== Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~ ==
凛とアーチャーが、階段を駆け上がる。
そして、セイバーとライダーの戦闘が始まり、セイバーの魔力を強く感じる。
目的の場所まで近づいた時、踊り場に藤ねえが倒れているのを見つける。
「藤村先生!」
凛は、藤ねえに近づくと状態を確認する。
「先生……。
ここまで助けを呼びに来たのね。
・
・
頬に痣がある。」
凛が、そっと藤ねえの頬を撫でる。
しかし、何時までもここに居る訳にもいかない。
凛は、先を急ごうとする。
「アーチャー、急ぐわよ。」
「…………。」
「アーチャー?」
アーチャーが、藤ねえを見たまま動かない。
そして、掌を額に置き苦しんでいる。
「ちょっと、どうしたの!?」
「…………。」
アーチャーが方膝を突く。
凛は、藤ねえをそっと横たえ、アーチャーに近づく。
「アーチャー!?」
凛が、アーチャーの肩を掴み揺する。
それをアーチャーは、静かに手で制する。
「……大丈夫だ。」
「大丈夫って……。」
「少しだけ記憶が戻りつつあるだけだ……。」
「え?」
「おかしいとは思っていた。
ところどころで彼女を覚えていたし……。
最初は、世界の制限か凛の召喚のせいかと思っていたが……。」
「何を言っているの……。」
「すまない。
今は、上手く話せない。
ただ……私の記憶に制限を掛けた者が居るみたいだ。」
「!」
(そうだ……。
私は、自分を衛宮士郎と認識していたはずなのだ。
だから、ここにいる衛宮士郎が魔術を使えない事に驚いた。
だけど、それは何故か些細な事と処理していた。
・
・
そして……。
やはり、彼女を強く覚えている。
それなのに……何故、気付かなかった!?
彼女は、霊体化していたではないか!?)
凛が、アーチャーを心配そうに見ている。
アーチャーは、凛に話し掛ける。
「凛、少し時間をくれないか?」
「え?」
凛は、耳を澄ます。
依然とセイバーの魔力放出を感じるだけで戦闘の音は聞こえない。
状況は掴めないが、少しの時間ぐらいなら問題なさそうだった。
「いいわ。
でも、なるべく急いで。」
「分かった。」
アーチャーは、記憶を辿ろうと目を瞑り集中する。
「…………。」
(『……くらを…………った。』
『…………ヤだって……。』
・
・
『そのペンダント貸しときなさい。
いい? これを返すまで勝手にどっかに行っちゃダメなんだから。』
・
・
…………。)
「…………。」
「…………。」
「…………。」
記憶は、これ以上戻らなかった。
だが、最後の声は覚えている。
目の前の少女に他ならない。
そして……。
「犯人は、恐らく君か……。」
「は? わたし!?
・
・
やっぱり、わたしの召喚なんじゃない!」
「すまない……そうではない。
しかし、これでハッキリしたな。」
(凛が、ペンダントに細工を施した。
そして、感じる違和感……。
あの大師父と関わりを持つ彼女なら出来るはずだ。
多分、1回限りの限定魔術。
・
・
問題は、何故、このような魔術を施したかだが……。
追々、思い出せば良かろう。
今は、それよりもやる事がある。)
「手間取らせてしまったな。
もう、大丈夫だ。急ごう。」
「そう……。
分かったわ。
行きましょう。
・
・
でも、どうして藤村先生を見て思い出したのかしら?」
「確かに……。」
(思い出した記憶と一致するものがない。
状態や状況が私の中の何かを切っ掛けにした?)
