図する。
大鳥大佐は、それで上官の意図を汲取り、未だ睨み合う二人の佐官を制止する。

「本城中佐、河惣少佐。 二人とも収まれ。
ここは討論の場であって、感情論のぶつけ合いの場では無い・・・
ここに先日、審査部へ届いた報告書が有る。 
なかなかに面白い、だが意義を認めるに吝かでない内容だ。
諸君らの手元資料、乙-08。 その添付資料第4号だ。」

その場にいた全員が、手元の資料を捲る。
激昂していた2人も、そこは若くして戦術機開発の中枢に名を連ねる者。
内心は別として、資料に目を通す。

そして、絶句する。

「・・・大佐、これはっ」
衝撃を受けたような、本城中佐の声。

「成程なっ!」

我が意を得たり、と満面の笑みを浮かべる、河惣少佐。

「大陸派遣軍第3機甲軍団、第119、第120独立混成機動旅団。 
そして、河西、石河嶋、九州航空、愛知飛空4社。
各々の、機体実戦運用検証報告書だ。
ベースはF-16C/D。 だが、既に4社にてかなりの部分まで独自改良が為されており、輸出も行われている。
大陸派遣軍での評価も、上々のようだ。」

「・・・・・」

「我々は、撃震の代役としてのこの機体の評価。 その事実を確認せねばならない。
公平に。 公正に。 客観的に。
そして事実であるならば。 我々に躊躇うと言う贅沢は、最早許されない。」

全員の視線が、大鳥大佐に集中する。
その時、隣の有坂少将が徐に立ち上がった。

有坂少将は、その場の全員を無理矢理にでも納得させるが如き圧力を以て、言いきった。

「包括会議は、この機体の実証評価確認の為、大陸へ調査分科会を派遣する。」





会議終了後、本城中佐は辺りを見渡し、会議室を出ようとする河惣少佐を認め、声をかけた。
彼女は丁度、同じ開発試験部の同僚と一緒であったが、先に退出して貰うよう挨拶し、本城中佐に向き合う。
会議室には彼等二人だけであった。

「何用でしょうか、中佐?」

「・・・・大陸へ。 また、あの場所へ行くのか?」

「それが小官の職掌です故。」

「・・・未だ、お前は囚われているのか? 巽。
あの男に。 あの地獄に。」

「・・・やめて、兄様。
確かにあの地獄は、あの方を私から奪い去った。 復讐心というものが無いとは言わないわ。
でも、そんな動機で派遣を志願したのではありません。
私とて、かつては衛士の末席に名を連ね、戦友たちと地獄を見て来た者です。
その彼らの切望に、微力ではありますが、応じたいだけです。」


本城中佐は、妹の、端正とも言える横顔を見つめた。
無表情だった。
かつて、幼き日の妹は、良く笑う、感情豊かな少女であった。
長じて女性らしい落ち着きを得た後も、根本は変わらなかった。
兄として、自慢できる、愛する妹であった。

であればこそ。 刎頚の友を、妹に逢わせたのだ。
そして彼等は、友の、兄の願いを叶えてくれようとしていた。

だが、時代がそれを許さなかった。

1991年、夏。
帝国軍は大陸派遣の第1陣を送り出す。

そこには、彼の敬愛する友と、愛する妹の姿が有った。
彼等は、衛士であったのだ。

2ヶ月後、悲報が届く。
友の戦死。 妹の負傷・本土後送。

彼の妹は、右目と右足を失っていた。 重傷だった。
疑似生体移植が行われたが、精神接続が上手くいかなかった。
妹は衛士の資格を失った・・・

以来、彼女の顔からは、かつての表情は失われた。
そして、「本城 巽」は、「河惣 巽」となったのだ。 
亡き友、 故・河惣貴次帝国陸軍准将の、妻として。
「亡夫」を弔い続けている。


「・・・・その意気で有れば、何も言うまい。」

本城中佐は背を向け、部屋を立ち去った。




「・・・・本当は、どうなのかしらね? あの方の許に、逝きたいのではないの?
あんな言葉。 それは本心なの・・・・?」

誰もいない室内で一人、河惣 巽少佐は己に呟く。

そんな事。 解らない。 解らない。 解らない・・・
解るのは、私の心が最早、砕け散って戻らない事だけ。

(大陸は・・・、満州は。 あの日の様に、暑い日々なのだろうか・・・)







