== Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~ ==
時間は、深夜……。
少年は、いつも通りに日常を終え、いつも通りに己を鍛えに向かう。
場所は、土蔵。
少年が、一番落ち着ける場所……。
少年は、竹刀を正眼に構え、目を閉じ自分との対話を始める。
月が傾き始め、土蔵の小窓から月光が中を照らす。
土蔵の中では、十年前に描かれた魔法陣が月から魔力を得るかのように輝き出す。
魔力が満ちた魔法陣は、朝の光のように土蔵を照らし出した。
少年もようやく気付き、凄まじい光を両手で遮った。
魔法陣からは、徐々に人が姿を現す。
光の収束と共に、そこには一人の甲冑を着けた少女が、神話の絵から抜け出したように威風堂々と立っていた。
金毛の髪を束ね綺麗な顔立ちをした少女は、ゆっくりと瞳を開くと目の前の少年を見据える。
そして、落ち着いた口調で口を開く。
「問おう……。
貴方が、私のマスターか?」
「違います。」
第1話 月光の下の出会い①
少年は、キッパリと言い切った。
少女は、目を丸くして鳩が豆鉄砲をくらったように停止している。
少年は、深夜の……しかも、土蔵に甲冑を着て現れた少女に不審の目を向けている。
少女は、徐々に怒りを表し、少年に再度問い掛ける。
「冗談は止めて頂きたい。
貴方が、マスターでしょう!」
少年も突然の怒気の篭もった言葉に敵意をあらわにする。
「何言ってるんだ!?
深夜に人様の土蔵にあがり込んで!」
「な!?」
少年の言葉に少女は自分のプライドを傷つけられたような気になる。
収拾しない事態は、更に場をヒートアップさせていく。
「ここには、貴方しかいないのに
貴方以外の誰が、私を呼び出したというのですか!」
「しつこい外国人だな!
俺は、お前なんか呼んでないの!
お前が勝手に地面から湧いて来たんだよ!」
「人を害虫か何かと一緒にしないでください!
それに貴方は、私が呼ばれたのを見ているではないですか!」
「だから、知らないって!」
「人を呼び出して置いて、知らないでは済みません!」
しつこい少女に少年は鬱陶しく突き放す。
「ああ、もう分かった!
分かったから!
俺が呼び出した!
だから、もう帰ってくれないか?」
「こ、こんな屈辱は初めてです!
今の言葉を訂正しなさい!」
「やっぱり、勝手に湧いて来たんじゃねーか!」
「訂正するのは、そこではない!!」
「本当にしつこいな!
何? 家出?」
「そんな訳ないでしょう!」
「じゃあ、なんなのさ?
あんたの格好、普通じゃないぜ?」
「この格式高い鎧の何処がおかしいのです!」
「気付かないなら、頭がおかしいんじゃないのか?」
「今の言葉は許せません!」
少年と少女は、噛み合わない会話で怒鳴り合い、肩で息をしている。
出方を伺うタイムラグは数秒。
視線が交差し、両者息を吸い込む。
そして、次の言葉を発すべく利き足と逆の足を踏み込み、再度、話し合う(?)べく口を開く。
しかし、幕を引く決定的な言葉が土蔵の隣の家から響く。
「うるせぇぞ!
何時だと思ってんだ!」
「…………。」
少年と少女は、お互いの顔を見合うと沈黙した。
「「……すいません。」」
そして、月の光が照らす綺麗な夜に謝罪の言葉を口にする。
それは、彼らの気持ちが一つになった初めての行動だった。