== Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~ ==
母屋に帰る途中、士郎は鞘を忘れて来た事に気付く。
「あ、鞘を忘れた。」
そこに後ろからスッと鞘が出て来る。
「ありがとう。」
士郎は、当たり前の様に天地神明の理を鞘に納める。
三人は、驚愕する。
鞘を渡してくれたのは、バーサーカーだった。
第27話 アインツベルンとの協定①
「イリヤスフィール。
彼は、狂化されて理性がないのでは?」
「そのはず……なんだけど。」
「バーサーカーの感謝の気持ちだろ。きっと。
主を殺さないで、ありがとうって。」
「シロウは、意外とメルヘンチックな事を言いますね。」
「そうか?
でも、そういうような理由じゃないの?」
セイバーは、少し悩んでいる。
その横でイリヤは、少し嬉しそうにバーサーカーに微笑んだ。
「玄関からは、入れないから縁側から上がろう。
セイバーとイリヤは、先に入っていてくれ。
あと、ストーブに火入れてな。
バーサーカーは、縁側に座らせといてくれ。」
士郎は、そそくさと上がると風呂場に向かう。
セイバーは、きちんと火を落としてくれていたため、風呂の釜にもう一度、火を入れる。
そして、温くなったお湯をバケツに汲み、雑巾を持って居間に戻って来た。
「イリヤ、バーサーカーの足を上げさせてくれ。」
「いいよ。
バーサーカー、足を上げて。」
バーサーカーの足が上がると士郎は、雑巾で拭き始める。
「シロウ、何をしているのです?」
「うん? 家上がるのに泥ついてたらダメだろ。」
(シロウ、まるで貴方が敗者のようです。)
「よし、綺麗になった。
さ、入ってくれ。」
バーサーカーが中に入り、居間は狭く感じた。
ちなみに……。
バ
■■■イ
し セ
という位置で座っている。
「さて、これでゆっくり話が出来るな。
あれ? なんか忘れてないか?」
「シロウ、忘れています。」
「なんだっけ?」
「あなた自身の怪我です。」
「そうだ!」
士郎は、救急箱を取りに再び居間を出た。
居間は、沈黙している。
セイバーが、まだ、イリヤに完全に気を許した訳ではないからだ。
イリヤもそれを察して沈黙している。
直に士郎が戻ると治療が始まった。
「シロウ、手伝います。」
「ん、ありがとう。」
士郎は、左手の袖を捲くる。
「怪我をしたのは、右足ではないのですか?」
「いや、左手で合ってるよ。
派手に血が出たけど、傷口は小さいな。
もっと、盛大に突いたんだけど。」
「突いた? 刺さったんじゃないの?」
セイバーもイリヤも士郎の演技を知らないため、首を傾げている。
消毒が終わり、ガーゼと包帯を巻いて治療は終了した。
「さて、自己紹介からしようか。
俺は、衛宮士郎だ。
士郎と呼んでくれていい。
・
・
って、俺だけ名乗ってなかったな。」
イリヤは、最初に自己紹介を済ませているし、サーヴァントは、真名を明かせないのがルールである。
「で、え~と……。
イリヤに何から聞こうか?」
士郎は、セイバーに訊ねるが、セイバーもイリヤも先に士郎に訊ねたい事があった。
「シロウ、イリヤスフィールへの質問も大事ですが、
私は、シロウに先に質問したい。」
「わたしもセイバーと同意見。」
「?」
「シロウは、どの様な算段でバーサーカーを退け、
イリヤスフィールを落とすつもりだったのですか?」
「わたしも、それが気になってた。
怪我したのは、足じゃなくて腕だったし。」
「ああ、あれね。
はっきり言ってさ。
バーサーカーには勝てないと思ってさ。
狙いをイリヤにしたんだ。」
「それは、結果を見れば分かります。
知りたいのは、その過程です。」
「簡単に言うとセイバーとイリヤを騙したんだ。」
(また、嘘ですか……。)
セイバーは、眉を顰め、イリヤは、何時、騙されたか思い返す。
「どこから話そうかな?
・
・
これな……。
正義の味方を倒す悪役の考えなんだ。」
「な!? 悪……。」
セイバーは、少しがっかりした目で士郎を見る。
「正義の主人公がバーサーカーで、ヒロインがイリヤ。
主人公は、ヒロインを守り切れないと負け。
で、悪役の俺がヒロインであるイリヤに手を掛けるんだ。」
「士郎……なんか、それって正義の味方が、
最後に負けたみたいでイヤだな。」
「私も悪役の手下みたいでイヤです。
もっと、マシな例えはないのですか?」
「すまん。
後藤君と話した想定の話を実行したんで……。」
(あのシロウの友人ですか……。)
「それで?」
イリヤが、とりあえず続きを聞く。
「物語の主人公って、ヒロインがピンチになると強くなるだろ?
