== Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~ ==
後藤君の手に握られる逆刃刀に青年は目を見開く。
「投影魔術だと!?」
後藤君は、逆刃刀を杖に立ち上がる。
そして、自分でも気付かないうちに手にした逆刃刀に気付く。
(いつの間にこんなものが!?)
訳は分からなかったが、後藤君は、逆刃刀を構え青年に向き直った。
第16話 後藤君の放課後の物語③
青年は、嬉しい誤算に笑いが止まらなかった。
つまらないマスターの命令で不完全燃焼の戦いの連続。
街で絡んで来る連中は、腰抜けばかり。
戦いを望む彼は、憂さ晴らしも出来ない状態だった。
しかし、目の前の少年は、魔術師のようで刀を投影して見せた。
自分は、もう少し楽しめるかもしれないと思うと笑みが零れた。
「刀を出したようだな。
もう少しだけ、楽しめそうだ。
じゃあ、行くぜ!」
青年は、鉄柱を振り回す。
しかし、後藤君は、攻撃を防ぐのが精一杯で型も何もない。
素人丸出しの戦い方に青年の期待は裏切られる。
「なんだなんだ!?
見せ掛けだけか!?
がっかりさせんなよ!」
青年は、後藤君を弾き飛ばす。
戦いは、ジリ貧だった。
(ぐぅ……。
折角、武器があるのに使いこなせないでござる。
当たり前か……。
刀なんて使った事がないのでござるから。)
後藤君は、勝てないと知りながらも必死に立ち上がる。
肩で息をして、痛みで脂汗が止まらない。
青年は、戦い事態はつまらないものだったが、少年の心意気は気に入っていた。
「よう、坊主。
何で、ここまでやるんだ?
アイツらの中に好きな娘でも居るのか?」
「……れ、恋愛感情はないでござる。
ただ、彼女達は学友で、三人一緒に居るのが気に入っているでござる。」
「それだけか?」
「それだけでござる。
付け加えるなら、本日、喧嘩の仲直りをしたので
取り持ってあげたかっただけでござる。」
青年は、声をあげて笑う。
戦うには軽い理由。
でも、戦いは、こういう感情で理由を決めるのも面白い。
何より、その理由で、この少年が立ち上がって来るのが気に入った。
「大サービスだ。
オマエが、俺に少しでも攻撃を与えられたら、このまま消えてやるよ。」
青年は、適当に力を抜いてワザとやられる事を選んだ。
しかし、後藤君は、相手の真意を考える余裕などなかった。
疲れた体と頭で相手の良過ぎる条件を、ただ信じ込む事しか出来なかった。
(一撃……一撃でいいでござる!
拙者にあの侍と同じ動きが出来たら……。
・
・
ダメでござる。
直ぐには出来ない。
・
・
なら、最強のあの侍の動きを出来る限り真似するでござる!)
後藤君は、無意識で刀の鞘を投影すると逆刃刀を鞘に収め、頭の中でイメージする。
強いイメージは、新たな魔術回路に更なる魔力を流し始める。
今、後藤君の魔術回路には、
・読心術(女性限定)
・投影
・?
が流れている。
後藤君は、居合い斬りの前傾姿勢に入ると一気に地面を蹴り上げる。
スピードは、正に神速。
青年の懐に始めて飛び込む。
青年は、信じられないスピードに対応が遅れる。
放たれた居合いの一振りは、鉄柱を折り曲げ青年の脇に強烈な一撃を与えた。
…
深々と刺さる後藤君の一撃に青年は、何が起きたか分からなかった。
脇に走る痛みで自分が攻撃されたのだと気付く。
元々、強度の低かった鉄柱は折れ曲がり、そのままの勢いが青年の脇を貫いたのだ。
青年は、嬉しい誤算に戦いを再開しようとした時、後藤君は、力尽きて倒れた。
「おい! オマエ! 倒れるな!
ここからだろうが!
・
・
~~~っ! ったく!」
青年は、後藤君の体に触れると何かに気づく。
「おいおいおいおいおいおい!
コイツ、魔術師でもなんでもないじゃねぇか!?
何で、そんな奴に魔力が流れてんだ!?
・
・
仕方ねぇ……久々にルーン魔術で調べてみるか。」
青年は、ポケットから石のような物を取り出すとルーン文字を刻みつけ。
仰向けで横たわる後藤君の額に石を置く。
調査は、直に終了した。
「なるほどね。
本日、初めて勝手に発動しちまったのか。
通りで粗い使い方だと思った。
・
・
このままだとスイッチを切れなくて死んじまうな。
あ~~~っ! ついでだ!」
青年は、更にルーン魔術を行使する。
後藤君の脳裏には、飛天御剣流・龍鳴閃のイメージが浮かぶ。
納刀を意味するイメージが浮かぶと魔力回路のスイッチは切られた。
側にあった逆刃刀は、霧散して風に流されていった。
「本当の大サービスになっちまったな。
まあ、いっかぁ。
それなりに楽しめたし。
・
・
約束だ。俺は、消えるぜ。」
青年は、その場を後にして、何処かに去って行った。
由紀香達が警官を連れて戻って来たのは、その十分後だった。