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No.7678の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 ~第1部 完結~  [samurai](2012/01/15 00:56)
[1] 北満洲編1話[samurai](2009/03/31 02:40)
[2] 北満洲編2話[samurai](2009/04/12 14:43)
[3] 北満洲編‐幕間その1[samurai](2009/04/02 03:33)
[4] 北満洲編‐幕間その2[samurai](2009/04/02 23:49)
[5] 北満洲編-幕間その3[samurai](2009/04/04 02:31)
[6] 北満洲編3話[samurai](2009/04/04 22:33)
[7] 北満洲編4話[samurai](2009/04/05 19:23)
[8] 北満洲編5話[samurai](2009/05/16 17:22)
[9] 北満洲編6話[samurai](2009/04/11 02:17)
[10] 北満洲編7話[samurai](2009/04/12 03:34)
[11] 北満洲編8話[samurai](2009/05/05 23:46)
[12] 北満洲編9話[samurai](2009/04/18 21:28)
[13] 北満洲編10話[samurai](2009/04/18 22:35)
[14] 北満洲編11話[samurai](2009/04/19 01:16)
[15] 北満洲編12話[samurai](2009/04/24 02:55)
[16] 北満洲編13話[samurai](2009/04/25 22:53)
[17] 北満洲編14話[samurai](2009/05/06 00:47)
[18] 北満洲編15話[samurai](2009/05/10 04:08)
[19] 北満洲編16話[samurai](2009/05/10 03:42)
[20] 北満洲編17話―地獄の幕間[samurai](2009/05/13 19:48)
[21] 北満洲編18話[samurai](2009/05/16 03:31)
[22] 北満洲編19話[samurai](2009/05/16 03:59)
[23] ちょっとだけ番外編(バカップル編)[samurai](2009/05/17 03:25)
[24] 北満洲編20話[samurai](2009/05/19 23:48)
[25] 北満洲編21話[samurai](2009/05/20 00:32)
[26] 北満洲編22話[samurai](2009/05/24 02:21)
[27] 北満洲編23話[samurai](2009/05/24 04:25)
[28] 北満洲編最終話[samurai](2009/05/24 03:36)
[29] 設定集(~1993年8月)[samurai](2009/05/24 23:57)
[30] 国連極東編 満州1話[samurai](2009/06/09 02:02)
[31] 国連極東編 番外編・満州夜話[samurai](2009/06/09 02:03)
[32] 国連極東編 満州2話[samurai](2009/06/09 02:03)
[33] 国連極東編 満州3話[samurai](2009/06/09 02:03)
[34] 国連極東編 満州4話[samurai](2009/06/09 02:03)
[35] 国連極東編 満州5話[samurai](2009/06/09 02:04)
[36] 国連極東編 番外編 艦上にて―――或いは、『直衛君、弄られる』[samurai](2009/06/09 02:04)
[37] 国連極東編 満州6話[samurai](2009/06/09 02:04)
[38] 国連極東編 満州7話[samurai](2009/06/09 02:04)
[39] 国連極東編 満州最終話[samurai](2009/06/10 07:33)
[40] けっこう番外編(かなりバカップル編)[samurai](2009/06/12 23:53)
[41] 国連欧州編 英国[samurai](2009/06/14 10:27)
[42] 国連欧州編 イベリア半島1話[samurai](2009/06/17 23:46)
[43] 国連欧州編 イベリア半島2話[samurai](2009/06/18 00:38)
[44] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 1話[samurai](2009/06/20 23:34)
[45] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 2話[samurai](2009/06/21 13:54)
[46] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 3話[samurai](2009/06/26 00:07)
[47] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 4話[samurai](2009/06/28 03:55)
[48] 国連欧州編 イベリア半島 『エース』 最終話[samurai](2009/06/28 10:30)
[49] 国連欧州編 シチリア島1話[samurai](2009/07/01 00:59)
[50] 国連欧州編 シチリア島2話[samurai](2009/07/01 01:28)
[51] 国連欧州編 シチリア島3話[samurai](2009/07/05 00:59)
[52] 国連欧州編 シチリア島4話 ~幕間~[samurai](2009/07/05 22:09)
[53] 国連欧州編 シチリア島5話[samurai](2009/07/10 02:30)
[54] 国連欧州編 シチリア島最終話[samurai](2009/07/11 23:15)
[55] 国連欧州編・設定集(1994年~)[samurai](2009/07/11 23:25)
[56] 外伝 海軍戦術機秘話~序~[samurai](2009/07/13 02:52)
[57] 外伝 海軍戦術機秘話 1話[samurai](2009/07/17 03:06)
[58] 外伝 海軍戦術機秘話 2話[samurai](2009/07/19 18:39)
[59] 外伝 海軍戦術機秘話 3話[samurai](2009/07/21 23:41)
[60] 外伝 海軍戦術機秘話 最終話[samurai](2009/08/13 22:32)
[61] 国連欧州編 北アイルランド[samurai](2009/07/25 17:47)
[62] 国連欧州編 スコットランド1話[samurai](2009/07/27 00:36)
[63] 国連欧州編 スコットランド2話[samurai](2009/07/28 00:28)
[64] 国連米国編 NY1話[samurai](2009/08/01 04:13)
[65] 国連米国編 NY2話[samurai](2009/08/06 00:03)
[66] 祥子編 南満州1話[samurai](2009/08/13 22:31)
