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No.7779の一覧
[0] 【ネタ完結】Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~[熊雑草](2009/05/16 02:23)
[1] 第1話 月光の下の出会い①[熊雑草](2010/08/27 00:09)
[2] 第2話 月光の下の出会い②[熊雑草](2010/08/27 00:09)
[3] 第3話 月光の下の出会い③[熊雑草](2010/08/27 00:10)
[4] 第4話 月光の下の出会い④[熊雑草](2010/08/27 00:10)
[5] 第5話 土下座祭り①[熊雑草](2010/08/27 00:11)
[6] 第6話 土下座祭り②[熊雑草](2010/08/27 00:11)
[7] 第7話 赤い主従との遭遇①[熊雑草](2010/08/27 00:12)
[8] 第8話 赤い主従との遭遇②[熊雑草](2010/08/27 00:12)
[9] 第9話 赤い主従との遭遇③[熊雑草](2010/08/27 00:13)
[10] 第10話 後藤君の昼休みの物語[熊雑草](2010/08/27 00:13)
[11] 第11話 赤い主従との会話①[熊雑草](2010/08/27 00:14)
[12] 第12話 赤い主従との会話②[熊雑草](2010/08/27 00:14)
[13] 第13話 素人の聖杯戦争考察[熊雑草](2010/08/27 00:15)
[14] 第14話 後藤君の放課後の物語①[熊雑草](2010/08/27 00:15)
[15] 第15話 後藤君の放課後の物語②[熊雑草](2010/08/27 00:16)
[16] 第16話 後藤君の放課後の物語③[熊雑草](2010/08/27 00:16)
[17] 第17話 天地神明の理[熊雑草](2010/08/27 00:16)
[18] 第18話 サーヴァントとアルバイト①[熊雑草](2010/08/27 00:17)
[19] 第19話 サーヴァントとアルバイト②[熊雑草](2010/08/27 00:17)
[20] 第20話 サーヴァントとアルバイト③[熊雑草](2010/08/27 00:18)
[21] 第21話 帰宅後の閑談①[熊雑草](2010/08/27 00:18)
[22] 第22話 帰宅後の閑談②[熊雑草](2010/08/27 00:19)
[23] 第23話 帰宅後の閑談③[熊雑草](2010/08/27 00:19)
[24] 第24話 帰宅後の閑談④[熊雑草](2010/08/27 00:20)
[25] 第25話 深夜の戦い①[熊雑草](2010/08/27 00:20)
[26] 第26話 深夜の戦い②[熊雑草](2010/08/27 00:21)
[27] 第27話 アインツベルンとの協定①[熊雑草](2010/08/27 00:21)
[28] 第28話 アインツベルンとの協定②[熊雑草](2010/08/27 00:21)
[29] 第29話 アインツベルンとの協定③[熊雑草](2010/08/27 00:22)
[30] 第30話 結界対策会議①[熊雑草](2010/08/27 00:22)
[31] 第31話 結界対策会議②[熊雑草](2010/08/27 00:23)
[32] 第32話 結界対策会議③[熊雑草](2010/08/27 00:23)
[33] 第33話 結界対策会議④[熊雑草](2010/08/27 00:24)
[34] 第34話 学校の戦い・前夜[熊雑草](2010/08/27 00:24)
[35] 第35話 学校の戦い①[熊雑草](2010/08/27 00:24)
[36] 第36話 学校の戦い②[熊雑草](2010/08/27 00:25)
[37] 第37話 学校の戦い③[熊雑草](2010/08/27 00:25)
[38] 第38話 学校の戦い④[熊雑草](2010/08/27 00:26)
[39] 第39話 学校の戦い⑤[熊雑草](2010/08/27 00:26)
