== Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~ ==
地下の修練場に向け、広い屋敷を走り抜ける。
「貴方にとっての美徳を
今度、ゆっくり聞きたいものです。」
「同じ過ちを繰り返す事になるぞ?
なんせ俺は、デタラメな人らしいからな。」
「ええ、後悔してでも聞かないと
今生の棘として苛まれそうです。」
「こんな竹を割ったような男を捕まえて。」
「どちらかと言うと絡み付いて離れない雑草です。」
(ホント、いい切り返しが出来る様になった。
セイバーは、立派なツッコミになれるよ。)
第42話 ライダーの戦い②
修練場の前に辿り着くと、桜が扉を開けようとする。
「待ってください!
宝具の影響で熱風が出て来るはずです。
私が開けます。」
魔力で覆った状態でセイバーは、扉を開ける。
熱い風が吹き抜け、蒸気が吹き抜ける。
暗いところに目が慣れ始める。
この空間に何があったのか?
どのぐらいの深さがあったのか?
消滅した空間には何もなく、検討もつかなかった。
「広いな。
俺の町の地下にこんな空間があったなんて。」
「サクラ、中心は、どちらですか?
ライダーは、きっと……。」
桜は、地下の中心に走って行く。
士郎とセイバーも続いて走る。
(地面が柔らかい……。
あの力で円を描いて回ったのか?
だから、球状のドームみたいになってんだ。
・
・
さっきより、範囲、威力、供に大きい。
・
・
空気も薄い……。
空気ごと、消滅したのか?
長く居ると死んじゃう?)
「ライダー!」
桜の声が聞こえる。
(アイツも、声を張れるんだな。)
「桜!?」
ライダーは、桜が居る事に驚いている。
そして、息を切らしている桜の後ろに士郎とセイバーが駆けつける。
「どういう事ですか?」
「セイバーが我が侭を……。」
セイバーのグーが、士郎に炸裂する。
「嘘をつかないでください!」
ライダーは、そのやり取りを見て、何故か落ち着きを取り戻す。
士郎は、息が整っていない桜を見て、代わって話す事にした。
「時間は、まだ、あるんだろう?」
「ええ、僅かですが……。」
ライダーは、透き通り始めた手を見せる。
「桜は、ライダーに話があるみたいだ。」
「もう、終えたつもりです。」
「終わってなかったみたいだ。」
「…………。」
「急ぎ過ぎたかな?
臓硯倒したんだし、ゆっくり話せば良かった。」
「別れが辛くなるから、急いだのです。」
「桜との?」
「ええ……。」
「俺達は?」
「何故でしょうか?
あなた達には、そういう感情が芽生えません。」
「そういう事じゃないか?
そういう別れの感情を桜に持てるように
ならないといけないんじゃないか?」
「…………。」
「もう、過ぎた事です。
時間もありません。」
「残りの時間は、ライダーと桜に残すよ。
そろそろ、桜の息も整っただろう?」
桜が、一歩前に出る。
士郎は、少し距離を取り、セイバーに近づき話す。
「やっぱり、ダメだった。
ライダーは、全部の力を使っちゃったみたいだ。」
「…………。」
「この時間が、無駄ではないと信じています。」
「そうだな。
マスターとサーヴァントの関係は、普通は特別なものだ。
マスターが最後の別れを望むなら、
サーヴァントは応えるべきか……。」
「出会った以上、別れは必須です。
どちらも、1度しかないから大切なのです。」
士郎とセイバーは、二人を静かに見守った。
…
桜は、ライダーを見て黙っている。
ライダーは、桜が口下手なのを知っている。
だから、ライダーは、自分から話し掛けた。
「桜、来てしまったのですね。
……あなたを虐めるものは、もう、ありません。」
「違うんです……。
わたしは、いいんです。
これまでも我慢したし、これからも我慢すれば良かったんです。」
「桜、それは間違いです。
我慢しなくていいのです。
私は、桜に変わって欲しかった。
私が、桜を変える転機になりたかったのです。」
「でも……ライダーが居なくなって。
私が変わったって……。」
桜の思いにライダーは首を振り、静かに答える。
「意味はあります。
私は、一度、自分の人生を生きました。
私は、本来、存在しない者。
あなたの人生に私が居ないのが本当なのです。
だから、桜……。
あなたは、気にする事などないのですよ。」
桜は、ライダーにしがみ付く。
自分を理解してくれた人に……。
自分を助けてくれた人に……。
何より、自分を変えようとしてくれた人に……。
「逝って欲しくないんです!
もっと、わたしと話をして欲しいんです!
あなたに……ライダーに!
