== Fate/stay night ~IF・緩い聖杯戦争~ ==
アストロレンジャーズとの明後日のレースのため、烈は、ビクトリーズの練習場に一人向かっていた。
そんな烈に一人の女の子が声を掛ける。
「ねえ、あんた、どこいくの?」
烈は面識のない子だったが明るく返事を返す。
「これから、ミニ四駆の練習に行くんだよ。」
「みによんく? なにそれ? 」
自分もテレビに映るようになり、知っていて声を掛けたのかと思ったが、女の子は烈の事を知らないようだった。
時間にも余裕があるので、烈は、自分のマシン:ハリケーン・ソニックを女の子に見せてあげる。
「これを走らせてレースをするんだ。」
「へ~。
見てみたいなあ。」
烈は、見せてあげたいと思ったが、グランプリマシンは秘密が多く簡単には見せられない。
「ごめんね。
見せてあげたいんだけど、チーム内の秘密なんだ。
僕は、これから練習に行かないといけないから。」
「そーなんだ。」
烈は、女の子と別れるとビクトリーズの練習場に向かった。
練習は、休みの日を利用したため、午前中から午後までみっちり行われた。
休憩時間にベンチで一息ついていると声を掛けられる。
「みによんくって、スゴい速いのね。」
「うん。
グランプリマシンは、特別な素材やモーターを使っているからね。」
返事を返して、烈はハッとする。
声を掛けたのは、さっきの女の子だ。
「どうして、ここにいるの!?」
「おもしろそーだから♪」
「…………。」
烈は、暫し呆然とすると注意する。
「ダメじゃないか。
さっき言ったのに! 」
「いいのよ、べつに。
わかりゃしないって。」
「みんな居るんたから、怒られる前に外に出よう。」
「ホントに大丈夫だって。
だって、あたし……あんたにしか見えてないみたいなんだもん。」
烈は、目をパチクリとする。
そして、近くを通った藤吉の頭を女の子はひっぱたく。
「なんでげす!? 」
藤吉は辺りを見回すが、女の子に気付いていないようだった。
「あたしミントっていうの。
よろしくね、烈♪」
…
ミントが、烈にくっついて歩いて1日が経った。
練習前にミントは、とんでもない事を言い出した。
「あたしもやる。」
すでに決定事項の物言い。
烈は困惑する。
「ミントちゃんは、レースに出れないよ。」
「そんなことは、わかってるわよ。
あたしのみによんくをあんたが走らせればいいじゃない。」
(豪が、二人になったみたいだ。)
弟の豪以上に強引なミントに、烈は、暫し頭を押さえる。
「ダメだ!
僕達は、チームでレースをしているんだ!
勝手な事は出来ない!」
「なんで、そんな意地悪ゆーのよ!」
「ダメなものは、ダメなんだよ。」
ミントはイライラが頂点に達する。
「烈、ゆーこときかないんだったら、あたし暴れるわよ?」
「そんな事言ってもダメ。」
弟の豪ならここらで捨てゼリフを吐き、怒って居なくなるところだ。
しかし、ミントは、一筋縄ではいかない。
ミントは、左手を壁にかざし、デュアル・ハーロゥを起動する。
そして、”白の魔法:パワー”を発動し、光の矢で壁を打ち抜く。
コンクリートの壁が、ガラガラと音を立てて崩れる。
突然の爆音にチームの仲間も集まって来る。
「烈君、大丈夫!?」
「何が起きたんだ?」
「手抜き工事でげすか?」
ミントは、ニヤリと笑い、烈は、事態が把握出来ず固まる。
「アニキ、ケガないか?
大丈夫なのか?」
烈は、豪の声で我に返るとミントを見る。
「今度は、大事な仲間がケガするかもしれないわよ♪」
烈は、悪魔にでも取り付かれたと諦める。
大事な仲間を危険にさらす訳にはいかない。
烈は、リーダーなのだ。
「……分かった。
言う通りにするよ……。」
ミントは満足して微笑み、仲間は、脈略のない話に不安が増した。
…
烈は、予備のソニックのパーツから新しいマシンを作らなければならなくなった。
とりあえず、ミントがどんなマシンを作りたいか聞いてみる。
「あの子より、速いヤツ!」
ミントが指さしたのは、豪だった。
烈は、頭を抱える。
コーナリングで力を発揮する烈と真逆の発想……つまり、ストレートのスピードに力を発揮するタイプが豪だからだ。
烈は、仲間のために仕方なく豪にセッティングの質問をしに行く。
「豪、聞きたい事があるんだ。」
「アニキがオレに? 珍しいな。
と、言っても、カッ飛びの事しか教えらんねぇけどな。」
豪は、カッカッカッと大声をあけて笑う。
「それを教えて欲しいんだ。」
豪は絶句し、真剣な顔になる。
「アニキ、ホントに大丈夫か?