[40] 第40話 ライダーの願い[熊雑草](2010/08/27 00:26)
[41] 第41話 ライダーの戦い①[熊雑草](2010/08/27 00:27)
[42] 第42話 ライダーの戦い②[熊雑草](2010/08/27 00:27)
[43] 第43話 奪取、マキリの書物[熊雑草](2010/08/27 00:27)
[44] 第44話 姉と妹①[熊雑草](2010/08/27 00:28)
[45] 第45話 姉と妹②[熊雑草](2010/08/27 00:28)
[46] 第46話 サーヴァントとの検討会議[熊雑草](2010/08/27 00:29)
[47] 第47話 イリヤ誘拐[熊雑草](2010/08/27 00:29)
[48] 第48話 衛宮邸の団欒①[熊雑草](2010/08/27 00:30)
[49] 第49話 衛宮邸の団欒②[熊雑草](2010/08/27 00:30)
[50] 第50話 間桐の遺産①[熊雑草](2010/08/27 00:30)
[51] 第51話 間桐の遺産②[熊雑草](2010/08/27 00:31)
[52] 第52話 間桐の遺産③[熊雑草](2010/08/27 00:32)
[53] 第53話 間桐の遺産~番外編①~[熊雑草](2010/08/27 00:32)
[54] 第54話 間桐の遺産~番外編②~[熊雑草](2010/08/27 00:33)
[55] 第55話 間桐の遺産~番外編③~[熊雑草](2010/08/27 00:33)
[56] 第56話 間桐の遺産④[熊雑草](2010/08/27 00:33)
[57] 第57話 間桐の遺産⑤[熊雑草](2010/08/27 00:34)
[58] 第58話 間桐の遺産⑥[熊雑草](2010/08/27 00:34)
[59] 第59話 幕間Ⅰ①[熊雑草](2010/08/27 00:35)
[60] 第60話 幕間Ⅰ②[熊雑草](2010/08/27 00:35)
[61] 第61話 幕間Ⅰ③[熊雑草](2010/08/27 00:36)
[62] 第62話 キャスター勧誘[熊雑草](2010/08/27 00:36)
[63] 第63話 新たな可能性[熊雑草](2010/08/27 00:37)
[64] 第64話 女同士の内緒話[熊雑草](2010/08/27 00:37)
[65] 第65話 教会という名の魔城①[熊雑草](2010/08/27 00:37)
[66] 第66話 教会という名の魔城②[熊雑草](2010/08/27 00:38)
[67] 第67話 教会という名の魔城③[熊雑草](2010/08/27 00:38)
[68] 第68話 幕間Ⅱ①[熊雑草](2010/08/27 00:39)
[69] 第69話 幕間Ⅱ②[熊雑草](2010/08/27 00:39)
[70] 第70話 聖杯戦争終了[熊雑草](2010/08/27 00:39)
[71] 第71話 その後①[熊雑草](2010/08/27 00:40)
[72] 第72話 その後②[熊雑草](2010/08/27 00:40)
[73] 第73話 その後③[熊雑草](2010/08/27 00:41)
[74] 第74話 その後④[熊雑草](2010/08/27 00:41)
[75] 第75話 その後⑤[熊雑草](2010/08/27 00:42)
[76] 第76話 その後⑥[熊雑草](2010/08/27 00:42)
[77] あとがき・懺悔・本当の気持ち[熊雑草](2009/05/16 02:22)
[78] 修正あげだけでは、マナー違反の為に追加した話[熊雑草](2010/08/27 00:42)
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[7779] 第34話 学校の戦い・前夜
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/08/27 00:24
 == Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~ ==



