== Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~ ==
最近、よく耳にする声を聞き、士郎は振り返る。
「遠坂か。
俺達は、見ての通り、ゲームをしているだけだ。
お前こそ、何してんだ?」
凛は、眉を吊り上げ、怒っているようだ。
(なんか、いきなり逆鱗に触れてるな。
何を怒ってんだ?)
凛は、無言で人通りのない場所を指差す。
どうやら、人前で話したくないらしい。
(聖杯戦争の事か?)
士郎は、セイバーを伴って、凛の後に着いて行った。
第19話 サーヴァントとアルバイト②
凛は、早速、不満をぶちまける。
「あなた、聖杯戦争をしている自覚あるの!?」
「自覚? さあ、どうなんだろう?
そこは、人それぞれなんじゃないか?」
「何よ! そのいい加減な言い方は!」
「なんで、怒ってんだ?」
セイバーは、凛が、怒っている理由を察する。
そして、それは、自分の反省する事でもあった。
「自分は魔術師でもないのに、
何で、あなたは、こんな所をウロウロしてんのよ!」
「アルバイトの帰りに寄っただけだよ。」
「そういう事を言ってるんじゃないの!
あなた、他のマスターに狙われているのよ?
魔術を使う事も出来ない!
魔術師としての知識もない!
いくら何でも油断し過ぎよ!」
士郎は、そういう事かと理解する。
「大丈夫だ。
俺のサーヴァントが近くに居るんだから。
・
・
遂に、完璧に目撃されてしまったな。」
士郎は、自分の隣に立ち、話を聞いているセイバーに目線を移す。
「あなた、自分のサーヴァントが、
他のマスターのサーヴァントよりも
弱いかもしれないって考えないわけ?」
「それは、考えたさ。
それだけじゃなく、マスター同士が、
手を組んで襲って来るかもしれないともな。」
「それを理解して、何で、ここに居るのよ?」
「結局、どこに居ても同じと考えたからだ。
マスターもしくは、サーヴァントを探すには魔力を感知する能力が必須だ。
しかし、俺は、感知される事はない。」
「それで。」
「他のマスターが、俺をマスターと認識するにはサーヴァントを確認するしかない。
それは、家に居ても外に出ていても変わらんだろう。
寧ろ、家で魔力を感知されてしまった場合、
そこに俺しか居ないんだから丸分かりじゃないか?」
凛は、顎に手を当て考えている。
「お前が頭に来てたのは、俺達が遊んでいたからだろう?」
(シロウ、そこまで分かっていて遊ぶ理由が理解出来ない。
……一緒になって遊んでしまった私が言うのも何ですが。)
凛は、言い当てられてムッとした顔をしている。
しかし、直ぐに反省の弁を述べる。
「そうね。
よくよく考えてみれば、衛宮君は、戦わないのが前提にあるんですものね。
わたしのようにマスターを探して巡回する事はないんだわ。
・
・
その女の子が、あなたのサーヴァントなのね。」
「もう、隠す必要はないな。その通りだ。」
凛は、品定めをするようにセイバーを見つめる。
「内在している魔力は凄いみたいだけど……。
その服装じゃ、何のクラスか見当つかないわね。」
「ハマーンって言うんだ。」
凛が、驚いた顔をする。
「サーヴァントの真名を口にするなんて、
何を考えてるの!?」
「ちなみに英雄で直ぐ思い付くか?」
「ハマーン……。
・
・
聞いた事ないわね。」
「当然だ。
この名前は、聖杯戦争で使用するために、
今日、思い付いた偽名だ。」
(くっ!
この男は、また、わたしをおちょくって!)
凛は、拳に力を込め、ワナワナと震える。
「他に何か用件あるか?」
「ないわよ!」
「そっか。
じゃあ、これやるわ。」
士郎は、凛に黒猫のぬいぐるみを渡す。
「お前にぴったりだ。」
「あ、ありがとう。
……何か凄い荷物ね。」
「五百円で、これだけ取った。」
士郎は、ビニール袋を凛の前にかざす。
「…………。」
「ねえ。
あなた、もしかして修学旅行でも
UFOキャッチャーしなかった?」
「したけど……。
なんで、知ってんだ?」
「あのぬいぐるみの出所は、コイツか……。」
「?」
「綾子が、クラスの女子に配ってたのよ。」
「それは変だな?」
「何が?」
士郎は、ニヤリと笑う。
「なるほど、さすが美綴。
ただでは転ばん女だ。」
士郎は、一人で納得している。
「真相を聞きたいか?
多分、昼に聞いた時と同じ気分になるが。」
凛は、うっと声を漏らす。
しかし、好奇心の方が僅かに勝った。
「……聞く。」
「実はだな、ゲームセンターで美綴と勝負したんだ。
罰ゲーム込みで。」
「修学旅行先で何やってんのよ。」
「アイツ、かなりのゲーマーなんだよ。
で、俺が勝ったんだ。」
「なるほど。
どんな罰ゲームにしたのよ。」
「『UFOキャッチャー2000円分のぬいぐるみを
サンタの格好をして幼稚園の園児に配って来る』だったな。」
「うわ~。」
凛は、その場面を想像する。
「それで、罰ゲームを過酷なものにするため、
その店のぬいぐるみをクレーンが届く範囲で全て取り尽くしてやった。
量だけは、正にサンタ。」
「…………。」
セイバーと凛は、絶句している。
セイバーは、士郎の技術を知っているので容易に情景が頭に浮かぶ。
「ついでにサンタの帽子を別のゲームで調達して。
袋は、袋詰めのお菓子のUFOキャッチャーから
お菓子を抜いて代用し、美綴サンタを作成した。」
「本当にやらせたの?」
「やらせた。
アイツも半ば妬けになって、
『このままじゃ、女がスたる!』
とか言って、幼稚園に突入して配って来た。」
「何やらされてんのよ、綾子……。」
凛は、額に手を当て項垂れる。
「でも、アイツ、残ったぬいぐるみをちゃんと確保してたんだな。
クラスの女子で分ける用に。
なかなかやるわ。」
「それで、あの時、妙なテンションだったのね。」
「まあ、そんなところだ。
さて、じゃあ、帰る。
これ、アーチャーに渡してくれ。
きっと、アイツは、喜ぶ筈だ。」
「何これ?
包装してあるわよ。」
「UFOキャッチャーの中にあるレアもので、
ぬいぐるみじゃなくてフィギュアなんだ。」
「ふ~ん。」
(何で、アーチャーが喜ぶのかしら?)
凛は、手の中の包装された謎の物体を不思議そうに眺める。
「その中には、アイツの理想が入っている。」
「?」
「じゃあな。」
士郎は、セイバーを連れて去って行った。
アーチャーは、凛の隣に現界する。
「一体、何かしら?」
凛は、アーチャーに謎の物体を手渡す。
「理想が入っていると言っていたが?」
「何か、いやらしい女の子のフィギュアなんじゃないでしょうね。」
「それは、理想とは言わん。
だが、あの小僧の事だ。
それぐらいの嫌がらせはするだろう。」
アーチャーは、包装用紙を解いていく。
そして、凛と一緒に絶句する。
「あの小僧! 殺す!
こんなものを理想として目指すか!」
中には、筋肉ムキムキの地上最強の生物が、背中に鬼を浮かべて佇んでいた。