[67] 祥子編 南満州2話[samurai](2009/08/17 21:26)
[68] 祥子編 南満州3話[samurai](2009/08/22 19:19)
[69] 祥子編 南満州4話[samurai](2009/08/30 19:03)
[70] 祥子編 南満州5話[samurai](2009/08/28 07:52)
[71] 祥子編 南満州6話 ―幕間―[samurai](2009/08/30 18:45)
[72] 祥子編 南満州7話[samurai](2009/09/06 00:08)
[73] 祥子編 南満州8話[samurai](2009/09/16 23:35)
[74] 祥子編 南満州9話[samurai](2009/09/19 03:15)
[75] 祥子編 南満州10話[samurai](2009/09/21 22:59)
[76] 祥子編 南満州最終話[samurai](2009/09/22 00:42)
[77] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その1[samurai](2009/10/01 23:43)
[78] 祥子編 南満州番外編~後日談?~ その2[samurai](2009/10/01 22:02)
[79] 国連米国編 NY3話[samurai](2009/10/03 13:42)
[80] 国連米国編 NY4話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/11 12:38)
[81] 国連米国編 NY5話~Amazing grace~ [samurai](2009/10/14 22:32)
[82] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~[samurai](2009/10/17 03:10)
[83] 国連番外編 アラスカ~ユーコンの苦労~[samurai](2009/10/19 21:28)
[84] 国連欧州編 翠華語り~October~[samurai](2009/10/23 22:58)
[85] 国連欧州編 翠華語り~November~[samurai](2009/10/24 15:34)
[86] 国連欧州編 翠華語り~December~[samurai](2009/11/01 23:21)
[87] 国連欧州編 翠華語り~January~[samurai](2009/11/09 00:17)
[88] 国連欧州編 翠華語り~February~[samurai](2009/11/22 03:05)
[89] 国連欧州編 翠華語り~March~[samurai](2009/11/22 03:38)
[90] 国連欧州編 翠華語り~April~[samurai](2009/11/22 04:13)
[91] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 1話[samurai](2009/11/24 00:29)
[92] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 2話[samurai](2009/11/29 02:20)
[93] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 3話[samurai](2009/12/06 22:19)
[94] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・前篇[samurai](2009/12/11 22:37)
[95] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 4話・後篇[samurai](2009/12/12 21:38)
[96] 国連欧州編 バトル・オブ・ドーヴァー 5話[samurai](2009/12/13 20:58)
[97] 国連欧州編 最終話[samurai](2009/12/13 23:06)
[98] 帝国編 ~序~[samurai](2009/12/19 05:05)
[99] 帝国編 1話[samurai](2009/12/20 12:06)
[100] 帝国編 2話[samurai](2009/12/24 00:16)
[101] 帝国編 幕間[samurai](2009/12/25 04:22)
[102] 帝国編 3話[samurai](2009/12/30 05:15)
[103] 帝国編 4話[samurai](2010/02/08 02:09)
[104] 帝国編 5話[samurai](2010/02/22 01:03)
[105] 帝国編 6話[samurai](2010/02/22 01:00)
[106] 帝国編 7話[samurai](2010/03/01 00:28)
[107] 帝国編 8話[samurai](2010/03/13 22:53)
[108] 帝国編 9話[samurai](2010/03/23 23:37)
[109] 帝国編 10話[samurai](2010/03/28 00:51)
[110] 帝国編 11話[samurai](2010/04/10 21:22)
[111] 帝国編 12話[samurai](2010/04/18 10:47)
[112] 帝国編 13話[samurai](2010/04/20 23:21)
[113] 帝国編 14話[samurai](2010/05/08 16:34)
[114] 帝国編 15話[samurai](2010/05/15 01:58)
[115] 帝国編 16話[samurai](2010/05/17 23:38)
[116] 帝国編 17話[samurai](2010/05/23 12:56)
[117] 帝国編 18話[samurai](2010/05/30 02:12)
[118] 帝国編 19話[samurai](2010/06/07 22:54)
[119] 帝国編 20話[samurai](2010/06/15 01:06)
[120] 帝国編 21話[samurai](2010/07/04 00:59)
[121] 帝国編 22話 ~第1部 完結~[samurai](2010/07/04 00:52)
[122] 欧州戦線外伝 『周防大尉の受難』[samurai](2009/09/12 02:35)
[123] 欧州戦線外伝 『また、会えたね』 ~ギュゼル外伝~[samurai](2010/12/20 23:16)
[124] 設定集 メカニック編[samurai](2010/12/20 23:18)
[125] 設定集 陸軍編(各国) 追加更新[samurai](2010/05/15 01:57)
[126] 設定集 海軍編(各国) [samurai](2010/05/08 18:23)
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[7678] 国連米国編 NY最終話~Amazing grace~
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/10/17 03:10
1995年6月1日 1030 ニューヨーク イーストヴィレッジ


