== Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~ ==
セイバーとイリヤは、なんとなく分かって来ていた。
士郎は、自分と関わりを持った者は、きっと、なんとかしようとするのだろうと。
「なんかセイバーとイリヤだけで納得してるなぁ。
まあ、いっか。
・
・
聖杯戦争の話は、今日は、ここまでにしよう。
イリヤの協力を約束出来ただけで大きな進展だ。
素人同然の俺に本物の御三家の情報が入るんだから。
それに……今後、どうするか考えないと質問も出来ない。」
「うん、それがいいんじゃないかな。
わたしも士郎の家に行く理由があるのは嬉しいもの。」
「では、シロウ。
イリヤスフィールと手を組むという事ですか?」
「そうだな。
でも、出来れば御三家のイリヤと聖杯戦争のあり方を話したいかな。」
イリヤは、何の事だろうと首を傾げる。
「簡単に言うと、もう、冬木で聖杯戦争をしないようにしたいんだ。」
「そんなの出来ないよ!」
「だから、話し合い。
イリヤが聖杯を手に入れれば、聖杯戦争が起こらないって話なら、
それも考慮に入れようかな、と。」
「シロウ!
そんな勝手な事を!」
「そう、勝手な考えだ。
だから、話し合い。」
(どうやら、無理難題みたいだな。
でも、やる事を明確にしないと何をすべきか決めらんないし。
大体、一般人の住む所で戦争って……。
天下一武道会みたいに武舞台でも作って戦えばいいんだよ。)
第28話 アインツベルンとの協定②
時間は、0時を回っていた。
士郎は、遅くまで引き止めてしまったイリヤを気に掛ける。
「遅くなっちゃったけど、家の人に連絡しなくて大丈夫か?」
「う~ん。
そういえば、予定の時間より遅いかな?
士郎をサクッと殺して帰るつもりだったから。」
「包み隠さない言い方だな……。」
「…………。」
「家の人が心配するといけないから電話しよう。
電話番号は?」
「え? 士郎が電話するの?」
「そうだけど?」
(ちょっと、セラの反応が見てみたいかな?)
イリヤは、悪戯心を刺激され笑みを溢す。
セイバーは、何となく、この雰囲気が士郎に似ている感じがした。
イリヤは、士郎に電話番号を教える。
士郎は、早速、電話する。
「ところで、誰が出るのかな?」
「多分、セラが出ると思う。」
「セラ?」
「わたしの家のメイド。」
「メイドが居るのか……。
お屋敷に住んでるんだな。」
「お城だよ。」
「…………。」
(お城?)
そうこうする内に電話が繋がる。
イリヤは、電話のスピーカーボタンを押す。
セイバーは、何をしたのか分からず見守る。
『ハイ。』
「ヤブに恐れ入ります。
衛宮という者ですが……。」
(なんて言えばいいんだ?
『イリヤさんのお宅ですか?』か。
『アインツベルンさんのお宅ですか?』か。
・
・
どちらにせよ、外人の家には電話を掛けづらい……。)
『あの、もしもし。
どうかなさいましたか?』
電話の向こうでは、メイドさんが聞き返している。
「すいません。
え~……。
あなたは、セラさん?」
『は?』
(シロウ、何ですか突然……。)
(さすが、士郎。
もう、予想外の展開。)
『何故、貴方が、私の名前を知っているのですか?』
「ああ、その、イリヤに聞いて。」
『イリヤ!? お嬢様を馴れ馴れしく愛称で呼ばないで下さい!』
「す、すいません。」
(なんで、怒られなきゃいけないんだ。)
『それで、ご用件は何ですか?』
「え~とですね。
イリヤ……。」
(しまった!
イリヤイリヤって、呼んでてフルネームが出て来ない!
もう、いいや……。)
「イリヤが、今、家に居てですね。」
『貴方は、私の話を聞いていたのですか!?
馴れ馴れしく呼ぶなと言っているのです!』
「イリヤさんが、家に居ましてね!」
『あくまで、対抗する訳ですね。』
…
セイバーとイリヤは、こそこそと話しをしている。
「なんで、士郎は、イリヤスフィールって言わないんだろう?」
「イリヤと呼んでたから、フルネームが出て来ないのでは?」
「横文字に弱いって本当だったんだ。」
…
再び、電話では、士郎とセラが鬩ぎ合う。
「ああ! もう!
セラ、しつこい!」
『な!?』
(あ、士郎キレた。)
「イリヤと俺は、お前が考えているより深い絆で結ばれてんの!
だから、イリヤでなんの問題もないの!」
『何故、お嬢様が見ず知らずの方と絆など結ぶのです!』
「それをお前に説明する義務はない!」
『な!?』
(一方的ですね、シロウ。
しかし、これでは、イタズラ電話と勘違いされるのでは?)