それでいつも悪役は負けるんだよ。」
「勧善懲悪な物語では、そうでしょう。」
「そこで『主人公がパワーアップしても負けない条件って、なんだろう?』って話し合ったんだ。
そして、結論付けた条件が空中にいる時のパワーアップなんだ。」
「それって、最後のバーサーカーの攻撃?」
「そう。
バーサーカーの滞空時間の間に、
一気にヒロインのイリヤまで行って仕留める。
幾らパワーアップしても地面に着くまで何も出来ないからな。」
「口で語るほど、簡単ではない気がします。」
「……命懸けでした。」
士郎は、思い出してゲンナリする。
「戦術は分かったけど、士郎は、どうやって実行したの?」
「まず、最後の間合いを一気に詰めるための下準備から。
バーサーカーに吹っ飛ばされるの覚悟で、70%ぐらいの速度で走り続けて、
イリヤに俺のスピードを印象付けた。」
「それで最後、速くなったような気がしたのですね。」
「わたしも気付かなかった。
それにしても、バーサーカーの攻撃を受けようなんて……。」
「俺、受け流すのは自信があるんだ。
それと、イリヤが『手加減しなさい』って命令してたろ?」
「あ。」
(そんな事まで計算に入れていたのですか。)
一息入れるとセイバーとイリヤは、感嘆の息を漏らす。
「でも、そんなに受け続ける必要はなかったんじゃないの?」
「私も、受け過ぎかと……。
受け損なった時のリスクが大き過ぎる。」
セイバーは、回復し切っていない自分の傷を思い出す。
「攻撃を受け続けていたのは、イリヤをイラつかせるためだったんだよ。
案の定、イリヤは、バーサーカーに
『少し本気を出していい』って、痺れ切らしたろ?」
「確か……あれも跳躍による攻撃でしたが?」
「位置が悪かった。
イリヤに近づくためのバーサーカーの滞空時間とイリヤまでの距離が遠過ぎた。
だから、適切な距離と俺に止めを刺せる条件を作った。」
「作った?
・
・
そうか、ここで何かをしたのですね!」
「正解。」
「待って。
士郎が、怪我したのが左手で、
突き刺したっていう事は……。」
「「自分の腕を刺した!」」
「またまた、正解。
バーサーカーの攻撃で土煙があがっている間に左手の出血を右足に塗ったくって、
土煙が晴れる瞬間に吹っ飛ばされたフリをして移動した。
ちなみに滞空時間の計算は、最初にバーサーカーが、
俺とセイバーを襲った時の情報を参考にした。」
「そして、足を怪我をしたと思ったわたしがバーサーカーに命令して……。」
「その滞空時間の間に
シロウが、イリヤスフィールに攻撃を仕掛けた。」
「本当に死ぬかと思ったよ。
セイバーは、怪我してるし。
バーサーカーは、強過ぎるし。
唯一の隙は、イリヤが油断している事だけだった。
・
・
しかも、最後のあの予想を裏切ったバーサーカーの行動。
少しのずれも許されない条件だから死んだと思った。
いや、セイバーが居なければ確実に死んでた。
・
・
最後にイリヤが混乱してたのも大きかったな。
魔術を使うの忘れていたから。」
「…………。」
「あれ? どうした?」
セイバーとイリヤは、俯いている。
「悔しいな。
条件は、わたしの方が有利だったのに……。
士郎の掌の上で、事が進んでいたなんて……。」
(イリヤが本気だったら、俺は、今、ここに居ません。)
「私も自分が不甲斐ない。
シロウを守れず、逆に助けられる形になるとは……。」
(セイバーの怪我は、バーサーカーとの戦闘で負ったサーヴァント同士のもの……。
俺は、逃げまくってバーサーカーとは真面目に戦っていない。
と、いうか、あんなものとは戦えない……。)
居間には、何とも言えない空気が流れる。
(なんだ、これ?
俺、凄く悪い事した気がする。
雑魚の癖に出しゃばりやがってみたいな……。
でも、事実そうなんだよな。
訳分かんない奴が、場を引っ掻き回したんだから。)
その時、士郎の腹の虫が鳴った。
「戦ったら、お腹空いちゃったな。
夜食を作るけど、みんなは?」
「頂きます。」
「わたしも食べる!」
「了解、暫し待ってくれ。
ところで……セイバー。
もう、甲冑取ったら?」
「私は、まだ信用した訳ではないので。」
(本当に頑固だな……。
こういうタイプは、北風と太陽よろしく無理に言ってはダメだ。
自分から取らせないと……。
・
・
そうだ!)
