<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.7779の一覧
[0] 【ネタ完結】Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~[熊雑草](2009/05/16 02:23)
[1] 第1話 月光の下の出会い①[熊雑草](2010/08/27 00:09)
[2] 第2話 月光の下の出会い②[熊雑草](2010/08/27 00:09)
[3] 第3話 月光の下の出会い③[熊雑草](2010/08/27 00:10)
[4] 第4話 月光の下の出会い④[熊雑草](2010/08/27 00:10)
[5] 第5話 土下座祭り①[熊雑草](2010/08/27 00:11)
[6] 第6話 土下座祭り②[熊雑草](2010/08/27 00:11)
[7] 第7話 赤い主従との遭遇①[熊雑草](2010/08/27 00:12)
[8] 第8話 赤い主従との遭遇②[熊雑草](2010/08/27 00:12)
[9] 第9話 赤い主従との遭遇③[熊雑草](2010/08/27 00:13)
[10] 第10話 後藤君の昼休みの物語[熊雑草](2010/08/27 00:13)
[11] 第11話 赤い主従との会話①[熊雑草](2010/08/27 00:14)
[12] 第12話 赤い主従との会話②[熊雑草](2010/08/27 00:14)
[13] 第13話 素人の聖杯戦争考察[熊雑草](2010/08/27 00:15)
[14] 第14話 後藤君の放課後の物語①[熊雑草](2010/08/27 00:15)
[15] 第15話 後藤君の放課後の物語②[熊雑草](2010/08/27 00:16)
[16] 第16話 後藤君の放課後の物語③[熊雑草](2010/08/27 00:16)
[17] 第17話 天地神明の理[熊雑草](2010/08/27 00:16)
[18] 第18話 サーヴァントとアルバイト①[熊雑草](2010/08/27 00:17)
[19] 第19話 サーヴァントとアルバイト②[熊雑草](2010/08/27 00:17)
[20] 第20話 サーヴァントとアルバイト③[熊雑草](2010/08/27 00:18)
[21] 第21話 帰宅後の閑談①[熊雑草](2010/08/27 00:18)
[22] 第22話 帰宅後の閑談②[熊雑草](2010/08/27 00:19)
[23] 第23話 帰宅後の閑談③[熊雑草](2010/08/27 00:19)
[24] 第24話 帰宅後の閑談④[熊雑草](2010/08/27 00:20)
[25] 第25話 深夜の戦い①[熊雑草](2010/08/27 00:20)
[26] 第26話 深夜の戦い②[熊雑草](2010/08/27 00:21)
[27] 第27話 アインツベルンとの協定①[熊雑草](2010/08/27 00:21)
[28] 第28話 アインツベルンとの協定②[熊雑草](2010/08/27 00:21)
[29] 第29話 アインツベルンとの協定③[熊雑草](2010/08/27 00:22)
[30] 第30話 結界対策会議①[熊雑草](2010/08/27 00:22)
[31] 第31話 結界対策会議②[熊雑草](2010/08/27 00:23)
[32] 第32話 結界対策会議③[熊雑草](2010/08/27 00:23)
[33] 第33話 結界対策会議④[熊雑草](2010/08/27 00:24)
[34] 第34話 学校の戦い・前夜[熊雑草](2010/08/27 00:24)
[35] 第35話 学校の戦い①[熊雑草](2010/08/27 00:24)
[36] 第36話 学校の戦い②[熊雑草](2010/08/27 00:25)
[37] 第37話 学校の戦い③[熊雑草](2010/08/27 00:25)
[38] 第38話 学校の戦い④[熊雑草](2010/08/27 00:26)
[39] 第39話 学校の戦い⑤[熊雑草](2010/08/27 00:26)