「いいか! 用件だけ言うぞ?
イリヤは、帰りが遅くなったけど、今から帰るから!」
『ちょっと、待って下さい!
貴方、衛宮と名乗りましたよね?
何故、敵である貴方から電話が来るのですか!?』
「俺が勝ったからだよ!」
『フ……貴方如き、俗人にお嬢様が敗れる訳ないでしょう。』
(なんなんだ、このメイド!? 妙に腹立つな!)
「じゃあ、お前は、
なんで、俺がイリヤの電話番号知っていると思うんだよ?」
『そ、それは……。』
「いいか? よく考えろよ。
アインツベルンの呼び出したバーサーカーは最強だ。
そいつが本気になれば俺なんか、本来、5分で殺せる。」
(シロウ、完全な敗北宣言じゃないですか……。)
(士郎、勝ったのに自分を貶めてる……。)
『た、確かに……。』
「それが、今になっても連絡がなく敵から電話が来てんだぞ?
キレる前に状況を把握しろよ!」
(キレたのは、士郎が先なんだけどね。)
『ま、まさか、本当に……。
お嬢様に何かあったのですか!?』
「だから! 俺が勝ったの!
でも、イリヤと仲良くなったから危害は加えてない!」
『嘘ですね。』
「は?」
『聖杯戦争でありながら、危害を加えないなど。』
「馬鹿か!? お前は!」
『な!? ば……。』
「危害を加えたら、電話番号を聞き出せんだろーが!」
『……貴方が、お嬢様を身代金目当てで
誘拐したとも考えられますが?』
「バーサーカーより、強い誘拐犯なんているか!」
イリヤは、お腹を抱えて笑っている。
『では、先程の勝ったという話は、どう解釈するのです?』
「ああ~~~。
つまりだな。
バーサーカーに勝てないからイリヤを狙ったんだ。」
『やはり、お嬢様に危害を加えたのではないですか!』
「だから、危害は加えてない。
・
・
体には……。」
『体? 何をしたんです!?
衛宮士郎ーーーっ!』
(なんで、コイツ、俺の名前まで知ってんだよ?)
「……あれ?
そーいえば、随分、酷い事したな。」
士郎は、あらためて思い返す。
『だから! 何をしたのです!?』
(士郎、煽るなぁ。)
「え~と。
・
・
転倒させて、首に刀を突きつけた?」
『衛宮士郎ーーーっ!
殺します……貴方は、絶対に殺します!』
「待て、セラ!
俺は、最初に戦いたくないって、イリヤに言ったんだぞ!?」
『殺します。』
「それに初めに殺そうとしたのは、イリヤだぞ!?」
『お嬢様は、いいのです!』
「なんだ!? その理屈は!?」
(流石に今のは酷い理屈ですね。
それにしても、シロウは死んでいいけど、
イリヤスフィールには危害を加えるなとは……。)
(う~ん。
セラ、キレてる。
だんだん脈略がなくなって来てる。)
『大体、婦女子に刃物を突きつけるなんて
恥ずかしくないのですか?』
「いや、恥ずかしいよ。
凄く恥ずかしいよ!
でもな、殺されそうになってんのに、何もしない訳にはいかないだろう!?」
『お嬢様に殺されるのだから、
ありがたく死になさい。』
「だから、死にたくないんだ!
生きていたいんだよ!」
『世の中のために死になさい。』
「~~~っ!
お前が死ね!」
『お嬢様にとんでもないトラウマを刻み付けておいて
生きているなど、虫がいいにも程があります。』
「もう、訳分からん!
