『第13強行偵察哨戒戦術機甲中隊『スピリッツ』 戦闘詳報 1996年4月24日』
『1996年4月24日
・0810 出撃。 カレー方面第1防衛線にて、BETA群約4000と交戦。(協同部隊、第3旅団第1大隊、第2大隊)
・1025 帰還、損失無し。 補給、整備を行う。
・1215 出撃。 ダンケルク方面第1防衛線前面(ウォッカ、ドライジン)、ブーロニュ・シュル・メール方面第1防衛線(ブランデー、ウィスキー)
・1235 ダンケルク方面、会敵。 BETA群約2500
・1240 ブーロニュ・シュル・メール方面、会敵。 BETA群約2000
・1345 全隊帰還、損失無し。 補給、整備。 数名、消耗が激しい。
・1510 出撃、哨戒偵察。
・1520 カレー第2防衛線(協同部隊、第3旅団第12、第22中隊)にて会敵。 BETA群約400
・1550 ダンケルク方面へ移動。 第2防衛線にて会敵。 BETA群約280
・1640 帰還、損失無し。
・2030 出撃。 カレー方面第2防衛線(ドライジン、ウィスキー)、ブーロニュ・シュル・メール方面第2防衛線(ウォッカ、ブランデー)
・2045 カレー方面会敵。 BETA群約2000
・2050 ブーロニュ・シュル・メール方面会敵。 BETA群約1600
・2140 全隊帰還。
・2230 出撃。 カレー=ダンケルク中間点第2防衛線(ドライジン、ウィスキー) カレー=ブーロニュ・シュル・メール中間点第2防衛線(ウォッカ、ブランデー)
・2310 会敵。 BETA群、全戦線での総数、約6万5160
・2335 艦隊による全力効力射撃開始。 砲兵部隊による全力効力射撃開始。
・0045 再突撃。
・0135 帰還 』
1996年4月25日 0655 北フランス ブールニュ・シェル・メール前面 第2防衛ライン付近
朝日に照らされる空から轟音を残して、英海軍のF-4Kの1個編隊(中隊・12機)が肩部装甲ユニットに組付けた3連装ミサイルユニットから、アスター15対地ミサイル6発を一斉に発射した。
都合72発の大型ミサイルが音速の3倍の速度で突進してゆく。
迎撃レーザー照射が行われるが、低空を猛速で飛び、最後にポップアップするミサイルをなかなか捕捉出来ていない。
アクティヴVT信管が目標を捕捉して炸裂。 破片調整弾頭が高速で砲弾破片や小型弾芯をばら撒き、BETAを薙ぎ倒してゆく。
小型種には防御手段など無いに等しい。
大型種でも要撃級は柔らかい部分の露出が大きく、突撃級でさえ節足部を破傷して動きが鈍る。
『バッカニア01より、『スピリッツ』! 出前は完了だ! 次は『アルビオン』の第3中隊が15分後に来る、それまで気張ってくれ!』
『バッカニア』―――英海軍戦術機母艦『クイーン・エリザベス』の第5中隊が広域支援攻撃を終えて飛び去ってゆく。
カレー方面には英国の3母艦『クイーン・エリザベス』、『セントー』、『アルビオン』が支援に入った。
F-4Kが156機、13個編隊(中隊)、15分おきに1個編隊が広域制圧支援に入ってくれる。
『スピリッツ・リーダーよりバッカニア! 支援感謝する!
大穴が空いたぞ、『ドライジン』! 『ブランデー』! 突っ込んで光線級を仕留めてくれ!
