== Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~ ==
士郎とアーチャーは、廊下にて数分事態の流れを見守っていた。
その後、セイバーとライダーが居間を出て来る。
「桜と姉を二人にしてあげます。
十数年の時は、直ぐには埋まらないでしょうが、
今は、そっとして置いてあげましょう。」
「ライダーは、加わらなくてよいのですか?」
「ええ。
桜とは、いつでも話せます。
肉親との会話とは、生涯の宝物です。
私は、それを痛いほど知っています。」
「廊下で立ち話もなんだし、俺の部屋に行かないか?
話したい事もある。
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4人か……狭いかな?」
士郎は、サーヴァント達を引き連れて、自分の部屋へと向かった。
第46話 サーヴァントとの検討会議
部屋に入り、士郎以外の三人は絶句する。
「汚い……。」
「あの数時間で、よくこれだけ……。」
「とりあえず、布団だけでも戻したら、どうだ?」
士郎は、布団を押入れに突っ込み、本とリストを番号の順に積み直し、他の三人の座る場所を手際よく確保する。
「何でしょうか?
汚い中にも片付ける法則があったような……。」
「細かいな。
血が足りなくて座って作業してたんだから、
荷物が散乱するぐらい仕方ないだろう。」
「申し訳ありません……。」
士郎の言葉に罰の悪そうな顔でライダーが謝罪する。
「ライダー、貴女が気にする事はない。」
「そうだ。
君は、サーヴァントとして当然の責務を果たしただけだ。」
「なんで、俺への労いの言葉がないんだ……。」
(段々、士郎が哀れに思えて来たのは、私の間違いでしょうか?)
各々が座る場所を確保すると、士郎は、気を取り直して会話を始める。
「まず、無事に姉と妹が、再会を果たせた事を歓びたいと思います。」
「何故、宴会口調なんだ?」
「シロウの考えている事は、よく分かりません。」
士郎の話は続く。
「しかし、今まで右肩上がりで来た我が社も、
臓硯という荒波にぶつかり、苦難の時を迎えました。」
「……芸が細かいと褒めるべきなのでしょうか?」
「一度でも褒めれば調子に乗る。
ここは、黙止を貫け。」
ライダーは、この流れについていけなかった。
「冗談は、ここまでだ。
桜の事は、まだ終わっていない。」
「シロウ……。
自分で緩めて置いて、
気を引き締め直すのは、やめてくれませんか?」
「このパターン飽きたか?」
「飽きる飽きないの問題ではありません!」
(セイバーの限界もここまでか……。)
「ちょっとな。
辛い話になるから、場を和まそうかと。」
「士郎、もう、分かっています。
気遣いは無用です。
我々は、幾度もの死線を越えて来た者です。」
ライダーが、収拾しない事態に区切りをつける。
「そうか……。
ライダーが知っている通り、桜の体の事なんだ。」
「体?」
「人体の修正の事ですか?」
士郎は、無言で頷く。
アーチャーの眉が少し吊りあがる。
(私は、この事を知っているはずだ。
凛の干渉により、記憶が制限されていて詳細は思い出せない。
しかし、これは重要な事だったはずだ。
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記憶は制限されても、気持ちは忘れるなと叫び続ける。)
「想像を絶するものだよ。
文字は解読出来ないが、挿し絵だけでも大方の想像はつく。」
士郎は、ノートに纏めたリストと人体修正に関する本を前に出す。
「解決しなきゃいけない事だと思う。
目を通してくれないか?」
三人のサーヴァントは、ノートと本を見比べて怒りを溜め込んでいく。
「シロウ……。
私は、これほど怒りを感じた事はありません。」
「同感だ。
狂気の沙汰としか思えん。」
「本人が望んで魔術師になる覚悟があるなら、
勝手に人体修正でもなんでもすればいい。
しかし、桜は、こんな事を望んでいないはずだ。
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・
ライダー、すまなかった。」
士郎は、ライダーに向き直り土下座する。
「士郎? 待ってください!
何故、あなたが謝るのです!?」
「俺は、何も知らないで……。
軽い気持ちでライダーと桜に接してしまった。
事情も知らないで口だけ挟んで……。
桜にも謝るつもりだ。」
「…………。」
「士郎、気持ちは貰って置きます。
そして、私は、あなたの言葉と行動に感謝はすれど、些かの嫌悪もありません。
あなたは、私に行動の機会を与えてくれた。
もし、あなたにお願いする事があるとすれば、それは桜に謝らない事です。
桜は、きっと困ります。」
「…………。」
「ありがとう。
俺もライダーの気持ちを汲んで桜に謝らないで置く。
その代わり、もう一回、お礼を言って置く。
これは、桜の分だ。
ありがとう。」
士郎の行動にセイバーとアーチャーが絶句していた。
「信じられない……。
シロウが、まともな会話をしている。」
「普段のギャップが激し過ぎて眩暈がする。
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しかし、それだけ壮絶な内容だったという事だ。
この本は……。」
士郎が顔をあげ、全員が今後の展開を考える。
「率直な意見を言い合いたいと思う。
俺の調査は、リストを作るところまでで終わっている。
これ以上は、文字の解読と魔術の知識が不可欠だからだ。
みんなの意見を聞きたい。」
「この資料だけでは何とも言えないが、
まず、桜の体を調べるべきではないか?」
「どうやって?
