== Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~ ==
午後の授業が開始されると、士郎と後藤君は、再び寝続ける。
そんな士郎を霊体化したセイバーが仕方なく見守る。
(シロウ……。
今日の放課後から呪刻を探すというのに
貴方は、緊張感がなさ過ぎる。)
セイバーは、主の態度に怒りを抑えつつ放課後を待った。
一方、凛は、午後の授業中、ひたすら使用する罠を考えていた。
(やっぱり、守るよりも攻める方が
わたしの性に合っているわね。)
(凛……。
何を考えているか知らんが、
さっきから、一人百面相になっているぞ。)
アーチャーは、主の態度に溜息をついた。
第31話 結界対策会議②
放課後、屋上に士郎と凛と彼らのサーヴァントが集合する。
凛は、早速、使用出来る罠のリストを見せる。
「これが設置出来る罠のリストよ。」
「かなりの数があるな。」
「それだけ、リンが優秀な魔術師であるという事です。」
セイバーの言葉に気分を良くする凛。
一方、私の主も魔術師であればと心で嘆くセイバー。
話を進めるため、アーチャーが凛に質問する。
「凛、その中のどれを何処に配置する予定なのだ?」
「え?」
アーチャーの至極真っ当な質問に凛は固まる。
そして、固まる凛に士郎が話し掛ける。
「なんで、『え?』なんだよ。
使い方の説明まで備考欄に書いてあるんだから、
当たりは、つけたんだろう?」
「…………。」
(遠坂の家系の呪いが発動したな、凛。
仕方ない……。)
アーチャーは、主に助け舟を出す。
「凛は、他者の意見を尊重しようとしたまでだ。
お前達もリストの罠を頭に入れて意見を言って欲しい。」
「そ、そう! それ!」
「そうなのか?
でも……。
アーチャーの意見がいきなり矛盾したのは、なんでだ?」
「気にするな。」
「いやさ……。」
「気にするな!」
「なんでさ?」
アーチャーのやり取りを見て、セイバーは感心する。
(なるほど。
シロウを制するには、強引さも有効のようですね。)
アーチャーに押し切られた士郎は、仕方なく黙ってリストに目を移す。
「バラエティが広いな。
条件に合わせて絞ろう。」
「全部使わないの?」
「そうだな……。
例えば、遠坂が仕掛けられるだけの罠を仕掛けたとしたら、
魔力の気配が強くなってバレたりしないか?」
「バレるわね……。」
「調子に乗って盛大に仕掛けてもいいが……。
次の日、他の生徒が来る前に解呪するのって簡単なのか?
呪文、一つで全部消せるんなら仕掛けるけど。」
「出来ない事もないけど……。」
「どうする?」
「……絞ろうかしら。」
凛は、盛大に作り過ぎたリストと自分のテンションの高さを反省する。
「さて、どのように絞る?」
アーチャーの質問に沈黙する場。
仕方なくアーチャーが話を進める。
「意見があがらないなら、私から提案するが?」
「お願いするわ。」
(やけに大人しいですね。
こういう事は、得意だと思っていましたが。)
士郎は、リストを見たまま沈黙している。
「まず、罠の有効性から絞りたい。
発動範囲、罠に嵌った時の確実性と言ったところだな。」
「狙いは、サーヴァントにしますか?
それとも、マスターにしますか?」
「当然、マスターだろうな。
先ほど言った確実性を活かすなら、サーヴァントよりマスターだ。」
「そうね。
ダメージを与えるならマスター。
ただ……。
当然、先にサーヴァントから安全を確認するだろうから、
サーヴァントの対魔力で私の罠なんてキャンセルされるはず。
罠が発動してもマスターに届かない可能性が高いわ。」
「…………。」
「シロウ、何か思い付きませんか?」
「ん? ああ。
それなら、2通りあるぞ。
・
・
まず、教室に入ったらって条件で罠を仕掛ける。
サーヴァントが確認しに、先に教室へ入るはずだから、
二人目が入ったら発動する。
この時、発動するのは教室全体と入り口近辺。
サーヴァントとマスターに距離が開いているはずだから、
サーヴァント側は足止め出来るヤツで、マスター側は少々強力でいいと思う。
・
・
もう一つも同じ要領で先にサーヴァントが教室に入ったら、
廊下で待っているマスター側で発動させるんだ。
即効性のヤツがいい。
入り口の反対側の壁で発動すれば背後から確実だと思う。」
士郎は、言うだけ言うと再びリストを見始める。
「何……コイツ?」
「何故、こんなにスラスラ出て来るのだ?」
「貴方達も経験があるでしょう?
