== Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~ ==
後藤君は、三人が仲良く歩いているのを見ると帰宅の準備を始める。
「これで腹を切らなくて済みそうでござるな。」
彼女達は、まだ、これから部活動のはずと予想をつけた後藤君は、鞄に荷物を詰める。
「さて、帰るでござるか。」
後藤君は、少々遅い帰宅に入った。
第15話 後藤君の放課後の物語②
仲直りの記念に何処かへ寄る事にした三人は、部活を早退し、後藤君より先に学校を出る。
帰りに何処へ寄ろうかと相談しながら、商店街の方へ歩いて行く。
しかし、歩き始めて数分。
三人の前に身長の高い青年が現れ、声を掛ける。
「お嬢さん達、何処かへお出掛けかい?」
青年は、がっしりとした体格をし、後ろに髪を縛り、正面から見ただけでは短髪に見える。
特徴的なのは、耳についているアクセサリーだろうか。
「あんた、誰だ?」
蒔寺は、平然と声を掛ける。
由紀香は、少し怯えている。
氷室は、警戒心を解かず青年を見ている。
「な~に、ちょっと暇が出来たんでね。
どうせ暇を潰すなら、女の子と過ごそうと思ってな。」
「なにーっ!
氷室! これは、ナンパというヤツじゃないか!?」
「間違いではないがお断りしよう。
我々は、大事な用がある。」
「そっか~。
初めての事でテンションあがってたんだけどな。
わりぃな、兄ーちゃん! じゃ!」
三人は、そそくさとその場を去ろうとするが、青年は、狭い路地で道を遮る。
「つれないな。
俺は、時間が限られているから見逃せないんだ。
悪いが付き合って貰うぜ。」
三人は、少し緊張する。
逃走も考えたが、足の遅い由紀香は逃げられないだろう。
ゆっくり近づいてくる青年に対して、三人は身構えた。
…
帰宅途中の後藤君は、偶然、三人を見つけてしまう。
帰宅路が途中まで同じなのだから、しょうがない。
しかし、事態は、少々よろしくない状況のようだ。
「はて?
何故、彼女達の方が、拙者より先に帰宅しているのだろうか?
部活動に励んでいると思ったのだが?」
後藤君は、遠見から三人が男に絡まれ困っているように見受けられた。
「本日、開眼した飛天御剣流・読心術で確認してみるでござるか。」
因みにこの技は、後藤君が勝手にネーミングしているため『るろうに剣心』とは、何も関係ない。
更に使っているのは魔術である。
『やばいんじゃないか!? これは……。
あたしだけなら、逃げ切れるけど……。』
『蒔の字は、自力で何とかするだろう。
由紀香は、私が何とかしなければ……。』
『うう……こわい……。
どうしよう、折角、仲直りしたのに……。』
後藤君は、青年の心も読み取ろうとするが上手くいかない。
「女性限定でござるか……。
自分で言うのもなんだが、ハレンチな……。
・
・
仕方あるまい。
男に生まれた以上、避けて通れない成り行きもあるでござる。」
後藤君は、三人の前まで歩いて行くと自分よりも遥かに高い青年に声を掛ける。
「すまないでござるが、彼女達は自分の学友で、本日、大事な用がある。
見逃してはくれぬでござらぬか?」
「何だ? てめぇは?」
突然の邪魔者に青年は怒りを募らせていく。
「後藤君!?」
「なに!? 後藤!?」
「何故、ここに居る!?」
三人は、突然、現れた後藤君に驚きの声をあげる。
「三者三様の声、ありがとうでござる。
ここは、拙者が引き受けるから行ってくだされ。
しかし、途中、交番を見掛けたら、一声掛けてくれるとありがたい。」
「頼りになるのかならないのか
分からない答えだな?」
「無論、後者でござる。」
「いいのか?」
「砂にされるまでは、時間を稼ぐでござるよ。」
「では、頼む!」
氷室が、二人の手を引いて別の道へと去って行く。
「ちょっと! 鐘ちゃん!
後藤君、追いてっちゃダメだよ!」
「いいんだ、これで!
男が体を張っているのに我々が居ては邪魔になる。」
「あたしは、氷室の意見に賛成。
助けられたのが後藤っていうのが気に入らないけど。」
「でも……。」
「だから、さっさと交番に行くぞ!
アイツは、自分が弱いのを自覚している!」
三人は、交番に向けて走り出した。
…
一方、獲物に逃げられた青年の怒りは頂点に達しようとしていた。
「おい! 坊主!
覚悟は出来てんだろうな!?
こっちに呼び出されてから、つまらない喧嘩ばかりでストレス溜まってんだ!」
青年は、側に立っている道路標識を力任せに折って切断すると槍を持つように構える。
「楽に気絶出来ると思うなよ。」
青年が繰り出す薙ぎ払いを反応する事も出来ず、後藤君は脇に直撃を受ける。
「ぐっ!?」
今までに味わった事のない強烈な痛みが後藤君を襲う。
「いい子だ……。
よく倒れなかった。」
青年は、二度三度、右に左に標識を叩きつける。
しかし、後藤君は、倒れる事なく必死に耐え続ける。
倒れれば、青年が直ぐにでも三人を追い掛けるかもしれないから。
倒れるのは、三人が逃げ切れる時間を稼いでからでなければいけなかった。
(ほう。
こないだ絡んできたチンピラより根性あるな。
ガキのくせにいい度胸だ。)
青年は、標識を肩に担ぐと後藤君に話し掛ける。
「なかなかやるじゃねぇか。
でも、こんなんじゃつまんねぇな。
オマエから、掛かって来いよ。
そうしねぇとオマエをほっぽって、あの子達を襲っちまうぜ?」
後藤君は、胴回りに激しい痛みを感じながらも青年を睨みつける。
青年に嘘はなく、自分に飽きたらそうするだろうと後藤君は判断する。
拳に力を込め、素人丸出しのパンチを青年の胸目掛けて突き出す。
青年は、にやりと笑うと後藤君の太ももに強烈な一撃をお見舞いした。
後藤君の拳は届く事なく無様に倒れ込む。
「くっくっくっ。
大変だな。
立ち上がれるのか?」
後藤君は、必死に立ち上がろうとするが、今まで味わった事のない痛みが太ももを襲い立ち上がれない。
(強いでござる……。
相手に全然届かない。
せめて拙者にも武器があれば……。
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・
そう、武器が欲しい!
あの鉄柱を防ぐ武器が!
欲しいものは……。
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・
幕末を生き抜いた最強の侍の刀……。
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逆刃刀!)
後藤君の必死の願いが魔術回路に、もう一本、魔力を通す。
倒れそうになる体を必死に支えるために杖にした手に握られていたのは、間違いなく逆刃刀だった。