さっき、頭打ったんじゃないか?」
いつも考えの違いがあるごとにぶつかっていただけに、豪は、本気で心配する。
「はは……頭打ってた方が良かったかも。」
豪は焦り出すが、烈は用件を進める。
豪は、今のセッティングで一番いいギア比やダウンフォースを掛けないといけないところなどを丁寧に教えてくれた。
烈は、頭を打ったと思われて普段見せた事のないやさしさを見せる豪を見て、やるせない気持ちになった。
「後は、ひたすら軽量化だな。
やり過ぎると強度が落ちるけど、烈アニキなら大丈夫だろう。」
「ありがとう、豪。
後で練習走行に付き合ってくれ。」
そして、烈は、そのまま土屋博士のところに行く。
「博士、お願いがあるんですけど。」
「やあ、烈君。何かな?」
「新しいGPチップが欲しいんです。」
「何に使うんだい?」
「今度のレースでソニックのセッティングを大幅に替えるんです。
だけど、それは本来のソニックと大分違うんで使い分けたいんです。」
「妙なクセをつけたくないって事かな?
構わないけど、何で、そんなにセッティングを変えるんだい?」
(『生死に関わるからです』とは言えないな。)
烈は、暫し考えるとこう言った。
「チームのためです。」
土屋博士は、烈の真剣な面もちに納得すると笑顔で烈に新しいGPチップを渡した。
烈は、早速、ミントとマシンを作り始める。
駆動部分に詳しくないミントは、ボディにヤスリがけをして軽量化し、カラーリングを担当。
烈が、シャーシ全般を受け持った。
二人は、ぶっ通しで作り続け、夕方にマシンは完成した。
ボディは、塗装すると乾くまで時間が掛かるので、これから行う豪との練習で走り方をGPチップに記憶させてから行う事にした。
欲しいデータは、ストレートでのカッ飛び。
目標は、豪のサイクロン・マグナム以上のスピード。
烈と豪は、深夜までマシンを走らせた。
GPチップが学習を終えた頃、豪は、家に帰宅した。
…
烈は、ストレートの最終調整とコーナリングのGPチップの学習をこれから行わねばならなかった。
ストレートの最終調整は一時間ほどで済んだが、問題はコーナリングだった。
「ハリケーンドリフトが出来なくなっている。
軽量化で失われたシャーシの強度が、ドリフトに耐えられなくなってるんだ。
これじゃ、ダメだ。
コーナリングでコースアウトしてしまう。」
スピードを落とす事なく最短距離をドリフトして走り抜けるハリケーン・ソニックの必殺技は、完全に再現出来なくなってしまった。
烈は、悩んだ。
スピードをあげれば、当然、何かが犠牲になる。
特にコーナリングでコースアウトするのは、烈のプライドが許さなかった。
グランプリマシンになり、強度が上がっても軽量化すれば、その分強度が落ちる。
ハリケーン・ソニックの動きを再現するには、シャーシの強度は絶対不可欠だ。
烈は自分のレーサーボックスを漁り、何かないかと思案する。
「これは……。」
烈は、一代前のバンガード・ソニックを手に取る。
バンガード・ソニックのシャーシは、グランプリマシンではないため市販のミニ四駆と強度は変わらない。
そう、バンガード・ソニックはグランプリ・マシンでなくても、立派にコーナリングを極め貫いたのだ。
烈は、新マシンのコーナリングの設定をバンガード・ソニックの設定に変える。
試走で一周走らせて見る。
新マシンは、ハリケーン・ドリフトこそ行えなかったが、コースアウトする事なく一周して見せた。
強度が落ちたシャーシは、バンガード・ソニックの設定が適しているようだった。
「よし、バンガード・ソニック!
新マシンに、君の息吹を吹き込んでくれ!」
烈は、バンガード・ソニックと新マシンを走らせGPチップに学習させる。
学習が終わった時には、明け方になっていた。
烈は、コースの横で力尽きると眠り込んでしまった。
「さすが男の子。
こんじょーあるわ♪」
ミントは、新マシンのボディを抜き取ると自分のデザインで塗装を始めた。
「みによんくって、思ったより楽しいわね。
あとは、カッコよく仕上げるだけだし。
烈は、寝かせといてやるか。」
太陽が昇った時、塗装は終わった。
二時間後、塗料も乾いた。
土屋博士の塗料は、どんな素材を使っているのか乾燥も速い。
ミントは、ボディをシャーシに収め、レーサーボックスに新マシンをしまった。
…
烈が、コースの横で眠り込んでいるうちにビクトリーズのチームメイトがやって来た。
「うわ!
誰か寝てるよ!」
「烈君でげす!」
「徹夜したのか。」
「アニキのヤツ、先に出たのかと思ったら帰ってなかったのか。」
そこへ土屋博士がやってくる。
「おはよう、みんな。
どうしたんだい?」
「リーダーが、眠りこけてんだよ!」
豪は、烈を指差し溜息をつく。
「ははは……烈君らしいね。
やりだしたら止まらなくなっちゃうんだよ、いつも。」
しかし、レースの時間は変わらない。
土屋博士は、そっと烈をゆすって起こす。
「ん? 博士?