[40] 第40話 ライダーの願い[熊雑草](2010/08/27 00:26)
[41] 第41話 ライダーの戦い①[熊雑草](2010/08/27 00:27)
[42] 第42話 ライダーの戦い②[熊雑草](2010/08/27 00:27)
[43] 第43話 奪取、マキリの書物[熊雑草](2010/08/27 00:27)
[44] 第44話 姉と妹①[熊雑草](2010/08/27 00:28)
[45] 第45話 姉と妹②[熊雑草](2010/08/27 00:28)
[46] 第46話 サーヴァントとの検討会議[熊雑草](2010/08/27 00:29)
[47] 第47話 イリヤ誘拐[熊雑草](2010/08/27 00:29)
[48] 第48話 衛宮邸の団欒①[熊雑草](2010/08/27 00:30)
[49] 第49話 衛宮邸の団欒②[熊雑草](2010/08/27 00:30)
[50] 第50話 間桐の遺産①[熊雑草](2010/08/27 00:30)
[51] 第51話 間桐の遺産②[熊雑草](2010/08/27 00:31)
[52] 第52話 間桐の遺産③[熊雑草](2010/08/27 00:32)
[53] 第53話 間桐の遺産~番外編①~[熊雑草](2010/08/27 00:32)
[54] 第54話 間桐の遺産~番外編②~[熊雑草](2010/08/27 00:33)
[55] 第55話 間桐の遺産~番外編③~[熊雑草](2010/08/27 00:33)
[56] 第56話 間桐の遺産④[熊雑草](2010/08/27 00:33)
[57] 第57話 間桐の遺産⑤[熊雑草](2010/08/27 00:34)
[58] 第58話 間桐の遺産⑥[熊雑草](2010/08/27 00:34)
[59] 第59話 幕間Ⅰ①[熊雑草](2010/08/27 00:35)
[60] 第60話 幕間Ⅰ②[熊雑草](2010/08/27 00:35)
[61] 第61話 幕間Ⅰ③[熊雑草](2010/08/27 00:36)
[62] 第62話 キャスター勧誘[熊雑草](2010/08/27 00:36)
[63] 第63話 新たな可能性[熊雑草](2010/08/27 00:37)
[64] 第64話 女同士の内緒話[熊雑草](2010/08/27 00:37)
[65] 第65話 教会という名の魔城①[熊雑草](2010/08/27 00:37)
[66] 第66話 教会という名の魔城②[熊雑草](2010/08/27 00:38)
[67] 第67話 教会という名の魔城③[熊雑草](2010/08/27 00:38)
[68] 第68話 幕間Ⅱ①[熊雑草](2010/08/27 00:39)
[69] 第69話 幕間Ⅱ②[熊雑草](2010/08/27 00:39)
[70] 第70話 聖杯戦争終了[熊雑草](2010/08/27 00:39)
[71] 第71話 その後①[熊雑草](2010/08/27 00:40)
[72] 第72話 その後②[熊雑草](2010/08/27 00:40)
[73] 第73話 その後③[熊雑草](2010/08/27 00:41)
[74] 第74話 その後④[熊雑草](2010/08/27 00:41)
[75] 第75話 その後⑤[熊雑草](2010/08/27 00:42)
[76] 第76話 その後⑥[熊雑草](2010/08/27 00:42)
[77] あとがき・懺悔・本当の気持ち[熊雑草](2009/05/16 02:22)
[78] 修正あげだけでは、マナー違反の為に追加した話[熊雑草](2010/08/27 00:42)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[7779] 第53話 間桐の遺産~番外編①~
Name: 熊雑草◆890a69a1 ID:9b88eec9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/08/27 00:32
 == Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~ ==



