== Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~ ==
人生には、常に予想外の事態が付き纏う。
それが不測の事態なのか?
緊急を要する事なのか?
思いもかけない幸運をもたらすものなのか?
得てして、ここに居る4人は、脱力と情報を同時に手に入れた。
「これで戦いにおいて
有力な情報を手に入れる事が出来たな。」
「こっちの気は、思いっきり緩んだけどね……。」
一度抜けた気を引き締め直すのは、熟練した者でも容易にはいかない。
凛は、暫く動く気になれなかった。
「ところで、マスター。」
アーチャーが、何かに気付いて凛に声を掛ける。
「何?」
「いつまで、その娘を抱いているつもりだ?」
第33話 結界対策会議④
凛は、何かに縋る思いで抱きしめていた女生徒に目を移す。
「忘れてた。
治療の続きをしないと。」
士郎達に見守られる中で、凛は、宝石の魔力を使い呪文を紡ぎ治療を完成させた。
「遠坂って、やっぱり凄いんだな。」
「とりあえず、この子は、もう大丈夫よ。
直に目を覚ますでしょう。」
凛の言葉に全員にホッとした溜息が漏れる。
「じゃあ、ここに置いてくか。」
「あんたねぇ……。
何もしてないんだから、保健室ぐらいには運びなさいよ。」
「なんで、俺なんだよ?
遠坂には、アーチャーという立派な肉体労働者が居るじゃないか?」
「誰が肉体労働者だ!」
(そういえば、シロウは、私にアルバイトをさせましたからね……。
サーヴァントを扱き使うぐらい何とも思わないのかもしれませんね。)
「兎に角、この子を放置出来ないでしょう?」
「じゃあ、お前が連れてけよ。
よく言うだろう?
『家に帰るまでが遠足です』って。
だから、ベッドに連れて行くまでが治療です。」
凛は、頭を抑える。
「リン、私が連れて行きます。」
「セイバー、申し出は嬉しいんだけど、
放課後とはいえ、人を連れて歩いていたら、
人に見つかった時に、直ぐに霊体化出来ないでしょう?」
「呪刻を探している時は、身軽でしたから……。
言われれば、そうかもしれないですね。」
凛とセイバーは、士郎を見る。
続いてアーチャーが、士郎を見下ろす。
「分かったよ。
運ばせて頂きます。」
士郎は、女生徒を肩に担ぐ。
「米俵か何かじゃないんだから……。」
「お姫様抱っこの方がいいか?」
「…………。」
「まあ、どうでもいいわ。」
「!!
遠坂……。」
「何よ?」
「コイツ……胸でかいぞ。」
凛とセイバーが、申し合わせたようにグーを炸裂させる。
「セクハラ!」
「ハレンチです!」
士郎は、何とか倒れずに踏み止まる。
「お前らな!
このまま倒れたら、この子にブレーンバスター掛けちまうじゃないか!」
「あんたが、そんな事言うからいけないんでしょ!」
「確かにそうかもしれないけど……。
女を運ぶ時って、どうしても当たるじゃんか!
お姫様抱っこしたら、手に当たるし!
背負ったら、背中に当たるし!」
「上下逆にして運べば?」
「コイツの背骨が折れてもいいなら、そうする。」
「あ~~~!
もう、分かったわよ!
分かったから、胸が当たっても余計な事言わないで!」
「分かった。
・
・
でもさ、前から疑問に思ってたんだ。」
「何がよ。」
「テレビなんかだとさ。
主役の男性が、平気で女性を抱っこしたり背負ったりするだろう?