1992年8月15日 1115 黒竜江省 北安北西部15km 


≪CP、ゲイヴォルグ・マムより、ゲイヴォルグ。 大隊規模のBETA群、戦術エリアH-25-32。距離500。
突撃級の前衛は150km/hで進撃中。 敵本隊は後方800。 60km/hで進撃中。
機甲部隊は左翼に退避完了。 大隊本隊は隣接エリアの掃討にかかりました。
尚、光線級は確認されず。 撃破出来た模様。 繰り返します、光線級は確認されず。
オーヴァー≫


『ゲイヴォルグリーダー(01)より各機! 陣形・鎚壱型(ハンマーヘッド・ワン)! まずは『壁』をぶち抜くっ!』

『『『『了解っ!』』』』

01・広江大尉の指示に、中隊全員が答える。

『B小隊! いくでっ! 
周防! ワシと突撃前衛! 綾森!神楽! お前ら後ろで強襲前衛! ワシらのケツ持ちやっ!』
『『 了解! 』』 「了解!」

言うや否や、02・木伏中尉と08の俺、周防直衛少尉の「疾風」2機が猛然と水平噴射跳躍をかける。

目指すは戦線の突破をかけようとしている、前方500mの突撃級と要撃級。 約100体ほど。小型種はその10倍はいる。

突進してくる突撃級との相対距離が急速に詰まる。 あと100。
右腕の65式近接戦闘短刀を装着する。 あと50。
あと、40、20・・・

『ブレイクっ!』
「了!」

俺と中尉は、同時に左右への短距離水平噴射跳躍(ショートブースト)で、突撃級の突進をかわしつつ、側面を突進。
そしてすり抜けざま、それぞれ左右の突撃級の片側脚部を短刀で寸断していく。

すり抜けると同時に、前方に3体の突撃級。
左2体の間に隙間は無い。 右のヤツとの僅かな隙間に突っ込むっ!

ほんの僅かでも、操縦桿操作をミスれば、BETAとクラッシュ、踏みつぶされてお陀仏だ。
内心の恐怖を押し殺して、ギリギリのタイミングで空間を読み、水平噴射跳躍で突入する。

(――――――っ~~~~!!!)

左右の至近距離に不気味に蠢くBETAを見つつ、短刀をその脚部に刺し込む。

「ぐっ・・・!! おおぉぉ!!」

水平噴射跳躍の推力を利用して、一気に突撃級の片側脚部を『削ぎ落とし』た。
そして、俺と中尉はなんとか突撃級の『壁』を突破し、『進入路』を切り開く事に成功した。

付かず離れず、俺には05・綾森少尉、中尉には11・神楽少尉が続行する。
彼女たちも又、突撃前衛2機の突破口拡張の為、超近接戦闘を行ってきたのだ。

俺達、突撃前衛2機の穿った細い突破口に、彼女達の強襲前衛2機が突っ込む。
片づけ残した突撃級の側面から、脚部に向けて両手に持った2門の突撃砲の36mmをぶち込む。

行動力を奪っただけの突撃級は無視だ。 それは後続の仕事。 俺達はただひたすら「破城鎚」として打ち込むのみっ!


そうして突撃前衛小隊の開けた突入口から、A、C小隊が雪崩れ込む。
突撃級の壁を越えたところで、急速接地旋回で反転。

『A、C小隊! シェフ殿(B小隊)の仕込みは上々! 御馳走は食らい放題だっ! 1匹も残すなっ!』

『『『『 応っ! 』』』』

大尉の嗾けに、皆が答える。
柔らかい「裏腹」を曝す突撃級に、36mm、120mmの集中豪雨を見舞う。
体液と内臓物をまき散らしながら、次々と突撃級が沈黙していく。