 冬の冷気で張り詰めた空気と蒼い月が煌々と街を照らす。
 月の明るさは、何処か神秘的な気分にさせる。
 神秘的……聖杯戦争が行われている冬木の街は、神秘に溢れていた。

 主と協力者の安眠を守るため、衛宮邸の屋根で守護者は監視を続ける。
 そして、過去の可能性からの言葉を思い返した。


 (『正義の味方を目指していたなら、何がなんでも生き抜いて欲しい』
  『正義の味方に言葉を伝えたい奴が居たとして、
   アーチャーが死んでたら、そいつは、一生救われないから!』
  ・
  ・
  私に伝えたい言葉か……。
  そういえば、あの時の少女は、何を伝えたかったのだろう……。
  その言葉を聞いていれば、私は救われたのだろうか?)


 空には蒼い月が、アーチャーを照らし続けていた。



  第53話 間桐の遺産~番外編①~



 世界との契約……死後を捧げ守護者になる事。
 世界は、バランスを保つため、守護者をあらゆる時代に送り込む。
 そして、名も無き英雄が歴史に名を刻む事無く消えていく。


 …


 世界に送り込まれた草原の真ん中で、頭に送り込まれる情報を整理する。
 見渡す限りの緑の波風の中では、争いなど皆無に思える。
 しかし、ここでも人々は、戦いを止める事はなかった。

 今回の目的は、ある少女の護衛……。
 いずれ世界を導く彼女を目的地まで連れて行くだけ。
 つまり、次の時代へと続く鍵となる少女をこの時代の要の扉へと導く事である。

 アーチャーは、草原を抜け、川を渡り、砂利道で出来た街道へと出る。
 情報では、彼女は、ここを通るはずだった。


 「遅い……。」


 二時間の時間が経過しても、人っ子、一人通らない。
 脇道の大きな石に腰を下ろして、延々と続く道の先を見続ける。
 目の良い彼は、一本道が太陽の熱で陽炎を曲げる地点まで確認出来る。
 そこをいくら眺めていても誰も通らなかった。

 更に一時間……。
 明方の召喚から日は高く昇り、お昼になろうとしていた。
 そして、初めて人らしき影を歪む陽炎の先に見つける。


 「やっと、来たか……。」


 腰を上げ立ち上がり、件の人物がこちらに近づくのを待つ。
 しかし、目的の人影は突然倒れた。


 「何!?」


 アーチャーの脳裏に任務前の任務終了が過ぎる。
 アーチャーは、全力で件の人物に向かった。


 …


 件の人物は、本当に幼い少女だった。
 髪は、赤みがかったオレンジ色で腰まで伸びているのが印象的だった。

 しかし、姿は……寝巻き。
 朝起きて、今、来ましたという感じである。
 そして、その少女は、倒れた時に打ちつけたのだろう。
 アーチャーの前で、盛大にドクドクと鼻血を流し続けている。


 (これが目的の人物……。
  大丈夫なのか?
  ・
  ・
  いや、それよりもこの出血量!
  早く止めなければ!)


 アーチャーは、少女を腕に抱える。


 「トレース・オン。」


 本来、武器の解析を行う作業を少女の顔に行う。
 出血の箇所を確認……。
 鼻骨に問題がないのを確認……。
 鼻血以外の外傷がないのを確認……。


 「この程度なら、未熟な私の治療系魔術でも止められるか……。」


 生前の赤い悪魔の異名を取る師匠のスパルタ教育が役に立ったと不器用に魔術を組み上げ実行する。
 直に傷は塞がり、少女の流血は止まった。


 「さて、気絶してしまっているようだが、どうするべきか……。
  仕方がないな……。」


 アーチャーは、街道に出る時に飛び越えた川まで少女を抱えて歩いた。


 …


 少女を木陰に寝かし、川の水を汲みに行く。


 「こういう時は、自分が投影に特化した魔術師で良かったと思うな。」


 アーチャーは、バケツを投影して水を汲む。
 そして、枯れ木と石を組み、即席の釜戸兼焚き火を用意する。
 続いて鍋を投影。
 鍋に水を注ぎ、お湯を沸かし始める。


 「ふむ。
  後は、毛布とタオルか。」


 アーチャーは、毛布とタオルを投影する。


 (毛布の投影は、イリヤを受け止めた時以来か……。)


 毛布を少女に掛けて、少し温かくなった鍋の水をタオルに掛け、流血した血の跡を拭いていく。


 「まさか、目的の人物と会話をする前に
  世話をする事になろうとは……。」


 アーチャーは、血を拭い取り終わると少女を観察する。
 幼い寝顔は、何処にでも居る普通の少女だった。


 「!」

 「まだ、血が出ている……。」


 アーチャーは、顔だけの解析で止めた自分の無粋さを後悔する。
 そして、体全体を解析する。


 (腕、脛、胸に打ち身による痣……。
  これは、転倒によるものか……。
  出血は、足……足の裏!)