数日振りにイヴァーリの部屋にやって来た。 遺品の整理の為だ。
彼には身寄りが無い。 せめて昔の誼でと、そう思い立ったわけだが。

やはりと言うか、余り私物も無い部屋だ。 家具類を処分した後は、こまごました物を整理したり、処分したり。
本棚に残ったアルバムが目に入ったのはそんな時だ。 何気なく視線を泳がせていると眼に入って来たのだ。
何も考えずにそのアルバムを手にとって、中を見て―――泣きそうになった。

―――着任当時、配属小隊の皆で撮った写真。 得意そうなイヴァーリの顔。 少し緊張気味の俺もいる。

―――クレタ島でBETAの侵攻をビクビクしながら待ちかまえていた頃。 乗機の前で不敵に笑うイヴァーリがいる。

―――多分、バルカン半島の戦闘後だったと思う、後方のPXで浴びる程酒を飲んだ時の写真。 イヴァーリも、中隊長も、大隊長も。 ファビオやギュゼルも笑っている。

―――イギリスの駐屯地だろう、牧地のような草原で寝そべっているイヴァーリ。 俺と圭介がいる。 ああ、この時はあいつにイタズラして・・・ 散々追いかけ回された。

―――最後の写真。 94年初頭当時の大隊のメンバー全員で写った写真。 その裏側には・・・

―――『My Dear Family, ―――Amazing Grace』


・・・どうしたんだろう? 文字がぼやけて読めない。 本当に・・・ どうしたんだろう・・・


「ふっ くっ・・・」













1130 イーストヴィレッジ


アパートから出てきた俺を待っていたのは、サラマト刑事だった。
一応事件現場なのだ、市警に連絡は入れておいて許可を得ていた。 それでやって来たのか。

「・・・やあ、中尉。 今日はヒマかね?」

「アンタが非番じゃ無きゃね」

「なら、丁度いい。 ちょいと付きあってくれや」

「・・・昼間から酒か?」

違うさ―――苦笑しつつ先を歩き始めたサラマト刑事について行った先は。 イーストヴィレッジとロウア・イーストサイドの境にあるこじんまりとしたパブだった。
何の変哲も無い、ごく普通の店。 少々くたびれているが。 ここが一体どうしたんだろうか?

「やっこさんの行きつけだった店さ」

―――イヴァーリの?

店のマスターは店構え同様、暮らしにくたびれた中年男、そんな印象だった。
まだ開店時間前とて、最初は渋っていたが。 俺がイヴァーリの戦友だったと言うと、黙ってグラスを出してくれた。
意外な事に、欧州陥落前に大陸で戦った経験者だった。

「・・・あいつはな、人一倍、繊細な奴だったんだよ。 ははっ、外目じゃねぇさ、本質がよ。
強気で、強がりで、陽気にふるまっているのも。 繊細な本質を護りたかったんだよ。
本当は誰だってそうさ、そうなんだよな、誰だってよ・・・」


「でもなぁ・・・ 結局は、違うんだよな・・・ 何がかって? そりゃ、あんた。 あの地獄を体感している奴と、していない奴の差さ。
体感している奴ってのは、繊細だよ、臆病になるよ。 だからこそ、他人の怖さや絶望や、そんな諸々のものにも、敏感になるわな・・・」