その時には既に突撃前衛小隊は、前方の標的に向け突進していた。 要撃級が60体以上いる。 
短刀を収納。 追加装甲裏のガンラックに収めた突撃砲を取り出す。

『05から08! タイミングを間違えないでっ!』
「了解っ!」

要撃級の寸前で、噴射跳躍。 その頭上を飛び越しつつ、上面に120mmをお見舞いする。 
BETAは濁った緑色の体液と、赤黒い内臓物をまき散らし、停止する。

倒れた要撃級の抜けた空間をすり抜けた05・綾森少尉が、120mmキャニスター弾を俺の着地予想地点へ打ち込む。 戦車級の群が弾け飛んだ。

着地。 合流した05と俺の疾風は、水平噴射跳躍で前方へ。 
要塞級の一群は、その得意の平面急速旋回機動で方向を転換し、追撃をかけてくる。

『はっ! ド阿呆! ケツがガラ空きやんけっ!』
『痴れ者っ!!』
 
その背後から01・木伏機と11・神楽機から、36mm、120mmが降り注ぐ。
無防備な後ろを曝した要撃級に、2機は36mmと120mmをたらふくお見舞いする。
たちまち、10体以上が臓物をぶちまけ、地響きを立てて倒れる。


水平噴射旋回。 反転し、そして再突進。
要撃級が上腕を振り上げる! 

「はっ! 誰がっ!」

その寸前、俺は水平噴射跳躍で右に「飛んで」いた。
側面を確保しつつ、並行噴射跳躍移動。 36mmを比較的軟らかい横腹にばらまく。
4体を無力化する。
そして緩やかに弧を描きながら高速移動。 要撃級は無視し、周囲の戦車級を掃討する。

その間、綾森機は逆方向へ並行噴射移動。 2機でBETAの1群を挟み込む機動をとる。
要撃級の足並みが乱れる。

「08より05! スイープッ!」
『08、了解っ!』

俺と綾森機は、水平噴射跳躍による高速円周機動を続けながら、36mmを要撃級に叩き込み続ける。

『10! FOX3!!』

A小隊から、美濃少尉機の制圧支援が降り注ぐ。

『12! 支援するよっ!』

C小隊の伊達少尉が、支援突撃砲のキャニスター弾で、群がり始めた戦車級を掃討する。
どうやら、A、C小隊が突撃級を食い終わったようだ。

『01より各機! 突撃級は喰らい終わった! 各小隊! 残りを喰らい尽せっ! 陣形・鶴翼参(ウイング・スリー)!』

『『『『 了解っ! 』』』』

残る要撃級は30体ほど。 後は小型種だ。
戦車級は集られると厄介だが、相互支援を密にすれば、今の状況では然程の脅威では無い。

『B小隊! 中央の13体、やるでっ! さっさと平らげて、左右にデザート食いに行けやっ!』
『『 了解! 』』 「了解!」


12機の戦術機は、その名の如く疾風のように駆け抜ける。
戦いはすでに終末を迎えようとしていた。

この日、旅団規模のBETA群の波状攻撃は、悉く防衛線手前で停止した。






1992年8月15日 1522 黒竜江省 依安基地 第5会議室 兵器行政本部調査委員会仮設本部


「ほう。なかなか良いデータが取れているな。」

『次期主力戦術機開発 包括会議分科会』から出向という形で、北満洲の地にやって来た河惣 巽帝国陸軍少佐は、
92式戦術機「疾風」(F-92J)の実戦機動・機体負荷/疲労度データを眺めつつ、感心した。

「本土の開発実験団並のデータかもしれんな。」

「誰にモノを言っている、貴様は・・・」

ふんっ、と鼻で笑ったのは、独立混成機動第119旅団第23戦術機甲中隊長・広江直美大尉であった。

「まだ2カ月とは言え、私が扱き抜いた部隊だ。 それに部下達は全員、地獄を潜り抜けてきた連中ばかりだぞ?
新任の連中達でさえ、『5月の狂乱』を、初陣で切り抜けた連中だ。 
あの程度の散発的な襲来で、取り乱して『靖国』に居座るほど、間抜けでは無い。 本土の甘ちゃん連中と一緒くたにするな。」