 アーチャーは、少女の足を確認する。
 彼女の足には、おびただしい数の石が突き刺さったままだった。
 長い距離の砂利道を歩いて来た証拠であった。
 アーチャーは、慎重に石を抜き血を拭き取っていく。
 全ての石を取り去り、傷口だけが足の裏に残る。
 そして、再び未熟な治療魔術を掛け始める。


 「私の力量では、薄い皮までしか治療出来ん。
  暫くは歩く度に痛みがぶり返すかもしれんが、我慢して貰うしかないな。
  ・
  ・
  それにしても……気絶しているとはいえ、我慢強い子だ。」


 アーチャーは、治療を終えると少女が目を覚ますのを待った。


 …


 日が傾き掛けた夕暮れ時、少女は、目を覚ます。
 自分の記憶を懸命に辿り、砂利道の街道を歩き続けていた以降の記憶が繋がらない事を確認する。
 そして、自分に掛かっている毛布に気付き、誰かに助けられたのだと理解する。


 「ここは……。」


 森の中は夕暮れ時のため、薄暗く気味が悪かった。
 そのため、自分が何処に居るのかも判断出来ない。
 ここは街道から、どのぐらい離れた場所なのか?
 自分は、目的の場所まで、どのくらい近づいたのか?


 「目が覚めたようだな。」


 森の奥から現れた青年に声を掛けられ、少女は振り返る。
 少女は、声を掛けた青年を凝視する。


 (この人は……。
  赤い外套を着た……旅人?
  髪は、地毛なのかな?
  真っ白だけど……。)


 アーチャーは、少女に見つめられながら少女の反応を待つ。
 しかし、いくら待っても答えが返って来ない。


 「……大丈夫か?
  君を助けて、かなりの時間が経つのだが?」


 少女は、自分の姿を確認する。
 目を下ろし、べったりと血のついた跡の寝巻きを確認。
 至る所に打ち身による痛みを確認。
 足の裏が少し痛いのを確認。


 「体中が痛い……。」

 (反応が遅いな……。)

 「でも……。
  足は、もっと痛かったのに……。」

 「勝手ながら、治療させて貰った。」


 少女は、自分の足を抱えて足の裏を確認する。


 「血が出てない……。
  ・
  ・
  治った?」

 「いや、治ってない。
  薄皮で血が止まっているだけだ。
  本来、足の皮は、もっと厚いものだ。」

 「ふ~ん、そーなんだ。
  ここ、どこ?」

 「街道を少し反れた川の近くだ。」

 「へ~。」

 「思ったより元気そうで何よりだ。」

 「そう?
  あ、そうだ。
  助けてくれて、ありがとう。」

 「どういたしまして。」


 少女のお腹が盛大に空腹を告げる。


 「お腹減った~~~!」

 「今、魚を獲って来たところだ。」


 アーチャーは、腸を取って口に木を刺した魚を焚き火の前に刺していく。


 「あんた、なかなかやるわね!」

 「それは、どうも。」

 「その鍋は?」

 「生憎、調味料がないので味付けは出来ないが……。
  茸と野草のごった煮だ。
  味付けは、茸の出汁だけだ。」

 「おお!
  いいっていいって!
  こんな森の中で、これだけの料理が出来れば大したもんよ!」

 「何か君は、やたら態度がでかいな。
  私のよく知っている人物を思い出させる。
  尤もその人物は、黒髪で髪を左右に結っていたがな。」

 「へ~。
  あたしも本来、そういう髪よ。
  待ってて。」


 少女は、寝巻きのポケットから普段結っている紐を取り出すと髪を左右に結っていく。


 「どう?」

 「嫌が故にも、思い出させるな。」

 「あ~~~! いい匂い!
  さ、食べよ! 直ぐ、食べよ! 今、食べよ!」

 「魚は、焼けていないぞ?」

 「鍋! そっちは、食べれるでしょ?」

 「まあ……。
  一緒に食べた方が美味しいのでは?」

 「大丈夫よ!
  3杯目ぐらいには焼きあがるわよ!」

 (この食欲は、金髪の王様を思い出させる……。)