・
・
ああ! しまった!」
「もう、朝だよ。烈君。
マシンは、完成したのかな?」
「はい! 大丈夫です!」
「じゃあ、今日のレースのミーティングをしよう。」
ビクトリーズのメンバーと土屋博士は、先に会議室に向かい、烈は、顔を洗いに洗面所に向かった。
会議室では、烈の行動が話題になっていた。
「博士~。
烈アニキが、おかしいんだよ。」
「わても、そう思うでげす。」
「どう、おかしいんだい?」
「壁に穴空いた時に、いきなり独り言言ったり。
オレにカッ飛びのセッティング聞いたり。
一緒に試走するんだぜ。」
「確かに烈君らしくないね。」
「あのコーナリングの鬼がか? ありえんな。」
「だろ~。」
「まあ、烈君もリーダーになって一生懸命なだけだろう。
ミーティングで、烈君の説明を聞いて結論付けよう。」
一方、洗面所で烈は顔を洗い。
ミントと会話をしていた。
「新マシンの塗装出来なかったね。」
「あたしがやっといたわ。
あんたがシャーシで、あたしがボディって約束だったじゃない。」
「そうか。
ごめんね、手伝えなくて。」
「いいっていいって。
一番になれるかな~。」
ミントは、今日のレースを楽しみに微笑む。
「今日は、チーム戦でチームの4番目のマシンが、先にゴールした方が勝ちなんだ。
だから、あまり順位は関係ないよ。」
「ダメよ!
一番でゴールしなきゃ!」
烈は、苦笑いを浮かべる。
「ところでさ。
名前、何にするの?」
「そっか~。
みによんくの名前、決めてなかったわね。
単純にミント・ソニックにしましょ!」
「何か女の子っぽくて嫌だなぁ。」
「いいじゃない。
あたしも手伝ったんだから。」
(人質取られて作らされたが正解……。)
「あまり長い名前は、省略されて悲劇を生むわよ。」
「何それ?」
「あたしの知り合いに自分のマシンを
『スカーレッド・タイフーン・エクセレントガンマ』って名づけたヤツがいてさ。」
(けっこうカッコイイ名前かも。)
「そいつのマシンの略称が、スカタン号よ。」
「うっ。」
「そーならないためにも、名前は簡単でいいのよ。」
「分かった、そうするよ。」
(逆らったら、また、魔法使われかねないし……。)
烈は、会議室に向かう。
会議室にみんないる事を確認すると今回のレースの作戦を話し始める。
「今回のレースは、ビクトリーズを2つのチームに分けて挑もうと思う。」
「打ち分けは?」
「リョウ君、藤吉君、J君のメインチームと豪と僕のサブチームだ。」
土屋博士は、異色の組み合わせに質問をする。
「どういう考えで打ち分けたんだい?」
「メインチームは、藤吉君のスピン・コブラを活かすために振り分けました。」
「わてが、メインでげすか?」
「うん。今回のレースは、ストレートと波打つようなコーナリングが結構多いんだ。
当然、ストレートでは、リョウ君のトライダガーがスリップストリームで引っ張る。」
「ああ、任せてくれ。」
「問題は、波打つコーナーだ。
ここをビクトリーズで一番速く走れるのは、藤吉君のスピン・コブラだと思う。」
「過大な評価、ありがとうでげす。」
「ただ短い間隔での切り返しのため、スリップストリームの有効範囲は、
3台が限界じゃないかって思ったんだ。」
「そうだね。
斜めにマシンを配置した時、3台分ぐらいの余裕しかない。」
「だから、このチームにしたんだ。
そして、トライダガーとスピン・コブラは、最後の上り坂を登る時、バッテリーをかなり消費していると思う。
そこからは、温存していたJ君のプロトセイバー・エボリューションで一気に引っ張って貰いたい。
僕の予想だとストレートでは、五分の勝負。
コーナーでビクトリーズがリード。
最後は、リードを守って勝つ。」
土屋博士が、烈の説明に頷く。
「なるほど。
メインチームは、先に3台ゴールする必須条件のチームなんだね。」
「はい。」
「じゃあ、サブチームは?」
「オレは、カッ飛んで1位になるだけだ!」
いつもの豪の言葉に、藤吉は溜息を吐く。
「いつも言ってるでげすが、チーム戦ではワガママを言っちゃいけないでげす。」
「オレは、一番じゃなきゃ嫌なの!」
リョウもJも、なかば諦めている。
土屋博士も苦笑いを浮かべるしかなかった。
「うん。
それでいいんじゃないかな。」
烈の言葉に、みんなが釘付けになる。
「サブチームは、カッ飛びがメインだ。
豪と僕がぶっちぎる。」
「それでは、バッテリーが持たないよ! 烈君!」
「オレも、Jと同じ意見だ。」
「うん。
僕もそう思う。
だから、条件をつける。」
「条件?」
「豪、エリアが変わる度に勝負しよう。
勝った方が次のエリアで先頭を走って、
負けた方がおとなしくスリップストリームに入るんだ。」
(2台でバッテリーを温存するのか……?
でも、勝負の条件逆じゃないか?)
