== Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~ ==
本題に入る事が出来、安堵する赤い主従。
しかし、士郎の話を聞く限り、相手は、まだ、聖杯戦争の準備すら出来ていない状態だった。
凛は、何処から話そうかと思ったが、今、一番の悩みの種である結界について話す事にした。
「衛宮君、まず、結界の事から話させて貰うわ。」
「さっきも、そんな事言っていたな。」
「ええ、学園に張られている結界は強力よ。」
「ふ~ん……。
どれぐらい?」
「人間が溶解するわ。」
士郎は、勢いよく吹いた。
第12話 赤い主従との会話②
今一、理解出来ていない聖杯戦争だったが、ここに来て生死を嫌でも実感する。
「アホじゃないの?」
「わたしも、そう思うわ。
一般人に向けて使うものじゃないもの。」
「いや、どんな理由があっても使っちゃいけないと思うが……。
それって、やっぱりマスターを狙って?」
「一番の狙いは、それだと思う。
でも、もう一つの狙いもあると思うわ。」
「もう一つ?」
「サーヴァントは、魔力を蓄えれば蓄えるほど
本来の力を発揮出来るのは、知っているわよね?」
「それは、今朝、聞いた。」
(今朝か……。)
「この結界は、人間を溶解してサーヴァントに
魔力を吸収させるためのものだと思う。」
「ああ、やっちゃいけない人間襲う裏技ってヤツね。
ところで、その結界の中に居る訳だが、大丈夫なのか?」
「結界は、張られちゃったけど、発動を遅らせる事は出来る。
結界の呪刻を破壊すればいいの。
わたしは、数日前から呪刻を壊しているから、
まだ、直ぐには発動しないはずよ。」
「分からんから、そういうものがあるって事で話を進めるけどさ……。
それっていつかは発動しちゃうって事か?」
「その通りよ。」
(呪刻に食いついて来なかったわね……。
ちょっと、説明したかったりしたんだけど。)
「で、根元から結界を破壊するために
結界を張ったマスターを探してたところ。
見かけない外国人と話してた俺を
マスターと思って当たりを付けたってとこか?」
「意外と鋭いわね……。」
「遠坂との接点なんて全然ないからな。
聖杯戦争と関連付ければ、それなりに。
・
・
俺も出来れば、遠坂とは、お近づきになりたくない種類の人間だし……。
一成の言っていた事は正しかった。」
「あんた達の間で、わたしって、どんな風に捉えられてんのよ!」
「それは、置いといて……。」
「置くな!」
「聞けば、激しく怒る事になるが聞くか?」
「……やっぱり、置いといて。」
凛は、何度目かの溜息を吐く。
アーチャーは、自分のペースを維持出来ない凛に複雑な表情を浮かべる。
生前、彼は、聖杯戦争でこんな遠坂凛を見た事はなかった。
「話を戻して結論すると、俺への疑いは晴れたな。
数日前に張られた結界なら、
昨日から聖杯戦争に関与した俺は、無実だ。」
「ええ、そうなるわね。」
「それで、他に聞きたい事は?」
「本当は、あなた達が話し合ってから聞くのが筋だと思うんだけど。
衛宮君は、今後、聖杯戦争をどうしようと思うの?」
「俺の行動か? 難しいな。
出来れば戦闘行為をしないで終わらしたいというのが本音かな。」
「それは、無理ね。」
「ああ、分かってる。
俺のサーヴァントが聖杯を望んでいる以上、戦闘は避けられない。」
「衛宮君は、聖杯で叶えたい願いはないの?」
「ない。
それに、そんなものはいらない。
俺は、自分の出来る世界で好き勝手出来ればいい。」
「よく分かんない理由ね……。」
「だろうな。
俺は、魔術師じゃないからな。
ところで、遠坂は、聖杯使って何すんだ?
魔術師の戦争なら、それなりに理由があると思うんだけど?」
「サーヴァントに聖杯戦争の事聞いたんじゃないの?」
「おおまかなルールだけな。
召喚される時の世界って奴からの情報らしいから、
魔術師としての見地からの話も聞きたい。」
「…………。」
凛は、少し考え込む。
一般人の士郎に魔術師の話をして意味があるのか?
秘匿する事ではないのか?
色々、考えたが自分達の情報を話してくれた士郎の質問に答えないのは、借りを作ったようで気持ちが悪い。
心の贅肉と思いながらも、凛は、話す事にした。
「そもそも、何で、聖杯で願いが叶うと思う?」
「俺は、それ自体が嘘くさくてさ。
今一、納得出来ないんだよ。
何をするにしても、エネルギーって必要だろ?
なんでも叶えるっていうと凄まじいエネルギーが必要じゃないか。」
「凄まじい力って、どの程度の認識してるの?」
「真田さんの話では、時間軸を力で捻じ曲げて
A点からB点にワープする力が失敗するだけで、宇宙が爆発するとかしないとか?」
「何の話か知らないけど、それ以上と思って貰っていいわよ。」
「……そんなに?」
(コイツでも驚く事があるのね……。
ところで、真田って、誰よ?
衛宮君にいらない事を吹き込んだ人かしら?)
