== Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~ ==
後藤君と別れ、帰宅の途についていた士郎とセイバーは、今日の予定を確認していた。
朝は、時間帯が登校や出勤の時間と外れていたため並んで会話をしていたが、帰りはそうはいかない。
霊体化したセイバーに士郎が話し掛ける形になっていた。
「なあ、やっぱり戦闘が起きた時って、
俺は、邪魔だよな?」
「士郎だけが、特別ではありません。
サーヴァント同士の戦いになれば、どのマスターも介入出来ません。
つまり、聖杯戦争ではサーヴァントが、
どのようにマスターを守るかも重要な要素になるのです。」
「なるほどね。
でも、得物ぐらいあった方がいいよな。
帰りに雷画爺さんとこに寄って、相談しよう。」
「士郎の面倒を見てくれた人ですね。」
「そう。
武器大好きだから、俺にも使えるものを見繕ってくれるかも。
向こうに着いたら、適当に会話を合わせてくれ。」
「分かりました。」
二人は、家には向かわず藤村組へと足を運んだ。
第17話 天地神明の理
藤村組のお兄さん達に案内されて、士郎とセイバーは、屋敷の奥へと進む。
ちなみにセイバーを現界させたのには理由がある。
神出鬼没の虎に目撃された事と、藤村家の人間に隠し通す自信がなかった事。
属性:藤村は、侮る事が出来ない……。
そして、二人は、雷画の居る座敷へと通される。
広い座敷には、威厳のある老人が一人居る。
老人は、煙管を加え、煙をふかしている。
士郎とセイバーが老人の前に座ると、老人は、楽しそうに士郎に話掛ける。
「よく来たな、士郎。
べっぴんさんを引き連れて来るなんざ、大したもんだ。」
「こっちは、セイバー。
親父が、世話になって世話したらしい。
で、親父を訪ねて来たんだけど……。」
「……切嗣は、亡くなってたか。」
「身の振り方が決まるまで、
暫く家に置いとくつもり。」
「お世話になります。」
セイバーは、背筋を伸ばし深々と頭を下げる。
「ああ、気楽にしてくれ。
士郎なら心配ないだろう。」
「はい。」
「藤ねえも、毎日、通ってくれるし。
そこは、俺も心配してない。」
「用件は、顔見せか?」
雷画爺さんは、ポンと煙管の灰を処理する。
「実は、頼みがあるんだ。」
「そんなこったろうと思ったよ。
言ってみな。」
「得物が欲しいんだ。
出来れば、刀がいい。
でも、人を傷つけたくないから切れないようなヤツ。
・
・
そんな都合のいい刀あるかな?」
(シロウ……。
それは、もう刀と言わないのでは?)
士郎の突然の要求に雷画は、唇の端をあげ嬉しそうに返事を返す。
「あるぜ。
その条件にぴったりのがな。」
(あるのですか!?)
「さすが……。」
「だが、学生に刀を持たすなら理由を聞かんとな。」
「ああ、そっか。
近所で殺人事件が起きたんだ。」
「それは、知ってるぜ。」
「その犯人が、長物を持っているらしいんだけど。
多分、帰りに出くわしたのがそいつだと思うんだ。」
(シロウ!
また、嘘を!
適当に会話を合わせろと伺っていますが、
そんな突拍子もない嘘を言われても合わせられません!)
「くくく……。
昔っから、そいう揉め事には、事欠かないな。」
「…………。」
(何故、話が通るのでしょう?
シロウは、どんな生き方をして来たのでしょうか。)
雷画爺さんは、昔を思い出して笑っている。
「顔見られたと思うから、俺も得物が欲しくてさ。」
「ああ、分かった。
用意してやる。」
雷画爺さんは、ポンポンと手を叩き、若衆を呼ぶと得物を持って来るように命令する。
暫くして、布に包まれた刀と思しきものが運ばれて来た。
「開けてみな。」
士郎は、刀を包む布の紐の封を解き、中身を取り出す。
それは、予想通り刀だった。
「随分と立派なものに見えるけど。」
「刀身も見てみな。」
士郎は、鞘から刀を抜き出す。
「刃がない……。」
「そういうこった。
おめぇの条件にぴったりだろう?」
士郎もセイバーも、刀に目が行く。
武器なのに武器として用を成さない武器。
「こういうものは、趣味じゃないと思ってたけど……。」
「俺も始めは買う気はなかったんだけどよ。
刃がついてないだけで、すげぇ一品なんだよ。
つい、遊び心で買っちまった。」
雷画爺さんは、豪快に笑う。
「名前は、『天地神明の理』。」
「嘘つきの俺が持ってちゃいけない気がする。」
(自覚しているのですね……。)
「いいんじゃねぇか?
