== Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~ ==
バリバリと放電を繰り返し、士郎は、教室の外に出る。
「うがっ……。
動く度に放電が起こる。
まるで重度の筋肉痛みたいだ。
・
・
いや、初めて感じる感覚だから堪えようもない。
キルアは、偉大だよ。偉いよ。尊敬するよ。」
辺りを伺い様子を見る。
始めに聞こえていた呻き声も今はなく、校舎内は静まり返っている。
「これだけの人が居るのに気配がないなんて。
待てよ……。
これだけ静かなら慎二の動いた音が分かるんじゃないか?」
士郎は、無駄に動くのをやめて聞き耳を立てる。
階段の方から、笑い声が聞こえる。
「御あつらえ向きに上って来てる。
体力を温存したいから廊下の真ん中にいよう。
気付けば勝手に相手にしてくれるだろう。
慎二は、そういう奴だ。」
士郎は、廊下の真ん中で膝を突いて慎二を待った。
第37話 学校の戦い③
1階は、散々足る状態だった。
セイバーとライダーの質問攻めが、アーチャーを苦しめていた。
「何故、貴方だけ、マスターが真っ当なのです!?」
「だから、セイバー!
さっきも言ったであろう!
サーヴァントは、マスターを選べないのだ!」
「私達のマスターを見ましたか?
魔術師ですらないのですよ!」
「ライダー、君も聞き訳がないな!
それは、私のせいではない!」
「英雄の言葉と思えませんね。
正々堂々、戦おうとは思わないのですか?」
「待て!
サーヴァントを呼び出すのは、
呼び出す魔術師の力量によるものだろう!?」
(何なのこれ?
何で、セイバーが、ライダーと一緒に
アーチャーに食い下がってんの?
・
・
今まで不満が溜まってたから、一緒に爆発したのかしら?)
凛は、アーチャーに同情しつつ収拾の方法を考える。
しかし、耐えかねたアーチャーは、自分の不満も爆発させる。
「君達は、間違っている!」
「何を今更。」
「その通りです。」
「凛は、決して真っ当なマスターではない!」
「ちょっと! アーチャー!?」
「確かに魔術師の実力は一級品だ。
しかし、私の召喚は、とてつもないものだったのだぞ!」
「……と、言いますと?」
「私の召喚は、大爆発の上に成立したんだ!」
「「大爆発?」」
凛は、アーチャーの背中にしがみ付き、アーチャーの頚動脈を締め上げる。
「アーチャー!
世の中には、言っていい事と悪い事があるのよ!」
凛の締め付けにアーチャーがタップする。
「ライダー。
アーチャーにも事情がありそうですね?」
「そうですね。
もしかしたら、今回の聖杯戦争には、
真っ当なマスターの方が少ないのでは?」
「ちょっと! そこ!
わたしをあんた達のマスターと同類にするな!」
アーチャーを開放し、ビシッと指をさして、凛は怒鳴り散らす。
その横でゲホゲホとアーチャーは咳き込む。
どうやら加減を忘れて魔力で強化して締め上げたらしい。
収拾は、まだまだつきそうになかった。
…
階段を上がり切った慎二は、廊下の真ん中の人影に気付く。
苦しくて出て来た生徒かと思ったが、方膝をついているところがおかしい。
慎二は、人影に近づく。
人影は、慎二が近づくとニヤリと笑った。
「こうやって待っていれば、近づいてくれると思ったよ。」
「お前……衛宮なのか?」
「他に誰に見えるんだ?」
「何故、何事もなく動けるんだ?」
(? ばっかりだな。)
「何事もない訳ないだろう。」
士郎が立ち上がると例の放電がバリバリと起こる。
「何だ!? その放電は!?」
「とっくにご存知なんだろう?
結界の影響だって?」
「結界は、人間を溶かすものだ!
放電なんかしない!
お前は、一体……。」
「俺は、お前を倒すために地球からやって来たサイヤ人……。
穏やかな心を持ちながら激しい怒りによって目覚めた伝説の戦士……。
スーパー……。」
「そんな冗談はいい!」
(最後まで言わせろよ……。
ノリの悪い……。)
「質問に答えろ! 衛宮!」
(滅茶苦茶、上からの物言いだな……。)
「そんなの分かる訳ないだろう?
溶けない代わりにバリバリいってんだよ。」
「くそっ! デタラメな奴め!」
「またか……。
俺って、そんなにデタラメか?」
「少しは、自覚しろ!」
「まあ、いいや。
なあ、慎二。
これなんだろう?