「そうだな、気が焦るって言うのか? こんな後ろの国の、安全な街で暮らしているとよ。 余りに違いが大きすぎてよ。 
今の自分の暮らしは、自分で掴み取ったんだって、そう頭で判っててもよ。 気持はよ、何だかなぁ、後ろめたいっていうかよ・・・」


「頭と気持ちの整理がつかなくってよ。 それに、ここだって何時まで安全だか・・・
でよ、ついつい、そんな話しちまうんだよな、『お前ら、そんな悠長にしてていいのかよっ!?』ってよ。 けどよ・・・」


「返ってくるのは、呆れた眼差しや、馬鹿にしたような笑いだけさ。 『何を言っているんだ? ステイツが戦場に? 馬鹿な』ってよ・・・
ははっ、半世紀前、ユーラシアの人間の一体どれだけが、今の状況を苦慮していたってか? そうだわなぁ、人間、手前ぇの尻に火がつかなきゃ、実感出来ねぇやな・・・」


「結局、話がかみ合わなくってよ。 次第に、疎遠になって行くわな。 周りからは『変わり者』、『戦場帰り』ってレッテル貼られてよ。
そんな時だったけかな、あいつが近くの難民キャンプに仕事で出向いたのは・・・ ああ、FDA(食品医薬品局)の頃な。
何でも、難民キャンプで出回っている薬品に違法性のあるヤツがあるとか、何とか・・・」


「・・・ショックを受けて帰って来たぜ。 あいつだって、外国の難民キャンプは知っているさ。 酷ぇ所だってな。 ま、実はステイツも言えたもんじゃねぇが・・・
でよ、あいつはよ。 自分が命がけでユーラシアで戦って。 ユーラシアからそれ以上のBETAの侵攻を止める為に戦って。
その結果安全が確保されているステイツでよ、あの難民の惨めな姿を見てよ。 
余所のキャンプじゃ『アメリカ行き』ってな、一種の安全キップ手にしたように言われるからよ」


「命がけで戦った自分と。 難民キャンプで惨めな暮らししている難民と。 同国人だって居るわな。 戦友達と同じ国の人間も居るわな。
・・・納得できねぇよな? 気持ち的によ。 じゃ、安全を享受しているお前たちは何者だ、ってよ。 
でもよ、今じゃ自分も、その『何者』の一人なんだよな・・・」


「随分荒れてたぜ、あいつはさ・・・ どう気持の整理付けたらいいか、判らずによ。
昔を懐かしがってよ、あの戦場をだぜ? でもよ、夢で逢うのが辛いんだとよ、昔の戦友によ、死んじまった戦友によ。
みんな笑っているんだってよ。 『イヴァーリ、元気にやっているか?』って笑っているんだってよ。 それが、すごく辛いって、こぼしてたぜ・・・」














1230 イーストヴィレッジ


店を出て、あても無く、何となく街を歩いていた。

車の走りまわる騒音、クラクションの音。 人々のざわめき、街に流れる音楽。 
笑い声、怒った声、哀しい声、嬉しそうな声。
笑顔、不機嫌な顔、困り顔、ホッとした顔、幸せそうな顔。
快晴。 適度な快適な湿度。 心地よい、そよぐ微風。

そんな、何の変哲も無いNYの昼下がりの街の顔。
それがなんだか無性に悲しく、腹立たしく、そして羨ましく。

この街にとっては何事も無く、今日と言う1日を紡いで行く。


―――ドンッ!!

「っ!?」

不意に後ろから蹴りつけられた。

「なぁにボーっとしてんだよっ!? まるでカモネギじゃんか! 『どうぞ、掏って下さい』って、言ってるみたいだぜ?」

はは・・・ この子は元気だ。

「そうだな・・・ で、どうして『仕事』をしなかったんだ? アルマ。 俺はカモネギだったんだろ?」

そう言った途端、アルマは怒ったような、傷ついた様な表情になって怒鳴り始める。

「ばっ、ばかっ! アタシはこれでも義理くらい知っているよっ!! 
・・・母さんの風邪、良くなったよ。 まだ、イヴァーリおじさんが死んだ事はショックみたいだけどさ。
とにかく! アンタには借りが有るんだ。 そんな義理を破る事、アタシはしないよっ!!」