 「分かった分かった。
  先に鍋のものをよそおう。」


 少女は、アーチャーがよそう鍋の具を嬉しそうに見ながら目を輝かせる。
 よそったお椀をアーチャーは、少女に手渡す。


 「いただきま~す!
  ・
  ・
  …………。」

 「どうした?」

 「この鍋……カボチャ入ってないでしょうね?」

 「森の中なので、カボチャは見つからないが?」

 「うん! 問題なし!
  いただきます!」


 少女は、勢い良くがっつき出した。
 アーチャーは、自分の料理を美味しそうに平らげていく少女に懐かしいものを感じていた。


 「ところでさ。
  あんた、なんて名前?
  あたしは、ミント。
  呼ぶときは、『カワイクてカッコいいミント様』とか『バラのよーに美しいミント様』ってね。
  めんどくさかったら『ミント様』だけでも気にしないから。」

 「……私の方が年上なのだが?」

 (この少女は、身分でも高いのだろうか?)

 「ああ。
  頭、真っ白だもんね!
  ひょっとしてジジイ?」


 アーチャーは、ガンッと頭をハンマーで叩かれた気分になる。


 「確かに白髪だが、私は、そんなに歳を取っていない!」

 「おかわり!」

 「君は、話を聞かんな!」

 「聞いてるわよ。
  ジジイだけど若いんでしょ?
  いい? あたしは、おかわりしたいの!」

 (第2の赤い悪魔だな……。)


 アーチャーは、無言でおかわりをよそう。


 「で、あんたの名前は?
  このミント様に言ってみ? ん?」

 「……エミヤだ。」

 「エミヤ?
  あまり聞かない名前ねぇ。
  まあ、いいわ。 おかわり!」

 「もう食べたのか!?」

 「なに言ってんのよ?
  まだ、2杯目じゃない?」

 「まだ……。」

 「エミヤ、早くよそって!」


 アーチャーは、言われるがままよそう。


 「いや~、こんな森の中で
  温かいご飯にありつけるとは思わなかったわ!」

 「私は、君を助けた時とのギャップに
  少々戸惑っているのだが……。」

 「見た目?
  あたしの魅力は、昨日も今日も変わらないわよ?」

 「見た目ではない。
  性格……内面だ。」

 「やさしさに溢れてるでしょ!」

 「ああ、やましさに……。」

 「なぬーっ!?」

 「そろそろ魚が焼けるぞ?
  食べれるか?」

 「うん! 食べる!」


 ミントは、おわんのごった煮を啜りながら、魚にかじりつく。


 「いい焼き加減! あんた天才ね!」

 「何のだ?」

 「料理よ!
  ・
  ・
  そうだ! あんた、あたしの家来にしてあげるわ!」

 (そういう任務だから、別に構わんのだが……。
  まだ、この少女が何者か一向に分からない。)

 「君の部下になると何か役得でもあるのか?」

 「あるわよ。」

 「ほう。」

 「あたしは、世界を征服するんだから。」


 アーチャーは、勢いよく吹く。


 「何だと!?」

 (世界よ……。
  本当に、このミントという少女を助けなければいけないのか?)

 「本当においしいわ。
  そっちの魚も焼けたんじゃない?
  食べていい?」

 「構わんぞ。」

 「あんたいいヤツね!」


 ミントは、次の魚を食べ始める。
 アーチャーは、事態を見守る事にした。
 ミントが、どのような行動を起こすのかを。
 そして、考え込んでいるうちにミントは、鍋と魚を全て処理していた。