周防、長門! 突撃前衛上がりの腕、見せろよ!?』
「了解。 十分なお膳立てだ」 『10分以内に片付ける』
俺と圭介の率いる2個小隊のF-15E、8機がぽっかりと空いたBETA群の穴へと突っ込む。
左右から要撃級や戦車級が穴を塞ぎにかかるが、36mmの弾幕射撃と120mmHESH弾で掃討する。
『直衛、右の20体頼む。 こっちは左の18体を片付ける』
「了解。 気をつけろ? 左前方、奥に要塞級8体」
『承知』
群れを突破した所で2手に分かれる。 サーフェイシングは最高速度に近い。
「ドライジン、一気に間を詰めるぞ! 懐に飛び込めば、光線級はただの射的だ!」
4機のF-15Eが一気に距離を詰め、至近から36mm砲弾の雨を光線級に浴びせかける。
1回に1秒か2秒の射撃で1体を葬る。 3、4秒の連続射撃で射線をずらしながら数体を纏めて葬る。
その間、機動は止めていない。 群れから別れて集まり始めた小型種―――厄介な戦車級に取り付かれないようにする為だ。
それぞれ3体ばかり倒した時から、戦車級が鬱陶しくなるほど集まってくる。
大型種は『ウォッカ』、『ウィスキー』が相手取ってくれているが、小型種までは手が回らない。
「しつこいな・・・っ! 消えろっ!!」
120mmキャニスターで戦車級の群れを纏めて葬り去る。
弾倉交換―――リロードして弾種交換する暇はない。 光線級には36mmで、戦車級には120mmキャニスターで対応するか。
『03よりリード、あと7体』
「5分以上かけるな、流石に小さいのが群がってくると対応しきれない。 それに向うの奥の要塞級が厄介だ、『ブランデー』に取りこぼしが出来そうだ」
エレメントに分かれて掃討を再開する。 1機が光線級の排除を担当し、残る1機が群がってくる小型種の掃討を受け持つ。
一気呵成に行った方が早い気がするが、実はそうではない。 2目標に分散されるとその対処が後手に回る。 隙を突かれ易くもなる。
基本すぎるように見えても、基本に従った方がここは早いと判断した。
俺が光線級に36mmを叩き込む間、エレメントを組むロマン・ポランスキー中尉が120mmキャニスター弾で周囲を掃討する。
向うでは第2エレメントのライアン・ギグス中尉とレーヴィ・シュトラウス少尉が同様に掃討戦を展開していた。
『―――これで、17体目! 残り3体! しかし、意外だったな、周防!』
「何がだ? ライアン?」
『君の指揮ぶりさ! 突撃前衛上がりと聞いていたから、もっと派手に一気呵成に行くものと思っていたが! どうして、どうして、教本並みの基本戦術だ!』
「18体目、撃破! 全て教科書通りは捻りもクソも無いが。 教科書を否定する事が応用でも、新戦術でも無い、そんなモノはただの馬鹿だ。
だからこそ、俺達は今まで生き残ってきた―――そうじゃないか?」
『19体目、キル! 確かにね! 基本あっての応用! 新戦術ってのは、基本の枠内での新しい応用だしな!』
何でこんな場面で、座学の基本戦闘講義の復習をしているんだ? 俺達は―――サーフェイシングで小型種を避け、20体目の光線級に36mmをたらふく叩き込み、霧散させる。
「右翼は片付いた! 圭介、左翼は!?」
『14体まで始末したが、残り4体が要塞級の陰に隠れやがった! 手伝え!』
「了解! 右側面から突っかかる! 『ドライジン』、要塞級の右側からだ! 後ろには光線級が居る、跳躍は控えろ!」
全速で要撃級の右側面に弧を描く機動で急速接近する。 その間に突撃砲の弾倉を120mmAPFSDS弾に換装する。
要塞級相手にキャニスターなど、豆鉄砲にもなりゃしない。
相変わらず、デカイ―――だが、数が少ない。 『ブランデー』は8体の内、2体を既に始末している。
なら2個小隊で3体づつ始末さえすれば。 要塞級の右前面で小さく噴射跳躍。 三胴構造各部の結合部前面に120mmAPFSDS弾を連射で叩き込む。
結合部が2か所、弾け飛んで千切れ飛んで倒れる。 要塞級はその巨大さと比較して重心が高い。 片方を千切り飛ばしさえすれば、容易に無力化出来るのだ。
『ついさっき、跳躍は控えろって云ったのは、誰だっけか?』
ロマンが含み笑いしながら、周りの小型種を掃討している。
『やるなと言った傍から、自分でやっちまうんだもんなぁ! こう言う所は、突撃前衛か!』
ライアンが側面から、120mmAPFSDS弾を上方へ向けて叩きこんでいる。
その後ろでレーヴィが周囲を警戒する。
「要塞級と同程度の高度までなら、跳躍しても実害は無いんだよ! 光線級も誤射を恐れて、滅多にレーザー照射してこない!