「言っとくけど、僕は豪だけじゃなくて、
他のみんなにも前を走らせる気はないよ。
1位を狙っていく。」
烈の挑発的な態度に場の空気が少し張り詰める。
「新マシンは、それだけスゴイって言いたいのか! 烈アニキ!」
「そう思って貰っても構わない。
作戦は、以上だ!」
烈は、先に会議室を後にする。
豪は、負けじと後に続く。
「なんか烈君らしくないでげすな。」
「ワザとじゃないかな?」
「ワザと?」
リョウとJと藤吉は、疑問を口に出す。
土屋博士も、話に混ざる。
「たぶん、そうだろうね。
烈君は、豪君をスリップストリームで引っ張るつもりなんだよ、きっと。
サイクロン・マグナムは、後半バッテリー切れを起こしやすい。
それは、豪君が単独で走ってチームランニングをしないせいだ。
烈君は、自分が引っ張って、最後に豪君に勝たせるつもりなんじゃないかな。」
「じゃあ、この事は豪に言わない方がいいですね。」
「ああ、烈君の気持ちを汲んであげよう。」
ビクトリーズのメンバーと土屋博士は、専用のトレーラーでレース会場に向かった。
他のみんなに見えないミントは、烈の横で楽しそうにビクトリーズのメンバーを見ている。
その横で烈は、静かな寝息を立てていた。
…
会場に着くとメンバー表の提出と車検が行われる。
土屋博士は、烈に新マシンの名前を聞く。
「烈君、メンバー表の提出にマシン名の登録が必要だ。
君の新しいマシンの名前を教えてくれ。」
(そうか……。
自分だけで済まないんだった。
言いたくないけど仕方ない。
ああ……ファイターとかにも名前呼ばれちゃうんだろうな……。)
「……ミント・ソニックです。」
「ミント?
どういう意味合いがあるのかな?」
「えっと……ひ、秘密です。」
土屋博士は、首を傾げるとメンバー表に新マシンの名前を書き込み、メンバー表を提出に向かった。
「烈!
シャキッと言いなさいよ!」
ミントが、烈に向かい怒鳴る。
「まだ、慣れなくって。」
ミントは、やれやれと両手をあげた。
…
烈は、車検をするため、レーサーボックスを片手に車検場に向かって歩き出す。
「どこいくの?」
「マシンを車検に出すんだよ。
みんな同じ条件でレースをするんだ。」
「お!
男らしくせーせーどーどーってヤツね!」
(ちょっと、違う気がする……。)
烈は、レーサーボックスごと担当のお姉さんに渡す。
「それにしても、レースひとつに随分たくさん見に来てるわね。」
「国際レースなんだ。
国同士で代表選手を選んでレースをするんだ。」
「へ~。」
車検は、無事終了した。
担当のお姉さんが、烈にレーサーボックスを返す際、親指を立てウィンクする。
「何だ?
今まで、こんなリアクションされた事ないよ。」
烈は、不思議に思いながら車検場を後にした。
…
レース直前、土屋博士は、ビクトリーズのメンバーに新しい電池を配る。
「さあ、これからが本番だ!
がんばって来てくれ!」
ビクトリーズのメンバーは、各々のマシンに電池を装着する。
烈も電池を装着するが絶句する。
「ミントちゃん、このデザインって……。」
「キレイでしょ!
快心のできだと思うわ!」
「絵もペイントもすごく上手いんだけど……。」
(デザインが……。
デザインが……。)
会場にアナウンスが流れるとビクトリーズのメンバーとアストロレンジャーズのメンバーは、コースに集合した。
…
アストロレンジャーズは、 ブレット、エッジ、ジョー、ミラー、ハマーDのチーム。
マシンは、全てバック・ブレーダー。
しかし、性能は個々に変えてある。
ハマーDは、パワー重視。
ミラーは、コーナリング重視。
ジョーは、高速重視。
エッジは、バランス重視。
ブレットは、バランス重視+パワー・ブースター内蔵。
このマシンの特性を生かしコースに合ったバック・ブレーダーが、先頭でスリップストリームを用いゴールを目指す。
一方のビクトリーズは、烈、豪、リョウ、藤吉、Jのチーム。
マシンは、全て個人作成のオリジナル。
個性にバラつきはあるが、長所を最大限に伸ばす必殺技を開発しているのが特徴。
J:プロトセイバー・エボリューション
バランス重視。必殺技のドルフィン走行で仲間をスリップストリームで大きく包み込む。
また、可変バンパーにより風を味方につけれるビクトリーズで一番ギミックのあるマシン。
藤吉:スピン・コブラ
コーナー重視。必殺技のサンダードリフトは、短い切り返しのコーナーを最短距離で走り抜ける。
リョウ:トライダガーZMC
高速重視。必殺技は壁走り。
独特のボディの形状から強力なダウンフォースを発生させ、パワーをタイヤに余す事なく伝える事で速い走りを実現する。
この強力なダウンフォースを利用したのが壁走りである。
豪:サイクロン・マグナム
高速重視。必殺技はマグナム・トルネード。
リョウのマシン同様に高いダウンフォースを生み出すボディにより速い走りを実現。
また、本人の思想によりスピードを求めるため、かなりの軽量化がなされている。
高低差のあるジャンプ台からの飛距離を伸ばす必殺技マグナム・トルネードは、軽量化したマシン特性を生かしたものである。
ただ、コーナリングに難あり。
烈:ミント・ソニック
高速重視。必殺技?。
ミントの脅迫により作成されてしまった悲劇のマシン。
スピード不明。コーナリング不明。
…
コースの前に十人のレーサーが並び、マシンにスイッチを入れ開始シグナルを待つ。
そんな中、アストロレンジャーズの紅一点のジョーが黄色い悲鳴をあげる。
「きゃ~~~!
なになに烈のマシン!?
かわい~~~~~~~~~~~~~~い!!!」
烈は、顔を赤くし帽子を深く被って表情を隠す。
土屋博士の横にいるミントは、腕を組みうんうんと頷いている。
会場に設置してある大画面モニターにミント・ソニックが写ると女性陣の間から黄色い悲鳴があがる。
「ア、ア、アニキ……。
ホントにそれを走らすのか?」
「……そうだ。」
烈は、真っ赤になりながら、精一杯の虚勢を張る。
「レツ・セイバ……。
ビクトリーズの中でおまえだけは、評価していたんだがな。」
敵チームのリーダー・ブレットまでが、烈を好奇の目で見る。
しかし、意外なフォローが会場に響いた。
「今回の烈君は、新マシンで登場だ!