 …


 翌日、ミントの歩いて来た道を二人は引き帰していた。


 「う~~~。
  まさか、反対の方向に歩いていたとは……。」

 「君は、直情的に動くようだな。」

 「急いでいたのよ。」

 「昨日の君の勢いに飲まれて聞き忘れていたが、
  君は何者で、どうして裸足で歩いていたんだ?」

 「あたしは、魔法使いの家系の子なの。」

 「魔法使い!? 魔術ではないのか!?」

 「正確には魔術ね。
  ・
  ・
  うん?
  魔術は秘匿されているのに
  それを知っているということは……。」

 「ああ、私も少し魔術を心得ている。」

 「なるほど。」

 (いきなり、秘匿している魔術の事を口にするとは……。)

 「それで?」

 「実家が野党に襲われちゃってさ。
  妹を人質に取られちゃったのよ。」

 「いきなり、凄い展開だな。」

 「家の秘伝を渡せとか何とか言っててさ。
  今もオヤジと交渉中。」

 「君は、何故、抜け出せたのだ?」

 「あたし?
  3年ぶりに家出から帰って来たから、野党もあたしを知らないみたい。
  つまり、あの家にもう一人娘が居たなんてわからなかったのよ。」

 「家出……。」


 アーチャーは、頭を抱える。


 「何故、家出などしたんだ?」

 「つまんないから。」

 「は?」

 「だってさ。
  世の中、戦争に参加している魔術師もいるのよ?
  アイツらばっかり、使いたいほーだいで、魔術バンバン使っちゃってさ!」

 「待て。
  それでは、君は、好き勝手に魔術を使いたいから、家出したのか?」

 「そうよ。」

 「……魔術協会が黙っていないのではないか。」

 「何度か来たわね。
  ボコボコに返り討ちにしてやったけどね。」


 アハハと笑っているミントだが、事態は、それぐらいで収拾する事ではない。
 更にそれだとどうにも辻褄が合わない事がある。


 「話から察すると君は、相当な魔術師なのだろう?
  野党など、物の数ではないのではないか?」

 「あんた、鋭いわね。
  その通りよ。
  だけどね~。
  実家に戻る時に正体バレないように杖とか色んなもんをカローナの街に隠しちゃったのよ。」

 「魔術には関係ないような気がするが?」

 「それがさ。
  家出して気が付いたことがあるのよ。
  実家では、あたし魔術全然成功しなかったんだ。」

 「妙だな?
  詳細を省いて簡単に話すが、魔術回路に魔力を流せば魔術は発動するはずだが?」

 「うん。
  あたしも、そう思ってた。
  でも、あたしの魔術にあたし自身の魔術回路が耐えられなくてさ。
  発動寸前にいつも消滅してたんだ。」

 「つまり、君の生成する魔力が強過ぎたという事か?」

 「正解!
  で、仕方ないから、魔術を発動するのを杖に置き換えたの。」

 「なるほど。
  世の中には、変わった魔術師もいるものだな。」

 「だから、野党をボコボコにするのに
  カローナの街に行かないといけないのよ。」

 (しかし、この娘……。
  凄いんだか凄くないのか分からない魔術師だな。
  そして……どうして、こんな凶暴な娘が保護対象なのだ?)


 …


 カローナの街に着くと街の人間は、一斉にアーチャーとミントを見る。
 ミントの寝巻き姿と靴の変わりに毛布を巻いた即席ブーツが目に付いたためである。


 「酷く目立っているが……。」

 「気にすることないわよ。
  ほら、こっちこっち。」


 ミントは、裏道を潜り道具屋に入る。


 「ちーす!
  荷物取りに来たよ!」

 「相変わらず、いつも騒ぎを撒き散らすな。」


 ミントが声を掛けた先には、初老の老人が店番をしていた。


 「また、掘り出し物持って来るからさ。
  荷物出して。」

 「ちょっと、待っとれ。」


 老人が奥に消えるとアーチャーは、ミントに話し掛ける。


 「隠してあるのではなかったのか?」

 「同じことよ。
  預かって貰うのも隠すのも。」


 老人が再び姿を現す。
 手には鮮やかな紫の服、ブーツ、1対のリング、リュックサックを持っている。
 ミントは着替えようと寝巻きを脱ぎ出す。
 老人とアーチャーは、慌てて反対を向く。