前に捕まった嘘つきのなんとかって教授が、同じ様な事喚いてたぜ?」
(なんか刀の価値が、一気に半減した気がする……。)
「作られたのは、四百年ぐらい前らしい。
そして、伝承では、作ったのは『天狗』だとか。」
「てんぐ?」
セイバーは、聞きなれない言葉に首を傾げる。
「嬢ちゃん。天狗ってのは、この国に伝わる妖怪の一種だ。
赤い顔で鼻が長く、背中に羽を生やし、団扇を持っている。
格好は、山伏でな。」
「はあ。言っている事は分かります。
羽が生えている以外、普通の人間と変わらないのですか?」
「見た目はな。
だが、天狗は、力が強く、団扇で大風を起こしたり、
隠れ蓑なんてもので姿を消す事が出来たらしい。
地方によっちゃあ、山の神なんて崇めているところもある。」
「随分と具体的な伝承が残っているのですね。」
(しかし、話を聞くとその天狗なるものは、
魔術師のようにも感じる。)
セイバーは、天狗を想像し考え込む。
「伝承は、まだまだある。
その刀は、それで完成されたものらしいんだ。
天狗に刀を作って貰った人物が『刃がない』と言ったら、
天狗は怒って『これで完成だ』と言ったらしい。」
「刃がないのに?
なんでだろう?」
「さあな。
そこは、俺にも分からねぇ。」
「…………。」
「雷画さん、先ほどの口振りでは、
まだ、隠された話があるように聞き取れますが。」
「ああ。これは、近年になって追加された話だ。
その『天地神明の理』は、何で出来ているのか分からねぇんだ。」
「砂鉄から作ったんじゃないの?」
「材質が鉄じゃないらしい。
その刀は、ある武家の蔵に眠っていたんだが、
地震で山が崩れ、蔵は、4t近い岩で潰された。
下敷きになった岩の真下にその刀があったんだが
無傷の上に曲がりもしていなかった。」
「たまたま、避けれたんじゃ?」
「いや、避けてねぇ。
その証拠に鞘は粉々に砕けていた。」
三人の視線が刀に集まる。
「そんなに凄い刀を貰っていいの?」
「ま、嘘か真か分からねぇ伝承のついている刀だが、
頑丈さだけは折り紙つきだ。
そして、刃のねぇ刀は、やっぱり俺の趣味じゃねぇ。
大事に使ってくんな。」
「ありがとう。
大事に使うよ。」
その後、お茶を一杯ご馳走になり、士郎とセイバーは、藤村組を後にした。
…
藤村組から衛宮邸までの短い距離を士郎とセイバーは、話しながら歩く。
「よかったですね、シロウ。」
「ああ、刃のない刀なんてないと思ってたけど、
言ってみるもんだな。」
「ところで、シロウは、刀を扱えるのですか?」
「普段は、竹刀だからな。
家に帰ったら、刀の感覚に合わせないとな。
・
・
う~ん、でも、今日、バイトの日だな。」
「ばいと?」
「そ、働かざるもの食うべからず。
アルバイトに行って賃金を稼ぐのだ。
・
・
そうだ、セイバーも一緒に働いてくれ。」
「わ、私がですか!?」
「何事も経験は大事だぞ。
家帰ったら、俺の服、貸してやるから。」
(お、王であった私がアルバイト……。)
セイバーは、強引な士郎の申し出に流されるまま、アルバイトに強制参加させられる事になる。
二人は、衛宮邸に歩みを進めた。