「とりあえず、この事は小僧達には秘密にしてくれ。
弱点以外の何者でもない。」
「そうね。」
アーチャーは、藤ねえを背負うと、凛と一緒に階段を再び上がり始めた。
…
セイバーが士郎の左手の治療を始めた頃、凛とアーチャーが駆けつける。
「遅かったな。」
「人助けをしていたものでな。」
アーチャーは、背中からよく知る人物を下ろす。
「藤ねえ!」
士郎は、藤ねえに駆け寄る。
藤ねえの頬に痣がある。
士郎は、それを凛と同じ様にそっと撫でた。
「士郎……。
その痣は……。」
「分かってる。
ありがとな。」
士郎は、凛とアーチャーにお礼を言う。
第39話 学校の戦い⑤
異常な事態だった。
士郎がからかいもせずに、凛とアーチャーにお礼を言った。
「どうしたの!?」
「頭でも打ったか!?」
(酷い言い草ですね……。)
「ああ、頭をしこたま打った。
だから、おかしな事を口走っている。
話をしていいか?」
士郎以外の三人は、お互いの顔を見合った後、無言で頷く。
凛は、アーチャーが元通りになっている事も確認する。
「とりあえず、結界は止めた。
そして、溶かされた人間(自分)の予想からの今の状態。
本来の体力の1/4ぐらいが失われていると言える。」
「数値で出すと分かり易くて助かるわ。」
「だから、早急に処理が必要だが話す時間はあると判断して、
事の顛末を語って置く。」
「ええ、お願いします。
私達の知らないところで何が起きたのか。」
士郎は、一息つくと話し始める。
セイバーは、士郎の服を裂いて作った急場の包帯で止血を続ける。
「時間がいくら経過しても暴れる形跡が見て取れなかったんで、
俺は、無理して教室を出たんだ。」
「「「うっ。」」」
士郎を除く、三人の顔が強張る。
士郎は、珍しく気付かず話を進める。
「遠坂のアドバイスのお陰で覚悟を決めてたせいか、
周りの人間が気絶している中で、俺は、意識を繋ぎ止めたんだ。」
「でしょ!?
わたしのお陰よね!?」
(いつもと立場が逆だな、凛。)
「周りは、誰も動かないから異様に静かでさ。
慎二の笑い声だけ近づいて来た。
気だるい状態で戦えるか分からないけど、
セイバー達が駆けつけてくれると思って行動を起こした。」
(これは、罪悪感がありますね……。)
(まさか、話が脱線していたとは言えまい……。)
(でも、あれは士郎に原因があるんだし……。)
士郎以外の三人は無言で頷き、真実を隠す事にした。
「慎二は、結界を解いて欲しければ土下座しろと言って来た。」
「な!」
「なに!?」
「あの馬鹿!」
全員が気絶している慎二を睨む。
「俺は、直ぐ土下座した。」
「は?」
「え?」
「なんで?」
「抵抗しなかったのですか!?」
「しなかった。
優先すべきは、結界の解除だから。」
「…………。」
「その後、不当な要求が続いて自分の手も刺し貫いた。」
(何事も無い様に……。
そこは、嘘ですね。
・
・
やはり、いつものシロウだ。)
嘘に気付いているセイバーとは余所に凛とアーチャーは驚いている。
「あんた、そこまでしたの?」
「した。
けど、そこまでしても結界を解かないって言うから、実力行使に出た。」
「そうか、そこで戦闘になったから、
ライダーは、我々の前から姿を消したのだな。」
「ああ、多分。
偽臣の書を使う事でサーヴァントの魔力を借り受けて攻撃したから、
直ぐに分かったんだろう。」
「なるほど。」
「ただ、慎二自身が魔術を使い慣れてないのと
攻撃が一直線だったから、躱すのは簡単だった。」
「当たり前ね。
魔術は、ただ、便利な物ではないもの。
修行や知識、絶え間ない研鑽をしなければ発揮出来るはずがないわ。」
「その通りだ。
慎二の間合いに入った時、脅して止めるはずだったんだ。
・
・
だけど、慎二が学校のみんなを助けようとした藤ねえを
蹴り飛ばしたって聞いたら、一気に頭に血が上って……。」
「それじゃあ、藤村先生の痣って……。」
「俺は、危うく慎二を殺すところだった。
気が付いて、この刀を慎二の顔の横に突き立てたら、
慎二が気絶しちまったんだ。」
「気持ちは分かるけど。
そうしたら、どうやって結界を解かしたのよ?」
「ライダーとセイバーが駆けつけて戦闘になるかと思ったら、
ライダーは、偽臣の書を拾い上げて、
『これは、お礼です』って、結界を解いて居なくなった。」
(これも嘘ですね。
一体、真実は、何なのでしょう?
そして、何故、ここまで隠すのでしょうか?