 「彼女は、いつもこうなのですか?」

 「いつもじゃ。お主は?」

 「街道の途中で会った者です。」

 「気に入られたな。
  とことん巻き込まれるぞい。」

 「……まるで災害のような言い方ですね。」

 「まあの。
  だが、リスクも大きいが見返りも大きい。
  ついつい手を貸してしまうぞい。」


 アーチャーは、瞬間的にこの老人はダメだと判断した。


 「用意出来たわ。
  行くわよ、エミヤ!」


 完全装備に身を包んだミントは、アーチャーに命令する。


 「主導権を握られたな。」

 「昔から、あの手の相手は苦手でな。」

 「こらー! もたもたしない!」


 アーチャーは、苦笑いを浮かべつつミントとカローナの街を後にした。


 …


 カローナの街を訪れる時に通り過ぎた街の前で、ミントは腕組みをしている。
 そのミントをアーチャーは、どうしたものかと眺めている。


 「よし! 正面突破ね!」

 「ちょっと、待て!」

 「なに?」

 「人質がいるのだろう?
  何故、正面突破なんだ!?」

 「敵をやっつければ終わりじゃない?」

 「人質はどうなる?」

 「ああ、妹?
  なんとかするんじゃない?
  あの子、ああ見えてタフだから。」

 「私は、その妹がどんな人物か分からないのだが……。」

 「大丈夫よ。
  任せなさいって!」

 (世界よ……。
  だんだん役割が分かって来た。
  私は、この娘を護衛するのではなく、
  この娘により、もたらされる被害者の護衛をする訳だな。
  ・
  ・
  確かに、私にしか出来ない事だ。
  あの衛宮邸の動乱を体験した私にしか……。)


 アーチャーは、護衛に徹底する事を決めた。
 暴走する赤い悪魔Ⅱの制御など出来る訳がない。
 だから、ここはミントの好きな様にさせる事にした。

 ミントは、実家の前の門に立つ。
 魔術師の名家らしく立派な家構えをしている。
 ミントは、門に跳び蹴りをかますと殴り込み上等の要領で門を薙ぎ倒して突入した。


 「彼女の実家だよな……。
  何で、門を壊して行くんだ……。」


 屋敷の中には、野党の凄惨な悲鳴が聞こえる。


 「殴り込みだーっ!」

 「新たな野党の殴り込みだ!」


 ミントの消えた先に雷やら洪水やら竜巻が巻き起こっている。


 「確かに優秀な魔術師のようだ。
  さて、私は、家族の安全を確保するため、狙撃のポイントを探すとしよう。
  ・
  ・
  それにしても野党が野党を襲う構図になるとは……。」


 アーチャーは、屋根伝いに身を躍らせ、狙撃のポイントを探し始める。
 そして、屋敷の構図を頭に描き、徐々に全体像を把握していく。

 悲鳴は、右から左に移動し、火炎やら氷柱やらの災害が広がっていく。


 「ここは、間違いなく彼女の実家なのだよな……。」


 アーチャーは、頭を抱える。
 ミントの実家を破壊しているのは、ミント自身に他ならない。
 災害が屋敷の一番奥で止まる。
 ミントが目的地に着いたようだ。
 アーチャーは、奥を一望出来る大きな木を目指して走った。


 …


 屋敷の奥で爆発が起きる。
 頑丈な扉をぶっ飛ばし、野党の親分とミントが相対する。


 「てめぇ! 何もんだ!
  この家は、俺達が先に目を付けたんだぞ!」

 「嘘言ってんじゃないわよ!
  どこの世界の野党が、魔術の奥義を欲しがるっていうのよ!
  あんた達の黒幕は、誰よ!」

 「それは言えないな。」

 「…………。」

 「マヤ、オヤジは?」


 ミントは、人質の少女に質問する。


 「地下に監禁されています。」

 「オイ! 勝手に話すな!」


 野党の親分がミントの妹を殴りつける。


 「マヤ、あんたは、なんとかしなさい!
  魔術を使うわよ!」

 「はい?
  お姉さま?」

 「オイ! 人質が居るんだぞ!」


 ミントの詠唱が始まるとマヤも慌てて詠唱を始める。
 盗賊の親分は、一人うろたえる。
 そして、マヤの防御呪文が完成した直後、ミントは、己が魔術を炸裂させた。


 …


 アーチャーは、木の上で一部始終を見ながら呆然としている。
 ミントは、妹もろとも盗賊の親分と自分の家を吹っ飛ばしたのである。
 目の前には、まだ、魔力のエネルギーが柱のように巻き上がっている。