あれって、俺が見ても『セクハラじゃん?』って思う時があるわけ。
女性から見て、あれって許されるのか?」
「正直、わたしは嫌ね。」
「だったら……。
嫌悪感持たれる前に、正直に言った方が……。」
「だからって、あんたみたいに
口に出すのは、もっとイヤ!」
「そうなのか?」
「そうなのよ!」
士郎と凛は、喚き散らしながら保健室へ向かう。
残されたサーヴァント達は、感想を漏らす。
「あんなに自分をコントロール出来ない凛を見るのは初めてだ。」
「仕方がないでしょう。
デタラメな人なのですから。
私のマスターは……。」
「お互い苦労するな。」
「真っ当なマスターを持って、よく言います。」
セイバーは、軽く微笑むと士郎達の後を追う。
アーチャーは、彼女の懐かしい微笑を見て苦笑いを浮かべると後に続いた。
…
女生徒を保健室のベッドに寝かしつけると、士郎達は、空いている教室に入り会話を始める。
「結界の発動が近いけど、
マスターが割れたから、攻めに移行出来るわね。」
「俺のお陰でな。」
「凛、マスターが割れたなら学校で呪刻を破壊し続けるよりも
マスターを始末した方が早い。」
「そうね。」
「我々も協力しますか?」
「戦う上でサーヴァント二体というのは心強いわね。」
「では、我々も夜の巡回に参加すべきですね。」
セイバーは、士郎に視線を移し了解を得ようとする。
「俺は、巡回は不毛だと思う。」
即答で反対をする士郎に対して、凛が不機嫌を顔に表す。
「理由を言ってくれる?」
「敵の情報を得る事が出来て、こちらが有利になったのは確かだ。
しかし、その反面、相手にも警戒心を与えてしまった。
まず、慎二は、自分の縄張りや家には戻らないと思う。」
凛は、手を顎に当て士郎の言葉を頭の中で処理していく。
「続けて。」
「闇雲に探す巡回に慎二は引っ掛からないと思う。
じゃあ、どこで襲ってくるか?
結界という罠を張ったこの学校しか考えられない。
俺達がやるべき事は、学校での戦闘方法の検討と
結界が発動してしまった時の対策。追跡よりも待ち伏せ。
慎二を倒した後の結界の被害の事後処理だと思う。」
「見つかるかどうか分からない慎二を探すよりも、
確実に現れる学校での対策を考える……という訳ね。」
「そうだ。
だから、巡回するぐらいなら夜も学校に居て欲しい。」
「学校? どういう事?」
「結界を張っている慎二が出来る事って、結界を完成させる事だけだろ?
慎二が、結界に手出しが出来るのは夜だけだ。
慎二だけに注意して結界を完成させないで欲しいんだ。」
「確かに今までは、誰彼構わず疑わなければいけなくて
注意の目が散漫だったけど……。
慎二、一人でいいなら難しくはないわね。
慎二にさえ気を付けていれば、新たな呪刻が急に増える事はない。」
凛の言葉に士郎は頷き、話を続ける。
「そして、これは戦闘をする事と被害を少なくする対策でもある。
未完成の結界は、人間を溶かすスピードが遅くなるはずだ。
俺達の戦闘時間の延長が許される。
また、威力が弱いなら被害も少なく出来るはずだ。
だから、戦闘になった時、確実に使われるであろう結界は、
未完成である事を条件に加えたいんだ。
・
・
どうかな?
結界って言葉のパターンからの予想だけど。」
「巡回するぐらいなら、学校で警戒する方が正解のようね。」
(合ってるのかな?
とりあえず、進めよう。)
「それとトラップを仕掛ける手はずになっていたが、それもなしにしよう。
マスターが割れた以上、マスターを嵌める必要もない。
そもそも、慎二は、現れないはずだから。」
「折角、考えたのにちょっと残念ね。
でも……。」
「ああ、それにしてもだな……。」
「私は、慣れました。」
「どうしたんだ?」
全員の視線が、士郎に集まる。
「あんた、二重人格なんじゃないの!?」
「何、言ってんだ? 遠坂?」
「私も凛と同じ意見だ。
あれだけふざけた事をしている貴様が、
何故、まともな戦略を立てられると思う?」
「戦略的には、普通かと思うんだが……。」
「普通?
その割には、スラスラと出て来たじゃない。
魔術師の知識もないくせに……結界の対策とか。」
「遠坂は、ゲームとかしないのか? RPGとか。」
「…………。」
「しないわ。」
(なんだ? 今の沈黙?)
「RPGをやるとキャラクターを使ってゲームするんだが、
魔法使いとか僧侶とか戦士なんてのを操るんだ。」
「それで?」
「敵の中には、人質を盾に結界を張るなんてのはザラだ。」
「ザラ……何でよ?」
「演出だ。
・
・
そして、大抵発動する。」
「ダメじゃない。」
「しかし、そこで、場を盛り上げるために解決の切り札が用意されている。」
「何で、用意されてるのよ?」
「ゲームだからな。クリア出来ないと。
そのパターンの一つが、プレイヤーの操るキャラクターが粘ったお陰で、
最後に結界に亀裂が入り逆転とか結界の威力が弱くて逆転などだ。」
「なるほどね。
ゲームの作成者は、意図してピンチと解決策を用意する訳ね。」
「でも、俺達は、ゲームをする訳じゃないだろ?」
「そうね。」
「だったら、ピンチの演出など要らないだろ?」
「そうね。」
「だから、まどろっこしいのしないで直接の原因の慎二を
意識するように間を省けば……今の様な話になる。」
「あんたの知識って、遊びからしか入らないわけ?」
「義務教育の知識なんて大嫌いだ。」
「…………。」
「頭……痛い。」
凛の反応を見て、アーチャーも口を開く。
「私が気になるのは、話の内容ではない。
真面目に意見を言えているのが疑問だ。
ゲームからとはいえ、まともな意見を言えるのなら、
普段のあれは、一体何なのだと言いたい。」
「俺のささやかな楽しみだ。」
士郎以外は、全員渋い顔をする。
しかし、士郎は、無視して話を進める。
「そんな事よりも戦闘に入ったら、どうするんだ?