士郎は、冷蔵庫を漁り、スーパージェット茶碗蒸しなるものを取り出す。
(お隣さんからのお土産なんだけど……。
・
・
なになに……5秒でホカホカか。
ふ~ん、スーパージェットシリーズって他にもあるんだ。
・
・
注意事項も書いてある。
・
・
密閉された空間で使用するな、か……。
じゃあ、外で。)
士郎は、外に行き、スーパージェット茶碗蒸しのギミックを発動する。
凄まじい蒸気の発生の後、辺りには茶碗蒸しの匂いが立ち込める。
(コイツは、密閉空間じゃ使えんな。)
士郎は、居間に戻るとセイバーとイリヤとバーサーカーの前に茶碗蒸しを置く。
「料理出来るまでの繋ぎな。
イリヤとバーサーカーは、箸慣れてないと思うからスプーンで。
セイバーは、箸で大丈夫だな。」
「問題ありません。」
茶碗蒸しはスプーンが定石だが、士郎は、ワザとセイバーの前に箸を置く。
そして、手軽な料理という事でチャーハンを作り始める。
夜中だからサッパリととも思ったが、運動後で少しカロリーが欲しい。
アクセントに梅干を入れればサッパリするだろうと士郎は一工夫する。
一方、セイバーは、士郎の策略に葛藤していた。
(くっ! 篭手が邪魔で箸が持てません!
士郎、謀りましたね!
しかし、こんな事では負けません。
・
・
そうだ! シロウを殴る時の様に篭手だけ解除すれば……。
いや、それでは私の負けになる!)
セイバーの隣でイリヤが、一口、茶碗蒸しを食べる。
「士郎、これ美味しい!」
「そうか? 口に合って良かったよ。」
士郎は、セイバーの様子を見てニヤリと笑う。
陥落まで、もう少し。
セイバーは、茶碗蒸しを睨み険しい顔をしている。
更に隣のバーサーカーが、スプーンも使わず一口で茶碗蒸しを平らげた。
(無表情のはずのバーサーカーの顔が勝ち誇って見える。
『お前は、食べないのか?』と。
・
・
どうすれば……。
どうすれば…。
どうすれば!?)
士郎は、チャーハンを盛り付けながら、セイバーに声を掛ける。
「セイバー、ここは器の大きいところを見せて、
武装を解除してくれないか?
これは勝ち負けじゃなくて戦略的撤退だからさ。」
(戦略的撤退……。
負けではない……。
器の大きさを見せる……。
・
・
茶碗蒸し……。)
「そうですね。
マスターの意向を無視して困らせるのも良くない。
イリヤスフィールにも礼節を重んじなければ。」
(シロウ……。
私は貴方の謀にあえて乗ったまでです!)
セイバーは、武装を解除しドレスの姿になると、早速、茶碗蒸しを食べ始めた。
「美味ですね。」
(……勝ったな。)
士郎は、最後に釜の飯を全て使用して、バーサーカー用にチャーハンを作り始めた。
…
士郎は、作り終わったチャーハンをみんなの前に並べる。
そして、ほうじ茶を人数分並べる。
「さ、食べるか。」
「「「いただきます。」」」
こうして異色の夜食は開始された。
「しかし、違和感は拭えませんね。
さっきまで殺伐としていたのに……。」
「ま、話の流れからすれば誤解だったんだし。
死人が出なくて良かったじゃないか。
俺とセイバーが怪我しただけだ。
バーサーカーと戦って、この程度で済んだのって奇跡に近くないか?」
「わたしは、士郎のデタラメさの方が奇跡だと思う。
あ、このチャーハン、酸味が利いてて美味しい。」
「私も、イリヤスフィールと同意見です。
貴方は、少し……いや、かなりおかしい。
本当に、サッパリした酸味が美味しいですね。」
「人を貶しながら、料理の評価を言うな……。
おかしいおかしいって……。
何も言わないバーサーカーに、一番、親近感を覚えるぞ。」
「しかし、盛大に盛り付けましたね。」
セイバーは、バーサーカーの前のチャーハンに目を移す。
バーサーカーは、黙々と食べ続けている。
勢いの中にも品性を感じ取れるのは、彼が英雄だったためだろうか。
「でも、士郎が、バーサーカーの分の食事も
作ってくれるとは思わなかったな。」
「なんでさ?