 「滅茶苦茶だ……。」


 事後処理のため、アーチャーは、ミントの居る屋敷のあった場所を訪れる。
 そこには、黒焦げの野党の親分ともめる少女が二人。


 「お姉さま!
  なんて事をするのです!」

 「あんたを助けたんでしょうが!」

 「わたくしもろとも、魔術を行使するなど!」

 「あんたを優秀な魔術師と見込んで実行したのよ!」

 「それが、この有様ですか!?
  家が消滅しているではないですか!」

 「こんなもの些細なものでしょ!」

 「些細!? 家の消滅が些細!?」

 「そうよ!
  相変わらず、うるさいわね!」

 「3年ぶりに戻って来たと思えば……。
  まさか家を消滅させるとは……。
  わたくし、あまりの事に頭痛がしますわ。」

 「なぬ!?」


 終わりそうもない喧嘩に、アーチャーが割って入る。


 「少し、いいか?」

 「へ?」

 「どちら様でしょうか?」

 「ちょっと、訳ありでな。
  そのミントに突き合わされている。」

 「申し訳ありません。」

 「なんで、いきなり謝るのよ!」

 (悲しい習性だな……。)

 「言いたい事も分かる。
  私も大概にして君と同じ気持ちだ。」

 「……ついに私にも理解者が。」

 「そこ! 勝手に打ち解けない!」


 アーチャーとマヤから、溜息が漏れる。


 「気分悪い!
  もう、行く!」

 「行くって?
  何処へです!?」

 「とりあえず、王都を目指すわ!」

 「何のためにです!?」

 「もちろん!
  世界を征服するためによ!」

 (ああ……。
  これで私は、この娘と目的地である王都へ向かうのか……。)


 …


 アーチャーは、この後、王都までミントと旅をする事になる。
 そして、アーチャーとミントの旅も終わりを必ず迎える事になる。

 会った時から、変わらない会話に態度。
 しかし、彼女の変化は見ていて楽しかった。
 彼女の正義の味方になれる時間が楽しかった。
 辛い守護者の時間にあった満足のいく時間だった。

 その最後の別れ。
 アーチャーは、彼女の言葉を聞けなかった。

 最後の最後に彼は、傷を負った。
 致命傷となる傷を……。
 自分が死んで終わりを迎えるのは、初めてではない。
 だが、これは満足のいく死だった。
 誰かを庇って倒れる。
 今までと何かが違う。
 それは、何なのだろうか?

 横たわる自分に何かを叫ぶミントの姿が見える。
 もう、声も聞こえない。
 微かに繋ぎとめた意識で、彼女が何を言ったのか伝えたいのかを必死に考える。
 自分の心に浮かんだ満足感と供に。

 最後に彼女は、微笑んで何かを口にする。
 そして、涙が溢れるのが見える。
 アーチャーの記憶は、ここで切れた。


 …


 再び、衛宮邸の屋根。
 アーチャーは、彼女の最後の唇の動きを思い出す。


 「ああ、今、伝わったよ。
  確かにその言葉は重要だ。
  受け取らなくてはいけないな。」


 アーチャーは、満足感の理由を理解する。


 「いい経験もあったのだな……。
  人は、自分だけの価値観だけでは生きていけない。
  自分を分かってくれる人も重要だ。
  自己満足も重要だ。
  そして、その気持ちを与えてくれるのは……。」


 月夜の晩に一陣の風が吹き抜ける。
 風は、アーチャーの最後の言葉を攫って行った。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.03344202041626