== Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~ ==
「~~~っ!!」
本当に痛い時は、声も出ない。
膝を押さえて飛び上がり、悶え苦しむ。
士郎は、床に片足を突っ込んで、もがいているセイバーを見る。
セイバーは、悔しそうに口を開く。
「くっ! 仕留め損なったか!」
(本当に殺す気か!)
第24話 帰宅後の閑談④
痛みが引いて来た士郎は、セイバーに近づく。
「ここまでだな。」
「何を言っているのです!
私は、まだまだ殺れます!」
「お前……。
これ模擬戦で勝負事じゃないって、分かっているよな?」
士郎は、しゃがみ込んでセイバーの目線に合わせ睨みつける。
「…………。」
「と、当然です!
シロウに実戦の厳しさを教えるために
本気を装っただけですとも!」
士郎は、ジト目でセイバーを見ている。
「ほ、ほら!
安心してください!
粉砕されたのは、シロウの足ではなく私の木刀です!」
セイバーは、バリバリとヒビの入った木刀を士郎に見せる。
「加減って物が出来んのか! お前は!
木刀にヒビが入るほど、斬りつける奴が居るか!」
「いや、しかし……。
それは、シロウが魔力の通った攻撃を
体験したいと言ったからであって……。」
「ったく! もういい。
敵と戦う前に、自分のサーヴァントに殺されたら
本末転倒もいいところだ。」
士郎は、立ち上がると道場の出入り口に向かう。
「ほら、行くぞ。」
「シ、シロウ。」
「どうした?」
「足が抜けません。」
「…………。」
士郎は、セイバーを呆れた目で見ている。
セイバーは、少し照れると言うんじゃなかったと後悔する。
「何でもありません。
この程度のものなど、魔力を込めれば……。」
「床を壊さず抜けよ。」
「え?」
「『え?』じゃねー!」
「では、私は、どうすればいいのです!?」
「なんでもかんでも一直線でものを進めて、
力任せで解決しようとしてちゃダメだぞ。」
「しかし、ゆっくり引き抜いても反り返りが……。」
士郎は、溜息を吐く。
「霊体化しろ。」
「!」
セイバーは、なるほどという顔をする。
セイバーが姿を消すとバサッと服だけ残る。
士郎の後ろでガチャッという音がすると甲冑を着けたセイバーがそこに居た。
「ほら、服持って風呂場行け。
服は、洗濯機に入れて汗流して来い。」
「そうします。」
「替えの服、どうしようか?」
「武装を解けばいいのでは?」
「お前の服って、ちょっと豪華そうで
一般家庭向けじゃないんだよな。」
「はあ……。
身形が良過ぎると?」
「そんな感じ。
今日は、男物の服で我慢な。
明日、藤ねえに頼んでみるよ。」
「お願いします。
しかし、生前、王として生きていましたから、
男物の服でも構いませんよ。」
「素材がいいんだから、勿体無いじゃないか。」
「?」
「セイバーは、間違いなく世間一般的に
美人と呼ばれる部類に入ると思うぞ。」
「…………。」
「そんな事を言われたのは初めてです。」
「嘆かわしい。
・
・
と、足止めしちゃったな。
服は、居間に置きっぱなしだから、好きなのを選んでくれ。」
「分かりました。では。」
セイバーは、士郎を残し道場を後にした。
士郎は、突き抜けた穴の淵を指で突っつく。
「さて、この穴、どうしようか?
・
・
俺の腕じゃ、無理だな。
大工を呼ばないと……幾らぐらい掛かるんだ?」
…
士郎は、溜息をつくと天地神明の理を持つ。
道場を後にして、玄関から土蔵に向かう。
今、体験した事を頭の中で繰り返し、自分の経験としてしっかり蓄積しなければならない。
土蔵に入ると天地神明の理を正眼に構え、目を閉じ自分との対話を始める。
先程のセイバーとの戦いが、ありありと浮かぶ。
魔力を込めて漲る力……。
向上する身体能力……。
そして、天地神明の理から伝わる何か……。
士郎は、ゆっくり目を開ける。
「忘れていた……あの感覚は、なんなんだろう?」
セイバーの魔力が、天地神明の理に当たった瞬間、自分の中の線……。
それも数十本の配線の内の1本に繋がったようだった。
「集中してみよう。
今度は、刀を自分の体の一部のように思うんだ。」
武器の重さに慣れていない事は、大きな欠点になる。
刀を己の延長として認識出来る事。
刀の重さを自分の腕の様に認識する事。
ここまで認識出来るほど、手に馴染んだ時、武器は武器でなくなり自分の一部になる。
そして、この天地神明の理には、もう少し何かある気がする……。
士郎は、天地神明の理と対峙し重さを感じ取り、空気の流れから刀身の長さを感じ取る。
直に柄を握り締める手が、一つになっていく感じがする。
(この感覚……。
馴染んで来てる……。
信じられない……今まで、こんなに早く馴染んだ事はないのに。)
そして、戦いで感じたあの線の繋がる感覚があらわれる。
(これだ……この繋がる感覚。
この感覚を追って行こう。
繋がる先は……。
黄金の塊? なんだ? その先は……セイバー?)
セイバーへ、繋がる途中に何かある。
その何かが、自分を通りセイバーに魔力を送っているようだった。
士郎は、集中を解く。
一体感はなくなり、天地神明の理は、ただの刀に戻ったようだった。
「初めてセイバーに会った時、魔術回路がどうとか言っていたな。
これが、そうなのかもしれない。
だとしたら、天地神明の理ってなんなんだ?」
士郎は、手の中の天地神明の理を見る。
「しかし、一体になった時、あの感覚が伝わるんなら
戦いの時の自分の状態を知る目安になるな。
今後は、一体になるまでの集中力を高める早さと持続時間を練習しよう。
それが終わったら、今まで通り最強の敵とのイメージトレーニングだな。」
士郎は、再び、天地神明の理との対話を始めた。
…
風呂からあがり、服を着替えたセイバーは、士郎が、居間に居ない事に気付く。
(何処に行ったのでしょう?)
その時、屋敷の結界が危険を知らせる。
「これは?」
何の躊躇もなく垂れ流される魔力をセイバーは感じ取る。
「ここまで堂々と己が存在をさらすとは……。
しかし、それも納得出来る。
これほど強大な魔力だ。」
セイバーは、居間から庭を睨む。
服も甲冑に換装し、縁側から庭に出る。
「こんばんは……月の綺麗な夜ね。
あなたのご主人様は、どこに居るのかしら?」
庭には、コートを着た雪の様な髪をした少女と屈強な巨漢の従者が佇んでいた。