突撃級や要撃級を避けながら、要塞級を始末する時のテクニックだ! 覚えておいて損は無いと思うぞ?」
要塞級は全高66m。 戦術機は18mほど。 突撃級の全高16mで、要撃級は12m。
高度40m程までの跳躍ならば、突撃級や要撃級に邪魔されず飛び越した上で、光線級のレーザー照射を殆ど気にせず要塞級に攻撃を掛けられる。
要塞級の左右10本の脚の可動範囲は限られているし、50m以内に入りこまなければ忌々しい触手に捕まる事も無い。
それに100m以内の射撃距離は、突撃砲の120mm砲弾にとっては至近距離だ。 一般に言われる程には、俺は対要塞級に対して戦闘面での脅威は感じていない。
要塞級の脅威とは、地中侵攻の主役である事と、その腹の中に光線級を抱え込んで出現してくる事だ。
『ドライジン、ブランデー・リーダーだ。 余りそいつの言う事を鵜呑みにするなよ? 何事も基本が大切だからな!』
『ドライジン02より、ブランデー・リーダー、了解。 流石付き合いが長いとよく判っている!』
『ドライジン03だ、ブランデー・リーダー、良い事を聞かせてくれた!』
『ドライジン04、こんなに支持されない指揮官も珍しいですね? リード?』
「喧しいっ!! 要塞級は片付いた! さっさと光線級の残りを片付けろ!!」
「どうやら、厄介な光線級は片付いたか。 『ドライジン』、『ブランデー』! 戻って来てくれ、こっちも早々は持たない!」
突撃級と要撃級を相手取っている第1小隊『ウォッカ』と、第4小隊『ウィスキー』は機数が減っている。
つい1時間前の戦闘で、それぞれ1機づつを失っていた。 2個小隊で6機程度の戦力ではどうにもならない。
ここはまずは一旦引いて・・・
『引くなっ! 堪えろ、支えるのだ!』
不意にオープン回線から、逼迫した女性の甲高い声が響き渡る。
―――くそっ! あのお姫さん、まだ判っていないらしいなっ!
エルデイ・ジョルト中尉が忌々しげに見つめる先には、傍らで共に前線を支えている僚隊。
英軍から急派されてきた『プリンセス・オブ・ウェールズ・ロイヤル連隊(PWRR)』の第3大隊。
大隊長のローズマリー・フィリパ・ヴィア少佐が部下を叱咤していた。
確かに戦力増強は有り難かった。 海軍部隊が投入されるまでの時間、戦線を支え切れたのは彼女達『姫様連隊』のお蔭でもある。
だが、ここにきて厄介なことにもなりかけている。 彼女達は短時間の間引き攻撃の経験は豊富の様だが、今回の様な何時間も、何日間も継続する戦闘は未経験の様なのだ。
お陰で力の抜き加減が判らない。 常に全力で戦っている為、そろそろ気力も体力も限界に近付いている。
体力の消耗は、気力と集中力の低下に直結する。 そしてそれは即座に『死』に繋がる。
事実、この2時間で第3大隊は定数36機の内、実に13機を失っていた。 1個中隊分が壊滅したのだ。 残り23機。
そしてその皺寄せはこっちに回ってくる。
第1小隊のジャンゴ・ラインハルト少尉と、第4小隊のエミール・ザトベック少尉が戦死したのも、つい1時間程前に『ガーネット(PWRR第2大隊)』を支援した時だ。
倒しても、倒しても湧き出てくるBETAに、とうとう我慢が出来ずパニックを起こした新米を助けようと、エレメントリーダーがサポートした時、要撃級に差し込まれた。
2機揃って硬直している所を、ジャンゴとエミールが助けに入ったのだが。
護りながら要撃級を捌いていた2人だが、横合いから別の要撃級の群れに突っ込まれた。 中隊は手が回らなかったのだ。
結局、4機ともBETAに喰われた。 ジャンゴは悲鳴も上げなかった。 エミールの『ついてない・・・』の呟きが耳に残る。
『ガーネット』の2人の衛士の最後の声は、絶望的な悲鳴だった。
『うっ・・・ うわあぁぁぁ!!』
『来るなっ! 来るなっ! 来るなぁ!!』
『・・・主よ、我を救い給え・・・』
悲鳴、絶叫、哀願。 通信回線から聞こえてくる声は、この大隊が最早、限界点に差し掛かっている事を示す様なものばかりだった。
「スピリッツ・リーダーより、『ローズ(PWRR第3大隊)』! 至急! 第2防衛線内側まで後退して下さい!」
『何を言う! ジョルト中尉、我々は引かぬ! ここを引いては戦線が・・・ッ!』
「引かなきゃ、後ろの連中が支援砲撃を開始できないっ! 友軍誤射で死にたいんですかっ!