「くっくっ、相変わらず手厳しいな、貴様は。 
だからこそ、未だ大尉なのだぞ? 本来ならば、大隊長をしていて然るべきだろうに。」

「ふん。 性分だ。」

「全く・・・ だから、富士(教導団)を追い出されるは、昇進は見送られるは・・・ 男には愛想を尽かされるは・・・」

「まて、最初の二つは認めるに吝かでは無いが。 最後のは一体何だっ!」

「・・・自覚していないのか? 呆れたな・・・」

「ふんっ」


(全く、この女は・・・)
苦笑しつつ、河惣少佐は期友を眺める。

(全く、この女は、相変わらず不器用な奴だ。 だが、常に正道を往く。 
常に全力で。 逡巡も、悔悟もしない。 
全く。 私などから見れば、悔しいが真似の出来ない事だな・・・)

「しかし、『鬼夜叉姫』にそこまで扱き抜かれて脱落者が無いとは、流石、と言うべきか。
・・・・広江、貴様の見る限りで、92式の機動特性に最も精通している衛士は?」

「ん・・・ そうだな。 
近接格闘戦で言えば、やはり神楽か。 木伏もかなり良い動きをする。 が、やはり神楽が頭半分抜けている。
近・中距離での高速機動戦では、周防か、長門。 次点で源と綾森、水嶋か。
中距離以上の砲撃戦では、和泉だな。次いで伊達か。
どうした? 聞きたい事が有るなら、呼び出すぞ?」

「いや、今は良い。 が・・・ どうだろう? さっきの中から3名。 
そうだな、近接戦の神楽少尉。 近・中距離機動戦で周防少尉。 砲撃戦で和泉少尉。
この3名。 もしかすると1日か2日、借りたいのだが?」

「糞BETAの、お出かけスケジュール表次第だな?  まぁ、任務に支障の出ない範囲でなら、便利扱いしても構わんぞ?」

「心得た。」







1992年8月15日 2210 黒竜江省 依安基地 士官用宿舎 23中隊C室


「ねぇねぇ、さっきの、本土から来てた技術将校の少佐さぁ。 
なんか大尉と知り合いみたいだったけど。 アンタ達、何か聞いてる?」

2段ベットの上段から、和泉少尉がひょこっと顔を出して聞いてきた。
向こうのベッドの下段に腰掛けていた神楽が、いいえ、と、俺に振るように顔を向ける。

「俺も知りません。」

「・・・何よ。使えない連中ねぇ。」

あんたも御同類でしょうが。 俺と神楽が同時に心の中で、突っ込みを入れる。

「柏崎中尉ぃ~~。何か聞いてます?」

CPの柏崎中尉に振る。 言わば中隊の情報将校。 中隊長の秘書役であるCP将校なら、何か知っているかも、と言う事だろう。

備え付けの、小さな(しかもボロい)ソファに座って読書中だった柏崎中尉が、本から目を逸らさずに答える。

「・・・大尉の士官学校の同期生と言っていたわ。 河惣 巽少佐。
今は陸軍兵器行政本部だけど。 1年前までは戦術機甲部隊の中隊長で、帝国の大陸派遣軍第1陣として戦っていたそうよ。」

へぇ。大尉は士官学校の衛士科課程出身か。 軍本流のエリートじゃないか、それって。

同じ衛士でも、士官学校出身者と、俺達のような衛士訓練校出身者では、実は雲泥の差なのだ。
前者は言わば、将来の軍の中枢を担うべきキャリア組。 将来の将官候補者。
俺達は戦死するか、極めて運良く生き残っても、定年まで現場のノンキャリア組。 
出世と言っても、精々が少佐止まり。 定年3日前に、お義理で中佐進級ってとこか。

「・・・しかし。 少佐は衛士徽章をお付けでは有りませんでしたが?
兵器行政本部勤務とは言え、衛士ならば徽章は付けるでしょう?」

へぇ、神楽。 よく見てるねぇ・・・
気付かなかったな。

「1年ほど前の大規模防衛線で、重傷を負ったんですって。
右眼と右足は、疑似生体だそうよ。 それで、衛士資格を失われたと聞いているわ。」

精神接合が不適格だったのか。 よくある話だな。


「へぇ、そうなんですか。 
・・・でもぉ、美人でしたよねぇ。 ねぇ? 周防?」

「同意します。が、どうして俺に振るんです? 和泉少尉?」

「だって。あんた年上の美人好きだし? あ、でもこの間の中国軍の子は、同い年だったっけ?」

「勝手に確定しないで下さい・・・ 
それと、蒋翠華少尉とは、和泉少尉のご期待するような関係では有りませんから。あしからず。」

「なんだ、そうなの? ・・・やっぱり、本命は祥子?
あ、でもでも。 こうやって美女3人とひとつ屋根の下で寝起きしているんだもの?
何か『間違い』でもあるかもね?」