この本だと体内に蟲を寄生させる事になっているから、
メスで体を裂かない限り分からんぞ?」
「絶対ダメです!」
「何のための魔術なんだ?
私は、解析に掛けては結構自信がある。
貴様の机の上にある鉛筆削りを貸してみろ。」
士郎は、鉛筆削りを机の上から取るとアーチャーの前に置く。
アーチャーは、鉛筆削りを片手に持つと何かを呟いた。
そして、材質、強度、年数、構成に至るまでを言い当てた。
「どうだ?」
「凄いな。」
「これで確認は、問題なさそうですね。」
「問題は、やはり蟲の除去でしょう。
位置や状況は、アーチャーの魔術で対応出来ます。
薬物の投与も、この本の資料があれば何とかなると思います。
解読に関しては、桜の姉の知識頼みですが……。」
「そこは、問題なかろう。
是が非にも解読するだろう。」
「…………。」
蟲の除去、これが最大の問題であった。
セイバーは、本を見ながら呟く。
「何も思い付きません。
そもそも、体にこんなにしっかり寄生してしまっているのであれば、
外科的に除去をしても末端の神経に残ってしまう。」
「ええ、それが問題です。」
「…………。」
「質問していいか?」
「ええ、この状況を打破出来るかもしれません。
何でも言ってください。」
「確信はないんだけど。
セイバー達は、俺と違って、
ある程度の魔術の出来る事、出来ない事を判断出来るだろ?」
「それは、我々の周りに魔術師が居ましたから。」
「俺は、今から絵空事で思い付いた事を言うから、
出来そうな事と出来そうにない事を判断してくれないかな?」
「……なるほど。
魔術の知識がない士郎の方が、
我々より柔軟な思考を持っている部分があるかもしれない。」
「やってみよう。
小僧、言ってみろ。」
「まず、霊刀とかで蟲だけを殺すようなものはないか?」
「蟲殺しの霊刀ですか?
私は、聞いた事がありません。」
「じゃあ、逆に魔力殺しでは?」
「聞いた事はありますが、
それでは、魔術師である桜も傷つけてしまう。」
「無理か……。
じゃあ、先に話してた虫下しの類は?」
「仮に効いたとして、蟲の屍骸が神経に絡みついたままでは、
生活に支障をきたす恐れがある。」
「ダメか……。
蟲をコントロールして追い出すのは?」
「何?」
「シロウ……それが出来たら苦労しませんよ。」
「ライダーも無理だと思うか?」
「あの蟲にそれほど高度な知能が備わっているとは……。」
「小僧、その考えに至った経緯は?」
「コンピューターウィルスって知っているか?
インターネットとかから、人のパソコンに入ってプログラムを書き換えちゃうヤツ。
同じ事を蟲に出来ないかと思って。」
「蟲に撤退のプログラムを植えつけるのか……。」
「出来なくはないと思うんだ。
だって、臓硯の体は郡体のようなものだって、ライダーは言っていただろ?」
「確かに言いました。」
「そして、修練場の蟲は、臓硯のスペアだって。」
「ええ。」
「じゃあ、臓硯の体を作るという命令は、誰が出して制御するんだ?
臓硯以外、考えられないじゃないか。」
「言われてみれば、臓硯が人の体を保っているのも
蟲をコントロールしているから。
桜に植え付けられたものも臓硯のコントロールの支配下に置く事を考えれば、
当然、命令の系統は全て同じと考えられる。」
「しかし、シロウ。
どうやって、蟲をコントロールするのです?」
「詳しく調べないと分かんないけど、これ。
『蟲を支配する』の章を見れば分かんないかな?」
ライダーが、リストと本を手元に寄せ調べ始める。
「それで、外に出た蟲を『蟲を退治する』の章で……。」
セイバーが、ライダーの隣に本を運ぶ。
「どうかな? アーチャー?」
「発想は悪くない。
後は、裏づけだ。」
士郎とアーチャーは、セイバーとライダーの作業を待つ。
「出来るかも……しれません。」
「本当か?」
「文字が解読出来ないため、何とも言えませんが、
この本が子孫への伝授を考えたものなら、嘘はないはずです。」
「じゃあ、後は……。」
「行動に移すのみだ。」
士郎の部屋には、安堵の溜息が漏れた。
しかし、この部屋の中には、まだ、7冊の謎の本が残されている。