もっと……もっと……。」
桜は、最後に自分でも何を言っているのか分からなくなった。
ライダーは、更に自分が希薄になるのを感じる。
最後なのだとライダーは理解して、桜の髪を撫でる。
「桜、私だけではありません。
あなたを思っている人は、もっと居ますよ。」
ライダーの優しい言葉に桜の声にならない声が聞こえるようだった。
セイバーは、真っ直ぐに二人を見据えて動かない。
目には、涙が光る。
「そろそろ時間です。」
「……!」
桜は、ライダーを放そうとしない。
士郎が、ライダーと桜に近づく。
セイバーも後に続いた。
「お世話を掛けました。
あなた達には、何も出来ませんでした。」
「気になさらず。
貴女は、素晴らしい英雄です。」
「…………。」
士郎は、ライダーに何も言わず、桜に声を掛ける。
「大丈夫か?」
桜は、首を振る。
「どうしても、ライダーに逝って欲しくないのか?」
桜は、頷く。
「じゃあ、ライダーが居れば変われるのか?」
桜は、頷く。
「桜は、ライダーに何が出来るんだ?」
今の質問にセイバーとライダーは、異を唱えようとする。
しかし、家を出る前の事を思い出し、言葉を飲み込む。
士郎は、桜から何かを引き出そうとしているのだろうと。
「わたしは……。」
「ライダーは……。
いや、セイバーだって、この聖杯戦争の間しか存在出来ない。
きっと、1年も2年も居られない。」
「それでも……。」
「自分の事じゃない。
ライダーに何が出来るかだ。」
「…………。」
「何か出来る事があれば、
桜は、ライダーにしてあげるのか?」
「してあげます……。
わたしも、ライダーに恩を返したい。
お礼が言いたい。
何かをしてあげたい。」
「今直ぐに出来る事がある。
お礼は、言ってあげられる。
・
・
桜がしてあげられる事だよ。」
士郎は、桜の様子を見てから、セイバーに近づき小声で話し掛ける。
「セイバー。
もし、桜が『ありがとう』を言う勇気があったら、後で俺を殴れ。
お前を裏切る行動に出る。」
「は?
また、よく分からない事を……。
シロウが、サクラにお礼を言わせる機会を作ったのではないですか。」
「ここは、大きいんだ。
自分のためにライダーを側に置くのではなく、
ライダーのために自分も頑張れる事を見せる。
それは桜の望んだ事であり、ライダーの願いなんだと思う。」
「まあ、いいです。
シロウを殴るのは、私の役目ですから。」
(嫌なポジションだな、セイバー……。)
桜は、強く抱いていたライダーを放す。
そして、微笑む。
これが、一番ライダーの望むものと信じて。
「ライダー……ありがとう。」
「桜……。
ええ、私こそ。ありがとう。」
桜は、また、直ぐに泣き出してしまう。
士郎は、桜の頭を撫でる。
「よくやった。」
桜は、泣きながら頷く。
ライダーは、士郎に笑みを見せて話し掛ける。
「士郎、ありがとうごさいました。」
「桜は、逝って欲しくないってさ。」
「ご自分で桜を説得して置いて……。」
士郎は、偽臣の書を出す。
「何を?」
「命令だ、ライダー。」
「は?」
「え?」
「シロウ?」
「人間を襲って貰う。」
「「「!!」」」
「現界するのに必要な生命力を俺から奪うんだ。
ただし、半殺しで。
・
・
やっちゃって!」
偽臣の書の効果でライダーは、強制的に行動させられる。
士郎は、どうやって奪われるのか分からず、恐怖で竦みながら我慢する。
ライダーは、士郎の首に手を回すと大きく口を開き噛み付いた。
「吸われてる……。
血を吸われてるーーーっ!」
「シロウ!」
「……大丈夫だと思う。
アカギでやってた。
2リットルまでなら、死なないとか……。」
「……意外と余裕ですね。」
「まだ、貧血起こすほどじゃないから……。
・
・
あっ!
何も俺じゃなくても、セイバーで良かったじゃん!」
「私を身代わりにしようなどと……。
貴方が死にそうになったら、私も首を差し出しましょう。」
「わ、わたしも……。」
セイバーの言葉に桜も加わる。
ライダーのお陰で、僅かな時間でも感情が開放されているようだった。
「どうだ? ライダーに変化は?」
「透けているところが、なくなって来ました。」
「そうか。
じゃあさ、ライダーが普通に現界出来るようになったら、早速、資料を漁ろう。
令呪を制御した御三家のマキリなら、桜に令呪を返せるはずだ。
正直、毎回、血を吸われてたら体が持たない。
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・
そういう訳で、桜。
出来れば聖杯戦争が終わるまで、手を組まないか?」
「わたしは、構いません。」
「いいかな? セイバー?」
「もう、決めてしまったではないですか!」
「すまんなぁ。
血が抜けて来て思考力が低下して。」
「本当でしょうね?」
「ああ、ブラックアウトして来たから……。」
士郎は、バタンと倒れる。
しかし、ライダーは、まだ吸い続けている。
(長いな……。
足りないんじゃないか?
・
・
よく考えれば、ビームライフルのビームのエネルギー2発分だもんな。
人間、一人じゃダメか?)
暫くするとライダーは、士郎の首から唇を離す。
そして……。
「士郎! あなたは、何を考えているのですか!」
ライダーは、士郎をブンブンと縦に揺する。
「ま、待て、ライダー!
頭を振るな! 死んでしまう!
死んでしまう~~~!」
ライダーは、ハッとして手を止める。
「こんなところでドジっ子の特性が……。」
「大丈夫みたいですね。」
「ライダー!」
桜が、ライダーに再び抱きつく。
ライダーの戦いは、ひとまず幕を閉じる。
半殺し=士郎という結果を残して。