 夕暮れの商店街を士郎とセイバーは歩いて行く。
 ちなみに私服を用意していないので、セイバーは、霊体化している。


 「シロウ。
  ここには、何を目的に立ち寄ったのですか?」

 「生活必需品の買出し。
  つまり、食料調達。」

 「そうでしたか。」

 「そ。
  一人食い扶持増えたから、その分、多く仕入れないとな。」

 「う……すいません。」

 「気にするな。
  今日も、ネコさんのところで働くんだから。」

 「……私は、対価を払わされているのでした。
  普通のサーヴァントならば、このような扱いは受けないのですが。」

 「まあ、俺達は、普通じゃないからな。
  なんせマスターにサーヴァントを呼び出した理由がなく、
  サーヴァントに留まる理由があるんだから。」

 「ふふ……そうでしたね。
  私の聖杯への願いも変わって来たような気がします。
  特に貴方を見ていると気を張るのも馬鹿らしくなる。」

 (馬鹿らしく……か。
  俺は、そういうのこそセイバーに必要な気がするんだよな。)

 「セイバーは、英雄だったって言ったよな。」

 「はい。」

 「もしかしたら、この聖杯戦争は、英雄の最後の試練なのかもな。」

 「試練……ですか?」

 「そう。
  セイバーの願いは、見えるけど見えない。
  正解だけど正解じゃない。
  矛盾するけど矛盾していない。
  そんな感じがする。
  その中から答えを出すのは難しい。
  だからこそ、悩み抜いて辿りつく答えが試練の壁なんだ。」

 「そうだとしたら、騎士である私は、
  真正面から受け止め、乗り切らねばなりません。」

 「そうだな。
  そして、その試練の哀れな案内人に選ばれてしまったのが……。
  俺なんだろうな~。」


  セイバーは、クスクスと笑っている。


 「ええ、貴方が案内人で間違いありません。
  そして、聖杯戦争を体験する英霊全員が試練を与えられ、
  案内人は、マスターなのかもしれません。」



  第34話 学校の戦い・前夜



 商店街で買い物を終え帰宅する。
 食料を手早く選り分けて、冷蔵庫へと放り込む。


 「ライダーのせいで遅くなった。」

 「聖杯戦争をしている以上、
  スケジュールが狂う事は、避けて通れません。」


 会話も早々に切り上げる。
 そして、昨日同様に着替えを終えるとバス停へと急ぐ。
 バス内では、会話をする事なく士郎もセイバーも静かにしていた。
 バスが新都へ着くとオフィス街にあるコペンハーゲンへ早めの足取りで移動する。


 「おはようございます。
  遅くなりました。」

 「珍しいね。エミヤんが遅刻とは。
  まあ、いいけどね。
  5分、10分ぐらい。」

 「お世話になります。」

 「ああ、ハマーンさんも来てくれたんだね。」


 セイバーは、がっくりと肩を落とす。


 「あ、あれ? ハマーンさん?」

 「すいません、ハマーンではなくセイバーと呼んで貰えますか?」


 士郎は、隣で笑いを堪えている。


 「まあ、いいけど……どうして?」

 (どうしてと言われても……。
  『シロウのイタズラです』とは、言い難い。
  リン達は、事情を知っているから話せましたが……。
  ・
  ・
  ひょっとして話しても問題ないのでは?
  いや、会話からするとここでの士郎は、まともな人間をしているように見受けられる。
  余計な事を言って、私も変人と思われるのは避けたい。
  ・
  ・
  仕方ない……嘘に嘘を重ねるようで心苦しいですが。
  シロウが、大河に使ったのと同じ手を。)

 「申し訳ありません。
  この国に、まだ完全に馴染めず、
  苗字と名前の違いが分からなかったのです。」

 「それにしては、流暢な日本語を話すわね?」

 「ええ、言葉の方は、知人に教えて頂きましたが
  文化の方を完璧には……。」

 「いや、それだけ話せれば努力したの分かるって。
  異国の文化も慣れないと大変だもんね。」

 「ご理解が早くて助かります。」

 (セイバーも上手く躱すもんだ。)

 「ネコさん、直ぐに仕事に取り掛かります。
  昨日同様で、よろしいでしょうか?」

 「いや、今日は、配達分の整理だけでいいから。
  そっちは、エミやんに任す。」


 ネコが、目線で士郎に合図を送る。


 「分かりました。
  じゃあ、俺は早速。」


 士郎は、奥の方に姿を消して行く。


 「セイバーさんには、こっちの伝票を整理して貰いたいの。」

 「伝票ですか……。
  私は、こういったものをした事はありませんが。」

 「大丈夫、最初は、みんな知らないんだから。
  最初にわたしがやって見せるから。」

 「分かりました。
  お願いします。」


 ネコは、一枚の伝票を取ると付箋を付けながらセイバーに説明する。


 「分かった?
  日本語を書かないで数字だけだから、
  セイバーさんにも出来るでしょ?」

 「はい。
  これなら可能です。
  ・
  ・
  しかし、この電卓なるもの。
  素晴らしいですね。」

 (今時、電卓知らないって……。
  エミやんを疑う訳じゃないけど、この子、大丈夫?
  仕方ない……少し様子を見るか。)