何の為にウチの2個小隊が突っ込んで、光線級を始末したと思っているんですかッ!」
―――くそっ! 指揮官なら、まともな思考力を残しておけよっ! 何の為に『ドライジン』隊と、『ブランデー』隊を無理して突っ込ませたと思っているんだ!!
艦隊と砲兵連隊の支援砲撃開始まで、あと10分。 それまでに遅滞防衛戦闘を行いつつ、防衛線内側まで後退しなければ巻き込まれてしまう!
その為に、厄介な光線級を予め始末するのに、無理を承知で周防と長門に突っ込んで貰ったんだ!
突撃前衛上がりの2人なら兎も角、迎撃後衛上がりの俺やマイケルでは上手く突撃指揮は取れない!!
『エルデイ! 左翼の要撃級、約800! 突っ込んでくるぞ!』
2番機の久賀が、切羽詰まった声で注意を促す。
『ウォッカ』隊のマイケルが、小隊を左翼に展開させた。
見ると左翼に固まっていた要撃級の1群が動き始めている。 駄目だ、あれに突っ込まれては壊滅する!
『ドライジンだ、光線級は片付けた―――おい、エルデイ! 貴様、何していた!? まだこんな所で!?』
『頼むぜ、おい! 死地から帰ってきたら、またまた死地か!?―――要撃級が突っ込んでくるぞ!?』
「くっ! 判っている! 周防、長門! 悪いが遅滞防御戦闘! 付き合ってくれ! あと5分で海軍さんがまたやってくる!
ヴィア少佐! 旅団命令が出ているんです、早く! それともここで命令無視しますか!? 死んでも不名誉しか残らんですよっ!?」
前面の要撃級と小型種の群れに、120mmHESHを叩き込む。
『ウィスキー』隊は左翼を警戒しつつ、やはり群がってきた小型種を始末する為にキャニスター弾をばら撒いていた。
『ドライジン』、『ブランデー』の両隊が後方から無防備なケツに36mmと120mmを浴びせかけ、こっちに戻ってきた。
『くっ・・・! 『ローズ』全機! 一旦防衛線内部に引くぞ! 各機、斉射3連!―――よし、引けぇ!!』
23機の、いや、更に1機減った22機のトーネードⅡGR.5Bが跳躍ユニットを吹かして後方へと退避する。
これで残るのは『スピリッツ』中隊のみ―――
『ま、却って子守りの必要が無くなって良かったかな?』
久賀が不意におどけた調子で言う。 奴にしては珍しい。
『そうかぁ? 逆に良いトコ見せれば、上手く良きゃ、逆玉の輿だったかもよ?』
これはイルハンか。 逆玉ね? お前、こっちに来てから同郷の『グラム(第3旅団23中隊)』の女性衛士に、何かと言い寄っていたんじゃ無かったか?
『日本の武家とかと違って、欧州の貴族は庶民との結婚も、ままあるって話だしな?』
お? 長門、本気か?