何!? アインツベルンって!?」
…
セイバーは、イリヤを指で突いて、そろそろ助け舟を出せと合図する。
イリヤは、士郎から受話器を奪い取ると話し始める。
「セラ? わたし。」
『お嬢様!』
「士郎の話は、概ね本当よ。
そして、今から帰るから。」
『声を聞いて安心しました。
お怪我などはないのですね?』
「大丈夫よ。」
『精神的疲労などはございませんか?』
「大丈夫よ。」
電話の向こうで、安堵した息が漏れる。
『では、お帰りをお待ちしています。』
「心配掛けて、ごめんね。じゃあ。」
イリヤは、受話器を置く。
「あのメイド! 全然、態度違うじゃねーか!」
「セラは、真面目だから。」
「電話とは、あの様に会話をするものなのですか?」
「例外よ、セイバー。
ただ、こうなると思っていたけど。」
イリヤは、可笑しそうに笑った。
…
電話も掛け、時間も大分経ってしまった。
縁側に移動し、イリヤがコートを羽織る。
士郎とセイバーは、縁側でイリヤを見送ろうとする。
「士郎、楽しかったわ。」
「ああ。また、来てくれ。
メイドは、連れて来んなよ。」
イリヤは、再び、可笑しそうに笑う。
「これ、好きなの持って行っていいぞ。」
士郎は、戦利品のぬいぐるみをイリヤに見せる。
「え? いいの?」
「つい取り過ぎたからな。
本当は、ライオンと虎も居たんだけどな。」
「どこいったの?」
「ライオンは、騎士に捕獲され、
虎は、虎が持って行った。」
「ふふ……何それ?」
「ライオンは、セイバー。
虎は、藤ねえが持って行ったって事。」
「シロウ、アーチャーのマスターが黒猫を。」
「そうだった。」
「わたし、猫嫌いだからいい。
じゃあ、残り貰っちゃおうかな?」
「すまんなぁ。余り物で。
今度、一緒にゲームセンターに行こうな。」
「うん!」
「そういえば、シロウ。
アーチャーに、何を渡したのですか?」
「アーチャーにも、何か渡したの?」
「言って分かるかな?
地上最強の生物を渡したんだ。」
「…………。」
セイバーとイリヤは、固まる。
「何それ?」
「言葉じゃ、説明しづらいな。
絵で書いてやる。」
士郎は、家の中からスケッチブックと鉛筆を持って来る。
そして、僅か30秒で背中に鬼を浮かべた地上最強の生物を書き上げる。
「これだ。」
「「!!」」
セイバーとイリヤは、絶句する。
「こんなものをあげたのですか!?」
「アイツ、鍛えてそうだったから。」
「…………。」
「ちょっと、バーサーカーに似てるかも?」
「うん?
そういえば、後姿は……髪の具合とか似てるかも?」
士郎は、次のページにバーサーカーを地上最強の生物と同じポーズで書き上げる。
「似てますね……。」
「っていうか、士郎、絵上手過ぎ!
・
・
そうだ!」
「どうした?」
「このバーサーカーに色塗ってよ。」
「でも、色鉛筆ないし。」
「このシマウマの鬣、色鉛筆だよ。」
(最近のぬいぐるみは変わってるな。
あ、危なくないようにキャップまでついてる。)
「じゃあ、色つける。」
士郎は、さらに30秒で色をつける。
「ありがとう! 士郎!」
「どういたしまして。」
(帰るのどんどん遅くなるな……。)
「ねえ、今度、セラとリズ書いて。」
「メイドか?」
「うん。」
「見た事ないから、特徴言ってくれ。」
「え~と、目が……。
・
・
士郎は、モンタージュを作成するように2人のメイドを書き上げていく。
・
・
そうそう、そういう服装。」
「変わった服だな。
色は、これでいいんだな?」
「うん。
あ、出来た?」
「出来た。」
「またまた、ありがとう!」
「またまた、どういたしまして。」
(シロウは、手先が器用ですね。
・
・
それにしても、妙に変な特殊能力を持っていますね……。)
「これ、おまけ。」
シロウは、優しく微笑むメイド二人の間に笑顔のイリヤを書き加える。
そして、三人の後ろにバーサーカーを書き加える。
「わあ。」
イリヤは、嬉しそうに絵を眺めている。
「しまった……。
セラの顔に皺の一つでも書いてやるんだった。」
「そんなのダメだよ!」
イリヤは、スケッチブックを士郎から遠ざける。
「仕方ない……諦めるか。
・
・
他に何かあるか?」
「う~ん……。
思い付かない。」
「無理して考えなくていいから。」
イリヤは、スケッチブックをぬいぐるみの入っているビニール袋に大事に仕舞う。
そして、帽子を被ると縁側から外に出た。
「楽しくて遅くなっちゃったから、
今度こそ帰らないと。」
「バーサーカー居るから、送らなくていいかな?」
「うん。
バーサーカーより、強い誘拐犯は居ないから。」
「全くだ。」
「じゃあね!
お土産、ありがとう。」
「ああ、おやすみ。」
イリヤは、手を振って帰って行った。
「なんか聖杯戦争で命を懸けた気がしない……。」
「よく言います。
この状況を作り出した本人が。」
「!」
「どうしました?」
「こんな時間掛かると思ってなくて風呂の火を消してない。
今頃、煮えたぎってるな。」
「とりあえず、今日は、ゆっくりしてください。
これからの話も体を癒した明日にしましょう。」
「そうする。」
「!」
「どうしました?」
「この荒れ果てた庭は、どうしよう?」
「…………。」
「大河にバレないように明日、修復ですかね?」
「直せる自信がない……。」
「確かに……。」
士郎とセイバーは、荒れ果てた庭を見なかった事にした。