組織戦なんてやった事ないから、分からんぞ?」
「気を取り直そう。
・
・
マスターである凛と小僧は、後方。
私とセイバーが、前衛の基本スタイルでいいだろう。」
アーチャーの意見に、セイバーが追加の要求をする。
「前衛の立ち位置は、私が前でアーチャーが後ろでお願いしたい。
弓兵のクラス故、アーチャーは、私とライダーの戦闘での支援を。
そして、万が一、我々が抜かれた時は、
弓を持つ貴方が、マスター達を守って欲しい。」
「心得た。
私は、君より一歩引いて戦う事にする。」
「わたしは、後方で魔術による支援ね。
サーヴァントが2人も居るから、
込める魔力も唱える呪文も練度の高いものが出来るわね。」
「俺は、多分、戦闘に参加出来ないな。
遠坂達が戦っている間、徐々に溶かされているだろう。
そういう事で後方の守りは、遠坂だけでいいぞ。
俺は、一般生徒に紛れて溶かされてるから。」
「忘れていた……シロウは、魔術師ではないのでした。」
「まあ、サーヴァントの戦闘に手出し出来ないのは、
マスターも同じだから許容範囲だわ。」
(シロウの受け流す能力は、意外と使えるのですが……。)
「ところで、リン。
今の話し方からするとマスターでは手出し出来ないと言いながら
後方支援するというのは、矛盾があるように聞こえます。
貴女は、何か奥の手でもあるのですか?」
「流石ね、セイバー。
一応、聖杯戦争を意識して準備して来たから、それなりのものはね。
でも、今は、秘密にして置くわ。」
「マスターである貴女が、切り札を持つ事は頼もしい限りです。」
「ありがとう。」
魔術師でない士郎は、完全に蚊帳の外となっている。
しかし、それは仕方のない事と割り切って、士郎は、話を続ける。
「戦闘は、それで戦えば問題なさそうだな。
・
・
後は、結界だな。」
「結界? シロウが溶かされる前に勝負を決めるつもりですが。」
「そうじゃない。
前にも言ったけど、
ライダーが倒されても消えるかどうか分からないって事。」
「そうでした。」
「ライダーが倒されて消える結界だったらいいけど、
ライダーが倒されても結界に内在する魔力が消えるまで効力を維持されたら?
その効力が、2,3日平気で続くようなら?」
「拙いわね。
やっぱり、ライダー自身に
結界を解除させてからでないと倒せない。」
「手っ取り早いのが慎二を人質に取って、
ライダーに命令を出させて解除させる方法だな。」
「しかし、ぐずぐずしている時間もありません。
ゆっくりしていたら学舎の人間が死んでしまう。」
「…………。」
暫しの沈黙が、良い案が浮かばない事を証明する。
一足早く事態を整理したアーチャーが意見を投げる。
「ライダーのマスターを捕獲する事は、優先順位として最優先だろう。
ライダーのマスターについて話し合っては、どうだ?」
「慎二か……。
アイツも魔術師だったんだな。」
士郎の言葉に凛は、ある事を思い出す。
「おかしいわ……。
慎二が、ライダーを呼び出せる訳ないのよ。」
「なんでさ?」
「慎二は、魔術回路を持っていないの。
間桐……つまり、マキリは、魔術師として途絶えてしまった家系なのよ。」
「じゃあ、誰が呼び出したんだ?
慎二も魔法陣の誤動作か?」
「きっと、慎二の祖父がライダーを呼び出して、
マスターの権利を譲渡したんだわ。
偽臣の書を使ったのかも……。」
「マキリか……。
令呪を作った家系なら、それぐらいの技術を持っているかもな。」
(偽臣の書か……。
書って事は、本なんだな。
本か……本……本?)
