== Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~ ==
先ほどまで火照っていた熱が引いていく。
第三者による叱責で頭が冷える。
怒られた者同士の共犯意識で少年が少女に声を掛ける。
「とりあえず、母屋に行くか。」
「……そうですね。」
犯行現場を後にしたいため、少女は、少年の申し出に素直に従う。
少年は、少女を伴って土蔵を後にする。
しかし、再びあの声が響く。
「うるせぇぞ!
今度は、ガチャガチャガチャガチャ何やってんだ!」
少年は、ガチャガチャの正体の少女へと振り向く。
「その甲冑……なんとかならない?」
第2話 月光の下の出会い②
少女は、甲冑の武装を解く。
甲冑は、光を弾き霧散する。
甲冑の武装を解くと少女は、ドレスのような姿になる。
「……手品?」
「違います!」
共犯意識はあっても、蟠りは未だ解けていない。
甲冑を解いた少女は、自分の存在が少し希薄になるのを感じる。
もう時間が少ないようだ。
少女は、少年を無視して小さな声で早口に契約を交わす。
「サxxxxxセxxバー、召xxxxx従い参xxxxxx。
こxxxり我xxxxxxxxは剣とxxxxxxxxxxと共にxxxxり、
xxxxxxの運xxxxは私と共にxxxxxxx。
・
・
ここに契約は、完了した!!」
少年の手の甲に契約の証が現れる。
「オイ、何やった!?」
「気になさらず。
貴方には関係のない事です。」
こうして少女は、少年を憑り代にして現世と過去を繋ぎ止めた。
そして、釈然といかないまま、二人は今度こそ、ご近所に迷惑を掛ける事なく母屋に辿り着いた。
…
テーブルを挟んで、少年と少女は向き合って座っていた。
長くなるであろう戦いに備え、急須とポットが用意されている。
「俺は、ここの家主の衛宮士郎だ。ここの家主だ。」
少年は、二度繰り返して強調する。
「私は、サーヴァント・セイバーです。」
「どっちが名字で、どっちが名前なんだ?」
「お好きな様に。
どうせ偽名です。」
「偽名かよ!」
「…………。」
少年も少女も、このままでは、話が進まない事を感じる。
少年は、一呼吸の間を置くと少女に提案する。
「戦線協定を結びたい。」
「む。」
少年の言葉に少女が反応する。
「少し……いや、かなり話して分かった事がある。
俺達は、かなりの頑固だ。
このままでは、どちらも譲らないだろう。」
少女が頷いて返事を返す。
「しかし、それ故にどちらも嘘を言っていないと思う。」
少女は、再び頷いて返事を返す。
「そこでお互い納得いかなくても肯定して話を進める。
これが協定の内容だ。……どうだ?」
「いいでしょう。
話が終わってから白黒つけましょう。」
「決まりだな。」
少年と少女は、やっと話が進むと安堵して湯のみのお茶を啜る。
「ところで……。
お前の事は、セイバーって呼んでいいのか?」
「はい。
私は、貴方の事をマスターと呼びますが……よろしいでしょうか?」
「出来れば名前で呼んでくれないか?
士郎でいい。」
「シロウ……。
ええ、私としてもこちらの方が呼びやすい。」
「……で、だ。
話の焦点になるのは、『呼び出す』という言葉なんだが……。
本当に呼んだ覚えがないんだ。」
セイバーは、少し考えると別の質問をする。
「貴方は、魔術師ではないのですか?」
「違う。」
セイバーは、再び考え込む。
「シロウ。
手を貸して下さい。」
士郎は、無言で手を差し出す。
セイバーは、手を取ると魔力の流れを調べ始める。
「本当だ。
魔術回路はあるものの魔力を流して使った形跡がない。」
(では、どういう事だ?
私には、魔力がしっかり送られて来ている。)
「シロウ、貴方の言った事は正しかった。
ただの人間にサーヴァントを召還する事は出来ない。」
「じゃあ、やっぱり勝手に湧い……。」
セイバーは、士郎を睨みつける。
士郎は、思わず話を止めた。
咳払いを一つするとセイバーが話を続ける。
「土蔵に魔法陣があったのを覚えていますか?」
「あの幾何学模様か?」
「はい。
あれが何らかの原因で起動したとしか考えられません。」
「質問していいか?」
「どうぞ。」
「やっぱり、なんの事か分からない。
説明は、なんとなく分かるんだけど。
根本的なところが分かっていないから理解出来ない。」
「シロウは、魔術師ではないのでしたね。
分かりました。
最初から全てお話しします。」
セイバーは、何も理解出来ていない士郎に事態の説明をする事にした。