 セイバーは、慣れない手つきで電卓を使い伝票をめくり書き込んでいく。
 しかし、自分の体を駆使する事には、抜群の能力を発揮するのがサーヴァントの性なのか……。
 はじめは、『なるほど』『ふむ』と頷きながらやっていたセイバーだが、次第に慣れてくるとネコさんの前でとんでもない事態を巻き起こす。


 「ネコさん、大体分かりました。
  今から、本気を出します。」

 「本気?」


 妙な言い回しに首を傾げるネコさん。
 セイバーは、それを余所に目を見開くと左手で凄まじいスピードで伝票を捲くる。
 鍛え抜かれた動体視力は、余す事無く数字を認識する。
 そして、右手は数字を正確に電卓に叩き込んでいく。
 電卓検定の有段者も真っ青な凄まじい展開にネコさんは、目を白黒させる。


 「終わりました。」

 「え?」


 セイバーは、伝票を精算して書いた紙をネコさんに渡す。
 流石に全部を確認するのは大変なので、中間の合計と最後の合計を検算する。


 「……合ってるわね。」

 「はい。
  電卓へ正確に打ち込んでいますから。」

 「ちょっと、いいかな?
  待っててね。」


 ネコは、席を外すと士郎のところに走って行く。


 「エミやん! エミやん!」

 「何ですか、ネコさん?」

 「あの子! セイバーさんって何者!?」

 「何かやらかしました?」

 「違う! そうじゃない!
  初めて電卓使うっていうから、様子を見てたんだけど。
  あっ、という間に伝票整理しちゃってさ!」

 (アイツは、体動かす事に関しては天才的だからな。
  人間じゃないし……一段上の英雄だから。
  なんて言えばいいんだか……。)

 「ネコさん。
  俺も初めて見た時は、びっくりしました。」

 「エミやんも?」

 「はい。
  セイバーは、運動神経が桁外れにいいんです。
  だから、体を動かす事をやらせると……大抵、予想の斜め上の成果を出します。」

 「そ、それは凄いわね。」

 「はい。
  しかし、初めて見る人は……。」

 「わたしと同じ反応をすると。」


 士郎は、黙って頷く。


 「何かアルバイトをさせるのが勿体無いわね。」

 (まあ、英雄ですから。
  ・
  ・
  確かに凄い無駄遣いだ。)

 「本人は、何に対しても一生懸命なんで。」

 「それは、分かってるよ。
  余りに人知を超えたような動きだったから。」

 (はい。
  人知を超えています。)


 少し安心したのかネコは、再び戻って行った。
 士郎も作業を再開する。

 そして、二日目のアルバイトも、予想以上の成果をあげて無事終了した。


 …


 「二人とも、今日もありがとう。
  セイバーさんには、数か月分の伝票まで整理して貰って。」

 「いえ、大変楽しく出来ました。」

 (数か月分処理して楽しいか……。)

 「それでは。
  我々は、これで失礼します。」

 「失礼します。」

 「ご苦労様。」


 士郎とセイバーは、コペンハーゲンを後にする。


 「セイバーの能力は凄いな。
  どんな生き方するとそんなになるんだ?」

 「日々、研鑽した成果です。
  貴方も努力を続ければ、私の様になれます。」

 (無理です。)


 昨日同様に、帰り道に聖杯戦争の会話をする。


 「さて。
  俺の予想だと明日は、慎二との戦いになる。」

 「何故、明日と断言出来るのですか?」

 「慎二の性格だな。」

 「性格?」

 「俺は、アイツと少し付き合いがあるから、
  ある程度の予想がつくんだ。」

 「では、どのような展開になり、
  戦いが始まるのでしょうか?」

 「正体のバレた慎二は、街を彷徨ったあげく学校に辿り着く。
  そして、最後の頼りの結界を完成させようとする。
  しかし、そこには赤い悪魔が居て手出しが出来ない。」