「・・・周防少尉? 浮気は駄目よ?」
「・・・・柏崎中尉。 和泉少尉のうわ言に、反応しないで下さいよ・・・」

「周防・・・ 貴様・・・?」
「神楽。 頼むから人を、変質者を見るような眼で見るの、止めてくれ・・・」

はぁ・・・

女3人集まると姦しい、と言うが。
その中に男一人放り込まれると、どうなると思う? 兄弟よ。

答えは「オモチャ」だ・・・

仕方がないと言えば、仕方がない。
ここは最前線の戦闘基地だ。 
後方の、気の抜けた安全な基地とは違う。 いくら士官だとて、下っ端の尉官程度に個室なんて、どこぞの夢物語だ。

大体の通り相場で、中尉・少尉は4人1部屋。 大尉、乃至、中隊長職にある古参中尉が、2人1部屋。

男女比なんて、部隊でバラバラだから、男女混在。 シャワーもトイレも男女共有。
いい加減、羞恥心なんてモノ、どこぞに置き忘れているような連中だから、問題無いけどな。

個室なんて、基本的には大隊長・佐官級以上でないと宛がわれない。

であるから。今現在、俺と同じ宿舎の同室の面子は、柏崎千華子中尉、和泉紗雪少尉、神楽緋色少尉の3名。
ウチの中隊は、男の数少ないしなぁ・・・


「何よ、うわ言って。 失礼ねぇ・・・ ん?」

ドアノックの音がする。

どうぞ、と、室員中の最先任・柏崎中尉が声をかける。


「失礼する。 和泉少尉、周防少尉、神楽少尉。 少々話が有るのだが、いいかな?」

顔を出したのは、河惣 巽少佐だった。




1992年8月15日 2245 黒竜江省 依安基地 PX


「機体運用実証試験?」
和泉少尉が小首を傾げる。

試験って? 既に実戦部隊配備されている機体の検証試験? わざわざ?

「何、そう大した事をする訳では無い。 大方のデータは既に取れているのでな。
まぁ、本土の連中の『止め』を刺す為の、ダメ押しのデータ取りの協力をして貰いたいのだ。
そう手間は取らせん。 1日、場合によっては2日で済む。
君等の上官、広江大尉の許可は取ってあるのでな。」

河惣少佐が説明する。

「・・・大尉が許可を出したのでしたら、私達にお断りする理由は有りません。少佐殿」

「ふむ。 和泉少尉、だったか。 すまんな。 周防少尉、神楽少尉、2人も同じと考えて良いかな?」

「「はっ」」

「うん。 では、試験は明後日から始めたい。 君等の機体のオーバーホールは、明日に完了だったな?  
・・・うん。 では、詳しい内容とスケジュールは明日の1900時に渡すようにする。」

「「「はっ」」」

「・・・・・」

「少佐殿?」 訝しげに、和泉少尉が尋ねる。

「ああ。 いや、すまん。
・・・・不躾で済まないが。 君等は前線歴は・・・ 実戦出撃歴は、どの位になる?」

「・・・私は、第2陣ですから、今年の頭からになります。 7ヶ月です。
実戦出撃は8回です。 周防少尉と神楽少尉は・・・」

「自分と、神楽少尉は4月着任です。 4か月になります。
実戦出撃は、自分は4回です。 神楽少尉は・・・」

「私も、実戦出撃は本日の出撃が4回目でした。」

「そうか。 では、君等ももう、そろそろ『中堅』か。」

「「中堅っ!?」」

俺と神楽、思わず二人してハモっていた。
どうしてそうなる? 俺達は今年、衛士訓練校を修了したばかりの新任だぞっ!?