その名もミント・ソニック!」
会場内に『キャー』という歓声があがる。
「どうやら、今日のひな祭りのためにデザインしてくれたみたいだ!
女の子への配慮も忘れず、会場を盛り上げてくれるサービス精神にファイターも胸が一杯だ!」
会場は、更にヒートアップしていく。
「「「「「ひな祭り……?」」」」」
アストロレンジャーズは、日本の行事など分からないため、疑問符が浮かぶ。
「日本の節句でげす。
3月3日は、ひな祭り。
女の子を祝う日なんでげす。」
藤吉の説明に、『ああ』と納得の声が響く。
(助かった……。
本当に助かった……。
日本人でよかった……。
今日が、3月3日でよかった……。)
烈は、安堵の息を吐き出し、手の中のミント・ソニックを見る。
ミント・ソニックのデザインは、ハリケーン・ソニックの左右後輪部分のボディに大きく縦に穴が開いている。
そして、デザインは蛍光色のオレンジをメインカラーに一筋の流星が花畑を駆け抜けているものだった。
(ミントちゃん、塗装の才能は抜群だ……。
だけど……これは、メルヘン過ぎる!
・
・
寝るんじゃなかった……。)
会場は、盛り上がっていた。
しかし、烈は沈んでいた。
そして、運命のカウントダウンが始まる。
…
レースになれば、嫌でも空気は張り詰める。
カウントダウンが開始し、シグナルが点灯する。
シグナルが青に変わり、10台のマシンは、一斉にスタートを切った。
「各車、綺麗に一斉にスタート!
そして、アストロレンジャーズは、チームランニングのフォーメーションを!
ビクトリーズは、リョウ君、藤吉君、J君が、チームランニングのフォーメーションを!
・
・
おおっと! これは!?
烈君と豪君の二人が一気に抜け出した!」
予想を裏切る展開に、会場にざわめきが起こる。
ミント・ソニックは、デザインとは裏腹に凶悪なスタートダッシュと加速力で一気に一団を抜け出したからだ。
「ウソだろ!?
マグナムが、ソニックに出遅れた!?」
豪は、前を走る烈に驚きの声をあげる。
第1セクションのストレートをミント・ソニックは、サイクロン・マグナムを置き去りに走っている。
(はぁ……。
この言葉を叫ぶとは思わなかったな……。)
烈は、拳を突き出し叫ぶ。
「カッ飛べ! ソニック!!」
「あ~!!
オレの決めゼリフ!!」
豪は、大声をあげて烈を追い掛ける。
ミントは、出だし順調のソニックに歓喜し、土屋博士の隣で魔法をぶっ放す。
土屋博士とリョウの弟の次郎丸は、突然のポルターガイスト現象に驚き恐怖した。
…
第1セクションのストレートを終えてサブチームの烈と豪が先頭。
続いて、アストロレンジャーズとメインチームのリョウ、藤吉、Jが、ほぼ同時に第2セクションに入った。
第1セクション、ミント・ソニックの後を走っていたサイクロン・マグナムは、否応なしにスリップストリームで引っ張られる形になっていた。
烈は、予想通りの展開に安堵し、豪に声を掛ける。
「豪、約束だぞ!
次のセクション、豪は、僕のスリップストリームに入って貰う!」
「チェッ! わかったよ!
くそ~、何でマグナムよりソニックの方がストレート速いんだよ~!
昨日の練習走行じゃ、勝ってたのにさ!」
「理由は、2つある。
一つは、昨日は、高速用に慣れていない新しいモーターだった事。
もう一つは、軽さ。
ミント・ソニックは、サイクロン・マグナムより軽い。」
「マジかよ!?
アニキがそんな改造するの見た事ないぞ。」
「色々あってね。」
烈と豪は、第2セクションのコーナーメインのコースに差し掛かる。
そして、ファイターの実況が入る。
「さあ、怒涛の進撃を見せたミント・ソニック!
コーナーメインの第2セクションでは、どのような走りを見せてくれるのか!?
そして、コーナリングには、定評のある烈君!
必殺のハリケーンドリフトを、いつ決めるのか!?」
ミント・ソニックとサイクロン・マグナムがコーナーに入って行く。
2台のマシンは、鮮やかにコーナーを抜けて行く。
ミント・ソニックが、サイクロン・マグナムを引っ張って入るので、いつもより減速しない。
しかし……。
「コーナリングは、鮮やかに決めるがどうしたんだ!?