『スウェーデン王太子やっている第1王女の婚約者は、只の実業家ですよ。
親父のスウェーデン国王陛下にしても、妃の王妃様はドイツ人とブラジル人のハーフで、南米育ちの庶民だし』
ドイツ繋がりか? レーヴィが詳しい事を言う。
『EUの父―――リヒャルト・ニコラウス・クーデンホーフ=カレルギーは、オーストリア=ハンガリー帝国の貴族、ハインリヒ・クーデンホーフ=カレルギー伯爵の息子だが。
その伯爵の妻でリヒャルトの母は日本人で、東京の骨董品屋の娘だったしな。 庶民出身の伯爵夫人。
ま、本気で狙うならそれも良いさ。 ―――生き残ってからな! 突っ込んで来たぞ!』
周防の一言で皆が戦闘モードに入ったようだ。
そう、全ては生き残った奴が手に入れる話だ。 死者には何の権利も無い!
「スピリッツ! 海軍機の支援まであと2分! 支えろっ!!」
全機がAMWS-21突撃砲を構える。 もう支援速射砲など、どこぞでぶっ壊れて転がっている。
各々が装備した4門の突撃砲―――両腕に2門、可動兵装担架システムのアームに取り付けて前面展開させた2門。
たったの14機、弾幕張ってもどれだけの効果か正直不安だが。 それでもイチイチ機動を駆使して斃すより効果的だ。―――相手は合計で1000体近い要撃級の群れだからな。
地響きを立てて要撃級の大群が迫ってくる。 灰色と汚れた黒の大津波、腸がねじ切れそうな気分だ。
『スピリッツ! こちら『カットラス』だ! アスターミサイルの出前、届けに来たぞ!』
「カットラス! 有り難い! 兎に角、要撃級のど真ん中に放り込んでくれ! 邪魔な光線級は始末した!」
『了解! 頭を低くしていろ! ―――全機、発射!!』
以外に小さい発射音と共に、再びアスター15対地ミサイルが発射される。 72発。
要撃級相手にどれだけ効果が出るか・・・ 着弾。 うん、100体は吹き飛んだか?
『スピリッツ! 光線級はいないと言ったな? ならサービスだ! 全機、フライパスしつつ、制圧射撃!』
欧州連合軍が標準装備するラインメイタルMk-57中隊支援砲。 海軍機は全機が装備している。
その高初速速射砲を下に向け、57mmの弾幕射撃を上方から要撃級に浴びせつつ、F-4Kの12機がフライパスした時には、実に200体近い要撃級が屠られていた。
一航過だけでなく、帰りも弾幕射撃を見舞っていった『カットラス』の通り魔のような攻撃が終わった時、要撃級の群れは半数近くに減少していたのだ。
『ドライジン・リーダーだ、CP、近辺に光線級は?』
周防が何かを考えたか、CPに光線級の確認情報を聞いている。
≪CPよりドライジン・リーダー。 居ないな、少なくとも半径50km圏内には確認されていない。
カレー方面とダンケルク方面は、まだいるようだが?≫
『判った、サンキュ。 ―――エルデイ、簡単な事を忘れていたよ、俺達は』
「何だ? 周防?」
『半径50km圏内に光線級が居ない。 少なくともNOE高度200までは上がれるんだ』
思わず苦笑する。 皆も同じだ。 全く、俺達もお姫様達の事は言えんな、余裕を無くしていたか。
「スピリッツ! NOE制限高度は200! 頭上からたっぷり砲弾を浴びせかけてやれっ!!」
1996年4月25日 1120 カレー沖 タラワ級強襲揚陸艦『サイパン』
「第21遠征打撃群、戦術機甲部隊、発進準備完了しました」
「国連軍第1即応兵団司令部より入電。 『感謝を。 貴隊の勇戦を祈る』です」
「『レイテ・ガルフ』、『ジョン・ポール・ジョーンズ』、『カーティス・ウィルバー』、VLS発射」
「『オースティン』、『トーテュガ』、『ハーパーズ・フェリー』、揚陸作業開始」
「A-6(イントルーダー)中隊が、揚陸地点を確保。 警戒に入ります」
「第1、第2空中機動中隊(AH-1W・各12機)発進しました。 目標、カレー第2防衛線に浸透した小型種の殲滅」