「ああ、任官年数の事では無い。 『実戦衛士』として、だよ。 周防少尉。神楽少尉。
二人とも、『死の8分』は知っているな? うん、当然だな。二人ともそれを搔い潜って生き抜いてきたのだからな。
だが、一般的な衛士の戦闘での損耗率は、25%に上る。 これが初陣衛士の場合、65%にも達するのだ。
だからな、実戦出撃を5回こなせば、中堅。 10回でベテラン。 15回でエース。 20回でトップエース、と言われるんだ。
和泉少尉は8回だから、立派に古参の中堅。 あと2回でベテラン、だな。」

「因みに、ウチの中隊長は実戦出撃22回よ。 トップエースね。」

「「・・・はぁ・・・」」

俺と神楽は、頷くしかない。
今の倍の数の実戦出撃数だけでも、気が遠くなる気持なのに。 22回!? 化け物だ・・・

「しかし。 他の部隊でも、我々と同じ数をこなした衛士は、他にもかなりいるのでは?」

神楽がもっともな疑問を口にする。
そうだ。 この地には、ウチの第119旅団だけでも、5個大隊。独混はほかに4個旅団有るし。
主力師団は3個師団有る。
もっと経験豊富な衛士は居るんじゃないのか?

そんな疑問を口にしたら、えらい状況を教えられた・・・

「周防少尉。 第1陣で大陸に渡った衛士で、今まだこの地にいる者は、10名と居ないのだよ。」

「えっ?」

「派遣の2ヶ月後に、大損害を受けてな。 その後も散発的な攻撃で数を減らして・・・
生き残りの大半は、昨年の末には本土に戻っておる。 私のようにな・・・」

「第2陣もね。 ほら、あの『5月の狂乱』で、私達の前の部隊は、殆どやられちゃったでしょ?
残った部隊も戦力半減で、回復の為に本土に戻ってしまったし。 少数が残っただけよ。
実際、実戦経験者がいる部隊って、先月まではウチの第119と、第120だけだったのよ。
あとはみぃ~~んな、『戦闘処女』 この前や、今日の慌てっぷりから解るでしょ?」

ああ、そう言えば。
俺達、第119と第120以外の部隊は、BETA迎撃の時の動きが鈍かった気がする。
今日なんて、旅団規模の襲撃に、1個師団と2個旅団で迎撃したのに、前衛の部隊が浮足立ってしまって。
結局、予備戦力だったはずの俺達の旅団が、1番前に出されて戦う羽目になったんだよな。

まぁ、確かに言われてみれば、経験不足の様相だったな、あれは。 ははっ、俺も言うようになったね。
ちょっと前までブルッてた、ヒヨコだった俺が。 全く・・・


「まぁ、そう言う訳で、だ。 実戦を搔い潜ったその腕、期待させてもらうよ。」

それじゃ、遅くまで悪かった。

そう言って、河惣少佐はPXを後にした。






「・・・しかし、4回か・・・ ふふん、私と同じ回数だが。 あちらの方が、面構えが良い、か・・・」

何より、未だ心が折れていない。 眼の色が違う。 そこが自分とは大違いだな。

河惣 巽少佐は、自室へ戻る道すがら、先ほどの若い3人の衛士達の顔を思い浮かべていた。

「広江が可愛がるのも、無理はないか・・・」

もっとも、あの 『鬼』 『夜叉姫』 とも言われた同期の友に「可愛がられる」と言う事は、BETAが可愛く見えるほど、扱き抜かれる事なのだが。









―――――同刻。 某将校個室

「くしゅん!!」
「ん? どうした、風邪か?」
「ん・・・・ 大丈夫よ。 ・・・誰か、私の噂でもしているのかも・・・?」
「はは。 だが、この状況を予想してではあるまい? 何せ、あの『夜叉姫』が、あんな可愛い姿態を・・・」
「・・・ あら? じゃ、『夜叉姫』の如く、絞り取ろうかしら?」
「お、おい。 もう無理だよ、直美・・・」
「どうかしら、ね? ・・・ふふふ・・・」
「うっ? うおっ!?」




『我らが中隊長はその朝、何故か特に機嫌が良かった。』(第23中隊当直日誌の覚書より抜粋)




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