この赤い変なのが出てからおかしいんだ。」
(まずは、惚けて様子見。
俺が、マスターって気付いているかどうか?)
「はは……。
そうだよな。
お前みたいな屑が、これが何なのか分かる訳がない!」
(う~ん。
先に『結界』って口にしたから気付くかと思ったが……。
マスターとも気付いてないみたいだ。)
「これは、僕がやったんだ!」
(ライダーだろ。)
「慎二、これは、一体なんなんだ!?
さっき、溶かすとか言っていたが……。」
(ちょっと、ワザと臭かったかな?)
「くっくっくっ……。
これはな、鮮血神殿という結界だ。
これにより、人間は溶解するんだ。」
慎二は、嬉しそうに説明をする。
そして、この状況を話せる相手が居た事で自分の満足感を更に満たしていく。
「それ拙くないか?
止めてくれないか?」
「ハァ!? 馬鹿じゃないの!?
・
・
そうだな。
お前が土下座するなら考えてもいいな。」
士郎は、有無を言わずに土下座する。
「これでいいか?」
「そうだな、それで懺悔の一つでもして貰おうか?
当然、僕が引くぐらいのヤツでな!」
慎二は、さも可笑しそうにゲラゲラと笑う。
士郎は、床を見つめながら口を開く。
「……ここ最近の話だ。」
(本当にするのか?)
「俺は、女の子の首を絞めた後、叩きつけました。」
(おいおい、本気か?)
「それだけじゃありません。
小学生ぐらいの女の子の首に刃物を突きつけました。」
(衛宮……。
それ、本当に引くぞ……。)
「冗談だろ?」
「…………。」
「本当です。」
「お前は、外道か!?」
「そう思うなら、慎二もやめてくれないか?」
「僕は、お前と同じじゃない!
これは復讐だ!」
「…………。」
「俺のやった事に、本当に引いただろ?
同じだと思わないか?
俺は、慎二に懺悔した後でも恥ずかしい気持ちが消えない。」
「うるさい! うるさい! うるさい!」
士郎は、放電しながら立ち上がる。
「そうか……。
じゃあ、戦おう。」
「何だと!?」
「慎二が結界を張ったと言ったんだ。
止めてくれないなら、力ずくしかない。」
「僕に逆らうのか!?」
「逆らっていない。
土下座もしたし、自分の恥である懺悔も慎二にした。」
士郎は、天地神明の理を構える。
「衛宮! その刀は、何だ!?」
「さっきから持っている。」
「初めから僕を狙っていたのか!?」
「結界を解いてくれれば、必要はなかった。」
「僕は、魔術師なんだ!
お前なんかに!
お前なんかに!
お前なんかに!」
慎二は、懐から1冊の本を取り出すと本を開き強く握り締める。
やがてそれは、黒いエネルギーとなり慎二の前の床で視認出来るほどになる。
(なんだ? あれは?
遠坂の話じゃ、慎二は、魔術を使えないって。)
黒いエネルギーは、床を滑り士郎に向かい走り出す。
「僕は、魔術師なんだ!
偽臣の書さえあれば、僕だって!」
(偽臣の書!? あれが!?
……あんなものでサーヴァントの命令権の譲渡が可能なのか?)
士郎は、十分に動かない体を庇い棒高跳びの要領で天地神明の理に捕まり攻撃を躱す。
しかし、その時、慎二の攻撃で放たれたエネルギーが天地神明の理に触れ霧散する。
そして、それと同時に士郎の放電が収まる。
(なんだ? 何が起きた!?)
慎二は、状況を把握しないまま怒鳴り散らす。
「くそっ! 上手く躱しやがった!」
士郎は、慎二を無視して状況を確認する。
(一編に色々起きて整理出来ない。
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まず、慎二が魔術を使えた事。
あれは慎二が言った言葉の通りなら、『偽臣の書』によるものだ。
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じゃあ、なぜ、『偽臣の書』があると魔術が使える?
魔術は、魔術回路を通して行使するはずだろ。
『偽臣の書』自体は、サーヴァントの命令権譲渡のはずなのに。
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・
いや、サーヴァントの魔力を使用する権限もあるんだ。
しかし、魔力だけじゃ発動出来ない。
だとすると……『偽臣の書』は、擬似魔術回路と見るべきだ。
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段々、分かって来たぞ。)
続いて士郎は、空の左手を軽く動かす。
(やっぱり、放電しない。
今度は、こちら側。
天地神明の理が何かしたんだ。
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まあ、簡単に予想はつく。
魔力の吸収だな。
それ以外、考えられない。
結界の効果が消えたんだから。
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しかし、分からない事もある。
今は、完全に吸収が止まってる。
なんでだろう?