「第1152海兵大隊、揚陸開始します」
LCAC-1級エア・クッション型揚陸艇が10隻、海岸線へ向かって猛速でダッシュしてゆく。機械化歩兵装甲部隊である海兵隊が、所狭しとスシ詰めにされていた。
上空にはAH-1W『スーパーコブラ』攻撃ヘリが低空を戦場に向かって突撃している。
最大巡航速度が150 kt /277.8 km/hは、戦術機のNOEに比べれば鈍足だが、対小型種BETA戦闘では戦術機よりも有効だ。
万が一に備え、MH-60R統合多用途艦載ヘリ・シーホークが4機、ソノ・ブイを海中に投下している。 BETAの海中浸透を警戒してだ。
「よい上陸日和になったね」
第26任務部隊司令官・パトリック・ジェームズ・シモンズ海軍少将が上陸地点を見つめながら呟く。
カレー基地西南5kmの海岸線地帯。 丁度良い場所に、丁度良い上陸地点が有ったものだ。
「何、先の世界大戦でも、候補に挙がっていた場所さ。 結局はノルマンディーに決まったがね」
「・・・『インディペンデンス』の第1155大隊と、『プリンストン』の第1156大隊はこのままカレー防衛線に向かわせます。
『ベロー・ウッド』の第1157大隊はダンケルクへ、『カウペンス』の第1158大隊はブーロニュ・シェル・メールの増援に。
『モントレー』の第1159大隊は戦術予備に。 ブロウニコスキー少将とは先程、話を付けましたので」
第38戦術機甲旅団長、ジョージ・ライネル陸軍准将が方針を告げる。
「うん、陸上部隊の指揮官は君だ、良い様に。 ところで欧州の連中、意外に健闘したのだね?」
「そのようです。 現在、第1旅団の残存戦力は151機、第2旅団150機、第3旅団155機。
これに我が軍の戦術機甲部隊を加えれば、第1は189機、第2は188機、第3が193機。これに欧州連合海軍の母艦部隊が残存261機。 合計831機。
第20任務部隊 (Task Force 20, CTF-20 第2艦隊母艦任務部隊)が到着するまで、十分支えられます」
「督促しておいたよ。 それとは別に、第7軍本隊は?」
最後の要、巨大な戦闘力を誇る米第7軍本隊が到着出来れば、この死闘もケリがつくだろう。
戦術機600機以上、戦車600両以上。 各種火砲、支援部隊の充実ぶりは欧州連合軍のそれを、遥かに凌駕する。
そしてそれを支える継戦能力。 なにも精強さは正面戦力だけで測るものではないのだ。
「予定より若干早まりそうだとの連絡が。 第7軍団は明日、26日の1630に。 後続の第9軍団はやはり26日の2200の予定です」
「ふむ・・・ まるで『ブル』じゃないか? Jr.(アレキサンダー・レイモンド・スプルーアンスJr米海軍中将。 第2艦隊司令長官)は冷静な男の筈だが?」
「気が逸っているのでは? 流石のJrも、これ程の実戦は初めてでしょうし」
「或いは、CTF-20司令官に引きずられたか?」
「仕掛けたのは閣下でしょう?」
「なに、早く事を終わらせれば、それに越した事は無いよ」
2人の高級指揮官は顔を見合わせ、思わず笑ってしまう。
先程、シモンズ海軍少将が発信した緊急電に対する、応答電が入ったのだ。
「予定が前倒しになるが。 欧州の連中にとっても、悪い話じゃあるまい? 早ければ今夜のうちに、彼等は来る」
『我が戦術機は着きしや? 未だBETAのみなりや? 第20任務部隊いずこにありや? 全世界は知らんと欲す』(―――1996年4月25日 1115 合衆国海軍第2艦隊・第26任務部隊よりの緊急電)
『我、31ノットで急行中』(―――1996年4月25日 1135 合衆国海軍第2艦隊・第20任務部隊よりの応答電)
「『サーティワンノット・バーク』、アルバート・バーク(米海軍少将)も、祖父の名を汚す事だけは無い男だよ」