「しかし、妙だ。
魔術師でもないものに命令権を譲って、どうするというのだ?」
皆が、暫し考えに耽る。
しかし、士郎は、理解出来ない言葉があるために別の質問をする。
「その……偽臣の書って?」
「本来のマスターが令呪を一つ消費して、
マスターの権限を譲渡するのよ。」
「令呪一つか……。
・
・
なあ、こんなのはどうだ?
魔術師じゃない者が、サーヴァントを持てば絶対に感知されない。
マキリは、遠坂が学校にいるのを知っているんだから、
魔力の感知出来ない慎二を送り込んだ。」
「つまり……わたしの暗殺?」
「実際、遠坂は、慎二を魔術師じゃないと決め付けていた。
その油断をついて遠坂を上手く暗殺出来たら、
再び権限を返して貰い本来のマスターが復帰する。
遠坂が優秀なマスターで、アーチャーが強力なサーヴァントなら、
令呪一つを犠牲にする価値があると思う。
・
・
まあ、可能性の一つだけど。」
凛とアーチャーが、思考して答えを返す。
「小僧の推測は、的外れではないだろう。
実際、凛は、敵のサーヴァントに狙われて武器を投擲された。」
「これだな。」
士郎は、鞄の穴を見せる。
「ん?
と、いう事は、あの女生徒は囮だったのか?」
「許せないわ。」
「慎二も、えげつない事するよな。」
「慎二なんて、どうでもいい……。
油断していたわたし自身に腹が立つ!」
「それは、私も同感だ。
マスターの危機に何も出来なかった。」
自分への怒りで再燃する赤い主従。
それを見て士郎は、後退してセイバーに耳打ちする。
「なんか、火に油を注いじゃったな。」
「ええ。
しかし、彼らの気持ちはよく分かる。
簡単に言えば、敵マスターの計略に踊らされていたのですから。
敵マスターの誤算は、その場に士郎が居て暗殺を妨害された事です。」
「俺?」
「命の突きかけた女生徒の位置と中途半端に開いていたドア……。
敵マスターは、リンが治療する事を見越していた。
治療に専念すれば集中力は女生徒に向き、注意力が散漫になる。
更にドアから入る逆光で投擲武器の位置は把握出来ない。
・
・
この条件でリンが助かったのは、散漫になった注意力の代わりを貴方が代行したからです。」
「確かにそうかもな。
ライダーの武器は、鎖つきの杭だったから最初に鎖の音が聞こえた。
そこで俺は、注意力を高めたから鞄で杭を受け止める事が出来た。」
「…………。」
「シロウ、シンジという人物は、
そんなに策略に優れているのですか?」
セイバーの質問に気を静めた凛が答える。
「慎二にそんな策略を考える頭はないわ。
その策略を考えたのは、祖父かライダーね。」
(慎二……酷い扱いだな。)
「では、結界を張る事を提案したのは?」
更に質問するセイバーに凛が続けて答える。
「それは、慎二の可能性が高いわね。
英霊の戦い方と管理者の目に付くような戦い方を考えれば、
サーヴァントと魔術師の思考とは考え難い。」
(魔術は、秘匿されるってヤツだな。)
「つまり、戦いの指揮を執っているのは慎二のようで……。
本当は、サーヴァントによるところが大きい。」
アーチャーが、更に補足を入れる。
「大分見えて来たな。
ライダーのマスターは、戦闘の時にどうするか?