ハリケーンドリフトが、一度も出ないっ!!」
そう、それはコースアウトをしない綺麗なコーナリングでしかない。
その間にアストロレンジャーズとメインチームは、先頭をコーナー重視のマシンに変えて差を縮めて来た。
「レツ・セイバ……。
何を考えている?」
予想外の展開にブレットは、ビクトリーズの作戦を視野に入れる。
メインチームも藤吉のスピン・コブラにより、アストロレンジャーズとせめぎあっていた。
「ハリケーンドリフトじゃない?」
「でも、あの走り方……どこかで見たような気がするでげす。」
「バンガード・ソニック……。」
最後尾を走るJに、リョウと藤吉が振り返る。
「そういえば、似ているな。」
「何で、今頃?」
理由の分からない3人は、土屋博士の無線に期待したが連絡はなかった。
さらに機嫌をよくして暴走するミントの魔法、兼、ポルターガイスト現象に土屋博士と次郎丸はベンチの影で怯え切っていた。
…
第3セクションは、再び長いストレートコースだった。
豪は、今度こそと烈の横に並ぶ。
「アニキ!
次こそ、負けねぇ!」
「そうはいかない!」
ミント・ソニックとサイクロン・マグナムは、ストレートで勝負を始めるが、再び、ミント・ソニックが先頭を切る。
「くっそ~!
納得いかね~!」
(豪には、悪いけどあと2つ理由があるんだ。
後輪部分に開けた縦穴、あれが余計なダウンフォースを逃がしている。
そして……。
GPチップが、ミント・ソニックは育っていない事。
レースを経験してGPチップがペース配分を学習する。
だから、ストレートで出す全力も全開じゃない。
・
・
だけど、ミント・ソニックは、GPチップが育っていないから常に全開だ。
つまり、同じ性能ならミント・ソニックの方が速い……。
でも……バッテリーは無限じゃない……。)
わめきながら走る豪の隣で、烈は、後続との差を確認する。
そして、全開で走り続けるミント・ソニックのバッテリーは、まだ心配なさそうだ。
(予想通り、大分差をつけたな。
ここで、もっと差をつける!)
第3セクションのストレートで、サブチームは大差をつける。
そして、第4セクションの波打つショートコーナーコースに突き進んだ。
…
第4セクションに入るとサブチームは、スピードが落ちた。
ミント・ソニックが、バンガード・ソニックのコーナー思想を引き継いでいるとしても、グランプリマシン仕様のハリケーン・ソニックには遠く及ばない。
しかし、それでもサイクロン・マグナムのコーナリングよりは遥かにいい。
「烈君、豪君は、第4セクションに1番乗りだ!
しかし、ショートコーナーの連続でペースダウン!
どうやら、ミント・ソニックは、コーナー重視のマシンではなくストレート重視のマシンのようだ!」
第4セクションでサブチームは、かなりのペースダウンをする。
ストレートのセクションで稼いだ貯金も大分なくなってしまった。
それとは逆にメインチームが急激な追い上げを見せる。
「サンダードリフトでげす!」
スピン・コブラのサンダードリフトでメインチームは、どんどんサブチームに迫り、アストロレンジャーズを引き離す。
アストロレンジャーズのブレットは、ここに来てようやく作戦を理解する。
「ビクトリーズの狙いが分かったぞ。」
「本当か!? リーダー!」
「彼らは、チームを二つに分けて俺たちを引き離すポイントを分けたんだ。」
「ポイントを分ける?」
「そうだ。
前の3人は、今までは俺たちに引き離されない走りをしていたが、
このセクションで引き離すつもりだ。」
「そうか!
トウキチ・ミクニのマシンか!」
「そうだ。
あのマシンは、このセクションで威力を発揮する。
しかし、このショートコーナーだ。
我々のように1列縦隊では、トウキチ・ミクニのマシンのスリップストリームは維持出来ない。
それで、チームを分けたんだ。」
「それじゃあ……。
レツ・セイバが高速仕様のマシンを使用していたのは……。」
「ああ、間違いない。
ゴウ・セイバとチームを組むためだ。」
「やってくれるぜ!」
アストロレンジャーズの面々は、作戦に嵌まっている事に歯噛みする。
「だが、こちらも予想通りだ。
ゴールした4位のマシンが速くゴールした方の勝ちだからな。
ハマーD、次のセクション期待しているぞ。」
「ああ、任せてくれリーダー。」
余裕の笑みを浮かべたアストロレンジャーズは、最下位で第4セクションを後にした。
…
第4セクションまで1位を維持しているミント・ソニックにミントはご満悦だった。
「ふっ……。
さすが、あたしのミント・ソニックね♪
子分の烈も、よくやってるわ。」
ミントは、高笑いをしていたが、第5セクション半ばで悲鳴に変わる。
「あ~~~!
ちょっとちょっと、どーしちゃったのよ!?」
姿の見えないミントの疑問に土屋博士が答える。
「バッテリー切れだ……。」
…
第5セクションは、ループして天に伸びるタワーがコースになる。
ループによる極端な上り坂と下り坂。
そして、ゴールまでのストレートだ。
ミント・ソニックは、タワーの7割ぐらいまでは順調だったが、そこから一気にスピードダウンした。
「へっへ~んだ!
アニキ、このタワーの勝負は、オレの勝ちだな!」
(予想通りバッテリーが、パワーダウンしたな。
今回、豪のバッテリーは、ゴールまで持つはずだ。
最後のアドバイスだ……。)
「甘いな、豪!
ミント・ソニックは、サイクロン・マグナム以上の高速仕様だ!
ここを上りきって、下りを『壁走り』のストレートで一気に追い抜く!」
「くっ!