仲間外れは良くない。」
「でも、サーヴァントは、
食事を取らなくても平気なんだよ?」
「へ~。」
(シロウ、今の話を聞いて、
明日から食事なしなんて事は、ありませんよね?)
「でも、俺、魔術師じゃないから割り切れないな。
自分だけ食べて、ほっぽとくなんて。」
(流石、私のマスターです。)
「士郎は、優しいんだね。」
「う~ん。
これを優しいと言うんだろうか?」
「うん。
わたしは、士郎が、バーサーカーに優しくしてくれたのが嬉しい。」
「仲いいんだな。」
「うん、ずっと一緒に居てくれてるの。
セイバーと士郎も仲いいんじゃないの?」
「昨日、初めて会ったんだけど、そう見えるか?」
「うん。
だって、マスターに制裁入れるサーヴァントなんて見た事ないもん。」
セイバーは、ガクッと肩を落とす。
士郎は、笑っている。
「イリヤスフィール。
貴女は、大きな勘違いをしている。
あれは躾けの類です。」
「制裁と何が違うんだ……。」
「貴女も、シロウの足を踏みつけたではありませんか?」
「そういえば……。」
「あのような状況が、昨日から延々と続いているのです。」
「なんかセイバーに少し同情……。」
「変な結束を強めないでくれ。」
「しかも、からかうのは、私だけに止まりません。」
「その辺で止めてくれ。」
「身近で言えば、義姉にあたる者。
聖杯戦争関係で言えば、アーチャーのマスターとアーチャー。」
「見境いないのね。」
「人を盛りのついた犬の様に。」
「お陰で話がいつも脱線して……。」
「わたしの名前を聞いた時もワザと!?」
「いえ、あれは素でしょう。
シロウは、自分の興味がないものには驚くほど知識がない。
特に横文字の類は嫌いみたいですね。
学舎の英語の授業は酷かった……。」
「何これ?
お前ら、もう、打ち解けてんじゃん?」
「じゃあ、士郎って頭悪いの?」
「はい。」
「オイ!」
「しかし、人を陥れる時は、悪魔のように狡猾で天才的です。」
「そうね。
わたしも、まんまとやられたもんね。」
「…………。」
「どうしました、シロウ?」
「どうしたの、士郎?」
士郎は、もう好きにしてくれと食べ終わったチャーハンのスプーンを弄ぶ。
「お前ら、本当は姉妹なんじゃないの?」
「そうかもしれませんね。」
「そうかもね。」
セイバーとイリヤは、目を細め不敵な笑みを浮かべる。
(共通の敵を見つけて結束しやがった。
まあ、いい。
話の流れを変える方法なんて幾らでもある。)
「兄妹といえば俺とイリヤは、兄妹になるのか?
血は、完全に繋がっていないけど。」
「そういえばイリヤスフィールは、シロウを
『お兄ちゃん』と呼んでいましたね。」
「皮肉も込めてたんだけどね。
でも、今は、素直に『お兄ちゃん』って呼んでもいいかな?」
「何故ですか?」
「新しい玩具を見つけたんだもん!」
士郎は、ガンッとテーブルに頭をぶつける。
士郎は、溜息と供に忠告を始める。
「呼ぶ時は、『士郎』の方がいいかもな。
・
・
虎が吼えそうだ。」
「吼えますね。」
「虎?」
「士郎の義姉です。」
「かなり直情的でな。
脊髄反射で動くんだ。
まず、イリヤが、俺を『お兄ちゃん』なんて言おうものなら……。」
「言おうものなら?」
「『士郎ーーーっ!
その子、誰ーーーっ!?