―――良い子だな。 どんな境遇でも、勁くて、真っすぐだ。


「そりゃ、失礼・・・ どうだ? 失礼ついでに昼飯まだだったら、一緒に食うか?」

「ホントか!? ・・・でもさ、なんかアヤシイな・・・」

「? 何がだ?」

「・・・アタシみたいな可愛い女の子、誘ってさ。 ・・・ヘンな事、考えてんじゃないだろうねっ・・・!?」

「・・・あと7、8年したら、考えてやるよ・・・」

―――はあ・・・ 俺はそこまで趣味の範囲は広くないぞ・・・

「むぅ~~? なんか、失礼な事言われた気がする・・・?」

「気のせいだ。 それより、食べるのか? 食べないのか? 食べないなら、俺一人で食べるぞ」

「わあ~~!! まった、まったぁ!! 食べる、食べるよっ!!」

歩き去ろうとする俺に、慌ててアルマが走り寄ってくる。
数日前はこの子もショックを受けていたのにな。 逞しいと言うか、ポジティヴと言うか。

「だってさ! クヨクヨしてもしょうがないじゃん! 食べて行かなきゃならないんだしさ!」

―――そうだな。 その通りだな。

・・・イヴァーリも。 この子の、この明るさには随分助けられたのかもな。
走り寄って、俺の周りをクルクル駆けまわるアルマを見ながら、ふとそう思った。

「で? 何を食べる? ・・・言っておくけど、俺は貧乏学生だからな」

「へん、しけたヤツ・・・ んっとね、ハンバーガー!!」

―――ハ、ハンバーガー!? ・・・もっと、普通にレストランとか、考えないのか・・・?

「だって。 テイクアウト出来無いじゃん!?」

―――・・・感心するよ、ホント。

もう、なんとでもしてくれ。 でも不思議と不快じゃ無い。 なんだかホッとする。 そう思う。
笑顔で言い切ったアルマが指差す先の、ハンバーガーショップを見ながら、そう思った。













1245 イーストヴィレッジ 某ハンバーガーショップ


「え、え~~っと・・・ ハンバーガー20個と、ビッグマック10個・・・ それとドリンク2セットですね・・・?
えっと・・・ 全部でハンバーガーが21ドルと、ビッグマック32ドル、ドリンク2ドルの、55ドルになりまぁす!」

―――どこの世界に、ハンバーガーばかり30個も食べる馬鹿が居るんだよっ!?
はあ、55ドルって・・・ 6日分の昼飯代が消えたよ、トホホ・・・

店に入って、ちょっとトイレに行きたくなったから、『先に好きなもの注文しておけよ』って言ったら・・・
レジカウンターは、ハンバーガーのちょっとした山脈が出来ていたと言う訳だ・・・

言いだした手前、それとハンバーガーの山を目の前にして、嬉しそうにしているアルマの手前。
最早何も言えず、泣く泣く10ドル札5枚に、5ドル札1枚との永遠の別れを告げた・・・


「うわあ~~!! すっごいなぁ! 豪勢だねぇ!!」

俺を赤貧生活に叩き落とすが如くの強奪をしていった小さな悪魔は。 そんな嘆きは全く意に関せず感激している。
それも、両手にハンバーガーを手にして、代わる代わる口に頬張りながら。

「・・・アルマ。 ハンバーガーは逃げないんだから。 取りあえず、両手で手に持つのは止めなさい・・・」

「ふぇ? ふぁんれ??(え? なんで??)」

「・・・何でも良いから・・・」

兎に角、周りでクスクス笑われている状況だけは、脱出したい・・・
でも、本当に気持ち良く頬張りながら食べているこの子を見ている内に、どうでもよくなってきた。
自分も腹が減っている事を思い出して、残ったハンバーガーに手を付ける事にした。

「でもな、俺もそんなに食べれる訳じゃないぞ? 4個も食べたら十分過ぎる。 アルマだってそうだろう?」

「残ったら、テイクアウトするって。 そうゆったじゃんか!」

「にしても、20個以上余ると思うんだけどな・・・?」

チッチッチ。 判ってないなぁ! 直衛はっ!
生意気に指なんか振っちゃってくれて、彼女の料理談議が始まった。

「バーガーの中身をね、ほぐしてさ! シチューなんかに出来るんだよ?
パンもね、ちょっと湯気に当ててやったら結構食べられるし。 固くなっても、パンケーキの材料に出来るんだってば!
まったく、みんな贅沢だよ、まだまだ美味しく食べられるのにさっ!」

