== Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~ ==
士郎は、部屋に入り布団を敷くと直ぐ横になる。
怒りのせいで眠れないかと思ったが、眠りは意外と早く訪れた。
第5話 土下座祭り①
眠りに着くと普段見ない夢を見る。
セイバーは、そこに存在していた。
幾戦の戦いに勝利して……。
王の孤独に耐え……。
己が信念を貫いていく……。
そして、国を統一し、歓びの凱旋を迎える。
更に時は流れ、国を分断する戦が始まる。
その戦いでセイバーは、致命傷とも言える傷を負う。
夢は、そこで終わった……。
士郎は、さっきまで話していた少女の生き様を見せつけられる。
彼女の生き方は、茨の道を行くようだった。
(納得いかないところもあるけど……。
・
・
カッコイイじゃないか。
最後まで貫き通したんだ。
・
・
ここまでして、やり直したいか……。
完璧主義者なのか?
違うな……。
大事だったんだ……。
・
・
だったら……。
尚更、やり直しちゃダメだろ?
この現状の価値を作った張本人は、アイツじゃないか。
アイツが貫き通さなきゃ、やり直したいなんて感情は生まれない。
・
・
なんか矛盾してる……。
やり通したのにやり直したい?
やり通したから気に入らない?
あれ?
・
・
…………。
・
・
兎に角! やり直しても無駄だ!
自分の居ない物語にどんな意味がある?
アーロンも言ってたじゃないか。
『お前の物語だ』って。
関係ないな……。
・
・
アイツに足りないものが、分かった気がする……。
きっと、本音を言える”本物の馬鹿”の存在だ……。)
朝の気配に士郎は、目を覚ます。
時計を見ると6時を少し回ったところだった。
(ううう……。
夢か……。
恐ろしくリアルな夢だったな。
セイバーの願いが夢の通りなら、昨日はやり過ぎた。
アイツを責めて……。
しかも、女の子に手をあげて……。
いやいやいやいや……。
俺、首絞めた上に叩きつけたよ……。
・
・
自己嫌悪だ。
やるべき事は、一つしかない!)
士郎は、部屋を出るとセイバーを残した居間に向かった。
…
居間の障子を開けるが、そこにセイバーは居なかった。
流れる外の冷気に目を移す。
セイバーは、縁側に座り柱にもたれていた。
士郎は、ゆっくりとセイバーの近くまで歩いて行った。
セイバーは、士郎の気配に気付くとゆっくりと振り返る。
(うっ……!
泣いてる! 目が真っ赤だ!
そりゃそうだ……。
女の子にする事じゃない……。
星一徹だって、ここまでしないさ。
・
・
うっ……!
袖が湖みたいになっていらっしゃる!
・
・
あれから、ずっとか……。
・
・
ええ~い!)
士郎は、正座し背筋を伸ばす。
そして、体を前に倒し、肘を90度に曲げ、頭を畳に擦りつける。
「すいませんでしたっ!!」
その完成された美しい謝る姿勢を人は、『土下座』と呼んだ。
「シロウ……。
何故、貴方が謝るのですか?」
「…………。」
「女の子に手をあげてはいけない……。」
「…………。」
「相手の理由を聞かずにキレてはいけない……。」
「…………。」
「でも、貴方には、怒る理由があったのでしょう?」
「…………。」
「シロウに言われた事をずっと考えていた……。
そして、自分の言った事も考えていた……。
でも、答えは出なかった……。」
「だから、泣いていたのか?」
「泣いて……?
そうか……私は、泣いていたのか。」
セイバーは立ち上がり、シロウの前まで来ると正座し背筋を伸ばす。
そして、体を前に倒し、肘を90度に曲げ、頭を畳に擦りつける。
「すいません……。
きっと、私は、知らずに貴方を侮辱した。」
その完成された美しい謝る姿勢を人は、『土下座』と呼んだ。
「そんな事はない。
悪いのは、俺だ。」
「そんな事はありません。
シロウには、私を責める理由がある。」
「…………。」
「夢を見たんだ……。
セイバーの……。
夢だから事実じゃないと思うが……。」
「マスターとサーヴァントとの結びつきが強いと
夢でお互いの過去を見る事があります。」
「そうか……。
なら、ますます申し訳ない。
勝手に人のプライバシーまで侵害して……。」
シロウは、無断で過去を覗いた事で更に自己嫌悪を強める。
そして、二人は、土下座したままの状態で話し続ける。
「気にしないでください。
これは、どうしようもない事です。
もしかしたら、私が貴方の過去を見る事にもなるかもしれない……。」
「すまない。」
「…………。」
「私の過去は、酷かったでしょう。
最後は、国を壊してしまった……。」
「…………。」
「私など……。
王にならなければよかったのです……。」
「…………。」
「でも……。
俺は、尊敬するぞ。」
「何故ですか?」
「分からない……。
でも、正直、カッコイイと思った。」
「何故ですか?」
「分からない……。
でも、俺の言った事に嘘はない。
だから、セイバーに謝らなければならない。
きっと、俺は、知らずにセイバーを侮辱した。」
「…………。」
「そんな事はありません。
結局、私は、まだ答えを出せないでいる。」
二人は、土下座をしたまま、自分が悪いのだと言い続ける。
こんなところでも、二人は頑固だった。
相手が根負けするまで、土下座の姿勢を崩さずに張り合い続ける。
しかし、ある訪問者により、膠着状態は崩壊した。