 (悪魔ですか……。)


 …


 その頃、学校の屋上で、凛がくしゃみを一発かます。


 「盛大なくしゃみだな、マスター。」

 「きっと、悪い噂ね。」

 「そうか?」

 「ええ。
  今、わたしの噂をする人物は、容易に頭に浮かぶのよね。」


 …


 士郎は、セイバーに続きを話す。


 「慎二は短気だから、自分の思い通りにならないと直ぐに癇癪を起こすんだ。
  だから、誰かに当り散らそうとする。」


 …


 学校の前に慎二とライダーが姿を現す。
 ライダーの報告に慎二は、歯をギリギリと噛みならし怒鳴り散らす。


 「はあ!? なんであそこに遠坂がいるわけ!?
  これじゃあ、結界を完成させる事が出来ないじゃないか!」

 「シンジ……。
  敵は、正体を知られた事でターゲットを我々に絞ったようです。」


 慎二は、ライダーを殴りつける。


 「お前が、遠坂を始末し損なったから!」

 「……申し訳ありません。」

 「どいつもこいつも役立たずだ!
  馬鹿の癖に! 僕に盾突くような事ばかりしやがって!
  ・
  ・
  ライダー……。
  明日、結界を発動させるぞ。」

 「しかし、シンジ……。」


 慎二は、再びライダーを殴りつける。


 「お前は、黙って僕の言う事を聞いていればいいんだ!」

 「…………。」

 「分かりました。」


 慎二とライダーは、踵を返すと学校を後にした。


 …


 「その当り散らしが、何故、結界発動に繋がるのですか?」

 「当り散らすのって、幾つかパターンがあると思うんだ。
  例えば……。
  子供が親に当り散らすような理解者に縋るもの。
  弱者に当り散らして自分のプライドを保持するもの……などなど。
  慎二の行為は、後者だ。
  こんなもので守れるのだから、大したプライドではないけどな。」

 「ええ、リンの言っていた事がよく分かる。
  ・
  ・
  しかし、彼をここまで歪ませたものとは?」

 「魔術師……じゃないかな?
  途絶えた家系とはいえ、知識が残っている。
  知識が残っているのに魔術を使えないジレンマ。
  そして、魔術の知識があるが故、ワンランク下に見える他人が意見するのが気に入らない。」

 「しかし、それは、自分自身で解決しなければ……。」

 「そういう環境でもないんだろ。
  遠坂の話では、祖父は、現役の魔術師みたいだし。
  そいつが、毎日、うろつくだけでも気に障るんじゃないの?
  『お前は、出来損ないだ』って言われているみたいでさ。」