なんで、お兄ちゃんなのーーーっ!』って、叫んだ後……。
パンチが炸裂だな……。」
「私の時も、そうでしたね。
しかし、イリヤスフィールを紹介すれば必ず咆哮するのでは?」
「…………。」
「その通りだ。
誰が来ても咆哮する。」
「なんか避けては通れない関門みたい……。」
「今度、来た時、びっくりしないようにな。」
「また、来ていいの?」
「いいよ。もう戦わないし。
普段、学校行ってるから、夕方が狙い目かな?」
「うん、絶対行く!」
イリヤは、嬉しそうに返事をした。
「そういえば、横道に反れてたけど、
イリヤには聖杯戦争の事を聞きたかったんだ。」
「わたしに?」
「うん。
御三家の人に直接聞きたかった。」
「アーチャーのマスターには聞かなかったの?」
(遠坂って気付いてる……。
情報収集はアインツベルンの方が、一枚も二枚も上手だな。
・
・
と、いうか、俺達は、情報集めしていない……。)
「なんかアイツ、真面目に聖杯戦争をしようとしていて、
御三家らしくなくてダメなんだよ。」
「らしくない?」
「普通さ、聖杯戦争のシステム作った御三家なら、
自分達に有利な事を幾つか施すと思うんだよ。
サーヴァントの降臨とか、令呪の改竄とか、聖杯に細工とか。
・
・
そういった形跡が見つけらんなくてさ。」
イリヤの雰囲気が、少女から魔術師になっていく。
セイバーは、それを感じ取ると気を引き締める。
「魔術師じゃない士郎が、そんな事に気付くなんて思わなかったわ。
士郎は、それが悪い事だと思う?」
「思わない。
苦労した功績の恩恵を他の魔術師4名に分け与えるだけでも、
大盤振る舞いなんだから、それぐらい当然だと思う。」
「意外だわ。
そこまで割り切っているなんて。」
「ここら辺は、セイバーとかなり話したからな。
でも、結論から言うと、この他の魔術師4名は、
聖杯戦争のサーヴァント降臨のためのシステムの一部としか思っていない。」
「悪魔のように狡猾で天才的……。
あながち嘘じゃないみたい。
士郎、あなたの考えは、全て正しいわよ。」
(まさか、敵の前で堂々と認めるとは……。)
「やっぱりか。
このバーサーカーっていうサーヴァントも
規格外な気がしてたんだ。」
「例えば?」
「狂化しているのに制御下にある事。
さっき言ってた『ずっと一緒に居てくれてるの』。
・
・
これって、聖杯戦争前に呼び出したって事だろ?」
イリヤは、唇の端を吊り上げて微笑む。
「じゃあ、士郎は、聖杯戦争をどう考えてるの?」
「御三家しか勝てない戦争。」
士郎とセイバーは、イリヤの答えを待つ。
「なーんだ、みんな知ってんじゃない。
知ってて、なんで、わたしに質問するの?」
「な!?」
セイバーから、殺気に似た気迫が噴出される。
士郎は、手を伸ばし制する。
「もう、話し合っただろ……。」
「……そうでした。」
「イリヤ、これって全部、俺の予想なんだ。
だから、確認が必要だった。」
(予想? どういう事かしら?)
「イリヤは、魔術師でもなく魔力も通わない俺が、
なんで、聖杯戦争に参加していると思う?」
「それは……。
ちょっと、待って!
士郎は、サーヴァントを呼べないじゃない!」
(あ、今、気付いた……。
まあ、あんな騒動の後だしな。)
「そうなんだ。
俺は、知ってれば聖杯戦争に参加しないんだ。」
「どういう事?」
「昨日、土蔵でイメージトレーニングの稽古をしてたら、
土蔵の魔法陣が勝手にセイバーを呼んじゃったんだ。」
「嘘?」
「ホント。
で、仕方なく参加してる。」
イリヤは、セイバーを見る。
「本当です。
だから、士郎は貴女に情報の確認を求めている。」
イリヤは、考え込んでいる。
「考えられない。
聖杯戦争のシステムは完成されていて、
呼び出すのに呪文と魔力が不可欠のはずよ。」
「やっぱり、俺ってイレギュラーな存在なんだ。」
「それは、間違いないでしょう。」
「で、イリヤ。
イリヤの意見としては、俺は、どうするべきだと思う?」
「どうって……分かんない。」
「だよな~。」
「士郎は、どうするつもりだったの?」
「逃げて! 逃げて! 逃げ抜いて!
聖杯戦争が終わるのを待つつもりだった!」
「……わたしは、そんなマスターに負けたのね。」
イリヤは、自己嫌悪に陥っている。
「しかし、シロウも少し心変わりをして来ています。」
「え?」
(なぜ、セイバーが代弁する?)
「根本は、シロウが言った通りですが、
倒そうとしているマスターが出て来ました。」
「誰?」
「シロウの学舎に結界を張ったマスターと
街の人々を襲っているマスターです。」
「理由は?」
「俺の都合。
俺の人脈保護優先で事を起こす。」
「士郎って、自分大好き?」
「大好きです。」
「…………。」
「シロウは、嘘つきですからね。
その辺は、言葉通り取らない方がいいですよ。」
「どういう意味だ?」
「簡単に言えば、シロウはイリヤスフィールが、
危機に陥ったと知ったら助けに行くという事です。」
「そりゃあ、行くけど。
どういう言い回しなんだ?」
セイバーの言葉にイリヤは、ピンと来るものがあった。
「そういう事なら、分かったわ。」
(くそっ! なんか、いつもと逆のパターンだ。)
こうして、夜は更けていく。
長話は、もう少し続く。