吸収した分の魔力を吸い取られてもいいんじゃないか?
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結界……偽臣の書……サーヴァント……命令権……魔力。
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仮説は立つな。
きっと、結界に影響を及ぼさない権利というのがライダーの魔力なんだ。
慎二は、偽臣の書でライダーから権利を譲渡済み。
俺は、天地神明の理で、慎二の攻撃→偽臣の書→魔力吸収の流れで
ライダーの魔力を取り込んで権利を奪ったんだ。
偽臣の書は、やはり、マスターとサーヴァントを根元から繋いでいる。)
士郎は、予想を立て終え慎二に向き直る。
(天地神明の理が魔力を吸収出来るなら、こんな攻撃怖くない。)
士郎は、慎二に向けて一気に走り出した。
…
1階の混乱は、突如、終わりを告げる。
ライダーが、慎二の攻撃による魔力の譲渡を確認したからだ。
「くっ! まさかサーヴァント2人とマスター1人の囮だったとは!」
ライダーは、窓ガラスを割り外に飛び出すと4階に向けて蹴上がって行く。
セイバーは、窓から身を乗り出し、ライダーを確認する。
「何が起きたの!?」
「恐らくライダーのマスターに何かが起きたのだろう。」
「何かって……。
この学校に、今、動ける人なんて……。」
「シロウ……かもしれない。」
「士郎!? 何故!?」
「分からない。
ただ……こんなデタラメな行動を起こす人物が、
二人も三人も居るとは思えない。」
(嫌な説得力があるわね……。)
「私は、ライダーを追います!」
セイバーも窓から外に出て、ライダーを追い掛ける。
「アーチャー!」
凛の命令に、セイバーが声を掛ける。
「リンとアーチャーは、階段から退路を!
万が一を考えて、ライダーとリンの一人での接触を警戒してください!
シロウは、私が守ります!」
セイバーの言葉に、アーチャーは行動を止める。
「セイバーの意見は正しい。
凛、二人で階段から退路を塞ぐぞ!」
「分かったわ!
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・
セイバーとライダーが怒鳴り合ってる時は、どうなる事かと思ったけど。
やっぱり、セイバーは冷静ね。
もしかしたら、作戦だったのかしら?」
先を走るアーチャーを追って、凛も階段に向かい走り出した。
…
士郎は、連続で放たれる慎二の攻撃を天地神明の理で薙ぎ払い無効化する。
訳の分からない士郎の行動に慎二は混乱する。
先ほどまであった距離は、もう存在しない。
慎二は、士郎の間合いの中に居た。
「何なんだお前は! 衛宮!」
「慎二、終わりだ!
結界を解くんだ!」
「嫌だ! これは、僕の結界なんだ!」
「訳の分からない事を!
この中には、藤ねえや友達が居るんだぞ!」
「藤村!? ハッ、あの馬鹿教師か!?」
「馬鹿じゃない!」
「馬鹿だよ! アイツは!
結界を張ったのを僕とも知らずに縋り付いてさ!
命乞いをするかと思ったら、『みんなを助けて』だとさ!」
(藤ねえ……。)
「余りにしつこいから、蹴り飛ばしてやったよ!」
(なんでお前は、こんな時に俺を怒らせるような事を言うかな!?
殺されたいのか!?
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ダメだ!
殺したら、ライダーに命令出来る奴が居なくなる!)
士郎は、怒りを抑えながら慎二の膝の皿に踵を蹴り入れる。
その攻撃は、間接の逆方向に衝撃を走らせる。
慎二は、膝を抱えて転倒する。
そして、慎二の顔の直ぐ横に天地神明の理を突き立てる。
(馬鹿に何を言ってもしょうがない!
恐怖で、この馬鹿をコントロールする!)
「慎二! 今、直ぐに結界を止めろ!」
しかし、慎二は、突き立てられた天地神明の理により気絶していた。
「もう、意識が……。
こんな覚悟の薄い奴のために!
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・
くそ!
とりあえず、慎二の身柄は確保したんだ。
後は、遠坂達を……。」
その時、窓ガラスを打ち破り新手の敵……ライダーが現れた。