 「シロウは、随分と敵マスターに同情的ですね。」

 「同情? 同情かな?
  まあ、相手を分析して話すとそう聞こえるかもしれない。
  しかし、分別はつけないとな。
  力を持つものは、力を持った責任がある。」

 「その通りです。
  力は、自分のためだけにあるのではない。」

 「でも、ちょっとだけ使いたい気も分かるな。」

 「シロウ! 何を言っているのです!」

 「正直、ドラゴンボールを見た時に
  かめはめ波が出ないか試したぐらいだからな。」

 「…………。」

 「何ですか? かめはめ波って……。」

 「体内のエネルギー”気”を集中し、放出するんだ。」

 「魔術に似ていますね。」

 「しかしな……。
  主人公は、本気になると地球ぐらい簡単に破壊するんだ。」

 「はい?」

 「いや、おそらく登場人物のほとんどが地球を破壊出来る。」

 「え?」

 「そうだよな。
  ドラゴンボールで、何回も地球を再生してるし。」

 「シロウ、何なのですか?
  先ほどから、さっぱり分からないのですが。」

 「ああ、漫画の話だから。」

 「漫画……とは、何でしょうか?」


 士郎は、少し考え込む。
 そして、セイバー用に解釈を整理して説明する。


 「普通の本は、字ばっかりだろう?」

 「ええ。」

 「漫画は、作者が絵を主軸に物語を作る本なんだ。」

 「ほう。
  それは、興味深い。」

 「漫画は、想像力を駆使するから、
  ありえない事も物語りに組み込めるのが強みだ。
  また、作者のイメージが絵に表れるから分かり易い。」

 「なるほど。」

 「さらに絵を繋いで実際の物の様に動かすアニメなんかもお勧めだ。」

 「見てみたいですね。」

 「家に戻れば、直ぐに見れるぞ。」

 「では、お願いします。」


 話は、逸れる。
 聖杯戦争から、大きく逸れる。
 士郎とセイバーは、漫画の話をしながら帰宅した。


 …


 帰宅すると士郎は、藤ねえの置いていった本を居間に運ぶ。


 「これから夕飯作るから、これ読んで見てくれ。」

 「『うしおととら』……ですか。」

 「名作だ。」

 「はあ……。
  では、早速。」


 本のタイトルと表紙の絵から、想像も出来ない内容。
 セイバーは、思っていたものと違う本に気乗りのしない返事を返すと、正座して姿勢を正しながら本を読み進める。


 (これは……。
  素晴らしい……。
  実に細かく描写されている。
  しかも、登場人物が、まるで動いているようだ。)


 夢中で読み耽っているセイバーを置いて、士郎は、夕飯を調理し始める。
 そして、30分後、藤ねえがセイバーの服を持って現れる。


 「たっだいま~~~!
  セイバーちゃん、服持って来たよ!」

 「ありがとうございます、大河。」


 セイバーは、本を置くと頭を下げる。


 「うん? 何読んでたの?」

 「シロウに勧められた本を。」

 「あ~、『うしおととら』!
  それ、面白いでしょう!」

 「はい。
  潮ととらの奇妙な関係が、何とも言えません。」

 「うんうん。」

 「特にとらの時々見せる愛くるしい動作が、私は好きです。」

 「お姉ちゃんも分かるな~。
  セイバーちゃん、満点!
  セイバーちゃんの感性には、満点あげちゃう!」

 「ありがとうございます。」

 (なんちゅう会話だ。
  英雄と虎が漫画の評論をしている……。)


 士郎は、調理し終えた料理を運び始める。


 「そろそろ夕飯にするぞ。」

 「はい。」

 「あっ。
  セイバーちゃん、夕飯の前に試着してみて。」

 「料理運ぶまで時間あるから、いいぞ。」

 「そうですか? では。」


 セイバーは、着替えを始めようとする。


 「ストーーーップ!」
 「ちょっと、待て!」

 「は?」

 「お前は、何をしてんだ!?」

 「着替えを……。」

 「そうじゃない!
  なんで、ここで着替えるんだ!?」

 「そうよ!
  女の子が男の子の前で着替えるなんて!」

 (ああ、そうでしたね。
  女である前に騎士として生きて来たので……つい。
  普通は、そういうものでした。)

 「すいません。
  実家にいた時の癖で。」


 セイバーは、咄嗟に誤魔化す。


 「実家……。
  まあ、セイバーちゃんが、
  それぐらい安心して滞在してくれているのはいい事だけど。」

 (時代錯誤の異文化コミュニケーションの不一致というヤツか?
  なんにせよ、びっくりした。)

 「では、あちらで着替えて来ます。」


 セイバーは、障子を開けて隣の部屋へ移動した。


 「藤ねえ、外国の子って、あんなに気にしないものなのか?」

 「わたしが英語教師とはいえ、そこは分からない。
  っていうか、普通、女の子は気にするわよ?」

 (と、なると、時代の違いだな。)