成程、生活の知恵ね。 そういや俺って、ガキの頃は『食べ物を粗末にするんじゃありませんっ!』って、事有る毎にお袋や姉さんに怒られたな。
今にして思えば、あの頃も色々と工夫して料理してくれていたんだろうな。 うん、食べ物は粗末にするべきじゃありません、と・・・

「っ!? な、なんだよっ! 急にっ!?」

久方ぶりに家族の事を思い出して。 つい無意識にアルマの頭を撫でていたら、彼女が顔を真っ赤にして驚いている。

「いや、うん、良い事言うな、アルマは」

「? そ、そうだろっ! へへん!」

判ったような、判らないような。 そしてちょっと照れ隠しで。 
それでも美味しそうにバーガーを頬張るこの子を見ている内に、午前中から引きずっていた鬱な気分が少しづつ晴れて行く気がした。












1530 ワシントン・スクエア


昼食後、アルマと一緒に街をブラブラして歩いた。
特に何もあても無く、気の向くままに、あっちへ行っていよう、今度は向うに。 そんな感じで。

そしてそんな街中の一角の露店が出ている店先で。 ふと聞き覚えのあるメロディーが聞こえた―――『Amazing Grace』

「・・・オルゴールか」

造りは古い時代のヨーロピアン風だが、良く見れば粗末な作りの代物だし。 音も決して良くは無い。
―――でも、アルマが引き寄せられるように魅入っている。

まるで何かに魅入られたかのように。 ただ茫然と。 しかし、しっかりと凝視して。

「これ、いくらだ?」

「・・・20ドル」

「高い、10ドル」

「・・・15ドル」

「13ドル、どうだ?」

「・・・いいぜ」

露店の主は若いアフリカ系の男だった。 いや、微妙な発音の違和感が有ったから、本当にアフリカのどこかからの移民かも。
代金を手渡し、オルゴールを受け取る。 そのオルゴールをアルマが視線で追いかけている。

「ほら、行くぞ」

「え? あ、うん・・・」

歩きながら、オルゴールの蓋を開くと流れ出る、神の恩寵を讃えるメロディ。

「ねえ・・・ その曲、好きなの?」

アルマが下から覗き込んでいる。
その探るような目が、なんとなく可笑しく、可愛らしく、いじらしい。

「さあ、どうかな・・・? アルマは?」

「すっ、好きだよ・・・ アタシも、ママも、お姉ちゃんも・・・ イヴァーリおじさんも好きだったよ。 みんなで一緒に聞いたよ・・・」

「そうか・・・ うん、そうか。 だったら、プレゼントだ」

ほら。 そう言ってオルゴールをアルマに手渡すと、彼女は吃驚したような顔で聞き返す。

「プレゼントっ!? なんでっ!?」

「・・・一緒に飯食ってもらった礼。 一緒に遊んでもらった礼だよ」

「っ!? っ!?? ま、まあいいや・・・ なら、もらっとくよ。 ・・・ありがとっ!!」

―――本当にな。 その笑顔にお礼が言いたいんだよ・・・













1630 イースト・ヴィレッジ アルファベット・シティ


夕暮れ時。 空は綺麗な夕焼けに染まり、摩天楼が夕日を浴びて鮮烈な陰影を醸し出していた。

アパートまでの帰り道。 アルマはさっきから上機嫌でオルゴールを眺めている。 
蓋を開けて流れる曲を聞いてみたり、蓋を閉めて手に掲げて眺めてみたり。
そんな高価なものじゃないから、そこまで喜ばれるとちょっと気恥ずかしいが・・・

「気に入ってくれたかな?」

「えへへ・・・」

本当に嬉しそうに笑う。 夕日を浴びた彼女の金髪は、本当に黄金色のように綺麗で。 
その下で満面の笑みを浮かべる少女のその様に、今日どれ程救われたか。


そしてもうすぐ彼女のアパートの前に着く、その前には・・・

「あれ? なんだろ、アパートの前。 おっきなトラック?」

―――いや、大型のバンだが。 なんだ? 