・
・
シンジを気絶させた件は本当でしょうが……。)
凛は考え込むと推測を弾き出す。
「きっと、ライダーは、偽臣の書での縛りを解く事が目的だったんだわ。
マスターに愛想が尽きたんでしょうね。
結界を張るのも英霊として許せなかったのよ。」
「正直分からないが、そんなところだと思う。
話は、以上だ。
ここからは、みんなを助けないと。
俺は、どうすればいい?」
「士郎は、いいわ。」
「え?」
「後は、わたしが何とかする。
ここからは、魔術師と監督役の教会で何とかするしかないから。」
「そうか。
俺は、役に立たないな。」
凛は、ボソッと声を漏らす。
「これ以上、士郎に借りは作れないわよ。」
アーチャーは、その声を聞き取ると苦笑いを浮かべる。
「そういう事だ。
手を怪我した小僧は戦線離脱だ。
セイバー、小僧を労ってやってくれ。」
セイバーは、凛とアーチャーの言葉に深く頭を下げる。
「感謝します。」
そして、セイバーは、士郎を連れ出し帰宅の途に着こうとする。
そこで、士郎は振り返る。
「遠坂、頼みがある。」
「何?」
「慎二の制裁は、十分とは言えない。」
「?」
「ボコボコにしてくれるとありがたい。」
士郎の言葉に凛の顔が悪魔の微笑みに変わる。
「任せなさい!」
(やはり、小僧は小僧か……。
そして、我がマスターも……。)
アーチャーは、溜息をついて士郎とセイバーを見送った。
…
士郎とセイバーは、家に帰宅する。
途中、一人で歩けると言った士郎を強引に捻じ伏せ、セイバーが肩を貸しての帰宅だった。
「本当に大丈夫なのに……。」
「結界により、体力が落ちているのです!
それにあれは、人を溶かすものです!」
(そうだった。
セイバーは、俺が溶けてないの知らないんだった。
まあ、いいや。
その辺も纏めて『アイツ』を含めて話そう。)
「セイバー。」
「何ですか?」
「お腹空いたから、ご飯作っていいか?」
「…………。」
「本当に自分主義というか……。
ええ、お願いします。
体力の落ちた貴方には、食事こそ重要です。」
士郎は、料理を始めると手早く昼食を作り上げる。
そして、テーブルには三人分の料理が並ぶ。
「一人分多くありませんか?」
「今、呼ぶ。」
「呼ぶ?」
士郎は、懐から偽臣の書を取り出し、兔人参の様に『ヘイ』と言って、5回右手で偽臣の書を叩く。
暫くすると士郎とセイバーの前にライダーが現界する。
「ライダー!」
セイバーは、士郎の前に出て身構える。
「何してんだ? お前?」
「何って……。
ライダーです!」
「そりゃ、見れば分かるよ。」
「では、警戒をしてください!」
「仲間なのに?」
「そうです!
・
・
仲間?」
疑問符の浮かぶセイバーに変わり、ライダーが話す。
「マスター。
偽臣の書の効果は、私とマスターしか分かりません。
セイバーにも説明を。」
「分かってる。
からかっただけだ。」
セイバーは、とりあえず士郎にグーを炸裂させる。
「分かる様に説明してください!」
「セイバー! 自分のマスターを殴るなどと!」
「ああ、いいんだいいんだ。
これは、俺達のコミュニケーションだから。」
(一体、この人達は……。)
全員、席に着きお茶を一口啜る。
「あの、マスター……これは?」
「食事だけど?」
「我々は……。」
「その説明も知っている。
じゃあ、マスターの命令。
一緒に食べなさい。」
「仕方ありませんね。」
説明は、昼食を取りながら始まった。
「どこから説明して欲しい?」
セイバーとライダーは、お互い顔を見合わせる。
「ライダーの事も踏まえ、
教室で別れた後から真実を話してください。」
「セイバー、真実とは?」
「シロウは、共闘したアーチャー達に嘘を伝えました。」
「そういう事ですか。
理解しました。
では、私からもお願いします、マスター。」
「そのマスターって、嫌だな。
士郎と呼んでくれないか?」
「では、シロウと。」
「発音を変えてくれ。
読者的に見分けがつかん。
お前達、話し方が似てるから。」
「は?」
よく分からない理由でライダーは、強制的に呼び方を修正させられた。
「実はな。
今日の戦いで幾つか分かった事があるんだ。
まず、結論から言うけど、俺は、結界で溶けてないんだ。」
「え?」
「馬鹿な!
シロウ、貴方は、魔術師ではない!
結界が効かない訳はありません!」
そこで士郎は、天地神明の理を出す。
「この天地神明の理……。
使用者を擬似的な魔術師に変える事が出来る。」
「本当ですか!?」
「そのようなものを所有していたとは。」
「今日、初めて知ったんだ。
セイバーとの模擬戦をしてから、変な感覚はあったんだ。
でも、分からないから無視してた。
やって見せるよ。」
士郎は、集中して天地神明の理を握り、魔術回路の線を繋ぐ。
「OKだ。
手を握って見てくれ。」
士郎の手をセイバーとライダーが握る。
「本当だ。
一本だけ主張している魔術回路がある。」
「しかし、魔力が流れていません。
本当に、ただ繋がっているだけです。
普通、魔術師は魔力を流して回路を認識すると言うのに。」
「やっぱり、この線は魔術回路か。」
士郎が天地神明の理を放すと魔術回路は閉じてしまう。
「今の要領で擬似魔術師になった俺は、結界で溶けずに済んだんだ。」
「偶然とはいえ……。」
「何と運のいい。」
「でもな……結界は、魔力を取ろうとするだろ?
