== Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~ ==
「歯を喰いしばりなさい! シロウ!」
セイバーが派手にパンチを炸裂させた後、士郎は思った。
(もう、殴られた後のこのセリフは、デフォルトだな。
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それにしても素晴らしいツッコミの切れ味だな。
導火線も短くなった気がする。)
第22話 帰宅後の閑談②
「最優のサーヴァントを引き当てて、
私の強さを疑うとは何事ですか!」
セイバーは、本気で怒っている。
「仕方ないだろう!
クラスを聞いただけじゃ、
どのクラスが有利かなんて分かんないんだから!」
「ほう。
では、シロウが、セイバーのクラスが優れていないと思った理由を
聞かせて貰いたい。」
(何気に目が据わって怖いよ……セイバーさん。)
士郎は、状況が悪化しないように急いで説明を開始する。
「理由は、沢山ある。」
「山ほどですか。」
「ええい、イチイチ絡むな!
まず、武器!
槍と剣では、槍の方が有利と言われている!
同じ実力の者が対峙した時、槍に勝つには、3倍の修練がいると何かの本で読んだ!
この時点でセイバーは、次点。
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あと、射程!
遠距離なら、アーチャー、キャスター。
中距離なら、ランサー、ライダー。
近距離なら、セイバー、アサシン。
例外として、バーサーカー。
と、考えている。
聖杯戦争が情報を隠してマスターやサーヴァントを狙う以上、遠距離攻撃出来る方が有利!
誰にもバレず、攻撃出来るのがベスト!
だから、マスターは、居場所を隠すし、サーヴァントの真名や能力を隠す!
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どうだ……?」
士郎は、一気に捲くし立てるとセイバーの反応を見る。
「納得いきませんね。」
(まだ、怒っているのか!?
なんか間違った事言ったか?)
「士郎の言っている事は、呼ばれたクラスのサーヴァントが、
同じ実力を持っている時にしか成り立たない。」
(完全否定ではないな。)
「つまり、セイバーは、並みのサーヴァントより強いと?」
「その通りです。」
「…………。」
「でも……。
お前、女じゃん?」
セイバーの額に青筋が浮かぶ。
「シロウ! シロウは、騎士である私を侮辱する気か!」
「侮辱も何も、お前は、女で俺より年下だろう!」
「それは、大きな間違いです。」
「女装趣味の男なのか!?」
「違います!
私は女ですが、男にも負けません!
過去の英雄ですので、能力も見た目通りという訳ではありません。
そして、私は、貴方より年上です!」
「待て待て待て待て!
整理させてくれ!」
士郎は、セイバーの言葉を手で遮り、自分の思っていた事とのギャップを整理する。
「英雄って、そんなに違いがあるのか?
俺は、宝具っていう切り札にバラつきがあるぐらいにしか考えていなかったぞ?」
「私も納得がいった。
シロウは、魔術師ではないから、英雄に関して誤解を持っている。
シロウは、英雄の強さを筋力や体格だけで判断していませんか?」
「違うのか?
内在する魔力を外に開放するのが宝具って思っていたんだけど……。
つまり、キャスター以外、通常の戦闘では魔力を使わない。」
「それでは人を襲ってまでして、
魔力を掻き集める意味はないでしょう。」
「魔力を掻き集めるほど、生前の力を発揮出来るって……。
受肉するのに不完全なものに
魔力をつぎ込んで完璧にしていく事じゃないのか?」
「違います。
戦闘においても魔力を消費します。
肉体の強化や武器に魔力を込める事で、攻撃力は大きく変わります。」
「そういう意味か……。
生前の戦闘時と同じ様に魔力をつぎ込ませる。
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しかし、聖杯戦争においては魔力の供給は、
サーヴァント自身ではなく共闘する魔術師の魔力量。
戦闘で使う魔力を確保して置くために人を襲うマスターが現れる。」
士郎は、ピシャンと額を叩く。
「そういう意味なら……体格が小柄なセイバーが、生前、大量の魔力を有していて、
戦闘時、魔力を攻撃力に変換していたなら……男にだって負けない。
いや、つぎ込む魔力をコントロール出来るなら負ける方が少ない。」
「分かって頂けましたか?」
「ああ。
そうなると、敵マスターと敵の英雄の情報は重要だな。」
「はい。
サーヴァントが優れていてもマスターが未熟では、
本来の力を発揮出来ません。」
「途中で魔力が切れれば攻撃力が落ちる。
だから、未熟なマスターほど、人を襲う。」
「はい。」
「ん?
じゃあ、魔術師でもない俺は、凄まじいハンデじゃないか!?」
「その件ですが妙なのです。」
「妙?」
「能力値に若干の弱体化は感じますが、
魔力は、普通に送られている様なのです。」
「なんでさ?」
「だから、妙なのです。」
「分からんな。
俺の方は、普段と大差を感じないし。」
「私の方は、シロウから魔力が送られている感じがします。」
「とりあえず、割り切ろう。
魔術に詳しくない俺が考えても分からん。
今は、送られる魔力量が十分か不十分かだけ考えよう。」
「その点で言えば、十分です。
影響は、能力値の低下のみです。」
「どれぐらい落ちてんだ?」
「落ちているのは、騎乗能力やカリスマ性ですね。
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カリスマ性が著しく落ちてます。」
「俺のせいだと言いたげだな。」
「しかし、セイバーとして必要な能力は、
落ちていないようです。」
「比べる事も出来ないから、何がなんだか分からん。」
「困りましたね。
能力の比較分析が出来ないのは……。」
(シロウの分析能力を期待していたのですが……。)
「仕方ない。」
「何かいい方法でも?」
「道場に行こう。
魔力の攻撃力とかを体で覚える。
セイバーは、加減して俺の体に叩き込んでくれ。」
「本気ですか!?」
「やらなきゃ、確実に死ぬ。
魔術師なら、相手から出る魔力量で判断出来るけど、俺は無理だ。
仕方ないから、相手から出る威圧感みたいなものを感じ取って、
相手の能力値に当たりをつける。」
「感じ取れないかもしれませんよ。」
「それでもだ。
魔力の上乗せによる攻撃力の変化も見ないと。」
「いい心構えです。
実戦を知らないシロウに、死を体感して貰う事も重要だ。」
「な、何、恐ろしい事を言ってんだ?」
「シロウ、生き残るために不可欠なものを叩き込んであげましょう。
フフ……。
今夜は、血が見たいですね。」
セイバーは、不適な笑みを浮かべて、やる気を見せている。
(変なスイッチを入れさせちまったみたいだ。
天地神明の理も使わなきゃならないし……。
今夜は、死ぬ覚悟で望もう。)
士郎とセイバーは、衛宮邸にある道場に向けて居間を出た。
多分、長くは持たないだろうと判断した士郎は、途中、風呂の釜に火を入れた。