== Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~ ==
響き渡る女の声は、恐怖によるものが感じ取れる。
「行くわよ! アーチャー!」
凛は、立ち上がり悲鳴のした方を睨む。
「頑張れよ。」
士郎は、シュタッと手をあげる。
「あんたも来る!」
凛のグーが、士郎の顔面に炸裂した。
第32話 結界対策会議③
凛とアーチャーに遅れて、士郎とセイバーが後を追う。
「士郎! 遅いわよ!」
「鞄と荷物があるから……。
荷物の弁当箱のせいでバランスが取りづらいったら、ありゃしない。」
「…………。」
士郎以外の三人が、頭を押さえながら走る。
「先、行く!」
凛とアーチャーは、一足先に悲鳴のした場所へ向かった。
…
半分開けられたドアから夕日が差し込む。
夕日は、廊下全体を照らしていた。
そして、廊下に倒れていたのは、この学校の女生徒だった。
凛が女生徒を抱えて調べ始める。
暫くして、ようやく士郎達が到着する。
「被害にあったのは、この女生徒か?」
「ええ。」
「血とか出てないから、平気か?」
「平気じゃないわ。
生命力が抜き取られてる。
このままじゃ、死ぬわよ。」
「救急車を呼ばないと。」
「そんな物、呼んでも無駄よ。
わたしが、何とかする。」
凛は、ポケットから宝石を取り出すと治療を始める。
しかし、差し込む夕日の強い光が集中を邪魔する。
「閉めるか?」
「お願い。」
士郎がドアを閉めようとした時、何かの音が士郎の耳に入る。
意識を注意深くしたその時、何かが飛ん来たのだと認識する。
それは、間違いなく凛の顔面を狙っている。
士郎は、手に持っている鞄で、それを防いだ。
「何!?」
「何か飛んで来た!
・
・
杭?
・
・
俺の鞄に穴がーっ!」
「敵サーヴァントの攻撃だ!」
アーチャーが、ドアの前に立ち警戒する。
杭に繋がる鎖がジャラジャラと巻き取られて行く。
「女の子の顔に……こんなもの投げつけるなんて!」
「士郎……。」
「遠坂だったから、いいようなものを!」
凛は、治療を中断し、士郎の顔面にグーを炸裂させる。
「このアンポンタン!」
「凛、小僧は放って置け!
ドアから離れるぞ!」
アーチャーの声で、凛は、正気に戻る。
セイバーが肩を貸し、凛と二人で女生徒を移動させる。
一方、士郎は……。
「くそっ!
サーヴァントの攻撃のせいで、また殴られた!」
(自業自得だ……。)
「一泡、吹かせてやる!」
士郎は、近くの教室の下にある小窓を蹴破ると鞄から杭を引き抜き、柱に固結びする。
「そんな事をしてもサーヴァントの力で柱ごと持って行かれるぞ!」
「そんな事は分かってる! 時間稼ぎだ!」
巻き取られる鎖がピンとしなり、柱がギシギシと音を立てる。
士郎は、鞄から蜂蜜を取り出すと杭と鎖にたっぷりと蜂蜜を掛ける。
「よし!」
士郎は、ドアから離れて凛達の居る場所まで下がる。
「何をやっているのですか、シロウ!」
「このまま、ただ、やられっ放しでいられるか!
まともに戦ったら勝てないから、これぐらいで許してやる!」
(微妙に情けない……。)
「無駄ね……。」
「無駄な事を……。」
柱が限界を向かえ、杭と鎖が激しく跳ね回りながらドアの向こうに消える。
そして、数秒後……。
「キャーーーッ!」
女性の悲鳴が辺りに響いた。
「ふ……見ろ。
敵サーヴァントは、女だ。」
得意げな顔の士郎に対して、頭を抱える他三人。
そして、今度は、ドアの辺りがビシビシと石化していく。
「石化能力もあるみたいだぞ。」
三人は、頭痛も引き起こす。
「こら、ライダー!
僕まで石化しているじゃないか!?」
マスターの声と思われる会話が聞こえる。
「敵サーヴァントはライダーで、マスターは男だ。」
三人は、頭痛の他に眩暈もする。
「ああっ、慎二!
すいません! 直ぐに石化を解きます!」
「もう、いい!
僕を担いで撤退しろ!」
士郎以外の三人は、完全に脱力する。
「マスターは、意外な事に間桐慎二だ。」
「もう、いや……。
何? この展開……。」
凛は、女生徒を抱きしめながら項垂れている。
セイバーもアーチャーも憔悴し切っている。
「全て俺の作戦のお陰だな。」
フッと軽く笑い、得意げな士郎。
「わたしは、認めないわ!
こんな聖杯戦争なんて!」
納得のいかない状態に怒りをあらわにする凛。
「サーヴァントの戦闘に蜂蜜を用いるなど……。」
妙な戦略に頭痛が増すアーチャー。
「情報が入り喜ぶべき所なのに……。
脱力するのは、何故でしょうか?」
緊張するサーヴァントとの接触が裏切られて脱力するセイバー。
「しかし、これだけは言えるな。
敵のライダーは……。
・
・
本日、始めての心の結集。
ドジっ子だ。」
「ドジっ子ね……。」
「ドジっ子ですね……。」
「間違いなくな。」
士郎の意見に初めて他の三人は同意した。