シロウにしてやられたという事が。」
「そういえば……。
士郎って、こういう事に特化しているの?」
「特化というか……話を聞いている以上、習慣ですね。」
「…………。」
「傍から見れば迷惑この上ない習慣だが……。
まさか活かせる場面があるとはな。」
珍獣でも見るように三人は、士郎を凝視する。
「その習慣を持っている士郎が、何で、静かなの?」
「それが不気味なのです。」
「……いい予感はしないな。」
「くっくっくっ……。」
「何? 笑い出したわよ。」
「遠坂。」
「な、何よ。」
「お前、五大元素みたいなのを安定して使えるだろ?」
「な!?」
「RPGなんかだと、『地』『水』『火』『風』が、
よく使われるから検討がついた。
ただ、あと1個、訳の分からない要素があるけど……。
それは、どうでもいいや。
『雷』とか『金属』とか『木』の類だろうからな。」
「あんた、そのリスト見て判断したの!?」
「まあ。」
「じゃあ、沈黙してたのって……。」
「お前の特性を見極めてた。」
凛のグーが、士郎の顔面に炸裂する。
「卑怯者!
あんた、ただで人の情報を手に入れたわね!?」
「卑怯じゃないぞ。
黙ってていいところを、ちゃんと言っただろ?」
「~~~っ!」
「凛、落ち着け!」
「その代わり、こっちも情報提供するからさ。」
「魔術師でもないあんたが、何を提供出来るのよ!」
「さっき、もう提供しただろ?」
「罠の事?」
「そう。」
(っ! 先越された感じだわ!
でも、特性がバレたぐらいなら、まだ、大丈夫……のはず。)
「で! 他には!」
「え? まだ、欲しいの?」
「当たり前よ!
士郎のやった事は、セクハラみたいなもんなんだから!」
「セクハラ……。」
士郎は、セイバーを見て訊ねる。
「俺の判断で少し漏らしていいかな?」
「一応、貴方の戦略には、及第点を置いているので許可します。」
(ギリギリか……。)
士郎は、凛に向き直る。
「じゃあ、少し。
アインツベルンのサーヴァントは、バーサーカーだ。
とてつもなく強いから、会ったら逃げろよ。」
凛とアーチャーが驚いている。
「何で、そんな事知ってんのよ!?」
「これ以上は言えない。」
「まさか、接触したのか!?」
「想像に任せる。」
「…………。」
「アーチャー、もしかしたら士郎と組んだ方が
情報が入って来るんじゃないかしら?」
「そうかもしれん。
だが、それは、学校のマスターを排除してから、
考えても遅くはない。」
相談モードに入ってしまった凛とアーチャーに士郎が話し掛ける。
「これでいいか?