アニキ、壁走りが出来るのは、リョウだけじゃないって覚えておいた方がいいぜ!」
豪は、烈を残すと頂上に向けて走り去って行った。
(上手く壁走りを印象付けれたみたいだな……。)
安心した烈の横を今度は、メインチームがJのプロトセイバー・エボリューションを先頭に追い越して行く。
「烈君……。」
Jたち、3人は、既に気付いているようだった。
「ごめんね。
会議の時に、あんな事言って。」
烈は、3人に謝る。
「作戦だったんだから仕方ない。」
リョウは、烈に気にするなと声を掛ける。
「まあ、豪君の性格を考えるなら仕方のない作戦でげす。
でも、事前に相談して欲しかったでげすな。」
藤吉は、言葉に皮肉も込める。
「ごめん。
新マシンを作ってて、話す時間がなかったんだ。
豪のマグナムは、今回、バッテリーの心配はないはずだ。
後を頼むよ。」
メインチームは、烈を抜き去ると豪も一気に抜き去ったようだ。
豪が飛び跳ねているのが見える。
(トルクが違うから仕方ないんだよ……。)
暫くするとアストロレンジャーズが、ハマーDを先頭にすごい勢いで駆け抜けて来た。
(アストロレンジャーズは、ここでハマー君のバック・ブレーダーで勝負をかける気か。
大分、差を縮められてる。
みんな……大丈夫かな?)
「レツ・セイバ……やってくれる。
見事な作戦だ。」
去り際にブレットが、烈に言葉を投げ掛けていく。
烈は、今は、追い抜けない状態を悔しく思いブレットを見返す。
遥か遠くになってしまった上り坂で、豪はアストロレンジャーズにも抜かれたようだ。
だが、烈は信じていた。
下り坂こそ、豪の力を最大限に発揮出来る場所だと。
…
メインチーム、アストロレンジャーズ、豪の順でタワーの下り坂に差し掛かった。
メインチームとアストロレンジャーズの差は変わらないまま下り坂のレースは続く。
豪は、烈の言葉を思い出す。
そして、それは、かつて自分が取った作戦。
サイクロン・マグナムは、ループする下り坂を唯一ストレートにする壁に張り付くと壁走りで一気に先行するマシンに追い付いて行く。
「どけどけ~!
こっから先は、誰にも前を走らせないぜ!」
タワー中央付近の下り坂で、豪は、アストロレンジャーズを抜き、メインチームを抜き、単独1位に躍り出た。
その頃、烈は、ようやく上り坂を登りきり下りに入るところだった。
「さて、ミントちゃんとの約束を守るために、ここからは賭けだな。」
ミント・ソニックは、下り坂を全力でループ1周分駆け抜け、今出せる最高速度に達すると空高くコースアウトした。
…
ゴール前、最後のストレート。
サイクロン・マグナムが他のマシンの追随を許さず、ゴールに向け一直線に独走していた。
続いてメインチームの3台がストレートに入り、トライダガーが先頭に躍り出る。
それに続き、スピン・コブラ、プロトセイバー・エボリューションがスリップストリームに入る。
少し遅れてアストロレンジャーズが、4台編成で現れる。
ハマーDは、上り坂でバッテリーを消費して、下り坂でついて来れなくなったからだ。
ブレットが、サテライト・ワンに通信を入れ最後の切り札”パワー・ブースター”を使うタイミングを計る。
しかし、サテライト・ワンの情報は非常なものだった。
「くっ!」
「どうしたんだ、リーダー!」
「サテライト・ワンの計算では、最後の一台がゴールするのは、ビクトリーズの方が速い!」
「そんな……。」
「じゃあ、あきらめるのか!?」
「いや、パワー・ブースターを使う。
路面の状態やマシン負荷によるトラブルが発生する事も考えられる。
計算では、差は、コンマ2秒だ。」
「ああ、あきらめるのは早いな。
逆転出来る要素はありそうだ。」
「カウントダウンに入るっ!!
・
・
パワー・ブースター、オンッッッ!!」
先頭のブレットのバック・ブレーダーが赤く輝くと会場内で歓声があがる。
豪のサイクロン・マグナムが先行してゴールする。
メインチームとアストロレンジャーズは、ほぼ同時にゴールを駆け抜けた。
…
会場のざわめきは、収まる事なく続いている。
電光掲示板には、まだ、結果が映し出されていないからだ。
ビクトリーズとアストロレンジャーズは、固唾を呑んで結果を見守る。
そこにファイターの実況が響く。
「只今、レースの試合結果が出たから発表するぞ!
1位、ミント・ソニック 27分18秒32
2位、サイクロン・マグナム 27分20秒11
3位、トライダガーZMC 27分24秒26
4位、バック・ブレーダー1 27分24秒27
5位、バック・ブレーダー5 27分24秒28
6位、スピン・コブラ 27分24秒30
7位、プロトセイバー・エボリューション 27分24秒31
7位、バック・ブレーダー3 27分24秒31
9位、バック・ブレーダー2 27分24秒32
リタイア バック・ブレーダー4
以上、勝者TRFビクトリーズだ!!」
会場は、盛況に盛り上がっているが、走り切ったレーサー達は納得がいかない。
「ちょっと、待った~!!