魔術が使えない者の強みを利用し、
ライダーに戦闘をさせて自分は隠れる。」
凛とアーチャーの意見にセイバーは焦る。
「それでは、ライダーのマスターを見つけられない!」
「いや、慎二の性格を考えれば学校に居るはずだ。
アイツは、見下すのが大好きなんだ。
俺達が慌てふためく様を見たいはずだ。」
「そうね。
わざわざ結界まで張るんだから、
学校の中で気に食わない人が溶けて苦しむ姿を見に来るはずだわ。
・
・
それでいて自分が一番大事な下種よ。」
相手を分析し状況を認識し、戦う方向が見えて来た。
「一つ……作戦を言っていいか?」
士郎の声に全員が頷く。
戦略という面では、セイバー以外の凛とアーチャーも士郎を認めてくれたようだ。
「ライダーとの戦闘においての『石化能力』『鎖付きの杭の対策』は、
サーヴァントであるセイバーとアーチャーに任せる。
サーヴァントの能力は、把握出来ないから信じる事にする。」
セイバーとアーチャーが頷く。
「続いて、ライダーと戦うというより慎二をあぶり出す作戦。
その1……慎二が望む状況を作り出す。
学校の中での戦闘になるはずだから、
ワザと狭い空間で戦い難いという演技をして
セイバーとアーチャーは、ピンチを装ってくれないか?」
「慎二を油断させるのね。」
「理由は、もう一つ。
慎二は、自分を認めないヤツの苦しむ姿を見たいはずだ。
学校のみんなには悪いが、少し結界によって苦しんで貰う。
この状況を慎二は見たくて校舎をうろつくはずだ。
つまり、状況作りの時間稼ぎ。」
「なるほど。」
(信じられない……。
士郎にこんな一面があったなんて。
・
・
違うか……。
普段の行いを凶悪にして利用すれば、こうなるんだ……。)
「その2……ある程度、時間が経ったら派手に暴れる。
これは、校舎を揺らすぐらいでもいい。
大きな音を立てるのもいいだろう。
振動や音により、慎二は、自分の危機を認識する。
そうなるとどうなるか……。
・
・
自分の身を守るためにいてもたってもいられない。
そして、最後に頼るのは、自分のサーヴァント。
慎二は、自分の下にライダーを呼び寄せる。
そこを追撃して慎二を捕獲する。」
士郎の作戦に全員が納得を持って返事を返す。
「シロウ、いい作戦だと思います。」
「あと……この前、話したヤツ。
一応、漏れなく作戦を立てたつもりだけど、最悪も考慮する。
慎二に逃げられ結界を破壊出来なかった時だ。
その時は、セイバーの宝具で結界に穴を開ける。
そこから遠坂とアーチャーと協力して学校の人間を救出するんだ。」
「宝具の問題は解決していませんが……。
角度と威力を調節して対応してみます。
最悪の事態の場合は、宝具を使う事を約束しましょう。」
「……わたし達のいる前で、宝具を使っていいわけ?」
「問題ない。
セイバーは、理解してくれた。
それに俺達は、最後のサーヴァントになるまで遠坂達と戦わない約束だ。
だとしたら、逃げ回るのが主体の俺達よりも、
今後、戦いを主体に置く遠坂達の方が魔力を温存するべきだろ?」
凛は、非常に納得いかないという顔をしている。
「凛、提案に乗るべきだ。
協力関係にあるから、小僧達も分かって譲歩している。
それに小僧は、結界の中では一切戦えないのだ。
その分、こちらがカバーすれば、等価交換は成立する。」
「……分かったわ。
その作戦に乗るわ。」
「そんなに、気にしなくてもいいと思うぞ。
サーヴァントが二体いて、最悪の事態まで行くとは思えないから。」
「それもそうね。」
凛は、ようやく納得の表情をする。
「それと……。
サーヴァントを倒して結界を解除した後は、どうすればいいんだ?
救急車だけで大丈夫か?
さっきの女生徒みたいに魔術を行使しないと助けられないって事ないか?」
「そこは、任せて貰うわ。
聖杯戦争の監督役ってのが居るから、そいつに骨を折って貰う。」
「そんなのが居るのか?」
アーチャーは、何かを思い出し険しい顔をして凛に声を掛ける。
「凛、大事な事を忘れていないか?」
「?」
「小僧を教会に連れて行かなくていいのか?」
「へ?
・
・
あ~~~!」
「なんだ?」
「あんたを紹介するの忘れてた!」
「誰に?」
「言峰綺礼! 監督役!」
「どんな奴だ?」
「……陰険で最悪の奴よ。」
「じゃあ、いいよ。
そんな変なのと会わなくていい。
今更、聖杯戦争の事、云々言われても二度聞きだし。」
「そうね……。
わたしから『最後の一人が現れた』って伝えとく。」
(綺礼と会わせて、更なる修羅場を誘発する事はないわ。
しかし……あの綺礼でも、怒らせる事が出来るんだろうか?)
「それじゃあ、これで解散でいいかな?」
士郎の言葉に全員頷く。
「遠坂、夜の方は、お願いするけど……寝なくていいのか?」
「大丈夫よ。
夜更かしより、朝起きる方が辛いから。」
アーチャーは、ある現象を思い出すと頭を押さえる。
(あの姿は、見る方も辛い……。)
アーチャーの微妙な変化に気付かず、士郎は、凛と話を続ける。
「そうか。
俺達は、なるべく朝早く登校して慎二の活動時間をなくすようにする。」
「分かったわ。」
話が終わり校門で別れると、士郎とセイバーは、商店街に向け歩き出した。