と、言っても、これ以上は提供しないが。」
「ええ、いいわ。
あなた達が有力な情報を持っているというだけでも、
協力した甲斐があったもの。
・
・
おしゃべりは、ここまで。
呪刻を破壊しに行くわよ。」
「罠は?」
「あんたの決めた通りにして置くわ。
休み時間の時、呪刻を多く破壊した場所に
設置する事は決まってたでしょ?」
「そうだったな。
呪刻を破壊した後じゃないと罠を仕掛けられないんだった。」
「そういう事よ。」
「じゃあ、遠坂に呪刻を握り潰して貰うか。」
凛のグーが、士郎に炸裂する。
「その話を蒸し返すな!」
長話で生徒が下校する時間は大きく過ぎ、校内は静まり始めていた。
屋上を出ると士郎と凛は反対の方角へと別れ、行動を開始した。
…
連日のガス漏れ事故と殺人事件。
部活動も禁止され、残っている生徒はほとんどいない。
「さて、やるか。
セイバー頼むな。」
「分かりました。」
調べる階に人が居ない事を確認するとセイバーは現界する。
セイバーは、階段から最初の教室まで何もないのを確認すると最初の教室に入る。
士郎もセイバーの後に続いて教室に入る。
セイバーは、入り口からゆっくりと歩き始めると直ぐに立ち止まる。
「シロウ、ここです。」
セイバーは、黒板の中央付近を指差す。
「やっぱり、何も分からんな。」
士郎は、鞄の中からメモ帳とペンを取り出すと位置をメモする。
その後、教室を一周するが、他には怪しい箇所を見つけられなかった。
「こんな事を遠坂は、やっていたのか。
確かに時間が掛かって後手に回るはずだ。」
その後、同じ様に廊下を注意深く歩き、教室に入り確認する。
そして、セイバーは、3個の呪刻を発見して凛達と落ち合った。
「どうだった?」
「4つだけですが見つけました。」
「上出来よ。」
「ここで見つけた。」
士郎は、メモを見せる。
「遠坂が見つけた呪刻の場所も、一応、教えてくれ。」
「いいけど。
そんなのどうするの?」
「一応な。」
士郎は、凛の探し出した呪刻もメモに加える。
凛は、士郎のメモした呪刻の場所へ向かうと呪刻を破壊する。
その間に士郎達は、次の階に行き呪刻を探す。
この作業を繰り返して、1階まで辿り着いた。
「かなり、破壊出来たわね。」
「呪刻を探すのって集中力いるんだな。」
「そうよ。
大変だって言ったの分かる?」
「ああ。」
士郎は、呪刻の位置を記したメモを廊下の真ん中に並べる。
「何してんのよ。」
「もしかしたら、規則性ないかと思って。
ドラクエの小さなメダルを探す時に
最初は、レミラーマを使えないから、勘を頼りに探すんだけど……。
街の角とか意味のない花壇に落ちてる事が多いんだ。」
「ドラクエって……。」
士郎は、何となくで赤ペンで印を付けていく。
「遠坂。
もう1回、いいか?
俺の割り出した勘の箇所だけでいいから調べてくれないか?」
「いいわ。
やる気を見せてくれているんだから、
期待には応えましょう。」
士郎達は、屋上に上り呪刻を破壊しながら、再び一階に戻って来る。
「的中率76%……。
納得いかない……。」
「凛、私も同感だ。」
「私は、シロウのデタラメ加減には慣れて来ました。
しかし、最初は、リンと同じ反応をしていました。」
「何言ってんだよ。
呪刻を破壊出来たんだからいいじゃないか。」
「それにしたって……的中率が高過ぎるわよ。」
「それは遠坂が優秀な生徒だから、そう思うんだ。」
「何よ、それ?」
「俺だってランダムで機械が勝手に作ってたんなら、予想は出来ないさ。
しかし、今回は、人の意思が介入しているからパターンが出来るんだよ。」
「それ、わたしと関係ないじゃない。」
「大いにある!
遠坂みたいに優秀じゃない生徒は、赤点取らないように必死なんだ。
そいつらにとって重要なのは、選択問題での正答率!
答えが分からずとも当てるためには、
選択問題の配置パターンを作る教師の意思を読み取る事!
そいつら……いや、俺達は、その行動パターンを必死に割り出し、
赤点を回避しているのだ!」
「…………。」
「頭が痛い……。
何で、自分が馬鹿である事の証明を力説されるのかが分からない……。」
(全くです。)
(全くだ。)
「それにしても……。
分かるかどうかもしれない人の意志を汲み取ってる暇があったら、
普通に勉強して点数稼ぎなさいよ!」
「遠坂さんは、人の心が分からない!
勉強したくないから、勘を働かせて赤点を回避するんだろうが!」
「他人の心を把握する方が、遥かに難しいでしょうが!」
(シロウにとっては、例外かもしれません。
日々、他人の思考を読み取ってからかい続けているのですから。)
そして、士郎と凛が揉めている時、女の悲鳴が響き渡った。