 士郎と藤ねえは、暫く意気消沈する。
 そして、障子が開いてセイバーが現れる。
 士郎は、思わず吹き出した。


 「なんでセーラー服なんだ!?」

 「何言ってんの士郎!
  セーラー服は、基本よ! 基本!」

 「なんの基本だ!?」

 「でも、嬉しいでしょう?」

 「……実は、少し。
  ・
  ・
  って、アホな事言っている場合か!」

 「シロウ、この服は、似合いませんか?」

 「いや、似合ってる。
  恐ろしいぐらい。」

 「ありがとうございます。」

 「しかし、それは、普段着ではなく制服だ。」

 「そうなのですか?」

 「そうなのです。
  学生服といって、学校に行く時の服だ。」

 「大河、これは違うようですが?」

 「ごめんね。
  わたしの学生の頃の服を持って来たから。」

 (嘘だ。ワザとだ。
  セイバーと俺の反応を見て楽しんでやがる。)

 「そうですか。
  しかし、シロウの学校の服も混ざっていたようですが。」

 (何個ネタを仕込んでいやがる! この馬鹿虎!)

 「それは、わたしの趣味。
  セイバーちゃんに着せたいな、って。」

 (趣味かよ!)

 「結局……私は、普段、どの服を着ればよいのでしょうか?」

 「じゃあ、一緒に選んであげる。」

 「お願いします。」


 セイバーと藤ねえは、居間を出て行く。


 「まったく、なんなんだ……。
  でも、ちょっと得した気分だ。」


 士郎は、料理を運び終え、後は食べるだけとなり、席に着いて二人を待つ。
 障子が開くと、セイバーと藤ねえが現れる。


 (今度は、普通だ。)

 「どう? 今度は、いいでしょ?」

 「ああ、昔、藤ねえが着てたのを覚えてる。
  でも、これって雷画爺さんと出掛ける時の余所行きのじゃないのか?」

 「そうよ。
  あまり袖を通さないで小さくなっちゃったから。
  今回、ようやく日の目を見る事が出来たわ。」

 「どうでしょうか?」

 「いい……。」

 (しかし、なぜ、制服っぽいのしかないんだ?)


 セイバーの服は……。
 簡単に言うと原作通りである。


 「さて、服も落ち着いた事だし。夕飯にするか。」

 「はい。」

 「そだね。
  冷める前にさっさと食べよ。」

 「「「いただきます。」」」


 食事は、明るく楽しく進んでいく。


 「セイバーちゃんは、見掛けによらず食べるわね~。」

 「いやいや。
  藤ねえが、それを言うか?」

 「シロウの料理は、とても美味しい。
  私も食が進みます。
  それに、この繊細に調理された味付けは、何とも言えない。」

 「でも、現代は、食も人の趣味になっているから、
  レシピ本なんかも色々出てるぞ。
  だから、時間さえあれば誰でも技術を身につけられる。」

 「では、シロウ以外にも熟練した料理人が居る訳ですか。」

 「その通り。
  特に家庭を守る主婦の中には達人も居るだろう。」

 「ところで、士郎。
  現代って、変な言い回しね?」

 「そうだな。
  『現代は』じゃなく『現代の』か?」

 「そうじゃなくて……。
  なんかセイバーちゃんに変な言い方してるなって。」

 (微妙に鋭いな。
  しかし、余計な事を言わなければ、痛い思いをせずに済んだのに。
  虎も鳴かなければ、撃たれなかっただっけ?)

 「今のは、藤ねえに対する皮肉だ。」

 「へ?」

 「気付かないから、言ってやる。
  現代の主婦候補の藤ねえが料理を一向に覚えないから、
  そう言ってやったのだ。」

 (シロウ……また、嘘をついていますね。
  何故、貴方は、ただ誤魔化すのではなく、
  からかう方向に持って行くのか……。)

 「だ、だって~。」

 「実験台なら藤村組のお兄さん達が居るだろう?」

 「士郎は、わたしに組を潰させる気!?」

 (大河……。)

 (自覚はあったんだな。
  確かに大量殺人の現場みたいなものを作ってはいけないな。)

 「シロウ、大河に料理を教えてあげればいいではないですか。」

 「教えたさ。」

 「そうなのですか?」

 「教えたが好奇心に負けて余計な調味料を
  いつも入れるんだ。」

 「だって~!
  わたし好みの味付けにしたいんだもん!」

 「普段、人の料理を食べてて、
  なんで、そうなるかな!?」

 「ふ。
  人は、飽くなき夢追い人だから……。」

 「カッコイイ台詞で誤魔化すな!」

 (どっちもどっちですね。)


 …


 食事は終了し、士郎は、後片付けをして洗い物をする。
 セイバーと藤ねえは……。
 『うしおととら』を読んで寛いでいる。


 「スン……。」


 涙を啜る音がして、藤ねえは目をやる。


 「う、潮……。
  貴方という人は……。」

 (まさか、『うしおととら』を見て泣いてる?)