俺は、魔力を作れないし送れない。
そうしたら、セイバーに行っている魔力を
結界とセイバーで取り合いになっちゃってさ。
放電しっぱなしだったんだ。」
「それぐらいのリスクはあるでしょう。」
「何事も思い通りにはいきません。」
「で、動かなければ放電は酷くないから、
事態が収拾するの待とうと思ったんだけど。
・
・
何かイヤな予感がして行動を起こした。
第2段階の予兆もなかったし。」
セイバーは、視線を斜め下に移している。
事の理由を知らないライダーが質問する。
「その第2段階とは?」
「俺達は、結界を止めるために慎二を少し泳がせた後、
第2段階で大暴れして慎二に恐怖心を刻み付けて、
ライダーに慎二まで案内させるつもりだったんだ。
結界を解けって命令出来るの慎二だけだと思ったから。」
ライダーは、額に手を当て俯いている。
(破綻していますね、その作戦は……。
セイバーの名誉のために黙って置きましょう。)
ライダーは、あえて問わず先を促す。
「続きをお願いします。」
「廊下に出ると慎二の笑い声がしたから、
廊下の真ん中で待ってたんだ。
それで慎二が来たから、とりあえず説得してみた。」
「慎二は、説得の効く人物ではないと認識していますが?」
「その通りだった。
土下座して恥の上塗りまでしても、
言う事を聞いてくれなくて戦闘になった。」
「土下座したのは、本当だったのですか?」
「ああ。
俺、土下座するのに
なんの抵抗も感じないタイプの人間だから。」
(騎士である私の主は、土下座が平気……。)
(プライドが低いのですね……。)
「で、ここで、また、誤算が起きたんだよな。」
「また、ですか?」
「そう。
しかも、また、天地神明の理絡み。」
三人の視線が、士郎の刀に移る。
「これさ。
擬似魔術師の時、魔力吸収出来るんだよ。」
「「!!」」
「こればかりは、俺も度肝抜かれた。
で、慎二の訳分からん魔術の攻撃を吸収したんだ。
そうしたら、体の放電が止まった。」
「シロウ、その刀は、何かの宝具ではないのですか?」
「ありえますね。
魔力を吸収するなど、普通の刀剣類にはありえません。」
「そうかもな。
ただ、宝具としては攻撃するものではなく、
明らかに護身用って感じだけどな。
・
・
でも、人間の俺が使えるんだから、大した効果は期待出来んぞ。」
「ふむ。
武器としては、期待出来ませんね。」
「しかし、マスターを護身するものと考えれば十分な効果です。」
「ま、使い道は、追々という事で。
話の続きな。
・
・
慎二の魔力を吸収したのってさ。
結果的には、ライダー→偽臣の書→俺という流れで
ライダーの魔力を取り込んだ事になると思うんだ。
で、結界の効果は、ライダーの魔力を権限として、
俺を対象から外したんじゃないかって考えてる。」
「士郎、あなたは鋭いですね。
その通りです。
結界自体は、生き物ではないため、
高度な思考能力など持ち合わせていません。
判断基準は、魔力の性質です。
慎二は、偽臣の書により、私の魔力性質を持っていたため、
結界内で自由に動けたのです。」
士郎は、予想通りの答えに自信を持つと説明を続ける。
「自由を手に入れた俺は、慎二を追い詰めて、
ライダーに命令させるだけだった。
・
・
ところがさ~。
恐怖で命令きかせようと天地神明の理を顔の横に突き立てたら、
気絶しちゃうんだよ。」
「慎二は、ヘタレですから。」
ライダーが、苦々しく呟く。
「起こそうと思ったら、ライダーが来るし。
結界発動してから時間は経つしで……。」
「しかし、私も予想外でした。」
ライダーは、事実を告白する。
「まず、不意打ちであなたを仕留めるはずが躱された事。
もう一つは、既に慎二があなたの下に居た事です。」
「そうか。
シロウの躱す技術は、サーヴァントを含め全てにおいて予想外の技術でした。
それにシンジが、シロウの下に居る事は人質を取られたも同じ。」
「その通りです。」
「でも、慎二の命は、どうでもいいような事を……。」
「あれは、慎二を……マスターを守る最後の抵抗です。
あなた方は、結界を気にしているようでしたので、
ああ言えば慎二の使用価値が残るため、殺されないと思ったのです。」
「嘘かよ!
