== Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~ ==
凛達との会話とセイバーとの会話で、時間は著しく過ぎてしまっていた。
士郎が教室に戻った頃、本日の授業は全て終了していた。
「遅かったでござるな。」
「また、遠坂に会ってね。」
「なんと!
それは、災難でござったな。」
(酷い言われようですね。
あのマスター。)
「俺は、帰るけど。 後藤君は?」
「拙者、所用がある故、
帰宅は、それが済んでからになるでござるな。」
「そっか。
それじゃ!」
士郎は、別れの挨拶をすると教室の外に出て行った。
後藤君は、窓際へと移動する。
(拙者も帰ってもよいのだが、助言した故、由紀香女史が気になる。
この教室の窓からなら、あの三人の様子が分かるであろう。
仲直りしたようなら帰るとしよう。)
第14話 後藤君の放課後の物語①
窓から様子を見られている事など知る由もなく、部活で顔を合わせた三人は、直ぐに冷戦状態に入る。
普段、マシンガンの用にまくし立てる蒔寺楓の沈黙。
いつも以上に冷たい壁を作る氷室鐘。
そして、中立国の三枝由紀香は、そわそわと落ち着かない様子。
ガン無視状態の敵対国に、ただ一人頭を悩ます中立国。
(どうしよう……。
どうしよう……。
どうしよう……。)
どんなに頭を悩ましてもいい案は浮かばず、ただただ時間だけが過ぎていく。
数分の時間は、何時間にも長く感じた。
由紀香は、散々悩んだ後、後藤君の言葉を思い出す。
大切な親友のため、後藤君のアドバイスを実行に移す事にした。
由紀香は、普段の三人の会話を思い出す。
大丈夫。
直ぐに笑顔が作れそうだ。
故に、普段の会話がどれだけ尊いものか分かる。
由紀香は、視線を合わせない二人に微笑み掛ける。
いつも通り。
だけど、今日は、違った意味も込めて。
蒔寺楓と氷室鐘は、由紀香の視線に気付くと由紀香を見つめる。
ほんの数日見なかった笑顔は、とても懐かしくてやさしい。
そして、二人の胸にチクリと罪悪感を意識させる。
(由紀っち……。)
(由紀香……。)
己との葛藤。
このまま、謝れば直ぐに元通りになるのではないか。
二人の頭に同じ事が過ぎった時、二人は、本日、初めて視線を合わす。
しかし、今回の冷戦は、根が深いらしい。
わずかな差で仲直りの機会は逃げて行った。
(うう……どうしよう。
また、視線を合わせてないよう。)
由紀香は、限界に近づいていた。
必死に我慢しても、涙のダムは決壊しようとしていた。
由紀香は、後藤君に教えて貰った魔法の言葉を口にする。
「蒔ちゃん、鐘ちゃん……。
・
・
二人は、由紀香が説得しようと声を掛けたのだろうと思いながら、言葉を待つ。
・
・
なんで蒔ちゃんは苗字で、鐘ちゃんは名前なんだろう?」
待っていた言葉とは裏腹な質問。
二人は、鳩が豆鉄砲を食らったように呆然とする。
そして、不意打ちで投げ掛けられる質問に意識が飛んでいく。
(呼び方の由来?)
(氷室とあたし!?)
頭の中では、過去を遡って三人の出会いまで戻る。
(確か……由紀香は、私と蒔の字をさん付けで呼んでいた。)
(で、氷室の妙な呼び方が気になって……)
数分の沈黙の後、蒔寺と氷室は、同時に声をあげる。
「そう呼び出したのは、由紀香だ。」
「そう呼び出したのは、由紀っちじゃんか!」
異口同音の言葉に三人の視線が中心で重なる。
そして、このやりとりを見て、由紀香は、本当の笑顔を取り戻す。
今度は、この緩んだ空気を冷戦状態に戻す事は不可能だった。
蒔寺楓は、頭をガシガシと掻くと話し掛ける。
「氷室、悪かったよ。仲直りしてくれ。
あたしは、これ以上、由紀っちに心配を掛けれない。」
「同感だ……私も謝ろう。
少々、大人気なかった。」
二人は、由紀香の前で仲直りする。
由紀香は、今度は嬉しくて涙を必死に我慢する。
しかし、それは本音を口にした瞬間に決壊した。
「え~ん……二人とも~。
本当によかったよう。」
「由紀っち! 何泣いてんだ!?」
「そ、そうだぞ!
こんな事ぐらいで!」
会話は、いつも通り。
なかなか泣き止まない由紀香に慌てる蒔寺と氷室。
色んな押し問答の結果……。
三人は、本日、部活を早退して、何処かに出掛ける事にした。