そのバンには数名の、明らかに公的機関の職員らしき人間が待機していた。
訝しげにアパートの前までたどり着くと、その時に。

「っ!! ママっ! お姉ちゃん!」

「ああ、アルマ・・・」 「アルマ、ゴメンね・・・」

夫人が悲しげにうなだれ、そしてアルマの姉―――イルマと言う名だったか―――と思しき少女が、アルマに謝っている。

「どうしたのよっ! ママ!! ごめんって、なにが!? ねぇ! お姉ちゃん!!」

「君が―――アルマだね? アルマ・テスレフだね?」

母と姉に詰め寄るアルマを制して、横から壮年の白人男性が問いかける。
もしかして、この連中・・・

「っ! だったら、何だってのさ!!」

「私は司法省移民局の者だ。 君達は難民キャンプから正式な許可無く、不法居住をしている・・・ 移民法違反なのだよ」

「・・・え?」

―――やはり、移民局か。 と言う事は、さっき姉のイルマが言っていた『ゴメン』と言う事は・・・

「イルマ・テスレフに関して、働き先からの通報が有った。 君達の家族は合衆国移民法を犯している。
それに従い―――難民キャンプへ移送が決定した。 モンタナ州のルイスタウン難民キャンプだ」

―――モンタナ州! ロッキー山脈のステイツの北辺じゃないか。 カナダとの国境近く、そんな僻地に・・・

「やっ・・・ ヤダっ! ヤダっ、ヤダっ! 行くもんかっ! 行きたくないよっ!!」

「うう・・・」 「ア、アルマ・・・」

「イヤだよ! キャンプなんて、イヤだよっ! どうして、ここにいちゃいけないのさっ! 
だれにも迷惑かけちゃいないじゃないさっ! どうしてさっ!!」

「・・・NYPDに通報しないだけでも、感謝して欲しいのだが・・・」

「うぅ~~~っ!!」

―――くそっ! どうすれば・・・ どうすべきなのか・・・

気ばかり焦って、体が動かない。 俺はどうすればいい? どうすべきなのだ?
何か言いたいのに、声が出ない。 考えもまとまらない。 クソっ!!

その時、一人の係官が俺の肩を微かに掴んで、小声で囁いた。

「君は、この家族の関係者か?」

「知人だが・・・」

「IDを」

身分証明の提示を促され、国連軍のIDを見せると納得はしたようだ。

「悪い事は言わん。 周防中尉、ここは何も手を出さないで欲しい。 
我々とて国連軍の君を、『ペルソナ・ノン・グラーダ(Persona non grata:好ましからざる人物)』として、国外追放処分にしたくはないのだよ」

―――ッ!!

「君とて、国連軍の軍務に従いこの国に滞在しているのだろう? 
今ここで国外追放処分になると言う事は、どう言う事か。 頼むから、大人の対応を願いたい」


ふと、アルマと目が有った。 彼女が目で救いを求めている。 俺に、救いを。

「周防中尉。 君も公的な人間なのだ、それを理解してくれていると、我々は期待する」

―――ダメだ、連れて行くな、彼女達を連れて行くな。 彼の傍に、彼の眠る傍に居させてやってくれ・・・

体が動かない。 声が出ない。 何とかしたいのに、何かを言いたいのに。

「~~~~ッ!!」

何も言えない・・・!!

やがて、夫人と姉のイルマが係官に促されてバンに乗り込んだ。
そして、アルマが・・・

「イヤだっ! やっぱりイヤだよぉ!! 助けてよ! ねぇ! 助けてよぉ、直衛ぇ!!」

―――アルマ・・・ッ!!

俺の顔はどんな表情だったのだろう? アルマと目が合い、そして彼女の必死の表情が急に絶望の色に変わるのがはっきり判った。
そして係官に手を引かれて、悄然としてバンに乗り込むアルマが。 最後に振り向いて俺を見た。 その時の彼女の顔。
振り向いたアルマの顔には、悲しみと、絶望と、不信と、困惑と。 そして、諦めの色が・・・


―――バタンッ!

移民局のバンは扉を閉め、夕暮れが急速に暗さを増してきた街を走り去って行った。



ふと、何かの音に気付いた。 呆然としながら振り向いた先に見たモノは・・・
散乱したハンバーガーと共に、炉端に転がるオルゴールの音色が何時までも流れていた。













1995年6月29日 1500 ニューヨーク 公立共同墓地


昨日からの雨は今日も降り続いていた。 薄暗い雨空が天を覆っている。

俺のNYでの留学生活は今日で最後だ。 明日にはアラバマ州・マクスウェル基地に移動する。
そのNY最後に日にやって来たのは、共同墓地。 とは言っても、墓は大変ささやかなモノだ。 
一面の壁に、横10インチ、縦5インチ程の窪みが有る。 そこに故人の名と生没年、そして十字架の彫刻が有るだけ。

