== Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~ ==
不意に現れたライダーだったが、今の士郎は、天地天命の理と一体になっている。
投擲された杭を簡単に弾き返す。
「私の攻撃が躱された!?」
不意を突いたタイミングとサーヴァントの攻撃を躱した少年にライダーは警戒を強める。
少年の足元に転がっている自分の主に舌打ちし、どう行動を取ろうか決めかねている。
そして……。
静まり返った場へと近づく足音に、士郎は耳を澄まして集中する。
この場に外から近づける者は、サーヴァントしかいない。
そして、この足音は、道場で聞いているから間違いない。
士郎は、確信を持って命令する。
「セイバー! ライダーを羽交い絞めにして拘束しろ!」
「分かりました! シロウ!」
今度は、逆に不意を突かれたライダーがセイバーに拘束された。
第38話 学校の戦い④
セイバーは、魔力を全開にしてライダーを羽交い絞めにする。
「シロウ! やはり、貴方でしたか!」
「俺が動ける説明は後でする!
慎二が気絶しちまって、ライダーに命令を出せない!
・
・
(こうなったら、ライダーを脅して……。)
・
・
ライダー! 慎二を殺されたくなければ結界を解け!」
「それは出来ません。
慎二は、正規のマスターではありませんから、
私は、慎二の命令がないと動けません。」
「くそっ!
状況からすれば、慎二は、殺された方がいいってか!?」
「シロウ?」
「今の話し振りからするとライダーは、
仕方なく慎二に従っているだけだ!
・
・
あ~~~っ!
もう、慎二は人質に使えない!」
(この少年……。)
(シロウが焦っている……。
それだけ切迫した状況だという事なのですね。)
士郎は、頭をガシガシと掻くと側に落ちている偽臣の書に目を落とす。
「!!
セイバー、後、3分でいい!
そのまま、ライダーを拘束していてくれ!」
「分かりました!」
体格で劣るセイバーだが、魔力を注ぎ込みライダーの抵抗を強引に抑え込む。
ライダーも体格に物を言わせて振り解こうとするが、セイバーの拘束は解けない。
(おかしい……。
これだけ体格に違いがあれば魔力で補っても、
もう少し抵抗が強いものなのに。)
セイバーは、疑問を抱きつつも拘束を続ける。
一方、士郎は、偽臣の書をバラバラと捲り飛ばしていく。
そして、1分ほどで最初から最後まで捲り終える。
続いて、再び、最初から捲りながら、気になるところに折り目を入れていく。
そして、この作業をしながら予想を立てる。
また、1分ほどの時間が流れた。
拘束するセイバーも拘束されるライダーも士郎の行動に疑問符が浮かぶ。
(何をするかと思えば……。
偽臣の書を捲り飛ばしている……。)
(シロウ……。)
士郎は本を閉じ、ライダーを睨みつける。
(ここからは、賭けだな。)
士郎は、ライダーに見せつけながら自分の手を天地天命の理で貫く。
そして、その血を偽臣の書の表紙のマークのようなところに滴らせる。
「何を……?
・
・
ぐっ!」
セイバーに拘束されているライダーが放電し始める。
セイバーは、放電するのを堪えながら拘束を続ける。
(この反応……。
間違いなさそうだ!
後は、次の反応が起きるまで血を提供すれば……。)
士郎は、暫くの間、血を偽臣の書に滴らせ注ぎ込み続ける。
やがて偽臣の書に魔力が宿り始め、ミスティックな輝きを放ち始める。
「これは……!?」
「シロウは、一体、何をしているのだ!?」
士郎は、偽臣の書を手に取り、折り目をつけたページを開いていく。
(これじゃない……。
ここでもない……。
あってくれよ……。
・
・
ここだ!)
士郎は、偽臣の書のあるページで読み止めると呪文を紡ぎ出す。
「詠唱!?」
「馬鹿な!?
シロウは、魔術師ではない!
それに偽臣の書の文字が解読出来るはずなど!」
しかし、詠唱が終わるとライダーは、今までにない放電に襲われる。
セイバーは、危うく拘束を解くところだったが、放電を自分の魔力で相殺する。
「セイバー! ライダーを解放しろ!」
「しかし、シロウ!」
「信じてくれ!
失敗した時は、また、指示を出す!」
「分かりました!」
セイバーは、ライダーを解放し、不可視の剣を構える。
「ライダーに命令する!
直ちに結界を解除しろ!」
ライダーは、士郎の言葉通りに結界を解除する。
「なっ!」
セイバーは、目を見開き驚愕を表す。
「よし!
次は、俺が偽臣の書を左手に持ち、5回右手で偽臣の書を叩くまで
霊体化して50m以上、離れて待機!」
ライダーは霊体化すると、その場から消え失せてしまった。
「シロウ……。
一体、何を?」
士郎は、偽臣の書を自分の懐に仕舞い込む。
「後で全部話す。
遠坂には知られたくない。
これから俺の言葉に全て合わせてくれ。」
「しかし……。」
「聖杯戦争を有利にするための戦略なんだ!
頼む!」
士郎は、深々と頭を下げる。
セイバーは、少し戸惑ったが士郎の左手から滴り落ちる血を見ると溜息をついて左手を手に取る。
「分かりました。
しかし、今から直ぐに左手は治療します。
これだけは、私の指示に従って貰います。」
「ありがとう。」
士郎の笑顔にセイバーは、溜息をついた。
そして、この展開に嫌な予感を拭い去る事が出来なかった。