 「十郎、貴方の気持ちも大いに分かる……。
  何故……何故!? 死を選んだのです!」

 (セイバーちゃん。
  そこで泣いてたら、この先、読めないわよ。)


 そこに士郎がお茶請けとお茶を用意して持って来る。
 セイバーの様子に気付いた士郎は、藤ねえに耳打ちする。


 「どうしたんだ?」

 「かまいたちのところで感情移入したみたいで。」

 「まだ、最初の方じゃないか。」

 「そうよね。
  サトリの話とか、とらの過去話とか、麻子救出なんて読んだら、
  どうなっちゃうのかしら?」

 「どうなるって……大泣き?」


 士郎と藤ねえは、黙ってセイバーを見る。
 セイバーは、側のテュッシュで涙を拭った後、チーンと鼻をかむ。


 (英雄の凄い貴重な瞬間を目撃した気がする……。)


 藤ねえは、一通りくつろいだ後、帰って行った。
 セイバーは、頬を緩めたり、怒ったり、涙ぐんだりして、『うしおととら』を読み続けている。

 その他の家事諸々を片付けた士郎は、天地神明の理を持って土蔵に向かった。


 …


 昨晩同様の鍛錬。
 天地神明の理との対峙……。
 重さ、刀身の長さを認識し一体になる。

 そして、線の繋がる感覚。


 (この刀は、なんだろう?
  この刀だけが特別なのだろうか?)


 士郎は、集中を解いて藤ねえ作の虎竹刀Ⅱを手に取り集中する。


 (ダメだ。
  一向にあの感覚があらわれない。
  やっぱり、この刀が特別なんだ。
  ・
  ・
  それに強度も実証済みだ。
  バーサーカーの攻撃にも、傷一つ、歪み一つも出来ていない。)


 そうと分かればと、士郎は、天地神明の理で鍛錬を続ける。
 本日も、仮想最強の敵とのイメージトレーニングを開始する。


 (アイツのイメージを修正……。
  バーサーカーの本気の動作を想像し付加する……。
  俺の武器の修正……。
  天地神明の理を装備……これで武器だけは、絶対に壊れない……。)


 士郎は、イメージの中で戦い続ける。
 存在しない最強の敵を仮定し、その中で何としても生き残れるようにと。


 …


 土蔵での鍛錬が終わり居間に戻ると、セイバーは、まだ『うしおととら』を読んでいる。
 士郎は、どうしたもんかと声を掛ける。


 「セイバー。
  俺は、もう風呂入って休むつもりだけど。
  セイバーは、どうするんだ?」


 セイバーは、本を読むのをやめると残りの漫画の数を確認する。
 続いて自分の読むペースと朝までの時間を計算する。


 「このまま、読み進めます。」

 「マジで!?」

 「当然ではないですか。」

 「『当然』の使い方が、間違っている気がするが……。
  ・
  ・
  明日、戦闘があるかもしれないのに
  寝不足で戦えませんというのは困るのだが?」

 「安心してください。
  サーヴァントは、睡眠を取らなくても問題ありません。」

 「『安心』の使い方が、間違っている気がするが……。
  ・
  ・
  まあ、サーヴァントの在り方は、分からないから任せるけど……しっかり頼むぞ。」

 「任せてください。」


 セイバーは、再び、『うしおととら』を読み始める。
 士郎は、風呂に入るといつもより早い登校をするため、普段かけない携帯のアラームをセットする。
 こうして夜は更け、戦いの日を迎えようとしていた。


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