『 イヴァーリ・カーネ 1965.4.18 ~ 1995.5.25 』

たったそれだけが刻まれた墓標。
たったそれだけの言葉が持つその意味を。 彼が生きた事を。 さっきからずっと想っていた。
ずっと想い、ずっと考え、すっと悩んだ。


―――何も、判らないよ、イヴァーリ。 判らない、教えてくれよ、イヴァーリ・・・















1995年6月30日 1300 ニューヨーク・クイーンズ ラガーディア空港


「やっと晴れたな。 昨日の雨が続いていたら、今日の出発も変更だった、ツイているよ」

「・・・ああ、そうだな」

「しかし、正直目の回る6ヶ月だったな。 アメリカの大学があれ程ハードだったとは・・・」

「・・・訓練校の方が、マシ。 茹ったね、アタマ・・・」

「ははっ 良い事言うな、ぺトラ。 なぁ? 直衛?」

「・・・ああ、そうだな」

「「・・・はぁ・・・」」

・・・何だ? 2人して盛大に溜息ついて?


「なあ、おい。 ショックなのは判るが、いい加減引きずるのは止めろ。 そんな調子でアラバマに行く気か?」

「中尉、らしくない。 ・・・お腹痛い?」

・・・それは、暗にヘンなものでも食ったのか? と言う意味か? ぺトラ。

「別に、引き摺っている訳じゃないよ。 ちょっと、呆けているだけで・・・」

「どう違うんだよ?」

「いいだろ、別に・・・ この数カ月に浸っているだけなんだから・・・」

―――処置無し。

イルハンもぺトラも、匙を投げたようだ。
何も別に、引き摺っている訳じゃない。 そう、引き摺ってなんかいやしない。

この巨大なビッグアップルで。 一人の男が死んで。 一組の不法居住難民家族が検挙されただけの事だ。
別に最前線が崩壊した訳でも、ステイツにBETAが流れ込んで来た訳でもないし、俺の祖国が蹂躙された訳でもない。

そう―――別に、何でもないんだよ。 ごく普通の、ごく当たり前の一幕だったんだ。 
誰も気にも留めない、流れ去って行くだけの事なんだ・・・


「おい、直衛・・・」

イルハンが声をかけ、顔で指したその先に・・・

「・・・サラマト刑事?」

「よう。 今日出発だって聞いてな」

―――わざわざ、見送りに? 律義な刑事さんだ。

俺達はちょっと席を外すから。
そう言ってイルハンとぺトラは近くのスタンドまで、ドリンクを買い求めに席を立った。


「なんかワリィな、気を使わせたみたいでよ・・・」

「いや、いいさ。 で、どうしたんだい? 見送りなんて。 そこまで気にかけて貰う覚えも無いけれど」

「ちぇ、正直な奴だな。 俺も、何でか判らんよ。 急に思い立ってな」

それから2人して暫く無言でコンコースを眺めていた。
とくに話す事も無い。 共通の記憶は余り思い出したくない。

「・・・世の中ってな、こんなものさ。 この商売やっているとな、そう思う。 
同じように世界を見ているのさ、この国は。 体感しないと、実感できねぇしな・・・」

「・・・誰だって、そんなものだろ・・・」

「そう思うか?」

「ああ」



やがて搭乗アナウンスが流れ始めた。

「さて・・・ これでNYとはお別れだ」

「もう来る事は無いのかい?」

「余程じゃないとな・・・ 俺は本来、前線の野戦将校。 衛士だしな」

そうか、そうだったな。
そう呟いたサラマト刑事が、意外な事を言ったのはその時だった。

「あの家族が検挙された事な。 移民局が動いたのは、俺の報告書が元ネタなんだよ・・・」

―――なんだって?

「コンプスタット(Comp Stat:犯罪削減及び防止目的戦略管理システム)のデータがよ、移民局のデータにリンクしててよ。
それで、連中が動いたらしい・・・」

―――じゃ、姉のイルマが謝った事は筋違いなのか・・・

何の事は無い。 これも日常。 この国の巨大なシステムの歯車の一つが合さっただけの話さ。

イルハンとぺトラが搭乗カウンターから呼んでいる。
荷物を手にして2人の元に向かう。 その時。


「なあ! ―――俺は、俺の名前は、ヌーリ・サラマトなんだ!!」

その時の彼の表情を、何と表現したら良いのだろうか。
怒り、悲しみ、悔悟、遣り切れなさ、不安、諦観、そして―――贖罪?

ああ、そうじゃない、そうじゃないんだ。 君はそうじゃない。 君はイヴァーリじゃない、そうなっちゃいけないんだよ。


「いや―――君は、ジョン・サラマトだ。 そうあるべきなんだ。―――さようなら、ジョン・サラマト」










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