なんで、オレが1位じゃないんだ!」
「そうだ、それはおかしい。
俺たちは、誰も烈に抜かれていないはずだ。」
「そうか。
レースをしていた君達は、分からないかもしれないな。
では、VTRで確認して貰おう!」
ファイターは、合図を送ると大画面モニターにタワーが写る。
その下をビクトリーズやアストロレンジャーズが走っている。
しかし、何か点のようなものが、豪の頭辺りを飛んでいる。
点は、豪を追い越すと徐々に大きくなり、ゴール手前で着地するとゴールを一番乗りで駆け抜けた。
「信じられん。」
リョウが、呆れた声を出す。
「ミ、ミニ四駆が飛んだでげす。」
藤吉も驚きの声をあげる。
そして、肝心の人物が、ハマーDと一緒に歩いて来る。
烈は、電光掲示板の順位を見る。
「勝ったみたいだね。」
「アニキ!
何、のん気なこと言ってんだ!?
説明しろ!」
豪は、烈の首を締め上げる。
烈は、豪の手をタップすると豪は、慌てて手を放した。
「レツ・セイバ、我々にも納得のいく説明をして欲しい。」
ブレットもミニ四駆が飛んだ真実を烈に追求する。
「分かったよ。
えっと、ソニックは……。」
ミント・ソニックは、壁に向かって走り続けていた。
それをミントが拾い上げると、手を使って壁を蹴ったように見せ烈に渡す。
ミントは、烈に親指を立てる。
烈もミントに親指を立てる。
二人は、笑顔を返しあった。
ミントが見えない他のメンバーは、まるでミント・ソニックが、意思があるように烈の手元に戻ったように見えて唖然としていた。
烈は、そんな事はお構いなしに説明を始めた。
「簡単に言うと、あのタワーの頂上から飛んでここまで来たんだ。
バッテリーがなくなる寸前だったから、もう、みんなには追いつけないから。」
烈の指差すタワーは、物を落としてどうにかなる高さではない。
「マグナム・トルネードみたいなもんか?」
「いや、あの勢いで落ちたら壊れるって。」
「じゃあ、どうやって飛んだんだ?」
「パラシュートって知ってる?」
「当然、知っているでげす。」
「じゃあ、パラシュートに穴が空いているのも知ってる?」
「そういう事か。」
ブレットは、すでに分かったらしい。
アストロレンジャーズの何人かは、察しがついたようだ。
「ミント・ソニックの後輪の方の穴は、走っている時はダウンフォースを減らすけど、
飛ぶ時は、パラシュートの穴のように空気の逃げ道になるんだ。」
「パラシュートの原理か。
思いつきもしなかったよ。」
「付け加えるなら、今回、高速仕様で軽量化したことと
ハリケーン・ソニックについていたカイト部分を、
そのままにしたのが要因だね。」
周りには、感嘆の息が流れていた。
ブレットは、烈の前に進み出て手を出す。
「チーム戦でも負けて個人戦でも負けた気分だ。
完敗だ、レツ・セイバ。」
烈は、ブレットの手を握り返す。
会場は、割れんばかりの拍手で埋め尽くされた。
…
控え室に戻る廊下で、ミントと烈は話していた。
「いや~、一時はどーなることかと思ったわよ!」
「苦肉の策だったけどね。
チーム戦を個人で勝つなんて無理しすぎたよ。」
二人は、笑い合う。
「ミントちゃんは、これからどうするの?」
「そろそろ帰るわ。
十分に楽しめたし♪」
「そう。
ちょっと寂しいな。
ミント・ソニック持っていく?」
「いいわ。
あたしのいるとこには、電池ってゆーのないから。
烈の好きな女の子にでもあげたら?」
烈は、みるみる顔が赤くなる。
「そ、そんな子いないよ!」
「そう?
まあ、いーわ。」
ミントは、可笑しそうに笑う。
「じゃあね、烈。」
その言葉を残すとミントは、烈の前から姿を消してしまった。
烈は、手に残ったミント・ソニックを見て、ウソではなく現実だったんだと認識する。
「さよなら。
ミントちゃん。」
烈は、この2日に起きた事を胸に仕舞い、みんなのいる控え室に戻って行った。
…
カローナの街で、一人の少女が目を覚ます。
大きく伸びをすると欠伸をする。
「ううう……。
何か変な夢見た……。
昨日、ロッドのスカタン号に乗ったからかな?」
ミントは、もう一度、伸びをすると部屋を後にした。
…
第54話 間桐の遺産~番外編②~
プチンとセイバーは、テレビのリモコンでスイッチを切る。
「なるほど。
先日のテレビゲームは、このアニメを題材にしたものでしたか。」
「…………。」
満足そうな顔のセイバーにライダーは、質問をする。
「セイバー、面白かったですか?」
「はい、楽しめました。
しかし、烈の苦労は人事と思えない。
サクラは、どうでしたか?」
「わたしは……男の子向けのアニメは、ちょっと。」
「そうですか。
ライダーは、どうでした?」
「正直に言えば、面白かったです。
私は、乗り物や動くものに興味があるので。」
「クラス故ですね。」
「しかし、このアニメはいいですね。
一生懸命さが伝わる。」
「何より、世界中の子供達が仲良く頑張っているのがいい。
また、自分達で自作したマシンを作ってレースをするというのは、夢がありますね。」
「ええ、友情と勝利への喜びと教育においても
良いのではないでしょうか。」
(何なんだろう?
サーヴァントが、熱くアニメを語ってる……。)
少し熱を帯びて会話するセイバーとライダーに桜は、不思議な気分になる。
これは凛達が、解読を進めている合間の出来事である。