(宇宙爆発だぞ? 適当に答えてないか?)
凛は、聖杯戦争の経緯や詳細を話し始めた。
士郎は、説明を求めた事を少し後悔した。
(この女……説明好きだ……。
頼んでもいないのに余計な裏情報まで話しまくってやがる。
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あっ! 遂に伊達メガネまで装着しやがった!)
※以下、士郎の都合で必要なところの会話だけ抜粋されます。
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聖杯戦争は、根源に至るもの。
根源に至る事が、魔術師の願い。」
「根源? それが願いを叶える核となるものか?」
「そう、根源とは……
あらゆる出来事の発端となる座標。
万物の始まりにして終焉。
この世の全てを記録し、この世の全てを作れるという神の座。
世界の外側にあるとされる次元論の頂点に在るという“力”よ。」
「魔術師である遠坂も、当然、それを目指しているのか。」
「ええ、そのための聖杯戦争ですもの。」
「……凄い話だな。
ますます、自分が無関係に思えて来た。
でも、どんな仕組みで戦争するんだ?」
「最初は……。
聖杯戦争のシステムを組み上げるまでは、
魔術師同士が手を組んでいた。
アインツベルン……遠坂……マキリ……。
二百年前に、この御三家が何代かに渡り根源に至る門を作ろうとしたの。
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士郎は、途方もない話に眩暈が起きそうになる。
しかし、士郎は、魔術師でないからこそ浮かぶ疑問点があった。
今は、その疑問を胸に秘め、凛の話を聞く事にする。
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アインツベルンが聖杯の器を用意し、
遠坂がサーヴァントを降霊し、
マキリがサーヴァントを律する令呪を作り上げたのよ。」
「そのシステムを使って勝ち残った者が
聖杯を手に入れる、か。」
「概ね、そんなところね。」
「参加する魔術師は、根源へ至りたくて戦うのか?」
「それが魔術を極めるという事ですからね。」
「そこまで至った者は居るのか?」
「ええ、居るわ。」
(なるほど。
実績と目的に酔って、魔術師達は聖杯戦争に参加するのか。)
「もう一ついいか?
やっぱり、それに至るって大変なんだろう?
何を押しても、それが優先されるでいいか?」
「ええ、そうよ。
わたしも、遠坂家の六代目だしね。
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(だからか……。
目的が叶うんなら、他は気にならないのは……。)
「ありがと。もういいや。」
「え!? そう?」
話を途中で切られ、凛は、不完全燃焼を顔に浮かべる。
「あのさ?
魔術師でない俺でも、遠坂は叩き潰すのか?」
凛は、最大の問題を思い出し悩む。
相手が、魔術師なら問答無用に叩き潰すのだが……。
「どうしようかしら?
衛宮君は、戦う気ないんでしょう?」
「ない。」
「困ったわ。
色んな意味で……。」
「見逃してくれないか?」
「それが出来れば、速攻で無視するわよ。」
「じゃあ、最後の一人になるまで見逃してくれ。」
「何? その変な条件?」
「倒すのは、いつでもいいんだろ?」
「まあね。」
「だったら、俺は、最後でもいいじゃないか!
運が良ければ、遠坂は敗退して、俺は、戦わなくていいかもしれない!」
「なんて嫌な考えをするのよ!」
凛は、拳に力を込めて震えている。
「条件を飲んでくれるなら、俺も譲歩する。」
「衛宮君に譲歩させるだけの手駒なんてあるの?」
凛は、冷ややかな目で士郎を睨む。
「結界を張ったマスターを倒すのに協力する。」
「魔術師でもないあなたに、何が出来るのよ。」
「戦闘の際に俺のサーヴァントも一緒に戦わせる。」
「!」
凛は、再びアーチャーとの作戦会議に入り、セイバーも直ぐに士郎に話し掛ける。
「どういうつもりですか!? シロウ!」
「詳しい話は、後でするけど。
この聖杯戦争は、明らかにおかしい。」
「魔術師同士が戦う事に納得出来ないと?」
「いや、システム自体から納得いかない。」
「分かりました。
その話は、後で。」
「助かるよ。
後、こっちが本音。
藤ねえや友達を殺させたくない。
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そのためにお前を利用するのは悪いと思ってる。」
「シロウ……。
私も、英霊として、この戦い方を許す訳にはいかない。
よって、シロウの意思を尊重します。」
「重ね重ね、すまない。」
向こうでも、話が着いたようだ。
「その話に乗ってあげるわ。
アーチャーだけでも十分だと思うけど、
万が一を考えて手伝って貰うわ。」
「知り合いが死ぬのは、見たくないもんな。
その寛大さで、俺も見逃してくれるとありがたいんだけどな。」
「それは、別の話。
何かあったら、連絡入れるわ。」
「そうだ、携帯の番号とメアドを教えてくれ。」
凛は、一瞬、嫌な顔をする。
「……わたし、携帯は持たない主義なの。」
「そうか。
じゃあ、俺の番号だけでも教えとく。
何かあったら掛けてくれ。」
「分かったわ。」
凛は、電話番号を聞くと屋上を去って行った。