じゃあ、あのまま強引に進めれば、結界を解いてくれたのか!?」
「はい。」
「シロウを出し抜くとは……。
しかし、あの時のシロウは焦っていた。」
「言われてみれば、そうだ。
こっちの方が、人数も多いし人質も居るんだ。
何を俺は、あんなに焦ってたんだ……。
・
・
いや、焦るか……。
溶解してしまうんだから。」
「士郎、問題は、その後です。
結果を見れば分かりますが、あなたは、何をしたのですか?」
ライダーが、納得いかないという顔をする。
「あなたが、慎二からマスターの権限を奪ったのは分かります。」
「え!? シロウ!?」
「だから、言っただろう? 仲間だって。」
「セイバーの話なら、あなたは、魔術師ではない。」
「その通りだ。」
「そのあなたが呪文を詠唱した。
これは、どういう事なのです?」
「そういえば、『3分』時間を稼ぐというのも分かりません。
偽臣の書を3分で解読など出来る訳がない。」
「その通り。
あんなミミズの這い蹲ったような訳の分からんものは解読出来ん。
セイバーは、俺が横文字ダメなの知ってるもんな。」
「ますます、分かりません。」
「俺が使ったのは、
『一夜漬けをしないで行うテスト前の解読』の定理だ。」
「何か……前にも同じ様な事を聞きましたね。」
「頭のいい優等生は、どうか分からんが、
俺のように頭の悪い奴は、1点でも落とすと赤点という危機に陥りかねん。」
セイバーは、ライダーにそっと耳打ちする。
「覚悟してください。
必ず脱力します。」
ライダーは、疑問符を浮かべて話を聞く。
「時間がない中で予想と傾向を判断するため、
まず、最初から最後まで流し読みをする。
そうすると大体の行間やページ数で重要なところがどこか予想がつく。
特に偽臣の書は、作者が同じだからパターンのバラつきは少ない。」
「え?」
(ライダーの反応は、昨日の私ですね……。)
「大方の傾向を頭に入れつつ2度目の流し読み。
ここで重要なのは、『挿し絵』と『慎二のコメント書き』。
俺は、『挿し絵』と『コメント書き』に全部折り目を付けたんだ。」
「一体、何を言って……。」
(分からないですよね。
私も2度目ですが、未だにサッパリです。)
士郎は、偽臣の書を開き指で差す。
「こことこことここ。
この絵から偽臣の書へのアクセスには、血液が必要と読み取れる。」
「読み取れる?」
((読み取れません。))
「更にマスターの権限を譲渡するには、血液の量と呪文が必要と判断出来る。」
「判断出来る?」
((こんな絵だけで?))
「この変な絵は、血液の量が一定量越えたら何か起きるっぽい。」
「っぽい?」
((勘ですか!?))
「以上を予想した上で実行したら……何か起きた。」
セイバーとライダーは、頭を抱える。
「デタラメだ……。」
「こんな馬鹿な……。」
「で、最後の呪文は、傾向で予想したページの……。
ここの折り目の『慎二のコメント』が、日本語で書いてある。」
「まさか……。」
「そう。
俺は、これを読み上げただけだ。
多分、これはパスワードの類だと思う。」
セイバーとライダーは、悪夢に魘されたように頭を抱え込んでいる。
「どうした?」
「セイバーからの助言で覚悟はしていましたが、
これは、遥か斜め上を行く……。」
「私は、あの時、こんないい加減なものを信用したのか……。」
「まるで重度の高熱にでも掛かったようです。」
「しかも、成功したから余計に性質が悪い。」
セイバーは、偽臣の書を手元に引き寄せる。
「ライダー、読めますか?
私は、少しの文字や単語が分かる程度です。」
「私も似たようなものです。
確かに知っている単語や文字は、
士郎の言った通りの意味をしているものです。」
「と、いう事があって、
ライダーは、めでたく俺のサーヴァントになった。
分かったか?」
「「分かりません。」」
「仕方のない奴等だな。
しょうがない初めから……。」
「もう、いいです!」
「結構です!」
「納得してないんじゃないの?」
「納得はしていません。」
「しかし、世の中には納得していなくても、
受け入れなければいけない現実があるのだと
痛感させられたところです。」
「人は、そうやって大人になっていくもんだ。」
(その成長した大人は、間違いなく破滅の人生を歩むでしょう。)
何はともあれ、学校の戦いは終わりを迎え、ライダーという新たなサーヴァントを獲得した。